姓はロロノア 名はリィナ   作:ぽんDAリング

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少し字数のある説明回になってしまいました。




3 ・明かせぬ秘密

 

拳骨のお爺ちゃん。つまり、海軍本部中将 モンキー・D・ガープ。通称 拳骨のガープ。

 

麦わら海賊団 船長 モンキー・D・ルフィ の祖父である。

 

海賊の一味としては衝撃的な事実だろう。祖父と孫が海軍と海賊で、つまり敵と味方なのだ。

 

船長である当人は平然としているが、一味の四人はそうはいくまい。

なんせ相手は伝説の海兵。海軍の英雄と呼ばれるビッグネームである。いずれ相対しなければならないと思えば気が重くもなるだろう。

 

そう、こんな風に取り乱すのも致し方ない。

 

「ちょっと、ガープよガープ!あの海軍の英雄よ?伝説よ!?なんなのよ!そんな人が直接出向いて捕まえに来るなんて最悪じゃない!もうイヤ~!!」

 

「あ、拳骨のお爺ちゃんは本気じゃなかったみたいですよ?ルフィさんの手配書が出た時、ぶわっはっは~って笑いながら喜んでましたから♪」

 

そして私、元海軍本部 少佐 ロロノア・リィナ。ロロノア・ゾロの妹であり、娘で(ry

先日までガープさんの部下でそこそこの階位を持っていた。

 

つまり、つい最近までの私と麦わら一味は敵対関係にあったのだ。

 

「そもそも、あんたもなんなのよ!英雄の部下で少佐で辞めてきたって?!二年で少佐?ないない!そんな話聞いた事無い!しかも能力者っぽいし更に訳分かんない!!」

 

「正確には一年半位ですね。それなりに訓練して、取りあえず適当に海賊捕まえてたら望んでないのにあっという間に佐官でしたよ?海軍って以外とチョロいんですね♪」

 

「…もうやだこの子。」

 

ナミは心底疲れたらしく涙を流しながらへたり込んでしまった。

ウソップとサンジは衝撃の新事実に思考回路がショート寸前で既に蹲っている。

ゾロは頭を抱え座り込んでいた。

 

ルフィに至っては、まぁいいか、と一言で済ませて笑っている。

リィナはゾロの隣に腰掛け、幸せそうに微笑んでいる。

 

リィナはともかくとして、前者の四人と後者の一人。どちらの反応が正しいのだろうか。

 

海賊側からすると異名である『拳骨のガープ』が先行し、姓のモンキー・Dはあまり知られてないのだろう。

自分達の船長との続柄を推測出来なくても仕方がない。

 

 

「なぁ、リィナ。勝手に置いていったことは謝る。あの時はあれが最善だと判断したんだ。だが、なんでおまえが海軍に入る必要があったんだ?」

 

ある程度落ち着きを取り戻してから、大きく溜め息を吐き出し、ゾロは疑問に思ったことを聞く。

 

「謝る必要なんてないよ。ゾロは私とお爺ちゃんの為を思って島を出たんだもん。でも、実際その必要はなかったんだけどね。それも含めて説明するわ。」

 

五人はそれぞれ床や椅子座るなり、手摺りに寄りかかるなりと話を聞く姿勢へと落ち着き、リィナは口を開く。

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

 

私はゾロに保護された翌日、酒場兼宿屋のマスターに昨夜お店を騒がせた事を詫び、ゾロと共にこの島の端に門を構える海軍支部へと向かった。

 

目的としては私の身元確認だ。

 

先ずはゾロに先行してもらい、可能性は低いが私の手配書が出ていないか確認してもらう。

海賊狩りとして有名なゾロが手配書を閲覧していてもなんら疑問視される事は無いからだ。

 

手配書が無い事を確認すると、次は私も共に行き、事情を話して捜索願が出されていないかの確認。

出されていた場合、私とゾロが一緒にいるとゾロに迷惑が掛かってしまうからだ。もし、出ていても一度戻り、また帰ってくる計画を立てるだけである。結果、出てなかったので良しとしよう。

 

そして最後に根回しである。

記憶喪失で身元不明の少女はナナシノニッパ村で心優しい医者が保護していますよ、と事前に伝えておく必要があるからだ。

 

後々誘拐だなんだと問題視されてはガンジさんにも迷惑が掛かってしまう。

 

その日はそれだけをさっさと済ませて村へと戻りガンジさんの住まいに居候させてもらう準備だ。勿論ゾロも一緒。私が無理に頼み込んだのである。

 

