姓はロロノア 名はリィナ   作:ぽんDAリング

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今回の大部分は原作の説明回です。


9 ・海への想い 空への期待

現在私はナミさん、ロビンさんと話をしているのだが、正確にはポートガスから隔離されている状況だ。

自身でもなぜこうなってしまったのか精神的に痛む頭を押さえてしまう。

 

私は黒ひげの事を伝える為にポートガスを呼んだのだ。呼ぶといっても能力で無理矢理転移させたので実際は拉致のようなものである。

 

目の前に呼び寄せたポートガスはストライカーという小型のボートに乗ったまま現われて皆驚いていた。

ポートガス自身も海を航行中だったにも関わらずいきなり船上へ瞬間移動したことにより混乱していた。

 

一先ず、急に呼び寄せた事を謝罪し、伝えなくてはならないことがあるのだが今は大丈夫か、と問うと問題無いと答える。

 

所用で海軍支部へ潜入した直後らしく、そこで遂に黒ひげの情報を得たのですぐに黒ひげを追うつもりだと付け加えた。

 

「あぁ…その黒ひげの情報ですが…えぇと、その…不要になりました。」

 

少し言いにくい事で口篭もってしまう。私は黒ひげが遺した悪魔の実を取り出しポートガスへ差し出した。

 

悪魔の実を受け取り顔を強張らせたポートガスに事の次第を説明する。

 

黒ひげの腹黒い意思とそれに伴う長年の計画を話し終え、最後にもう一度謝罪する。

 

「いや、いいんだ。奴の計画を止めてくれて感謝する。…はぁ、この『ヤミヤミの実』が目的で白ひげ海賊団に入っていたとはなぁ。」

 

「これであなたが黒ひげを追う理由も無くなったのですから、早く白ひげの下へ帰って下さいね。こんな前半の海に火拳が居るなんて色々と問題になります。」

 

経緯はどうであれ白ひげ海賊団 二番隊隊長なんて大物が前半の海を闊歩していることが海軍に知れたら大将が飛んでくる程の事件になる。一応、『火拳のエース』は5億を超える賞金首なのだから。

 

「あぁ、わかってるさ。だが、少し話すくらいはいいだろ?アラバスタでは時間がなくてルフィたちともあまり話せなかったしな。」

 

それくらいなら構わないと思い、どうぞと半身を開き一歩下がる。私としては話し掛けないで欲しいと意を込めてルフィさんの方へ誘導したのだが、ポートガスは私の手を取りこう語った。

 

「まずはリィナ、俺と一緒になってくれねぇか?俺ぁリィナが欲しい。リィナとの子も欲しい。」

 

その言葉を脳内で反芻し、なんとか意味を理解したところで私の思考は停止し意識が数瞬飛んだ。

 

「…リィナ?おい、リィナ?!」

 

ピクリとも動かない私を心配し詰め寄るポートガスだが、私の意識が戻ると視界を埋めるポートガスの顔。

つまり目の前に顔があるのだ。これには反射的に手が出ても仕方が無いだろう。

 

パァンと、小気味良い音が響くと同時に、私より後方で話を聞いていた他の皆が慌ただしく動く。

 

ナミさん、ロビンさんで私を引っぱり少し離れたみかんの木の所へ移動している。

 

「あんたアラバスタでエースさんに何したの?」

 

「あんな大物どうやって落としたのかしら?」

 

アラバスタでの会話を思い出しつつ考えるが全く心当たりが無いのだ。だというのに子どもまで欲するとはサンジさん以上に女好きなのかと心配になる。

 

「…いえ、本当に軽く自己紹介して、任務の邪魔をしなかったらルフィさんに会えるよう手引きしますよって会話したくらいです。もう何が何だかわかりません。」

 

その後も二人から問われたことをただ答えるだけで、他に意識が回せないほどに動揺と精神的疲労を認識することしか出来なかった。

 

※ ※ ※ ※

 

一方、男性陣ではエースの奇行を諫めるサンジとゾロの怒りを諫めるウソップ、それをただ見守るルフィとチョッパー。

 

