悪魔より悪魔らしい……だがサイヤ人だ   作:アゴン

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life 01

 

 翌日、男は朱乃に用意されていたスーツに腕を通し、玄関先で待っていた。

 

今日は朱乃のいう外に出掛ける日。自分の記憶を探す為街に繰り出すらしいのだが……。

 

「お待たせしました」

 

漸く身支度を終えたのか、振り返れば昨日とは違う格好をした朱乃がその豊満な胸を揺らしながら駆け寄ってきた。

 

純白のワンピース。普段の彼女を知る者がいればそのギャップに身悶えする事だろう。

 

美しさと可憐さを身に纏う朱乃。しかし男はそんな彼女の前でもやはりなんの反応も示さず。

 

「……それで、今日は何処に行くんだ?」

 

絶世の美少女を前になんの感想も言わず、男は朱乃に今日の予定を訊ねる。

 

朱乃の方も特に気にした様子はなく、顎に人差し指を添えて暫し考え。

 

「そうですね。取り敢えず今日はブロリーさんの日用品を揃えるのと、あとは街を一通り案内する位ですかね」

 

そうか。と、一度踵を返すが。

 

「ブロリー?」

 

名前……なのだろうか? 聞き慣れない言葉に男が訊ねると。

 

「何時までも名前がないのは不便じゃないですか。お弁当作っている間に閃いたんですけど……気に入りませんでしたか?」

 

上目遣いで聞いてくる朱乃。その潤んだ瞳を目にすれば誰もが堕ちること間違い無いだろう。

 

しかし、男はやはり何の反応も示さず、無反応のまま顔を背け。

 

「……別に、それでいい」

 

剰りにもぶっきらぼうな答え。しかしそんな男の態度にも朱乃は笑みを絶やさずに。

 

「では、行きましょうか」

 

朱乃は男の……ブロリーの腕を引っ張り、街へと繰り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街へと出てから、朱乃はブロリーの日用品を買い求めながら街の説明を一通りこなしていた。

 

日用品を揃えた雑貨店、カラオケやゲームセンター等の娯楽施設、電車やタクシーと言った共同施設。

 

取り敢えず一通りの説明を終えた朱乃は、ブロリーを連れて公園へと赴き、ベンチで昼食がてら休憩をしていた。

 

「では、そろそろお昼でしょうし、お弁当にしましょうか」

 

「……腹、減った」

 

ニコニコと微笑む朱乃に対し、ブロリーはゲンナリと疲れた様子を顕わにする。

 

ブロリーの隣には衣服や日用品がこれでもかと詰め込まれた袋が幾つも置かれているのだ。

 

慣れない……というか、記憶を失って初めて経験する買い物とやらにブロリーは肉体的にではなく、精神的に疲弊していた。

 

「もう、ダメですよ! 女の子と一緒にいる時はそんな顔をしては!」

 

「何でだ?」

 

「何でもです! 女の子は繊細で傷付き易いんですから、気を付けないとダメですよ!」

 

「……はぁ」

 

 よく分からない。よく分からないが取り敢えず頷く事にした。

 

今余計な事を口走れば間違い無く長話になる。記憶がなくとも本能的に察知したブロリーはひとまず理解した事にする。

 

曖昧だが返事をするブロリーに朱乃も表情を笑顔に戻し、バスケットから一つの包みを取り出した。

 

「……これは?」

 

「お弁当です。昨日の今日なのでブロリーさんのお好みが分からなかったけど、結構自信作なんですのよ」

 

ニコニコと微笑む朱乃を尻目に弁当箱の蓋を開けると……。

 

「……おぉ」

 

一口サイズに切り分けられたハンバーグを筆頭に、添えられたスパゲティやタコさんウインナーに卵焼きなど、色とりどりの食材が詰め込まれていた。

 

思わずブロリーの目が丸くなり、驚きを顕わにしている。初めて見せた表情が驚愕で、しかもお弁当の前という子供のようなブロリーに朱乃はクスリと笑みを零す。

 

「……頂きます」

 

「はい、召し上がれ」

 

朱乃に教わった食べるときの作法をすると、ブロリーは箸をハンバーグに突き刺して一口に頬張る。

 

モゴモゴと口を動かすブロリー。朱乃も口にあうのかと内心不安に思いながらブロリーの横顔を見つめていると……。

 

「……美味しい」

 

一言。たが、心のこもったその一言に朱乃も嬉しくなる。

 

それからスパゲティ、卵焼きと殆どの食材を食べ終えた頃。

 

「っ!」

 

ピシリ。と、ブロリーの箸の動きが止まった。

 

どうしたのだろうと朱乃は弁当箱へと覗き込むと。

 

「あー、ダメですよブロリーさん。ちゃんと人参も食べないと」

 

弁当箱の片隅にある赤と黄色が混ざり合った物体、人参がズンと鎮座していた。

 

一向に人参を食べようとしないブロリーに見かねて、朱乃は弁当箱を引き剥がし。

 

「ほら、あーん」

 

箸で人参を啄み、ブロリーに食べさせようとするが……。

 

口を頑なに閉ざしたブロリーが断固としてそれを拒絶する。

 