ガンジさんは私を本当の娘の様に可愛がってくれた。ゾロの事も息子の様に接していて、当人はうっとおしがりつつも満更ではなさそうだったのが微笑ましかった。

 

ガンジさんは医者として診療所を開いているので、私は家事を率先して行った。手の空いた時は診療所の簡単な手伝いもした。居候しているのでせめてそれぐらいはしたかったのだ。

 

働くことも考えたが小さな村での働き口は限られているので悩んでいると、リィナを養う程度は俺が稼ぐ、と賞金稼ぎを再開した。

 

それからゾロは近隣の海賊や山賊の出没情報が挙がる度に出掛けては迷子になり海軍のお世話になっていた。おかげで一月帰って来ない時もあった。

 

ゾロ、ガンジお爺ちゃんの世話になり始めて五ヶ月。迷子癖の酷いゾロに痺れを切らせて私も無理矢理同行するようになる。

 

最初は本当にナビをするだけのつもりだったが、初めて見た賞金首討伐でゾロの剣士としての強さに夢中になった。時間があれば木の棒を刀に見立てて振るう。脳内に焼き付けたゾロの動きをなぞるように何度も繰り返した。

 

その頃だっただろうか。ゾロへの親愛が憧憬、そして恋慕へと変わったのは。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

その日は隣の島で山賊の賞金首を討伐し、そのままその島にある海軍支部で懸賞金の換金をしたのだが、その帰りに門兵がゾロへと話しかけてきた。

 

「最近見ないと思ったら噂通りだったみたいだな。

女誑しこんで羨ましいなぁ、海賊狩り。」

 

ゾロを嘲り不快に笑う門兵に私は感情のままに飛び掛ろうとしたが、ゾロに押さえ込まれた。

いつもの事だ、無視しろと、私の手を引き足早に歩を進めるゾロに引き摺られる。しかし、最後に背後で聞こえた言葉は私の我を忘れさせるのに十分だった。

 

「チッ!賞金稼ぎ風情が調子に乗りやがって!殺すぞ!!」

 

私の思考は瞬間真っ赤に染まる。ゾロへと向けられた悪意に対し、純粋な殺意が沸き立つ。

 

自然界においての食物連鎖や弱肉強食などでは無い。一方的に命を奪う悦びであっただけの原始的な本能。

 

それは何時から私のなかに巣くっていたのか分からない。半年以前の記憶を持たない私には知る由も無い。

この世界で能力者と呼ばれる者達が食したという特別な実(悪魔の実)

 

深紅に染まる思考の中でも容易く思い描けるのは何度も真似た彼の姿。

私の思考はその実の力を、本能に従い作用させる。

 

 

右手に『目に見えない刀』、それを一閃。

 

門兵の首が離れた瞬間、左手で再び能力を使用し切り離れた首を『元に戻した』のだ。

切られたはずの門兵は一度死んだ自分に驚愕し動けない。

私は次に腕、脚、胴と能力を使って斬り、戻し、最後に脳天から縦に斬り掛かろうと腕を振り上げる。

 

「…あんたは私が殺す。」

 

門兵は尻もちをつき、すでに私に対して反応を見せていない。目には生気が無く虚空を見つめている。この程度で良く威勢の良い言葉を吐けたものだ。目障りだしすぐ殺してやろう。

 

腕を振り下ろそうと 見えない柄に力を込める。

 

「リィナ駄目だ!」

 

その時、ゾロに後ろから抑えられ腕を振れなくなる。

体格も力も男であるゾロには敵わない。

 

「ゾロどいて!こいつ殺せない!!」

 

「大丈夫だ!こいつはもう何も出来ねぇ!こいつはもう俺を殺せねぇ!!」

 

眼下の門兵を再び見ると、視線は虚ろで瞳孔は開き、だらしなく開いた口からは涎が垂れて地面には粗相で水溜まりを作っていた。

 

「…わかった。こいつはもうやめとくね。」

 

「…リィナ?」

 

「大丈夫だよ。ゾロを殺そうとするヤツは私が殺すから。ね?」

 

私は笑顔でゾロに抱き付いたが、その時ゾロはどんな顔をしていたのか見えなかった。

初めて悪魔の実の能力を使った反動か、気を失ったからだ。

 

その後、他の海兵が出てくる前にゾロに抱えられ、急いでその島を後にし村へと戻ったそうだ。

 

