姓はロロノア 名はリィナ   作:ぽんDAリング

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この話でアラバスタ編は終わります。

内容に主人公の悪魔の実について説明がありますが、語学力の無さが露呈しています。申し訳ありません。

それと、またも原作キャラの活躍はありません。


6 ・道を辿る者、逸れる者

 

アラバスタ近海でのB・W捕縛作戦は短時間で終わり、ナノハナ住民にも大きな混乱を与えずに済んだようだ。

 

モクモクさんの部隊は約束通り麦わらを追って行った。私とヒナさんは先程捕らえたB・W社員の中で指揮を執っていたMr.11という男を移送せず別室で尋問している。

 

このMr.11という男はフロンティアエージェントといい、B・W社員の中では上位の役職らしくなかなか口を割らない。秘密犯罪会社の上位というのは口の固さも必要らしい。

 

「ヒナさん、私のやり方で尋問していいですか?」

 

「?…いいわよ。でも、拷問みたいなことは駄目。」

 

「わかってますよ。では…」

 

私は紙を用意し、左手にペンを持ち、Mr.11の頭に右手を乗せ能力を発動させる。

 

「あなた達の上司、Mr.0の情報を教えてください。」

 

私の能力でMr.11と私の自我の一部を同調させる。これで私の質問に対して意識、無意識に関わらずMr.11の知る真実のみを引き出せるのだ。

 

今から行う方法の説明としては物質感応能力(サイコメトリー)の要領で右手から対象の情報を引き出し(・・・・)、左手で情報を書き出す(・・・・)というものだ。

 

便利な能力ではあるが表向き(・・・)の能力では、直接触れなくては情報を引き出せないことと、引き出した情報は私の左手から文字として書き出されるのみで、私自身が映像のように確認出来るものではないという難点がある。

 

それと、一度に読み取れる量は質問に対して知っている事に限られ、その都度質問を変えなければ読み取れない。

便利だが使い道が限られ、時間も掛かるので実は尋問には向かない、ということになっている。

 

その後もいくつか試してみたがクロコダイルの情報は出てこなかった。しかし、下っ端社員の知らない情報はいくつか新たに分かった。

 

B・W社は基本的にMr.13 アンラッキーズという伝達係が指令書を運び届ける。

それが今は行方不明になっているようで、次点の連絡手段であるエリマキランナーズという緊急伝達係が動くらしい。

そのエリマキトカゲは『ナノハナで待機』という命令を受けたB・W社員の元へも必ず来る。それを確保出来れば新たな情報の入手となり、国盗りの防止に繋がるだろう。

 

あと、正確な情報ではないが興味深いものが一つ。クロコダイルが全オフィサーエージェントに召集をかけたようだ。これはクロコダイルが直接動く前触れに違いないと考える。

 

あとは正確に動き出す日時が分かれば私達も捕縛に踏み込むことが出来るのだが…

 

懸念としてもう一つの情報を挙げると、国王軍と反乱軍にそれぞれ潜入しているB・W社員の情報だった。

 

今のところどちらにも動きが見られないので諜報員のみ先行させているが、B・W社員が潜伏しているとなれば、互いの手引きで内乱を引き起こす可能性が高いだろう。

 

国王軍の居るアルバーナか、反乱軍の居るカトレアか、クロコダイルの居るレインベースか。

 

「私はカトレアへ赴き反乱軍内に潜むB・W社員をあぶり出し捕縛します。その後、アルバーナの国王軍内のB・Wも同じように捕縛しますのでヒナさんはモクモクさんをレインベースへ向かうように誘導してもらえますか?年下の私より同期であるヒナさんの方が良いと思いますので。」

 

「分かったわ。スモーカー君に念のため電伝虫持たせてて正解だったわね。」

 

「えぇ。それから、ヒナさんの部隊でナノハナ周囲の警戒をお願いします。伝達係のエリマキトカゲを一匹でも捕まえれば指令書の内容で対策をとれます。」

 

「任せて。私服海兵を少し増員して当たらせるわ。内乱に乗じて国盗りなんて大層な考え許せる訳ないじゃない。ヒナ憤怒。」

 

「ですね。では、私は部隊の準備を整え、早朝にはカトレアへ到着するように発ちます。」

 

私はヒナさんと会釈し部隊の元へ向かう。いよいよ今作戦も佳境だと思うと身が震える。

 

クロコダイルのやろうとしていることは許されぬ行為だ。個人的な感情だとは思うが、海軍として最後の仕事は出来るだけ死者を出さずに終えたいと思っている。

 

