悪魔より悪魔らしい……だがサイヤ人だ   作:アゴン

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life 14

 

「ぶはーっ! 生き返るぅぅっ!」

 

 修行初日、一通りのメニューをこなしたブロリー達は夕食を終え、現在はグレモリー家の別荘にある温泉の露天風呂で疲れを癒すために湯に浸かっていた。

 

頭にタオルを乗せて温泉を満喫している一誠。同じ湯に浸かっている木場とブロリーも気持ち良さそうに寛いでいる。

 

「どうだったイッセー君、合宿初日を終えての感想は?」

 

「あぁ、もう何度も死ぬかと思ったわ。確かに俺は眷属の中でも一番ダメダメだけど、このままじゃ強くなる前に潰されちまうよ」

 

「そこら辺の加減は部長は間違えないよ。ギリギリまで追い込んで一誠君の力の底上げするのが今回の修行の第一目標だからね」

 

それぞれのメニューをこなす上で、一誠は如何に自分が非力なのか痛感する事になった。

 

木場の様な凄腕の剣術など持ち合わせていないし、朱乃、アーシアの様な優れた魔力の才能もない。

 

力でだってブロリーは勿論、小猫にもてんで適わない。

 

赤龍帝の籠手も碌に使いこなせない自分に、合宿初日で何度も歯痒い思いをした。

 

だが、いつまでも腐ってばかりではいられない。もうレーティングゲームまではそんなに猶予がないのだ。

 

やらなければならない。なんとしてもゲームに勝利し、主の自由を勝ち取るのだ。

 

「────ところで、木場の方はどうだったんだ? ずっとブロリーさんと模擬戦だったみたいだけど?」

 

 ふと、木場に訊ねる一誠。すると木場は何やらガタガタと震えだし、お湯に浸かっている筈なのに顔は真っ青に変化していく。

 

「……そうだね。イッセー君には悪いけど、僕も中々な地獄を体験したよ」

 

 思い出すのは、目の前にまで迫るブロリーの拳。

 

ブロリーとの模擬戦、その全てを接近戦で挑んだ木場は、それはそれは恐ろしい体験をした。

 

風圧だけで木々を薙払うブロリーの豪腕。掠れるだけでも致命傷ものの一撃、一度でも直撃を受ければ悪魔の挽き肉の出来上がりだ。

 

それを今日一日、ずっとブロリーに付き合っていたのだ。

 

木場の精神は合宿一日目で早くも限界を迎えていた。

 

「は、ハハ、おかしいな。怖い筈なのに笑いが止まらないや」

 

「わ、分かった! もういい! 俺が悪かった」

 

 思い出しただけでSAN値がガリガリと削れていく木場に、一誠は悪い事をしたと必死に謝りながら呼び戻す。

 

何度か呼び掛ける一誠に漸く落ち着きを取り戻した木場は、苦笑いをしながら再びのんびりと湯に浸かる。

 

「済まないねイッセー君、どうも修行の事を思い出すと笑いが込み上げてくるんだ」

 

「……お前も、大変だったんだな」

 

イケメンは自分にとって無条件で敵と認識する一誠だが、なにやらトラウマを植え付けられた木場に同情せずにはいられなかった。

 

……ふと、視界にブロリーの姿が入る。

 

自分達のいる場所とは少し離れた位置に浸かるブロリーは、自身の手を見つめ、なにやら思い耽った面持ちだった。

 

「ブロリーさん、どうかしたんスか? なんだか調子悪そうてすよ?」

 

「……ん? あぁ、ちょっとな」

 

「もしかして木場に攻撃が当たらなかった事を気にしてるんですか? だったら心配いらないスよ! ブロリーさん木場の動きには付いていけてるし、きっと次やったら当たりますよ!」

 

「イッセー君、それ遠回しに僕に死ねって言ってるよね?」

 

遠くから木場が何か言っているがここはスルー。

 

同じイケメン(一誠にはブロリーもイケメンに見える)同士でもブロリーには二度救って貰った恩があるし、アーシアや自分の為に戦ってくれた事もある。

 

そんなブロリーは一誠にとって頼りになる兄貴分のようでもあった。

 

 自分なりの言葉でブロリーにフォローを入れる一誠。

 

するとブロリーは視線を自分の手から空へと移す。

 

「……済まんな」

 

「……え?」

 

