姓はロロノア 名はリィナ   作:ぽんDAリング

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原作を読み返し、書き直しの繰り返しで遅くなりました。


7 ・想いの向かう先へ

 

小舟に乗り、風向きと海流のままに漂い空を泳ぐ雲を眺めていると一隻の船が近付いてくる。

 

海軍の軍艦でも海賊船でも無い、唯の運搬船のようだ。航路の邪魔だろうとオールで少し漕いで進路を譲る。

 

すれ違い、遠ざかる運搬船を見送り再び自由に流れる雲を眺める。

 

私が漂っているのは海軍本部のある偉大なる航路(グランドライン)ではなく、ナナノシノニッパ村の近海。つまり東の海(イースト・ブルー)である。

 

ドリフトさんの執務室を出た後、ガープさんへ辞表を直接渡すとあっさり辞職出来た。

 

ガープさん曰く、若い内は思うままやってみろ、だそうだ。きっとドリフトさんが手回しや手続き等を済ませていたのだろう。

 

その後、ガンジお爺ちゃんの元へ帰り色んな話をした。

ゾロと再会したこと、ゾロが今いる麦わら一味の話、海軍の人達の話、任務の話やアラバスタでのこと、そして私のこれからのこと。

 

能力を自在に操れるようになってからは頻繁に帰るようにしていた我が家だが、実は今回の帰宅は少し気が重かった。

 

私が海軍を辞めたことでガンジお爺ちゃんに迷惑を掛けるかもしれないからだ。海軍という後ろ盾が無くなった今、私への悪意は家族へ向かうかもしれない。そう思うと、やはり心苦しい。

 

しかし、子が親に迷惑をかけて何が悪い。そう言って笑うガンジお爺ちゃん。

 

「本当ならば生まれてから独り立ちするまで親に世話になるもんじゃ。リィナにはそれがなかった分、今から迷惑をかけなさい。」

 

朗らかに諭すように私に語る。

 

ドリフトさんがこの村に海兵を常駐させ始めてからは近海の海賊や近隣の山賊等の賞金首は現れなくなり平和そのものなのだそうだ。

 

海軍中将の威光が、そしてこの村出自の元海軍大佐の私の目がある限り『最弱イーストブルー』の小物は寄り付かないらしい。

 

それに、常駐派兵員の海兵の中には私を良く想ってくれている人がいるらしく、村へもとても良くしてくれているそうだ。

 

「ゾロ程頼りにはならんがあやつになら嫁がせても良いかと思っとる。」

 

悪戯に笑うガンジお爺ちゃんだったが、そんな話を聞いて恥ずかしくもあり、嬉しくもある私だった。

 

だから気にせず行ってきなさい、と背中を押してくれた。

 

村を出る前に常駐海兵の詰め所へ立ち寄り少し話をすると、私の辞職と村への派兵は継続させる旨がドリフトさんから連絡があったそうだ。

 

いつでも私が帰れるように村を守る、と真剣な顔で言う真面目そうな青年に礼を言い小舟で海へ出た。

 

ゆらゆら、ふらふらと漂いながら、余韻に浸りながら私は次の目的へ意識を向ける。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

能力で移転した先は海賊船が停泊中の無人島。以前、会ったことのある海賊の船長さんに話を聞きに来たのだ。

 

私が聞きたい情報を知っていそうで、まともに話の出来そうな人。尚且つ、私からも情報を出せそうな人がこの人しか居なかったからという理由だ。

 

島の内部で野営でもしているのか、船には見張りの数人だけであったので一先ず声を掛ける。

 

「こんにちは。船長さんとお話したいのですが取り次いでもらって良いですか?」

 

突然現れた私に驚く見張り番だったが、私の事を覚えている人がいたらしくその人が島の中へ走って行った。

 

待っている間他の見張りの人達とは気まずい沈黙が続くが、敵意は無いですよ、と笑顔を魅せると鼻の下を伸ばしているのが少し気持ち悪かった。

 

