姓はロロノア 名はリィナ   作:ぽんDAリング

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この話から原作に介入しますが、私の書き方が上手くないため表現に乏しい場面が多々あると思います。




4 ・暗躍と画策と焦燥

 

月が天高く昇るとある晩。

広がる海原を漂う小舟が一つ。乗っているのは二人。

 

「あんたの言う通りあの子もこっち側だとして、仲間にするの?」

 

「いや、それは無いよ。あの子は何も知らない。だからこそ自由に動ける様にしてるんだよ?」

 

「あんたの娯楽に付き合ってる暇なんて無いの。さっさと今日呼んだ目的を言いなさいよ。」

 

「せっかちだね、君は。じゃあ、僕らとあの子。殺り合ったらどっちが勝つと思う?」

 

「…何が言いたいの?」

 

「つまり、原作知識の代償って話をね。 昔々の物語でも悪魔が勝てない相手は一つだと決まってる。」

 

「なにそれ?意味わかんない。」

 

「あのね、僕らはそれぞれ『俺TUEE』したくてここに来たの。あの子が来たらそれが出来ないでしょ?」

 

「まぁ、ね。それでどうするのよ?」

 

「あの子はまだ敵じゃ無い。だから、僕らは静かに観戦しよう。」

 

「でも、いいの?麦わらんとこに入ったら・・・」

 

「いいんだよ。それでも原作通りに進むさ。計画に支障はないよ。」

 

「わかった。じゃあ、またなんかあったら呼んで。」

 

小舟から一人飛び立ち。残った一人は小舟ごと消えた。

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「「「「「着いたぁ!ローグタウン!!」」」」」

 

偉大な海賊の時代が終わり、大海賊時代が始まった町。ローグタウン入り口のアーチが私たちを歓迎している。

皆は各々の目的に目を輝かせる。ルフィさんなんかは下船前から絶えず処刑台、処刑台と連呼し今にも走り出しそうにしている。

なので、自然とみんな別行動をとることになった。私はゾロに会わせたい人が居たのでそちらへ向かうことにする。

 

「じゃあゾロ、買い物が終わったら処刑台広場に集合ね!」

 

「おう。わかった。」

 

「…迷子になったら能力使うからね?」

 

「ガキじゃあるまいし迷子になんてなるか!」

 

毎回迷子になってたのは誰よ。やはり自分が方向音痴だという自覚は無いようだ。

ゾロの背中が通行人の波間に消えるのを確認して私は海兵の詰め所、ローグタウン海軍派出所を目指す。

 

ガープさんの部隊で何度も訪れた時とさして変わらない。賑わう町並みと多くの観光客に自然と笑みがこぼれる。

派出所の門をくぐり、常駐している海兵を見つけ声をかける。

 

「どうも、ご苦労さまです。たしぎ曹長いますか?」

 

「お、おぉ?!あれ?曹長なにやってるんですか?」

 

「あれ?仕方ないか…」

 

能力でコートを出し素早く羽織り、気持ちを職務モードへ切り替える。

 

「海軍本部少佐 ロロノア・リィナです。再度、確認します。ローグタウン海軍派出所勤務 たしぎ曹長はいますか?」

 

「っ!?失礼しました!現在たしぎ曹長は不在です。すぐ戻ると思うのですが…」

 

「でしたら、待たせていただきますね。スモーカー大佐の部屋にいますので戻り次第部屋へ。」

 

「はっ!わかりました!!」

 

やはり素で行くと間違われる。いつもはコートを羽織っているから見分けが付けやすいが私服だと分からないようだ。

 

とは言っても、既に辞したはずの私が海軍佐官のコートを羽織り、派出所内を闊歩するのはどうなのだろう。常識的にアウトだ。

 

それでも気を取り直して歩き出す。何度も訪れたことのある建物なので迷うことなく目的の部屋へ着く。

 

「モクモクさん!入りますよ!」

 

「あ?テメェ、何しに来た?」

 

海軍本部 大佐 スモーカー 私はモクモクさんと呼んでいる。常に葉巻を吸っていて、それがモクモクと煙いからだ。

私がここを訪れた理由は簡単だ。たしぎさんをゾロに会わせたいから。

 

「たしぎさんを貸してください!」

 

「たしぎは今居ねぇ、それに今は忙しい。帰れ。」

 

「遊んでるじゃないですか。」

 

