悪魔より悪魔らしい……だがサイヤ人だ   作:アゴン

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life 19

 

 

 レーティングゲームも遂に終盤。ブロリーがリタイアになり、本当の意味で総力戦となったゲームは、もう間もなく終わりの時を迎えようとしていた。

 

「うぉぉぉぉっ!?」

 

 陥没した大地を覆う爆発。地面を抉り、砂塵を巻き上げる煙の中から兵藤一誠が姿を現す。

 

地面を転がりながらも、何とか体勢を立て直し、相手の次の攻撃に備えて構える。

 

「ウロチョロと、目障りな奴!」

 

頭上から発せられる怒りの声、見ればそこにはライザーの女王。ユーベルーナが敵意剥き出しで此方を睨みつけている。

 

彼女の掌に魔力が集束し、更なる爆撃を放とうとするが。

 

「あらあら、アナタの相手は私ですわよ」

 

二人の間に、一筋の雷が迸る。

 

「雷の巫女!」

 

「朱乃さん!」

 

朱乃の登場に一誠は喜び、ユーベルーナは忌々しそうに顔を歪める。

 

「ウフフ。随分必死なんですのね。最初の頃はあんなにも私達を見下していたのに」

 

「……意外な助っ人を引き連れたものね。そうまでして勝利を得たいなんて……ライザー様も随分嫌われたものね」

 

朱乃の挑発にも乗らず、不敵な笑みを零すユーベルーナ。

 

だが、それでもブロリーのあの姿と力を見せ付けられて簡単には払拭出来ていないのか、微かに震えている。

 

「あらあら、どんな手段を使っても勝ちを得るのがレーティングゲームの醍醐味なのでしょう? それに、彼の参加を許したのは紛れもなくアナタ達ではなくって?」

 

「……………」

 

「さぁ、いらっしゃいな。雷の巫女の力……とくと味わうといいですわ」

 

「減らず口を!」

 

 艶を帯びた朱乃の挑発を皮切りに、再び魔力をぶつけ合う二人。

 

爆撃と雷撃。二つの異なる力は周囲を巻き込み、より激しさを増しながら続いていく。

 

「こ、これじゃあ朱乃さんをフォローをするにしても近付けねぇ!」

 

リアスの指示に従い、朱乃に助太刀したくても、激しい爆発と雷鳴に阻まれ、朱乃の下へ行くのが困難になっている。

 

直接仕掛ける事は出来なくても、自分には新たに発現した力。赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)がある。

 

倍増された力をそのまま朱乃に譲渡すれば、彼女の力は途轍もなく底上げされる事だろう。

 

左手の籠手に力を込め、一誠は力の倍増を図るが。

 

「させるものか!」

 

「っ!」

 

ユーベルーナの魔力の放つ爆撃が、それを許さない。

 

ユーベルーナの爆撃は破壊力だけではなく、広範囲に渡って広がる為、避けるには大きな動きと速さが要求される事になる。

 

 悪魔となってまだ日が浅い一誠は、翼で空を飛ぶ事も出来ず、足を使って避ける事しか出来ない。

 

しかも質が悪い事に、ユーベルーナはそんな一誠を巻き込める位置に必ずいるため、爆発に巻き込まれて体勢が崩れる所を常時狙っている。

 

朱乃を牽制しながら、確実に一誠を葬れるよう立ち回る。

 

赤龍帝の力を宿した一誠に対する評価と排除対象の序列の高さ、それらを踏まえての朱乃に対しての見事な対応など、今のこの現状はゲームに参加している悪魔とそうじゃない悪魔との差が、明確に現れている状況でもあった。

 

しかし。

 

「あらあら、もう何度も言ったじゃないですか」

 

「っ!?」

 

「アナタの相手は、私ですって」

 

爆発から突撃するように現れる朱乃。

 

ユーベルーナの爆撃を上手く潜り抜けた朱乃は抱き付くように彼女に組み付き。

 

「この距離なら、外しませんよ」

 

「っ!」

 

 迸る稲妻。組み付かれた事により逃げ場を失ったユーベルーナは、朱乃の放つ零距離の雷撃により、その身を焦がしていく。

 

「───っ!!」

 