程無くして戻って来た一人に連れられ野営地へ訪れる。幹部たちが無言のまま重圧のある視線を向けるが気にせず一番奥へ座る船長さんの正面へ進む。

 

「久しいな。今日はガープ中将と一緒じゃないのか?」

 

船長さんからの気当たりの強い視線を受け少したじろぐがなんとか踏み止まり敵意の無い事を示す。

 

「お久しぶりです。先日海軍は辞めました。それで海賊になろうと思うのですが、その前に聞きたいことがあって来ました。」

 

海軍を辞め海賊になる。その言葉にほぅ、と頬を緩めて船長さんは言葉の続きを促す。

 

「それで、私から聞くだけなのも礼儀がないので麦わら海賊団のお話でもしようかと思いまして。」

 

麦わら海賊団という言葉に船長さんと幹部たちの重い雰囲気が和らぐのを感じる。

 

「そうか。…おい、ヤロー共!客人をもてなせぇ!!」

 

「「「おーっ!!!」」」

 

あれよあれよと私は船長さんと幹部たちに囲まれ、宴が開催され始める。私は事の次第に困惑するままお酒は勧められ、食事を勧められる。

 

「それでルフィは今どの辺りにいる?元気にやってるか?手配書が出たまでは知ってるんだがその後がてんで情報も無くてな。」

 

「ちょ、ちょっと待って。船長さん落ち着い下さい!幹部さんたちも!!」

 

この人たちルフィさんのこと好き過ぎて大変だ。確かに人を惹き付ける魅力のある人だとは思うがこれ程とは思わなかった。

 

「いや、すまなねぇ。つい興奮しちまった。それから、船長なんて堅苦しいからシャンクスで良い。」

 

「えぇ、大丈夫です。では、シャンクスさんとお呼びします。あ、私はロロノア・リィナです。家族が麦わら一味なんですよ。」

 

と、自己紹介を済ませ私が知っている麦わら海賊団の事を話した。

アルビダからバギー、クリークにアーロン。手配書が発行される以前の事から先日のクロコダイルの件。そして、アラバスタを出て今はジャヤ辺りだろうと伝える。

 

途中、ルフィさんと赤髪海賊団の出会いやシャンクスさんとバギーが旧知の仲であること、ウソップさんとヤソップさんが親子であること、ルフィさんとポートガスは義兄弟である事など話題は尽きず私は質問する機会を失っていた。

 

だが、シャンクスさん達の話はとても楽しく心踊る航海譚で各々が盛り上がり、私にとっても充実したひとときだった。この感じはやはり似ているな、と自然に頬が緩む。

 

ルフィさんの海賊像はシャンクスさんであり、赤髪海賊団なのだと体感出来た。海軍は敵、他の海賊も敵などと固定概念にとらわれがちな海賊の中でも個人を視て自身で判断している。

 

大海賊時代と呼ばれる昨今、敵味方の判別を誤れば死に繋がる。後ろから味方に…なんてよくある話だ。

自身の感情や感覚で敵味方、良し悪しを判断する事がどれだけ危険な事なのか分かってやっているはずだ。

 

それでも、自分の信念に従いやりたいようにやる。この人達はそれが出来るのだ。言うなれば、それだけの想いと力を持ち合わせているからこそだろう。

 

私に足りないものの一つがそれだと実感している。

 

「…浮かない顔をしているな。騒ぎ過ぎちまったか?」

 

皆の輪から少し離れ考え込んでいた私を気に掛けシャンクスさんが隣へ腰を降ろす。

 

「いえ、私事でちょっと。

私は上司の命令に従って働くだけで大佐という地位に立ちました。悪魔の実の能力もあって私は誰よりも強くなったと勘違いしていたんです。先日手も足出ないまま惨敗してそれに気付かされました。」

 

「俺は力を持ち、力に溺れ死んでいった奴らをごまんと見てきた。だが、おまえはそれに早い内に気付けたんだ。今からまたやり直せる。それは良い事じゃないか。」

 

