悪魔より悪魔らしい……だがサイヤ人だ   作:アゴン

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life 15

 

 

 リアスとライザー、二人がレーティングゲームを行うと宣言してから丁度10日後。

 

グレモリー眷属の修行合宿から帰ってきたブロリーは、自宅のマンションの一室で灯りも付けず、静かにその時が来るのを待っていた。

 

時刻は既に深夜を回っており、あと10分程で日付が変わる。

 

今頃、一誠達は旧校舎の部室に集合しているだろう。

 

本当ならブロリーも部室に向かった方がいいのだろうが、ブロリーは訳あって自分の家から参加すると告げる。

 

リアスもそんなブロリーの申し出を承諾し、現在に至る。

 

 ブロリーは本来なら今回のいざこざに参加する事は出来はしないし、許されない。

 

それがまかり通ったのは要因は、今回観戦する悪魔達の気紛れによる所が大きい。と、当時、一度だけ別荘に訪れたグレイフィアはそう告げる。

 

ただの拾われた人間風情が、どんな戦いを見せるか見物だ。

 

観戦する上流階級の悪魔達。特にライザー側の悪魔は皆高笑いしながら承諾したという。

 

要するに舐めているのだ。ブロリーを、リアス達を、ライザー側の貴族悪魔達は勝てる見込みのない試合にどう面白おかしく足掻くのか、それだけを目的に今回のレーティングゲームに観戦しているのだ。

 

これに一誠は大激怒。仕えるべき主と仲間、そして兄貴分のブロリーがバカにされた事に腹を立てるが。

 

「イッセー、何を怒っているんだ? お腹空いたのか?」

 

と、当の本人は舐められている事すら気付かず、相変わらずのほほんとしていた。

 

ブロリーの参加が承諾された事と、それによる特別ルールが課せられた事を伝えると、グレイフィアは魔方陣の中へと消えていった。

 

 

チッ、チッ、チッ、チッ、チッ

 

 

アナログ時計の針の音が部屋に響く。

 

ゲーム開始まで残り五分。

 

それを確かめるとブロリーは徐にソファーから立ち上がり、服を収納しているタンスへと足を向ける。

 

リアスが言うにはレーティングゲームに来るには動きやすい服で挑むのが適切だと言う。

 

一誠やアーシア、駒王学園の生徒である彼等は学園の制服で参加するという。

 

ブロリーも駒王学園の制服……はないが、その代わり用務員の仕事着で参加しようかと悩んでいたが。

 

「……やっぱり、これがいいのかも知れない」

 

 タンスの上から二段目を引き出して、ブロリーは呟きながらそれに着替える。

 

それは、ブロリーが朱乃によって救出された時の服。

 

ボロボロだった箇所は朱乃によって修復され、殆ど新品のようである。

 

着替え終えたブロリーはやはりと思う。

 

「……やはり、これが一番しっくりくる」

 

両腕に填められた金色の籠手、緋色の腰巻きと足を包み込む白の布地。

 

両足にも両腕と同じ金の具足を装着し、まるでどこかの部族の格好だ。

 

ただ、上半身に着る服がなく、少々肌寒くなるのが欠点だと、ブロリーは思う。

 

……もう間もなくゲーム開始の時刻だ。

 

合宿でリアス達に教わった事を頭の中で反芻していると。

 

「ブロリー、どこか、行く?」

 

「……オーフィスか」

 

暗闇の中から聞こえてくる声に振り返ると、無限の龍神ことオーフィスが首を傾げながら訊ねてきた。

 

神出鬼没、しかも今度は無断で部屋に入っている。

 

常人ならここで色々騒ぎ立てるだろうが、残念ながらブロリーも天然。しかも以前に来ても良いと言っていた為、差程気にしている様子はなかった。

 

「これからレーティングゲームに参加する。……済まないがもう飯の用意は出来ない」

 

ただ、目の前の少女に簡潔に告げる。

 

「レーティングゲーム? アジュカの造ったやつの事?」

 

「知っているのか?」

 

「少しだけ。昔、アジュカ=ベルゼブブという魔王が造った」

 

「ふーん」

 