「エースさんよ、まずは順序ってもんがあるだろ?いきなりプロポーズしても混乱するだけだ。まずは愛を育むべきだぜ。」

 

「ゾロ、落ち着け!!リィナはルフィの兄貴とはそんな関係じゃねぇって言ってたろ?これは片思いってやつだ。まだお前の出番じゃねぇ。」

 

「…なぁチョッパー。なんでエースは叩かれたんだ?」

 

「おれもわかんねぇ。」

 

サンジにレディーの愛し方を説かれたエースは時期尚早だと理解を示し、ウソップに兄貴の威厳を説かれたゾロは怒りを抑え心に余裕を保とうと意識する。

 

ルフィとチョッパーはよく分からないまま話の輪に入り込むも、サンジによるレディーと恋仲になろう講座が始まっていたので興味無くただ聞くだけとなっていた。

 

エースはサンジの講座を受けたことで、まずはリィナに自分の気持ちを伝えようと決意するのだった。

 

※ ※ ※ ※

 

幾分かして男性陣に連れられたポートガスが私へ頭を下げた。結論を急ぎ過ぎた、と述べて言葉を続ける。

 

「俺ぁちっとばかし事情があって両親からの愛を知らねぇ。

幸い、ガキの頃にルフィと、もう一人の弟と盃を交わし家族になれた。今は白ひげの親父、白ひげ海賊団っつう家族もいる。血の繋がりなんて関係ねぇ。愛される喜び、愛する尊さってのを知ってるつもりだ。

アラバスタでリィナに感じたのは、きっとこいつも俺と似た奴なんだってことだ。

兄貴の話をするリィナは良い顔をしてたからな。そんなリィナからは…恥ずかしい言葉だが、母親のような、海に抱かれる様な安心と暖かさを感じた。女と話してあんなに鼓動が高鳴ったのは生まれて初めてだった。

それで、リィナと本当の家族になりてぇと思ったんだ。リィナとの子を愛したいと思えた。

急な話で迷惑を掛けちまったが、俺の気持ちは知っていて欲しい。」

 

言い終えてからアラバスタの時と変わらない笑顔を私に向けるポートガスだったが、何故この笑顔が気に入らないと感じたのか理解出来た。

 

誰かに愛して欲しい、誰にも嫌われたくないという誰もが持ち合わせている気持ちが私もポートガスも他者より強いのだ。私は二年より前の記憶が無い事が起因しているが、ポートガスは両親のことが起因しているのだろう。

 

「そうですね。…今は娘として、妹として家族に愛されることに満足していますが、そのうち女として愛されることを望むかもしれません。その時は考えなくもない…ですよ?考えるだけですよ?あなたの気持ちに応えるかは別の話です。」

 

周りの皆が生温かい眼差しを向けてくるのでとても恥ずかしい思いをしている。そんな中隣のナミさんが、ゾロはいいの?と耳打ちしてくる。

 

ゾロは私を妹としてしか見ていない。私はそれを理性で理解しているが、感情として相反する気持ちを抱いている。

血の繋がりは無いが、いくら望もうとも報われはしないだろうと知っているからこそ妹である事を自分に言い聞かせていた。

 

久しく再会した時は羽目を外してしまったが、その後は妹として体裁を保つようにしている。だからこそロビンさんとチョッパーくんへの自己紹介でも妹として挨拶したのだ。

ナミさんもそこを不思議に思っていたらしいが私の返事で渋々納得してくれた。

 

「ゾロにとって私は妹ですから。妹でも妻でも家族であることには変わりありません。なので問題無いんです。」

 

ロードとの一件で命を諦めた瞬間、私が感じたのは家族への感謝だった。だから今は妹である事の焦燥や劣等感よりも、家族で在り続ける事を強く望んでいる私が居ることは確かだ。

 

難儀なものね、とナミさんは息を吐き皆の意識を自身に向けようとパンパンと手を叩く。

 

「さぁ!もう少しで目的地に着くから舵と帆を頼んだわよ!!リィナは未来の旦那さまを見送ってきなさい。」

 

