悪魔より悪魔らしい……だがサイヤ人だ   作:アゴン

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life 23

「え、えくす……かり、かりんとう?」

 

「エクスカリバー。聖剣と呼ばれる剣の一つで聖なる力を宿す力と言われていますわ」

 

 朱乃から聖剣エクスカリバーについての簡単な説明を受けるブロリー。

 

あの後、何だか気まずくなった部室内の空気。しかし来てしまったものは仕方がないとリアスは判断し、ブロリーもこの話に参加させる事を許可した。

 

 聖剣エクスカリバー。それは古の時代、アーサー王が使われたとされる聖なる剣。それが大昔の大戦で一度折れ、七つの聖剣に分かたれ、カトリックやプロテスタントが厳重に管理されてきたという。

 

「か、かとりせんこう? ぷ、ぷろていん?」

 

「カトリックとプロテスタントですわ。ブロリーさん」

 

朱乃から訂正の言葉を受けるが、それでもブロリーには難しく、既にいっぱいいっぱいだった。

 

しかし、ブロリー一人に時間を割く訳にもいかず、リアスはそのまま目の前の二人の女性に問い掛ける。

 

「それで、アナタ達は奪われた聖剣を取り戻す為に私達に協力して欲しいと?」

 

「奪われた?」

 

「ブロリーさん、まだ部長の話は終わっていませんから」

 

リアスの物々しい言葉に反応してしまうブロリーだが、朱乃がそれを軽く窘める。

 

どうやら余程大事な話らしく、自分が割って入る事は出来ないようだ。

 

ならば邪魔にならないよう大人しくしておこう。木場に昨日の事に付いて聞き出すのはそれからでもよさそうだ。

 

と、ブロリーは木場の方へ視線を向けるが、当の本人である木場はまるで此方を見ようとしない。

 

それどころかソファーに座る二人の女性に鋭く睨みつけているではないか。

 

刃の様に鋭い眼。氷にさえ思える木場の瞳から並々ならぬ感情が滲み出ている。

 

それは怒りなどという生易しいモノではない。執念、いや、怨念すら感じる木場の感情。

 

それは、昨日フリードと対峙した時の見せたモノと同じ様な感情だとブロリーは察した。

 

木場がこうまで怒る理由は何だ? 確かに神父なる存在は木場の憎悪の対象だと朱乃からそれとなく聞いた事はあるが……。

 

(まさか、コイツ等もそうなのか?)

 

青い髪に緑色のメッシュが入った女性と栗色髪の女性。

 

どちらもあの落ち着きのない神父(ブロリー談)とはとても似てないと思うが……。

 

「これがその分かたれたエクスカリバーの一つ、『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』。カトリックが管理している代物だ」

 

ブロリーが木場の怒りの原因を考察している最中、メッシュの女性は布に巻かれた長い物体を解き放ち、一本の長剣を露わにする。

 

破壊の聖剣。自分の獲物を紹介したメッシュの女性は、再び布でエクスカリバーを覆った。

 

(……今のは、もしかして)

 

ほんの僅かな時間だったが、ブロリーは露わになった聖剣からつい最近感じた同じ様な力だと分かった。

 

「それじゃ、今度は私の方ね」

 

今度はもう片方の女性が長い紐のような物体を懐から取り出す。

 

すると、女性の手にした紐はまるで意志を持ったかのようにウネウネと動き出すと、紐は形を変え一振りの日本刀と化した。

 

「私の持つ聖剣は『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』こんな風に形を自在に出来るから持ち運びにスッゴく便利なの。このようにエクスカリバーはそれぞれ特殊な力を有しているの。こちらはプロテスタントが管理しているわ」

 

と、自慢げに女性は言う。

 

その一方で、ブロリーは擬態の聖剣を目の当たりにして確信する。

 

(やっぱり、あの剣、昨日見たあの神父が持っていた物と同じだ)

 

メッシュの女性の持つ破壊の聖剣と、栗色髪の女性の持つ擬態の聖剣は昨日フリードが持っていた長剣と同じ威圧感を放っていた。

 

とすれば、彼が持っていたあの剣も、聖剣なのだろう。

 

そして、その後更に詳しく聞く限り、どうも奪われた聖剣の首謀者達はこの町に潜んでいるらしい。

 

その者達から聖剣を奪取、もしくは破壊するためにメッシュの女性ゼノヴィアと、栗色髪の女性紫藤イリナが派遣されたという。

 

話を聞いたリアスは額に手を当てて疲れたように息を吐く。

 

「私の縄張りには出来事が豊富ね。それでエクスカリバーを奪ったのは?」

 

