てんこうぐらし!~SCHOOL LIVE! IF STORY~   作:委員長@バカ犬

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第2話「さよなら」に挿絵を投稿しました!良かったらみてください!


第8話「とうこう」

弥涼と圭が目指していた巡ヶ丘高校。そこには4人の少女と、一匹の子犬がいた。

三階の生徒会室だった場所を部室とし、三階と屋上で生活する少女たち。彼女達は自分達を「学園生活部」と呼んでいた。

今、部員達は部室に集まり、テーブルを囲んでいた。

 

「はっ!今、いいこと思いついたよ!!」

 

先ほどまでうつ伏せて眠っていた丈槍由紀(たけや ゆき)がガバッと起き上がる。

 

「おっ、いきなりどうした由紀?」

 

「ふっふっふー……くるみちゃん!今まで私達学園生活部は様々な学校行事をやってきたよね!」

 

「あー、確かに色々やったな。遠足とか、体育祭とか……」

 

「だけど!まだやってないことがあるんだよ!!」

 

「それで、一体なんなんですか由紀先輩?」

 

「それを今から言うんだよみーくん!

それはねー……転・校・生!!!だよっ!!」

 

「えっ……転校生、ですか?」

 

「そう!学校生活において、大切な行事の1つだよ!!」

 

「由紀ちゃん……それは行事というか、恋愛ゲームのイベントみたいな感じになってるわよ?」

 

「むーっ…りーさんも否定的?」

 

「否定的というか…転校生ってのは流石に私達ではどうすることも出来ないし」

 

由紀が突拍子もないことを口にするのはいつものことだった。

ここだけは平和そのものだ。

だが、三階から下には今でも「あいつら」がいる。

なんとか生き延びた彼女達は三階と二階の間を封鎖していたのだ。

屋上には太陽光発電設備と園芸部が使っていた菜園があった。

そして時折外に食料の調達をしたりすることでなんとか生活することができていたのだった。

それが今の彼女達の日常。そんな時だった。

 

 

ーーーー外からけたたましいクラクションの音が聞こえてきたのだ。

 

 

 

「えっ……!?何だ!!」

 

「誰か来たのかな?」

 

「嘘でしょ…!?そんな訳……!」

 

皆が窓の外から見える校庭を見る。そんな中、1人だけ校門の方を見ているものがいた。

 

「みーくん、どうしたの?」

 

「そ、そんな……まさか……っ!!」

 

彼女こそ、弥涼と圭が探していた直衛美紀その人だった。

 

「圭……っ!!」

 

美紀の目には、校門から走ってくる2人の少女が見えていた。

1人は他校の生徒のようだ。木刀を持ち、先頭を走っている。

そしてもう一人、彼女の後ろを追い掛けていた……間違いなく、圭だった。

 

「圭……待ってて!!」

 

そう言って美紀は部室から出て行く。考えなんてない、とにかくいかなきゃならないと思ってしまったのだ。

 

「お、おい!美紀……!!クソッ……!!」

 

恵飛須沢胡桃(えびすざわ くるみ)も美紀を追いかけ、壁にかけていたシャベルを取り部室を出て行く。

 

「みーくん!くるみちゃん…!!」

 

「待って由紀ちゃん!!行っちゃダメよ……っ!!」

 

更に追いかけようとする由紀を若狭悠里(わかさ ゆうり)が呼び止めようとした。だが、その静止を振り切り、由紀までも部室から出て行ってしまった。

 

「あ……仕方ないわね……っ!!」

 

悠里は部室に仕舞っていた防犯ブザーの1つを取り出し、校庭に向けて投げ込む。

「あいつら」を陽動し、少しでも美紀達や、こちらへ向かってくる少女たちから気をそらさせるためだ。

 

 

 

 

 

 

「ほらっ……!!やっぱり誰かおるで!!」

 

「陽動してくれてるみたいだね……!このまま学校に入ろう!!」

 

弥涼と圭の2人は校門から少し離れた場所から原付バイクのクラクションを鳴らした後、急いで校庭へ向かっていたのだ。

三階から悠里が手を振っているのが見える。彼女が校庭へ投げ入れた防犯ブザーのおかげで「あいつら」は気を取られている。

その隙をついて2人は昇降口へと辿り着いた。

ちょうどその時だった。

 

「圭ーーッ!!」

 

「この声……!」

 

部室から出て行っていた美紀が真っ先に昇降口へと駆けつけてきた。

 

「美紀……っ!!良かった……!!」

 

「圭もだよ……っ!!」

 

ようやく出会えた2人は互いに抱きしめあう。

 

「感動の再開は後だ!!部室へ戻るぞっ!!」

 

遅れてやってきた胡桃がそう言い、2人ははっと我に帰る。

 

「悪いけどそこのアンタも、名乗るのは後だ!!」

 