最後に悪戯を成功させた子供のような顔でニヤリを笑い私の背を押す。ゾロはナミさんの言葉に過剰に反応し反論しようとするが、船の進路調整の為ウソップさんとサンジさんに引き擦られていく。ルフィさんはポートガスと名残惜しそうに挨拶しているがその表情はとても嬉しそうにしている。

 

「じゃぁ、世話になったな。俺たち白ひげ海賊団は偉大なる航路(グランドライン)の後半、『新世界』で待ってるぜ!」

 

「おぅ!またなエース!!」

 

ルフィさんと挨拶を済ませたポートガスが私の前に立ったのでまたいつか、とだけ言って白ひげ海賊団が滞在しているという島の近くへ移送した。

 

ポートガスは何か言おうと口を開きかけていたが、私は気恥ずかしくてこれ以上交わす言葉を持たなかったので強制的に転送したのだった。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

モンブラン・クリケットという男の住む場所へ着いたのだが…

大きな宮殿の描かれたベニヤ板が見える。その裏に半分の家。単純に見栄っ張りな人なのか、家すらも半分ケチる貧乏性な人なのか理解し兼ねる。

 

「…ここに住んでる人が空島に関係してるんですか?」

 

「直接関係があるかはわからないのだけど、このジャヤには黄金が隠されていると言ってモックタウンを追い出された人らしいわ。」

 

うふふと張りぼての家を見て笑い、私の問いにロビンさんが答える。

 

それは空島に関係の無い人ではないのかと内心でツッコむが、黄金となれば空島が関係なくても会ってみたいと思ってしまう。

 

やはり海賊にはお宝や冒険といったものが必要不可欠な要素であり、ドキドキワクワクするものを求めてしまっても罰は当たらないだろう。

 

船を停泊させお宅を訪ねるも留守の様だ。皆思い思いに辺りを見回ったり、海を見たりしている。

 

私は外に作られた丸太の椅子に座り、同じく丸太の机の上に置いてある童話を見つけ読もうと手に取る。

 

「おぉ、『うそつきノーランド』とは懐かしいな。北の海(ノース・ブルー)じゃ有名な童話だ。」

 

聞くとサンジさんは生まれは北の海で育ちは東の海らしい。珍しい出自もあるものだと関心してしまう。

 

その童話をナミさんが朗読し始め、 皆静かに聞き耳を立てる。が、丁度読み終えると海の中に人の気配を感じた。

 

ルフィさんが覗き込んでいる辺りだと覇気で察知し、即座に移動しルフィさんを抱え一足跳びに下がる。

 

「誰だテメェら!ひとんちで勝手にくつろぎやがって。どうせ狙いは金だろ?死ぬがいい!」

 

海面から飛び出した人がこの家の住人モンブラン・クリケットのようだが、こちらの返事を聞く間も無く襲い掛かって来る。

私はルフィさんを抱えているため若干反応が遅れつつ右の前蹴りから左の後回し蹴りのコンビネーションを屈んで交わすが、すかさずそこに左の貫手が襲い掛かる。

 

しかし、私とモンブランの間にサンジさんが割り込み左足を絡める事で貫手を受け止める。が、腰から抜いた拳銃をサンジさんに向けて撃つモンブラン。間一髪で避けるも続け様の速射に肝を冷やしながら一旦距離を取る。

 

そこで加勢に向かおうとゾロが刀を抜くがモンブランに異変が起きた。急に胸を押さえ苦しみだしたのだ。見た目の症状は呼吸困難と身体の各所が痙攣している。突然の出来事に唖然とする面々だが、素早く処置を開始しようとチョッパーくんが声を上げる。

 

「この人を早くベットへ!身体を冷やすために水とタオルの準備!それと家の窓を全開にして風を入れて!!」

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

症状が落ち着きベットで寝息を立てるモンブラン・クリケットを囲み、私たちはチョッパーくんから病気の詳細を聞く。

 

潜水病というダイバーが稀に患う病気らしい。

海底から海上へ浮上する時の気圧の差異が原因で、体内に溶解している窒素が気泡となり血管塞栓を起こすのだ。その結果、血流が滞り循環器系に血行障害をひき起こし四肢の筋肉・関節痛、めまい、吐き気、知覚・運動障害を生じるそうだ。

 