モクモクさんはソファーに座り、机の上で石を重ねて遊んでいる。とても忙しい様には見えない。

 

「ったく、テメェは。大佐になったからってわざわざたしぎ引き抜きにきやがったのか?」

 

「ちょっと会わせたい人が居るだけですよ!…って、大佐?!」

 

「あぁ!?テメェの階級くらいわかってんだろ!なんだ、自慢か?ロロノア・リィナ大佐よぉ?」

 

いえ、まったく意味が分かりません。先日辞めたはずの海軍でなぜ昇進しているのでしょうか。殉職した海兵は二階級昇進するというやつですか?海軍の退職は殉職扱いになるなんて聞いてないです。

 

「あの、私先日退職願い書いたはずなんですけど、なんで昇進してるのか本当にわかりません。」

 

「知るか!自分の上司に聞け。」

 

ふと、ガープさんの執務室を思い描く。机の上に置かれた私の退職願い。そして、その上に積み重なり乱雑した書類たち…

 

「…ちょっとガープさんの所に行ってきますので、たしぎさんが帰ってきたら待っててくださいね!」

 

それだけ言うと私は扉のノブに手をかけ能力を発動させる。行く先は現在ガープさんが居る場所に最も近い扉。

後ろからモクモクさんの怒鳴り声が聞こえるが気にしない。気にしてはいられない。

ノブを回してその勢いで扉を開き、目標のガープさんを捉える。

 

「ガープさん!私の退職ねが、ぃ…」

 

「やぁ、リィナくん。久しいね。丁度、君の話をしていたところだよ。」

 

「リィナ!おまえどこ行っとった!?」

 

私が辿り着いた場所は海軍中将に充てられる執務室。だが、ガープさんの部屋とは雲泥の差ほどに片付けられている。

 

応接用のソファーに座る二人のうち一人はガープさんで、もう一人の姿を視認して私は自分の運の悪さを呪った。

 

「…お久し振りです、ドリフトさん。」

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

「さて、武器屋はどこだ?」

 

ナミから十日一割(といち)で借りるはずだった金だが、リィナが無利子で貸してくれて助かった、と胸を撫で下ろす。ナミから舌打ちが聞こえたが聞こえない振りをした。

 

通りを適当に歩けば見付かるだろうと人並みに逆らわず歩く。そこに大柄な男に絡まれている女性を視界の端に見つける。

 

「…リィナ?!何やってんだあのバカッ!」

 

男二人はリィナに何か因縁を付け斬り掛かる。だが、切りかかろうとしている相手はあのリィナだ。大丈夫だろうが念のため刀に手を掛けてそちらへ向かう。

リィナは腕に抱える刀を抜き男二人を一瞬で斬り伏せる。が、そのままの勢いで足を引っ掛け転んでしまい眼鏡を落とす。

 

その眼鏡を右手で拾い上げ、左手をリィナへ差し出す。

 

「おい、大丈夫か?リィ、ナ?」

 

改めて考えるとおかしいことに気付く。リィナの刀は無刃だったはずだ。眼鏡はかけてはいない。誰だこいつ、と。

 

「ご、ごめんなさい。あ…ありがとうございます。ところで、あなたは先程リィナと?」

 

「いや、すまねぇ。あんたとそっくりなんだが人違いだ。悪かったな。」

 

世には似た顔が三人いると言うが、ほんとに三人居るなんてビビッた、と内心はとても動揺している。しかも三人共刀使いなんてどんな偶然だろう。

 

「…綺麗な翡翠の髪、三本の刀…あなた!もしかしてゾロさんですか?」

 

「…そうだが、なんだ?」

 

「あっ!申し遅れました!私、たしぎといいます。海軍で曹長をやっています。リィナちゃn…リィナ大佐からお話を聞いて常々お会いしたいと思っていました。」

 

海軍曹長と聞き、まず逃げ出すことを考えたがリィナの知り合いであり、この反応から考えるとすぐに逃げ出す必要はなさそうだ。怪しまれないようにこの場を切り抜けようと考える。

 

「そ、そうか。まぁ、なんだ?リィナの兄貴をやってるロロノア・ゾロだ。…ん?!リィナは少佐じゃねぇのか?」

 

「え?先日昇進して今は大佐です!二階級昇進なんて特例も特例!!海軍初の実績ですよ!!リィナちゃんほんとスゴイですよねぇ。」

 

