悪魔より悪魔らしい……だがサイヤ人だ   作:アゴン

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life 17

 

 

 

 誰もが目の前の光景を見て言葉を失い唖然としていた。

 

グレモリー家の次期当主、リアス=グレモリーの通う学園を模して造られた学園が、まさか武器として使用されるとは……。

 

誰も発想すらしなかったモノを、ましてや実行に移すなど、モニター前にいる貴族悪魔達は想像すら出来なかった。

 

というか出来てたまるか。

 

そして、そんな行いを当然上流階級の悪魔貴族達は許せる筈もなく。

 

「な、何だこのバカげた行いは!? 反則じゃないか!」

 

「誰がやった!? 例の人間がやったのか!?」

 

「だから私は人間風情がゲームに参加するのを反対したのだ!」

 

 静寂から一変、途端に湧き上がるブーイングの嵐。

 

特にフェニックス側の貴族悪魔達からはブロリーに対しての罵倒が激しい。

 

戦いの舞台となるフィールドの一部を、まさか武器として扱うブロリーの斜め上を行く発想に、貴族悪魔達の誰もが認められないと批判していた。

 

そんな時。

 

「反則ではありませんよ」

 

「なっ!? お前は!?」

 

「───サイラオーグっ!」

 

声の聞こえた方へ振り返ると、其処には一人の男性。

 

サイラオーグと呼ばれる男性はモニターの前まで歩くと、貴族悪魔達に振り返り。

 

「今回のゲームの内容はあくまで通常のレーティングゲームと何ら変わりなく、その上建物の大規模破壊や建物を武器として扱ってはならないというルールは設定していないし存在していない」

 

「そ、そんなもの屁理屈ではないか! 盤となるフィールドを駒が武器として扱うなど、そんな事聞いたこともない!」

 

「よろしいではないですか、これで、我々のゲームもより深みを増した」

 

「なんだと!?」

 

激昂する貴族悪魔達。彼等の怒りによる魔力の波動がサイラオーグに突き刺さるが。

 

当の本人はまるで意に介さず、むしろ不敵に笑って話を続けた。

 

「彼には感謝しなくてなりません。彼のお陰で今後のゲームの戦略性が増し、ルールにもより徹底したモノとなりますからね」

 

「感謝!? 感謝だと!? たかが人間風情に、我々貴族階級の悪魔が!?」

 

「では、彼を反則として退場させますか? 自分達の予想を上回ったからと、自分達では想像すら出来なかったからと、……そうすれば、自ら負けたと認めるのと同じですよ?」

 

「ぐっ!」

 

サイラオーグの一言に押し黙る貴族悪魔達。

 

沈黙し、静まり返った彼等の前を悠然と歩いていくと、サイラオーグはサーゼクスの隣まで歩み寄り。

 

「申し訳ありませんサーゼクス様。勝手な事をして……どうかお許し下さい」

 

「いや、よく言ってくれた。私の立場でああ言うのは些か拙いからね。正直、助かったよ」

 

頭を深々と下げるサイラオーグに、サーゼクスは微笑みながら手で制す。

 

「しかし驚いたよ。まさかバアル家の君まで来てくれるとは……」

 

「イトコの結婚が掛かったゲームですからね。来るかどうか迷ったんですが……下僕達に行くべきだと強く言われまして」

 

「本音は?」

 

「今回のゲーム、何やら変わった人物が参加すると聞いたもので……」

 

正直に本当の事を話すサイラオーグ。

 

そんな彼にサーゼクスはクスリと笑うと。

 

「それで、どうだい。君から見て彼の強さは?」

 

「……凄い。ただこの一言に尽きますね」

 

モニターに映るブロリーの姿を見て、サイラオーグは言う。

 

その目は燦々と輝き、手は握り拳を作っている。

 

戦闘中毒者……という訳ではないが、サイラオーグの視線を釘付けにするには充分な素質を、ブロリーは持っていた。

 

「ほう、若手No.1の君ですらそう言わしめるか」

 

「その肩書きに少々の違和感を感じますが……そうですね。己の肉体のみでフェニックスと戦う彼の姿には、憧れすら感じます」

 

この男にそれほどまで言わせるか。

 

その出自の為、幼い頃に様々な苦難に逢ったサイラオーグ。

 

そんな彼にそこまで言わしめるブロリーを、サーゼクスは何だか嬉しく思った。

 

……いけない。どうやら自分の妹の知り合いだからってすっかり自分の物だと勘違いしていたらしい。

 