リアスの問いに、ゼノヴィアは目を細めて応える。

 

「奪ったのは……『神の子を見張るもの(グリゴリ)』だよ」

 

その答えにリアスは目を見開く。

 

「堕天使の組織に聖剣を奪われたの? 失態どころではないわね。でも、確かに奪うとしたら堕天使ぐらいなものかしら。上の悪魔にとって聖剣は興味薄いものだもの」

 

「そうなのか?」

 

「ええ、聖剣は悪魔にとって危惧すべき武具ですから……魔を滅する聖剣をワザワザ危険な目に合ってまで盗もうとする悪魔は殆どいません」

 

話の邪魔にならないよう小声で朱乃に訊ねるブロリー。その際に一誠も聞いている為、新米悪魔である一誠も序でに悪魔としての知識を蓄える事にした。

 

「奪った主な連中は把握している。グリゴリの幹部、コカビエルだ」

 

「コカビエル……。古の戦いから生き残る堕天使の幹部。聖書にも記された者の名前が出されるとはね」

 

「???」

 

また聞き慣れない単語が幾つも出てきた為、ブロリーは軽く混乱する。

 

苦笑するリアスを見る限り、結構大変そうな輩ではありそうだが……。

 

ブロリーがいまいち概要を理解出来ていない中、話は進む。

 

「それで、聖剣を奪われたアナタ達はこれからどうするつもり? 私達に協力を求めるつもりかしら?」

 

リアスの言葉に一誠はブロリーの横で息を呑む。

 

聖剣は魔を滅する力を持った武具。悪魔である一誠達が触れれば、忽ち塵となって消滅するだろう。

 

しかも、相手は古より伝わる聖書にその名を連なせる堕天使の幹部。もしマトモにぶつかれば勝てる見込みは皆無に等しい。

 

それを危惧したリアスも彼女達の問い掛けの口調に緊張が宿る。

 

しかし。

 

「私達の依頼────いや、注文は私達と堕天使のエクスカリバー争奪の戦いにこの町に巣食う悪魔が一切介入してこないこと。つまり、そちらに今回の件に関わるなと言いに来た」

 

予想と反するゼノヴィアの物言いに、リアスの眉が吊り上がる。

 

「随分な言い方ね。それは牽制かしら? もしかして、私達がその堕天使と関わりを持つかもしれないと思っているの? ──手を組んで聖剣をどうにかすると」

 

「本部はその可能性がないわけではないと思っているのでね」

 

その一言に、リアスの瞳に冷たい光が宿る。

 

それはそうだろう。自分の領土にまで足を運んできた敵が、自分達のやることに手を出すな、口を挟むなと言い、更には手を組んだら許さないぞと好き勝手に言ってきているのだ。

 

上級悪魔のリアスには、その侮蔑とも似た警告にはプライドが許さないだろう。

 

「上は悪魔と堕天使を信用していない。聖剣を神側から取り払う事が出来れば、悪魔も万々歳だろう? 堕天使共と同様に利益がある。それゆえ、手を組んでも可笑しくはない」

 

しかし、ゼノヴィアは睨み付けるリアスに臆する事なく、淡々とその言葉を口にする。

 

「もし堕天使コカビエルと手を組むようでは、我々はアナタ達を完全に消滅させる。たとえ、それが魔王の妹でもだよ。────と、私達の上司より」

 

「……私が魔王の妹だと知っているということはアナタ達も相当上に通じている者達のようね。ならば言わせてもらうわ。私は堕天使などと手を組まない。絶対によ。グレモリーの名にかけて。魔王の顔に泥を塗るような真似はしない!」

 

互いに睨み合い、拮抗状態となる両者。

 

「……つまり、どういう事だってばよ?」

 

「ブロリーさんシッ!」

 

息が詰まりそうな緊迫した空気が数秒間続くと、ゼノヴィアはフッと笑い。

 

「それが聞けただけでもいいさ、一応、この町にコカビエルがエクスカリバーを三本持って潜んでいる事をそちらに伝えておかなければ何か起こった時、私が教会本部様々なものに恨まれる。まぁ、協力は仰がない。そちらも神側と一時的にでも手を組んだら三竦みの様子に影響力を与えるだろう。特に、魔王の妹ならば尚更だよ」

 

ゼノヴィアの言葉を聞き、落ち着きを取り戻したリアスは多少表情を緩和させながら息を吐く。

 

「………んー?」

 

全く話が見えてこない。ブロリーはリアスやゼノヴィアの話を聞いても殆どその内容は理解できず、ただボンヤリと聞き流す事しか出来なかった。

 