言葉にならない叫びが、朱乃の耳元で木霊する。

 

しかし、彼女は攻撃を止めない。何故なら、そう、彼女は真性のSだから。

 

やがて朱乃も満足したのか、黒こげになったユーベルーナを抱き締めたまま恍惚な表情を晒している。

 

黒髪ポニーテールの爆乳美少女が、これまた肌を露出させたグラマーな女性を抱き締めている。

 

文面だけ見ればそそられる場面なのだが、何故か興奮しない。

 

などと考えている内に、朱乃はユーベルーナを放し、 此方に向かって歩み寄ってきている。

 

「ユーベルーナ、アナタの対応はイッセー君の驚異を正しく理解した上での行動。そこに間違いは無かったし、寧ろ正解とも言えるでしょう」

 

しかし、そんな一誠に気を取られすぎて同じく要注意な存在である朱乃の対応に希薄となっていた。

 

無論、そんな大きな隙など彼女が見せる筈もなく、それはほんのごく僅かなものだ。

 

たが、自力で逃げ続ける一誠のお陰で注意深く相手を観察する事ができた朱乃は、その僅かな隙を見逃さず、少しずつ近付く事が出来た。

 

そして、一誠を撃破する事に焦り、動きが単調となった所へあの一撃を与える事が出来たのだ。

 

「雷の巫女。取り敢えずその役目は真っ当できたみたいですわね」

 

駆け寄ってくる後輩に思わず笑顔が零れる。

 

一誠に囮の様な役割を押し付けてしまった事に謝り、リアスと合流しようと足を運ぶ。

 

が。

 

「そうね、アナタの言うとおりよ」

 

「っ!?」

 

「朱乃さん!!」

 

自分の体に纏わりつく様な重さが加わり、身動きが出来なくなる。

 

首だけ動かして振り返ると、ボロボロになりながらも不敵な笑みを浮かべたユーベルーナが朱乃に纏わりついていた。

 

「赤龍帝の坊やは確かに危険な存在よ。その譲渡の力を使えばライザー様をも葬れる力を得られる事でしょう」

 

しかし、と、ユーベルーナは口元の笑みを深くしながら続ける。

 

「その力、精々使えるのはあと二、三回って所かしら?」

 

その一言に、一誠は苦悶の表情を浮かべる。

 

喩え力を抑えて使ったとしても、発現したばかりの力。それに加えて一誠自身もまだまだ発展途上。

 

慣れない力を行使するのは、多少なり蓄積されていくもの。それが伝説の龍の力というのなら尚のこと。

 

それに、一誠自身も気付いていた。今の自分の力ではどんなに頑張った所でこの力を使うのは数回が限界だと。

 

「確かに倍加の力も侮れないけど、朱乃さん。アナタの力だって相当のモノよ。それに、アナタは見過ごしていたと言うけれど、私、アナタを見落としていたつもりはなくってよ」

 

「まさか……ワザと!?」

 

「危険な賭けだったわ。お陰で私ももう保たないだろうし。けど、それに釣り合うだけの土産が出来たわ」

 

ニヤリと笑うユーベルーナ。彼女のその表情を見たとき、朱乃も、そして一誠もその笑みに隠された真意に気付き。

 

「朱乃さん! そいつから早く離れて!!」

 

一誠は駆け出す。

 

そう、彼女の目的は最初から一誠ではなかった。

 

全ては、自分を捨て駒に見立てた彼女の策略。

 

新たに力を得た新人の転生悪魔の一誠よりも確かな実力を兼ね備えた朱乃に狙いを絞った自身を使った二重囮(ダブルブラフ)

 

 抜け出そうと朱乃はもがくが、最後の力を振り絞る彼女からは逃れられず。

 

「朱乃さん!」

 

走り寄ってくる一誠。諦めずに自分の名を呼んでいる後輩に朱乃は掌を向け。

 

「っ!」

 

一筋の雷撃を、一誠の前に降り注いだ。

 

雷撃に阻まれる一誠。吹き飛ばされながらも体勢を整えた彼の瞳に映ったのは。

 

───ごめんなさい。

 

困った様に、悲しそうに笑う朱乃が、光に包まれる瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深く抉れた大地。俺はそこでボロボロとなった朱乃さんを抱き起こしていた。

