悪魔より悪魔らしい……だがサイヤ人だ   作:アゴン

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life 02

 私立駒王学園──元々女子校だった学校だが、数年前に共学の学校となる。

 

まだ共学になって間もないため男女比は未だ女子が圧倒的に多い。

 

そして早朝、学園の制度達が登校する時間帯。普段は登校する多くの学生で賑わう校門前だが、現在違う意味でざわついていた。

 

「……ここか」

 

 校門前に佇む一人の男──ブロリーは、目の前の建物に至るまでの道を記された地図を片手に仁王立ちしていた。

 

 

 日本人とは同じ髪色と肌色だが、その長身と鍛え抜かれた肉体に常人とは異なる雰囲気を醸し出すブロリーに、周囲の生徒達は遠巻きに声を潜める。

 

 あのあと、リアス=グレモリーと名乗る少女達から明日この場所へこいと地図をわたされ、いざ来てみれば朱乃の通う学校とやらに来ていた。

 

朱乃は先に出ており、少し不安だったが、それでも何とか一人でも来れた。

 

 途中道に迷い、丸坊主と眼鏡を掛けていた学生に道を教えて貰ってなければもっと掛かっていたに違いない。

 

校門前に辿り着いて約十分。──すると。

 

「お待たせしました」

 

学校から、一人の少女が此方に駆け寄ってきた。

 

ポニーテールに髪を結んだ女性、朱乃。駒王学園において二大お姉さまと称される彼女の登場に周囲は騒ぎ立てる。

 

「ごめんなさい。本当はもう少し早く来たかったのですが、日直の仕事があって……」

 

「……いや、別にいい」

 

「それでは、部長もお待ちしてますし、どうぞ此方へ」

 

案内所されるがまま、朱乃の後ろをついて行くブロリー。その光景に学生の男女問わず、唖然としていた。

 

「ね、ねぇ、あの人朱乃お姉さまの知り合い?」

 

「まさか……彼氏とか!?」

 

「う、嘘だ! 朱乃様に男が出来るなんて!」

 

「けど、何だかあの人……」

 

「うん。ちょっと……いいかも」

 

お姉さまと周囲から尊敬の眼差しを受ける朱乃に対し、毅然とした態度で後ろに付くブロリー。

 

それが周囲にはお姫様とそれを守護する騎士に見え、本当なら怨念の籠もった視線をぶつけていたい所だが。

 

ブロリーの迫力に圧され、生徒達は校舎の中へと入っていく二人をただ見つめるだけに終わっていた。

 

「……なんか、急に静かになったな」

 

「ふふ、そうですね」

 

先程まで聞こえてきた声が収まり、逆に静寂に包まれる空気に、ブロリーはなにがあったのかと朱乃に問う。

 

そんな微塵も自覚のないブロリーに、朱乃はやはりニコニコと微笑むだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園の裏手にある旧校舎。パッと見はどこも目立った破損箇所はないのに、その佇まいの不気味さ故に普段は誰も近寄らない。

 

そんな建物の一室に通されると、そこには昨夜現れた真紅の髪をした女性、リアス=グレモリーがソファーに腰掛けていた。

 

「部長、連れてきました」

 

「ご苦労様、朱乃。そしてオカルト研究部へようこそ、ブロリーさん」

 

リアスの挨拶に合わせ一礼すると、朱乃は一本下がり、ブロリーの背後に立つ。

 

「そこに立ったままでは疲れるでしょう。どうぞお掛けになって下さいな」

 

どうぞと片手を伸ばし、リアスは立ち尽くしているブロリーに向かい側にあるもう一つのソファーに座るよう促す。

 

 その微笑みと仕草、駒王学園の二大お姉さまとして君臨するリアス=グレモリーにそんな態度を見せられたら日にはどんな男でも煩悩を揺さぶれる事だろう。

 

だが、ブロリーはやはり表情一つ変えず、言われるがままにソファーに座る。

 

リアスの後ろには昨夜剣を握り締めていた男と、隣には銀色の髪をした小柄な少女。

 

どちらもリアスに下僕と言われていた者達だ。

 