この人の場合は気泡となった窒素が再び溶解する間も無い程、毎日海に潜り続けている様なのだ。呼吸器系の障害、特に呼吸困難や胸の痛み、チアノーゼが見られたことから重症だとチョッパーくんは診断する。このままだと神経に損傷を負い重篤な後遺症を残すか、最悪は死を招くという。

 

「この病気は自然治癒が難しいんだ。こうも重症だと医者でも完治するのは無理だ。…医者として情けないけど、お願い出来るかな?」

 

「…いいの?」

 

「この人からは空島の話も聞かなきゃいけないし、このままだと確実に死んじゃうくらい酷い状態だ。見過ごすなんておれには出来ない。」

 

チョッパーくんの医者としての意地(プライド)よりも目の前の瀕死の患者の命を優先する意思を汲み取り、私はモンブランの手を取る。同化、同調を経て体組織のイメージを組み直し能力を解除する。先ほどとは違い、血流の行き渡る赤みがかった顔色に変わっている。

 

私がやったことは健康であった身体に戻すのではなく、血管内の塞栓や気泡となった窒素の境界を消して溶解させただけだが、それだけでも結果が見て取れた事に皆一様に安堵する。

 

「チョッパーくん、一応気泡の処置はしたけどきっとこの人はまた海に入ると思う。だから、医者として病状の説明と厳重注意はきみの仕事よ?」

 

「うん。任せろっ!!」

 

私は医者の意地を傷つける力を持っている。それでも救えるならばとチョッパーくんは奥歯を噛み締め悔し涙を堪えていた。せめて患者のフォローを任せることで少しでも意地を保てるならばと後のことをお願いした。

 

突如血流が良くなった事で急激な体温の上昇や毛細血管への負担、四肢の感覚が過敏になり痛みを生じる可能性に不安もあったが、チョッパーくんの適切な処置のおかげで容態は安定しておりすぐにでも目を覚ましそうだ。

 

…それなのに、なぜか外が騒がしくなる。こんな時に来客のようだ。それに気付いたルフィさんとゾロ、サンジさんは扉の前に警戒心を強めて立つ。

 

チョッパーくんとウソップさん、ナミさんはモンブランの看病を続けてもらい、私とロビンさんで不測の事態に対処出来るように構える。

 

「「おやっさん!大丈夫かっ??!!」」

 

扉を慌ただしく開けたのはゴリラとオランウータンだった。人語を話す獣とは珍しいものだと興味が湧く。

 

「今オッサンの看病してんだから静かにしろ。そっちのサル、リベンジなら後で受けっからどっか行け。」

 

ルフィさんは事も無げに追い返そうとしているがゴリラとは顔見知りのようだ。

 

「「なんだと?!…お前らいい奴らだなぁ!!」」

 

その後感涙と鼻水を流しながら感謝を述べる二匹?を伴いルフィさんとゾロ、ウソップさんが共に外へと出る。

 

ナミさんとサンジさんに聞くと、私が合流する前にいざこざを起こしたのがゴリラの方だと言う。

 

ふと、室内の壁にかかる写真を見ると肩を組み楽しそうに笑う三人が写っている。言わずもがな、モンブランと先ほどのゴリラとオランウータンだ。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

程なくして目を覚ましたモンブランは、黄金を狙う不埒者と勘違いし襲い掛かったことに頭を下げ、適切な医療処置で命を救われたことに再び頭を下げた。

 

「それで、俺に聞きてぇ事ってのはなんだ?」

 

「俺たち空島に行きてぇんだけどよ!行き方教えてくれ!!」

 

煙草を吹かしながらのモンブランの問いにルフィさんが答える。すると突然モンブランは大笑いしだすのだ。

 

「なんだ、お前ら空島を信じてんのか?」

 

ひとしきり笑い息を整え言葉を出すモンブランだが、人を小バカにしたような雰囲気には全く無い。逆にそれを喜んでいるように見えるのだ。

 

「空島はねぇのか?!」

 

「…わからねぇ。あると言ってた奴を一人知っちゃあいるが、そいつは伝説的な大うそつき。世間じゃその一族は永遠の笑い者さ。」

 