現段階で部隊の戦力は決して多いとは言えない。連日の哨戒任務と先の海上戦闘で疲れも出てきている。肉体的には強靭な者でも精神的な疲れを感じないなんて人はいない。この地の気候も慣れぬ者にとっては肉体的、精神的にも辛いだろう。長引けばこちら側が不利になる。

 

近い内にクロコダイルが動くのならばこちらとしても都合が良いのだ。無駄な被害は出さない為にも早期終結を心掛けたいと思う。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

近海と町の哨戒任務をヒナさんの部隊に任せ、少しだが夜間に休みをとらせた私の部隊は疲れを見せず夜明け前の砂漠を反乱軍の集うカトレアへと歩を進める。

 

丁度、日の出のタイミングでカトレアの町が見える場所までたどり着くと、部隊員を見渡し各々の準備を確認して再び歩き出す。

 

「反乱軍の皆さん、話があって来ました!リーダーとお会いしたいのですが入っていいですか?」

 

町の入り口付近に見張りが居ることは折り込み済みである。皆で敵対の意思は無いことを示す為に両手を挙げ呼びかける。勿論、いつもは腰に下げている刀は外している。

 

見張りの一人が町の奥へと走り、もう一人はこちらへ銃口を向け警戒は怠らない。

数分間の沈黙の後、戻って来た見張りの一人に私だけ来るよう言われその通りに従い、他の部隊員は少し離れた場所で待機する。作戦のパターンとしてこれも想定の内だ。

 

程無くして町の広場に集う者達の前に通された。その中心に額から目尻を通り頬までの傷がある男が木箱に座り私を待ち構えている。

 

「反乱軍リーダーのコーザだ。こんな早朝から何の用だ、お譲さん。」

 

「私は先日からナノハナへ訪れているリィナと申します。私が来たのはあなた方にとって重要な事実を伝える為です。

ですが、一つお願いがあります。リーダーであるコーザさんと二人でなければ話せない事なので、ご了承頂きたいのです。」

 

海軍という事実は隠しているが嘘は言っていない。ちなみにこの条件が飲めないという時は信用の置ける数人くらいは良いかと考えているが、それでもギリギリのラインだと思っている。

 

「…良いだろう。付いて来い。」

 

あっさりと了承され、表には出さない程度に安堵する。反対の意を唱える数人を眼力で黙らせ奥の建物へ向かうコーザを私は早足で追う。建物の扉を閉め、ソファへ座るよう促されそれに従う。

 

「…単刀直入に伝えます。反乱軍の中に相当数の異物が混じっています。秘密犯罪会社B・W(バロックワークス)という者達です。信じる信じないはあなたの自由です。そして、ここから先の話を聞くも聞かないもあなた次第です。どうしますか?」

 

私は目を見開き言葉の出ないコーザを見詰めたまま返事を待つ。

 

「…ちょっと待ってくれ。どういうことだ?意味が分からない。」

 

「では、順を追って話しましょう。これは確信を持った推測です。

先ず、反乱軍の起りとなった二年前のダンスパウダー事件は聞き及んでいます。それを手引きしたのは国王ではなくB・W社です。何故、と疑問に思うでしょう。理由は簡単、内乱を引き起こす為ですよ。

二年間も内乱が続くと国王軍、反乱軍共に兵力の疲弊が表れます。そんな今ならアラバスタ王国の乗っ取りも容易いと思いませんか?」

 

「なんだと?!」

 

「まぁ落ち着いてください。つまりですね、二年前からこの国は知らず知らずの内にB・W社から侵略を受けているんです。ここまではいいですね?」

 

「あぁ、俺達は謀られたのかもしれないな。だが、おまえの言葉が真実である保障はない。おまえが俺達を騙そうとしている可能性もあるわけだ。」

 

やはりそう簡単には信じて貰えないらしい。確信を持った推測であって事実では無いことを明言し、証拠も無いのだから当たり前だ。

 

「ですから最初の質問に戻ります。信じるか信じないかはあなたの自由です。」

 

私の話した内容は反乱軍の二年間を無に帰すような話だ。自分達の意思で戦い死んで逝った、傷ついたこの人の仲間達の犠牲は謀られた無駄なものだと言い放つ行為。剣よりも銃弾よりも傷を深く抉る言葉を私は淡々と口に出した。

それでも、過去を無かったことには出来ないが未来で起こり得る多くの犠牲を少なくすることは出来る。私はこの人にもう少し先の可能性を、選択肢を与えているのだ。

 

