姓はロロノア 名はリィナ   作:ぽんDAリング

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前回に引き続き原作改変です。賛否あると思いますがお許しください。

あと、ストーリー面で亀進行です。


5 ・その瞳の先に

 

麦わら一味と別れて数日、正式に勅命を受けて私は上司であるガープ中将を訪ねている。…はずなのだが。

 

「手が止まってるよ?リィナ大佐。」

 

「…なぜ私がガープ中将の書類処理をしているのか疑問になりまして。そして、なぜそれをドリフト中将から指示されているのかも疑問です。」

 

そう。執務室に訪れた際、ガープさんは居らず変わりにドリフトさんが優雅に紅茶を飲んでいた。

 

目が合うと同時に私は手招きされ、真意の見えない笑みを向けられる。嫌な予感しかしないので渋々近寄る私に書類の束を手渡された。

 

制限時間(タイムリミット)は一時間です。

 

底冷えするような音に従い私は応接用のテーブルで作業を進め始めたのが半刻程前だ。

 

 

「ガープさんには今日中にと伝えていたんですが、書類は全くの手付かず。丁度良いタイミングで君が来たので代理を頼みました。」

 

ガープさんは机で作業するのが嫌いでよく逃げ出す。外での訓練は言ってもないのに連れ出すのに。

 

「…ドリフトさん。」

 

「なんでしょう?」

 

「私が海軍を辞める事はあなたにとって悪と成りますか?」

 

ペンは紙の上を走らせつつ、先日から頭の片隅で考えていた事を素直に問い掛ける。

 

「成るよ。」

 

冷たくのし掛かる重圧に思わずペンが止まる。即答された言葉には呼吸さえ許さない程の威圧感があった。

 

「僕は以前、君を勧誘した時に言ったはずだよ。自分や大切な人を守れる力の為に海軍へ来ないか、と。」

 

しかし、続けて話す言葉は普段通りの摑み所の無い雰囲気へと変わっていた。今の一瞬は何だったのか理解出来ず困惑する。

 

「…ある海兵は優秀過ぎた故に、上の恨みを買い闇へ消された。ある海兵はその功績故に、逆恨みで海賊に妻と子を殺された。ある海兵は仲間思い故に、仲間の裏切りで死んだ。

齢17にして海軍の大佐となった君はどれに当てはまるかな?」

 

「…突然、何が言いたいんですか?」

 

「実に全て当てはまるんだよ。現在、君を取り巻く環境をもっと知るべきだ。」

 

「…」

 

「君は今、地位という権力に守られている。辞せば海軍、海賊共に躍起になり君を追うだろう。それがどういった意味を成すのか分からない君ではないだろう。」

 

確かに上層部には私を良く思わない人達もいる。捕縛した海賊や賞金首の仲間から沢山の逆恨みも受けている。部下には妬み恨む人達もいるだろう。しかし、それを無くすことは不可能だ。全ての人から好かれるなんて無理だからだ。

 

「君は年の割に聡い。だが、まだ幼い。足りないものが山ほどある。元海軍という肩書きは、君が思っている程軽くは無い。そうしてしまった僕が言えたものではないのだが。」

 

私は何も言えず右手に握るペンの先から視線を動かすことが出来ない。言い返せない歯痒さが鼻の奥を突く。

それから数分経った頃に再びドリフトさんが口を開く。

 

「僕は全てを思った通りに動かすことは出来ない。海賊狩り(ロロノア・ゾロ)が海賊になるとは思いもしなかった。そして、君はきっと僕の話を聞かず海軍を辞めるだろうと思った。」

 

「…ドリフトさんは私を海軍に誘ってくれました。ガンジお爺ちゃんの為に、村へ常駐の海兵を派遣してくれました。その恩を忘れる訳にはいきませんから。」

 

「やはり君は良い子だ。情に厚いな。」

 

そう言ってひと息吐く。ドリフトさんは少しだけ寂しげに目を細め再び私に語る。

 

「君は剣技にも優れ、恐らく最上位の悪魔の実の能力者だ。海軍史上最年少にして、最速で大佐となる偉業を打ち立てた。裏で根回しした僕でも驚く程だよ。」

 