ただ、少しだが分かった事がある。隣で怨恨の眼差しで彼女達を睨む木場は、彼女達にではなく、正確に言えば彼女達の持つ聖剣に恨みを持っているという事だ。

 

勿論、神父や神に連なる者達を相当憎んでいるのもあるが、それ以上に聖剣を憎んでいる事が何となく理解できる。

 

昨日のフリードとの一戦、そして彼女達の持ち寄った二本の聖剣。どちらも同じ威圧感を放ち、木場はそれに呼応するかのように憎悪をぶつけている。

 

勘に近い考えだが、ブロリーはそれで間違いないと確信した。

 

(あとで話を聞いてみよう)

 

昨日のように拒絶されるかもしれないが、何もしないでいるよりずっといい。

 

ブロリーは人知れずこの後の予定を決めていると。

 

「では、アナタ達は二人で堕天使のコカビエルからエクスカリバーを奪還するの? 無謀ね。死ぬつもり?」

 

呆れ口調のリアスにブロリーがハッと我に返る。

 

「そうよ」

 

「私もイリナと同意見だが、できるだけ死にたくないな」

 

リアスの言葉に、紫藤イリナとゼノヴィアは決意の眼差しでそう口にした。

 

「───っ。死ぬ覚悟でこの日本に来たというの? 相変わらず、アナタ達の信仰は常軌を逸しているのね」

 

「我々の信仰をバカにしないでちょうだい、リアス=グレモリー。ね、ゼノヴィア」

 

「まあね。それに教会は堕天使に利用されるぐらいなら、エクスカリバーが全て消滅しても構わないと決定した。私達は最低でもエクスカリバーを堕天使の手から無くす事だ。その為になら私達は死んでもいいのさ。エクスカリバーに対抗できるのはエクスカリバーだけだからね」

 

死ぬ覚悟。死んでも構わない覚悟。

 

生を簡単に切り捨てる彼女達に一誠は戦慄し、リアスはヤレヤレと呆れた様子で肩を竦める。

 

他の面々も仕方ないといった様子でそれ以上追求する事はなかった。

 

しかし。

 

「……何でだ?」

 

「?」

 

「ブロリー?」

 

イリナとゼノヴィアに疑問の声を投げ掛けるブロリーに、この場にいた全員が視線を向けた。

 

「何で……とは?」

 

ゼノヴィアはブロリーに眉を寄せて逆に訊ねる。

 

「何で……そんな簡単に死ぬなんて言えるんだ?」

 

ブロリーの疑問。それは簡単に死んでもいいと口にする彼女達に対しての事だった。

 

ブロリーには分からなかった。

 

死ぬ。それはつまり二度と目を覚まさないという事。

 

笑う事も、泣く事も、怒る事すらもできず、ただ朽ちるまで眠り続けるという事。

 

それは、アーシアが一度は陥った状態。

 

……苦しかった。

 

 

もう目を覚まさないと知った時、ブロリーは胸の奥で酷く締め付けられる痛みを覚えた。

 

殴られるよりも、蹴られるよりも、その痛みは何物にも勝るという事も……知った。

 

一誠は泣いていた。死んだアーシアを見て、ボロボロと涙を流して。

 

きっと一誠もその時の自分と同じ痛みを味わったのだろう。

 

アーシア本人だって、苦しかったのだと思う。

 

死んでみてどうだった? なんて、口が裂けても言えやしない。

 

だけど、あの時、あの教会で寝かされたアーシアの瞼からは涙が流れた跡が残っていた。

 

死ぬという事は、その人だけではない。もっと多くの人達にも影響を与えている。

 

悲しいと、辛いと、胸に穴が開いたような痛みに苛まされるのだと。

 

しかし、彼女達はそれを承知しているのだという。

 

あんな苦しい思いを、自ら体験したがるなんてブロリーには想像だに出来なかった。

 

「……先程から気になっていたのたが、君は一体何者だ? 悪魔ではなさそうだが?」

 

「彼はブロリーと言って、ある事情で記憶を失っていて、私達が保護しているの」

 

「まぁ! 記憶を失っているなんてなんという事でしょう! ゼノヴィア、この迷える子羊を救う為にも私達の教えを伝えるべきよ!」

 

リアスの説明により、ブロリーが記憶喪失者と知って、目を輝かせるイリナ。

 

そうだな。と、ゼノヴィアも頷き、ブロリーに向き直る。

 

「私達は神の加護を受けている。神に愛されている。その寵愛に報いる為にも、私達は事を成さねばならないのさ」

 

「神は、そんなに偉いのか?」

 

「勿論だとも、神は森羅万象の全てを産み出した世界の源。その身許へ逝けるのであれば、私達は死ぬ事も辞さないのさ」

 

