悪魔より悪魔らしい……だがサイヤ人だ   作:アゴン

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life 25

 

『それにしても──────の息子、生まれたばかりで戦闘力1万とはな』

 

『まさにエリートの中でも超エリートって奴だな』

 

『ハハッ、──────の倅が─────を泣かしたぞ』

 

『─────と名付けられたガキ、戦闘力はたったの5の癖に根性だけは大した奴だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……ぐっ」

 

 全身に感じる重い鈍痛がブロリーの意識を覚醒させる。

 

「ここは……どこだ?」

 

重苦しい痛みに耐えながらも、ブロリーは上半身を起こして辺りを見る。

 

机にテレビに目覚まし、狭くもなく広くもないごくありふれた部屋。どうやら、あの後自分は気を失い、何処かの誰かに拾われたようだ。

 

取り敢えず生きている。ブロリーは自身が生きていた事にひとまず安堵するが。

 

「………オーフィス」

 

その名を口にした途端、ブロリーは腹の奥底から煮えくり返るような錯覚に襲われる。泣きそうだった彼女の顔、それを覆い被さる様に嘲笑うMr.19と呼ばれる男とゲオルク。

 

「……俺の、所為だ」

 

一方的にやられ、どうすることも出来ないまま無様に敗北し、更には彼女をあんな顔をさせてしまった。

 

許せない。ゲオルクが、あのMr.19が、そして何より…自分自身が。沸き上がる衝動のまま、ブロリーは声高に叫びたくなった。

 

しかし、それは寸での所で思い留まる事になる。

 

何故なら。

 

「グカー……グカー……」

 

「スー……スー……」

 

自分が寝かされているベッドの隣、壁に寄りかかって寄り添いながら眠っている一誠とアーシアがいるからだ。

 

どうやらブロリーを助けたのは二人らしく、だとすればここは一誠の自宅と見て間違いなさそうだ。

 

気持ち良さそうに寝息を立てている二人を見て、少しばかり気持ちが和らいだ気がする。

 

腹の底から感じた煮えたぎるソレは、ひとまず下がり、ブロリーは落ち着きを取り戻す。

 

「う……ん……?」

 

「ふみゅう~?」

 

すると、眠っていた二人から呻き声が洩れ、重たい瞼を開けて。

 

「ブロリー……さん?」

 

「やぁ」

 

一言。ブロリーからすればただの挨拶の一言でしかないそれを。

 

「う、うわぁぁぁぁんっ!! ブロリーざぁぁぁぁぁんっ!!」

 

二人は、特にアーシアは涙を流しならブロリーに抱き付いてきた。

 

「ブロリーさん、ブロリーさんブロリーさん!!」

 

「お、おぅ?」

 

まさか抱き付かれるとは思わなかったのか、涙を流すアーシアに戸惑うブロリー。

 

一誠の方は目を覚ました命の恩人に取り敢えず一安心と、胸をなで下ろしていた。

 

「いやぁ、すげぇ驚きましたよ。道のど真ん中で血塗れのブロリーさんが倒れているのを見つけた時は……」

 

「わ、わだじ、神器を使って、でもブロリーざん起きなくて……」

 

アーシアの神器は優れた治癒能力。どんな傷でも忽ち完治させてしまうが、当時のブロリーはそれでも目を覚ますことはなかった。

 

それが二人の不安を煽る原因となり、一誠はひとまず自宅で様子を見ようとブロリーを連れ、ここ兵藤家に担ぎ込んだのだ。

 

「一応部長や他の皆にも連絡しといたから、多分そろそろここに来ると思います」

 

「そうか……」

 

泣きじゃくるアーシアを、何とか落ち着かせたブロリーと一誠。

 

「……ですからその、ブロリーさん。聞かせてもらえませんか?」

 

一誠の真剣な目つきにブロリーも頷くと、部屋の床からグレモリーの魔法陣が浮かびあがり、リアス達が現れ。

 

「ああ、俺も話したいことがある。聞いてくれるか?」

 

その言葉に、一誠達は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホムンクルスですって?」

 

「正確には自分は人造人間13号だと言っていました」

 

「何て事……」

 

 一誠とブロリー、二人から聞かされる話の内容にリアスは驚きに目を見開せる。

 

他の面々もリアスと同様、それぞれ驚きを露わにしていた。

 

「しかも、ブロリーさんの話しではもう一人の人造人間が聖剣を狙い、この街に潜伏しているという事実」

 