「階級なんて望んでなかったですけどね。ただあなたに従っていたらそうなっただけです。」

 

私は三等海兵から始まり、ガープさんの部隊で訓練し、海賊を拿捕し続けただけである。基本はドリフトさんが教えてくれた通りに働いた結果だ。

 

「本当なら君には伝えずにいようと思ったが…。今の君では海賊として生きてはいけない。弱いからじゃ無い。その理由を見付けてから海軍を去ることを勧めるよ。」

 

そう言って立ち上がり、そのまま扉へ向かう。

 

「丁度一時間だ。残りの書類はガープさんにやらせるから、君は行きなさい。」

 

そしてそのまま扉から出るドリフトさんの背中を見送る。

 

私に足りないもの。それが何なのかは分からない。しかし、ヒントは与えられた。

 

アラバスタでの任務中にそれを得てこいとの激励だったのだろう。あの人らしい言い回しだ。

 

部隊編成は済んでいる。出立は明日の早朝。情報漏洩を防ぐ為、壮行会や出立式などは行わない。つまり、海軍にとって今夜は普段通りの夜なのだ。少し夜道を散歩するくらいなら問題ないのである。

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

月が高く昇る夜更けに、私は黒いスーツを着用しコートを羽織る。

会議の時くらいしか着ないスーツ姿は似合ってはいない。威厳を保つ為とはいえこれでは馬子にも衣装だ。

背中に正義を携えたコートも、少し背の低い私にとってはただの防寒着の様にも見受けられる。

 

佐官以上に与えられる一人用の個室で散歩の準備を済ませて能力を発動させる。

 

「“移動(ムーブ)”ナミさん。」

 

誰も居ない個室なので『本来の能力』を使い、移動した先は灯りの点いた室内だった。

てっきり麦わら海賊船のナミさんの寝室だと思っていたので吃驚してしまった。

 

ナミさんは私に気付いていないようで、騒がしい窓の外を眺めている。

ゾロとルフィさんは見当たらず、サンジさんとウソップさんは酔い潰れている様子から酒場で宴会でもやっていたのだと考える。

 

「ナミさん、少し宜しいですか?」

 

「っ!?…吃驚したぁ!あんたはいつも突然現れないでよ!!」

 

と言われても私も困る。しかし、驚かせてしまったようなので素直に謝る。

 

「それはすいませんでした。ところで、外が騒がしいですけど何かやってるんですか?」

 

ナミさんの横へ移動し窓の外を覗き込むと数人が倒れ、その奥の建物からは土煙が上がり、剣戟の音や悲鳴が聞こえる。

 

「あぁ、ゾロが賞金稼ぎ相手に百人斬りやってるの。そのうち終わるでしょ。」

 

よく事態が飲み込めないがゾロなら大丈夫だ。そう信頼しているからナミさんも焦る事無く傍観しているのだろうし。

 

「…意外ね。てっきりサンジくんの時みたいに飛び出すと思ったのに。」

 

あれはゾロが仲間と認めた人達の実力を計る為の演技だったのだが…やはり本気の演技はやり過ぎだったようだ。

 

「…あれは一応演技です。反応出来たのはルフィさんだけのようでしたが、皆さんの実力を計らせてもらいました。」

 

呆れたように溜め息を吐き、再び視線を外へ向ける。

 

「それで、何の用?今日は随分と身分通りの格好してるじゃない。」

 

「今日はあなたと話がしたくて来ました。」

 

「…少し場所を変えましょ?」

 

椅子から腰を上げ裏口へと歩を進めるナミさんの後に続く。裏口を出て直ぐの樽に腰掛けたナミさんは、隣の樽をポンポンと叩くと、その意のままに私も腰を掛けた。

 

「…ナミさんはどうして海賊になったんですか?」

 

「あんたも海軍だから知ってると思うけど、私が最初に海賊になったのはアーロンの海賊団だったわ。といっても、無理矢理加入させられたんだけど…」

 

それからナミさんは自身の8年間を、ココヤシ村や麦わら一味の事を話し、最後にこう付け加えた。

 