「俺が余計な事をした所為で話を複雑にして……本当なら俺なんかがでしゃばる必要はないのに」

 

「な、何言ってるんスか! そんな事ないッスよ! ブロリーさんは確かに部長の眷属じゃないけど、それでも俺やアーシアの為に戦ってくれて、今も部長の為に頑張ってくれているじゃないッスか!」

 

「……そう、なのか?」

 

「そうッスよ! なぁ木場!」

 

「そうだね。確かにブロリーさんは眷属でもなければ悪魔でもない。けど僕達はアナタの事、仲間だと思ってますよ」

 

ブロリーは少しばかり不安だった。

 

レーティングゲームはチームの連携が要になる戦闘競技。扱いきれない力では幾ら強力でもその戦いでは仲間の足を引っ張る足枷にしかならない。

 

ただでさえブロリーは特別ルールで勝手にゲームにねじ込まれた異端者。

 

もし本番で力を扱いきれず、それが原因で負けたりしては……もう、リアスや朱乃に顔向け出来なくなる。

 

今日の修行で改めて力の制御が出来ていない自分に、ブロリーは少々ナーバスになっていた。

 

「兎に角、今ここで腐ってても仕方ないッスよ。今日はもうゆっくり休んで、また明日頑張りましょう!」

 

「……そう、だな」

 

満面の笑みで励ましてくる一誠。彼の笑顔がどことなくアーシアのモノと似ていると錯覚したブロリーは、取り敢えず彼の言うとおり、今は休んで明日また頑張る事にした。

 

「木場、明日もまた頼む」

 

「……はい。頑張らせて貰います」

 

ブロリーからの組み手の申し出に、木場は顔を真っ青にしながら笑って承諾する。

 

嗚呼、またSAN値が減っていく。

 

明日の組み手に憂鬱になりながらも、木場は頭まで湯に浸かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいですわね。あちらも楽しそうで」

 

「男同士の友情って奴ね。正直、羨ましいわ」

 

 隣から聞こえてくる男性陣達の声。

 

板で挟んだ遮り越しに聞こえてくる男達の会話を耳にしたリアス達は、ひとまず立ち直ったであろうブロリーに微笑ましく思っていた。

 

「でも、実際難しいでしょうね。彼の力の制御は」

 

「そうね。個人戦ならまだしもレーティングゲームはその殆どがチームワークが重要となる種目。力任せで勝てる程、甘くはないわ」

 

「確かに、その通りですね。でも彼だってそれは分かっているみたいだし、今後に期待って所でしょうね」

 

「そうね。明日は木場との組み手だけではなく、他の下僕の皆の所でも修行させましょ。もしかしたら何か彼の力に関する接点が見つかるかもしれないわ」

 

そして、それはブロリーの記憶にも繋がる。

 

レーティングゲームは戦闘競技。悪魔同士が競い合い、せめぎ合う擬似的戦場。

 

戦いの中にいたであろうブロリーも、戦場の中に身を置くことで何か思い出す切欠になるやもしれない。

 

自分の為に、そしてブロリーの為にもライザーとのレーティングゲームは負けられない。

 

と、リアスが改めて決意を露わにした時だった。

 

「……小猫? どうかしたの?」

 

「小猫さん?」

 

自分達と同じく、湯に浸かっている小猫。

 

だが、小猫の表情は暗く、その上青ざめているようにも見える。

 

「ちょっと、小猫。どうしたの?」

 

「小猫さん、どこか具合が悪いんですか?」

 

心配そうに小猫の顔を覗き込むリアス達。そこで漸く彼女達の存在に気付いたのか、小猫はハッと我に返り顔を上げる。

 

「す、すみません。少しボーッとしてました」

 

「本当に大丈夫? 今日の修行で疲れたのならもう休んだ方がいいんじゃないかしら?」

 

「いえ、大丈夫です。それに、ここの温泉気持ちいいからもう少し入っていたいです」

 

「そう? 具合が悪くなったらすぐに言うのよ。アーシア、小猫の事、お願いね。私達は先に上がってミーティングの準備をしておくわ」

 

「はい、お任せ下さい!」

 

アーシアに小猫を頼むと、先に湯船から上がるリアスと朱乃。

 

アーシアが先輩として頑張るよう自身に言い聞かせている一方、小猫はブロリーとの修行風景を思い出し。

 