意外な所でレーティングゲームの起源を知ったブロリーだが、対して関心は示さず、ただ「そーなのかー」とだけ頷いた。

 

と、その時だった。

 

『それでは、只今よりライザー=フェニックス様とリアス=グレモリー様によるレーティングゲームを開催致します』

 

突如、部屋に響き渡る声。どこかで聞いたことのある声の主は、グレモリー家のメイド、グレイフィアのものだろう。

 

ブロリーの周囲にグレモリー家の魔方陣が浮かび上がると、包み込むように輝きを放ち始める。

 

「ブロリー」

 

「……ん?」

 

「我、待ってる」

 

光が視界を埋め尽くす頃に聞こえてきたオーフィスの言葉。

 

その一言がブロリーの胸の中を暖かく満たし。

 

「あぁ、行ってくる」

 

瞬間、ブロリーは紅の光に包み込まれると、マンションの自室から完全に姿が消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レーティングゲームを観戦するVIPルーム。

 

ライザーとリアス。二人の上級悪魔の一戦に、身内の悪魔達は目の前のモニターを哄笑の笑みを浮かべて眺めていた。

 

「遂に始まりましたな、リアス様とライザー様のお二人の初めての共同作業が」

 

「おやおや、お気の速い事で、まだゲームは始まったばかりではないですか」

 

「いやいや、今のは中々言い得て妙ですぞ。ある意味では正にその通りなのですから」

 

「それに、今回は面白い助っ人がリアス様に付いておられるとのこと、名前は確か……ブロコリーでしたかな?」

 

「どちらにせよ、楽しめそうですな。はたしてグレモリーの次期当主がフェニックスにどう抗うか、見せて貰いましょう」

 

まるでライザーの勝利を確信した口振り。この場にいる誰もがライザーの勝利で幕を降ろすものだと疑ってはおらず、もはやどんな勝負かではなく、彼等の趣向はリアスとその下僕達がどのように自分達を楽しませてくれるのか、その一点に尽きていた。

 

遠巻きからそんな彼等を見つめるグレイフィアの目が冷たい。

 

すると彼女の視線は彼等ではなく、隣に立つ主に向け……。

 

「……本当に、宜しいのでしょうか?」

 

「私はただ、選択肢を与えたに過ぎないよ、グレイフィア」

 

「……それが勝ち目のない戦いでも?」

 

「私と父上はリアスに選択肢を与え、そしてあの子は抗う事を選んだ。ならば見せて貰うとしようじゃないか、リアスの、我が妹と下僕達の力を」

 

悪魔の世界は、今や次世代の段階に進みつつある。

 

旧世代の楔はなくなり、これからは新たな時代を若者達が築き上げる番。

 

フェニックスという強敵を退け、標(しるべ)を示して見せろ。主であるサーゼクスは、そんな期待を込めてモニターを見つめるが。

 

「……サーゼクス様、そのような台詞はせめて手にしたモノを手放してから仰って下さい」

 

呆れた様子で嘆息するグレイフィア。

 

 サーゼクスの両手にはサインペンと三枚の色紙が握られており、心なしか本人はソワソワとしている。

 

コイツ、本当にサイン貰う気だ。

 

時折見せる子供のような笑顔、その度に「まだかな、彼はまだ出て来ないのかな?」と口走る主に。

 

(この、マダオが!)

 

まるでダメな魔王様。

 

新たに見つけた主の略称。これをグレイフィアは何度も内心で反芻させることで、何とか平常心をたもつのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてみんな、まずは作戦を立てるわ。話を聞いて頂戴」

 

 遂に始まったライザーとのレーティングゲーム。

 

会場となるフィールドは異空間に設置した駒王学園が舞台となっており、リアス達のいるオカルト研究部の部室が彼女達の本陣となっており、ライザー側の本陣は生徒会室となっている。

 

先程流れたグレイフィアのアナウンスでゲームは既に始まっている。

 

なのにも関わらず、落ち着いた様子で呑気にソファーに座るリアスにお茶を淹れる朱乃、戦いが始まっているのに落ち着いた光景に流石に一誠は疑問の声をだす。

 

「あ、あの、いいんですか? そんなにのんびりしていて、ゲームはもう始まっているんじゃ……」

 