「私はあいつらが海賊だから仲間になったんじゃないわ。あいつらだから仲間になったの。それがたまたま海賊だっただけよ。」

 

なるほど。たまたま海賊だっただけ、か。言い得て妙だが、その言葉で私に足りないものの欠片が見えた気がした。

 

「ナミさん、ありがとうございます。

あの、もし、もしもですよ?私が麦わら一味に入りたいと言ったら皆さんは受け入れてくれますかね?」

 

「あいつらは立場だとか気にしないわよ。きっともう、とっくに仲間だと思ってるわ。…私もね。」

 

そう言ってナミさんは立ち上がる。いつの間にか辺りの騒音も消え静けさが広がっていた。

 

「さて、終わったみたいだし戻りましょ。ゾロに会ってくのよね?」

 

「いえ、今日はナミさんと話をしに来ただけですので。

それに明日から私は任務でグランドラインに入ります。どれくらいの期間になるか分かりませんが、アラバスタという国に居ますので機会があれば会うかもしれないですね。」

 

「だったらその国には寄らずに進むわ。捕まるのは遠慮したいから。」

 

「それは残念です。」

 

私はナミさんへアラバスタへは来るなと暗に伝え、それを理解してナミさんは笑う。この人もなかなか言葉遊びが好きなタイプのようだ。

 

「ちなみに、私は能力無しでも今のゾロより強いです。だから、私にあなた達を捕まえさせないで下さいね。では、またいずれお会いしましょう。」

 

最後に意地悪をしておきたかったので、それだけ言い残して能力で移動する。

 

今回の散歩は別にナミさんでなくても良かったのだ。しかし、同じ年頃で海賊の女性に知り合いなど居るはずもない。消去法でナミさんと話をしに行っただけなのだが、結果的には話を聞けたのがナミさんで良かった。ついでに忠告も出来た。

 

朝になれば出立しなければならない為、少しだけ仮眠を取ろうとスーツ姿のままベッドへ横になった。

 

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

 

翌朝、本部を出立し直接アラバスタへと向かう。海軍特別製の船底に海楼石を使用した軍艦と、本部に常備されている永久指針(エターナルポース)を使うことで凪の海(カームベルト)を航行することも可能とし、最短距離で天候は関係なく目的地へ直進出来る。

 

今作戦の部隊編成は私の部隊、スモーカー大佐部隊、そしてアラバスタ近海を管轄するヒナ大佐部隊だ。

各部隊の海兵も格闘、捕縛に優れた者のみを選抜した精鋭部隊である。

 

そんな捕縛のスペシャリスト三部隊を動員しなければならない捕縛対象は実に大物である。

 

王下七武海 サー・クロコダイル  元懸賞金 8100万ベリー

を社長とし活動するB・W(バロック・ワークス)社という秘密犯罪会社だ。

 

大掛かりな捕縛作戦だが、情報漏洩の危険性が高い為、三部隊の尉官以下は近海で警戒網を張り、逃走を図るB・Wを捕縛。佐官と補佐一人のみアラバスタのナノハナという町で合流する手筈になっている。

 

先ずは、ドリフト中将が送り込んでいる諜報部隊と共に情報収集。クロコダイルとB・W社の動向を探りつつ、下部社員から秘密裏に捕縛し、全員を逃がさず一網打尽に出来るタイミングを練る。

 

クロコダイルがどういった経緯でアラバスタ侵攻を仕掛けるのかは掴めていないため慎重に行動するしかない。

確実にクロコダイルが動いた瞬間が勝負だ。言い逃れを許す事態に陥れば捕縛は不可能となり、世界政府と七武海の協定契約に違反した海軍本部の立場が一気に崩れてしまう。

 

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

 

航路にて大きな障害も無く、無事にアラバスタ王国 港町ナノハナに到着したのだが、スモーカー大佐が早速一人で行動していると報告を受けて到着早々私は頭を痛めている。

 

「スモーカー君は昔から人の話を聞かない男よ。潔く諦めなさい。」

 