「すまねぇ、なんとなくスゴイってのは理解出来るが海軍には疎くてな。あと、俺ぁ武器屋に行く途中なんだが…」

 

たしぎの口振りからリィナとの仲の良さを伺い知れて少し安心するのは兄心だろう。

しかし、規律に厳しい海軍で特例なんてそれこそ偉業なのだろうが、あのリィナが、と考えると途端にそうは思えなくなる。

一応、海軍と海賊がのんきに話など出来る訳が無いので、会話を成立させつつ逃げる算段を打つ。

 

「あ、私も刀を取りに行く途中なんで一緒に行きましょう!」

 

武器屋を探す苦労は無くなるがたしぎと一緒に行って大丈夫だろうかと疑問を抱く。それに、リィナが海軍を辞めていることも知らないようだ。一先ず余計な事を口に出さないように気持ちを引き締め付いて行く。

 

「…実は私、ゾロさんのことを憎く思っていたんです。」

 

無言で歩を進めるゾロに対し、たしぎはそう切り出した。

 

「私の夢は名刀と謳われる刀を自らの手で集め守ることです。しかし、そう云う刀は常に海賊や賞金稼ぎという強大な悪の手へ渡ります。刀を以て悪行を成す奴らを私は許せなかった。…海賊狩りと呼ばれたあなたも。

でも、リィナちゃんが言ってました。あなたは世界一の剣豪を目指し数多くの賞金首と死合っただけだと。そう呼ばれるようになったのはその副産物に過ぎないと。そして、夢の為に命を賭して闘う男を悪と断ずる事があなたの正義か、と怒られました。」

 

「へぇ、あいつがそんなことを…」

 

そう言われ嬉しく感じる反面、恥ずかしい思いから僅かに顔が赤くなり、たしぎから悟られぬよう顔を背ける。

 

「それからリィナちゃんと会う度にあなたの話を聞きました。見ず知らずのリィナちゃんを保護するお人好しなことや、口も目付きも悪いけどその裏で本当は優しいこと。恥ずかしい思いをしつつ、お土産に可愛い服を買ってあげるお兄さんなことも。リィナちゃん嬉しそうに自慢してましたよ。」

 

「やめてくれ、恥ずかしい…」

 

今度は完全に恥ずかしさで紅潮した顔をどうしたものかと、走り出したい衝動に駆られる。

 

「先程、転んだ私に差し出された左手はとても自然で、リィナちゃんの言った優しさは本物だと確信しました。…私は私の正義を貫く為に、あなたを捕縛しません。たとえあなたが海賊だとしても。あ、でも問題を起こしたら即座に捕まえますよ?覚悟してくださいね!」

 

「…買い被りすぎだ。でも、まあ今はその言葉に甘えておく。」

 

 

そう言って笑うたしぎに軽く溜め息を吐き微笑み返す顔はリィナへと向ける親しみのある笑顔だった。

 

「あ、話をしてるとあっという間ですね。着きましたよ。」

 

「おう、ありがとよ。」

 

軽く感謝の言葉を返して、たしぎに続き店内へと入る。

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

「それで、今回もドリフトさんの企みですか?」

 

私はガープさんに促されソファーに座り、正面のドリフトさんを睨むが堪える様子も無く平然と口を開く。

 

「企むなんてとんでもない。麦わら一味のせいで(・・・・・・・・・)空いた大佐の席に君を推しただけさ。」

 

「そうさせたのはドリフトさんじゃないですか。詭弁ですね。」

 

全くと言って良い程悪びれず、事も無げに話すこの人との会話はとても疲れる。

 

東の海(イースト・ブルー)最大最強と恐れられたアーロン一味が拿捕された一件でこの人は策略を巡らせていた。

 

東の海一と恐れられた魚人海賊団が存在するにも関わらず、何故コノミ諸島の支部へ戦力を配置しなかったのかを問題視し追求した。

そして『8年も放置してきた理由』を挙げ、アーロン一味と16支部 ネズミ大佐、その上層派閥の癒着を指摘し失墜させたのだ。

 

その際、海軍本部の上層部の空いた大佐席に私を推薦しただけだと言う。

 

「…あなたの言葉はいつも正しい。でも『正し過ぎる』んですよ。」

 

「さっきも言ったけど買い被りすぎだよ。僕はあの島の住民達の証言を元に己の正義を遂行しただけさ。その一因に麦わら一味が絡んだってだけだよ。」

 

