悪魔より悪魔らしい……だがサイヤ人だ   作:アゴン

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life 22

 

 降りしきる雨の中、僕は傘もささず、目的も無しに歩いていた。

 

このどしゃ降りの中、熱の上がった今の僕の頭にはちょうどいい熱冷ましになるだろう。

 

お陰で部室にいた頃よりも大分落ち着いてきた。けど、そのおかげで自分がさっき部室で何をしたかをも思い出してしまった

 

───部長と、ケンカをしてしまった。

 

僕の命を救ってくれた主に、僕は初めて反抗してしまった。……これは部長の騎士としても『木場祐斗』としても失格だろう。

 

 けれど、聖剣……エクスカリバーへの復讐心を忘れたことなんて一度たりともなかった。少し学園の空気に呆けていただけだ。

 

仲間も、生活も、名前も得られ、生き甲斐も主であるリアス=グレモリーから貰った。

 

これ以上の幸せを願うのは……あまりにも強欲だ。

 

想いを果たすまで、同志達の分を生きていいなんて思った事など──。

 

その時、雨水とは違う水滴の音を僕の耳が捉える。

 

目の前にいるのは神父。十字架を胸につけ、憎き神の名の下に聖を語る者。

 

……僕が最も嫌い、憎悪するものの一つだ。憎しみの対象。悪魔払い(エクソシスト)ならばここで牽制しても構わないとさえ思った。

 

しかし。

 

「───ッ!」

 

神父は腹部から血を滲ませ、口から血反吐を吐き出すと、その場に倒れ伏した。

 

誰かにやられたのか? 誰だ? ──敵?

 

「ッ!」

 

背後からの異常な気配を察知した僕は瞬時に魔剣を創りだし、身構える。

 

この全身を突き刺すような感覚……殺気。

 

 

ギィィイインッ!

 

 

雨の中で銀光が走り、火花が散る。

 

殺気の方向へ体を向けたとき、長剣を振るう何者かが襲いかかってきたのだ。

 

相手は眼前で死んだ聖職者と同じ神父の格好。ただ、こちらは事切れた神父とは違い明確な程の強烈な殺気を飛ばしてくる。

 

「やっほ。おひさだね」

 

嫌な笑みを見せるその少年神父を僕は知っていた。

 

白髪のイカレた少年神父──フリード=セルゼン。先日の堕天使との一戦で僕達とやり合った輩。

 

……相も変わらず癇に障る笑みを見せてくれる。

 

「……まだこの町に潜伏していたようだね? 今日は何の用かな? 悪いけど、今の僕は至極機嫌が悪くてね」

 

怒気を含んだ口調で言ってみるが、彼は嘲笑う。

 

「そりゃまた都合がいいですねぇ! すんばらしいよ! 俺っちの方は君との再会劇に涙涙でございますよ!」

 

ふざけた口調は健在か。本当、この手の狂人者は腹が立つ。神父というだけでも憎くて仕方ないのに……。

 

あまりこの男とは関わりたくない。僕は早めに決着を付ける為に左手にも魔剣を創ろうとするが……。

 

「ッッ!?」

 

彼の振るう長剣が眩い輝きを放ちながら聖なるオーラを発し始める。

 

あの光は……間違い無い。間違う筈がない!

 

あのオーラ、あの輝き! 忘れられない……忘れるものか!

 

「神父狩りにも飽きてきた所でさ、ちょうどいいや。バッチグー。ナイスタイミングよ。お前さんの魔剣と俺様のエクスカリバー、どちらが上か試させてくれないかね? クヒャハハハ! お礼は殺して返すからさ!」

 

そう、彼の持つ剣は聖剣エクスカリバー。

 

僕と、僕の同志達の運命を捻るに捻ってくれた存在。

 

……雨で冷えかけていた頭に再び火が付く。

 

──有り難い。まさか僕の目的である代物がワザワザ向こうから、それもこんな早くに来てくれるとは……。

 

これも、力の象徴であるドラゴンを宿したイッセー君の近くにいた賜物か。

 

