てんこうぐらし!~SCHOOL LIVE! IF STORY~   作:委員長@バカ犬

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弥涼の過去編パート2です。
酷い鬱展開が待っています。覚悟して読んでください。


第2話「さよなら」

水奈はもう見えなくなった。全力で走ったのだから追いつけるはずがない。

 

帰り道は、何かがおかしかった。

あちらこちらで交通事故が多発してるように見えるし、たくさんの人が逃げ惑っていた。

一体何から…?その疑問はすぐに解消された。

 

「…どういうことや…あれ…」

 

人が、人を食べていた。いや、人の皮を被った何かが…食らっていた。

食らっている人のようなものはよく見ると全身が血まみれだった。生きてるのが不思議なレベルの傷を負っているように見える。

それでも、アイツは生きている。

 

そして、食われた人間の方も、しばらく痙攣したかと思うと、むくりと起き上がった。アイツの仲間入りを果たしたように…。

 

弥涼はこの事態がいまだに理解できない。ただ、心の奥底から「怖い」という気持ちだけが溢れ出てくる。

 

「…!オカン…!無事でおってくれよ…!!」

 

ハッと母の顔が脳裏をかすめる。帰らなきゃいけない。こんな状況で母をひとりにしておいてはいけない。助けてあげなきゃ…!

弥涼は袋に入れていた木刀を取り出し、一目散に走った。

 

 

 

 

 

 

自宅に近付けば近付くほど、地獄絵図は深刻化していってるように見えた。生存者もかなり減ってきている。

「あいつら」に囲まれ、なすすべなく悲鳴を上げながら食われる人々が見える。

 

 

どんどんどんどん心臓の鼓動が早くなっていく。

あのメールの文面、スマホから聞こえた不快な音…もう母はダメかもしれない。そう思ってしまう。

 

「違う…!!オカンは大丈夫や…大丈夫や…ッ!!!」

 

自分にそう言い聞かせる。きっと無事に違いない。何の根拠もないが、そう思わなければ弥涼の心は折れてしまいそうだった。

 

ーーーそして、家についた。ワンルームのアパートの一階。部屋は狭いが、それでも母との二人暮らしだから支障はなかった。大好きな母と一時も離れずに暮らしていけたから。

 

「はぁ…はぁ…」

 

何があってもいいように、木刀は構えたまま玄関に立つ。

鍵は開いていた。ドアノブには血の痕がびっしりあった。だが、そんなものは気にしなかった。

 

「オカン…!ただいま!!」

 

ドアを勢いよく開く。まだ昼間だと言うのに、窓の少ないワンルームの部屋は少し暗く感じた。

…いた。母がいた。部屋の真ん中でうつ伏せに倒れており、血溜まりが出来ていた。

 

「…!?オカンッッ!!しっかりせぇや!!」

 

肌も青白い。既に息もなかった。しかし、そんなことを受け入れたくない。弥涼はしきりに動かない母の身体を揺さぶる。

救命措置も行おうと思ったが、あまりにもひどい傷口を見ると我に帰ってしまった。 

もうあの笑顔を二度と見れない、もう怒った顔も二度と見れない。

 

「…なんでや…なんでオカンまで殺されなアカンねん…!!」

 

ぽたぽたと涙が零れる。泣かずにはいられなかった。

そして、一つの決意が固まる。

 

「あのバケモン共…殺したる……!!」

 

涙と怒りの感情で酷く表情が歪む。許せない、許せない…。

木刀を握りしめ、再び玄関まで歩いていく。

 

「あ…すず…ちゃん?」

 

「…み…な…?」

 

息も絶え絶えな水奈がきていた。

 

「すずちゃん…お母さんは…?」

 

水奈もだいたいわかっていた。でも聞かなきゃいけないと思った。

 

「…うっ…うぅ…ッ!!オカンが…オカンがぁ…ッッ!!」

 

水奈の優しい口調が弥涼の心を貫く。一目散に水奈に抱きつき、泣き崩れた。

 

「すずちゃん……うぅ……」

 