幸運にも件の門兵以外の兵は建物の外におらず、舟までの間も追ってくる兵はいなかったという。

 

翌日、私が目覚めたのはゾロが一人で海へ出た後だった。

 

そのことで私は取り乱し、追い掛けようとしたがガンジお爺ちゃんに説得された。

 

幸い、件の海兵は傷一つ無い状態だった様だが、明らかに何かがあったことはバレてしまう。その場合、先ず疑われるのは直前に海軍支部へ訪れていたゾロである。

 

最悪、手配書の発行もあり得る。

 

だから一人で行くのだ、と。

 

もし海軍が来たら脅され従っていた、何も知らないと言えば捕らえられることは無い、と。

 

そして最後に、私には安心して暮らせるこの村で幸せになってほしい、と。

 

昨夜、ゾロとガンジお爺ちゃんで話し合ったがゾロは決して折れず、ガンジお爺ちゃんと私に迷惑のかからない唯一の手段だと、そしてそれが私の為だと言い渋々ガンジお爺ちゃんを納得させたそうだ。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

私の感情に任せた愚行のせいでゾロが島を出てから三日が立った。

あれから海軍に動きは無い。杞憂に終わればそのうちゾロは帰って来てくれるだろうかと、私は港で一人待つ。

 

港で待ち続けて二週間が過ぎた頃、海軍の船が来た。

同時に私達は絶望した。大切な人を、家族を悪人に仕立て上げなければならないのかと。

 

私はゾロへの罪悪感と後悔からガンジお爺ちゃんへ身を寄せ震えることしか出来ない。それがとても辛く悲しかった。

 

そして数刻後、数人の海兵がやって来たかと思えば突然扉の前で宣言する。

 

「君たちを捕縛する気はない。増して、危害は決して加えないと誓う。」

 

そして扉を開けて入って来る。

 

こちらが訝しんでいると、先日の件は問題にすらなっておらず、ゾロが居ても居なくても私と話が出来ればそれで良いと言うのだ。

 

「そもそも門兵一人倒しただけで懸賞金なんて掛けない。そんなに海軍も暇じゃない。」

 

と、訪れた海兵の中で一番偉いであろう人が大きく息を吐く。

私とガンジお爺ちゃんはその言葉に唯々安堵する。

 

しかし、とその人は続ける。

 

「その倒し方について興味がある。当人は女の方に斬られたと証言しているが、そんな斬り傷は無かった。」

 

その言葉で初めて気付いた。

『門兵本人が証言する』という事実に。

私もガンジお爺ちゃんも、もちろんゾロもそんな簡単な事に気付かず、重く捉えていたのだ。

 

つまり、ゾロが一人で海へ出たのは無駄足だという事。

明らかに落ち込む私とガンジお爺ちゃんを尻目にその人はそのまま話を続ける。

 

「同僚の優秀な剣術使いに聞いたが、殺気を飛ばし『斬られる幻覚』を見せる技もあるらしいが、それとは違うようだ。それと門兵はこうも言っていたよ。その女は何も持っていなかったにも関わらず自分の首は斬られた(・・・・)と。…率直に聞こう。君は能力者だろ?」

 

この人は確信を得て私と話をしている。その女(・・・)が私であること。そして何らかの能力者だということも。直接この家を尋ねてきた来た事がその証拠だ。きっと嘘は見破られる。

 

「…そう、みたいです。あの時は頭に血が上っててよく覚えてませんけど。あの、門兵さんのことすいませんでした。」

 

悪いのはゾロに悪意を向けた門兵なのだが、それでも私が仕出かしたことだ。ゾロのせいには出来ない。

そして目の前に海軍が居る手前、形だけでも謝罪はしておかなければいけない。だから私は素直に頭を下げた。

 

「謝らなくていい。 むしろこちらが謝らなくてはいけない。本当にすまなかった。

自分の家族を馬鹿にされ怒らない人などいないさ。ヤツ、例の門兵は素行が悪く、左遷に次ぐ左遷で支部勤務になった阿呆だ。海兵の制服を着てただけの小物だ。

僕はね、私欲の為に正義を振りかざす者を海軍とは思わないことにしている。だか、立場上今回の件は上官として振る舞わなければならないのさ。」

 

私はガンジお爺ちゃんと顔を見合わせ互いに驚く。

海軍にもこんな我を通した正義を掲げる人もいるのだと。もちろん良い意味でだ。

そして、私とゾロを家族だと言ったことで確信した。この人は私のことを調べ上げた上でここに赴いているのだと。

 