それは理解している。だからここを訪ねてきたのだ。しかし、それをロードという男に気付かされた事が癪だと感じてしまう。

 

「…シャンクスさんはルフィさんを助けた時に左腕を失い、後悔しましたか?」

 

「いや、全然。ダチの命を失う方が後悔するさ。」

 

「私は悪魔の実の能力でそれを無かった事に出来るんですよ。即死でない限り、どんな怪我でも即時全快、それこそ首を刎ねた直後、完全に命が尽きる前なら元通りです。シャンクスさんのその失った腕さえ復元出来ます。」

 

シャンクスさんは私が言おうとする事が分かるのか顔色を変えず口を閉ざしたままだ。

 

「…私は命を軽んじていました。 負けて気付かされました。死ぬ覚悟も無く、己の信念も無く、能力が無ければ弱いということに。だから、強くなる手始めに知りたいことがあるんです。『四皇』のあなたなら知っていると思い訪ねて来ました。」

 

「…覇気、だろ?」

 

「そうです。『ハキ』とは何ですか?悪魔の実の能力が効かずに一方的にやられたのは初めてでした。」

 

やはりシャンクスさんはハキを知っている。海賊の頂点を競う者達なら知っていると踏んで正解だった。

 

「…覇気とは素質にも寄るものでな。知ったから、修業したからすぐに使えるというものじゃない。俺は教えることは出来るが扱えるかはおまえ次第だ。」

 

「構いません。知っておくだけで幾分違うものですし、損はありませんから。」

 

私に素質があればより上手く扱える力。あの男は私と同じ転生者だということから、同じ素質があってもおかしくは無い。

もし、素質が無くても力を知ることで対策がとれる可能性は高いと考える。

 

「まず、覇気ってのは基本的に武装色の覇気、見聞色の覇気の二つのことだ。詳しく教えたいとこだが、俺はどうも言葉での説明が下手らしい。だから、適役の師匠を紹介してやるよ。」

 

結局、種類と用途だけは教えてもらい、師事出来る人から詳細と素質の有無を見てもらうことになった。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

武装色の覇気とは、意思の力を体や武器、武具に纏うことで硬化させ、攻防共に強化が出来るらしい。硬化させた部分は黒い金属の様に見えるようだ。

 

自然系(ロギア)の能力者に対しては物理的に触れる事が出来る。

つまり、ロードという男が世界と同化した私を殴打出来たのはこの力だ。

 

見聞色の覇気とは、相手や周囲の気配をより強く察知する力。鍛え上げれば相手の思考すら読めてしまうらしい。

 

私が背後からの奇襲をかけたにも関わらず、事前に察知して防がれたのはこの力だろう。

 

覇気とは扱える者にとって莫大な戦闘力を有する事と同義であると実感する。

 

悪魔の実の自然系(ロギア)は絶対的な強さを誇ると思っていたが、それを抑える事の出来る武装色の覇気は絶大な力だ。

 

加えて、周囲の気配察知や相手の行動を先読み出来る見聞色の覇気は、先手を取る有利性を覆せる程の力となる。

 

覇気を使える者と使えぬ者とでは、悪魔の実の能力者と一般人くらいの違いがある。

一概には言えないが、悪魔の実の能力者+覇気使い>覇気使い>悪魔の実の能力者>一般人ということになりそうだ。

 

「あともう一つ、特定の素質を持つ者にしか扱えない覇気もある。…これだ。」

 

二つの覇気の説明を受け思案している私にシャンクスさんは殺気にも似た威圧感を放つ。背筋に冷や水が這い上がるような寒気を増していく。

 

私と大気の境目が直に衝撃波を受けた様にビリビリと震える。身体が硬直し力が抜け、本能が跪けと訴えかける。そして手足の感覚を失う程の重圧は更に高まる。

 