「ヒナ大佐!お久しぶりです。今作戦で一番の要になると思いますがよろしくお願いします。」

 

「任せておきなさい。リィナから頼られるなんて嬉しいわよ。ヒナ感激。」

 

ナノハナ到着時、宿の一室に集合した私たちは軽く挨拶を交わし諜報員と合流すべく移動を始める。

 

「たしぎもスモーカー君に連れ回されて苦労してるみたいね。」

 

「あぁ、たしぎさんは条件反射で従っちゃうところがあるみたいで仕方が無いですよ。」

 

「彼も黙って後ろを付いて来るたしぎに満更でもないみたいで良く分からないわ。ヒナ困惑。」

 

などと話ながら街中を進む。秘密裏に動かなければならない為、私は役職呼びを止めている。ヒナ大佐も理解しているので咎めたりはしない。

勿論、尉官以上に着用権利の与えられるコートは着ていない。…モクモクさんは構わずに正義ジャケットを着ているのだろうと思い至り、再び頭が痛くなる。

 

事前に教えられた建物に入り、数人の諜報員と挨拶を交わしこれまでの報告を受ける。

先の報告以上の事はまだ掴めていないらしく、今はナノハナで情報収集しつつ、街中でB・Wとみられる社員を捕縛、尋問に専念することに決まった。

 

「・・・ところでヒナさん。モクモクさんは合流する気あるんですかね。」

 

「勝手にクロコダイルのところへ突撃しそうで怖いわね。ヒナ呆然。」

 

確かに自由に動いて構わないと私は言った。だが、作戦を無視して勝手に動き回る事を容認しては支障が出かねない。

 

「仕方ないので強制連行します。少し待ってて下さい。」

 

私は扉を開きモクモクさんの元へ向かい、息を吐かせる前に強制転移させる。辺りを見渡すがたしぎさんが居ないので再び扉からたしぎさんの元へ。

たしぎさんは買い物中だったので少し待つことになったが共に移動した。

 

ヒナさんの元へ戻り、椅子でふんぞり返り葉巻を二本煙らせるモクモクさんへ作戦の要項を伝えるがまともに聞いてはいないようだ。

 

「テメェが自由に動いて構わないと言ったんだろぅが?」

 

「確かに言いました。しかし、今作戦の妨げになる行動は謹んで貰わないと困ります。」

 

「邪魔なんてしてねぇじゃねえか?とっとと行ってクロコダイル捕まえて来りゃ良い。」

 

この人は作戦も諜報の意味も聞いていないようだ。私は頭を抑え溜め息を吐きどう言葉にするか考える。

そこでヒナさんがモクモクさんへ問い掛ける。

 

「ねぇ、スモーカー君。あなたクロコダイルに会ったことあるでしょ?どんな感じだった?」

 

「…奴ぁ、昔から頭のキレる海賊だった。今でこそ七武海で政府の犬をやってはいるが、変わらず狡猾で野望は諦めてねぇってギラギラした目してるはずだぜ。」

 

「そんな相手が管轄権も無いのにあなたがここで動いてたり、証拠も無いのに捕らえに来た私達をどう思うかしら?ヒナ疑問。」

 

「…はぁ、分かった。麦わらが来るまでは大人しくしといてやる。」

 

ヒナさんのおかげで理解してもらえたようだ。ヒナさんと視線が合うとこちらにウインクを投げてくる。その様はさすが大人の女性としての魅力だろう。

…ん?麦わらが来るまで?

 

「モクモクさん。麦わらって何言ってるんですか?」

 

「あ?テメェこそ何言ってやがる。奴らはこっちに向かって来てんだ。行方不明だった王女様連れてな。」

 

モクモクさんが麦わら一味を目の敵にしていることは知っている。だからこそアラバスタでの任務中に通り過ぎて欲しかったからナミさんに忠告したはずだ。

 

そして、行方不明だった王女。恐らくネフェルタリ・ビビのことだろう。何処で知ったのかは分からないが、自国の危機に馳せ参じようとしているのか。

 