「俺はコブラ王と旧知でな。…悔しいがおまえの推測の方が正しいと思えるほど、あの人は国民を愛していると俺は知ってる。俺は今でも王を信じてるさ。

…だがな、皆の裏切られたと知った時の絶望は、怒りは、恨みは今だに燃え続いている。振り上げた拳は誰かが振り下ろさなきゃいけない。俺は反乱軍のリーダーとしてコブラ王を知っている者として戦わなきゃいけねぇんだ。」

 

「あぁ、申し訳ありません。私の言葉が足りませんでしたね。私は反乱軍を止めに来た訳じゃありません。その役目は国王や王女のものです。

私はB・W社の侵略を止めに来ただけですから。なので、内乱の継続、終結如何はリーダーのあなたが先頭に立ち考えて決めてください。そこに私は関与出来ません。」

 

そもそも、最初から反乱軍を止めるつもりは無いのだ。内乱を続けるも辞めるも当事者達で決めるべきことで、第三者の私が止めたところでわだかまりが残っては意味が無いだろう。

コーザも分かっているように反乱軍は一度剣を取ってしまっている為引くに引けない状態に陥っているだけなのだ。私が与えられる可能性、選択肢というのは『当事者で辞めるか続けるか考える』というものである。

 

「…わかった。反乱軍の中にそいつらが紛れ込んでるんだな。続けてくれ。」

 

「ご理解感謝します。B・W社が紛れているのは反乱軍だけではありません。国王軍にも居ます。

なので、国王コブラ、反乱軍リーダーのあなたが和解しようと動いてもやつらは裏で小賢く動き、強制的に戦闘に仕向けるでしょう。しかし、私なら今すぐどうにか出来ます。」

 

コーザは続きを促す様に口を閉ざしたまま私を見詰める。その瞳は先程よりも決意に満ちた瞳だ。その意思に答えるため私は微笑みを返し告げる。

 

「そういえば、私の仕事を伝え忘れていましたね。海軍本部 大佐 ロロノア・リィナが今よりB・W社員の一斉捕縛を執り行います。ご協力お願いして宜しいですか?」

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

反乱軍リーダー コーザとの話は終わり、先程の広場へと戻る。

 

「カトレアの同志を全員集めろ!外に出ている連中も今すぐにだ!!」

 

コーザの一声で辺りの人員が忙しなく動く。

ある者は血気盛んに叫び、ある者は恐怖に覚悟を決め、ある者は今生の別れと涙を流す。

皆、最終決戦を思い描き、各々の想いで腹を括り、徐々に広場を人々で埋め尽くす。

 

私は外で待機させたままの部隊員に捕縛準備を整えさせ、私だけ再び広場に戻る。この後の動きも前日に指示済みなので各自町の外で配置に就かせる。

 

「全員揃ったな。…これから何があっても俺の事を信じてくれ!!」

 

リーダーの要領を得ない言葉に、集まった反乱軍は何事かと困惑している。私はその面々を気にする事無くコーザの横へと移動し『本来の能力』を発動する。

 

「“支配(コントロール)”カトレア。」

 

カトレアの町を範囲とし私の絶対支配下へと世界が変わる。

 

私の本来の能力『世界と同化する能力』で私自身がカトレアの町そのものになる。同化するという能力は私という『人間を生成する境界線を操作する』というもので、即ち世界のあらゆる境界線を操るという能力でもあるのだ。

 

『全員動かないでください。無駄なお喋りも禁止です。』

 

語りかける私の姿は無く、声だけの響く広場で混乱する反乱軍のメンバー。私の言葉に反応し動かなくなる体に更に困惑し、パクパクと開閉するだけで音を発しない己の口に顔色は青褪め畏怖している。

 

現在、カトレアの町に存在する全てが私であり、皆を覆う『大気』でさえ私なのだ。Mr.11に行った物質感応能力の応用で、広場に集まる者と自我の一部の境界線を操作し同調させることで私の言葉に対して本人の意思とは関係なく忠実に行動させることが出来る。

 

『自分はB・Wの社員だという人だけ立っていてください。』

 

リーダーであるコーザを含め皆が一様にその場に腰を下ろす。その面々は意図せず勝手に動く自身の体に驚愕の表情を浮かべている。一方、自らの意に反し動かぬ体に表情を醜く歪ませる数人が不動のまま立っている。

 

『…八人ですか。以外と少ないですね。では、その八人はそのまま町の外へ出て下さい。他の人達は楽にしていいですよ。』

 