確認するようにブロリーからの報告を纏める朱乃。彼女のその言葉にリアスは深く溜息をこぼし、目元に手を添える。

 

人造人間。聞くからにしてヤバい連中であるのは理解出来たが、それでも今一ピンとこない一誠は恐る恐るリアスに訊ねた。

 

「そ、それで部長。人造人間……ホムンクルスって一体なんです?」

 

「ホムンクルスは錬金術師の技術によって生み出された人工生命体よ」

 

人工生命体。生命が生命としての営みを行わず、科学の技術によって生み出される存在。

 

一説によれば不老不死の研究による副産物と言われており、錬金術師の間では究極とも言える禁忌の術の一種である。

 

「まさか堕天使以外にも聖剣を狙う組織があっただなんて……しかも」

 

チラリとリアスはブロリーの方へ視線を向ける。未だに全快までには至らず、アーシアに治癒を受けているブロリーを見て、リアスは顔には出さないが内心は不安に満ちていた。

 

ブロリーは強い。その強さはライザーとの一戦を経て、更に高まったと本人から伝えられている。虚勢やハッタリではなく、当時淡々と事実を述べるブロリーにリアスはまたかと呆れた程だ。

 

そんな彼が敗北した。

 

即ち、彼よりも強い存在が聖剣を狙ってこの街に潜伏している。

 

その事実がリアスの頭を悩ませ、判断を鈍らせていた。

 

そんな時だ。

 

「あの、部長。やっぱりあの修道女の二人を探した方がいいんじゃないでしょうか?」

 

一誠のその言葉に全員の視線が集まる。

 

「探してどうするつもり?」 

 

「一緒に聖剣を探して、んでもって聖剣をぶっ壊します」

 

冷淡に返すリアスの一言、それによりはっきりと答える一誠の返答によりブロリーを除いた全員が息を呑む。

 

特に木場の方は一誠の申し出が余程意外だったらしく、その目は大きく見開いていた。

 

「人造人間とか訳の分からない連中が聖剣を狙いにこの街にいるんだったら、聖剣を持っている彼女達が一番狙われる確率が高いんじゃないですか? 堕天使以外の連中が絡んで来たとなれば、もうこれは教会の問題だけじゃ済まなくなるんじゃないかと思うんですけど……?」

 

全員が視線を向けていることに若干萎縮しながら自分の考えを告げる一誠。確かに彼の言う事も一理ある。堕天使だけかと思われた敵勢力がいつの間にか二つに増えていて、しかもその者達も同様に聖剣を狙っているのだ。

 

最早これは教会だけではない。三つ巴となったこの状況、出会い頭に戦闘となり、無関係の人間がいつ巻き込まれるか分からなし、それはリアスの望むところではない。

 

暫くの静寂、一誠の意見を考慮してリアスは一つの決断を下す。

 

「そうね。確かにイッセーの言う通りね。朱乃、至急ソーナにこの事を伝えて、私はお兄様……魔王ルシファー様に援軍の要請を促します」

 

「了解しました」

 

それだけ告げると、朱乃は魔法陣の放つ光の中へ消えていく。

 

「ぶ、部長、いいんですか? ワザワザ魔王様に出張るよう言っちゃうなんて」

 

「まさか、お兄様の出番は本当に危なくなった時だけよ。聖剣は私達悪魔にとって天敵とも呼べる存在。堕天使側に渡ったらまた戦争になりかねないわ。でもね、私は魔王様からこの地を任されたの、幾ら魔王の妹でも不確定要素があるから助けてくれなんて、口が裂けても言えないわ」

 

この土地は消滅した前任者に変わって魔王に任されたリアスの街。

 

自分に期待して託してくれた兄の威厳を保つ為にも、ギリギリまで自分達で何とかしようとリアスは決断する。

 

「まぁ、それでも貴方達に何かあれば、直ぐにでも来て貰えるよう、手配するわ。貴方達を失うぐらいなら自分のプライドを砕いた方がマシよ」

 

と、ウインクでプライドよりも下僕を優先する自分の主に、一誠は苦笑いを零す。

 

「それで、問題は……」

 

「俺なら大丈夫だ」

 

リアスが次なる問題を口にする前にブロリーが遮る。

 

「次は負けない」

 

ブロリーのその一言と瞳に込められた強い意志に、リアスは満足気に頷いて自身も魔法陣の中へと入っていく。

 