「俺はローグタウンから直通でここまで来たが、別動隊に麦わらを追わせている。

数日前、ウイスキーピーク近海で爆発が起きた。島を調べたらB・Wの下っ端、ミリオンズっつったか百名程が斬り伏せられていたそうだ。恐らくテメェの兄貴だろう。

その後、航行する麦わら一味の中に王女様らしき人物を発見との知らせが届いた。これがどういう意味か猿でも分かるだろうよ。」

 

どういった経緯かは推測の域を出ないが、確かに王女様と共にここへ来る可能性は高い。というか、あの夜ゾロが暴れていたのはそれか。しかし、ナミさんはアラバスタへは来ないと言っていた。つまり、私が戻った後に何かがあったのだ。

 

「リィナ大佐の海軍本部よりも、私たちのローグタウンがここに近いのでその分早く到着しました。

なので、既に数人のB・W社員と思われる輩を捕縛、尋問しています。

結果、ここナノハナへ向かう麦わら一味を追う様に、ビリオンズというB・W社員も向かっているそうです。

あと、それとは別に招集命令を受けてこちらへ向かっているB・W社員もいるそうです。」

 

たしぎさんはさも当然のように働いてくれているが、出来れば私達が到着するまで待っていてほしかった。

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

たしぎさんから報告を受けたように、あれから数日間で多くのB・W社員の捕縛に成功してはいる。しかし、有益な情報は出てこない。

 

通常、ミリオンズ、ビリオンズという下っ端社員は社長であるクロコダイルからの命令が無い限り各自で賞金稼ぎをしているそうだ。現在の命令は『各自アラバスタに到着後、別命あるまで待機』だということしか知らず、その後の命令が出ない限り新たな情報も出ないようなのだ。

 

そもそも下っ端社員は社長が王下七武海 クロコダイルであることも知らなかった。その名の通り秘密会社である。

 

だが、秘密であるにも関わらず社員は社名を体の何処かにイレズミ、若しくは衣類に刺繍、ペイントを施してあるので見つけ易い。

 

町中を哨戒している私服海兵から時折報告を受け、即時捕縛に向かう。モクモクさんとヒナさんの二人に捕縛を任せ、私はその都度能力で捕縛者を移送する係だ。

 

そんな中、その日は珍しくB・Wとは別の報告が挙がった。背中にドクロのイレズミをした男を見付けた、と。その男の詳細を聞き私が急行した。

 

待機場所に私しか残っていなかった事が幸か不幸か。能力の相性上、モクモクさんとヒナさんでは相手に出来ないからだ。

その男はこの世界で最強と評される海賊、白ひげ海賊団二番隊隊長 ポートガス・D・エース。通称『火拳のエース』

 

この男が何を目的としてアラバスタへと来たのか確かめなければならない。

もしクロコダイルと関係があるのなら捕縛対象として、戦闘になる可能性もある。それは即ち、クロコダイルの裏にはあの白ひげ海賊団が加担している事になり、そして世界政府への宣戦布告にもなり得る。

 

クロコダイルが小物にすら見える正真正銘の大物の情報に動揺を隠せない。最悪の場合、元帥に報告し、大将クラスを招集しなければならないのだ。正直、私一人では荷が重過ぎる。実力が、ではない。責任の問題だ。

 

ポートガスを尾行している私服海兵と交代し、私は深呼吸をして気を落ち着かせ、無地で白い外套を能力で出す。

 

「そこ行く旅のお兄さん。アラバスタは日射しが強く、素肌での外出は危険ですよ?これをどうぞ。」

 

私は住民の振りをして外套を差し出す。この男に外套など必要無いだろうが、話し掛ける切欠を作る為に親切心を見せる。

 

「こりぁ、親切にどうも。俺にぁ、必要無いんだが…お嬢さんの気持ちを無碍には出来ねぇな。有難く使わせてもらう。」

 

ポートガスはそう言い私に笑顔を向けて外套を羽織る。これで背中のイレズミも隠せたので計画通りだ。

 

「あ、俺は人探しをしてるんだがこいつを見なかったかい?麦わら帽子を被ってるから目立つと思うんだが。」

 

