悪魔より悪魔らしい……だがサイヤ人だ   作:アゴン

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life 10

 

 今日も爽やかな朝がやってくる。

 

小鳥の囀りを目覚まし代わりにブロリーは起床し、洗面台に向かって顔を洗い、歯を磨く。

 

キッチンで簡単なオニギリを作り、味噌を塗ってそれを頬張り朝食を済ませる。

 

朝は力の入る米を主食にする。用務員という仕事をこなすためにも朝食は必要不可欠である。

 

「……まだ時間はあるな」

 

時計を見て、まだ学校にまで余裕がある事を確認すると、今度は玄関のポスト入っている新聞を取り出し、今日の見出しを眺めながら二個目のオニギリを頬張る。

 

……うん、ここはやはり言わせてもらおう。

 

なんだ。このサラリーマンは?

 

出勤時刻よりも早めに起床し、余裕を持って今朝を過ごす。

 

立派な社会人の生活をするブロリーに戸惑いを感じるのは致し方ない事だろう。

 

 理由はブロリーはアーシアとの一件以来、自分なりに色々考えるようになってからだ。

 

失った記憶を取り戻すのは勿論の事、その為にはリアスや蒼那、多くの人(?)の協力が必要という事。

 

そんな彼等にあまり迷惑を掛けない為にも、自分から出来る事をやろうという結論に至ったのが、この新生活の起因である。

 

生徒の代表格である蒼那……いや、ソーナ=シトリーから理想とする朝の過ごし方を伝授してもらい、以後、この生活を続けている。

 

新聞もソーナから貰った飴玉を一袋舐め終えた事で、今はスラスラと読むことが出来る。

 

……ただ、記事に書かれた内容の殆どがブロリーは理解していなかった。

 

言葉は読めるが意味が分からない。何とも難儀な事である。

 

「ごちそうさまでした」

 

朝食を済ませ、後片付けも終わり、用務員の制服に着替えた事で学校への準備は全て完了する。

 

仕事に必要な道具を全て持ち、それを確認した上で靴を履く。

 

玄関の扉を開け、いざ学校へと向かう。

 

「あらブロリーさん、おはよう」

 

「おはよう……です」

 

そして通路ですれ違うご近所さんに軽く挨拶を交わし、ブロリーは学校へと足を進める。

 

完璧だ。ブロリーのその一挙一動はまさしく理想的な社会人のそれ。

 

気持ちいい朝日を浴びて、再び学校に向け歩き────

 

「ブロリーさん。休日の日に仕事かい?」

 

「…………」

 

本日は第二日曜日。

 

学校もなく、ブロリー自身も休日の日付をすっかりと忘れていた。

 

……太陽の光が、やたら眩しく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日が休みだとすっかり忘れていたブロリーは、特にする事もなく住宅街をブラブラ一人で歩いていた。

 

現在の格好は用務員の制服ではなく、以前朱乃と共に買い物した際に購入したラフな服に身を包んでいる。

 

 まだ朝日が出て間もない時間帯の為、道路には人通りが少ない。

 

通りかかった近くの公園。そこで適当に時間を潰そうと足を運ばせると。

 

「ほらほらイッセー、勢いが落ちてきたわよ!」

 

「うひぃぃっ!」

 

「イッセーさん、ファイトです!」

 

公園の真ん中に腕立て伏せをしている一誠と、その上に乗っかるリアス。そしてその横ではタオルとドリンクの入った水筒を手にしたアーシアがそれぞれジャージ姿でそこにいた。

 

 アーシアは無事に駒王学園の生徒として正式に転入が決まり、今は一誠と同じ教室で授業している。

 

現在は一誠の自宅で下宿として住ませて貰っており、一誠の両親からは娘同然に扱われて生活しているらしい。

 

幸せそうに暮らしているアーシアに、ブロリーも内心安堵していた。

 

すると、こちらに気付いたアーシアが大きく手を振って挨拶をしてくる。

 

