姓はロロノア 名はリィナ   作:ぽんDAリング

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久しぶりの投稿です。このままの投稿速度じゃイカンと危機感が募ります。


25・査定と八つ当たり

少し曇り始めて青さの少ない空、土埃を巻き上げるそれなりに強い風、俺の眼前で無様に鼻水を垂らしながら泣く強盗七人組。

 

なんだこれ。偉そうに説教染みた高説を垂れてしまったが想定以上に効果があったのか、それとも予想以上に彼等の精神(メンタル)が豆腐だったのか。はたまた、俺みたいなガキに説教されての悔し泣きなのか…

 

「もういいや。…オマエラもう帰れ。二度目は無いからな?」

 

両腕を縛られ吊されているので涙も鼻水も拭えないだろうし、正直見ていて鬱陶しい。

 

稽古で使用していた木刀を振るい縛っていた縄を切る。強盗共はそのまま地面に落ちるが50センチ程の落差しかないので両脚でちゃんと着地した。

 

「ほれ、オマエラにも帰る場所があるんでしょ?次からはちゃんと自分達の目的と実力に合った賞金首を狙えよ?『命は大切に』ってやつだ。」

 

強盗共は涙と鼻水を何処から取り出したか分からないハンカチで拭きつつトボトボと帰っていく。

 

すまねぇ。ありがとよ。などと口々に去って行ったがもう遭うことも無いだろう。

 

俺の言葉をどう受け取ったかは知らないが、今後はもう少し慎重に行動出来るようになってほしいものだ。

 

因みに俺が最後に言った事は賞金首が如何にして懸賞金が掛けられたのか、懸賞金額の大小は人柄に依るものか、武力・知力・情報なのか、はたまた構成人数なのかと様々な要因を考えて標的を決めろって事。

 

賞金首ってのは、世界にとって、海軍にとって若しくは、人々にとって『脅威』になると判断された者の事だ。ウチ(麦わら海賊団)ではゾロ、ルフィさん、ロビンさんの三人。因みに、俺は男になっているのでリィナの懸賞金はノーカウント。

 

まず、ゾロとルフィさんは海軍にとって(・・・・・・)の『脅威』と判断されている賞金首。

 

クザンさん曰く、現状で麦わら海賊団は様子見とされてるらしいが、『海軍側に直接的な被害は無いが何をやらかすか分からないから要注意』って意味合いのものだ。

 

これは、『海軍(イコール)正義』と『海賊(イコール)悪』という海軍側からの一方的な偏見も含まれている。王家七武海っていう例外も存在する訳だが割愛。

 

次いで、ロビンさんは世界にとって(・・・・・・)の『脅威』と判断されている。

これは本人にとっても不本意になるのだろうが、ロビンさんが持つ知識に対するモノだ。

 

歴史の本文(ポーネグリフ)を解読出来る。たったそれだけの事。それだけの事なのに『脅威』だと判断されている。

 

その歴史の本文(ポーネグリフ)の存在がどれ程のモノなのかよく知らないが、“史実から隠された歴史”や内容の一部にある“古代兵器”が危険(・・)な事は聞いたことがある。まぁ、女リィナ自身が“古代兵器”だったことは半信半疑だが…

 

話が逸れたが、賞金首には種類があるって事を説明したかった訳だ。

 

そして、ゾロとルフィさん、ロビンさんとは別の種類にあたる賞金首。それは、人々に害を成す海賊や山賊、強盗・殺人犯などの事。

 

無作為に略奪行為を起こしたり、私利私欲の為に人を襲ったり、快楽の為に暴虐の限りを尽くす無法者。

 

殆どの賞金首はこれに該当する。ソイツらはその野蛮な行動故に賞金首になっている。そんな奴らは生きる価値なんて無い。他人に害を及ぼすしか出来ない奴らはそこらの虫にも劣る屑だ。

 

なので、賞金稼ぎたちは率先してソイツらを狙ってくれ。一般人から嫌われている奴らを狩った方が好感度も上がり仕事としてのやり甲斐も出るだろうし、海軍的にも助かる。海賊狩りやってた時のゾロみたいに。

