悪魔より悪魔らしい……だがサイヤ人だ   作:アゴン

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life 09

 

 

「くっ、まさか奴等の動きがこうも早いとは!」

 

「堕天使側の動向を探っていたのが完全に裏目に出たわね」

 

 夜の闇が一層深くなり始めた頃、私は朱乃を従えてオカルト研究部のある部室に向かって旧校舎の廊下を歩いていた。

 

このリアス=グレモリーの管轄する街で不穏な動きをしている堕天使達を探っていたのだが。

 

今回の件は堕天使レイナーレと他数名の堕天使による独断行動、しかも上層部を騙しての行動の為、奴等に非があるのは間違いない。

 

これで奴等を滅する名目が完成した……のはいいが、此方の探り入れがバレたのか、奴等は儀式の時間を早めた。

 

今頃は私の可愛い下僕達が、例のシスターとブロリーを救出する為に堕天使達と死闘を繰り広げている事だろう。

 

小癪にも此方の動きが読まれた以上、向こうには今回の計画に賛同した堕天使達全員が教会に集っている筈。

 

……急がなくては。

 

「朱乃、部室に入ると同時に教会に転移するわよ。悪いけど、すぐ準備して!」

 

「了解」

 

頼りになる副部長。いつもより緊迫感のある声色から察するに、やはり彼女も彼が捕まっている事に対して思うところがあるみたいね。

 

 兎にも角にも、まずは教会に行ってイッセー達と合流する事が最優先。

 

私が部室の扉を開けた──瞬間。

 

 

ドォォォォォォォォッン!!

 

 

「「っ!?!?」」

 

遠くから聞こえてきた爆発の轟音と、ついで襲い来る衝撃が旧校舎を叩き付けた。

 

何事かと思い、私は窓から外を覗くと、街を覆う夜の空の一部が、黄金色に染まっているのが見えた。

 

どうやらあの辺一帯に結界が張られているらしく、街の住人達は黄金色の空に目もくれていないが……。

 

「なに……これ?」

 

空の方へと視界を凝らすと、光の放つ場所はイッセー達のいる教会の方角だと分かる。

 

堕天使の秘密兵器が炸裂したのか、はたまた天使達の介入があったのか。

 

……やばい。どうやら私は相当混乱しているらしい。

 

ありもしない事態に不安に怯えても、メリットなんてあるわけがない。

 

「……朱乃、準備を!」

 

「は、はい!」

 

朱乃も私と同じように混乱していたらしく、私の言葉で我に返ると、魔方陣の中心に立って転移の準備を始める。

 

「イッセー、木場、小猫、無事でいて!」

 

感じる不安を払いながら、私は準備を整える朱乃を無言の眼差しで急かすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 礼拝堂。

 

今、この場には悪魔と堕天使。対立する二つの種族が夜の礼拝堂に集っていた。

 

相容れない種族。永い間争い続け、今なお睨み合っている両者。

 

その種族がこうして相対しているというのに、礼拝堂は恐ろしく静かだった。

 

「ぶ、ブロリー……さん?」

 

沈黙を破ったのは、一誠だった。

 

逆立った金色の髪、エメラルドグリーンに輝く双眸と全身に纏った黄金の炎。

 

圧倒的。

 

この場にいる全員の頭にはただ目の前の存在に対する畏怖しかなかった。

 

変わり果てた姿のブロリーに恐る恐る訊ねる一誠だが、当の本人は聞こえている素振りすら見せず、ただ目の前の堕天使──レイナーレを睨みつけていた。

 

(怖くはなかったのか?)

 

 ふと、ブロリーは長椅子に今はもう動かないアーシアに視線を向ける。

 

自分には過去の記憶がなく、それ故に死に対する恐怖というものが理解出来ていない。

 

痛いのか? それとも怖いのか? もしくはその両方なのか?

 

どんなに考えても、答えは出ない。

 

しかし、これだけは言える。

 

彼女は自分が死ぬのを分かっていながら、それでも笑っていたという事。

 

苦しくても、怖くても、それが分かっていながら彼女は笑っていたのだ。

 

……諦めの微笑? 違う。彼女の笑顔はそんな小さなモノじゃない。

 

言うなれば、そう、彼女の笑顔は感謝からくるモノだ。

 

自分が弱いのを知っているから、一人では何も出来ないから。

 

だからせめて、感謝の意味を込めて笑っていよう。

 

友達になってくれた一誠とブロリーに、せめて、自分に出来る最高の笑顔を贈ろうと。

 