いつだってこの人の言う事や予想は核心を得ていて正しい。…さも全てを知っているかのように。

 

「もうそれで良いです。それで、ガープさん?机の上に退職願を置いてたんですけど見ました?」

 

「見とらん!それに辞めさせん!」

 

「リィナくん、それは聞き捨てならんな?」

 

やはり机の上に置いたのは間違いだったようだ。ドリフトさんに言うと反対されるのは明確だからこそ、ガープさんの机に置いたのに。

 

「ゾロが賞金稼ぎだった時とは状況が違います。海賊認定されたので辞めさせてください。家族と敵対するのは嫌です。お願いします。」

 

「それはガープさんも同じです。でも、辞めずに職務を全うされている。息子と孫、それぞれ敵対するのは道を正そうとする親心、祖父心。立派ではないですか。敵対するのが嫌だから辞める、それは逃げているだけではないですか?

…とはいえ、心情までガープさんと比べるのは酷というものでしょう。

一つ条件を出します。君を大佐席へ推して着任早々辞職されては僕の立つ瀬が無い。僕を助けると思って聞いてくれないか?」

 

この人は正論と感情論の掛け合いが上手い。今までそれで何度痛い目に合ったか分からない。

 

「…分かりましたよ。」

 

「ありがとう。実は元々勅命を課す為に君を大佐にするつもりだったんだ。部隊の都合上、大佐以上の役職で無いと動員出来ない作戦だ。

…グランドラインのとある国を滅ぼそうとしている犯罪者を捕縛して欲しい。」

 

何とも言い難い作戦だ。一国を相手取る犯罪者。それは一つの海賊団を捕縛する規模とは違い過ぎる。

さすがに一国へと兵団で介入するには肩書きが必要になるだろう。

 

 

「これは君だから任せられる任務だ。サポートなら好きに人選していいよ。上にも許可は取っているからね。」

 

「…準備良過ぎないですか?」

 

アーロン一味の件があってから計画したならば期間が短い。ならば、それよりも以前からの計画だろう。

アーロン一味の拿捕、私の大佐着任、そして今回の勅命。全ては既に用意されていた事の様に流れている。

 

「たまたまさ。別件で動いていた部隊が意外な大物の動きを察知してね。そこに偶然アーロン一味の件が重なり、タイミング良く君に任せられることになった。まったくもって運が良い。これは僕の正義を、天が後押ししてくれていると考えて良いと思うよ?」

 

「ドリフトさんは天命とか天啓とか好きですね。そんなに信仰深いなら神父にでもなったらどうですか?」

 

「ふふ、それも良かったかもね。…では、ロロノア・リィナ大佐。任務内容の詳細は追って伝える。部隊の編成、並びに出立は秘密裏に行うからそのつもりで。編成は君に任せたよ。

…あぁ、それと君に朗報だ。麦わら一味は義賊的に行動している節が見受けられるとのことで、接触しない限りは追尾不要。つまり、様子見ってことにしておいたから。」

 

「…はぁ、元々私に逃げ道は無かったんですね。では、失礼します!べーっ!!」

 

負け犬の遠吠えよろしくドリフトさんへ舌を出し、精一杯の反抗をして即座に能力を使い逃げる。もとい、戦略的に撤退する。

 

「…なぁ、ドリフト。ワシ、煎餅食べてただけなんだが何か言った方が良かったのか?」

 

「あなたはいつもそうでしょう?良いんですよ。」

 

「…だな。」

 

リィナの去った部屋には煎餅を頬張るガープの咀嚼音だけが響いた。

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

私はモクモクさんの部屋に戻って来たのだが誰も居ない。たしぎさんと待っている様にお願いしたのに。

 

ふと、外が騒がしいことに気付く。

なるほど、海賊が現れて捕縛しに行ったのだな、と推測する。

 

ルフィさん達じゃなきゃ良いな、等と思いながら派出所を出るといつの間にか町は嵐に襲われている。こうも急に天候が変わるとは珍しい。

 

派出所前には部隊の人達が集まり何やら忙しなく準備を整えている。

そして、私に気付いたモクモクさんは何故か私を能力で捕縛した。

 

「…これは一体なんですか?スモーカー大佐?」

 

「テメェ、麦わらに寝返って何企んでやがる?」

 