この感じはかつての上司とあの男から受けたものと同じ質のものだと直感する。だが、徐々に重く鋭くなる威圧はそれらに勝っている様に感じる。本能に諍い意識を手放さないようにするがこのままではあまり保ちそうにない。

 

「これが王の素質、覇王色の覇気だ。今ので七割くらいか。おまえがこれに耐えられたってことは素質はあるってことかもな。」

 

「…はぁ、ぁ…ぅう…死ぬかと、思いました。」

 

七割でこれ程ならば本気だとどうなってしまうのか。体感して本能で理解出来きてしまう。『王の素質』というのはあながち間違い無い。こんな威圧感を受けたら一般の人は知らずに(ひざまづ)き、(かしづ)いてしまうだろう。

 

「俺がここまでやるなんて滅多にないぞ?ありがたく思え!」

 

一応、この人は四皇の一人。海賊の中の最高峰の一人だ。本来ならば簡単に会うことすら出来ない人なのだ。だが、そう見えないのはシャンクスさんの人柄だろう。

 

「いや、ありがたいですが予告無しはキツいです。」

 

「大体の格下なら泡吹いて倒れるからな。おまえを試したんだ。リィナ、文句無しの合格だ。アマゾン・リリーに送ろうと思ってたが、とっておきの使い手を紹介してやる。」

 

何とも手荒い試験方法だったがお眼鏡にかなったようで安心する。

が、今この人アマゾン・リリーと言いましたね。アマゾン・リリーといえば九蛇海賊団。九蛇海賊団といえば王下七武海の海賊女帝 ボア・ハンコック率いるところじゃないですか。やはり四皇ともなれば一般の常識が通用しないのだろうか。

 

ともあれ、次の予定も決まった所で宴会の盛り上がりの最高潮に差し掛かる輪の中へシャンクスさんは戻って行った。

 

 

※ ※ ※ ※

 

赤髪海賊団の宴は夜遅くまで続き、翌朝は酔い潰れた面々と二日酔いの面々とで死屍累々の惨状が出来上がっていた。幹部たちや他数人はまだ飲み食いしたり、介抱したりとタフな方もいるが。

騒ぎ楽しむことが好きな人たちの様だが後先考えずに騒ぐのだから自業自得だ。

 

シャンクスさんは二日酔いで凄く機嫌が悪いらしい。これでは師事してもらうはずの方を訪ねるのは延期になりそうだと副船長のベン・ベックマンさん。

 

仕方ないので一言断りを入れ、シャンクスさんの手を取り触れている部分だけを同化させ、体組織と自我の一部を同調させ健康時のイメージを形成し能力の解除と共に体調を戻す。

 

おっ?!、と健やかな笑顔で立ち上がり伸びをするシャンクスさんは正に健康体そのものだ。

 

「…お、お頭?」

 

その時、宴会はとうの前に終えているにも関わらず骨付き肉を食べていたラッキー・ルウさんがなんと骨付き肉を地面に落とした。

その衝撃的な光景に既に起きていた幹部たちも驚き、次いでシャンクスさんを見やる。

 

「「「「「「…腕が生えてる?????!!!!!!」」」」」」

 

当人のシャンクスさんも幹部たちと共に驚いている。いや、実は私も驚いている。

 

「…あぁ、ごめんなさい。いつもの癖で健康体をイメージしたら腕まで復元しちゃったみたいですね。どうしましょう?」

 

普段、怪我をした人を治す要領でつい五体満足の健康体をイメージしてしまったようだ。13年前失ったはずの左腕が急に生えているのだから驚きもするだろう。人体の神秘だ。

 

「…まぁ、いいか。」

 

シャンクスさんは一度驚き冷静に判断した結果、問題にしないことを選択したようだ。幹部たちも本人が良いなら、とあっさり受け流す。

 

「じゃ、留守は頼んだぞ。」

 

と、シャンクスさんは幹部たちに向かって右手を軽く挙げ、私の肩に左手を置く。昨夜、能力で移動出来ることも話し目的地も聞いていたので無言のまま頷き能力で移動する。

 