ブロリーの問いに自身満々と答えるゼノヴィア。

 

彼女の深い信仰に一誠は呆然となり、木場は唾を吐き出しそうな苦々しい表情をしている。

 

だが、そんな一誠達の表情すら目に入っていないのか、ゼノヴィアの神の語りは更に熱が入り、イリナもウンウンと頷いている。

 

しかし。

 

「そう、神は言ったのか?」

 

「……何?」

 

「神は、聖剣を取り戻す為にお前達に死んでくれと言ったのか?」

 

「いや、それは違う。これは上司からの命令で」

 

ゼノヴィアの口調が、僅かに鈍り始める。

 

「お前達の上司が神なのか?」

 

「いや、それは……」

 

「なら……」

 

「それはね、それが私達の試練なの」

 

「試練?」

 

ゼノヴィアの説明だけでは足りないと悟ったのか、イリナもブロリーに神についての偉大さを語る。

 

「神の元に逝くにはそれはそれは厳しい試練に耐えなければならないの。それを乗り越えて初めて、私達は神の膝元へと旅立てるの」

 

「だから、神は何もしないのか?」

 

「……なに?」

 

ゼノヴィアの口調に、僅かな翳りが落とされる。

 

「試練を乗り越えて、その先が死ぬ事なら、なんで俺達は生きているんだ?」

 

彼女達の言うように、死ぬことが、神の元へ逝くのが至福というのなら、何のために命は産まてくる?

 

何の為に、人は生きる?

 

それならば、産まれて来る意味なんてないじゃないか。

 

ブロリーはそれらを自分なりに考え、纏めて彼女達に問い掛けた。

 

「死ぬ事は……多分、ソイツだけの話じゃない。死んでしまうという事は友達、家族、それら全てにココを痛くする事なんだ」

 

悲痛な面持ちで胸を掴むブロリー。彼の言いたいこと、それを一誠はアーシアの事だとすぐに悟った。

 

「なぁ、お前達は神に仕えているんだろ? だったら答えてくれ。この痛みはなんだと」

 

「そ、それは……」

 

ブロリーの問いに口ごもるイリナ。

 

「……神なのに、分からないのか?」

 

ブロリーの何気ない一言、それが彼女達の琴線に触れ。

 

「……悪いが。失礼させてもらう」

 

これまで語っていた時の表情とは一転。ゼノヴィアは立ち上がり、部室を後にしようと席を立つ。

 

イリナもゼノヴィアに続いて席から立ち上がる。

 

二人が部屋から出て行こうとしたとき、彼女達の視線は一カ所に集まる。

 

「兵藤一誠の家で出会ったとき、もしやかと思ったが『魔女』アーシア=アルジェントか? まさか、この地で会おうとは」

 

魔女。そう呼ばれたアーシアの体はびくりと震わせる。

 

イリナもそれに気付いたのか、アーシアをマジマジと見てくる。

 

「アナタが一時噂になっていた魔女になった元聖女さん? 悪魔や堕天使をも癒す能力を持っていたらしいわね? 追放され、どこかに流れたと聞いていたけれど、悪魔になっているとは思わなかったわ」

 

「あ、あの………私、は」

 

二人に言い寄られ、対応に困るアーシア。

 

「大丈夫よ。ここで見たことは上には伝えないから安心して。聖女アーシアの周囲にいた方々に今のアナタの状況を話したら、ショックを受けるでしょうからね」

 

イリナのその言葉にアーシアは複雑極まりない表情を浮かべる。

 

「しかし、悪魔か。聖女と呼ばれていた者。堕ちるところまで堕ちたものだな。まだ我らの神を信じているのか?」

 

「ゼノヴィア。悪魔になった彼女が主を信仰している筈ないでしょう?」

 

「いや、その子からは信仰の匂い──香りがする。抽象的な言い方かもしれないが、私はそういうのに敏感でね。背信行為をする輩でも罪の意識を感じながら、信仰心を忘れない者がいる。それと同じものがその子から伝わって来るんだよ」

 

目を細めるゼノヴィアに、イリナは興味深そうにアーシアを見る。

 

「そうなの? アーシアさんは悪魔になった今でも主を信じているのかしら?」

 

「……捨てきれないだけです。ずっと、信じてきたのですから」

 

それを聞き、ゼノヴィアは布に包まれたものを突き出す。

 

「そうか。それならば、今すぐ私達に斬られるといい。今なら神の名の下に断罪しよう。罪深くとも、我らの神ならば救いの手を差し伸べて下さる筈だ」

 

ピクリ。と、ブロリーの肩が動く。

 