嗚呼、やっぱりルフィさんが何かやったんだ。何だかよく分からないけど、処刑台にでも登ったのかな。

 

「少し縁があって、この町に一緒来ただけです。何があったんですか?」

 

私はモクモクさんの能力から抜け出して説明を求める。何も分からない内から疑われて少し不機嫌だ。それを隠す事無く語尾を強めた。

 

「…テメェと間違われてたしぎがさらわれた。この嵐は奴らにとって追い風だからな。そのまま偉大なる航路(グランドライン)に入るだろうからすぐに追う。」

 

なるほど。驚かそうと思いたしぎさんの事を黙っていたのが仇となったのか。ついでに、ドリフトさんから無駄に時間を奪われたことも原因だろう。自分の迂闊さを悔い改めなければ。

 

「分かりました。私が能力を使い、たしぎ曹長を連れ戻します。それで問題ないですね?」

 

「いいや、問題ありだ。俺が麦わらを追う。」

 

モクモクさんの私を射抜く瞳は決して譲らぬ気が籠もっている。しかし、私にも譲れない気持ちがあるのだ。

 

「そうですか。まぁ、当然ですよね。大事な部下、大事な相棒がさらわれたんですから。男としては自分で助けに行きたいですよね?男としては。」

 

「…ガキが知った風な口をきくな!」

 

互いに譲らぬのなら仕方ないので私はある人を真似て口撃する。

 

「ガキだから知った風に出来るんですよ?大人がやったら滑稽なだけです。」

 

「チッ、屁理屈を。」

 

「えぇ、屁理屈です。」

 

このままこちらのペースで畳みかける。

 

「私と間違われたのなら私に責任があるでしょう。私がたしぎ曹長を無傷で連れ帰ると約束します。そして、私の能力なら瞬時に帰ってこれます。それでもあなたが行くんですか?

無理に追って戦闘になれば負傷者が出るかもしれません。あなたの我が儘に付き合わされる部隊の人達はどうなるんですか?

そもそもあなたにはこの町の管轄責任があるはずです。」

 

「…指図するな。俺は麦わらを追う。海賊を放っておくことの方が問題だ。たしぎはついででしかない。」

 

やはり説得は失敗した。ドリフトさんみたいには出来ません。この人は自身の我を無理矢理突き通すことで有名な『狂犬』だ。私とは以前から幾度も衝突している。今さら説得は難しいだろう。

仕方ないので奥の手を出すしかない。

 

「…はぁ、スモーカー大佐。

私は直にある勅命を受けて『自由に動ける』部隊を編成します。人選は私に一任してあります。

行き先はグランドラインです。

今回たしぎ曹長を私に任せてくれるならあなたに同行を願います。任務中はあなたが勝手に麦わら一味を追ったとしても私は一切咎めません。どうですか?」

 

「…いいだろう。今は従ってやる。」

 

まぁ、これで断られても私は能力を使って勝手に行くのだが。

実際、この人の能力はルフィさん達との相性が良い。容易く捕縛するだろう。だからこそ行かせる訳にはいかない。

 

「では、行ってきます。大人しく待っててくださいね。」

 

私は敢えて派出所の中に入り、目に付いた扉で能力を使い中に入る。

目的地はもちろん麦わら一味の海賊船だ。

 

まず、待ち合わせの約束を破ってしまったことをゾロに謝ろう。

それからたしぎさんの無事を。怪我くらいだと直ぐに治せるので問題ない。

 

正直悪いとは思うが、私の心配はゾロとたしぎさんの事。それだけなのだ。

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

扉を開くとそこは船内。

そして、突然開いた扉に驚く6人がいる。ちゃんと皆居て良かった、と安心する。

 

「ゾロ、待ち合わせしてたのに間に合わなくてごめんなさい。」

 

私は一先ずゾロに謝る。次にたしぎさんへ迎えに来たことを告げた。

 

「「「ちょっと待て!!!」」」

 

数刻振りに息の合ったツッコミを受けて瞬時に私は口を開く。

 

「まず、能力を使って一人で来ました。スモーカー大佐はお留守番してるので安心してください。

たしぎさんは私が連れて帰るので大丈夫です。怪我をしているなら治します。

ちなみに、そろそろ凪の海(カームベルト)に入りそうですよ?対策しておきますね。」

 