「そういえばまだ名乗ってなかったね。僕は海軍本部で中将をやっているドリフトという。」

 

「ご丁寧にありがとうございます。私はリィナと申します。あの、話の腰を折るようで申し訳ないのですが、どうぞお座り下さい。すぐにお茶を用意しますので。」

 

ガンジお爺ちゃんと共に人数分のお茶とお茶請けを出し、椅子に座り話を再開する。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

「そうか。記憶を失っている為、いつ悪魔の実を食べたのか、どんな能力なのかも分からないと。」

 

私はドリフトさんへほぼ全てを話した。話さずともこの人は知っていそうなものだが、無駄な問答は意味が無いと思ったからだ。

 

「やはり僕が来て正解だったよ。頭の堅い右翼派だったなら、門兵への件を海軍への反逆と掲げて君を強制連行しただろう。…それは何故かという疑問に答えるならば危険因子の早期排除の為だ。」

 

ガンジお爺ちゃんは私に顔を向け、その例え話に顔を青くしている。きっと私の身を案じてくれているのだろう。

私は大丈夫だよ、とそっと手を握る。

 

「君の能力は使い方次第では海軍にとって脅威にしかならないだろう。そうなる前に施設で薬漬けの実験動物になるのが落ちだ。」

 

そしてドリフトさんは私を正面に見据え訴える様に語りかける。

 

「絶対的正義を掲げる海軍ではあるが、その裏では数々の大罪を黙認してきた歴史がある。非人道的な人体実験や一方的な武力行使、大量虐殺、挙げればキリがない。・・・でもね、それを善しとしない海兵はそれなりにはいるんだ。海軍を信じろとは言わない。僕の事を信じて話を聞いてくれないか?」

 

ガンジお爺ちゃんを見ると私に微笑み静かに頷いた。ドリフトさんの真意は良く分からないが真剣な事は理解出来る。ドリフトさんと目を合わせて私も頷いた。

 

「ありがとう。単刀直入にいうと、君に海軍入隊を勧めたい。これには三つ理由がある。

一つ目に、君の保護だ。先程も言ったが君の能力は危険視される可能性がある。

二つ目に、能力の特定だ。君が食べた実が何の実でどんな能力かを特定する。

最後に三つ目、君自身の強化。これは君を心身ともに鍛える事と能力を自在に扱えるようにする事だ。

入隊後は僕の部隊、もしくは僕が信用できる中将の部隊に配属するように手配する。そうすれば誰も君に手出しは出来ないからね。」

 

「・・・あの、このまま村で暮らすことは難しいのですか?」

 

出来るならば家族と離れたくはない。そして、いつでもゾロが帰って来れる様にこの村で待ちたいというのが私の気持ちだ。

 

「あまりお勧めは出来ない。家族と離れたくないという気持ちは尊重したいがガンジ医師も危険にさらされるかもしない。気休めにしかならないだろうが、今生の別れではない。海兵にも休みはあるからここに帰ってくることも出来る。」

 

「・・・そう、ですか。」

 

半年、6ヶ月と言えど私にとっては唯一の家族で家だ。ゾロが私のせいで海へ出てしまった今となっては、ガンジお爺ちゃんには私しか居ないんだから。

 

「ガンジ医師、僕としても大変心苦しい提案だと理解してます。だが、彼女が自分自身を、そして彼女が大切に思う人を守る為の力が必要だと考えます。

明日また来ますから、お二人でよく話して下さい。」

 

「いえ、ここに来たのがあなたの様な海兵殿で良かった。ただ、リィナは見ての通りまだ子供です。そして、ワシはあの子の父親だ。血の繋がりなぞ関係無いのです。あの子が生きる道を決めたのならワシはそれを見守ります。」

 

ドリフトさんが帰り、静まり返る部屋で私は泣いてしまう。ガンジお爺ちゃんは何も言わずに私の隣に座っている。

幾分か過ぎた頃ガンジお爺ちゃんが私の名を呼ぶ。

私は自分の不甲斐なさに顔を上げる事が出来ない。

 

「私のせいで家族がバラバラになってしまう、と考えておるじゃろ。それは違うぞぃ。リィナはゾロに向けられた理不尽な悪意に怒った。それは当たり前の事じゃ。手段は褒められんがの。

ゾロが海へ出たことも時期が早まっただけじゃて。あやつは世界一の大剣豪になる男。今が良い機会だったんじゃよ。

そしてリィナ。おぬしの道は誰でもないおぬしの決める道じゃ。

例えば、海軍におればゾロに会えるかもしれんぞ。賞金首を引き渡す時は海軍の船か本部、支部に寄るのだろぅ?