特殊な布で封じているとはいえ、聖剣の切っ先を向けるゼノヴィアに一誠は例えようのないものがこみ上げ、その衝動のままにアーシアを庇うように前に立った。

 

「触れるな」

 

怒りの滲み出た言葉でゼノヴィアに告げる。

 

「アーシアに近付いたら、俺が許さない。あんた、アーシアを魔女だって言ったな?」

 

「そうだよ。少なくとも今の彼女は魔女と呼ばれるだけの存在ではあると思うが?」

 

ゼノヴィアのさも当然ともと言った様子で口にしたその一言に、一誠は激しい怒りを覚える。

 

「ふざけるなッ! 救いを求めていた彼女を誰一人助けなかったんだろう!? アーシアの優しさを、気持ちを踏みにじった連中はみんなバカ野郎だ! 友達になってくれる奴もいないなんて、そんなの間違っている!」

 

「聖女に友人が必要だと思うか? 大切なのは分け隔てない慈悲と慈愛だ。他者に友情と愛情を求めたとき、聖女は終わる。彼女は神からの愛だけがあれば生きていけた筈なんだ。最初からアーシア=アルジェントに聖女の資格はなかったのだろう」

 

「自分達で勝手に聖女にして、少しでも求めていた者と違ったら、見限るのか? ……そりゃねぇよ。そりゃねぇだろう!?」

 

ゼノヴィアの物言いに、一誠は溜まっていたものを止められなかった。

 

「アーシアの苦しみを誰も分かってやろともしないで、何が神だ! 何が愛だ! その神様はアーシアが辛かった時に何もしてくれなかったじゃないか!!」

 

神は何もしてくれない。それは一誠が神の信仰者に対してずっと神に関する者に言ってやりたかった一言だった。

 

見返りを求めた訳じゃない。アーシアの人を助けたいと思う優しさ紛れもない本物だ。

 

ただ一言、アーシアを庇う言葉、或いは手を差し伸べて欲しかった。たったそれだけで彼女はきっと、多くの人達を助ける……正しく聖女になれていた筈だったのだから。

 

しかし。

 

「神は愛してくれていた。何も起こらなかったとすれば、彼女の信仰が足りなかったか、もしくは偽りだっただけだよ」

 

ゼノヴィアは、そんな激昂しながら問い詰める一誠にさらりた冷静な態度で答える。

 

それどころか。

 

「あぁ、成る程、そういう事か。ブロリーさん、アナタの言う死に対する答え、漸く見つけたよ」

 

「?」

 

「君の感じた痛み。それは既に君が悪魔の誘惑に染まっているからだよ。真に神を崇拝する者は神の慈悲に痛みは感じない。そこにいるアーシア=アルジェントが悪魔となったのは、恐らくは君が彼女の死と悪魔へ転生したその瞬間を目の当たりにしたからだろう?」

 

だから彼女は神から見放されたのだと不敵な笑みを浮かべてゼノヴィアは続ける。

 

「魔女の死など、誰も悲しみはしない。その痛みは偽りの痛みだ」

 

……もう、我慢出来なかった。

 

我慢など、出来るはずがなかった。

 

 

必死に人々の為に頑張り、裏切られても健気に神に尽くし続けてきたアーシアが、これ以上罵倒されるのは。

 

 

遠くで、リアスの制止する声が聞こえる。だが、怒りに燃える一誠にはその声は届かず、ゼノヴィアに殴りかかろうとするが。

 

「……そうか」

 

「「「っ!?」」」

 

いつの間にか、ブロリーはゼノヴィアの持つ聖剣に手を添えていた。

 

「お前達の言いたい事はよく分かった」

 

ギシリ。と、ブロリーの手にした聖剣から鈍い音が聞こえる。

 

「ブロリー!? アナタ、何を!?」

 

「は、離せ!」

 

必死にブロリーから離れようとゼノヴィアは全力で抗うが、どんなに力を込めても聖剣から離れる事はなく。ビシリと、皹の入ったような音が、聖剣から聞こえてくる。

 

止めろ。離せ。リアスとゼノヴィア、それぞれからブロリーの制止を呼び掛けるが。

 

「この世界に、神など……いない」

 

ブロリーがそう呟いた瞬間。

 

 

バキャァァァンッ

 

 

「「「っ!?」」」

 

ブロリーはゼノヴィアの持つ聖剣を、封じられていた布ごと、粉々に握り砕いた。

 

 

 




ブロリーのアーシアに対する感情は恋愛ではなく、
どちらかといえば親愛寄りです。

娘を思う父親的な……当人は全く気付いていませんが。

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