「“移動(ムーブ )” シャボンディ諸島。」

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

ここはシャボンディ諸島。諸島と言っても島ではなくヤルキマン・マングローブという巨大な樹木が79本寄り集まっている場所なのだ。その樹の根の部分に町や施設を作り人々が住み、航海者が集うようになったことで巨大な町として機能している。

 

79本それぞれに1番GR(グローブ)~79番GR(グローブ)という名称が付いており、私たちが今居るのは諸島の中央辺りに位置する13番GR(グローブ)のとある建物の前だ。

 

『シャキー'S ぼったくりBAR』という看板が大きく掲げられているがこれで客は寄って来るのだろうかと心配になってしまう。

 

「客なんてどうでもいいんだ。さぁ、入るぞ。」

 

そう言ってシャンクスさんは店の扉を開ける。昨夜あれだけ飲んで今度はここで飲む気なのかとも思ったが、何やら少しだけ緊張しているようにも見える。なので私は大人しく従い付いて店に入る。

 

「あら、シャンクスちゃんじゃない。十年振りくらいかしら?」

 

「お久しぶりです、シャッキーさん。」

 

店内のカウンターに座り煙草を吸っている女性と知り合いのようでシャンクスさんは挨拶を交わす。しかし、見たところシャンクスさんよりも若く見える女性だが、四皇をちゃん付けで呼ぶとは恐れ多い。

 

「レイリーさんに会わせたい娘がいて連れて来たんだが。」

 

「あら…後ろの娘ね?コーヒー飲む?ジュースの方がいいかしら?」

 

「あ、はじめまして。ロロノア・リィナです。えぇと、コーヒーをいただきます。」

 

その後コーヒーを入れてもらい、シャッキーさんは店の奥へ入って行った。

シャンクスさんは軽く息を吐き、未だ緊張した面持ちでコーヒーを口にしている。四皇 赤髪のシャンクスがこうも静かに強張っているなどと誰かに言っても信じてはもらえないだろう。

 

そして、先程シャンクスさんが言っていた『レイリー』という名はどこかで聞いたことがある名なのだが…

 

しばらくしてシャッキーさんと老人が共に店の奥から現れた。

 

「久しいな、シャンクス。ん?その左腕は自然に生えてきたか?そちらの娘さんは元海軍大佐の『偶像(アイドル) リィナ』で間違いないかな?」

 

「お久しぶりです、レイリーさん。流石に耳が早い。そのリィナで間違いないですよ。この左腕はリィナの能力で生えたんですよ。」

 

白髪で髭を生やしたお爺さんにも異名で呼ばれるのはとても恥ずかしい。

しかし、それどころではないのだと気付く。今目の前に居る老人はもはや伝説となっている『海賊王の右腕』『冥王』シルバーズ・レイリー。

 

「は、はじめまして!ろろにぉあ…ロロノア・リィナと申します。よろしくお願いします!」

 

さすがに伝説を目の前にして緊張しない訳が無い。シャンクスさんが強張るのも理解出来てしまう。自分でもしどろもどろになり言葉が上手く紡げていない程動揺しているのが分かる。噛んでしまい恥ずかしくなる。

 

「そんなに固くならなくていい。私はとうに引退している身、ここではコーティング屋のレイさんで通っている。」

 

「…分かりました、レイさん。」

 

気さくに笑顔で語りかけるレイさんに僅かながら微笑み返す。引退している身と言いながらもこの人の纏う雰囲気、威圧感というのは凄まじく感じ取れる。全盛期の、それこそゴールド・ロジャーと共に海を駆けていた時はどれ程のモノだったのか想像も出来ない。

 

「レイリーさん、コイツに覇気のイロハを師事してやってほしいんだがどうだろう?俺の覇気を耐えたくらいだから見込みはあると思う。」

 