「さて、ブロリーさん。まず話をする前に一つ聞きたいのだけれど……記憶の方はどうなのかしら? 昨日あんな事があったから何らかの刺激になったと思うのだけれど……」

 

リアスの言う昨日の出来事、それは十中八九あの堕天使とやらの男の事だろう。

 

殺意を以て現れた相手に対し、あの時の自分は恐ろしく冷静だった。

 

投げつけてきた光の槍は難なく避けてみせたし、なによりそんな状況に落ち着いている自分がいるのに気付いた。

 

「……正直、まだ何も思い出せない。ただ確かな事は俺はあんな事になってもなんとも思わなかったというだけだ」

 

ブロリーの正直に話した言葉にリアスは顎に手を添えて唸り出す。

 

「──そう、やっぱり貴方は戦いに身を置いていた可能性が高いわね」

 

 普通なら殺意を持った通り魔に出会せば、誰だって驚くし、恐怖する。

 

それに対し目の前の男、ブロリーは全く動揺した様子はなく、寧ろそれがどうしたと謂わんばかりの態度で堕天使と相対していた。

 

 なった事が無いから分からないが、記憶喪失とは恐怖心すら失ってしまうものなのだろうか?

 

もしくは、やはり自分が考えていた通り幾度も死線を乗り越えてきた歴戦の戦士だったからか……。

 

「……俺も聞いていいか?」

 

「聞きたい事って昨日の事? それなら勿論そのつもりよ。その為に貴方をここに呼んだのだから」

 

その後、リアスから聞かされる昨夜の出来事は、遙か太古の時代にまで遡った。

 

悪魔と堕天使、そして神に仕える天使という三竦みの対立。その中で堕天使というのは元々神に仕えていた天使が邪な感情を持ったが故に冥界に堕ちたとされている。

 

そして相容れない悪魔、堕天使、天使……即ち神の軍勢はその昔大規模な戦争を行った。

 

その時、どの陣営にも多大な被害を被り、今は小さな小競り合いが各所で行われている程度。

 

今回ブロリーもその小競り合いに巻き込まれたものだとリアスは推測する。

 

「……なら、俺もその天使や堕天使、悪魔だというのか?」

 

ブロリーの問いにリアスは首を横に振って否定する。

 

「残念ながら、貴方はどの勢力に属してないわ。だって天使や堕天使、私達のような悪魔の力も感じられないのだから」

 

「……そうか」

 

漸く記憶に繋がる情報が手に入ると思っていただけに落胆の度合いも大きい。

 

だが、ブロリーはそんな素振りを微塵も見せず、リアスの言葉を聞き終わると用はないとばかりにソファーから立ち上がり、扉へと手を伸ばす。

 

が、いつの間にか回り込まれていた剣を握っていた男に遮られてしまう。

 

「まだ部長のお話は終わっていません。どうか席にお戻り下さい」

 

この男も朱乃と同じ笑顔だが、その瞳には有無を言わさない迫力が込められていた。

 

無言で見下ろすブロリーと笑みを浮かべたまま動じない男。睨み合うように対峙する二人に朱乃はあらあらと頬に手を添え、銀髪の少女は我関せずと黙々と羊羹を食べている。

 

「協力してあげましょうか?」

 

「……なに?」

 

「貴方の記憶探しに私達も協力してあげようかと聞いているのよ」

 

 妖艶に微笑みながら問うリアス。その艶めいた笑みに万人が骨抜きにされること間違いない。

 

「なんで、そんな事を言う?」

 

だが、ブロリーはやはり欠片も動揺せず、逆にリアスに問い掛ける。

 

「貴方は私の大事な下僕である姫島朱乃の客人。その客人が困っているのなら主である私が手を差し伸べても何ら不思議ではないでしょう?」

 

「……そうなのか?」

 

「そうなのよ」

 

男──木場祐斗は思う。我が主ながら中々エグいと。

 

記憶が無いことをいい事に、彼の認識を自分色に染め上げようとしているのだから。

 

だが、それすらも理解してない以上、どうやら記憶諸々失っているといのは本当らしい。

 

尤も、嘘が得意そうにも見えなかったが。

 

「で、どうする? 私はどちらでも構わないのだけれど?」

 

「……分かった」

 

