てんこうぐらし!~SCHOOL LIVE! IF STORY~ 作:委員長@バカ犬
いよいよ、本編と繋がっていくと思います。
「……す………ん……」
声が聞こえる。これは、誰の声?
…聞いたことがあるような…
「…すず…………ん…」
自分を呼んでいる?
「………すずちゃん……」
ーーーーそうだ。これは、水奈の声だ。
大事な、とても大事な親友の声だ。
でも……水奈はもう……自分が……
「……………………」
『ど う し て こ ろ し た の』
「……弥涼ッ!!」
「……ひッ!?」
圭の声が聞こえたが、弥涼には別人の声にでも聞こえたのだろうか。咄嗟に飛び起き、圭の方へ振り返った。
「け……圭……?」
「大丈夫?うなされてたよ…?」
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
額にはおびただしい量の汗が流れていた。
「……また、あの夢を見たんやな……」
水奈に限って、あんなことを言うはずはない……。
あれは、自分が罪悪感から産んだ妄想なんだ。
そう思っても、どうしてもあの夢を見てしまう。
ーー結局、弥涼は自身の罪を無意識で許していないのだ。
「弥涼……」
圭には、弥涼が経験したことはわからない。
でも、街に蔓延る「あいつら」を見ると、何があったのかは察しがついた。
だから、深くは聞かないことにした。
あれから……二人でショッピングモール「TRON」での避難生活を始めて数日経つ。
やはり、救助は来なかった。
弥涼も三日に一度程はこうやって眠るとうなされることがある。
自分を守るために木刀一本で「あいつら」と戦っている。
精神的にも、肉体的にも疲労が溜まっているに違いない。
「弥涼、今日は見回りもしなくていいから…休もう?」
「うん……そうさせて貰うわ……」
汗を拭い、弥涼は深呼吸でもしようと思い、窓を開けて外の景色を眺めてみた。
澄みきった青空、舞い踊る鳥達。都会のはずなのに車の排気ガスの匂いすらしない。
ここまでは……平和に見えた。
下には所々に「あいつら」の姿が見える。
「あいつら」を見ただけで現実を思い知ってしまう。
圭の友達……美紀は果たして、無事なのだろうか?
「……ん?」
視線を再び空に戻した時、何かが見えた。鳥ではない……目を凝らしてみる。
「……風船?」
風に流され、いくつかの風船が飛んでいた。更によく見てみると、風船の紐の先には四角いものが括り付けてある。
「圭、圭ッ!!」
「えっ…どうかしたの?」
「あれ見てみ……!」
「嘘…ッ!?風船!?」
「誰か…生きてる人が飛ばしたんや!!」
偶然にも、そのうちの一つがこっちの方へ飛んできていた。
「なんか棒みたいなもんは……これかっ!」
腰にさしていた木刀を取り出し、風船の紐へ引っ掛けて取ろうとしてみる。
「ん……こなくそぉぉぉ……ッ!!」
左手で窓枠を掴み、精一杯身を乗り出し、緩やかに飛んでくる風船へむけ、右手で木刀を伸ばす。
そして……紐へ上手く引っかけられた!
「圭ッ!!取れたで!!……うわぁっ!?」
取れたことに喜び、気を抜いたその時にバランスが崩れ、左手を離してしまった。
「弥涼っ!!」
すぐそばにいた圭は咄嗟に弥涼の腕を掴み、思いっきり引っ張った。
すると風船を持った弥涼も含め、圭も部屋の中……というか、床にたたきつけられた。
「いったぁぁぁっ!?!?
……っててー……もっと優しく引っ張ってやぁ……」
「ご、ごめん…助けなきゃって必死で…えへへ……」
何はともあれ、風船を拾う事は出来た。風船の紐に括り付けてあったものがなんなのか、確かめようとする。
「…手紙?」
「なるほど!こうすれば誰かに生きていることが伝えられたんだ!!」
子供なら誰もが一度はやってみたいと思う、伝書鳩のようなものだ。こんな状況だったから考えもしなかった。
相当遊び心のある人間なのだろう……そう思った。
「ねぇねぇ、手紙読んでみようよ!」
圭に急かされ、手紙を開いてみようと思ったが、その前に、裏に絵が描かれていることに気付いた。
四人の女の子と、先生と子犬がデフォルメされた絵に、上には『わたしたちは元気です』とメッセージが書かれてあった。
「あれ…この制服……圭のとこと同じやない?」
「うそ?どれどれ…?」
圭もその絵を見てみる。
その瞬間、圭の目から涙が流れてきた。
「お、おい…圭?どないしたん…?」
「これ……っ!この子……ッ!!」
涙ぐみながら、圭は5人の内、右端の銀髪のショートカットの少女を指差した。
「まさかっ…!」
「間違いない……美紀だよ……美紀……ッ!!太郎丸も……っ!!
良かった………生きてたんだ……………ッ!!」
ぽたぽたと手紙に涙を滴らせてしまう。
生きていてくれた……そのことがなによりも嬉しかったのだ。
「この子が……美紀……それと…太郎丸……他の人は知っとるか?」
「ううん……多分、真ん中の三人は三年生だと思う……左の人は確か………先生だったと思う」
「ってことは……この人達と美紀は合流出来たってことやな……あっ!住所が書かれとるでっ!!…それと…経緯?」
「この住所って……私の学校だっ!!」
「ってことは……美紀も学校におるってことやな!」
「弥涼っ!!はやくっ!!早く学校に行こうよ!!」
「待ちや圭!!……もう一つ、手紙が入っとるで……圭宛ての」
圭が美紀の絵を見ていた間、弥涼はもう一つ手紙が入っていることに気がついていた。
「私宛てっ!?美紀が書いたのかな…っ!!」
「……ウチが読んだる」
一度深く息を吸い、読み上げる。
『圭、お元気ですか?
私は新しい場所で、新しい友達が出来ました。
私は元気です。
太郎丸も元気です。
ここのみんなの、おかげです。
うん、生きているって素晴らしいよ。
露落ちて 花残れり
花しぼみて 露なほ消えず
いつかまた、私の行く道の先で、あなたと出会えますように……』
「……っ!!……!!!」
もう、声にならない。鼻水が垂れてこようが構わない。圭はひたすら泣き続けていた。
「ごめんね…ごめんね…美紀……太郎丸……ッ!!
心配かけちゃったね……ッ!!」
「圭、それは……美紀と太郎丸に会って、直接言わなアカンやろ?」
そう言って弥涼は手紙をしまい、木刀を担ぎ、立ち上がった。
「行こう!圭っ!!学校へっ!!」
「……うんっ!」
弥涼が差し延べた手を、圭は強く握りしめた。
次回、いよいよ巡ヶ丘高校へ向かいます!!