「ほぅ…いいだろう。若者の、特に若い娘なら大歓迎だ。」

 

シャンクスさんの進言を快く笑顔で受けてくれたレイさんだが、何やら邪な言葉も聞こえた気がする。気のせいだということにしておきたい。

 

「昨夜、シャンクスさんから覇気の存在を教えて頂いたばかりの初心者ですがよろしくお願いします。」

 

私は教えを乞う側なので深く頭を下げる。どれだけ時間がかかるものか分からないが覇気の習得を優先しないとゾロの下へは行けないのだ。力無いまま行けば再び転生者を名乗る者が私の排除に赴くだろう。そうなれば麦わら一味に迷惑を掛けてしまうはずだからだ。

 

「では、詳しい説明をする前にいくつか聞いていいかな?」

 

先程とは一転して気を張った真面目な面持ちのレイさんに対し、私も座を正し肯定の意で頷く。

 

「まず、悪魔の実の能力を教えてくれるか?覇気と能力の相性もあるからね。それを踏まえて覇気を教えよう。

それと、リィナくんの出自を知りたい。キミからは珍しいあまり感じたことの無い気を感じる。

最後に、きみは何の為に力を望む?」

 

能力は差し当たっての問題は無いだろう。包み隠さず私の能力を話すなんて初めてなので上手く伝えられるか不安だ。

 

出自、というより転生したという話は荒唐無稽過ぎて真実味が無い。二年より前の記憶が無い事を正直に告げることにしよう。

 

私が強くなりたい理由など既に決まっている。私の我がままを押し通す為に力が必要なのだ。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

時間は掛かったが能力の説明と出自、目的を話し終えてレイさんはフム、と顎に手を添え考え込んでいる。

 

「…キミの能力は万物と同化する事の出来る能力か。その過程で境界線を操作すると。」

 

「はい。大気と同化、同調し瞬時に目的の人、場所まで移動出来ます。扉の境界線を操り別の場所の扉と同調する応用もありますが、大気と同化した方が制限がありません。

同化、同調して、能力を解除する際に私と同化した人や物の境界線を操り元に戻す事も変化させる事も可能です。ただし、私がイメージ出来ないものには変化出来ません。

後は指定区域と同化し、大気化した状態で多くの人と同調することで私の言葉通りに操ることも出来ます。覇気使いには効かないようですが。

最後に、指定した人や物の境界線を隔離し、別の世界軸のようなものを作り出せます。これは誰にも気付かれずに隠密行動する時や、戦闘時に一帯への被害を出さずに済むので便利ですね。」

 

能力の補足として私に出来る事を一通り告げるとレイさんは頭を抑えて黙り込んでしまった。

 

因みに、シャンクスさんはシャッキーさんを連れて買い出しに出ている。能力や私のプライバシーを考えて席を外してくれたのだ。シャンクスさんは見た目や行動によらず紳士的な事も出来る人だったようだ。

 

「…リィナくん、君の能力で意識の一部だけを周囲と同調する事は出来るか?」

 

「?…やってみます。」

 

身体の境界線を保ったまま、意識は常に私と周囲に保ちつつ同調。以外と難しいのかもしれない。

 

いや、任務中に身体は意識して動いている時でも周囲の警戒は怠らない状態。今まで何度もあったはずだ。意識してやったことは無いが少し広い範囲で意識すれば…

 

建物全体、建物の外、周囲に人は居ない。店内の配置や建物全体の装飾や周囲の様子が視覚イメージとして感じ取れる。

そして、目の前に座るレイさんが右手に持った棒を私に振り下ろすのが視えた。私は瞬間的に腰に差す刀の鞘で受け止める。が、一拍遅れてからレイさんの振り下ろした棒が鞘に当たり小気味よいコンという音が鳴る。

 

「それが見聞色の覇気だ。先読みまで出来たじゃないか。キミの能力と覇気は相性が良い。むしろ、良過ぎるくらいだ。なぜ今まで覇気が使えなかったのか疑問になるくらいのな。」