「あ、ブロリーさん。おはようございます!」

 

「あぁ、……何をやってるんだ?」

 

アーシアの挨拶に軽く答え、ブロリーは彼女に一誠の不可解な行動について訊ねた。

 

「何でもイッセーさんのトレーニングらしいですよ。イッセーさんの神器はイッセーさん自身が鍛えれば鍛えるほどその効果が発揮するそうです」

 

一誠の神器は『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』と呼ばれ、それは極めれば神すら屠れるとされる代物。

 

世界に十数個しか存在しない神滅具(ロンギヌス)の一つである。

 

 一誠の神滅具、赤龍帝の籠手の能力は力の倍加。

 

10秒毎に力が倍に膨れ上がり、いずれは神にも届き、そして超える力を持っているという。

 

だが、どんなに神器が強力無比でも所有者が未熟では宝の持ち腐れにしか過ぎない。

 

故に、普段からこうして鍛えておく必要があるのだと言う。

 

「きゅうじゅう……きゅう、にひゃぁあ……くっ!」

 

「はい、お疲れ様」

 

腕立て伏せを終えた一誠はリアスが体から退くと同時に地面に伏せる。

 

ゼハゼハと肩で息をしている一誠を余所に、此方に気付いたリアスが微笑みながら二人に歩み寄ってくる。

 

「おはようブロリー。今日は早いのね」

 

「あぁ、少しな」

 

「もしかして、今日が学校が休みなの忘れてた?」

 

「………」

 

「……図星?」

 

リアスの指摘にブロリーは顔を背ける。

 

クスリと笑みを零すリアス。すると何か思い付いたのか、彼女は手を叩いてブロリーにある提案を出した。

 

「そうだ。ねぇブロリー。アナタは今日これから暇かしら?」

 

「……まぁ、特にする事はないから」

 

「だったら、身体測定でもしてみない?」

 

「シンタイソクテイ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから場所を移し、ブロリー達が今いる場所は河原の土手。

 

一般の人が入ってこないよう結界を施し、いよいよブロリーの身体能力を図る準備が整う。

 

「……なぁ、本当にやるのか?」

 

「これはアナタの現在の身体的力を確認する為に必要な事なの。……それでも嫌なら止めるけど?」

 

「……別に、やりたくない訳じゃ──」

 

ブロリーの力、それを身体的にとはえ確かめる事が出来る。

 

未知な期待感に胸が高鳴るリアスに対し、ブロリー自身は難色を示していた。

 

「記憶探しもいいけど、偶には体を動かすのも必要だと思うわよ? アナタ、意外と繊細な部分があるみたいだから……」

 

「……そうだな。やらせて貰おう」

 

リアスの一言にブロリーはやる気を出してみる。

 

興味本位とはいえ、リアスも朱乃同様にブロリーの事を心配に思っているのもまた事実。

 

それに、体を動かせば気分が少し晴れるのもまた確かだ。

 

「う、うぉぉ……」

 

「はわぁ、ブロリーさん。凄いですぅ」

 

上着を脱いで露わになるブロリーの上半身を見て、一誠とアーシアは驚きの声を漏らす。

 

タンクトップの下から覗かせる鍛え抜かれた見事な体付き。

 

無駄な所など一切ない引き締まったブロリーの肉体に、三人は暫し魅入られていた。

 

「それで、何をすればいいんだ?」

 

「そ、そうね。まずは垂直跳びでもやって貰いましょうか」

 

ブロリーの声に我に返ったリアスが、動揺しながら垂直飛びの説明をする。

 

その際、実際にやって見せるリアスの胸を凝視し、鼻血を垂れ流す一誠に、アーシアが涙目で訴えるのは割合しておく。

 

そして、一通り説明を受けたブロリーは、膝を曲げ、脚に力を込め。

 

「ふんっ」

 

───瞬間。

 

ブロリーは、星になった。

 

「…………へ?」

 

