悪魔より悪魔らしい……だがサイヤ人だ   作:アゴン

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life/extra

 

 

チチチ……チチュン。

 

「う……むぅ」

 

 カーテンの隙間から差してくる日射しと、小鳥の囀りを目覚ましにブロリーは目を覚ます。

 

「………?」

 

ふと、体に感じる不可思議な重み。何かと思い、寝ぼけ眼を擦りながら目を開けると。

 

「くー……くー……」

 

心地良さそうに寝息を立てるオーフィスがブロリーの体をベッド代わりに覆い被さっていた。

 

「……またか」

 

気持ちよさそうに眠るオーフィスを起こさないよう静かに横に寝かせ、ブロリーは顔を洗うために洗面所へと向かう。

 

そして、いつも通りに朝食を済ませると、戸締まりをして行き慣れた道を歩き学校へ向かう、今日もブロリーは一日を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……使い魔?」

 

 時刻は既に放課後、一通りの仕事を終えたブロリーはリアスからの呼び出しを受け、オカルト研究部の部室に来ていた。

 

なんでもメンバーの中で唯一持っていない一誠とアーシアの為に使い魔を手に入れるとの事。

 

使い魔は悪魔にとって基本的な代物。主の手伝いから情報伝達、追跡と幅広く使える。

 

「……話は分かったが、何で俺も?」

 

視界の端に映るボコボコになった一誠(特訓でもしていたのか?)を尻目にリアスに訊ねる。

 

「確かに使い魔は悪魔にとって必須アイテムだけど、別に専売特許でもないしそんな決まりもないわ。人間だって使役している者もいるからアナタもどうかなって思って」

 

使い魔はその能力次第で臨機応変に使える魔を扱う者にとって必須アイテム。

 

力で主を守る使い魔もいれば情報伝達で主を支える使い魔もいる。

 

記憶喪失のブロリーは普段学校で仕事している為、自身の記憶に纏わる情報を得る事は出来ない。

 

だから、行動範囲の広い使い魔を使役する事でブロリーの記憶捜索を始めようとリアスなりに考えたのだ。

 

ブロリーは先日、ライザーとのレーティングゲームで大いに活躍し、貢献してくれた。

 

部外者であるブロリーの力を借りたことに未だ釈然としない所はあるが、それでも自分達の為に戦ってくれたブロリーには応えなければならない。

 

少しばかり考え込むブロリー。二、三回程唸った後、納得したように頷き。

 

「分かった。その使い魔というもの、俺も欲しい」

 

「決まりね」

 

承諾したブロリーに気分を良くしたリアスはパチンっと指を鳴らして部室の床に赤い魔法陣を展開させる。

 

どうやら、既に準備は整っていた様子。行動の早いリアスに関心しながら、ブロリーは転移魔法陣の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が止み、ブロリー達が目にしたのは深く、見知らぬ森だった。

 

「ここは悪魔が使役する使い魔の沢山住み着いている森なのよ。ここで三人には使い魔を手に入れてもらうわ」

 

使い魔の森。幻想的な響きなだけあって、森は暗闇に包まれ、いつ何が出てきてもおかしくはない雰囲気を醸し出している。

 

「ゲットだぜ!」

 

「うおっ!」

 

「きゃっ!」

 

突然の大声に驚くアーシアと一誠。

 

目の前に現れたのは帽子を深く被り、ラフな格好をした青年だ。

 

「俺の名前はマダラタウンのザトゥージ! 使い魔マスターを目指して修行中の悪魔さ!」

 

……随分、変わった悪魔がいるものだなと、ザトゥージの自己紹介を受けてブロリーは思った。

 

「ザトゥージさん、例の子達を連れてきたわ」

 

ブロリーがそんな事を考えている内に、リアスはザトゥージに一誠とアーシアの紹介を終わらせる。するとザトゥージは一誠にアーシア、そしてブロリーへ視線を向けると。

 

「ふむふむ。さえない顔の男子とデカい兄ちゃんに金髪美少女さんか。OK! 任せてくれ! 俺に掛かればどんな使い魔だろうと即日ゲットだぜ!」

 

ゲット! という部分を強く強調するザトゥージ。

 

使い魔という所に余程自信があるのか、自らに太鼓判を押すその姿勢に一誠は若干怪しむ。

 