そんなブロリーに朱乃も火がついたのか、負けじと人参をブロリーの口に押し込もうとする。

 

それを遠巻きから見ている家族連れは……。

 

「ねぇねぇお兄ちゃん。あの人おっきい癖に人参が食べられないんだってー」

 

「あっははー、そうなんだ。……食あたりで死なねぇかな」

 

「くそっ! こんな所にまでリア充が!」

 

「死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに……」

 

と、至る所から殺気が飛ばされているのも知らずに、二人の戦いはこの後丸々三十分程続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、どうにか人参を食べさせる事に成功させた朱乃は今日はこれぐらいにして荷物を自宅へ置く為に帰路に付いていた。

 

既に辺りは夕暮れに包まれ、二人の影もそれに合わせて長くなっていく。

 

「………」

 

「………」

 

二人の間には会話などなかった。朱乃は本来なら今日の感想を色々と聞いてみたかったのだがブロリーの真剣な表情に戸惑い、話し掛けるタイミングを掴めずにいた。

 

一体どうしたものだろうか、黙したままで何も喋らないブロリーの対応に困り果てていた所。

 

「……なぁ」

 

「はい?」

 

「お前は、朱乃は、どうして俺を助けた?」

 

ブロリーは語る。朱乃に教えて貰った病院に放り込めば自分とは何の関わりを持たない筈。

 

なのに自ら世話をすると買って出て、こうして買い出しにまでつきあってくれる。

 

本来なら、捨て置く事だって出来るのに……。

 

記憶を失い、何もかも忘れたブロリーでも、朱乃の行動には不思議に思えた。

 

教えて欲しい。何故自分を助けたのかと。そんな思いを込めて見つめてくるブロリーに……。

 

「さぁ、わかりません」

 

朱乃はやはり、ニコニコと微笑みながら答えるのだった。

 

「だって、本当に分からなかったんですもの。気が付けば貴方を助けていた。気が付いたら、貴方を助けたいと思っていた。それだけじゃダメかしら?」

 

「……そういうモノなのか?」

 

「そういうものです」

 

目をパチクリと開いて訊ねるブロリーに、朱乃はやはり笑顔で答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日は落ち、夜の帳が世界を包み込む降魔ヶ時。布団が敷かれた部屋でブロリーは未だ眠れずにいた。

 

今日は色々とあった。アチコチに連れ回され、精神的に疲れたが……それでも充実したものがあった。

 

朱乃と過ごした時間は何というか……とても、とても安心できた。

 

穏やかで、緩やかで、暖かい時間。記憶を失う前はこんな時間を過ごせていたのだろうか?

 

「記憶……か」

 

相変わらず、記憶が蘇る事は今の所その気配すらない。朱乃は慌てずにと言ってくれたが、それでも焦るものがある。

 

何せ自分はいっぱんちしきというものが致命的に足りないらしいのだ。

 

このままでは日常生活には勿論、朱乃の邪魔にまでなりかねない。

 

せめてそうならないように気を付けてはいるが、如何せん上手くいかないのが現状である。

 

まだ朱乃には色々教えて貰う事が山ほどあるというのに、その朱乃が明日からは学校というものに通わなければならないという。

 

どうしたものか、そんな事を考えていると、ガラガラと戸が開かれる音が聞こえてきた。

 

なんだろうと思い、ブロリーは玄関の方へ視線を向けると。

 

「……朱乃?」

 

見たことのない格好をした朱乃が玄関から出て行くのが見えた。

 

あれが学校に通う際に身に纏う制服とやらなのか。

 

しかし、学校には朝に行くものではなかったのか? 朱乃から聞かされる情報とは違う事にブロリーは無性に気になり始め。

 

出掛けた時と同じスーツを身に纏い、ブロリーは朱乃の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぅ、見失ったか」

 

 朱乃を追って神社を出たのはいいが、夜の住宅街は昼間とは違い、まるで迷路のように変貌していた。

 

土地勘などまるでないブロリーは早々に朱乃を見失ってしまい、今となっては帰る道さえ分からなくなっている。

 

「……困った」

 

本当に困った。こうも道が暗いと自分が今何処にいるのかすら分からなくなってくる。

 

その点、朱乃は大したものだ。地元とはいえこんな暗闇を一度も迷う素振りを見せずに走れるのだから。

 

「……朝まで待つか?」

 

致し方ない。はぐれてしまった以上、明日にでも聞く事にすればいい。

 

 朝になれば少しは道が分かるだろうし、学生とやらも学校に向かうために家から出てくるだろう。

 

そうなったらそいつ等に聞くのが一番だろう。

 

どこか適当な寝場所はないだろうかと辺りを見渡した時。

 

「ほう? 何やら奇妙な気配だな。悪魔でも無ければ天使でも、ましてや我々とも違う」

 

「!」

 

突然聞こえてきた声、この時間帯人なんていないと思っていたのに……。

 

「答えろ。貴様は何者だ?」

 

暗闇の中から現れたのは一人の男、自分と同じスーツを身に纏い帽子越しからは鋭い眼光を覗かせている。

 