 

自身でも信じられないが、覇気を知らなかったのだから能力の扱う方向を定めることで覇気に転用させるなど思い付く訳が無い。というのは言い訳だ。能力の研磨、日々の鍛錬などを怠り、能力を過信してその先を見出せなかった私の落ち度だ。

 

「さっきのが見聞色の覇気…常に展開されるには鍛錬が必要ですね。ということは、武装色の覇気は…」

 

まずは右手を覆う手甲をイメージする。そして、体内に散漫する気を右手に集めるイメージ。皮膚表面をイメージした手甲と同調させる。イメージばかりが拡散しない様に皮膚表面の境界線を操作し押し留める。

 

自身の意思を鎧の様に纏うことで成る武装色の覇気。私の右手は黒く金属のような鈍い光沢を放っている。

 

「…出来た!」

 

「大したもんだ。能力の力技でもあるが余りある天性の素質もあるんだろう。こうも教え甲斐の無い者は今まで逢った事が無い。」

 

あの冥王に褒められるとは嬉しい限りだが、ふと気を抜いた瞬間に武装色の覇気は解けてしまった。これも維持させるには鍛錬が必要だと考える。

 

「本来なら素質が有ったとしても一年ほどは修業するんだが。…若しくは、記憶を失う前に習得していたかだな。ともあれ、基礎的なものはそれで終わりだ。それと覇王色の覇気は自身のイメージでやってみると良い。こればかりは素質だけではなくある程度以上の修業も必要になるはずだ。」

 

記憶を失う前という言葉に違和感が浮上するが少し後回しにする。

 

殺気に似た威圧感、王としての威厳、本能的に他者を屈伏させる程の意思の力。

目を閉じ、自身の意識の境界線を操作しその感情を引きずり上げる。鏡の様な水面に一滴の雫を落とした時の放射状に広がる波紋に指向性を持たせるイメージ。意思の力を留め身体に纏い、そして放つ。

 

イメージでは出来るが実際に目に見えるものではないのでよくわからない。レイさんに聞いてみようと目を開くと、呆然とした顔で私を見ているレイさんが居た。もしやと思い恐る恐る聞いてみる。

 

「…もしかして、出てました?」

 

「…出とった。正直、驚いた。」

 

レイさんの表情を見るからに手放しで喜べない状態の私をよそに、BARの外から慌ただしい足音を立て扉を荒く開けて入って来たのはシャンクスさんだ。

 

「レイリーさん!子供相手に大人気ねぇぞ!!」

 

「いや、私じゃない。」

 

「はぁ?!じゃあ、さっきの覇気は…」

 

「…リィナくんだ。」

 

今度はシャンクスさんが呆然と目を見開き口を開けて私を見る。遅れて店に駆け寄るシャッキーさんはレイさんとシャンクスさんを見て困惑している。

 

「シャンクス、私がリィナくんに教えることはもう無いようだ。」

 

「…マジか?」

 

「あぁ、マジだ。リィナくん、これで師事を終えるが修業は怠らないようにな。」

 

「あっ、はい!ありがとう御座いました!」

 

ほんの数刻だけであったが教えて頂いた礼を言い頭を下げる。顔を上げレイさんと顔を合わせるとなにやら浮かない表情で私を見ている。

 

「…先程のリィナくんの覇気、私は若い頃に感じたことがある。ロジャーと出会う前だから50余年も前か。少し老人の昔話をいいかな?」

 

懐かしむように、しかし苦しむようにレイさんは窓の外を眺めながら話を始めた。

 