「私はこれからソーナの所へ行って聖剣に関する話し合いと冥界に連絡を取りに行くわ。一誠達は街に出てあの修道女達を探して頂戴」

 

「分かりました!」

 

「が、がんばります!」

 

「……任せて下さい」

 

「…………」

 

一人だけ返事を返さない木場を不安に思いながらも、迎えに上がった朱乃と共にリアスはグレモリー眷族の魔法陣に入り、光と共に消えていく。

 

残された一誠達。特に木場はバツが悪そうに顔を歪めて部屋を後にしようとする。

 

「待てよ木場」

 

しかし、そんな彼を一誠が呼び止める。

 

「……なんだい?」

 

「お前が何でそんなに聖剣が憎むか……部長から大体の話は聞いた」

 

「………?」

 

一誠のその言葉にブロリーは小首を傾げる。

 

「……同情のつもりかい? ワザワザ部長にまで聖剣の破壊を提案してまで僕の復讐の手伝いをして、それで僕の気を晴らそうと? それとも部長に気に入って貰おうとする君の算段かい?」

 

自嘲の笑みを浮かべながらそう言う木場の言葉にその場の空気が凍り付く。

 

……我ながら、随分ひねくれた物言いをするものだと、木場は思う。

 

一誠はそんな遠回しに人を貶めるような考えをする奴ではないと、彼と過ごしていく内に分かっていた。

 

間違っていること、おかしいと思う事にはその言葉で、或いは行動でハッキリと示す男だ。

 

そんな彼の純粋な善意を自分は踏みにじったのだ。

 

今、ここで殴られても文句は言えない。しかし、対する一誠はそんな素振りも見せず、木場の目をジッと見つめ。

 

「……お前がどんな風に思っていても構わねぇさ、けど、俺はお前を仲間だと思っている。それだけは変わらねぇよ」

 

「っ!?」

 

仲間。その一言に木場の中の何かが大きく揺れる。

 

再び訪れる静寂。すると、この場にいるのが耐えられなくなった木場が───。

 

「……悪いけど、僕は僕のやり方で聖剣を破壊する事にするよ。部長にも伝えておいてくれ。木場祐斗ははぐれになっても復讐を遂げて見せると」

 

「先輩!」

 

それだけを言い残すと、木場は小猫の制止の声にも耳を貸さず、部屋から出ていった。

 

「……木場、どうかしたのか?」

 

自分の知っている木場とはかけ離れている事にブロリーは疑問の言葉を洩らす。

 

ブロリーの知る木場は誰に対しても気さくで、他人を気遣い、敬う事が出来るいい奴だった。

 

それがまるで別人の様に変わっている木場を見て、ブロリーは不思議で仕方がなかった。

 

「そういや、ブロリーさんはまだ聞いてなかったスね。木場の事、アイツの過去に何があったのかを」

 

その後、ブロリーは一誠から木場の出生について大まかな説明を受けた。

 

幼少の頃から聖剣──エクスカリバーに適応するため、人為的に養成を受けた者の一人。

 

その頃から辛い適応、適性検査を受け、当時の木場と同時期の者達は体がボロボロに疲弊していった。

 

……そして、懸命に受けた適応検査も虚しく失敗。当時誰も聖剣に適応できなかった木場達に教会関係者達は彼等にある決定を突き付けた。

 

──“聖剣に適応出来ない不良品は処分しろ”

 

その決定の基、木場を含んだ被験者の多くは殺され、辛うじて生き残った木場もリアスによって転生する直前、人間としての生を終えた。

 

聖剣によって生かされ、聖剣によって狂わされ、そして聖剣によって殺された木場の生涯。

 

一誠から木場に関する全てを聞かされる頃には、部屋は重苦しい空気に包まれていた。

 

「……いいのか? 俺に木場の過去を話して」

 

そんな沈黙をブロリーが破る。

 

本人の承諾も無しに勝手に過去を話した一誠。

 

無論、良くはない。凄惨な生涯を生きてきた木場の過去を無闇に話すのは一誠自身駄目な事だと自覚している。

 

しかし。

 

「ブロリーさんは俺の……俺達にとって恩人です。確かに勝手に人の過去を無闇に喋るのは色々間違っている事だとは思うけど、俺は貴方になら話しても良いと思うんです」

 

「……どうしてだ?」

 