ポートガスが取り出したのは麦わら海賊団船長 ルフィさんの手配書だ。最近まで無名だったルフィさんをなぜこの男は探しているのだろう。 もし麦わら一味を狙っているのだとするとゾロが危険だ。なんとか出来るならば今のうちに阻止しなければならない。

 

「…見てませんね。お兄さんは賞金稼ぎさんですか?」

 

「いや、会えたら良いなぁ位に探してるだけさ。こいつ俺の弟なんだ。」

 

「え?!…そ、そうなんですか。」

 

駄目だ。動揺を隠せない。この男とルフィさんが兄弟だという言葉に自分でも信じられない程驚いている。

今ならガープさんとルフィさんが祖父孫の関係だと知った麦わら一味の心境が理解出来る。

 

…つまりこの男もガープさんの孫である。

もう駄目だ。叫びたくなる衝動を抑える事に精一杯でまともに思考出来なくなる。

 

 

「お互い名前の前に“D”もあるしな。」

 

「あぁ、なるほど…ぁ…」

 

…しまった。

 

「俺はまだ名乗ってないぜ。海兵のお嬢さん?」

 

「…不覚です。もしかして最初からですか?」

 

「いや、手配書見た時の気配さ。・・・で?俺はどうすりゃいい?」

 

自身の未熟さが招いた結果だ。私でなければ声を大にして叫んでいただろう。悔しいのでそう思うようにする。

こうなれば致し方ないが小細工は不要だ。一か八かの賭けに出る性分ではないがここは賭けに出る。

 

「あなたがクロコダイルの関係者であれば捕らえさせてもらいます。」

 

「クロコダイルは関係無ぇな。・・・さっきはルフィを探してると言ったがついでだ。本命は『黒ひげ』ってヤツなんだが知らないか?」

 

ポートガスの答えに思わず安堵の息を吐き出す。この人は嘘は言っていないと目を見ればわかる。

噂で聞く『白ひげ海賊団』のイメージが先行していたが、思っていた程悪い人ではなさそうだ。

なので、正直に話して出来るだけ早くこの地から離れてもらえるようにしようと考え到る。

 

「黒ひげという人は本当に知りません。ですが、ルフィさんの事は知っています。私の家族が麦わら一味なので、縁があり先日お会いしました。」

 

「おぉ!そうか!!あいつ元気にしてたか?」

 

思いの外食い付くポートガスに気圧されつつ、静かに話を出来る場所へ移動する事を承諾させ近場のカフェへ移動する。

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

「そうか、おめぇはクソジジイの部下かよ。そんでルフィんとこの剣士の妹。仕舞いには噂の大佐『偶像(アイドル)リィナ』ってか。」

 

「そんな異名で呼ばないでください。捕らえますよ。」

 

ぷはは、と笑うポートガスの言葉に私は頭を抑える。

偶像(アイドル)リィナ』それが私の異名らしい。いつの頃から呼ばれ始めたのかは不明だが、階級の上がり方が異常な私を『アイドル』と見立て、上層部に『ファン』がいるから昇進が早いという、いわば妬みから来るあだ名なのだ。まったくもって不本意だ。

 

 

「はぁ。…とりあえず私達の邪魔をしないのであればルフィさんへの手引きもしてあげます。なのでおとなしくしていてください。」

 

「おまえの言うとおり外套着てスモーカーってのに見付からなきゃいいんだろ。ルフィと会えればすぐに発つつもりだしな。大丈夫さ。しかし、海軍がそんなんで良いのか?」

 

確かに私が海賊に手を貸す行為は反逆と取られても仕方ないだろう。だが、今は無駄な騒ぎを起こしている余裕は無い。特にモクモクさんがポートガスに会おうものなら一悶着あるに決まっている。もし、それが作戦に支障を及ぼせばクロコダイルの捕縛は難しくなる。

 

「今はクロコダイルの捕縛が最優先任務です。…というのは建前で、私は単にゾロとゾロが船長と認めたルフィさんを捕まえたくないだけです。

そのルフィさんの義兄であるあなたも肩書きほど悪い人ではないようですので。私は私の正義で動くだけで、厄介事に自ら首を突っ込むのは嫌ですし。」

 