「私がまだ海へ出たばかりの頃『漂流者』と名乗る男と出会った。

その男は単に私に会いに来ただけだと言い、私にこの世界では無い異世界の話を沢山話した。

空を飛ぶ鉄の船、映像と音声を届ける小型の通信機器、ボタンを押すと食事が出てくる箱などとても信じられない空想の話に心が躍ったものだ。

二日程共に行動して別れたのだが、去り際に覇王色の覇気を見せていった。後におまえが必要とする力だと言っていたが当時は意味も分からず心底恐怖したものだ。

ロジャーと出会い航海を続ける過程で私は覇王色の覇気に目覚め、あの男の言葉の意味を知ったよ。

あれ以来、その男と会うことは無かったが、あの覇気は今でもよく憶えている。どれだけの覇気使いと相見えようともあれほど毛並みの異なる覇気とは出会えなかった。

先程のリィナくんの覇気はその男の覇気に通じるものがある。きみは『漂流者』という男と関係があるのかもしれないな。」

 

「漂流者という男は知りませんが、もしかすると記憶の無い二年より前に関係があるのかもしれないですね。」

 

レイさんの言う漂流者とは確実に転生者だろう。この世界ではない異世界の話をしていることからもわかる。レイさんに接触した理由は定かでは無いが何かしらの理由があるはず。

 

50余年も前から存在している転生者。そして、その転生者たちによる組織が存在している。ロードという男は麦わら海賊団が原作通りに冒険を進めることを見守る風なことを言っていた。

 

レイさんが出会った男と私の関係、転生者組織との関係は今はまだ分からないが今後もどこかで関わるはずなので一つの事前情報として憶えておこう。

 

その後、レイさん、シャッキーさんと少し話をしてBARを後にする。別れ際シャッキーさんに抱き締められまたね、と挨拶を交わした。次に訪れる時は麦わら一味を紹介出来るといいな、などと考えながらシャンクスさんと移動する。

 

赤髪海賊団の滞在する島へシャンクスさんを送り、思っていたよりも早く戻ったことに驚く赤髪一味に挨拶を交わし、来た時に停めておいた小船に乗り込み船を出す。

 

基本的な事だけとはいえ覇気も使えるようになったので鍛錬を積み自由に扱えるようにならなくてはいけない。

とはいえ、今はとても安堵している。扱えるかどうか分からない力だと念を押されていた覇気を扱えると体感したからだ。

 

それと同時に一つの懸念が浮かぶ。ロードは私を転生者と言っていたはずなのだ。しかし、それではおかしい。記憶が無い15歳まではこの世界で『誰か』として生きていたはず。『私』として転生したというのならば生まれた瞬間から『私』でなければ転生とは言えない。

 

生まれて15歳まで別の誰かで、それ以降が私だと言うのなら『憑依』と言うのではないか。そんな懸念が浮かぶ。

 

ロードの話に信憑性は無いのだから一蹴すれば良いだけの話なのだが、自身の出自も記憶も無い、分からないというのは実に空虚なのだ。ほんの少しだけ弱気になり自分が何者なのか不安になることが稀にある。

私にはゾロとガンジお爺ちゃんという家族が居てくれるので、それが心を支えてくれている。それでも、やはり不安がなくなった訳ではない。

 

だから私はすべての記憶を思い出しそのうえで二人と家族でいる為に、私の知らない真実を転生者たちから聞かなければいけない。本当の私を知り、それでもゾロとガンジお爺ちゃんを本当の家族と呼ぶことが今の私の目的だ。

 

そのための力を得たことは素直に嬉しい。ゾロと共に海賊として冒険することは胸が躍るように楽しいだろう。

その途中で現れるであろう転生者と対峙するのはやはり怖いが目的の為なら努力出来る。

 

海軍を正式に辞職し、新たに覇気の力を手に入れ準備は整った。大量の肉や食材、お酒を近くの町で購入し麦わら海賊団の下へ向かう。

 

「“移動(ムーブ)” 麦わら海賊団!!」

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

赤髪海賊団、レイリーの原作情報が少ないので違和感があるかもしれません。申し訳ありません。

文字数を減らし話数を増やそうかとも考えていますが、まだわかりません。

書き方を考えながら、途中で変えるかもしれませんが、完走まで続けさせていただきます。

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