「まずはこれを見てくれ。エイミイ」
「了解!」
リンディ艦長に着任の報告をしてアースラの会議室に通された私にまずクロノ君はあるデータを見せる。
「今回の事件の被害者のデータ?」
私はそう言いながらディスプレイに映し出されたデータに目を通す。
「これって・・・」
《過去のデータを表示します》
ティアーズによって表示されたデータとディスプレイに映るデータを比較する。感じる違和感は間違いないんでしょうね。
「被害が少ない・・・いえ、被害にあった人間が少ないですね」
「あぁ。過去にも人間以外が狙われた例は存在するが今回はそれが圧倒的に多い」
確かに人間以外にもリンカーコアを持つ生物は存在するけど蒐集の効率で言えば人が圧倒的に上のはず。そして守護騎士達は効率重視で蒐集を行なうはず。ということは、
「主の命令ですか?」
「わからない。でも警戒すべき範囲が広がったことは間違いないよ」
今までより蒐集のターゲットが広がったのだから当然ね。それでも人のほうがより強く警戒されるんでしょうけど。
「次にこれだ」
クロノ君の声とともにエイミイが画面を切り替える。
「蒐集された人間のデータ?」
「・・・これも今までとはかなり違う。まず全員に言えることだが症状がかなり軽い」
死者は・・・0、重傷者もいない?
「どういうことです?これじゃあまるで・・・」
「手加減して蒐集した、と僕たちは見ている。」
「手加減・・・?」
一瞬、ほんの一瞬「そんなことができるならあの時そうしてくれていれば」と思ってしまう。
《マスター》
「・・・えぇ大丈夫よ、ティアーズ。大丈夫」
過去は変えられない。大切なのは今と未来。どうやって守護騎士を捕縛し、主を捕まえるか、それが大事ね。
「ごめんなさい。続けてください」
「・・・あぁ。それで僕たちが第97管理外世界『地球』へと向かっている理由が、彼女だ」
「ナノハ・タカマチ?この子って確か前に執務官が話していた?」
そう、確かフェイトちゃんとはじめて会ったときにクロノ君が話していた天才児のことよね?この子も蒐集されていた?
「彼女は以前話したと思うが今年の四月ごろに管理外世界以降『地球』と呼ぶが、地球にて魔法に初めて触れ、そして今まで地球を離れたことがない。その彼女がつい先日地球にて蒐集の被害にあった。ここで問題となるのが守護騎士達がどうやって彼女のことを知ったのかということだ」
管理外世界。この言葉はつまりその世界において魔法文化が発見されていないということを意味している。当然守護騎士たちのターゲットからも外れているはず。ということは・・・
「管理局と闇の書の主がつながっているか・・・」
「または闇の書の主、もしくはその拠点が地球に存在するかというところさ」
「前者についてはあんまり当たってほしくないね~」
確かにエイミイの言うとおりね。自分が言ったこととはいえ、この予想が当たっていたらあまりにも救えない。
「だから地球ですか」
「あぁ。被害にあった世界も地球を拠点としていると仮定すると納得できる距離の世界ばかりだからね」
これからも地球を拠点に蒐集活動を行なう可能性があるからこちらも地球に拠点を置き、地球上の拠点捜索と並行して地球から転移可能な距離の世界を巡回するといったところかしらね。
「そして・・・エリ一等空尉はチームアルファを率いて地球から転移可能距離にある世界の巡回が主な任務となる」
予想通りね。そしてこれはつまるところ、
「囮、ですね」
「あぁ。危険な任務ではあるが・・・」
「いえ、問題ありません」
そう。まったく問題ない。むしろ好都合というものだ。
「・・・わかった。ならば地球に到着しだい任務に入ってくれ」
そんなに難しい顔して心配しなくても大丈夫よ。ちゃんとわかっているわ。
「詳しいことはエイミイに、あともし守護騎士と遭遇した場合は状況にもよるが、おそらく捕縛結界による捕縛という流れになる。いいかい」
捕縛、ね。守護騎士はプログラム生命体だから殺しても死なない。だから捕縛。まぁそれ以前に管理局員なんだから殺すなんてことはやっちゃだめなんだけどね。
「了解です」
そう言って敬礼をしてその場を後にする。いくら今まで手加減していたと言ってもこれからもそうだとは限らない。少しも気が抜けない任務なのは間違いがない。
お父さん、お母さん。どうか見守っていてください。
それにしても、いくら執務官とはいえクロノ君に敬語か・・・納得できないわね。