怖くても、苦しくても、友人である二人に感謝を込めて。

 

“ありがとう”

 

(嗚呼、そうか、漸く分かった)

 

 記憶もなく、感情も乏しく、何もかも失ったブロリーだが、この時、一つ取り戻したモノがある。

 

体の内側、魂の底から湧き上がるこの衝動。

 

それは────“怒り”。

 

何故こんなにも胸の奥がざわつくのか、その理由を理解し、受け入れたブロリーは再びレイナーレに視線を向け。

 

一歩、前に出た。

 

瞬間、礼拝堂にあるステンドガラスが弾け飛ぶ。

 

何事かと思った一誠はアーシアの体に傷が付かないよう彼女の上に被さり、落ちてくるガラス破片から守る盾となる。

 

また一歩、前に出る。

 

途轍もない威圧感と共に歩み寄ってくるブロリーに、レイナーレは怯えた表情を晒す。

 

───何だ? この化け物は?

 

思考がマトモに働かない。レイナーレの頭にあるのは目の前の化け物に対する混乱のみ。

 

追い詰められた罪人に残された手段は少ない。一つは自分の非を認め自ら詫びる事。

 

そして、もう一つは……。

 

「ドーナシーク! カラワーナ! この男を始末なさい!」

 

迫り来る執行者に対し、最後の足掻きを見せること。

 

突然のレイナーレからの指示に戸惑う二人。

 

「この男は放っておけば我々堕天使の脅威となる! 今のうちに始末しておかなければ!」

 

「し、しかし!」

 

「奴を葬ったらそれこそ私達が上に登るチャンスも増える! そうなれば幹部の席も夢じゃない!」

 

「「っ!!」」

 

堕天使の幹部。古からの強者が連なるその席に自分の名を刻める事が出来る。

 

欲望に駆られた二人は漆黒の翼を広げ、光の槍を手にブロリーに襲い掛かる。

 

「このぉぉぉぉぉっ!」

 

「うおぉぉぉぉおっ!!」

 

投擲される二本の槍、ブロリーはそれらを掴み取り。

 

「ふんっ」

 

投げ返した。

 

返されたブロリーの投擲に二人の体は貫かれ、上半身、下半身と消滅。

 

「っ!?」

 

絶句。それはそうだろう。

 

投擲され、ブロリーに当たると確信したと同時に、いつの間にか二人は地に這い蹲って息絶えていたのだ。

 

上半身だけとなったカラワーナも、何が起こったのか理解出来ていない表情で事切れている。

 

教会に空いた二つの穴、それを見て漸く何が起こったのか理解したレイナーレは、大量に冷や汗を流し、ガクガクと震えながらブロリーに向き直った。

 

「……すげぇ」

 

自分を殺した堕天使、その仲間二人を一瞬で葬ったブロリーに、一誠は驚愕の声を漏らしていると。

 

神器となった左手の甲にある宝玉から、一匹の龍の紋章が浮かび上がり。

 

『Doragon Booster!!(ドラゴン ブースター)』

 

一誠の体に力が駆け巡った。

 

(な、なんだこれ? どうなってんだ?)

 

自身の神器に起こる突然の変化。よくよく見れば赤い籠手の周りに金色の炎が纏っているように見える。

 

「これって、ブロリーさんが?」

 

ふとブロリーの方へ視線を向けるが、依然として此方には目もくれず、ただレイナーレを睨みつけている。

 

そして、同時に気付く。自分はここにアーシアを助けに来たんだ。

 

もうその願いは叶わないが、せめて、自分の手で決着を付けなければ。

 

レイナーレに気付かれないよう注意しながら、一誠は長椅子に隠れながら移動する。

 

「と、止まりなさい! 止まらないとこの悪魔を消すわよ!」

 

圧倒的強さを誇るブロリーに適わないと悟ると、ミッテルトは隣にいるはずの一誠に光の槍を向ける。

 

力では勝てない。そう瞬時に理解したミッテルトはブロリーの弱点を突く事にした。

 

一誠をダシにブロリーを捕らえた事は知っている。ならばもう一度その手を使うまで。

 

そして、ミッテルトの狙いは見事に的中。此方に振り向いたブロリーは目を細めて動きを止めている。

 

「そうそう、いいこね。なら次は……て、あれ?」

 

勝利を確信し、笑みを零すミッテルトだが、隣りを見た瞬間その表情は凍り付く。

 

……いない。そこにいるはずの一誠の姿が影も形も見当たらない。

 

一体……どこに? そう考えている間に、目の前にはブロリーの拳が迫り。

 