それに先程のブロリー達を見て(特に一誠とブロリー)何だか悪意を感じる解釈をしたような気がするが……。

 

「だけど、本当に良いのかい?」

 

「何か問題でも?」

 

「問題というか……ここは主に悪魔の方々が使役する魔物の巣窟ですからね。ただの人間でしかないそちらのブロコリーさんが来ても……ねぇ」

 

ジト目でブロリーを見るザトゥージ。

 

彼が見る限りのブロリーの印象は、ただ体格の大きい人間にしか見えない。

 

ここは様々な魔獣が住み着く魔の森。上級悪魔のリアスやその眷族達なら問題ないが、ただの人間であるブロリーがついて来れるとはザトゥージには思えなかった。

 

というか、ブロコリーではなくブロリーである。

 

「それなら心配いらないわ。彼なら大丈夫。自分の身くらいは自分で守れるわ」

 

「ですが、ここには危険な魔獣がウヨウヨいますぜ? 人間の匂いを嗅ぎ付けて大勢の魔獣が押し寄せてくるかも……」

 

若干脅しも含めてザトゥージは忠告する。

 

アーシアと一誠はブルリと震えているが、リアスは呆れた様に嘆息を零し、朱乃はウフフと微笑むばかり。

 

「そうなったら、祈るしかないわね」

 

主に、魔獣が全滅しないように────という意味で。しかし、リアスの考えている事が理解できていないザトゥージは、彼女の言葉をそのままの意味として捉え。

 

「……では、万が一の時に備えて緊急脱出用の転移魔法陣を用意しておきますね」

 

「えぇ、お願いするわ」

 

着々と準備を進めるザトゥージを横に、リアスは適当に相槌を合わせていた。

 

(……部長)

 

(説明するのも面倒みたいですね)

 

明らかに勘違いをしているザトゥージ。そしてそれを知りながらも放置するリアス。

 

まぁ、確かにただの人間だと思われていた男が、実はフェニックスすら圧倒する実力を備えていると説明しても、簡単には信じられないだろう。

 

噛み合っているようでそうでない。そんな不可思議な空気の中、漸く準備を整えたザトゥージを先頭に、一行は深い森の奥へと進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、部長や皆の使い魔ってどんなのですか?」

 

 森の中を歩いて数分。薄気味悪い森の雰囲気を少しでも和らげようと一誠は先程から考えていた話題を口にする。

 

「私は蝙蝠(こうもり)よ」

 

そう言ってリアスはその手先に自身の髪と同じ赤いコウモリが出現させる。

 

他にも朱乃は子鬼、小猫は白い子猫、木場は小鳥と、それぞれに様々な使い魔を有している。

 

「何だか皆小さい動物を使い魔にしてるんですね。やっぱりその方が便利なのかな?」

 

「別に、使い魔の基準に決まったモノはないわ。自分がこれだと思うものと契約を結ぶの」

 

「そうだね。大半は皆使い魔を小型の動物にして飼っているけど、別にそう言った決まりはない。鼠や猫を使い魔にする者もいれば虎や豹、翼竜なんかを使い魔にしちゃう者もいるのさ」

 

話を聞いていたのか、途中からザトゥージも会話に混ざってくる。使い魔のプロフェッショナル。その言動からは想像は出来ないが、今の言葉を聞く限りどうやら本物のようだ。

 

「さて、自分にあった使い魔に付いて悩んでいる君、まずはこんなのはどうかな?」

 

一誠の内心に浮かぶ疑問を見透かしたように、ザトゥージは一冊のカタログを取り出す。

 

彼が指差すのは見開き一杯に迫力のある絵で描かれた獰猛そうな獣。

 

「俺のオススメはこれだね! 龍王の一角『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマット! 伝説のドラゴンだ! 龍王唯一の雌でもある! いまだかつてコイツをゲットできた悪魔はいない! 当然さ! 魔王並に強いって話だからな!」

 

図面越しからでも伝わる迫力。しかま魔王並の力を有しているのであれば使い魔としても役に─────

 

「立つかぁぁぁっ! これ、使い魔のレベルじゃねぇよ! ラスボスだよ! 誰もゲットしてない!? オススメの意味分かってる!? いきなりラストダンジョンに放り込まないで下さい!」

 

「それはそれでアリね。伝説のドラゴン同士なら意気投合できそうだわ。イッセー。私のかわいい下僕ならそれぐらいやってのけてみせなさい」

 