 

───ゾクリ。

 

 

再び、言いし難い悪寒に襲われた。

 

豪腕を奮い、木場と激烈な接近戦を繰り広げるブロリー。

 

木場が戦い易くなるよう、遠くから木の投擲で援護する小猫。

 

近い距離でブロリーの豪腕をかい潜る木場では気付かなかったのかも知れないが。

 

幾度もブロリーがその力を奮う中、僅か刹那的な一瞬だが小猫は見た。

 

木場に向けて拳を振り下ろすブロリー、その瞬間。

 

彼は─────嗤っていた。

 

愉快に、愉悦に満ちた表情。

 

コンマ一秒にも満たないその時間。小猫の投げた木を盾に回避した木場には死角となって見えていなかったが。

 

逆に、投げた小猫は愉しそうに笑うブロリーを見てしまった。

 

不気味な嗤い。まるで壊す事を楽しんでいるかのようなブロリーの笑み。

 

嫌な予感がする。ブロリーという男に対し、何か見落としている気がしてならない。

 

戦いの中で生きてきたと予想するリアス達。だが、それは果たして本当なのだろうか?

 

戦いではなく、もっと……一方的に力を奮っているような感覚。

 

ただ壊す為、ただ滅ぼす為に奮われているような……そんな錯覚すら覚える中で。

 

「……どうか、何事も起きませんように」

 

本来、悪魔である自分が何かに祈る事はない。

 

たが、それでも祈らずにはいられなかった。

 

願わくば、次のレーティングゲームで誰もが無事であるように……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、ブロリーは昨日とは違い、木場との模擬戦ではなく、一人黙々と拳を奮っていた。

 

決して力み過ぎないよう、力加減に気を配り、それでも目の前の敵を打ち抜く様に鋭く奮う。

 

昨夜のミーティングでリアスから告げられたブロリーの欠点、それは動きに無駄が多すぎるということだ。

 

野球のピッチャー選手の如く振りかぶっての一撃は確かに大きいだろう。

 

しかし、そんなテレフォンパンチに当たる場面などレーティングゲームに於いては殆どなく、寧ろそこから発する無差別な衝撃波はチーム戦では邪魔にしかならない。

 

小さく、細かく、速く。それがリアスから課せられたブロリーの課題である。

 

ただでさえブロリーの力は凄まじいのだから、動きを最小限に抑えてもそれが弊害となることはない。

 

寧ろ、細かくなった事で速さは増し、鋭さも桁違いになるのだからブロリーにとってもチームにとっても得るモノは多い。

 

ブロリーの今日の日程を聞いた木場は、それはそれは清々しい笑顔をしていたのは印象的だった。

 

 ブロリーは両手を顎の下まで上げて、さながらボクサーの構えを取り。

 

キュボッと、空を切る音がブロリーの左側から聞こえてくる。

 

すると、離れた所にある木から煙が上がり、見てみると木の幹の中央に穴が空いており、其処から黙々と煙が上がっていた。

 

「……どうにか、モノに出来たか」

 

自身の左手を見て、ひとまず納得の様子を見せるブロリー。

 

自分に出来る“最大限に抑えて”打った左ジャブ。

 

昨日とは全く違う力の使い方に差程戸惑う事はなく、リアスの理想通りにこなすブロリーは流石という言葉を贈るべきか?

 

と、ブロリーが反復練習の為に再び構えを取ると。

 

「捗っているみたいですね」

 

「───朱乃か?」

 

声のする方へ振り返ると、ジャージ姿の朱乃が水筒片手に歩み寄って来ていた。

 

「ブロリーさん、飲み物を持っていきませんでしたよね? ダメですよ、ちゃんと水分補給しないと」

 

言われると、そこで自分が大量の汗を流していた事に今更気付く。

 

長袖の上着を脱いで、シャツ姿になると、山の空気が濡れた肌を刺激し、心地良い涼しさを感じる。

 

「……全然気付かなかった」

 

どうやら、余程力を抑える事に対し加減に神経を使ったのだろう。

 

肉体的な疲れとは別の疲労感が、ブロリーを襲った。

 

ずぶ濡れになった上着を絞ると、ダーッと滝の様な汗が流れ落ち、地面一杯に広がっていく。

 

……どんだけ疲弊してんだよ。

 