「や、やめ!!」

 

ブロリーの左の拳が、ミッテルトの体を貫いた。

 

拳圧で消し飛ぶミッテルト、その衝撃は彼女の後ろにあった首のない聖人の彫刻を砕き、教会を半壊にまで追い込んでいく。

 

「うわっ!」

 

「危ないです」

 

落ちてくる教会の残骸に堪らず出てくる木場と小猫。

 

尋常じゃない剛力に戦慄する二人だが、今はそんな場合じゃない。

 

 

いなくなった一誠の変わりに今度は二人がアーシアの、体を守ろうと、落ちてくる瓦礫を払う。

 

一方、ブロリーの馬鹿げた力にすっかり怯えたレイナーレは恥も外見も捨て、一目散に逃げ出していた。

 

あんな奴、相手にする方がどうかしている。

 

三人の仲間を捨て駒にした事で、逃げる隙を得たレイナーレは、漆黒の翼を広げ、穴の空いた壁から逃げ出そうとする。

 

 

「逃がすかよ!」

 

目の前には、此方に向かって飛び出してくる一誠がいた。

 

神器となった左手からは眩い輝きを放っている。

 

恐らくは神器の力を使っている最中なのだろう。

 

落ちてくる瓦礫の所為で迂回する事は出来ない、ならば目の前の障害を駆逐するまで。

 

「失せない! 下等な下級悪魔風情が!」

 

全力で以て投擲される光の槍。その力は下級悪魔なら触れただけで消滅する威力を秘めている。

 

まだあの化け物(ブロリー)は此方に気付いていない。

 

一誠に当たるその瞬間まで、レイナーレは自らの勝利を確信していたが。

 

『Explosion!!(エクスプロージョン)』

 

眩い光を放つ宝玉から力強い機械的な声が聞こえると。

 

「オラァッ!」

 

「っ!?」

 

気合いと共に凪払う左腕に、レイナーレの渾身の光の槍はガラス細工の如く砕け散った。

 

驚愕に目を見開くレイナーレだが、その瞬間には既に一誠は目の前に迫り。

 

「く、来るな! 私は、私は至高の!」

 

「吹っ飛べ、クソ天使!!」

 

一誠の、全てを乗せて放った右拳はレイナーレの顔面を捉え、体ごと吹き飛んでいく。

 

そして、吹き飛んだレイナーレの先には、右手に碧の光を収束させたブロリーの姿が。

 

「あ、ああ……」

 

絶望に顔を歪ませるレイナーレ。

 

既に彼女には、慈悲も、命乞いもする間もなく。

 

「とっておきだぁ」

 

零距離。

 

ブロリーの放つ光の奔流に呑み込まれ、レイナーレは一枚の羽すら残さず、この世から消滅した。

 

そして、消えゆくレイナーレを最後に一誠は……。

 

 

「グッバイ。俺の恋」

 

初恋と共に、嘗ての彼女へ別れを告げた。

 

ブロリーの放った閃光、それを切欠に教会は完全にそのバランスを崩し。

 

神の加護を受けたその施設は、音と共に崩れ落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アーシア」

 

 瓦礫の山となった教会。木場と小猫のフォローのお陰で傷一つないアーシアの遺体の前で、ブロリーは力なくうなだれていた。

 

既にブロリーの姿は金髪碧眼ではなく、いつもの黒髪黒目へと戻っている。

 

 ……力が入らない。どんなに力を込めようと拳を握り締めても、ブロリーの体に力が入ることはなかった。

 

あの金色の姿になった副作用か? ……違う、その原因は目の前のアーシアからくるモノだった。

 

「また……失くした」

 

記憶を失い、漸く怒りという感情を手にしても、また失ってしまった。

 

友達という。ブロリーにとって宝と呼ばれるモノを……。

 

もう、彼女は起きない。

 

どんなに言葉を掛けても、返事を返す事はない。

 

───もう、彼女の笑顔を見ることはない。

 

何故だろう。そう思うと、胸の奥が苦しくて仕方がない。

 

ふと、ブロリーは自分の頬に何かが流れているのに気付くと、それを拭い。

 

「……しょっぱい」

 

ペロッと舐めると、その液体からは苦く、そして塩辛い味がした。

 

「それは、涙ですわ」

 

「朱乃?」

 

いつの間にか、ブロリーの後ろには微笑みを浮かべている朱乃がいた。

 

「それを流せるのは心の優しい人の証。ブロリーさん、あなたはイッセーくんと同じ、優しい人なんですのね」

 

