てんこうぐらし!~SCHOOL LIVE! IF STORY~ 作:委員長@バカ犬
あの日…あいつらが現れたあの日。
弥涼の通う如月(きさらぎ)学園高等部は一学期の期末テストのため、午前中に学校が終わっていた。
勉強には多少自信がある。テストもその殆どは答えられた。
問題なく終わりそうだと安堵し、溜め息をもらす。
「すーずちゃん!一緒に帰ろ♪」
そんな弥涼に後ろから声をかけてくる少女がいた。弥涼のことを「すずちゃん」と呼ぶのは一人しかいない。
秋風水奈(あきかぜ みな)。同じ二年二組の友人だ。保育園の頃から付き合いのある幼なじみでもある。
茶色い髪を短く切りそろえ、まだ幼さの残る顔立ちをしている。それでも弥涼より背は高いのだが…。
「水奈か、ええよ。今日は剣道部も休みやしな…」
テスト期間中は部活動も休みだ。弥涼は剣道部の部長も勤めていた。
かといって修行を怠りたくもないので、親に買って貰った木刀を袋に詰め、鞄と共に担ぐ。
「ほな行こかー」
「うん!」
そう言って二人とも教室から出て行く。
まだ昼にもなっておらず、少しずつ近づく夏の兆しとでも言うべきか…学校の外は日差しが少し強い気がした。
ふと思い立ってスマホを立ち上げてみる。
「あー…また迷惑メールが着とるなぁ…」
「そろそろアドレス変えたほうがいいと思うなー」
「なんかそういうのってめんどいやん?後でメアド変更のメールを全員に送らなアカンし…」
メールの通知の多さからそう呟いたが、メールアプリを立ち上げた時、その表情が凍り付く。
「なんやこれ……全部オカンからや…」
「えっ?何か悪いことでもしたの…?」
「んなことするわけないやん…えっと…」
メールの履歴は全て今日の午前中だった。
未読メール
10:14 オカン 早く帰ってきて
10:17 オカン 早く帰ってきて
10:23 オカン 早く帰ってきて
10:25 オカン 逃げて
10:27 オカン 逃げて
10:35 オカン (無題)
10:51 オカン けにてしここてそてそなてめてなてき
何が起きているのか、すぐに理解することは出来なかった。
メールは全て本文には何も書かれていなかった。いや、最後のメールだけは…意味不明な文字の羅列があった。
弥涼は母親との二人暮らしで、父親は早くに事故で亡くなっていた。
今まで女手一つで育ててくれた。そんな母親からの、何かの危険を知らせるメール。
最後は一体何を意味していたのだろう。
続けて電話の着信履歴も見る。
これも複数回母親からかかってきていた。
数分おきに、絶え間なく…
こちらも10:50を最後に通知はなかった。
「オカン…?何があったんや…!?」
「やだ…怖いよ弥涼ちゃん…!!」
二人とも顔は真っ青だ。弥涼は急いで母親に電話をかける。
prrrrrrrr.......prrrrrrrr.......prrrrrrrr.......prrrrrrrr.......
……なかなか出ない
「何しとんねんオカン……はよ出んかい!!」
つい独り言が漏れる。すると、ようやく電話が繋がった。
「…っ!もしもし!オカ……っ!!」
ガリッ!!ガリガリッッッ!!!!と耳をつんざくような音がスピーカーから響いてくる。まるで、何かをすり潰すような音だった。
そして、かすかに聞こえた。何かの呻き声。
「オカン?……オカンッッ!!オカンなんやろ!返事せんかいッッ!!」
何度もスマホに向かって叫ぶも、返事はない。最後にもう一度何かをすり潰すような音がした後、電話は切れてしまった。
「…すずちゃん…これって…」
「ごめん水奈…ウチ、急いで家に帰らなアカン!!悪いけど、警察と救急車呼んどってや!!」
「待って…!待ってよすずちゃん…!!」
走らずにはいられなかった。状況を理解することができない。受け入れたくない。理解したくない。
きっと母は無事だ。帰ったら「ドッキリでしたー♪」とか言ってくれるんだ…。
そんな叶うはずもない期待を根拠もなく浮かべながら弥涼は走る。
水奈もそれに続いた。何となく、一人でいたくなかったからだ。ここで別れたら、二度と弥涼と会えなくなってしまう気がしたから。だから走る。
剣道部部長の弥涼の足には到底追いつきやしないが、走った。
警察と救急車を呼ぶ暇なんてなかった。
ここで友達を見失いたくなかった。
二人は、巡ヶ丘市にある弥涼の自宅までひたすら走りつづけていった。