リィナはまだ子供じゃ。成長という大きな可能性が秘められておる。その分、多くの選べる道があるとワシは思っておるよ。色々な可能性を考えてみなさい。きっとその中にリィナの進みたい道があるはずじゃ。」

 

そっと肩を抱き優しく頭を撫でながらガンジお爺ちゃんは続ける。

 

「血が繋がってなくとも、一緒に住んでいなくてもどこに居ようとリィナはワシの娘じゃ。ゾロはワシの息子じゃ。互いの心の在り方こそが家族と成すんじゃよ。」

 

私の涙は既に止まっている。顔を上げ大好きなお父さんを見つめる。

 

「お爺ちゃんって呼んでるのにお父さんだって。変なの。」

 

ちょっとした事が可笑しくて、嬉しくて笑ってしまう。

 

「そうじゃ。そんな変なところも家族じゃ。」

 

「うん、そうだね。大好きだよ、…お父さん。」

 

「ワシも愛しているぞ、娘よ。ついでに口の悪い放浪息子もな。」

 

互いに笑い合い、その日はいつもより話に華を咲かせて、いつもより豪勢な夕食を済ませて、早めに床に就いた。

 

早朝、そう多くは無い荷物をまとめて扉に手をかける。

 

「じゃあ、お爺ちゃん。いってきます。」

 

「リィナ、いってらっしゃい。」

 

そうして私は海兵となった。

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「最初は色々な反対意見もあったみたいだけど、海軍としては戦力の増強は必要だし、能力者は目の届く場所に置いた方が良いってことでガープさんの部隊に配置されたの。それでも、直接の上司はドリフトさんってことになってるけど。」

 

と、ここまで話したところで一度話を切る。なぜなら隣に座るゾロが悶えているからだ。

 

「…俺ぁ、あの時の自分を斬りてぇ。本人の証言なんて考えてなかった浅はかな自分が恥ずかしい。」

 

まぁ、仕方なかったと思うよ?体は無傷でも精神的に何度も死んだ人の末路を考えるとね。よっぽど図太い神経してたんでしょ。

 

「つい先日別れたばかりだけど、ノジコとゲンさんに会いたくなっちゃった。」

 

ナミさんは家族を想っているのだろう。優しく微笑んでいる。

 

「親父も何処かの海で俺のこと想っててくれてるのかな。よし、絶対会いに行ってやる!」

 

ウソップさんも楽しそうに決意を改にしている。

 

「心の在り方こそが家族、か。確かにそうだな。なぁ、クソジジィ。」

 

サンジさんは海の遠くを優しく見つめ紫煙を流している。

 

「良い爺ちゃんだな!俺なんて何度も殺されそうになったぞっ!!」

 

ルフィさんはコロコロと表情を変えながら怒っている。

確かに、ガープさんの愛情は過激だからなぁ、なんて納得出来てしまう。

 

「それからガープさんの部隊でまずは身体をある程度鍛えて、悪魔の実の能力を自在に扱えるまで特訓してからの実戦訓練でしたね。ここまで半年程かかりました。」

 

詳しく説明するには私自身にも精神的苦痛が襲いかかるので掻い摘まんで説明する。主にジャングルとか猛獣とかトラウマ。

 

「その後はガープさんと一緒に各支部を周りながら接触した海賊を捕まえまくりました。そして何故か気付いた時には佐官になってて、無駄に忙しくてゾロの観察も出来なくなって。それが三カ月くらい前ですかね。」

 

「「ちょっと待て!!」」

 

息の合ったゾロとウソップさんに話を止められた。もう少しで説明も終わるのに一体なんなのよ。

 

「俺の観察ってなんだよ!?」

 

「おまえどんだけスピード出世してんだよ!?」

 

「……?」

 

いや、何言ってるのか良くわかりませんね。私はあざとく首を傾げ考える。

 

「まぁ、たまに能力使ってゾロのこと見てたけど、さすがにお風呂覗いたりはしてないから問題無いし、昇進なんてしたくないのに勝手に佐官にされた私は被害者です。」

 

「…ゾロ、ウソップ。諦めなさい。その方が心は楽よ?」

 