そして、『うそつきノーランド』モンブラン・ノーランドとその子孫であるモンブラン・クリケットの時代を超えた決闘の話を語りだした。

 

モンブラン・ノーランドが見つけた山のような黄金の島。その舞台がジャヤなのだと言う。しかし、再びジャヤに戻ったノーランドはその黄金の遺跡を見つけることが出来なかった。

 

ノーランドは地殻変動による遺跡の海底沈没を主張したが誰にも信じてもらえず、うそつきという烙印を押され笑われながら無念のまま処刑された。

 

それから400年の間、『正直者であったモンブラン・ノーランド』と一族の名誉の為に海へ出た者も多くいたが、誰一人として生きて戻ることはなかったという。

 

モンブラン・クリケットはそんな一族を恥じ、家を飛び出して海賊になったそうだ。ただただ、ノーランドの呪縛から逃れる為に。

 

しかし、どういった運命のいたずらか冒険の末にジャヤに行き着いたのが10年前。

 

黄金があるのならそれもよし。ないのならそれもよし。ノーランドの無実を証明する為でも、一族の名誉の為でも無い。

 

自身の命が尽きる前に白黒はっきりさせたい。『クリケットという男』とその男の人生を狂わせた『ノーランドという男』との決闘なのだと。

 

その為に毎日ただひたすらに海へ潜り黄金を探す日々。一人孤独に暗く冷たい海中を当てもなく探し続けるなかで、現れたのがゴリラ似のマシラとオランウータン似のショウジョウだという。

 

ノーランドの黄金は必ずあると思う。そう言ってモンブラン・クリケットの生活に入り込み、勝手に手下となって暴れ回る。そんな一途なバカに救われている。そう言ってモンブランは幸せそうに微笑んだ。

 

「…と、ここまでが前置きだ。これ読んでみろ。」

 

ベッド脇の本棚か取り出した本をナミさんへ投げて渡す。家を飛び出した際に持ち出したノーランド直筆の航海日誌だという。

 

ナミさんは400年も前の、しかもノーランド本人の航海日誌ということもあり緊張しながら一ページ、また一ページと丁寧にめくり読み上げていく。

 

読み上げる航海日誌の中に空島が関連する言葉が出る度に皆一様に目を輝かせ、感嘆の声を上げて喜んでいる。

 

しかし、私は空島が存在することを知っている者として素直に喜べずにいる。何故なら、この地から空島へは行けないと知っているからである。

 

ルフィさんは空島に行きたいと言ったが、モンブランは行けると言った訳では無いのだ。自身の先祖が空島は存在するような事を航海日誌に書いている、と紹介しただけだ。

 

今なら空島は存在すると言っても良いのだろうが、この地からは行けないとは口が裂けても言えない。

 

喜び勇み、空島へ思いを馳せる皆の雰囲気に取り残され、私は居たたまれず静かに家から出る。

 

すると、いつの間にか外に居たモンブラン、マシラ、ショウジョウの三人がこちらを振り返った。

 

「おう、嬢ちゃん。俺たちが一丁手ぇ貸してやるよ!」

 

一体何の事だろうと訝しむ間も無く気付いてしまう。まさかと思いを口に出してみる。

 

「…もしかして、空島へ?」

 

「「おう!」」

 

元気いっぱいに返事をするマシラとショウジョウだがモンブランはあまり元気そうには見えない。

 

「なんだ?嬢ちゃんは行きたくねぇのか?」

 

「…なんと言うか、あのですね。他の皆さんには内密にお願いします。実は…」

 

私は三人に空島は確かに存在する事と空島へ登るには後半の海の山から行くのだと知っている事を話した。

 

「…そうなのか。」

 

「…知らなかったぜ。」

 

マシラとショウジョウは私の話を聞き、神妙な面持ちで顔を向き合わせている。

 

「いや、知れて良かった。この世界は知らねぇ事や不思議な事ばかりだ!…そっちが正規ルートだって言うなら、こっちは近道だぜ!」

 

モンブランはウワッハッハッと楽しそうに笑いマシラとショウジョウに向き直ると声を張り上げた。

 