サーゼクスは身勝手な考えをする自分の頭を軽く小突くと、サイラオーグに向き直り。

 

「サイラオーグよ」

 

「はい?」

 

「サインは、予約制だからね」

 

真剣な面持ちでそう告げた。

 

それに対しサイラオーグは。

 

「……世の中には、早い者勝ちという言葉がありましてね」

 

何と、現魔王に対し生意気にも同じ土俵に立って返してきた。

 

しかも、その手にはいつの間にか一枚の色紙が握られている。

 

「ふ、フフ」

 

「フフ、ふ」

 

「「フフフフフフフフ……」」

 

不敵に笑い合う二人。そんな彼等を見て。

 

(……この、ミーハー共め!)

 

グレイフィアは、その内心で今後の悪魔界に激しく不安を感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うはぁ……」

 

「まさか、本当にやってみせるとはね」

 

 目の前で起こったトンでもない光景。

 

幾ら模したものだとは言え、自分達が過ごしている学びやが、まさか武器として扱われるとは……。

 

説明で聞いた時は半信半疑だったが、こうして見せつけられていると、何だか色々複雑である。

 

それをやったのが、自分達の仲間であり、本来なら無関係であるブロリーであるから尚更。

 

 ブロリーの振り下ろした校舎は地面とぶつかり合い、その際の衝撃で砕け、今は瓦礫の山となっている。

 

「……これ、外見だけじゃなくて重さとかも同じなんだよな」

 

「そうだね。フィールドとして再現された建物は傷や汚れだけじゃなく、重量までと隅々まで実物と同じだと言われているよ」

 

「……じゃあ、ブロリーさんがその気になったら」

 

そこまで言い掛けて一誠は身震いするほどの悪寒を感じる。

 

ブロリーが敵でなくて良かった。

 

一誠は瓦礫の上に立つブロリーを見て、つくづくそう思った。

 

『ら、ライザー=フェニックス様の僧侶一名、兵士六名、剣士一名、戦車一名、リタイアです』

 

「おっしゃぁぁぁぁっ!!」

 

ライザーの戦力の大部分が削れた事により、一誠は大きくガッツポーズをする。

 

というか、アナウンスを担当しているグレイフィアの声が僅かに戸惑い上擦っているように聞こえる。

 

……やはり、ブロリーのあの行動は観戦席にいる悪魔達にとっても予想外の行動だったのだろうか?

 

「ひぃ、ふぅ、みい……なぁ、後何人残ってるんだ?」

 

指を折りながら数を数えながら瓦礫を降りてくるブロリー。

 

かなりの数を減らしているのは確かだが、如何せんライザー側の駒数の多さに気付いたのはつい先程なのだ。

 

今ので倒したのはざっと九人。さっきも二人兵士を倒したから……。

 

「残り五人、僧侶と戦車と剣士と女王と……そして王ね」

 

声のする方へ振り向くと、そこには朱乃を背負ったリアスが、アーシアと共に空から降りてきた。

 

「朱乃、よくやってくれたわ。アーシア、彼女を回復してあげて」

 

「は、はい!」

 

地面に座り込む朱乃にアーシアが駆け寄っていく。

 

あの雷の檻を維持する為に魔力が多大に消費したのか、朱乃は酷く疲弊した様子でうずくまっていた。

 

「祐斗、小猫、周辺への警戒をお願い。イッセー、貴方も神器を使って結構体力を消耗したでしょ? 次はアナタも回復して貰いなさい。アーシア、出来る?」

 

「は、はい! 任せてください!」

 

リアスの命令にすぐさま実行に移す木場と小猫。

 

そうだ。まだゲームは終わっていない。どこかの偉い軍師が言っていた気がする。

 

何かを達成した時、或いは勝ちを確信した時、それが獲物が最も隙を見せる瞬間だと。

 

向こうは王を含め五人。数からして漸く此方が上になった。

 

だが、向こうは既に何度もゲームに参加し、その殆どを勝っている不死鳥のチームだ。

 

何が起こるか分かったものじゃない。イッセーは気を引き締め、無防備になっているアーシアとリアスの近くに歩み寄った。

 

「イッセー、見事だったわ。貴方の新しい力。見せて貰ったわよ」

 

「け、けど俺、殆ど逃げる為にしか使ってませんでした。相手が殴りかかってきても応戦しないで……ただ逃げ回るだけで」

 