私は出来る女なので質問を先読みして答える。ついでに、気配りも出来るので能力で船をカームベルトへ入らないようにする。

 

「「「…もう、驚いたら負けな気がする。」」」

 

ナミさんとウソップさんに加えてサンジさんが項垂れている。

ゾロは頭を抑えて本日幾度目かの溜め息を漏らす。

ルフィさんは甲板に出て嵐と凪の狭間に興奮しているようだ。

 

「リィナちゃん、迎えに来てくれてありがとうございます。人違いだと認識された時には戻るに戻れなくて。でも、皆さんが快く保護してくれました。」

 

そう言いながら駆け寄るたしぎさんは何も無い場所で足を引っ掛け転んでいる。

そして、転んだたしぎさんへ手を貸しゾロも私の方へ来る。

 

「こっちも色々あって広場で待ち合わせどころじゃなかったんだ。すまねぇ。…そのコートは海軍のか。」

 

「まぁ、戻って来た時の騒動で予想は付いたけどね。

これは、ガープさんじゃない方の上司と話をしに行ってたから、さすがに私服ではね。それで…私も色々あってすぐには海軍を辞めれなかったの。何故か昇進してるし。でも、次の指令を遂行すれば自由にして良いって!」

 

「そうか、おまえの好きにすりゃ良い。俺も俺の好きにやるさ。」

 

ゾロは遠慮がちに頭を撫でてくれる。だが、たしぎさんが見ているのでほんの少しだけだったことが悔やまれる。

 

「ホントにゾロさんは良いお兄さんですね。」

 

そう言ってクスクス笑うたしぎさん。ゾロはばつが悪そうに顔を背ける。

 

「ゾロ、たしぎさんとは町で会ってたの?」

 

先ほどからゾロとたしぎさんの距離が近くて、疑問に思ったことを聞く。

 

「あぁ、武器屋に行く途中でな。リィナだと思ったら別人でビビッた。」

 

「ふぅん、そっか。驚かそうと思ってたのに…」

 

私は自分の気持ちが落ち込んでいるのがわかった。

サプライズが失敗したからではない。ゾロとたしぎさんの距離が近いことへの嫉妬だということも。

 

そんな私に気付いたのか、たしぎさんはこっそりと耳打ちする。

 

「麦わらが間違えて私を連れて来た時にゾロさん凄く焦ってましたよ。とてもリィナちゃんの心配してました。待つ間も無く出航した後も港の方をずっと見てました。私なんか勝てないくらいリィナちゃんの事想ってます。安心してください。」

 

たしぎさんは悪戯っぽく、優しく笑う。普段ドジで鈍い癖にこんな時だけズルい。

 

だからこそ、顔が似ていることもあるが、それを含めて私はたしぎさんを姉のように慕っているのだ。

 

そんな姉の囁きが嬉しくて私は堪らずゾロへと抱き付く。

 

「本当はこんな半端な事いけないってわかってる。我が侭言ってごめんなさい。一度本部に帰って、ちゃんと任務を終わらせるから。きっとまた来るから。」

 

「おう、いつでも来い。」

 

先ほどよりもほんの少しだけ長く撫でてくれた手はやはり暖かい。

私はそれで気持ちを切り替え、ナミさんへ航路の説明をする為、ゾロから離れる。

 

「ナミさん、私が行った後に能力は解けます。帆を張り直してリヴァース・マウンテンへ向かって下さい。赤い土の大陸(レッドライン)にぶつからない様に海流へ乗れば偉大なる航路(グランドライン)へ入れます。」

 

「やっぱり山を昇るのね?」

 

「えぇ、言葉で説明しても限度があるので、後は自分達で確かめて下さい。」

 

こればかりは説明し難いので体験するしかない。それに、その方が感動出来るだろう。

 

「では、皆さん。海軍本部 大佐 ロロノア・リィナ、ローグタウン海軍派出所 曹長 たしぎ 二名はここで失礼します。…海軍と海賊という立場なのであまり良い行為とは言えませんが、お世話になりありがとうございました。」

 

能力を発動させ扉を開く。私に続きたしぎさんが扉をくぐる時、背後からまたな、と聞こえた。

 

今度尋ねる時はお肉を沢山持参しようかと考えながらローグタウンへ戻るのだった。

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

やっと原作に絡むようになりましたが、今後も原作キャラが崩壊していきます。

広い心で見逃していただければ嬉しいです。


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