「俺らが手ぇ貸しゃ絶対に大丈夫だ!やるぞ!!」

 

「「おうよっ!おやっさん!!」」

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

「と、いう訳で俺らが手ぇ貸すぜ!」

 

結局どういう訳なのだろう。家の中にいた皆を外へ呼び出し、これから空島へ行く為の講義を始めるという。

 

ただ、ロビンさんはいつの間にか外の探索へ出ていて不在。サンジさんは食事を作るということでキッチンへ。ゾロは家の壁にもたれ掛かり昼寝をする。なんとも自由な一味だと笑えてしまう。

 

まず、不確かな事ばかりの話になるが信じるか信じないかは任せる、と前置きしてモンブランは話し始める。

 

もし、空島があるとすれば『積帝雲』にしか可能性はないらしい。

何千年何万年と変わることなく浮遊し続ける化石となった雲だという。それは太陽の光さえ遮断し下界に夜が訪れるほど積み重なった分厚さの雲。その雲にならば島としての機能があっても不思議ではないだろう。もしかすると、その雲に島が乗っている可能性もある。問題はその雲にまで飛び上がって行けさえすればなのだが。

 

そして積帝雲に飛び乗る方法が一つだけあるというのだが、それがとんでもなく危険な方法なのだ。突き上げる海流(ノックアップストリーム)に乗り積帝雲まで飛び上がるのだという。言葉だけを聞けば『お空まで一っ跳び』で楽しげな航海を想像出来るだろう。しかし現実はそうではない。

 

海底の更に地下の大空洞に海水が流れ込み、地核からの熱で生じる膨大な蒸気の圧力で海を吹き飛ばし、空へ立ち上る海流を作り出す程の水蒸気爆発を引き起こす。これは大自然が作り出す災害である。本来ならば回避すべき事象なのだ。それに乗れとは正気の沙汰とは思えない。

 

マシラの報告にて明日、南の空に積帝雲が現れる可能性が高いらしい。

次いで、突き上げる海流(ノックアップストリーム)の発生周期や予測場所も明日の南の海の可能性が高いそうだ。100%とは言えないが、明日それらが重なる確立は高く、賭けるならばそこしかないという。

 

記録指針(ログポース)の都合上、あと一日ジャヤに滞在すると空島への磁気が書き換えられてしまい機会を逃してしまうのは確かだ。船長であるルフィさんの判断を仰ぐと空島へ行く決意に変わりは無いようであるが、それにウソップさんが反論する。

 

麦わら海賊団の船G・M号(ゴーイング・メリー)の損傷状態では突き上げる海流(ノックアップストリーム)の衝撃には耐えられないだろう、と。

 

それについては万全の状態で出航出来るように船の補強、進航の補助はモンブランクリケット率いる猿山連合の一味総出で請け負ってくれるそうだ。

 

その言葉にウソップさんが更に疑念を深める。

今日会ったばかりにも関わらず親切過ぎると。不確かな存在である空島へ行ける絶好の機会が運良く明日であること、その為に船の補強や進航の補助を無償で引き受けること。モンブランの言っていることはとても都合が良く、確かに怪しいのだ。

 

ウソップさんは正しい。会ったばかりにも関わらずこうも親切が過ぎるのは、裏で何か企んでいますと言っているようなものだ。

 

大海賊時代にその感性は正しい(・・・)のだ。自分の身を、大事な仲間を、そして大切な船を守る為に疑うことはとても重要な事である。

 

モンブランは静かに煙草の紫煙を吐き出し、感情を昂ぶらせたウソップさんを見やる。

 

その時サンジさんとマシラ、ショウジョウが家から身を乗り出しご飯が出来たと声を上げるとモンブランは口を開いた。

 

「…俺はうそつきの一族として蔑まれ、空想に夢見る阿呆と町を追い出された身だ。

本気で空島を信じ、そこへ行こうとする。そんなお前らみたいなバカに出会えて俺ぁ嬉しいんだ。

一緒にメシィ食おうぜ。今日はゆっくりしていけ。…同志よ。」

 

モンブランはそれだけ言い残し先に家へと向かい歩を進める。私は膝を着き項垂れるウソップさんのもとへ行く。

 