「こっちとしては助かるが、お前の生き方は息が詰まりそうだな。…なぁ、海軍辞めてウチにこねぇか?」

 

「はぁ?何言ってるんですかあなたは。私はゾロの居る所に行きますよ。」

 

「んじゃ、ルフィも誘わなきゃな。」

 

この人は、いや、この人たちは海賊に似つかわしくない人当たりの良さを持っている。互いの立場や肩書きに左右されない自由な生き方はとても眩しいものだと感じてしまう。

いや、だからこそ海賊でいられるのかもしれない。私とは違う。その事実が胸を締め付ける。

 

なるほど、私に足りないものがそこにあるのだろう、と理屈ではない何かが感情を沸き立てる。

 

「では、私は一度戻ります。麦わらの情報が入り次第お知らせしますが、ポートガスさんは何処n「エースで良い。」

 

「…エースさんは何処にいてもいいです。私の能力なら関係ないので。」

 

「おう。ありがとな、リィナ。」

 

笑顔で私に礼を言うポートガスに会釈だけ返しカフェを出る。何故か胸がもやもやすることを払い除けようと足早に移動する。

まずは潜伏場所へ戻り、モクモクさんとヒナさんの二人にポートガスのことを報告した。

 

火拳はクロコダイルとの関係は無く、単に人探しの為に単独行動をしていること。

ナノハナに探し人が居なければ直ぐに町を出ることと、無駄な諍いは起こさないと約束したこと。

こちらとしても白ひげと事を構えるつもりは無いので、任務に支障が無い限りは放置することにしたいと告げた。

 

モクモクさんは不満気にしていたが、ヒナさんは今回に限り見逃すことには賛同してくれた。

 

ヒナさんの考えは私と同じように今作戦の不安要素を増やしたくないことと、白ひげ一味と事を構えるのは得策ではないということ。

 

モクモクさんもポートガスに興味は無いようだが、単純に海賊を見逃す行為に納得がいかないといった様子だった。

 

もちろん、麦わら一味へ引き合わせことは内緒にしている。麦わら一味がナノハナに訪れたならばポートガスを内密に送るつもりだ。近海の哨戒をしている海兵から報告が来るはずなのでその後、迅速に行動すれば支障は無いだろう。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

その翌朝、早速報告を受けた私はその事態に悩むのだ。

 

哨戒船が先ず麦わら海賊船を発見し報告を受けたのだが、すぐさま続報が入る。麦わら海賊船を追うB・W社の船が十数隻続いているという。

 

素早く考え効率良く事態の沈静化を図る策を思い描く。

 

「モクモクさんは麦わらを捕縛したいですよね?」

 

「あぁ?当たり前のこと聞いてんじゃねぇよ!」

 

「でしたら考えがあります。哨戒船をわざと左右に引かせ、その間を麦わら海賊船だけ通し、ナノハナ上陸を支援させます。

麦わら海賊船の通過後、哨戒船でB・W前方足止め。モクモクさん、ヒナさん部隊で左右後方から包囲、順次B・Wを捕縛。私は周囲の連携を取れるように更に後方に回り全体の支援。捕縛済みのB・W社員を一箇所に纏めます。

そして、B・Wの拿捕が終わり次第モクモクさんには麦わらを追ってもらいます。海での混戦中に逃げられるよりアラバスタ国内で追った方が発見しやすいと思いますよ?どうでしょう?」

 

「私はそれでいいわ。もとよりB・W社員の一斉捕縛は作戦の内。ヒナ賛成。」

 

「…チッ。いいだろう。麦わらとヤル前の準備運動にゃ丁度良い。」

 

「では、各自入電。準備が整い次第先行してください。私の部隊は散開し、お二人の部隊に続きます。」

 

各員それぞれの部隊の元へ向かい準備、作戦の伝播、指揮、配置を開始する。

私は能力で移動出来るため時間のロスが少なく、他二人の部隊より早く準備に取り掛かり完了後の余裕が出来る。

 