八人が町を出て、外で待ち構える部隊員に捕縛されたことを確認し能力を解除する。それと同時に私は元居た場所へ姿を現す。

白昼夢でも見たかの様に呆けていた反乱軍メンバーだったが、一人、また一人と我に返り混沌とした声を上げる。それを横目にコーザがこちらを向く。

 

「…いや、悪魔の実の能力者ってのはスゲェな。正直何が起こったのか理解出来なかった。

しかし、あの八人で間違い無いのか?あの中の五人は俺が入る前からの古参だったはずだ。」

 

「残念ながら能力の発動中は真実にしか作用しません。あなたもご自身で体験したはずですよ。」

 

「そうか…いや、悪かった。皆を代表して感謝する。」

 

そう言って頭を下げたコーザだったが、最初こそ私の話には半信半疑だったはずだ。それが実際に仲間の中にB・W社員が存在したことに落胆しているのが見て取れる。だが、不安因子の排除に少なからず安堵しているのも確かなようで表情は少しだけ穏やかになっている。

 

「いえ、まだですよ。反乱軍支部の方がまだ残ってますから。」

 

そうだな、とコーザは呟き主要メンバーを集め事の経緯を説明する。

困惑するメンバーへの説明に多少時間は掛かったが、その間に先程の八人を簡単に尋問し、めぼしい情報は無いようなので能力で移送する。

 

説明と今後の行動の指揮を終えたコーザと共に、借り受けた部隊員人数分の馬で各支部を回り、反乱軍に紛れ込んだB・W社員の捕縛を完了させた。

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

「リィナ、戻りました…もう、クタクタです。部隊員も本日は休ませますね。」

 

潜伏場所へ戻り付いたのは翌日の夕刻だった。

 

反乱軍の各支部を回り終えたのが夜だったため、部隊員の疲れも激しくカトレアにて一泊し、今朝アルバーナへと向かったのだ。

 

アルバーナ宮殿の正面にあたる南門(みなみゲート)から入ると宮殿内が騒がしい。コブラ国王への謁見を海軍大佐名義で通し、単刀直入にクロコダイルとB・W社の侵攻を説明する。 

既にコブラ王はビビ王女からの手紙でクロコダイルが黒幕であることを知り、遠征準備の最中であると言う。アラバスタ護衛隊 副官ペルを敵地視察へ向けた直後だったようだ。

 

ビビ王女からの手紙にはクロコダイルとB・W社の計画の一部から始まり、心強い味方と共にこちらへ向かう旨も記述してあった。ビビ王女が麦わら一味と行動を共にしている動機が判明した。

 

私は前日の反乱軍での事を話し、国王軍内部のB・W社員の捕縛、遠征の中止、反乱軍との和解を申し出て、これを快く受け入れてくれたのである。王は即時兵士の集合を掛け遠征の中止を呼びかけた後、その場を私に任せてくれたので迅速に捕縛任務を遂行出来た。勿論、首都アルバーナの住民に成り済ましていたB・W社員の捕縛も済ませた。

 

アルバーナ離脱の前にレインベースに向かったモクモクさんと麦わら一味の詳細を伝えたので勘違いで敵対されることはないだろう。

 

「お疲れさま、リィナ。エリマキトカゲの一匹を捕獲して指令書を頂いたわ。見るかしら?」

 

ヒナさんはコーヒーを渡しながら重要な事を言ってのける。左手にヒラヒラと泳がせる紙をコーヒーの後に渡してくるあたり悪戯のつもりなのだろう。

 

「見ますよ!えぇ、と…っえ?!」

 

指令書を確認して驚愕する。時間的にみて明日の朝7時にナノハナが戦場になるそうだ。

 

「ヒナさん、これはどうします?」

 

「オフィサーエージェントがなんらかの方法で仕掛けてくるみたいね。本来ならナノハナに待機しているミリオンズ、ビリオンズがそれの扇動役になって反乱軍をアルバーナへ誘い込み内乱勃発ってとこかしら。ヒナ愕然。」

 

「この町にはB・W社員は残っていたとしても僅かですし、国王軍と反乱軍は和解に向けて調整中です。今となってはナノハナで仕掛けるメリットは無いんですよねぇ。」

 

しかし、クロコダイルはその事実を知らないだろう。首都と国王軍、反乱軍に潜入しているB・W社員は皆無、ナノハナや他の町には僅かに隠れ忍ぶ者が居るかもしれない。レインベースはクロコダイルの本拠地なので当然多数のB・W社員が居るのだろうが。

 