その一言にリアスの笑みは更に深みを増していく。

 

「なら、契約成立ね。私達オカルト研究部のメンバーは貴方が記憶を取り戻す間、全力でサポートさせて貰うわ」

 

ソファーから立ち上がり、手を差し出してくるリアス。一瞬何だと怪訝に首を傾げるブロリーに、朱乃は小声で握手を求め手いるのだと囁く。

 

互いに手を結ぶ二人。

 

 

「……悪魔」

 

塔城小猫の呟きはブロリーに届く事はなかった。

 

「さて、では貴方の記憶探しに差し当たり一つお願いがあるのだけれど……」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、ここの花壇の整備、宜しくお願いしますね」

 

「……はい」

 

 校内の敷地内にある花壇。眼鏡を掛けたショートカットの女性に花壇整備の概要を説明されたブロリーは作業服を着用し、一人黙々と作業をこなす。

 

あれからリアスの言葉に従い作業着に着替え、彼女に紹介された生徒会長と呼ばれる人物に学園内を案内され、その最中様々な役割を命じられた。

 

学園で使われる備品の運搬、生徒の手の届かない箇所の掃除、そして花壇の整備。

 

リアス=グレモリーはこれも記憶探しの一環だというが……ぶっちゃけただの雑用ではないか。

 

 記憶探しの為となし崩しに用務員として学園で働くことになったブロリーだが、流石に記憶を失っているブロリーでも何か違うと違和感を覚える。

 

とは言え、神社に帰っても街に出ても、特にやることのないブロリーは別にいいかと納得するのだった。

 

それに人の多い所にいれば、もしかしたら自分を知る人間がいるかも知れない。

 

それなら、ここでこうして雑草毟っているのも割と意味のある事なのかも知れない。

 

慣れない手付きで花壇に生える雑草を毟り取るブロリー。

 

「お疲れ様です」

 

頬に冷たい何かが当たり、振り返ると包みとお茶の入ったペットボトルを持った朱乃がニコニコ顔で隣で屈んでいた。

 

時刻は丁度昼。ブロリーは朱乃の手製の弁当を受け取り、近くの石垣を椅子代わりに座り込む。

 

包みを広げ、箱を開けてみれば美味そうな食材がこれでもかと詰め込まれていた。

 

取り敢えずまずは隅にある切り分けられたコロッケを啄み、それをおかずにご飯を頬張る。

 

「最初はサンドイッチかと迷ったんですけど、やっぱり男の子はお米が食べたいと思ったので……」

 

「別に、美味いからいい」

 

顔は無表情だが夢中になって食べるブロリーに、朱乃は嬉しそうに微笑む。

 

すると。

 

「それで、ブロリーさん。どうですか?」

 

「どうって?」

 

「記憶を失ってからこっち、あちこちを見てみた感想……とか」

 

体育座りをして覗き込むように視線を送ってくる朱乃。

 

一つ一つの仕草が思春期の男にはどれも刺激の強く、並みの男性では視線を交わす事すら難しい。

 

しかしそこは天然ブロリー。彼女の仕草に何の反応も示さず、黙々と弁当を頬張り。

 

「……別に」

 

ただそれだけを告げた。

 

 ブロリーの何気ない一言に朱乃も「そう」とだけ呟き、校庭を見据える。

 

「……だけど」

 

「?」

 

「こうしてこの弁当を食べるのは……なんというか、不思議だ」

 

モグモグと口を動かし、呑み込む。

 

記憶を失い、感情も乏しくなったブロリーだが、その言葉に朱乃は少しは進んだと内心喜ぶのだった。

 

「あ、また人参残してますね!」

 

「……ダメか?」

 

「ダメです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、書類仕事以外全ての仕事を終えたブロリーは、夕焼けに焼けた空の下、朱乃の所の神社に向けて足を進めていた。

 

朱乃は部活……悪魔の仕事とリアスと話し合う事があるといって学園に残り今は自分一人。

 

何でも、今後自分が住む場所について色々話し合う必要があるとのこと。

 

今までと違う新しい環境で生活すれば、ひょんな事で記憶が蘇るかもとリアスは言うが。

 