 

「朱乃さん! しっかりして下さい、 朱乃さん!」

 

気を失っている朱乃さんの体を、揺さぶりながら呼び続けた。

 

あのユーベルーナってライザーの女王。まさか自爆するなんて手段を持っていたなんて………。

 

いや、爆弾王妃なんて異名があるんだからそういう手段も元々からあったのかもしれない。

 

既にユーベルーナの退場は、グレイフィアさんのアナウンスを通して全員に知られている筈。

 

(くそっ! 部長から朱乃さんから助けるように言い付けられてきたのに、何やってんだよ俺は!)

 

本来なら、立っているのは朱乃さんの筈なんだ。

 

捨て駒にすらなれない兵士なんて……本当、役立たずもいいとこじゃねぇか!

 

何で俺は、こんなにも弱ぇんだ! 何で俺は、こんなにも……。

 

悔しさで頭がどうにかなりそうだ。

 

そんなとき、俺の頬に暖かい感触が広がるのを感じた。

 

「あらあら、ごめんなさいねイッセー君。恥ずかしい所を見せちゃって」

 

見ると、困った様に笑う朱乃さんが俺の頬に触れていた。

 

「謝らないで下さい。謝らないといけないのは、俺の方なんですから……それよりも今からアーシアの所へ連れて行きます。アーシアの力なら戦線へ復帰する事だってできますよ!」

 

俺は朱乃さんを担ごうと彼女に抱き寄せようとするが。

 

「……それよりも、あなたにはやるべき事がある。そうでしょ?」

 

手を向け、必要ないと首を振る朱乃さんは、俺にそう言ってきた。

 

「まだ彼、ライザー=フェニックスは完全には回復していないわ。そして、その時間は限られている」

 

今、俺達のいる場所は回復に専念しているだろうライザーの場所から一番近いところにいる。

 

未だにブロリーさんから受けたダメージを回復できてはおらず、今はまだ再生に手間取っている筈。

 

ブロリーさんがいなくなった今、ライザーを倒せる好機は今しかなく、それは時間と共に薄れていく。

 

そう、今こうしてここにいる時間すら惜しい位に。

 

……朱乃さんは、俺にこう言っているんだ。

 

私に構わず、先に行けって。

 

そして、その術を持っているのもまた、俺だけなんだって。

 

部長でも、木場でも、子猫ちゃんでもなく、悪魔に成り立ての新米悪魔である俺に……。

 

俺は迷った。朱乃さんを、仲間を見捨てて先に行くことを。

 

「……お願い、どうか、部長を、リアスの未来を……守ってあげて」

 

「っ!!」

 

……ったく、ずるいや、朱乃さんは。

 

そんな可愛らしい顔で言われたら、従うしかないじゃないですか。

 

俺は朱乃さんをゆっくりと地面に横にし、ライザーのいる方角を睨み付けながら立ち上がる。

 

だけど、朱乃さんには最大限の笑顔を見せて。

 

 

「わっかりました! この兵藤一誠、必ずや敵将の頸を取って見せましょう!」

 

「えぇ、楽しみにしてますわ」

 

互いに笑って見せた後、俺はライザーの方角へ向けて走り出す。

 

───そして。

 

『リアス=グレモリー様の女王、リタイア』

 

 

俺は、胸の内に宿る激しい感情と共に走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 ブロリーの一撃により陥没し、坂道となった大地を一誠はひたすら走り続ける。

 

フィールドのアチコチから爆発音や金属同士が打ち合う音が聞こえてくるの考えると、どうやら他の面々は未だに残ったライザー陣の駒に足止めを受けているんだろう。

 

これで、一誠は正真正銘一人でのガチンコ勝負になるのは避けようがなかった。

 

だが、不思議と不安はなかった。

 

既にドライグとの“契約”は完了している。後はライザーを早く見付けて短期間の決着を付けるだけ。

 

坂道を駆け上がり、乱れた呼吸を整え前を見据えると。

 

……いた。

 

全身から煙を炊き上げ、完全な復活を遂げようとする不死鳥。

 

 

フェニックスの名と力を持つ悪魔、ライザーが。

 

「……ふん、誰かと思えばリアスの兵士か」

 

煙の向こうから聞こえてくる声。

 

鋭い眼光は既に此方を捉え、その口振りは最初に会った時のような余裕が感じられる。

 

(まさか、もう全快に!?)