「ブロリーさんは俺やアーシアを助けてくれて、部長の為に懸命に戦ってくれました! そんなアナタになら話してもいいなって思って……」

 

最後辺りはシドロモドロになる一誠。

 

聞き取れない彼の言動にブロリーは首を傾げると……。

 

「と、兎に角! 俺はアンタを全面的に信頼してるって事ッスよ!」

 

声を荒げ、誤魔化すようにソッポ向く一誠。すると、今度はアーシアがクスクスと笑みを零す。

 

「イッセーさんは照れ屋さんですから、あまり上手に言えませんが、つまりはそういうことです」

 

「俺を……しんらいするって言うのか?」

 

ブロリーの疑問にアーシアは微笑みながら頷く。

 

信頼。その言葉の真意を知った時、ブロリーは胸の奥底からジンワリと暖かいモノが広がっていくのを感じた。

 

「……それじゃあ、俺も出よう。そろそろ陽が昇り始めたみたいだからな」

 

ブロリーの言葉に吊れられ、窓の方へ視線を移すと、薄暗かった空は段々と明るくなっていた。

 

もうすぐ夜が明ける。用務員としての仕事があるブロリーは早く自宅に戻って朝食と出勤の準備がしたいと、ベッドから立ち上がる。

 

「あ、あの! ブロリーさん、お怪我の方は……」

 

「あぁ、傷の方は何とか大丈夫だ。痛みもなくなってきたし……ありがとう、アーシア」

 

それだけを告げるとブロリーは一誠の部屋を出て、兵藤家を後にした。その際、小猫から畏怖の籠もった視線を投げ掛けられていた事も気付かずに……。

 

(……そう言えば、なんだか夢を見ていた気がするな)

 

自宅のマンションに向かう途中、ブロリーはふと思い出す。何か……そう、自分の原点とも言えるべき大事な場面を見ていたような。

 

(……まぁ、思い出せないという事はさほどの事じゃないだろう)

 

既に過去への拘りをそんなに持たなくなったブロリーは、頭に引っかかるモノを感じるもそれを保留する。だが、この考えが後にブロリーに大きな楔となる事を……彼はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街から外れにある今はもう使われていない廃工場。誰もいないはずの工場内で複数の男の声が響き渡る。

 

「それで、準備の方はどうなっている?」

 

「もう間もなくだ。術式の構築は既に完了しているし、後は場所だけだ」

 

「場所には既に目星は付いている。かのルシファーとレヴィアタンの妹が統括している駒王学園とやらが妥当だろう」

 

威圧感に満ちた声。その主である男の背中には十もの漆黒の翼が広げられている。

 

男は瓦礫の上に腰掛けながら頬を付き、対峙する白衣の男に術式発動による場所の提供を促す。

 

「まさか、本当に魔王の妹に手を出すとはな、そうまでして戦争がしたいかコカビエル」

 

白衣の男の言葉に、古から名を連ねる堕天使、コカビエルは口を三日月の形に歪める。

 

「愚問だなバルパー、その為にこの俺がワザワザ冥界から這い出て聖剣を教会連中から奪ったのだ」

 

コカビエルの返答にバルパーと呼ばれる白衣の男は呆れたように嘆息する。

 

「まぁ、私は私の目的さえ達成すればそれでいい。私は、彼の立つ頂に……」

 

「立てますかな? アナタに」

 

「「っ!?」」

 

突如割って入ってきた第三者の声。二人は聞こえてきた声の方へ視線を向けると。

 

「失礼、盗み聞きするつもりはなこったのだがね。何分鼠が紛れ込んできたものだからな」

 

「全く、俺っちの獲物を勝手に横取りするもんだから危うくブチ殺しちゃう所だったよん」

 

現れたのはイカレた神父ことフリード=セルゼンと、両脇に二人の血に染まる少女を抱えていた……。

 

「貴様、13号!!」

 

13号……Mr.13の名をバルパーが叫ぶ。

 

「久し振りだなバルパー=ガリレイ。まだ聖剣に拘っていたか」

 

フリードの挑発に耳を傾ける事なく、Mr.13は二人の前に少女達を投げ捨てる。

 

「コイツ等は……聖剣使いか?」

 

「あぁ、そこでそこの坊主と戯れているのを見かけてな、騒ぎになる前に少し大人しくさせて貰った」

 

そう言ってMr.13はチラリとフリードの方へ視線を送り。

 