社長から一方的に指令を通達するだけで、下っ端から上司への連絡手段を用いなかった『秘密犯罪会社』の欠点が浮き彫りになっている。

 

「モクモクさんはどうですか?」

 

「彼は麦わらの先回りをしてレインベースに居るそうよ。曰く、勘ですって。」

 

モクモクさんは王女ビビを連れた麦わら一味を追い、一度アルバーナへと向かったそうだが王女が不在なままだと知るとクロコダイルの本拠地レインベースへと向かったそうだ。

 

王女がクロコダイルの侵攻を知っていたとなると、麦わら一味の行く先はアルバーナかレインベースしか無いだろう。結果的にクロコダイルと決着をつける為にレインベースへ向かう可能性は高い。

モクモクさんはその事前情報は無いはずなのに勘で行く先を決めるとはなかなか馬鹿に出来ない。

 

「では、レインベースはモクモクさんに任せましょう。クロコダイルが事を起こせば麦わら一味どころではなくなるでしょうから。麦わらの目的もおそらくクロコダイルですので上手くいけば共闘出来るかもしれませんね。」

 

「『白猟のスモーカー』は海賊と共闘なんて無理ね。私はナノハナを食い止めるからリィナはアルバーナでクロコダイルに当たって。奴の目的はアラバスタ王国の乗っ取りでしょ?だったらアルバーナで待ち構えた方が早いわ。ヒナ推奨。」

 

「でしたらナノハナはお任せします。『黒檻のヒナ』の実力に期待して朗報をお待ちしますね。私の部隊はナノハナで待機させるので有事の際は動員して下さい。」

 

一応の作戦も決まったので私は少し眠ることにした。昨日から能力を大きな規模で何度も使い、二日にわたる長い移動距離に心身共に疲弊してしまっている。能力で身体の疲労は消せるが精神的な疲れは寝ることが一番だ。

 

明日の早朝、とうとうクロコダイルが動く。奴も七武海という高みにいる海賊であり、悪魔の実の能力者だ。全力で構えなければ捕縛など出来まい。

 

思い描くは無血での迅速な任務遂行であるがいつ何が起こるか分からないため全力で事に当たろうと意識を手放した。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

全ては私の、私達の見通しの甘さか。詰めの弱さか。実力の無さか。それとも、それが原作の流れなのか。

 

 

「あなたの目的は何っ?!」

 

「別にねぇよ。強いていうならオメェを殺りに来たって感じ?俺カッチョイー!!」

 

私を見下ろす男は悠然と笑いながら答える。

 

なぜこうなった。全てはこの男が現れて狂ってしまった。

 

今朝アルバーナへと出向いた私を待っていたのはコブラ王の行方が分からないという国王軍副官からの報告だった。

 

おそらくB・Wのオフィサーエージェントの仕業だと気付き、ヒナさんへ電伝虫で通信するが繋がらない。

 

既に7時を回り対応に追われているのだろうと少し間を置き諜報員の居る潜伏場所へ通信を入れるが誰も出ない。

 

そこでやっとただ事では無いと気付き、急いで能力を使いナノハナへ戻ると瓦解した町と倒れ伏したヒナさん、部隊員達を目に捉えた。

 

何があったのか聞くと、コブラ王と国王軍に変装したB・Wがナノハナを消し去ると宣言し暴動を起こしたのだという。

 

すぐさまヒナさんの部隊で捕縛、鎮静化するも他のオフィサーエージェントとみられる者が港へ巨大船を衝突させ、転倒する船は港近辺を巻き込み町は惨事に見舞われてしまった。その拍子に偽者のコブラ王は偽国王軍と共に逃走してしまう。

 

ヒナさんは各部隊員に住民の救助と避難を指示し、偽者を追おうと走りだすが喧騒の中から道を塞ぐように飛び出してきた一人の男に部隊も含めやられてしまったと。

 

私はその男をオフィサーエージェントの一人だと認識し、モクモクさんへ電伝虫の通信を繋ぐとレインベースでも事態が動いているらしい。麦わら一味と共にクロコダイルの罠に嵌って檻の中で足止めを喰らったが、なんとか今は外に出れたそうだ。

 

そして、クロコダイルはアルバーナへ向かい、麦わら一味はクロコダイルを討つ為に追って行ったと。

 

『たしぎをアルバーナに向かわせる。俺はナノハナでヒナ部隊の救援と他の用を済ませてくる。』

 

それだけを一方的に言って通信を切られてしまう。

 

クロコダイルがアルバーナへと向かったのならばオフィサーエージェントやその他のB・W社員も集うのだろう。私も急がなくてはならない。

 