 

最悪の事態を一誠は予想する。

 

すると、ライザーが腕をなぎ払うと纏っていた煙も吹き飛び、ライザーの全体像が露わになる。

 

ボロボロになった全身。傷や出血により汚れたライザーを見る限り、まだ完全には回復していない様子。

 

自分の想定していた事態が杞憂で終わった事に、一誠は内心で安堵する。

 

「ワザワザそちらから出向いてくれるとはな、手間が省けたというものだ」

 

「……手間、だと?」

 

「あの男、ブロリーと言ったか? 確かに奴の強さは凄まじかった。生まれて初めてだ。この俺があそこまで一方的にやられたのは……」

 

「…………」

 

「しかし、そんな切り札的存在だった奴も今やリタイア。後は有象無象を消すだけだ」

 

「有象無象………だと?」

 

ライザーの一言に、一誠は怒りを覚える。

 

確かに自分は弱い。それは確かな事実だし、否定はしない。

 

だけど、他の皆は違う。小猫の力だって相当な物だし、木場の剣技はとても真似できる代物じゃない。

 

朱乃の魔力もリアスと遜色ないし、アーシアだって優れた治癒能力がある。

 

皆今日まで、必死に頑張ってきた。リアスの……主の未来の為に必死になって努力を重ねて来た。

 

それを、有象無象の一言で片付けるのは絶対に許せない。

 

「小僧、お前の持つ神器は正しく脅威だ。だがな、それは赤龍帝の力であってお前の力じゃないんだよ」

 

……知ってる。

 

「新しい力に目覚めたらしいが、それもここでお前を消せば何て事はない。分かるか? 喩え全快でなくとも、お前程度はいつだって始末できるんだよ!」

 

知ってる。

 

自分は、弱い。そんな事は分かり切っている。

 

だからこそ。

 

「……へ、へへ」

 

「……何が可笑しい? 勝ち目の無い戦いにとうとう壊れたか?」

 

「いや、うれしいんだよ。そこまで俺を過小評価してくれて……いや、全部事実か。だからこそ、こうして腹も括れた訳だ」

 

「貴様、何を言って……」

 

「部長がここにいねぇのは少し残念だけど……ま、別にいっか」

 

 不敵に笑う一誠に怪訝に思うライザー。

 

「さぁて、準備は整った。頼んだぜ赤き龍帝さんよ!」

 

『いいだろう。貴様の覚悟、確かに受け取った!』

 

突然、何処からか第三者の声が聞こえてきた。

 

どこに誰かと疑問に思うライザーだが、目の前で起きている光景にその考えは払拭される事になる。

 

「部長が気付く前にカタを付けてやる! 行くぜぇぇぇぇっ!!」

 

赤龍帝の籠手。極めれば神や魔王すら屠れるとされる神滅具。

 

左に具現化された籠手の甲にある宝玉が、眩い光を放っていたのだ。

 

「なんだ!? 一体何をする気だ!?」

 

ここへ来て、また新しい力に目覚めたというのか?

 

驚愕に目を見開くライザーを余所に、一誠は左手を天に掲げ。

 

「輝きやがれぇぇぇぇぇッッ!! オーバーブーストォォォッッ!!」

 

『Welsh Dragon over booster(ウエルシュ ドラゴン オーバー ブースター)!!』

 

その叫びと共に籠手の宝玉が赤い閃光を解き放つ。

 

溢れ出す力と共に、真紅のオーラが一誠を包み込む。

 

やがて光は収まり、ライザーは視界を覆っていた腕を下ろすと。

 

「鎧……だとっ!?」

 

目の前の存在に、驚愕の声を漏らす。

 

赤い鎧。全体的に鋭角的なフォルム。

 

左にしかなかった籠手は右腕にも装着されており、宝玉も両手の甲、両腕、両肩、両膝、胴体中心にと、全身に出現されている。

 

ドラゴンの姿を模した全身鎧のソレは、赤龍帝の力を本当の意味で具現化したモノ。

 