ナミさんは慈愛に満ちた健やかな笑顔で遠くを見ている。何かを悟ったようだ。

 

「まぁ、それで先日ルフィさんの懸賞金会議がありまして、ゾロも正式に麦わら一味と認定されたことなので退職願をガープさんの机に置いて、ここまで来ました。以上です♪」

 

とりあえず説明は済んだので私は皆を差し置いて次の町、ローグタウンへと意識を向ける。せっかくなのでゾロに会わせたい人もいる。会いたくない人も居るけれど。

 

「まぁ、なんだ?大変だったな。それでお前が食った悪魔の実はなんだったんだ?」

 

ゾロは何度目かわからない大きな溜め息を吐きながら私に問う。そうか、能力の説明を省いていた事忘れていた。

 

「えっとね、結局分かってないの。」

 

と、同時に五人から胡散臭げな目で射抜かれる。

 

「ちょっ!そんな目で見ないで。・・・なんて名前の悪魔の実か判明してないってことです。本部の図鑑にも載ってない実だから、もしかすると新種かもしれないんだって。」

 

「どんな力か分かってんなら勝手に名前付ければいいじゃねぇか。」

 

「う・・・ん。実は本部には能力の半分は内緒にしてるんです。表向きは『欲しいものを出現させる能力』超人系(パラミシア)で、ダスダスの実?デルデルの実って感じですかね。可愛くないので嫌なですけど。

本来の能力は私の生死に関わる危険な能力なので秘密です。本当は自然系(ロギア)です。」

 

五人は信じられない、いう顔をしている。まぁ、当然の反応だ。本来、悪魔の実は一つの系統しか持たない。私は能力を使い分けて系統すら騙しているのだから。

 

「なら、あの時やその柄だけの刀は能力で『視えない刃』を出現させてるってことか?」

 

やはりゾロは剣士として武器が気になるようで真っ先にそれを聞いてきた。

 

「そうよ。あと、サンジさんの首の傷は『一瞬で完治するほどの自己治癒力』を引き出させたってことに表向きはなってるわ。

ちなみに、私がサンジさんの背後を取ったのではなく、私の目の前にサンジさんを出現させたことになりますね。」

 

「・・・ちょっとそれ、表向きの能力でもヤバイじゃない。いくら悪魔の実でもめちゃくちゃよ。」

 

ナミさんは能力の異常さに顔色を悪くする。それこそ悪魔の実は『何でもあり』なので、普通の人間としては当然の反応だろうが。

 

「リィナちゃん、ちっと聞きたいんだが。能力使われた俺の身体はなんとも無いのかい?」

 

「サンジさんの不安はごもっともです。ですが安心してください。悪影響は出ないようにしました♪」

 

「少しだが違和感があるのはそのせいか。悪くなって無いんならそれで良いさ。」

 

少しだけど、傷を負わせてしまったので元に戻した時にサービスしたのだ。

すぐに気付くなんて凄いなと感心する。余程日頃から身体を鍛え、動かし方を意識しているのだろう。

 

「わかった!リィナ、おまえ手品師か!!」

 

それまでウンウンと呻り、ろくろ首の様に伸びていた首をバチンと戻したルフィさんは目を輝かせている。

 

「ふふっ。まぁ、そんな感じです。はい、どうぞ!」

 

私は右手で骨付き肉を三つ出してルフィさんに差し出す。実はガープさんも同じ反応をした事は黙っていよう。

 

「おおぉ!すげぇ!!サンキューリィナ!!」

 

勢い良く肉を口に放り込むルフィさんを押し退け迫ってきたのは意外にもナミさんだ。

両目がBマークになっているので言わんとする言葉がすぐに分かる。

 

「ナミさん、残念ですがお金はダメです。能力は私欲の為に使うものではないので。」

 

私欲に走る前に断りを入れなければなるまい。ケチ、と呟くナミさんだったが、お金を欲するあたりまだ常識人の範疇だろう。

 

その後も皆の質問に答えながら海路を進める。途中、お腹が空いたのでサンジさんの料理をご馳走になりつつ楽しい時間を過ごした。

 

さて、ローグタウンで何も無ければいいのだけど…

 

ルフィさんとか心配だなぁ。

 

 




読んでいただきありがとうございます。

次回までお待たせしますが、やっと原作に介入します。

書くのは楽しいのですが、読んでいて楽しいと思っていただければ嬉しいです。

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