「逃げも必要な事よ。自分より強い相手から逃げ続けるのは相当な根気と体力が必要なの。アナタは見事それをやり遂げたのよ。仲間をその力で庇いながらね。だから、そんな落ち込む必要はないのよ」

 

逃げ回っている事しか出来なかった自分を、リアスが優しくフォローする。

 

嬉しい。そう思う反面、やはり情けないと思う自分がいた。

 

「それに、アナタ達が踏ん張ってくれたお陰で、朱乃とブロリーは思う存分力を奮えたのよ」

 

「そうですわよ。イッセー君、アナタ達が敵を引き付けていたお陰で、私は存分に力を行使できて、ブロリーさんは狙いを絞り込めたのですわ」

 

アーシアの神器のお陰で幾分か体力を回復したのか、フォローしてきた朱乃の顔色は良くなっていた。

 

二大お姉様からのまさかの賛辞。普通なら喜びに乱舞する所だが、やはり、どこか素直に喜べない自分がいる。

 

……一体、いつから自分はこんな卑屈な人間になったのだろうか?

 

エロさえあれば生きていけると自負している自分が、こうまでひねくれた性分になろうとは……。

 

(部長、やっぱり、あの人の事が……)

 

ふと、リアスの方へ視線を向ける。

 

彼女は此方の視線に気付かず、自分が見たことない表情でブロリーを見つめていた。

 

期待に満ちた瞳、自分に向けていたものとは全く異なった彼女の目に、一誠は、やりきれない気持ちを抱き始めていた。

 

と、その時だった。

 

「っ!!」

 

何か異変に気付いたのか、今まで指折りで数を数えていたブロリーはその表情を変えると、朱乃とアーシアに駆けていき、二人の前に立った。

 

その直後。

 

 

ドォォォォォォォンッ

 

 

 

 

 

 

大きな炸裂音と共に、ブロリーの体が爆発する。

 

「ブロリーさん!」

 

爆炎に包まれるブロリーに向かって叫ぶアーシア。

 

全員に戦慄が走る。

 

辺りを見渡し、一体誰がやったと思考を巡らせる。が、答えは既に出ていた。

 

「やはり、アナタの仕業ね、『爆弾王妃(ボム・クイーン)』ユーベルーナ!!」

 

空に佇む女性に向けてリアスは吼える。

 

魔導師の格好をした女性、それはライザー側の女王。爆弾王妃の異名を持つ最強の駒だった。

 

「よくもやってくれたわね。おかげで此方側の駒の大多数がリタイアしてしまったわ」

 

涼しい口調とは対照的に、ユーベルーナの全身には目に見える程の膨大な魔力のオーラを覆っていた。

 

怒り心頭の彼女。……当然だ。今まで見下していた相手が此方の油断を誘う為に敢えて無能を演じ、その策略に誘い込まれ、こうして大きな痛手を受ける事となった

 

彼女は怒っていた。小癪にも小細工を企てたリアス達と、何よりまんまと罠に嵌まり、挙げ句の果てに醜態を晒してしまった自分達に。

 

「さぁ、まずはその僧侶から消してあげましょうか」

 

 怒りを抑えながら妖艶に微笑み、アーシアに手を向ける。

 

「っ!」

 

初めて向けられる明確な敵意に、震え上がるアーシア。誰よりも早く一誠が反応し、彼女を庇う為に駆け出す。

 

「っ!?」

 

 そんな時、ユーベルーナの爆撃によって立ち上っていた煙から、二つの物体が彼女に向けて投擲される。

 

物体は猛烈な回転を掛けられ、ユーベルーナに迫る。

 

が、ユーベルーナは身を翻す事によりそれを回避、物体は更に回転しながら煙の中へ戻ると。

 

「ふんっ!」

 

声が聞こえてきたと同時に煙は吹き飛び、そこから殆ど無傷のブロリーが姿を現す。

 

「ブロリーさん!」

 

 肌に付いた焦げ目以外目立った傷のない、殆ど無事のブロリーの姿に、アーシアも笑顔が綻ぶ。

 

しかし、ブロリーの手にしているモノを見ると、途端に怪訝な面持ちになり。

 

「あ、あの……ブロリーさん?」

 

「どうした?」

 

「その手にしているものは……一体?」

 

恐る恐る、ブロリーの手にしている三角定規を指差す。

 

「これか? カッコいいだろ?」

 

「イヤ、だから何でそんなもの持ってるんスか?」

 

「拾った」

 