「ウソップさんは誰よりも仲間と船の安否を心配してくれたんですよね?実際、信じることはとても簡単ですが疑うことはとても難しいことです。ウソップさんは仲間の為に疑える、そんな優しい心を持ってますね。格好いいですよ。」

 

「こうなったからには腹括るしかないわ。空へ行く為に私たちは私たちの最善を尽くそうじゃない。ウソップ、さっきのあんた『漢』だったわよ。さっさと謝ってご飯にしましょ?」

 

「…おう!」

 

ウソップさんは、さっきはゴメンとモンブランへ飛びつくが鼻水を付けて殴られている。私とナミさんは並び家へと向かう。

 

「あんたなかなかフォローが上手いのね。」

 

「ナミさんこそ。…つい先日まで沢山の部下がいましたからね。上手くもなりますよ。」

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

夜の宴も佳境へと突入し、各々が食べ、飲み、語り、暴れしている中、私とロビンさんはノーランドの航海日誌を読んでいる。

 

私は酒乱の気があるらしくお酒は飲まないようにしている。ロビンさんは少しづつ自分のペースで飲むタイプのようだ。

 

「髑髏の右目に黄金を見た!」

 

航海日誌の最後のページに差し掛かったところでロビンさんの眼前でモンブランが声を上げる。日誌に集中していた私もこれにはビクリと肩を跳ねさせた。

 

それからモンブランは日誌の内容を暗記しているようで、黄金に関連するものを語り出す。それから奇妙な鳥の鳴き声、大きな鐘の音の逸話が終わった頃にお宝を取り出した。

 

小さな鐘の形と妙な鳥を型取った黄金。メッキなどではないどちらも紛う方なく本物の黄金である。

 

妙な鳥はジャヤに現存する『サウスバード』という鳥で奇妙な鳴き声を出し、もう一つの特徴があるらしい。

 

「しまった!!」

 

突然大声は出し狼狽えるモンブラン。

聞くと、突き上げる海流(ノックアップストリーム)の起こる海域はジャヤの南に位置するらしいのだが、そこへ行く為に必要なものを忘れていたらしい。

 

偉大なる航路(グランドライン)において信用すべき記録指針(ログポース)は島の磁気を指し示す為、南下する今回は意味を成さない。

 

つまり、現状で南へ向かう為の『方角を知る為の計器』が無いのだ。

 

そこで必要になるのがサウスバードなのだそうだ。この鳥の特徴に、正確に南を向く習性があるらしい。

 

その鳥が居なければ空島どころか目的の海域にすら行けずに絶好の機会を逃してしまうという。

 

「つまり、今から森へ入りサウスバードを捕まえてこいと?」

 

「あぁ、夜明けまでに一羽捕まえて来れりぁいい。俺らは今からお前らの船を補修、強化する!」

 

と、いう訳で私たちは森の入り口へと赴いたのだが、おかしな光景を前に皆一様に目を見開いてる。

 

モンブランが言っていたサウスバードが森の入り口の地面へ集結し、妙な鳴き声がなり響いているのだ。

 

「…なぁ、あの鳥たち変な事言ってるぞ?」

 

チョッパーくんは元々野生のトナカイだということで、ある程度の動物達とは話が出来るらしい。

 

チョッパーくんに翻訳してもらうと、サウスバード達は口々に『森の神』『御降臨』『御尊顔』『感謝』と発しているそうだ。

 

よく意味が分からない私たちは困惑するばかりだが、一羽だけで良いので一緒に付いて来てほしいと頼む。

 

すると、より一層鳴き声が大きく荒々しく響き始める。きっと怒っているのだと思い、私たちは顔を見合わせどうしたものかと困惑する。すると、思い掛けない事をチョッパーくんは言う。

 

「…えっとな、誰が一緒に行くかで喧嘩してる。皆おれたちと行きたいけど、一羽だけってことで一番強いやつが来てくれるみたいだ。」

 

チョッパーくんの翻訳に唖然とする面々だが、時間がかかりそうだということでルフィさんとウソップさんは森の探検へ入り、ゾロとサンジさんは仲良く喧嘩したり、残りの私たちは話をしたり本を読んだりしながらサウスバードの鳴き声が響く森の入り口で決闘が終わるのを待った。