朗らかに無茶を口にするリアス。彼女のどこまでも本気なその口振りに一誠は涙を流す。

 

龍王の一角。それだけでも凄そうだというのに、加えて魔王級の力を有している。

 

そんな化け物、誰も使い魔になんてしたくはない。

 

───しかし。

 

「……なぁ、コイツ、今どこにいるんだ?」

 

カタログを覗き込んできたブロリーは、興味津々としていた。

 

「あらブロリー、あなたコレを使い魔にしたいの?」

 

「したいというか……」

 

チラリと、アーシアの方に視線を向ける。

 

「リアス、使い魔というのは誰かにやる事も出来るのか?」

 

「トレードって事? 契約し、当人達が同意するのなら可能かもしれないけど……どうしてって───ああ、そういう事ね」

 

何度もアーシアの方へチラチラと視線を投げ掛けるブロリー。そんな彼の意図に気付いたリアスは呆れた様子で肩を竦ませ。

 

「ザトゥージさん。この龍王の居場所って、ご存知?」

 

「それならこの道を真っ直ぐ行って五つの山を越えてここよりも更に深い森の奥の洞窟の最深部に……て、まさか」

 

「と、いうことらしいわよ」

 

「分かった」

 

それを聞いたブロリーは一つ頷くと、今説明された場所に向けて駆けていき、その姿は瞬く間に消えていった。

 

「え? ブロリーさんは一体何処へ?」

 

突然別行動を始めたブロリーに面食らう一誠。アーシアも何が何だか分からず、オロオロとしている。

 

「アーシア、喜びなさい。彼はアナタに龍王を使い魔としてプレゼントするそうよ」

 

「へ?」

 

「なんですとぉぉぉっ!?」

 

しれっとブロリーの意図を説明するリアスに、アーシアは目を丸くさせ、一誠は驚愕の声を上げる。

 

アーシアは悪魔をも治癒する優れた神器の持ち主だが、同時に戦闘面に関しては殆どその術を持ち合わせていない。

 

これから先、もしアーシア自身で乗り越えなければならない危機的状況に陥った時は、主を守る使い魔が必要不可欠となる。

 

その事にいち早く気付いたブロリーは、アーシアを守る事の出来る程の力を持つとされる龍王に目を付け、プレゼントとして渡そうと思い付く。

 

「な、なんてスケールのデカい発想だ」

 

伝説の龍王をプレゼント扱いにするブロリー。記憶喪失が故の大胆な彼の行動に一誠は唖然とするが、それ以上に重大な事に気付く。

 

「はっ! まさかブロリーさん、アーシアに淡い恋心を!?」

 

「いやぁ、どちらかと言えばあれは……」

 

「……親バカ精神」

 

「あらあら」

 

盛大な勘違いをブチかます一誠に、木場達は冷静にツッコむ。

 

「さて、一応私達も使い魔を探しましょう。幾らブロリーが龍王をプレゼントするとは言え、アーシアも自分で使い魔を見つけたいものね」

 

「は、はい! 宜しくお願いします!」

 

手を握り、意気込みを示すアーシア。この様子だとブロリーの突然の行動の理由にまだ気付けていないようだ。

 

……というより、龍王を持ち帰る事を前提としている事に誰か突っ込め。

 

「と、いうわけだからザトゥージさん。こちらも使い魔探しを続けるわ。何かオススメな使い魔はいるかしら?」

 

「え、えーっと……はぁ」

 

もう、深く考えるのは止めよう。そう決めたザトゥージはカタログのページをめくり。

 

「なら、これなんてどうかな? ヒュドラ! 猛毒を吐き、主人をも毒殺する最悪な蛇の魔物さ!」

 

「あら、しかも不死だって。イッセー、これなんてどう?」

 

「……勘弁して下さい」

 

強く勧めてくるリアスに、一誠は半泣きしながら断った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、それからというものの。

 

「凄いな、どちらも本物の猛者だよ。どうかなイッセーくん。彼女達を使い魔にしては?」

 

「嘘だ。あんなのがウンディーネなんて……嘘だぁぁぁぁっ!!」

 

一誠がその幻想をぶち殺されていた一方で。

 

「お前が、龍王か?」

 

「何だ貴様? この私になんの用だ?」

 