その合間に私はポートガスの元へ移動し用件を伝えることにする。

ポートガスは宿の部屋で丁度準備を終えたところのようだ。タイミング良く突然現れた私に驚いていたがゆっくり話している時間は無いので早口に説明をする。

 

「間もなく麦わら一味が近くの沿岸に到着しますが、私達は近海で別船団の捕縛戦闘を開始します。その際、周囲の警戒が手薄になりますので、その隙にルフィさんと会ってください。

そして、別船団の捕縛が終わり次第、スモーカー大佐部隊が麦わら一味を追います。ですので、その前に退避することをお勧めします。時間が無いので手短に言いましたが伝わりましたか?」

 

「あぁ、わかった。戦闘ってことはリィナも行くんだよな?」

 

「えぇ、私は作戦責任者ですから。」

 

「そうか。じゃあ俺も手短に話す。リィナと会えて良かった。ありがとう。」

 

一度頭を下げ、そして昨日と変わらない笑みを私に向ける。

 

「次会うときはちゃんとウチに誘うからな。覚悟しとけよ?」

 

「…誘われても行きません。時間がないので私は行きますね。」

 

「おう!またな、リィナ!」

 

背後にポートガスの声を受けながら能力で部隊の船に戻る。

あの人の笑顔は心がもやもやする。端的に言えば気に入らないのだ。だが、嫌いではない。なんとも形容し難い感情に苛立ちを感じる。その苛立ちが表情に出ていることに気付いてはいるが元に戻ってくれないのだ。

 

部隊の面々は、私が開戦を前に昂ぶった顔をしているように見えるのか口を噤んでいる。

私は部隊の先導に立つ。既に部隊人員の配置も済んでいる。横目に他部隊の出船も確認。数泊間を置き指揮を出す。

 

左右に部隊を散開させB・Wの後方に回り込むように船を進める。

前面からの進行阻止に加え、左右からの挟撃、討ち逃しの無い様に艦隊の合間を縫い進みモクモクさん、ヒナさん部隊の支援に船上を駆け回る。

負傷者の傷を戻し、捕縛者を回収し、襲い掛かる者を一蹴し、先程の苛立ちを発散させるように戦場を駆ける。

 

絶え間なく響いていた砲弾の音が聞こえなくなり、次第に剣戟や銃声、怒号や悲鳴の数も減る。停滞し連なる軍艦とB・Wの船で動く者は海軍側の人間だけとなる。

 

『スモーカー部隊、制圧完了だ。早いトコ麦わらを追いたい。ロロノア大佐にさっさと雑魚共の搬送をしろと伝えろ。』

 

『今リィナ大佐はヒナ部隊で搬送してる途中。もう少し待ってくれるかしら。』

 

『ちょ!私一人で搬送するのは限度があるんで手伝ってくださいよ!』

 

『知るか。俺の仕事は終わったんだ。後はテメェの仕事だろぅが、さっさとしろ。』

 

『だったら捕縛するだけにしてくださいよ!全員気絶させてるから時間が掛かるんですよ?』

 

『私はちゃんと考えて捕縛だけにしたわよ?スモーカー君は自業自得だから大人しく待ちなさい。ヒナ嘲笑。』

 

電伝虫の通信で各々が好き勝手に言い合っている横目で港を確認するが麦わら海賊船は見当たらない。

ポートガスはルフィさんと会えたのだろうか。無事に探し人を追うことが出来たのだろうか。麦わら一味は何らかの目的のために先に進めただろうか。

 

戦闘中に余所見をする暇は無く、麦わら一味の確認を出来なかったので様々な疑問が浮かぶ。

目下の問題である総勢二百人に及ぶB・W社員の搬送に少し息を吐きつつ、もう少しだけ時間稼ぎをしてやろう、と勝手に貸しを作るのであった。

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

プロット通りに書き進めて原作を確認すると時系列が間違っていて、書いては書き直しを繰り返しています。

原作改変しているので原作キャラの見せ場がありません。申し訳ないですが許してください。

思ったよりも話が進まず読んだかたも疲れるかな、と反省します。次回でアラバスタ編終わる予定です。

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