男は異質だった。昼間にすれ違ったどの男とも違う。なにか……そう、存在そのものが違っている。

 

「……答えんか、まぁいい。此方の計画を遂行するに不確定要素はなるべく排除するのが賢明だ」

 

そう言って男は左手を翳し、眩い光を放ち始める。

 

やがて光は収束され、男の手には一本の槍が握られていた。

 

「ふんっ!」

 

光の槍。それを握り締めたと思いきや、男はブロリーに向けて投げ放つ。

 

真っ直ぐ向かってくる光の槍、それをブロリーはギリギリで引き寄せた瞬間、横にステップする事で難なく避けてみせる。

 

光の槍はそのまま通り過ぎ、後ろにあった電柱に突き刺さる。

 

爆発と共に電柱は倒れ、引き千切れた電線が火花を散らす。

 

「ほう、やるものだな。殺す気で放ったのだが……」

 

ブロリーの動きに男は驚いているが、それ以上にブロリー自身が自分に対して驚いていた。

 

こんな状況、所謂殺し合いと呼ばれる状況に突如として陥っているのに、混乱する反面やたらと落ち着いている自分がいる。

 

それどころか、光の槍という武器を手にしている相手に余裕すら感じる。

 

記憶を失う前の自分はこんな事日常茶飯事だったのだろうか?

 

───ドクン。

 

「ほう、やる気かな? 良い気迫だ殺気に満ち溢れている」

 

「…………」

 

いつの間にか自分の右手が強く握り締められていた。どうやら本当にこういう状況に慣れているらしい。男の挙動に対してブロリーも足幅を広げる。

 

戦い。どうやら自分の記憶はその中に隠されているようだ。───だとすれば。

 

(……試してみるか)

 

男が再び光の槍を放とうとする。それに合わせてブロリーも駆け出した。

 

────その時だった。

 

「其処までにしておきなさい」

 

空から聞こえてきた声と共に男の前には落雷が、ブロリーの前には二人の男女が、それぞれ間に割って入ってきた。

 

空を見上げれば紅い髪の女性が黒い羽根を広げて目の前に降り立ってきた。

 

「……グレモリー家の者か」

 

男が忌々しげに紅い髪の女性を睨み付ける。

 

「リアス=グレモリーよ。ごきげんよう、堕ちた天使さん。この町は私の管轄なの。あまり舐めた真似をすると容赦しないわよ」

 

だが、男の睨みに怯む様子はなく、リアスと名乗る女性は男に警告らしき言葉を突き付ける。

 

暫く睨み合う両者、先に視線を外したのは男の方だった。

 

「……まぁいい、思わぬ存在を発見出来たのだ。ひとまず良しとしておこう」

 

そう言うと、男は背中から黒い翼を広げ、夜の空へと消えていった。

 

今度は一体何なんだと、ブロリーは目の前にいる者達を凝視する。

 

男の方は飄々とした顔だがその手には剣を握り締めているし、小柄な女の方は表情変えずに此方を見ている。

 

紅い髪の女は興味深そうに此方にニヤニヤと笑みを浮かべている。

 

「貴方が例のブロリー君ね、話は聞いているわ。記憶喪失者なんですってね?」

 

「……なんだ。お前は」

 

 得体の知れない女。取り敢えず油断しない方がいいのか、ブロリーは紅髪の女達に対して後ろに下がり、警戒を強める。

 

その一連の無駄の無い動作に紅髪の女と男は感心したような声を漏らす。

 

「へぇ、先程の堕天使の攻撃を避けた時といい、結構な動きね」

 

「記憶はないのに、体が覚えているということでしょうか?」

 

「……戦士?」

 

何やら今度は此方をそっちのけで話し込んでいるご様子。……敵意はないのだろうか?

 

「ブロリーさん!」

 

どうすればいいか分からなくなってきたその時、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

それは先程見失った筈の姫島朱乃本人だった。

 

なんでこんな所にいるのだろうと、そんな疑問に応えたのは紅髪の女だった。

 

「彼女は私の下僕よ。さぁ、皆、ご挨拶なさい」

 

「はじめまして、僕は木場祐斗」

 

「……塔城小猫です」

 

「えっと……じゃあ改めて、姫島朱乃ですわ」

 

 男と女と朱乃、それぞれから自己紹介を受けるが、相変わらずブロリーは何がなんだか全く分からなかった。

 

そんな混乱するブロリーの前に紅髪の女は悠然と前に出て。

 

「そして私が彼等の主、リアス=グレモリー。よろしくねブロリーさん」

 

そう言うと、四人の背中からそれぞれ黒い羽根が展開される。

 

さっきの男とは違い。その翼……いや、彼女達からは禍々しい何かを感じる。

 

「はじめまして、空からの迷子さん。私達悪魔が歓迎するわ」

 

もう、訳が分からなくなってきた。だけど、一つだけはっきりさせなくてはならない事がある。

 

「……あくまって、なんだぁ?」

 

ブロリーの何気ない質問に、四人は一斉にこけるのだった。

 

 

 




ひとまず今はここまで、また後日に投稿したいと思います。

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