「済まなかったな坊主。折角の遊びに邪魔をして」

 

と、苦笑を浮かべて詫びを入れるMr.13に、フリードの顔は憤怒に染まる。遊び。目の前の男は先程まで外で行われていた殺し合いを、Mr.13は遊びだと断じた。

 

二人の聖剣使い。しかも片方はエクスカリバーとは違う別の聖剣の担い手。

 

覗いていた侵入者を始末すべく、死闘を繰り広げていたフリード。その戦いを邪魔され、挙げ句の果てに遊び扱いされたのだ。

 

フリードの聖剣の柄を握る手に力が籠もる。

 

いっそのこと、背中から斬り殺してやろうかという思いに至った。

 

その時だった。

 

「う、うぉぉぉぉぉっ!!」

 

「「!」」

 

今まで寝ころんでいた聖剣使い、修道女のゼノヴィアが時空の歪みから一振りの剣を引き抜き、Mr.13へ斬り掛かっていく。

 

生きていた事にMr.13を覗いた三人が驚愕する。しかし、今まさに斬られようとする本人は構え間も見せず、寧ろどうぞと言いたげに両手を広げ。

 

ガキィィィン。

 

甲高い金属音が行動に響きわたる。

 

「そ、そんな……」

 

目の前の光景に、ゼノヴィアはその瞳を絶望に染める。今のは自分が放てる最大限の一撃。なのにMr.13には掠り傷程度の傷すら付いていない。

 

それどころか。

 

「ほう? 今の一撃で折れないとはな。いやはや、流石は聖剣と名高い剣だ」

 

Mr.13は肌の一枚すら斬れない自分にではなく、折れない聖剣に対して賞賛の言葉を送りつけてきたのだ。

 

「だがな、あまり頑張り過ぎるなよ? でないと折角慣れない手加減までして生け捕った意味がなくなるじゃないか」

 

そういってMr.13はゼノヴィアの額に人差し指でチョンと軽く小突くと。

 

糸の切れた人形の如く、ゼノヴィアは意識を断ち切られ、ガクリと地面に伏した。

 

……言葉がなかった。

 

一連の出来事を見せ付けられたらフリード、バルパー、コカビエルでさえ、聖剣の一撃をマトモに受け、傷一つ付かないMr.13に戦慄を感じていた。

 

特にフリードは。

 

(なん、何なんだこいつはぁ!?)

 

形容しがたい感情に、フリードは爆発されるのではなく、混乱の極みにより一言も言葉を出すことは出来なかった。

 

「確か、この娘はデュランダルとかいう聖剣を扱うんだったな。良かったなバルパー、実験材料が増えたぞ」

 

すると、散々好き勝手に言ってきたMr.13はここにはもう用はないとばかりに踵を返し、工場から出て行こうとする。

 

「……貴様、何者だ? 人間ではなさそうだが」

 

そんな彼を、コカビエルが質問する事で呼び止める。

 

するとそれに応えたのか、Mr.13は足を止め。

 

「俺の目的は二つ。一つは二天龍の片割れがどんなものかを計る偵察で、二つはバルパー、アンタにドクターから言伝を伝える事だ」

 

「っ!?」

 

ドクター。その人物の呼称を聞いたバルパーはその目を大きく見開かせる。

 

「“貴様の知識、知恵、その集大成を見せて貰おう”とな」

 

「…………」

 

「あぁ、それとコカビエルだったか? 俺達には正式な名前などない。ただ、俺達は組織内では通称“科学派”で通っている。名前で呼びたかったらバルパーに聞きな、尤も、個人的にはMr.13が好みだが」

 

そう言うとMr.13は工場の出入り口前に立ち。

 

「あぁ、そうそう。今俺達の一人がアンタらと同じく聖剣を狙っているから、そこん所宜しく」

 

それだけ告げると、Mr.13は音もなく姿を消し、工場内には静寂が訪れる。

 

「科学派……だと? まさか、奴らは禍の団(カオス・ブリゲート)の……」

 

Mr.13が名乗った科学派。その正体と属する組織に心当たりのあるコカビエルがその名を口にしている一方で。

 

「見ているがいい、Dr.ゲロ。私は私のやり方で、貴様と同じ高みに昇って見せるぞ!」

 

決意を新たにするバルパー。その瞳には歪んだ輝きが滲み出ていた。

 

 




ブロリー「マタマモレナカッタ」


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