「禁手(バランスブレイカー)、『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』───さて、説明している暇なんて無いからな、一気に決めさせて貰う!!」

 

背中にあるロケットブースターを模した推進装置に火を入れ、瞬く間にライザーとの距離を縮めていく。

 

『小僧、分かっているな。この形態になれるお前の限界時間は──』

 

「分かってる!」

 

頭の中にドライグの声が響く。

 

禁手。それは禁じられし忌々しい外法。

 

神器を極めし者がその果てに辿り着くとされる禁断の境地。それを会得した者はその神器に宿った力を極限にまで高め、一騎当千の戦士になるという。

 

世界の均衡すら崩すとされるその力を、一誠は得ることが出来た。

 

しかし、そんな絶大な力に元人間で且つ一般人だった一誠が耐えられる筈もなく。

 

(この残された10秒が、俺の、俺たちに残された最後のチャンスだ!!)

 

 10秒。それが一誠に与えられた無敵でいられる時間。

 

「この、下級悪魔風情がぁっ!!」

 

ライザーの放つ炎が、一誠を鎧ごと呑み込んでいく。

 

しかし、赤龍帝。龍の帝王とされるドラゴンに炎が果たして効果があるのだろうか?

 

そして、それは禁手化した一誠にも言えること。

 

「うぉぉぉぉぉおっ!!」

 

炎の中を突っ切り、更に勢いを増した一誠の突撃。

 

 だが、自慢の炎を破られ、更には既に眼前に最強の二天龍に迫られるているにも関わらず、ライザーは落ち着いた様子で不敵に笑っている。

 

「ふん、まるで猪だな。突っ込む事しか頭にないとは!」

 

突っ込んでくる一誠に合わせ、ライザーは拳を腕ごと引く。

 

 喩え一誠が禁手化したって、自分の勝ちは揺るぎない。

 

 一誠は転生した悪魔でただの人間だった存在。転生する前はただの学生でしかなかった一誠が、果たして禁手化に至る程の実力はあるだろうか?

 

答えは、否。

 

つまり、ライザーは既に看破していたのだ。一誠の、禁手化に至っていられる間の制限時間を。

 

一分なのか三分なのか、正確な時間は分からないが、そんな事は些細な事。

 

要は耐えれば良いのだ。一誠が制限時間により勝手に自滅するまで。

 

自分は火の鳥にして鳳凰。不死鳥と呼ばれるフェニックスなのだから。

 

「くたばれ、小僧ぉぉぉぉっ!!」

 

突っ込んでくる一誠が遂にライザーの懐に潜り込んだ。

 

ライザーはそんな一誠を突き放す様に拳を突き出す……が。

 

「なっ!?」

 

振り抜いたライザーの拳は、一誠に当たる事なく空を切る。

 

避けたのか? いや、それだけならライザーがそこまで驚く要因にはなり得ない。

 

“消えた”のだ。目の前にいるはずの、見失う事など有り得ないこの距離で。

 

(ど、どこに? 奴は何処に消えた!?)

 

混乱するライザー。だが、別に一誠は実際には消えた訳じゃない。

 

“ライザーの視界から外れただけなのだ”

 

 ふと、すぐ近くから何かの風切り音が聞こえる。

 

何だと思い、下を見ると。

 

そこには、左右を揺らす一誠の姿があった。

 

(もっと、もっとだ。もっと早く動かせ! 身体ごと、勢いを乗せろ!!)

 

 

 

 

 

 

『なぁ木場。ブロリーさんはどうしてボクシングみたいな戦い方にしたんだ? あの人なら別にそんな事しなくたって充分強いじゃないか』

 

『そうだね。でも、どんなに力が強くたって当たらなければ意味がない。ブロリーさんは既に腕力なら申し分ないからね。力を増強するよりもその力を活かす方法に切り替えたのさ』

 

『そういうもんかね』

 

『戦い方は人それぞれさ。僕のように速さで戦う者もいれば鉄壁の防御で仲間を守る者、力で戦う者と自分だけの武器で戦う者は自分だけの戦闘スタイルというのがあるんだよ』

『自分だけの……戦闘スタイル』

 

 

 

 

 

 

自分だけの戦い方。それを知った一誠はその翌日、ドライグとの出会いを果たした。

 

そして一誠は考えた。不死鳥と呼ばれるライザーを倒すにはどうすればいいのかと。

 

神の一撃に匹敵する力? それは流石に無理がある。

 

心を挫くまでの連撃を浴びせ続ける? これも相当無理がある。

 

ならば、神に近い威力を持つ龍の力を連打で攻撃するならどうだ?