「あぁ、そうですか」

 

清々しいまでのドヤ顔のブロリーに、一誠はこれ以上ツッコム気力は失せ、半ば諦める。

 

教材道具を武器代わりに扱い、しかも悪魔すら逃げ出す威力を誇る。

 

ブロリーが手にするモノは、喩え何だろうと凶器になる気がしきた。

 

リアスの方も一誠と同じ心境なのか、苦笑している。

 

「皆、ここからが正念場よ! 他に残った駒がここにくる前に女王を倒すわよ!」

 

 リアスのその言葉と共に、一誠達は身構える。

 

相手はライザー側最強の駒、対する此方の女王はまだアーシアに回復を受けている最中だ。

 

漸く互角の数になったとはいえ、連戦錬磨のライザー達が来れば状況は一気に悪くなる。

 

何としてもここで爆弾王妃を撃破しなければ。

 

───僅かな静寂。どこかで瓦礫の校舎が音を立てた……瞬間。

 

「ふんっ!」

 

ブロリーが放つ三角定規と共に駆け出すグレモリーの眷属達。

 

木場は左から、小猫は右、そして一誠はブロリーの放った三角定規の後ろを走る。

 

まずはブロリーの放つ三角定規をユーベルーナは爆撃で破壊するか避けるの選択を取るだろう。

 

そこへ木場が切り込み、一誠の洋服崩壊で体勢を崩させ、小猫でトドメを与える。

 

(イケる! これなら!)

 

女王を倒せば、こちらの流れは不動のものとなる。

 

一誠は内心で自分達の勝利を確信する。

 

そして、ブロリーの放った三角定規がユーベルーナを捉えた。

 

その時、

 

「「「っ!!」」」

 

自分達の前を、巨大な炎の壁が立ちはだかる。

 

炎は熱風を巻き起こし、自分達を吹き飛ばすだけではなく、ブロリーが放った三角定規を消し炭にしたのだ。

 

一体なにが? いきなり目の前で起こった出来事に一誠は軽い混乱状態に陥っていると。

 

「ぐわっ!」

 

「木場!?」

 

弾かれたように吹き飛んでいく木場の、一誠は目を開く。

 

見れば、そこには一振りの大剣を握っていた一人の女性が。

 

「アイツ、まさかもう一人の騎士か!?」

 

「余所見をしている暇があるのか!」

 

「なっ!?」

 

目の前に仮面の拳士が一誠に襲い掛かる。

 

目の前まで迫る彼女の拳を籠手で何とか防ぐも、一誠は襲いきってきた人物に驚きが隠せないでいた。

 

「お前、イザベラ!? な、なんで!?」

 

一誠が驚くのも無理はない。何故なら彼女はブロリーの振り下ろした校舎という名の鉄槌により、リタイアした筈だからだ。

 

現に、先程のグレイフィアのアナウンスからは戦車一名リタイアと流れていた。

 

一体……何がどうなっている?

 

「フェニックスの涙、ですわよ」

 

「っ!?」

 

突然聞こえてきた第三者の声、振り返ればアーシア達の所に金髪ドリルヘアーが印象的な……如何にもお嬢様な少女がその全身に炎を纏わせて佇んでいた。

 

「フェニックスの涙ですって! まさか、此方にはそんなモノ支給されていないのに!」

 

「そちらには聖母の微笑という強力な神器があるのですから、卑怯と言われる筋合いはありません事よ?」

 

「……っ!!」

 

リアスの睨みと叫びをモノともせず、淡々と語る少女に逆にリアスは押し黙ってしまう。

 

「な、何だよフェニックスの涙って……ま、まさか!」

 

「そう、フェニックスの涙はRPGのゲームなんかで良くある効果の高い回復アイテムさ。一つ使えば如何なる傷も瞬く間に癒す代物。私はユーベルーナの持つそれを使わせて貰った事で、戦線に復帰できたのさ」

 

「じゃ、じゃあさっきアナウンスで流れた戦車って……」

 

「私とは別の戦車さ……尤も、後少し回復が遅れていれば私も撃破されていたがな」

 

自嘲の笑みを浮かべながら一誠の疑問に答えるイザベラ。

 

やられた。完全に流れが変えられてしまった。

 

まさか回復アイテムであるフェニックスの涙を女王や王に使わず、他の下僕に使うとは。

 

……いや、それはフェニックスを冠するライザー達だからこそできる策略だ。

 