目の前で起きた理解し難い出来事に、リアスは思わず間の抜けた声を漏らしてしまう。

 

一誠もリアス同様に訳が分からずポカンとしている。

 

「あ、あれ? ブロリーさんが消えちゃいました?」

 

アーシアも辺りを見渡し、姿の消えたブロリーを探している。

 

と、空に一つの黒点が現れた。

 

黒点は徐々に形を成していき、やがては人の形へと変化し。

 

 

チュドォォォォォンッ

 

 

轟音と共にリアスの前に何かが落下する。

 

舞い上がる砂塵と爆風にリアスの紅い髪が舞い上がる。

 

後ろに控えていた一誠とアーシアは、爆風に耐えきれずコロコロと仲良く転がっていく。

 

舞い上がる砂塵の中に現れる人影。

 

「……これでいいのか?」

 

自分の垂直跳びの出来栄えを訊ねてくるブロリーに……

 

「そ、そうね。まぁまぁじゃないかしら」

 

リアスは虚勢を張ることで精一杯だった。

 

それからというものの、ブロリーの身体測定は進めるに連れてその凄まじさを顕わにしていく。

 

100m走ではクラウチングスタートからのダッシュが上手くいかず、顔面で滑ってしまう。

 

これはダッシュする瞬間、ブロリーの脚力に地面が耐えきれず爆散し、その結果バランスを崩して上記の様な状態になるものだと推測する。

 

……それでも、実際の100走の世界記録を五秒ほど塗り替えるタイムを叩き出している。

 

100m顔面走り。……うん、ないわ。

 

そして続いての立ち幅跳びは1m40cmと、比較的普通な記録を出している。

 

そう、“幅”は。

 

これ以上は垂直跳びとほぼ変わらない話になるのでこの話はここで区切らせてもらう。

 

 そして、全ての測定を終える頃には街中にある河原が、まるで戦場の跡地のように凄惨な光景へと変わっていた。

 

荒れた大地に窪んだクレーター。

 

ペンペン草もない荒れた荒野となった河原で、ブロリーはコキコキと首を鳴らし。

 

「もう、終わりかぁ?」

 

「う、うん。もういいんじゃないかしら?」

 

その一言に漸く解放されたとブロリーは軽く伸びをする。

 

……その一方でリアスは軽率な事をしたと内心で少し後悔した。

 

マトモな測定が殆ど出ず、ただの身体測定の筈がいつの間にか戦場と化していたのだ。

 

言い出しっぺが此方だとはいえ、幾らなんでもこれはないだろう。

 

故に、リアスはブロリーに一言物申した。

 

「ブロリー。アナタ、力の使い方が全くなっていないわ」

 

「………」

 

「一体アナタの身に何があったの? 一誠から聞いた話ではアナタの力はもう少しマトモだった筈よ」

 

ブロリーの力、それは凄いのを通り越して最早異常とも呼べる推移に達している。

 

「……………」

 

黙したままのブロリー。そんな彼にリアスは嘆息を零し。

 

「……例の金色の姿に関係しているの?」

 

彼女のその一言に、ブロリー小さく頷いた。

 

リアスの言うとおり、ブロリーの驚異的な力の成長教会での出来事が起因となっている。

 

金色の姿。あの姿になってからというものの、ブロリーの力は歯止めが利かなくなっていた。

 

それはもう決壊したダムの如く。

 

その力は日常生活にも及び、ブロリーは自身の力に色んな意味で苛まれる事になる。

 

試しに皿を洗おうとすれば触れただけで砕けてしまい。

 

テレビのリモコンを操作しようとしてもボタンを押したに粉微塵。

 

先日の仕事では、荷物を運び出していた最中に眼鏡と坊主頭の男子生徒二人とぶつかり、どちらも壁を突き破って吹き飛ばしている。

 

それら全てを聞き終えた頃にはリアスも一誠も言いし難い感情に苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「あー、だから元浜や松田はあんなボロボロになっていたのね」

 

「……ごめんなさいブロリー。アナタの悩みにもっと早く気付くべきだったわ」

 

「……いや、気にしていない。それにこれでも力を抑えられてはきているんだ」

 

((それでも抑えていた方なの!?))