つられて水奈も涙が零れる。

いけないと思い、涙を右手で拭った時だった。

 

 

 

 

 

 

口を大きく開いた弥涼の母が、起き上がり、こちらへ歩いてきているのが見えた。

一瞬で水奈の表情が凍り付く。

弥涼はまだ泣き崩れたままだ。背後の母親には気付いていない。

 

「…ッ!?すずちゃん、危ない!!」

 

咄嗟に弥涼と立場を変える。

制服越しに、肩に噛みつかれた。

 

「うぁっ……ッ!?」

 

「…水奈…?」

 

その様子に弥涼もようやく気付いた。

さっきまで確かに死んでいたはずの母が起きており、水奈に噛みついたのだ。

いや、弥涼を噛もうとしたがそれを水奈が…庇った。

 

「すずちゃん…はやく逃げて…!」

 

「あ…あぁ…」

 

罪悪感と恐怖で動けなくなる。

 

「お願いすずちゃん…!!」

 

「い…嫌やッ!!そんなの嫌やッ!!」

 

木刀を構え、母を引きはがそうと突き飛ばす。

低くうなり声を上げた母は、下駄箱にもたれ込む。

 

「水奈も一緒や…!!」

 

「ダメだよすずちゃ…うわっ!?」

 

四の五の言ってられない。弥涼は自分よりも背の高い水奈を背負い、走り出した。

 

「お願いすずちゃん…!降ろして…!!」

 

「嫌や!絶対に嫌やッッ!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

どこか諦めた様子の水奈と、脇目も振らずに走り続ける弥涼。

気付けば、かなり離れたところまで逃げ込んでいた。

 

「…もういいよすずちゃん……降ろして……」

 

「……わかった…」

 

いよいよ疲れ果て、弥涼も水奈を降ろす。

肩の傷口からは血が絶えず流れていた。塞がる気配はない……

 

「あのね……すずちゃん……私…見ちゃったんだ…」

 

「…何や…?」

 

「あれに噛まれるとね………お終いなんだって…」

 

「…どういうことやねん…もっとはっきり言ってや…!」

 

「…化け物に、なっちゃうんだって………」

 

「……ッ!?」

 

そう告げる水奈はこく一刻と衰弱していってるように見えた。 

 

「だからね…すずちゃん……お願い…してもいい?」

 

「ええよ…ッ!何でも聞いたる…!!」

 

「じゃあ……その木刀で…私を…殺してくれる?」

 

「…!?何を言うんや…ッ!?」

 

何でも聞くとは言った。だが、殺してくれなどと頼まれれば、流石にうろたえてしまう。

 

「私も噛まれたから…もうダメなの……!

お願い…!私…すずちゃんを傷付けたくないよ………ッッ!!」

 

そう言う水奈は、泣いていた。死ぬのは怖いだろう。でも…それよりも弥涼を傷付けたくなかったのだ。

 

「…嫌ッ!嫌や…ッ!!」

 

両手が震える。殺したくなんかない。友達を手にかけるなんて…

 

「お願いすずちゃん…!!きて…ッ!!」

 

水奈は両手を開き、弥涼の木刀を受け入れようと構える。

 

「…なんで…なんでこんなことになるんや…ッッ!!」

 

昨日までは何も変わりなかった日常…何もかもが、今ここで終わってしまう。

 

「……う…うああぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!!」

 

剣道で身につけた平常心も今や役にたたない。感情に身を任せ、弥涼は勢いよく水奈の顔面へ木刀を振り下ろした。

 

一度、二度、三度………。木刀の堅さでは一撃で楽にしてあげることは出来ない。

 

「早く……終われぇぇぇぇ!!!」

 

夢なら覚めてほしい。そう思いつつも四度目の一撃を加える。

酷く鈍い音と共に、操り人形の糸が切れたように水奈はその場へ崩れ落ちる。

その表情は…見なかった。見たくなかった。

 

「……ごめん……ごめんよ……ッッ!!」

 

…ただ、謝り続けることしか出来なかった。




以上で弥涼の過去編は終わりです。
次回からようやくプロローグに繋がっていきます。

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