不死鳥であるライザー達は神の一撃でない限り死ぬことはないし、だからといって心が折れる連撃を浴びせようともそれを他の駒が許すはずがない。

 

加えて言えば、レーティングゲームでどの駒が撃破されたか流されても、誰がやられたかは流れる事はない。

 

それを確認する術を持つのは同じ下僕達か実際に戦った者だけ。

 

ブロリーが一度に多くの駒を撃破したのが、こんな形で裏目に出るとは……。

 

「本来なら私が戦いに参加する事はないのですが状況が状況なので……まぁ、ここまで抗えただけでも大金星ですわよ? リアス=グレモリー様」

 

「くっ!」

 

「私もお兄様と同じフェニックスの力を継でいますわ。対してそちらは未だ力を回復出来ていない雷の巫女に非戦闘員の僧侶。そんな二人を庇いながら私と戦えますか?」

 

 

「レイヴェル……フェニックス!」

 

見下した物言いの少女に、リアスは歯を食いしばる。

 

フェニックスの涙を他の下僕に使う大胆さ、そして、撃破時に駒の名前しか伝えないアナウンス。

 

ゲームを知り尽くしていないと出来ない策略。リアスは自分が読み負けたと悔しそうに唇を噛む。

 

「どうだいリアス。分かっただろう? どんな天才と謳われていようとも、実際にゲームで慣らしてきた者とはこうも実力の差があるものだと」

 

「ライザー!」

 

まるで見計らったような態度で出てくるフェニックス家の三男。

 

忌々しく睨み付けるリアスにライザーは哄笑の笑みを浮かべる。

 

「だが、まさか君がここまでやるとは正直思わなかったぞ? それに、本来なら戦闘要因ではないレイヴェルまで動かしたんだ。君達は充分戦ったさ、だから──」

 

投了しろ。不死鳥である自分にここまで抵抗できたんだ。助っ人の助力があったとは言え、ここで負けを認めても誰も文句は言わないだろう。

 

と、カッコ良く決めるつもりだったが、それは叶わなかった。

 

何故なら。

 

「ヌンッ!」

 

いつの間にか踏み込んでいたブロリーが、ライザーの目の前まで迫っていたからだ。

 

握り締めた拳に力を込め、盛大に振り下ろす。

 

見事にブロリーの一撃はライザーの体を貫いたが……。

 

「全く、ここまで無礼な奴だとは……最早怒りを通り越して呆れてくるぜ」

 

「っ!」

 

平然としているライザーに、ブロリーは目を開く。

 

すると。

 

「ふんっ!」

 

ライザーの全身から放つ炎の渦が、ドーム状の形に変わり、ブロリーを呑み込んでいく。

 

「貴様、確かブロリーとか言ったか? 確かに貴様の力は目を見張る所がある。力だけで言うなら俺をも凌ぐだろう。しかし!」

 

ブロリーを包む炎は更に勢いを増し、その熱量の所為で誰も近付けずにいた。

 

「所詮貴様は人間、どんなに力があろうとそれは変わらん。ならば、その弱点を突くまで!」

 

ブロリーを囲む炎の勢いは増すばかり。しかし、当の本人であるライザーは手を出そうとしない。

 

「まさか!」

 

「気付いたかリアスよ。そう、奴は肺で呼吸する人間。熱量で既に喉は灼け潰れているだろうが、何より炎は酸素で燃える。その酸素が無くなれば奴は呼吸できなくなり、やがては窒素する」

 

更に付け加えるのなら、ライザーの炎はフェニックスの炎。喩え炎を燃やす材料の酸素が無くなっても持ち前の魔力によって持続する事が可能。

 

やがて炎はライザーの意思で消えると、地面は熱で溶け始めていた。

 

あれほどの熱量なら咽だけではなく、肺も通り越して全身が灰になるではないか。

 

「ブロリーさん!」

 

アーシアの悲痛の叫びがフィールドに木霊する。しかし、燃え盛る炎の中にいるブロリーに届くはずもなく。

 

 止んだ炎の中から現れたのは火傷だらけの痛々しい姿になったブロリーだった。

 

「……う、く」

 

「ほぉ? まだ意識があるとは……人間にしては頑丈だな」

 

酸素欠落による意識混濁。しかしそれでも意識を失わず、膝を付いているブロリーの桁違いな耐久力に、ライザーは呆れながらゆっくりと歩み寄り。

 

「だが、その渋とさもここまでた!」

 

「っ!!」

 