だが、そんな事は今はどうでもいい。

 

僕は左手にも魔剣を創り、目の前の神父を逃がさないよう身構える。

 

「オホッ! ヤる気満々な顔ですな! イイねイイねぇ、最っ高だねぇ! クソ悪魔をこのイカした聖剣でブった切れると思うと、俺様の性剣もビッキビキ!」

 

「…………」

 

もう、彼の言葉すら僕の耳には入ってこない。ただ目の前の壊れた聖剣を砕くのみ。

 

それが、僕の頭の中にある全てだった。

 

降りしきる雨すら、スローモーションに感じる程集中力を高め、一気に駆け出そうとした。

 

──その時。

 

「……木場?」

 

ふと、聞き慣れた声に我に変える。

 

声の聞こえてきた方へ振り返ると。

 

「ぶ、ブロリーさんっ!?」

 

記憶を失った男。ブロリーさんが不思議そうに首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………誰?」

 

 ブロリーは目の前で不気味な笑みを浮かべるフリードに対して率直な意見を述べた。

 

「んん? 何か聞き間違えたのかな? まさか僕ちんの事、忘れたなんて言わないよねぇ?」

 

「……………」

 

割と本気で思い出せないブロリー。

 

いや、微かだが覚えている。あの目立つ白髪。自分の様な真っ黒い髪とは対照的な色合いだから、少しは印象に残っている。

 

確か……名前は。

 

「フリーザ?」

 

……何故だろう。自分で言っておいてなんだが、この言葉を口にした途端、心の奥底から一瞬だが言いし難い感情が湧いてきたような。

 

「……成る程成る程、どうやらこの脳筋君は地獄の閻魔様に謁見したいご様子。─────調子に乗ってんじゃねぇぞこらぁぁぁっ!!」

 

自分の事を記憶から綺麗サッパリ無くなっていたブロリーに対し、フリーザ……じゃなくてフリードは激しい怒りを見せる。

 

そんなフリードにブロリーは何だか落ち着きのない奴だなぁと思いつつ、フリードの放つ殺気に呼応し、傘を近くの電柱に立て掛けて拳を構える。

 

ボクサー特有のファイティングポーズを取り、フリードの動きを凝視する。

 

そして、ブロリーはフリードの持つ剣の異様さに気付いた。

 

木場の持つ魔剣とは全く別の存在感を放つ一振りの長剣。

 

剣の知識など欠片程も持ち合わせていないブロリーだが、その剣は他のどれとも違う事は何となく分かった。

 

ブロリーの価値観で言えば、“もしかして凄い剣?”といった所だろうか。

 

同時に、喩えアレに斬られても傷一つも負う事もないと、妙な確信を得ていた。

 

根拠はない……というかわからない。

 

しかし、分かってしまったのだ。あの剣はどんな代物なのだろうか? 強いのか? そんな事を考えたと同時に得てしまったのだから。

 

これも、溢れ出てくる自身の力と何らかの関係があるのだろうか?

 

「さぁて! お一人様冥界にご案内! 集合時間は厳守ですのでお早めに!」

 

そんな事を考えている間に、既にフリードはブロリーの間合いを詰めていた。

 

下から迫り来る剣。その速度はかなりのモノだが、ブロリーには止まって見えており。

 

避けると同時にそのニヤついた顔に拳を叩き込ませようとする……が。

 

「君の相手は、僕だよ」

 

「っ!」

 

横から割って入ってくる木場。彼の振るう魔剣がフリードの持つ剣に叩き付け、フリードごと弾き飛ばす。

 

「おいおい、今俺様はそこの木偶の棒の相手をしていたのにいきなり不意打ちとは感心しませんなぁ」

 

「彼は大事な客人だからね。君程度のエセ神父に傷を付けさせる訳にはいかない」

 

尤も、君程度では傷など付けられそうにないがね……と、内心でほくそ笑み木場は、剣の切っ先をフリードに向ける。

 

その時、ブロリーは背中越しから感じ取れる木場の威圧感に自分の感じていた違和感の正体に気付いた。

 

木場は……祐斗は怒っている。それも、尋常ではないほどに。

 

あの白髪の少年に対してか? ……いや、多分違う。

 

(……剣?)