そう言って朱乃はブロリーの横に立ち、彼の肩を優しく叩いた。

 

───優しい。

 

何故だろうか、朱乃の教えてくれたその言葉は、何故だか自分にはとても不似合いな気がしてならない。

 

「……そう言えば、他の皆も来ているんだよな?」

 

「あら? もしかして今まで気付かなかったのですか? イッセーくん達なら、部長の所に」

 

そう言って朱乃の指差す方へ視線を向けると、そこには何やらリアスに説明を受けている一誠達がいた。

 

赤い籠手に覆われた左腕を見て、酷く驚いている一誠。

 

何を言っているのかよく聞き取れないが、赤龍帝とか、神とか、神滅具(ロンギヌス)とか、聞き慣れない単語が続々出てくる。

 

すると、此方に気付いたリアスが笑みを浮かべながらブロリーの方へ歩み寄ってきた。

 

「今晩はブロリー。今回は災難だったわね」

 

「……あぁ」

 

「イッセーや木場、小猫から話を聞いて大体の事情は把握したわ。アナタのその力は失った記憶に関係あると見て間違いないから大事に扱いなさいね」

 

「……あぁ」

 

どんなに呼び掛けても殆ど反応を示さないブロリーに、リアスは嘆息を零す。

 

「ブロリー、イッセー、ちょっとこれを見てちょうだい」

 

「?」

 

「な、何ですか?」

 

リアスに言われるがまま、彼女の手元を見つめる二人。

 

リアスの手にあったモノ、それは──血のように紅いチェスの駒だった。

 

「そ、それは?」

 

「これはね、僧侶の駒よ」

 

リアスの答えに目が点になる二人。

 

よく言葉の意味を理解出来ていない二人にリアスは説明を付け加えた。

 

「説明するのが遅れたけど、爵位持ちの悪魔が手にできる駒の数は兵士が八つ、騎士、戦車、僧侶が二つずつ、女王が一つの合計15体なの。実際のチェスと同じね。僧侶は既に一つ使ってしまっているけれど、私にはもう一つだけ僧侶の駒があるの。小猫、来なさい」

 

「はい、部長」

 

リアスの指示に従い、彼女の隣へ移る小猫。

 

その手にはアーシアから抜き取られた神器が、淡い光を放ちながら小猫の手の上でフヨフヨと浮かんでいる。

 

「僧侶の力は眷属の悪魔をフォローする事、この子の回復能力は僧侶として使えるわ。前代未聞だけれどこのシスターを悪魔へと転生させてみる」

 

そう言ってリアスは小猫を引き連れ、眠るように死んでいるアーシアのもとへ足を向ける。

 

そして、彼女の胸に紅い僧侶の駒を置き、リアスはその全身に紅い魔力を覆わせて。

 

「我、リアス=グレモリーの名において命ず。汝、アーシア=アルジェントよ。いま再び我の下僕となるため、この地へ魂を帰還させ、悪魔と成れ。汝、我が僧侶として、新たな生に歓喜せよ!」

 

駒が紅い光を発してアーシアの胸へと沈んでいく。同時に小猫の手にあった神器も緑色の光を放ちながら彼女の手から離れ。

 

紅い駒と同様に、アーシアの神器も彼女の体へと入り込んでいた。

 

駒と神器が完全にアーシアの中へ入るのを確認すると、リアスは魔力の波動を止め、「ふぅ」と息を吐く。

 

僅かばかりの静寂。ブロリーと一誠は呆然と眺めていると。

 

「あれ?」

 

アーシアの声、二度と聞こえなかった彼女の声に一誠は堪らず彼女に駆け寄り、その華奢な体を抱き締めた。

 

「……リアス」

 

「私は彼女の悪魔すら回復させるその力が欲しかったから転生させただけよ。言わばアナタが消滅させた堕天使レイナーレと同じ事を私はしたのよ。……どう、軽蔑した?」

 

「……いや、ありがとう」

 

自嘲の笑みを浮かべ、自分はあのレイナーレと同じ事をしたというリアス。

 

だがブロリーはそれが彼女の本音ではないと何となく勘で理解し、ただ一言礼を述べた。

 

 

「……ふふ」

 

そんな彼に朱乃はクスリと笑い、リアスも吊られて笑みを零す。

 

木場も微笑みを浮かべ、普段無表情な小猫も嬉しそうに笑っているように見えた。

 

誰もが微笑む中、ブロリーは再び自分の中にある感情が芽生えた。

 