「部室……?まぁええわ、案内頼むで!!」

 

部室という言葉に少し疑問を覚えるも弥涼は今は気にしないことにする。

 

「それじゃあ、美紀達は前を行ってくれ!殿はアタシがやる!」

 

そう言ってまずは美紀と圭を先に行かせる。

そのすぐ後ろを弥涼がついて行き、最後に胡桃が追いかける。

この時点で、由紀までこっちへ向かってきていることを胡桃は知らなかった。

 

「二階まではあいつらはまだいるから気をつけてくれ!」

 

「2人に何かあったらウチが守るから安心しときや!」

 

そう言い合い、廊下を走っていたその時だった。

美紀達の目の前に「あいつら」が一体現れたのだ。

 

「あぶなぁーーーいっ!!」

 

そんな「あいつら」に背後から由紀が体当たりを仕掛けた。

見事に前方へ倒れ伏す「あいつら」。だが、すぐに寝返りを打ち、由紀へと襲いかかろうとした!!

 

「んなろぉーーーっ!!」

 

咄嗟に追いついた弥涼が「あいつら」の脳天目掛けて木刀を振り下ろす。

一部腐っていて強度が弱っていたのか、一撃で頭蓋を叩き割り、「あいつら」は動かなくなる。

 

「あっ……」

 

由紀にはその光景はどう映ったのだろうか。かつて同じ学校に通っていた生徒が変わり果てた姿となり、他校からやってきた子が木刀でそれにトドメを刺したのだ。

それを受け入れきれなかったのか、由紀は意識を失い、倒れ込んでしまう。

 

「由紀先輩っ!!」

 

倒れようとする由紀の体を美紀が咄嗟に支える。

 

「由紀まで来てたのか…仕方ないっ!」

 

後からきた胡桃が由紀を背負い、三階に向かって階段を登っていく。

 

問題は三階の踊場に到達したときだ。

 

彼女達が三階を確保出来た要因の1つ、机と針金で組まれたバリケードがそこにあった。

まずは美紀と圭を乗り越えさせ、向こう側へ避難させた。

そして弥涼が上に登る。

 

「よしっ……次にその子やな。こっちへ上げてや!

 

「なるほど…!頼むぞ!!」

 

胡桃が由紀を持ち上げ、上で待っていた弥涼が受け取り、更に向こう側で待つ美紀と圭に託した。

そうして無事に全員がバリケードを乗り越え、部室へと到達した。

みんなを待っていた悠里はまだ、安心したようにホッと息をついた。

 

 

 

 

 

「改めて自己紹介やな。ウチは田無弥涼、如月学園の二年生です」

 

「祠堂圭です。美紀の友達で、二年生です」

 

「そう…あなたが美紀ちゃんの言ってた子なのね!

私は若狭悠里、三年生よ」

 

「アタシは恵飛須沢胡桃。同じく三年生だ!」

 

「圭の友達の直衛美紀です…。弥涼さん、圭を助けてくれて、本当にありがとうございました…!!

それと、今寝ているのが丈槍由紀先輩。こう見えて三年生なんですよ」

 

部室にて、お互い自己紹介をし、それぞれの経歴を語り合っていた。由紀はまだ気を失ったままだ。

 

「ところで、この人は今はどちらに…?」

 

少し聞きづらそうに、弥涼はここへ来るきっかけとなったポストカードを見せ、「めぐねえ」という人物について尋ねた。そのことを聞かれた途端、悠里と胡桃、美紀の表情が暗くなる。

 

「めぐねえのことね……あの人はもう、いないの……。美紀ちゃんがくる前にね」

 

「そうやったんですか……ごめんなさい」

 

それ以上は深く聞かないことにした。亡くなった人について詮索するのは良くない。

 

「それからね……弥涼ちゃんと圭ちゃんにお願いがあるの」

 

「はい……?」

 

「………由紀ちゃんの前では、何もなかったように振る舞って欲しいの」

 

「何もないって……そりゃどういうことです?」

 

「「あいつら」は現れておらず、誰も死んでいない。

いつもと変わらない毎日……由紀ちゃんにとっては、世界はそう見えているの

さっきも話しためぐねえも、由紀ちゃんにとってはまだ見えているのよ」

 

きっと、様々な苦難があったのだろう。現実を受け入れることが出来なくなり、逃げているのかもしれない。

でも、それはきっと悪いことではないのだ。

 

そう考え、2人は静かに頷いた。

 

「あっ、そうだ!弥涼、ちょっとこっち来てくれるか?」

 

「なんや?胡桃センパイ?」

 

ふと何かを思いついた胡桃は、すぐそばの更衣室へ弥涼を案内していった。

由紀が目覚めるまで、胡桃の指示を受けて他の学園生活部メンバーと圭は何かの準備を始めていた。


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