 

「ジョッ!ジョ~!!」

 

「あ、終わったみたいだぞ。」

 

思っていたよりも早く終わったようで私たちは安心する。喧嘩と言っても誰が一番大きく力強く鳴けるか、という勝負らしくどの鳥たちも怪我などは一切無い。

 

一羽のサウスバードが羽を大きく広げて私たちの前に舞い降りる。どうやらこの子が一緒に付いて来てくれるようだ。

 

私とナミさん、ロビンさんでよろしくね、と挨拶する。チョッパーくんは通訳係だ。

 

「ジョ~!ジョ~~!」

 

「こちらこそよろしく。お役に立てるなら光栄です、だって。」

 

他のサウスバードたちが森へ入ったルフィさんとウソップさんを連れて来てくれるらしく、待っている間にゾロとサンジさんの喧嘩を止める。

 

ともあれ、あとは猿山連合が船の強化を仕上げれば準備は完了である。

 

明日予測通りに積帝雲と突き上げる海流(ノックアップストリーム)のタイミングが合えば空島への一歩となるのだ。

 

その期待を胸に麦わら一味はモンブランの家へと戻る。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

薄暗く湿った洞窟の様な場所。岩の壁が剥き出しでそう広くは無い空洞部に幾人かの人影を蝋燭の灯りが揺らす。

 

「だからぁ!なんであんな餓鬼を放置するんすかぁ?」

 

「ロードくん、 前にも言ったがあの子は転生者である自覚は無いし覇気すら使えない。だから、まだ(・・)放置で良いと言ったんだよ。

なのに君はあろう事か転生者の存在を露呈し、覇気まで知らせるとは…フライトくんが止めに入ってくれて良かった。」

 

「私が止めなきゃ殺るつもりだったでしょ?感謝してよね?」

 

アラバスタでリィナと出会ったロードという青年は自分の独断行動に非は無いと言い張るだけで話が進まない。

 

リーダーであろう男は痛む頭を抑えるが青年の性格を理解している為、言葉での説明は意味を成さないと諦めた。

 

フライトと呼ばれた女性は嫌味っぽくロードの周りをクルクルと飛び回り青年に鬱陶しがられている。

 

「別に殺っちまっても計画に関係無ぇし良いじゃねぇの。それとも、元上司として愛着心でも芽生えましたぁ?」

 

「愛着…か。無いとは言わないよ。僕としては覇気を扱える様になるまで育ててから僕らのチームに誘うつもりだったのだがね。」

 

「私は反対!原作知識の無い子居たら一々説明すんの面倒くさいし。」

 

「それでも、あの子の能力は捨てがたい。その気になれば一瞬で世界が消える。それに君たちは戦闘特化の能力じゃないんだ。…頼むから大人しく(・・・・)言うことを聞いてくれよ?」

 

男は軽い笑みを浮かべてはいるが、含みのある言葉と漏れ出す威圧感に二人は戦慄を憶える。

 

「…わぁったよ!もう勝手に動かねぇからそれ(・・)止めてくれリーダー!!」

 

「一応あんたがリーダーだし。私はどうせサポートだし!わかってるから怖い顔しないでよ。」

 

転生者集団のリーダーは覇王色の覇気を止めてより笑みを深めてから再び言葉を紡ぐ。

 

「わかってくれればそれで良いんだ。では、仲良く留守番を頼むよ?」

 

それだけを言い終え二人の目の前から一瞬で消え失せる。残った二人は安堵のため息を漏らす。

 

「…なぁ、俺らは留守番してれば良いんだよなぁ?」

 

「そぅね。」

 

「シールのオッサン今どこに居っか知ってる?」

 

「…空島ね。」

 

それぞれの思惑はどうであれ、片や興味の無い事だと眠そうに、片や意地の悪い笑みを浮かべ持ち場へと戻るのであった。

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

今回は説明回でしたがご了承ください。

次回で少し物語を動かせればなぁ、と思っています。

少しづつ伏線も回収していきますので…

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