──それは、喜び。

 

嬉しいから、楽しいから、人は笑う。

 

そこには悪魔も人も関係ないのだと、ブロリーは目の前の光景を見て、それを学んだ。

 

「い、イッセーさん? あれ? 私……どうして?」

 

未だ状況が呑み込めておらず、辺りをキョロキョロと見渡すアーシア。

 

そんな彼女にブロリーは手を差し伸べ。

 

「帰ろう、アーシア」

 

暖かな日の出が、瓦礫の山となった教会跡地を照らし出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ~あ」

 

 駒王学園へと続く通学路。いつもより早い時間に起きたブロリーは、寝ぼけ眼を擦りながら学園へと歩いていた。

 

教会での出来事から数時間後、殆ど睡眠を取らずに職場へと向かうのだから厳しい所である。

 

え? お前丸一日寝てただろうって?

 

それはそれ、これはこれ。

 

それは兎も角として、雇われている身としてはこれ以上サボる訳にもいかない。

 

しかもリアスの話では、ブロリーのいなかったその日、生徒会の匙が代役を務め、馬車馬の如くこき使われているという。

 

匙に申し訳ない事をしたなと思いつつ、ブロリーは学園に向けて足を進めた。

 

と、目の前の電柱で見知った少女がキョロキョロと辺りを見渡し、こちらに気付くと満面の笑みを振り撒いて走り寄ってきた。

 

「ブロリーさーん。おはようございます~!」

 

制服姿のアーシア。その様子から見るに既に学校への手続きは済んでいる様子。

 

「アーシア、体はもういいのか?」

 

「はい! お陰様でもうすっかり!」

 

可愛らしく元気をアピールするアーシア。そんな彼女の姿を見てブロリーは内心で安堵する。

 

ほんの数時間前までは生死をさまよう……いや、実際は死んでいたというのに、悪魔とは体力のある生命体である。

 

 

 あの教会での出来事は悪魔と堕天使の小競り合いから起きたものだと、リアス=グレモリーは冥界にいる両親にそう報告した。

 

あそこの教会は元々捨てられた場所であり、天使や神の加護は既に失われた場所。

 

そこに上層部を騙し堕天使達が私利私欲の為に活用し、リアス達悪魔がそこで少し喧嘩をしたのだと、“表向き”ではそうなっている。

 

故に、今回の事が原因で悪魔と堕天使が全面戦争になるような事態には間違っても起きないとリアスは保証してくれた。

 

「……後悔、してないか?」

 

 ブロリーの一言でアーシアは少しばかり表情を暗くさせる。

 

アーシアは神に仕える聖職者。

 

 

経緯はどうあれ、嘗ては聖女とまで呼ばれていた彼女が今は悪魔になっているのだ。

 

その心中は、恐らくは複雑なものだろう。

 

しかし、そんなブロリーの心配を余所に……。

 

「確かに私は悪魔になっちゃいましたし、神様に顔向けできなくなりましたけど、今私は幸せです。こうしてイッセーさんやブロリーさんとまた会えたんですから!」

 

そう言って満面の笑みを浮かべるアーシアに、ブロリーは毒気を抜かれて目をパチクリとさせる。

 

「そ、それでですね。私、イッセーさんから訊いたんです。私が眠っていた間、ブロリーさんは私の為に戦ってくれたって。だから私、お礼がしたくて……でも、私、バカだからこんな時、なんてお礼をしたらいいか分からなくて」

 

再び俯くアーシア。

 

ブロリーは自分の為に戦ってくれた。

 

そんな彼に少しでも報いたい、けど、どうすればいいか分からない。

 

そんな悩めるアーシアに、ブロリーはその大きな手を彼女の頭に優しく乗せ。

 

「礼なら、もう貰っている」

 

「……へ?」

 

それだけ告げると、ブロリーは振り返らず、学園へと向けて再び歩き出す。

 

ドンドン遠くなるブロリーの背中にアーシアは深く頭を下げると、その場を立ち去っていった。

 

──そう。彼女からは既に沢山のモノを貰っている。

 

怒りと喜びという二つの感情。

 

そして、アーシアという友達を得た事。

 

何より、屈託のない本物の笑顔を見れた事。

 

 

記憶を失ったブロリーだが、こんな日々も悪くはない。

 

そう、思えるようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり、そうだ」

 

「我、間違いなかった」

 

「会いたかった。会いたかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“静寂の根源”よ。

 

 

 




ひとまずここまでが原作第一巻分です。

……そろそろタグに無双を付けるべきか。

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