そもそも、目覚めてまだ一週間も経っていないのに新しいも古いもないと思う。

 

そう思いはするが決して口には出さない辺り、ブロリーは世間というものを自分なりに分かってきた様子。

 

しかし。

 

「……戦い、か」

 

ブロリーは自分の手に視線を落とし、今朝リアスに言われた事を思い出す。

 

『記憶を失う前の貴方は、恐らく戦いに身を置いていたのかも知れない』

 

戦い。互いに命を懸け、殺し、奪い合う行為。

 

 リアスに言われ、ブロリーは内心戸惑う反面、逆に納得した。

 

昨日の出来事でもそうだ。命を狙われるという極限の状況に対し、やけに落ち着いていたのもそうだし、なによりあの堕天使の男に対し戦う意志があったのが何よりの証拠だろう。

 

そして、同時に胸が高鳴る感じが確かに感じ取れた。

 

「あの時の感覚……あれにまた出会せれば、少しは記憶が戻るだろうか」

 

確証はない。しかしやる価値はある。

 

どうにかしてまたあの男と会えないだろうか。ブロリーが拳を握り締めて記憶探しの手掛かりに思考を費やしていると。

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

「?」

 

向こうの方から男の悲鳴が聞こえてきた。

 

何だろう。そう思う前にブロリーは悲鳴の方へ駆け出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァハァハァハァッ!」

 

 人気のなくなった住宅街の街路樹を、俺こと兵藤一誠は左肩から流れる血を抑えながら必死こいて走り回っていた。

 

くそ! 刺された左肩が痛ぇ、まるで灼けるようだ!

 

「中々しぶとい奴だな。早く死ねば楽になれるというものを」

 

頭上には先程俺の左肩を貫いた槍を手にした美女が、翼を広げて飛翔しながら俺に狙いを定めている。

 

確かに美女に追いかけられるのは嬉しいが、こんなシチュエーションはマジ勘弁だっての!

 

走り回っている内に俺はあの場所、噴水のある公園へと逃げ込んでいた。

 

ここは俺の彼女だった夕麻ちゃんと一緒にデートの最後に訪れた場所であり。

 

───そして、俺が殺された場所でもあった。

 

くそ! あんな夢を見てから祿な事がねぇ! 誰も夕麻ちゃんの事覚えてないし、朝学校に来れば知らない男と朱乃お姉さまが歩いている所見ちまうし、ホンット祿な事がねぇ!

 

「そら、足が止まっているぞ」

 

「あぐぅっ!?」

 

右足に激痛が走る。見れば右の太腿には先程俺の左肩を貫いたのと同じ光の槍が俺の血を浴びながら顔を覗かせていた。

 

痛みに堪えかね、地面に倒れ伏す。

 

畜生、痛ぇ、痛ぇよ!

 

「無様だな。悪魔に転生したとはいえ、所詮ははぐれか……」

 

ゴミを見るような目で近付いてくる女。その手には今まで俺を貫いた光の槍を手にしている。

 

「終わりだ。とっとと塵に還るがいい」

 

一度光の槍の切っ先を此方に向け、振り上げた──瞬間。

 

「っ!?」

 

途轍もなく速い黒い物体が、俺と女の間を突き抜けていく。

 

──なん、だ? 今のは……あれって、街灯?

 

木に突き刺さり、貫通している黒い物体は公園の暗闇を照らす街灯の一柱だった。

 

「……むぅ、外れたか」

 

「っ!」

 

声のした方へ、目を見開かせながら振り向いた。

 

俺も思わず振り返る。暗闇の中、そこから現れたのは……。

 

今朝方、校門前で朱乃お姉さまと一緒に歩いていた男だった。

 

「……貴様、何者だ!」

 

女が叫ぶ。それもかなり怒りに満ちた表情で。

 

俺という獲物を狩る瞬間を邪魔された事がそんなにも悔しいのか。

 

激しく激昂する女に対し、男は動揺する素振りすら見せず。

 

「……通りすがりの用務員だ」

 

端的に答える男に、不覚にもカッコいいと思ってしまった自分がいた。

 

 




主に雑用系の仕事が用務員……で、あってるのかな?違っていたらすみません。

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