アルバーナ宮殿へと移動し、急ぎナノハナの襲撃を国王軍へ報告する。コブラ王は今だ見付かっておらず益々混乱が大きくなるだけだった。

 

レインベースからアルバーナへ侵攻を進めるクロコダイル、集結するオフィサーエージェントを私一人で対処するには負担が多過ぎる。国王軍の戦力でまともに戦えそうなのは副官のチャカ、ペルの二人なのだが、ペルはレインベースへ視察へ出たきり帰ってきていない。

 

麦わら一味はクロコダイルよりも遅れて到着するだろう。能力で迎えに行くべきか、今アルバーナから一瞬だけでも離れて良いものなのか。短時間で多くの事が重なり思考が追いつかない。昨日の疲労が残っている事も要因だろうか。

 

「なぁ、お嬢ちゃん。今暇なら俺と遊ばね?」

 

「こんな時に何を言ってるん、です…っ?!」

 

突然私に場違いなことを話しかけてきた男を見て驚愕する。なぜなら、ヒナさんが言っていたオフィサーエージェントの特徴と類似しているからだ。

 

「…ナノハナから早いお着きですね。ヒナさんがお世話になったそうで、お返しを考えなくてはいけません。」

 

瞬時に距離を取り左腰に差した柄に右手を掛ける。

 

「一人ならば好都合です。あなたの上司が到着する前に捕縛させてもらいます!」

 

鞘から柄を抜き、地を這う様な突進からの斬り上げを仕掛けるが男はヒラリと半身を捻りかわすと一歩、二歩とバックステップを踏む。

 

「何言ってんの?…ん?あぁ、俺B・Wじゃねぇよ。遊ぶ気になってくれたんなら良いけど。」

 

「B・Wでなければ海賊ですか?どちらにしても海軍に手出してるんですから覚悟してください。」

 

先程の正面からの斬り上げは余裕で回避されているので能力で背後に奇襲をかける。自身の境界を操り男の背後に跳び死角から突く。しかし、それを知っていたかのように視えないはずの刃を掴む(・・)。その右手は金属の様に黒く鈍い光沢を放っている。

 

「後ろからは卑怯じゃね?それに海賊でもねぇし。か弱い一般市民だし。」

 

「か弱い一般市民が海軍大佐と互角に戦えるなんて初めて知りましたよ。」

 

刀の能力を解除し一足飛びで男から距離を取る。視えないはずの刃を掴んだ手は何かの能力だろうか。しかも背後からの奇襲を見抜く実力は侮れない。

 

「互角ぅ?覇気も知らねぇオメェが俺と互角かよ?笑わせるなぁ。やっぱ無いわ。無い無い。」

 

ハキ?ハキとは何だ?この男は暗に私より強いと言っていることは理解出来る。なので出し惜しみをすることは出来そうにないと考え到る。

 

「俺らのリーダーがオメェには敵わないから様子見だっつーんだよ。でもさぁ、実際やってみてオメェ弱いじゃん?様子見とか無いわ。」

 

この男はどこかの組織に属していることを仄めかすが意味が分からない。しかし、そういうことならば少し話を聞くことにしようと全力の能力を解放する。

 

隔絶(アイソレーション)支配(コントロール)

 

私と男の境界だけをズラし世界と隔絶させる。視覚から得られる情報、つまり見た目は元の世界と変わらないがここは異次元、異世界とも表現出来る世界なのだ。この状態では元の世界に存在しているものとは干渉出来ない。壊れることも無ければ触れることも出来ない。更にこの世界は私の支配化にあるのでこの男はもう何も抵抗出来ずに私の言葉に従うしかない。

 

『動かないでください。』

 

「…おぉ、マジで動けねぇ。話にゃ聞いてたがこれがオメェの能力か。で、どーすんの?」

 

『あなたは何者ですか?』

 

「ん…まぁ、いっか。俺ぁ、ロード。オメェと同じ転生者だ。俺は原作知識あるけどな。」

 

テンセイシャ?ゲンサクチシキ?聞いた事のある単語だが、私と同じとは何だ?天性?転生?ロードと名乗るこの男は私を転生者と言ったのか?

 

「原作知識無しで内乱止めたのはスゲェけどさ、ワニ退治はルフィの役目なの。そんで、最後に感動の別れが待ってんだからさぁ!…だから、オメェは邪魔。Do you understand?(わかったか?)