 

木場の視線の先にあるモノ、それはフリードの手にしている長剣だった。

 

(剣に怒っているのか? でも、一体なんで?)

 

あの剣からは確かに奇妙な感覚を感じるが、それが木場をそこまで怒る理由になるのは変だと思った。

 

何せ自分程度が斬られても平気だと確信したのだから、あの剣がそんな大層な代物だとは到底思えない。

 

だとしたら一体何故? ブロリーは怒る木場の心の内が読めず、不思議に思っていると。

 

「ありゃりゃ、脳筋木偶にイケメン剣士様が相手とは、流石に分が悪いかね? ここで分が悪い賭けは嫌いじゃないって台詞が言えたらいいんスけど、残念! 俺っちはそんなフェニミストじゃないのよねん!」

 

覚えていなかった事を根に持っているのか、自分に対してやたらに酷いことを言ってくるフリードにブロリーは若干申し訳ないと思う。

 

「逃がすか!」

 

懐から炸裂弾らしきモノを取り出したフリードに、木場は逃がすまいと追い討ちを仕掛ける。

 

しかし、木場の剣が届くよりも先にフリードは手にした炸裂弾を地に向けて振り下ろし。

 

辺りは一瞬、眩い閃光に包まれた。

 

目くらませの為の閃光弾。その光は強烈で一瞬でも視力を奪うには充分な威力を持っている。

 

漸く視界が戻る頃には、フリードの姿は影も形も見当たらなかった。

 

「───クソッ!」

 

悔しさを露わにする木場。感情を、しかも怒りをここまで表にする彼にブロリーも驚く。

 

「木場、何かあったのか?」

 

自分の知る木場とは余りにかけ離れたその姿に、ブロリー肩に手を置いて訊ねようとするが。

 

「アナタにはっ!」

 

「?」

 

「アナタには……関係ありません」

 

怒鳴りつけてくる木場。まさか怒鳴るとは想像だにしていなかったブロリーは伸ばしていた手を止める。怒鳴った事をバツが悪そうに顔をしかめる木場、しかしそれでも拒絶の色は濃い。

 

「…………」

 

木場は手にしていた魔剣を消すと何も言わず、そして振り返る事なく、降りしきる雨の中へ消えてゆき。

 

「…………」

 

ブロリーもまた、木場の後を追うことなく、その場で立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。ブロリーはいつも通りに起床し、いつも通りに学校に向かい、いつも通りに仕事をこなしていた。

 

「こちらで荷物の確認は終わりました。後はこの積み荷をいつも通りいつもの所に置いて下さい」

 

「分かった」

 

ソーナの指示に従い。ブロリーは校庭に業者の人達が置いていった機材を体育館倉庫に向けて運び込もうとしていた。

 

何でも、いつも使っていた機材が古くなっていた為、怪我人を出す前に新しく取り替えたいらしいのだ。

 

夏休みも過ぎれば体育祭もあることだか事前に慣らしておきたいらしく、早い段階でこの問題を片付けておきたいらしい。

 

「では匙、ブロリーさんの足を引っ張らないよう、励んで下さいね」

 

「ウッス!」

 

何時もより一段と気合いの籠もっている匙。ソーナが校庭を後にし、校舎へと戻っていくと。

 

「ヨシっ! いっちょやりますか!」

 

両手で頬を叩き、気合いを注入すると、匙は重たい機材を難なく持ち上げ、倉庫に向けて走っていく。

 

「おおっ」

 

全力疾走する匙。砂塵を巻き上げながら走っていく彼にブロリーも引っ張られるように駆け出す。

 

「匙、何だか元気だな」

 

「俺も、リアス先輩の下僕達には負けていられませんからね!」

 

「?」

 

どうも話が見えない。リアスの下僕。即ち一誠達がどうして匙のやる気に関係してくるのだろうと疑問に思うと。

 