「イッセー、戦いは始まったばかりよ? もともとレーティングゲームは短期間で終わるものではないわ。勿論、短期決戦(ブリッツ)の場合もあるけれど、大概は長時間使うわ。実際のチェスのようにね」

 

レーティングゲームは舞台となる戦場を使い込んでこそ意義がある。

 

森や山、川、湖、様々な地形を利用し、様々な罠や伏兵を仕込んで敵を討つ。それがレーティングゲームの醍醐味とも言える。

 

自分のイメージしていたモノとは違う事に面食らう一誠、その一方でリアスは朱乃が淹れた紅茶を啜り。

 

「特に、今回はブロリーの参加もある事だし、作戦は綿密に立てる必要があるわ」

 

彼女のその一言に、全員の視線がブロリーに集まる。

 

「……ん? なんふぁいっふぁ(なんか言った)?」

 

 当の本人であるブロリーはリアス以上に寛いでおり、朱乃の出したお茶菓子を頬張っていた。

 

「……うん。ブロリーさんはもう、それがデフォルトなのね」

 

遂に、ブロリーに対してツッコミを諦める一誠。

 

ブロリーの格好に色々訊きたい事があったのだが、もうやめる事にした。

 

「ブロリー。アナタ、自分に課せられた条件、覚えているわね?」

 

リアスの言うブロリーの条件、それはブロリーが参加する際に運営側が取り付けたモノ。

 

内容はシンプルで、“ブロリーが戦闘に於いて危険と判断された時、無条件でフィールドから強制退去する”というモノだ。

 

端から見れば、それは人間であるブロリーがその命の危機に瀕した時に発動されるものだと思われる。

 

事実、観戦している貴族悪魔達の殆どはそう思っているようだ。

 

「あぁ、覚えている。何だか気を使わせたみたいで悪いな」

 

「アナタって……まぁいいわ。今はその認識で構わないわ」

 

「?」

 

何だか呆れられてる? ブロリーは自身に課せられた条件の認識に、どこか間違いがあったのかと他の面々の様子を伺うが。

 

「あらあら、ウフフ」

 

「まぁ、それがブロリーさんらしいと言えばらしいよね」

 

「……鈍感」

 

何だか散々な事を言われている気がする。

 

一誠も一誠で「うわー……」と、引いているし、アーシアだけはキョトンとしているのが唯一の救いだ。

 

若干心が傷付いた事にうなだれるブロリー。そんな彼を余所にリアスはそれぞれの面々にそれぞれの役割を伝える。

 

「私達は本陣付近に森があるわ。これは私達の領土と思って構わない。逆に新校舎はライザーの陣地ね。入った瞬間に相手の巣の中に入ったと思いなさい。校庭は新校舎から丸見え、ここをただ通るのは危険だわ」

 

リアスの言うとおり、新校舎から校庭の様子は丸分かりで無策で通るのは無謀とも言えた。

 

戦闘フィールドに一度来てしまえば、その中での魔方陣転移は不可能。つまり、ここから他の場所へ行くには自らの足のみ。

 

翼で空からという手段もあるだろうが、目立つ上に補足されやすい故に得策じゃない。

 

「新校舎に入るには裏の運動場。でもそんなのは相手だって理解しているわ。運動場にも下僕を配置しているでしょうし、だから私達は──」

 

「リアス」

 

言いかけた所へブロリーの言葉が遮る。

 

何だと思い全員の視線が再びブロリーに移ると。

 

「少し訊きたいことがあるんだが……いいか?」

 

「えぇ、物事の確認は事を成すのに必要な素材よ。何でも聞いて頂戴」

 

ブロリーはレーティングゲームの初心者以前に悪魔ですらない。

 

記憶もない。しかし、それ故に自分達では気付けない何かに気付く事もあるかもしれない。

 

何でも来い。リアスはブロリーの質問に腕を組んで聞くが。

 

「……なん、ですって?」

 

ブロリーの疑問は、彼女の斜め上を行っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……以上が今回の作戦の内容よ。さぁ! いきなさい! 私の可愛い下僕達!」

 

 部長から作戦の概要を訊かされた俺達は、その言葉と共に部室を後にし、それぞれの役割を果たすべけ、それぞれの場所へと向かっていった。

 