 

私はこの男の言葉を理解出来ずにいる。原作の知識、つまりこの世界は誰かの物語であると言っているのだ。しかし、現実にこの世界で皆生きている。そんな訳無いだろうと脳が理解を拒んでいる。

 

ワニとはクロコダイルのことだろう。クロコダイルがルフィさんに敗れるという未来が決まっているのだから。クロコダイル率いるB・Wのアラバスタ侵攻は最初から決まっていた運命だから傍観していろというのか。

 

だが、二年前より昔の記憶が殆ど無い私にとってはこの世界が私の全てなのだ。それを否定するようにこの男は邪魔だと嘲笑う。

 

『黙れ!』

 

「いやさ、俺ぁホントの事言ってるだけじゃん?」

 

『黙れ黙れ黙れ黙れ!それ以上喋るなっ!!』

 

「…はぁ、まじウゼェ。餓鬼がイキがってんじゃねぇぞコラ!!」

 

何故私の支配下で逆らえるのか。先程動けないと本人が認めたはずなのに、今この男は自由に動き、話している。

私の能力が効かないのか、それとも能力の効果が弱いのか、それがこの男の能力なのか判断出来ない程冷静さを失っている。

 

男は先程刃を掴んだ時のように右手から腕までを黒く染める。そして、少し腰を落とし体を捻ると拳を握り、思い切り振り抜いた。

 

瞬間、私の意識を刈り取られる程の衝撃が全身にはしる。世界と同化している私に効くはずの無い打撃。男のただの右フックに数瞬視界が白く染まると同時に能力が解除される。

 

「お?戻った。んじゃ、さっきの続きな。」

 

朦朧とする意識の中で男の声だけが鼓膜を揺らす。

 

「オメェがワニ退治しちゃルフィもゾロも強くなれないっしょ?したら、この先のワンピースが続かなくなるじゃん。」

 

体に力が入らないまま倒れ伏す私に近付きながら男は続ける。

なんとか立ち上がろうと意識するが体が言うことを聞いてくれない。能力を使おうとするが上手く作用しない。

 

「オメェがゾロの妹キャラだとか海軍大佐だとかどーでもいいの。でも、原作は変えちゃダメでしょ?これでも俺ら原作キャラに干渉しないよーに自重してんのよ。おっけー?」

 

傍まで来た男に首を掴まれ持ち上げられる。あえて気道を圧迫するように掴まれているため苦しさから暴れるが、男は容赦無く私を殴打する。

 

幾度殴られ蹴られただろうか。腕を折られ、頬の感覚も無く、為れるがままだ。男は飽きたのか私を投げ、そして見下ろす。男の視線を逸らさずに睨み、気力を振り絞って叫ぶことが精一杯の反抗だった。

 

「あなたの目的は何っ?!」

 

「別にねぇよ。強いていうならオメェを殺りに来たって感じ?俺カッチョイー!!」

 

このままでは本当に殺されてしまう。私の力はこの男に届く事無く、ただ一方的に奪われるだろう。

 

「最後に良いこと教えてやんよ。いくら最強の自然系(ロギア)でも覇気使えなきゃ雑魚だぜぇ!俺ら原作知識とチート能力と最上級の恩恵貰ってんだ。能力だけのオメェとは違ぇんだよ!!」

 

この男の言っていることはよく理解出来なかったが、どうやら私は雑魚だったらしい。能力を過信し、大人たちに乗せられた役職の上で踊っていただけの小娘だった様だ。

 

視界が霞み、少しずつ意識が離れていく。死の淵に至ってゾロとガンジお爺ちゃんの顔が思い浮かぶ。

私の鼓膜は男の声に震えてはいるが、内容までは伝えてくれない。それ程も意識は残っていなかった。

男の言う原作にとって、私はただの異物だったようで、皆と出会ってはいけなかった存在なのだと。そんな取り止めの無い思案を撒きながら。

 

だけど、家族になってくれてありがとう。愛してくれてありがとう。そう、感謝しながら意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白く霞む意識の中で僅かに聞こえる波の音を認識する。

意に反して重く動かない手足に苛立ち、固く閉じた目蓋が視界を遮るため何も分からない。

 

なんとなく実感してしまう。私は生きているのだと。

 

程無くして意識を取り戻し目蓋を開けるとどこかの天井が見えた。

 

「目が覚めた?」

 

聞き覚えのある声にそちらを向くとヒナさんが微笑んでいる。

 

「何があったのか覚えてる?」

 

「…ヒナさんが言っていた男に負けました。手も足も出なかったです。」

 

「そう。…クロコダイルの捕縛は成功したけれど、海軍としては惨敗よ。ヒナ悔恨。」

 