ライザーの魔力の籠もった蹴りが、ブロリーの腹部に直撃。

 

衝撃に顔を歪め、瓦礫へと突っ込むブロリー。

 

そこへ、ライザーの魔力の炎が雨の如く降り注がれる。

 

「そらそらそらそらぁ! どうした今までの威勢はぁ!? 生意気の口を利いた台詞はもうないのかぁ!?」

 

「や、止めろぉぉぉっ!」

 

「ブロリーさぁぁぁぁん!」

 

一誠とアーシアの絶叫にも似た叫びが響く。

 

助けに行くにも背中を見せれば瞬時に狩られる。

 

動こうにも動けない状況。それでも止むことのない魔力の炎にリアス達は顔を背けていた。

 

やがて、ライザーが撃つのを止めると、その光景に全員が絶句した。

 

焼けた皮膚、身に纏う服は所々破け、一向に動こうとしないブロリー。

 

完全に、意識を失っている。

 

危険な状態だ。すぐにでも治療をしなければならない。

 

もうすぐがアナウンス流れ、ブロリーは用意された医務室に転移されるだろう。

 

しかし、そんな彼の状態に関わらず、ライザーの手に炎が収束されていく。

 

「お、おい。なんだよ。何をする気だよ!」

 

「黙っていろリアスの兵士。貴様の相手も後でゆっくりとしてやる」

 

収束された炎は槍となり、今までとは明らかに威力が異なっている。

 

まさか、それをブロリーにぶつける気か? 制止を呼び掛けるリアスや一誠達の声を振り切り。

 

「散々この俺を虚仮にしたんだ。片腕の一本くらい……頂くぞ!!」

 

ライザーは極限に高めた炎の槍を、瓦礫に打ち付けられたブロリーに向けて投擲された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呑み込まれて行く。

 

存在が、魂が、まるで別物へと変質していく。

 

怖い……怖い。

 

自分が消えてしまいそうな、失ってしまいそうなこの感覚が……。

 

俺は…………何だ?

 

俺は…………誰だ?

 

俺は…………一体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────クズがぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライザーの放った炎の槍が、ブロリーに直撃しそうになった。その時。

 

ソレは、起こった。

 

「な、何だとっ!?」

 

「金色の……炎?」

 

瓦礫の中から吹き荒れる金色の炎が渦を巻いて押し寄せてきた。

 

ライザーの放つ炎の槍も、金色の炎に阻まれ、やがては火の粉となって四散していく。

 

あまりの光景にレイヴェルは目を見開いて呆然としていた。

 

それは、他の面々もそうだ。

 

爆弾王妃のユーベルーナも、仮面の拳士イザベラも、もう一人の騎士シーリスも、突然の光景に思考が上手く働かないでいた。

 

だが、対するリアス達は違っていた。

 

特に、一誠と小猫、木場はライザー達とは別の意味で驚いていた。

 

光り輝く黄金の炎。それはあの時、教会でブロリーが見せたものと同じものだったのだから。

 

すると、瓦礫の中から一筋の閃光が空へ飛翔する。

 

金色に逆立った髪、碧に輝く双眸。

 

体から溢れる炎は全身に纏い、ソレは空から一同を見下ろしていた。

 

 

「なんだ……なんなんだお前は!?」

 

堪らず、ライザー達は声を上げる。

 

炎と風、そして命を司るフェニックスの炎と男の纏う炎とは何もかもが違っていた。

 

知らない。あんなもの、自分は知らない。

 

混乱する頭を整理しようとするが、一向に思考が纏まらない。

 

すると、ブロリーはシーリスに狙いを定めると、彼女に向かって一気に急降下してきた。

 

「シーリス! 気を付けろ! 奴の狙いは……っ!」

 

「分かっている!」

 

瞬く間に距離を縮めていくブロリー。

 

迎え撃つ形となったシーリスは両手に力を込め。

 

「喩え貴様が何者だろうと……」

 

タイミングはドンピシャ。あとは全身全力の力でもって打つのみ。

 

「接近戦では、こっちが有利ぃぃぃっ!!」

 

渾身の力で振り抜くシーリス。

 

しかし、ブロリーは手を手刀に変えると、シーリスを大剣ごと。

 

「……死ぬがいい」

 

彼女を、一刀のもとに両断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様はフィールド、モニター前の貴族悪魔達を問わず、魔王すら震撼させる光景だった。

 

 

 




なんか似たような描写ばかりですみません。

マジ文才欲しいわぁ。


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