と言うか、本当に出来るのか? いや、ブロリーさんなら出来てしまいそうだから困る。

 

今回の作戦はブロリーさんが要となっているし、事実、俺達の中で一番強いんだから適任だと思う。

 

部長も……リアス先輩も、そんな確信があるからブロリーさんに一任したんだと思うし。

 

すげぇな、ブロリーさん。誰よりも強くて、だけど絶対に見下そうとしないで、俺なんかとも普通に話してくれる。

 

……はは、何だかかっこ悪ぃな、俺。

 

部長の為に頑張るとか、絶対負けねえとか、カッコつけて、大見得切って……。

 

なのに、何一つ応えられてねぇ。あの人の為に、何一つ出来ていねぇ。

 

命を助けてくれた恩も、碌に返せていねぇ。……なのに。

 

俺は、ブロリーさんに、部長と同じ命の恩人であるあの人に……嫉妬している。

 

誰よりも強くて、期待には絶対に応えられるあの人が。

 

俺とは……根元から違うあの人が。

 

「……本当、情けなさ過ぎるだろ。俺」

 

「……イッセー先輩?」

 

おっと、どうやら小猫ちゃんに聞こえちまったか。

 

小猫ちゃんは俺のパートナー。これから赴く戦場に必要な駒として俺と一緒に向かうことになっている。

 

「何でもないよ小猫ちゃん。……悪いけど、先に言っててくれないかな?」

 

「……え? どうしてですか?」

 

俺の一言が意外なのか、小猫ちゃんは目を見開いて驚いている。

 

それはそうだろう。大事な作戦前だってのに勝手な事をして。

 

下手をすれば作戦そのものがオジャンとなってしまうのに、下僕一人の勝手な行動で、主を敗北に誘う事は許されない。

 

けれど。

 

「すぐに合流するからさ、三分、いや、二分だけお願い!」

 

俺は土下座する勢いで小猫ちゃんに頭を下げる。

 

「……すぐ、来てくださいよ」

 

呆れた様子で先を行く小猫ちゃん。あー、ありゃあ相当嫌われたな。

 

ま、部長の将来を決める一戦で勝手な行動をしたんだ。仲間として許されない事なんだから、当然と言えば当然だ。

 

だけど、ダメなんだ。俺は、きっと皆の足を引っ張ってしまう。

 

俺の神器の力で俺自身の力を上げれば、木場の攻撃をモノともしない程に頑強になるし、あの合宿のお陰でそうなれる体にもなれた。

 

けど、ダメだ。それだけじゃ、俺はきっと皆の役には立てない。

 

部長に何一つ返せないままだ。

 

 ……合宿の日、俺は見た。見てしまった。

 

ブロリーさんを期待と信頼に満ちた部長の横顔と、その瞳を────。

 

一体何に期待していたんだろう。 部長と同じ悪魔になって、伝説の神器が宿っていて、それだけで部長に近付いた気になって。

 

でも、あの日、部長は俺に言ってくれた。

 

『最強の兵士になりなさい。イッセー』

 

一言。たった一言だけど部長は俺に向かってそう言ってくれた。

 

そして俺も誓った。アナタのしがない兵士は、無様だけど、スケベで意地汚いけど、約束を果たしますよって。

 

俺には剣の才能もない。朱乃さんやアーシアのような優れた魔力も、ブロリーさんや小猫ちゃんの凄い力もない。

 

俺には、この過ぎた龍の力しかない。

 

 

だから!

 

 

(出てきやがれ! いるんだろ? 赤い龍の帝王(ウエルシュ・ドラゴン)ドライグ! 話がある!)

 

『ああ、なんだ、小僧。俺になんの話だ?』

 

俺の呼び掛けに応え、間もなくし不気味な笑い声が心の中で響き渡る。

 

……俺は、戦わなきゃならない。

 

どんなに無様でも、惨めでも。

 

喩えどんな代償を払ってでも、俺は戦う。

 

そうでなければ、あの人の背中を追うことすら出来ないから……。

 

 

 

 

 




ウチの一誠君は少々ネガティブ思考になってます。

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