 

聞く限りではそれもかなり無理のある話だ。

 

だが、これ位しか思い付かなかったのもまた事実。

 

頭の悪い自分なりに達したその答えに到達する為に、一誠は皆に知られないように練習した。

 

リアス達の目に入らないよう、こっそりと、一人で。

 

そして僅かな光明だが、一誠は見出す事が出来た。

 

無論、完全に使いこなすにはまだまだ鍛錬が必要だ。

 

それでも一誠は自分だけの技を編み出す事が出来たのだ。

 

まだ名前もない、だけど決まれば間違いなく必殺の技を。

 

「このぉっ!」

 

ライザーの苦し紛れの拳が一誠の顔面目掛けて放たれる。

 

しかし、高速で上体を動かす一誠に当たる事はなく、ライザーの拳は再び空を切る。

 

(違う! もっと、もっと速く!)

 

頭を、体ごと左右に振る。

 

高速の体重移動(シフトウェイ)。左右に揺らし続ける一誠のその動きは。

 

───やがて、赤い∞の軌道を描きだす。

 

そして。

 

「う、おぉぉぉぉぉぉおおおおっ!!」

 

己の全体重とそれまでに付けた勢いを乗せた赤龍帝の拳が、炸裂した。

 

「ぬ、おおおおおおぉぉぉぉっ!?」

 

止め止めない左右の連打。

 

赤龍帝の力をマトモに受けてしまったライザーは、防御を紙の様に引き裂かれ、拳の嵐をその身に受ける事になる。

 

『Ⅴ』

 

既にカウントは半分を過ぎようとしていた。

 

(木場が言っていた。視野を広げて相手と周囲も見ろって!)

 

他の皆がライザーの下僕達を引き付けていたお陰で、今自分は思う存分戦えている事を知る。

 

(朱乃さんが言っていた! 魔力は体全体を覆うオーラから流れる様に集めると!)

 

禁手化したことで強化された自身の魔力を、拳に乗せて打ち込む。

 

(小猫ちゃんが言っていた。打撃は相手の中心線を狙って的確かつ抉り込むように打つんだと!)

 

リアスに鍛えられた。仲間に教えて貰った。

 

戦いの厳しさを、戦い抜く力と術を。

そして。

 

(あの人の為にも、絶対に勝つんだ!!)

 

自分達の為に戦い、そして最後のチャンスに繋げてくれたあの人に応える為────。

 

(俺は、最強の兵士に……リアス・グレモリーの兵士に……なるんだ!)

 

こんな自分の期待してくれたあの人の為にも。

 

「うぉぉぉぉぉおっ!!」

 

一誠は、カウントが終わるその瞬間まで体を左右に振り続け、ライザーを殴り続け。

 

そして。

 

 

ドォォォォッン

 

 

渾身の一撃を顔面にねじ込むと同時に、ライザーを大地に叩き付ける。

 

そしてその直後、一誠の体から赤い光が放たれると同時に一誠は鎧から解放された。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

もう、手も足も動かない。

 

全て出し切った。体力も、魔力も、全て使い切り枯渇した状態の一誠は立つこともままならず、その場へ座り込む。

 

そして。

 

『ライザー・フェニックス様。戦闘不能。よってこのゲーム、リアス・グレモリー様の勝利と致します』

 

大の字になって完全に伸びているライザー。

 

そして、次いで聞こえてきたグレイフィアのアナウンスに。

 

「……よっしゃ」

 

一誠は小さく、それでいて嬉しそうにガッツポーズを取るのだった。

 




いつの間にかお気に入りが300を越えた……だと?

ありがとございます!!

そして今回また新たにタグを追加しました。

内容は今回の話を読んだ皆様ならお分かりになるかもです。

それでは、また次回。


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