「この間、リアス先輩の下僕達と顔合わせしたんスよ。そしたら兵士の兵藤一誠って奴が何だか無性に腹の立つ奴で!」

 

美人でグラマーな主に可愛がられるとか、金髪美少女に親しまれているとか、要するに嫉妬からの逆恨みをブロリーはご丁寧に最後まで聞いていると。

 

「けど、ソイツ実は伝説の赤龍帝を宿していて、レーティングゲームで勝利に貢献したとか、色々凄い話を聞かされて……」

 

「…………」

 

「俺も一応、ヴリトラっつー結構強い龍王の力を宿しているんですけど、それでも何かこう……差を感じてしまって」

 

話している内に、ドンドンやる気が落ちていく匙。

 

同じ時期に転生悪魔となったのに、既に活躍している一誠に負い目を感じているのだろう。

 

しかし、ブロリーにはそんな匙の気持ちを上手く理解出来なかった。

 

記憶を失っているても少しは人間らしくなってきたと思われたが、どうやらまだそこまでの気は回せないようだ。

 

だからブロリーは匙の話を聞いて自分なりに感じたことをそのまま告げてみた。

 

「……別に、いいんじゃないか?」

 

「……え?」

 

「お前はお前で、イッセーじゃない」

 

「だ、だけど……」

 

「匙は自分なりに考えてこうして頑張っている。今はそれだけでいいんじゃないかと俺は思う」

 

実際、匙は頑張っている。

 

こうして仕事を手伝ってくれているのは正直助かっているし、書類仕事に関しても時々手を貸してもらった事もあるからブロリーにとって匙は本当に助けになる存在となっている。

 

悪魔としての評価は素人……ひいては記憶喪失故に判断できないが、匙元士郎という男の事をブロリーは確かに認めている。

 

「俺は何も知らないし、分からないが、それでもお前が頑張っている事は知っている。もし困ったことがあるなら言ってくれ、俺も出来るだけ手伝う」

 

だから元気出せ。そう告げると。

 

「ぶ、ブロリーさん………押忍! 匙元士郎、頑張ります!」

 

目元から滲み出てきた涙を拭い。元気を取り戻した匙はやる気を取り戻し、再び機材道具を抱えて倉庫へ駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。仕事を終わらせたブロリーは、昨日の事を木場に訊ねるべく、部室のある旧校舎へと足を進めていた。

 

一晩考えて、色々思ったりしてみたが、やはりどうしても気になりブロリーは木場に怒られる覚悟で話を聞いてみることを選択した。

 

木場もリアスやソーナ、朱乃と同様に日常生活では結構な世話を受けた事がある。

 

やれソファーは座る所とか、箸の使い方とか、ナイフやフォークは武器ではないとか、本当に色々と世話になった事がある。

 

匙とも話をすることで少しは負担を減らせたみたいだから、きっと木場とも話をする事で多少は楽にできるかもしれない。

 

どんな悩みも、吐き出してしまえば少しは楽になれる。

 

匙との会話で何となくそう思ったブロリーは部室の前に立つ。

 

……学校ではタイミングの所為か、会う事はなかったが、流石にここにはいるだろう。

 

何だかいつもより重く感じる扉に手を掛け、いざ開くと。

 

「………ブロリー?」

 

リアスがいた。

 

「ブロリーさん?」

 

「……間が悪いです」

 

「ぶ、ブロリーさん。ホント天然すね」

 

「あらあら~、困りましたね」

 

「……………」

 

アーシアもいる。一誠も、朱乃に小猫、そして目的の人物である木場もいる。

 

ただ、なんだかもの凄い微妙な空気が部室に充満しているのを感じた。

 

何故なら。

 

「おや? 見慣れない顔だが君も悪魔かな?」

 

何故だか敵意の籠もった視線が、見知らぬ二人の女性から投げ掛けられてきた。

 

とりあえず、なんだかお邪魔してしまったようなので。

 

「…………すみません」

 

失礼したのなら謝る。これはソーナから教わった礼儀作法である。

 

 




ソーナ「ブロリーは私が育てた(キリッ」

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