「凄い集中力ですね。あちらで木場君とイッセー君が組み手していたんですけど、全然気付かなかったみたいですし」

 

言いながら朱乃は、ブロリーに歩み寄り、手にした水筒を差し出してくる。

 

そう言えば、何だか向こうの山の方からデカい音がしたような気がする。

 

ブロリーは朱乃に渡された水筒を受け取り、蓋を開けるとガバガバとそのまま口の中へ入れる。

 

ドリンクの冷たさと程よい甘さがブロリーの消耗した体力を潤していく。

 

時折入っていた氷もバリバリと食べ尽くし、水筒の中身を空にしたブロリーは朱乃に礼を言いながら水筒を渡す。

 

「ありがとう。助かった」

 

「ウフフ、いいえ。気になさらないで下さい。でも、なるたけ自分の体はキチンと見なきゃ駄目ですよ」

 

と、何だか保護者みたいな事を言われる。

 

いや、実際保護者みたいなものかも知れない。

 

 なにせ朱乃には命を救って貰っただけではなく、リアスを通して駒王学園に居場所を作ってくれたし、何度も世話をかけてしまっている。

 

今回の事でそれが少しでも返せるといいのだが……。

 

「……なぁ朱乃」

 

「はい?」

 

「お前は今回、勝てると思うか?」

 

何となく気になった話題を、ブロリーは問い掛ける。

 

今朝も、少しこの世界について色々勉強していたのだが、ブロリーにはチンプンカンプンで精々それぞれの組織のトップの名前しか記憶できなかった。

 

だが、七十二柱とやらの中にフェニックスという名前があったのは、何となく頭の隅っこに置いてある。

 

確か、レーティングゲームで戦う相手はライザー=フェニックスだったような……

 

そんな疑問を込め、ブロリーは朱乃に問い掛けると。

 

「フェニックス、それは命を司りし聖獣として人々に崇められ、流す涙はいかなる傷をも癒やし、その身に流れる血を飲めば不老不死を手に入れられると伝えられています」

 

だが、聖獣であるフェニックスにはもう一つの一族、それが先程ブロリーの記憶にあった悪魔側のフェニックスだった。

 

不死鳥、不死身。そんな聖獣と称されるライザーの一族の能力は殆ど一緒であり、そのフェニックスとほぼ同等の力であると朱乃は話す。

 

つまり、自分達が戦おうとするライザーという男は、不死鳥そのものであり、その命は神の一撃でもない限り断てる事はないという。

 

そこまで聞かされたブロリーは、ある一つの考えが脳裏に浮かぶ。

 

それは、アーシアを死なせてしまったあの教会での出来事だ。

 

言い表せない感情が内側から爆発したかと思いきや、同時に凄まじいまでの力が湧き上がってきた。

 

それは今自分が扱いに困っている力とは桁違いの代物であり、今はそのナリを潜めている。

 

だが、もしあの時の力を手にすれば、もしかすればレーティングゲームで有利に進むことが可能かもしれない。

 

……と、そこまで考えてブロリーは首を横に振り、 それは無理だと決め付ける。

 

あの時、一体自分がどうなったか、正直言ってよく覚えていないのだ。

 

覚えていないというか、意識が朦朧していたというか、何故かあの時の出来事が漠然としか思い出せないでいる。

 

ただ一つ覚えているのは─────あれは、冷たい程にドス黒いナニか、だ。

 

あれは恐らく感情の塊。何かで圧縮された感情の叫びだ。

 

それが自分の中に満たされていく。

 

懐かしく思い、同時に悪寒も感じた。

 

自分の中にある未知の部分。神というのがどれほどのモノかブロリーは分からないが、アレならフェニックスを倒すのに届くのではないかと、密かに思う。

 

だが。

 

「……約束は、守る」

 

「え?」

 

それだけ告げると、ブロリーは再び構えを取り、自分の力を使いこなす為、黙々と腕を奮う。

 

そう、ブロリーはブロリー自身で戦うと決めた。

 

あんなモノに頼らずとも、木場や一誠の言うように仲間として一緒に戦い、守り、そして勝つと。

 

あの夜の道で交わした朱乃との約束。それを果たす為、ブロリーは自身の力を扱う為の修行を黙々と続け。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、遂にその時が来た。

 

 




次回辺りからライザー戦です。

果たして一誠達は勝てるのか!?


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