「お前をアーシアの使い魔にさせたい」

 

「……は?」

 

突然の来訪者の言動に伝説の龍王は呆然となり。

 

直後、その場は一瞬にして焦土となった。

 

 

 

「うぉぉぉぉん! スラ太郎、触手丸ぅぅぅっ!!」

 

「はわわ! この子、私に懐いている?」

 

一誠が男の夢を実現させてくれる相棒を、蒼き龍の子供に屠られた事に血涙を流し、アーシアが自身の使い魔を見つけた同時刻。

 

「こ、この! なんなんだお前は!? 本当にただの人間かっ!?」

 

「ブロリーです」

 

ブロリーが伝説の龍王の一角と吃驚仰天な激闘を繰り広げ。

 

「な、何だか遠くからもの凄い轟音が響いて来るんスけど?」

 

「ブロリーさん、大丈夫でしょうか?」

 

(僕としてはいきなり押し掛けられた龍王さんの方に同情するけどね)

 

遥か彼方からでも伝わってくる激闘に、アーシアはブロリーの身を案じている一方で、木場と小猫は龍王の方へ同情し。

 

そして、日が沈んできた頃にブロリーが帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ただいま」

 

「おかえりなさいブロリー。その様子だと……無理だったみたいね」

 

 ボロボロとなった服。所々に焦げ目の付いた皮膚。ガックリとうなだれるブロリーに今日の結果を物語っている。

 

流石にあのブロリーでも龍王相手には分が悪かったか。

 

「済まないアーシア。お前に使い魔を渡せなかった」

 

「い、いえ! いいんです! そのお気持ちだけで私、すっごく嬉しいです!」

 

ショボンと落ち込んでいるブロリーにアーシアは必死に励ます。

 

……ザトゥージは精々ブロリーが逃げて戻って来たのだと思っているが、実際は違う。

 

ブロリーと龍王、二つの桁外れなパワーがぶつかり合い、その反動で住処が破壊され、龍王は半分涙目になりながら逃げていった。

 

正直、龍王が不憫で仕方ない。

 

思わぬ被害を被った龍王に同情の念を木場達が送っていると。

 

「アーシア」

 

「はい?」

 

「確かに俺はお前に龍王をあげられなかったが、それ以外の奴は捕まえてきた」

 

「へ?」

 

「選んでくれ」

 

ブロリーが指し示した方向、アーシアはなんだと思い視線を向けると。

 

其処には、多くの大型魔物が泣きながら鎮座していた。

 

一つ目の巨人やら氷を纏う怪鳥、どデカいタコに炎の虎、更には先程一誠がカタログで見たヒュドラの姿もあった。

 

どれもこれもカタログに乗っている超一級品の危険なモンスター達だ。

 

しかし、ボコボコにされた彼等の姿はそんな危険な雰囲気は纏っておらず、寧ろ哀愁の雰囲気を醸し出している。

 

「帰り際についでに見つけてきた。どうだアーシア、どれがいい?」

 

ついででこんな危険な化け物をハントしてきたコイツこそが一番危険なんじゃないかとザトゥージは今更ながら思う。

 

使い魔契約し、今はアーシアの腕の中にいる蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)もブロリーを見るなりガタガタと震えている。

 

「遠慮はいらない。さぁ!」

 

「え、えーっと……」

 

普段は無表情の癖に、なんだかイヤにイキイキとしている。

 

ワクワクした様子でアーシアの返答を待つブロリーだったが。

 

「ご、ごめんなさい。私、実はもう」

 

そう言ってアーシアは腕の中にいた蒼雷龍……通称ラッセーを突き出す。

 

目と目が合うラッセーとブロリー。ジロリと覗き込んでくるブロリーにラッセーは硬直したまま汗をダラダラと流す。

 

やがて全て理解したブロリーは今まで以上に肩を落とし、一誠達に慰められながら帰路に着いた。

 

そして、その後。魔物の森とされる森はやたらと静かになり。

 

危険な存在とされる魔物達は、その長い間、巣に引き籠もったのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

アーシアの使い魔、蒼雷龍一匹。

 

 

一誠の使い魔、0匹。

 

ブロリーの使い魔、0匹。

 

住処を破壊された龍王と、ボコボコにされた魔物達の涙、プライスレス。

 

 




番外編、如何でしたか?

時々日常編として合間に投稿しようと思います。

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