「…詳しく、教えて下さい。」

 

私はロードという男に殺されかけた後の話をヒナさんから聞き及ぶ。

 

私は南門付近で傷だらけの状態で国王軍に保護されたが、付近には誰もいなかったそうだ。

 

その数刻後、クロコダイルが傷付いた国王を伴いアルバーナ宮殿へと侵攻。オフィサーエージェントは麦わら一味に打破され、遅れて登場したルフィさんがクロコダイルと対峙。

ミスオールサンデーという側近が国王を連れ別の場所へ移動している途中にたしぎさんが接触するも一方的に敗れたそうだ。

 

一度、クロコダイルがルフィさんを退け逃走するが、再び対峙したルフィさんがクロコダイルを打ち倒したらしい。

 

その後広場でクロコダイルの置き土産、広範囲威力の爆弾騒ぎがあるも国王軍ペルの働きで大きな被害は無かった。

 

ヒナさんはその頃、レインベースから戻ったモクモクさんと共にアラバスタ近海に留まっていたB・W社のダンスパウダー雨雲発生船を拿捕し証拠の確保に動いたという。

 

そして倒れ伏すクロコダイルを捕縛し今作戦は無事終了した。

 

クロコダイルとオフィサーエージェントを捕縛したのは海軍であるが、実際に打破したのは麦わら一味であるという事実を海軍本部は揉み消そうとし、モクモクさんが上層部に噛み付いたという。

 

たしぎさんは自身の力の無さのせいで、ルフィさんにクロコダイルの行く先を伝える事しか出来なかったと悔し涙を流していたそうだ。

 

「B・Wの下っ端社員捕縛や証拠集め、クロコダイルの捕縛準備への貢献で私達三部隊は褒章を受けるそうよ。階級を上げる件は断ったけれど、形だけでも褒章は受け取れってうるさいのよ。ヒナ遺憾。」

 

「そんなの私もお断りです。上の人は外面ばかり気にして嫌になりますね。…そういえば、モクモクさん達はもう?」

 

「えぇ、スモーカー君の部隊はもうローグタウンに帰還中よ。リィナはもう少し休む?」

 

「いえ、能力を使えばすぐ治ります。上司に報告と文句を言わなきゃならないので。」

 

世界と同化し境界を操る能力とは万能で、どんな怪我をしても同化して解除する時には万全の状態で身体を復元出来る。要はイメージした状態に戻れるので、身長を高くイメージすると高身長に。胸を大きくイメージすると巨乳になれる。他人をイメージすると変身だって出来てしまう。万能で便利なのだ。だからこそそれに頼ってしまう。覚悟も、信念も無く。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

私はヒナさん部隊の見送り付きで部隊を率いてアラバスタ近海に出ている。

 

「今回の任務では沢山お世話になりました。ありがとうございました。」

 

「私以上に走り回って働いてたのはリィナでしょ?こちらこそ、ありがとう。またね。」

 

ヒナさんの挨拶にどう返事をすれいいのか少し迷ったがやはり最初に考えていた通りに言うことにする。

 

「それではヒナさん。…さようなら。」

 

私は能力を隠す事無く使い部隊の船ごと本部へと移転し、そのまま用のある人の下へ移動する。

 

「ドリフトさん、失礼します。」

 

「やぁ、おかえり。任務完遂ご苦労様。」

 

「任務の最終段階である男と戦闘になり完敗しました。その男はロードと名乗り、私を転生者と呼びました。他にも色々と。ドリフトさんは何か知りませんか?」

 

「…分からないな。僕は僕が知っていることしかわからないよ。」

 

「そう、ですか。」

 

「…君に足りないモノ、わかったかい?」

 

「私見で良ければ。でも、あなたには教えません。さて、私は約束通り任務を遂行したのでこれで失礼しますね。」

 

「行くんだね?」

 

「はい。次会う時は敵ですね。あ、それともまた勧誘ですか?」

 

「いや、おそらく敵だ。またね、リィナくん。」

 

「いえ、さよならです。ドリフト中将。」

 

私は背中越しに別れの挨拶を残し執務室の扉から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

主人公の悪魔の実について賛否あるかと思いますがご了承ください。
一応ネットで調べたのですが、東方プロジェクトのキャラクターが出てきました。ですが、能力の内容が違うのでプロットのまま使用していきます。タグには追加しないでおきます。

次回の話で再び悪魔の実の説明を入れていきますので、ご意見があればお聞かせ頂ければ嬉しいです。

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