 

ブロリーの言うとおり、これでも普段の生活には支障がない程度には抑える事が可能となっている。

 

それが可能としたのはひとえに生徒会長であらせられるソーナ=シトリーのアドバイスのおかげである。

 

このままでは仕事はおろか私生活にすら影響が出てくる。一誠の友人二名を吹き飛ばした後、ブロリーは藁を掴む気持ちでソーナに助けを求めた。

 

そこで彼女からの一言。

 

『アナタにとって、最も大事なものをイメージしなさい』

 

それはまさに青天の霹靂だった。

 

その言葉に衝撃を受けたブロリーは早速自宅に帰ってそれを実践してみた。

 

ブロリーにとって大事なもの、即ち食べ物に見立てて物に触れて見ようと試みると……。

 

実験は成功。ブロリーは物を比較的柔らかい食べ物に見立てる事で手加減を会得したのだ。

 

人と接する時、特に触れ合う場面では特にそう強くイメージする事が多い。

 

食べ物には優しい。何とも言い難い力の抑え方にリアスは額に手を当てて嘆息していた。

 

「……よく大舞台で緊張する時は人をジャガイモに見立てなさいと聞くけど……まさかそんな克服の仕方だとは」

 

「ブロリーさん。色んな意味でパネェッスよ」

 

此方の想像を斜め上を行くブロリーに疲れを覚えるリアスと一誠。

 

「ってことはブロリーさんは人とすれ違う際に人を食べ物に見立てるんですよね?」

 

「あぁ、そうだな」

 

「じゃあ、木場は?」

 

何故そこで木場祐也斗が出てくるのだろう?

 

疑問に思いつつもブロリーは頭の中で木場の姿を思い浮かべ。

 

「……牛蒡(ごぼう)?」

 

「ぷふーっ! あんなヒョロイ奴にはお似合いだぜ」

 

ブロリーの一言に一誠は口元を抑えながらも盛大に吹き出す。

 

「じゃ、じゃあ俺は? 俺はどうなんです?」

 

「モヤシ」

 

「即答!? 間髪入れずに!?」

 

聞かなきゃ良かったー! と、頭を抱えて悶える一誠。

 

「大丈夫だぞ一誠。モヤシは美味い」

 

「そういう問題じゃねー!」

 

ブロリーの抉るようなフォローに更に悶える一誠。

 

楽しそうな二人にアーシアは無理に入り込まず、離れた所で微笑みながら見つめていると。

 

「お姉さま? どうかしたんですか?」

 

「え? あ、いやその……何でもないわ」

 

「?」

 

一瞬。何やらリアスの表情が暗かった気がした。

 

どうしたのだろうと問い掛けるアーシアだったが、笑いながら何でもないと言い張る彼女にこれ以上聞く事は出来ず、一誠達の所へ歩いていく。

 

そんなアーシアを微笑みながら見送った後、リアスは物思いに耽り。

 

「…………ふぅ」

 

諦めにも似た嘆息を零すのだった。

 

「じ、じゃあ部長や朱乃さんは!?」

 

「メロンと西瓜」

 

「小猫ちゃんは!?」

 

「小豆」

 

「イッセーさん、ブロリーさん、何の話をしてるんです?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄さま、お茶の用意ができましたわ」

 

「レイヴェルか」

 

「式(ウエディング)の準備は順調ですの?」

 

「……ああ、問題などあるものか」

 

 

 




殆ど番外編とも呼べるお話です。今後もチョビチョビこういう話を間に挟みたいと思いますので宜しくお願いします。

そして、私は皆様に一つ隠し事をしていました。

実は私……ブロリストなんです。






………次に、あなたはそんなの知ってるしと言う。

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