 

勿論、自分たちの実力に合った賞金首を狙え。命あっての物種だからね。って事。

 

言ってる事が少し幼稚な気もするけど、ウチのゾロとルフィさん、ロビンさんは海軍と世界政府側が勝手に危険視してるだけで危険人物では無い。…多分、違うと思う。思いたい。

 

実際、極悪非道な“ドン・クリーク”や“魚人アーロン”、“サー・クロコダイル”の打倒を果たして、結果として海軍の手助けしてるんだから『正義的な、若しくは義勇的な海賊団』だと思うが、結局は『海賊』ってカテゴリーだからね。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

ふと、船上に物音がしたもんだから目が覚めた。昼寝をしていたとはいえ、俺の警戒区域に易々と侵入してくるなんて只者では無いだろう。

 

寝転ぶ際に邪魔だから腰から外した刀をさっと手に取り侵入者に視線を向ける。…長い鼻。なんだ、ウソップさんか。

 

………いや、違うわ。

コイツは確かガレーラカンパニーの一番ドック大工職職長『カク』。その実、本当の正体はガレーラカンパニーへ潜伏任務中の『CP9』の一人だ。

 

なぜ俺がそんなことを知っているのかというと、海軍少佐だった頃にCP9の長官と会った事があり、その後政府要人の護衛でガレーラカンパニーに訪れた際、聞き及んだ彼ら四人の内三人の特徴からそれぞれを認知した過去があるからだ。一人だけ見当たらなかったから知らないけど。

 

あぁ、思い出したらイライラしてきた。あの『スパムハム』だかいう奴のねっとりしたイヤラシい目が気持ち悪かった記憶が蘇る。

 

まだ15、6歳程度の少女を性的な目で睨め付け回す変態長官は、ウォーターセブンに潜伏しているというCP9の情報をペラペラと自慢気にリィナへと語っていた。勿論、潜伏している目的についてもだ。

 

『世界政府直下暗躍諜報機関の司令長官として着任している俺カッコイイ』『世界最高峰の諜報・殺し集団を顎で使う俺スゲエ』と自己主張の激しい勘違い変態野郎だったが、顔に巻いた皮バンドだけはほんの少しカッコイイと思ったのは内緒だ。

 

その時リィナはドリフトさんの部下として、付き人のような立場…ただ後学のためにオマケとして同行していたにもかかわらず、ドリフトさんそっちのけで俺に絡みまくる変態には終始苦笑いしか浮かばなかった。

 

まぁ俺も男としてだったら好みの女性に自分をアピールしたい気持ちは判らんでもない。

が、しかしだ。機密情報を垂れ流すのはどうかと思う。別れ際にそのことでドリフトさんが苦言を呈すもまるで聞いちゃいなかった様子だし今頃はどこかに左遷させられているかもしれないな。

 

でも、コイツが未だに大工として働いているってことはコイツラの任務はまだ継続中ってことだろうし……まさか水が合ったからって転職したなんてことはないだろう。

 

とりあえず初対面のていでカクに問いただす。勿論、「あなたは誰で何をしに来たのか」って内容をだ。

 

大方予想通りの返答に俺は表面上だけ警戒を解き、俺たちの話声でノソノソと起きたゾロへ説明する。

 

「ルフィさんたちが予定通りに修理依頼を出せたみたいだから、船の状態を見に大工が来たみたい。」

 

おう、そうか。とだけ返事をして再び横になるゾロを尻目にカクの気配を追うとマストや甲板、側板を視診触診で見て回っている。

 

たまに「あれま」「こりぁ…」と芳しく無い声を出すのでメリー号はあまり良い状態で無いことが伝わってくる。

 

若干メリー号を心配しはするが、クラバウターマンの宿るメリー号なのだからとそこまでの危機感は俺には無かったし、世界一の造船会社の手に掛かればメリー号は完全に修理出来ると過信していた俺だった。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

船底を確認する為に海に潜った後、カクが発した言葉に俺とゾロは呆然となった。

 

「この船はもう無理じゃ。ここまで来れたのが奇跡じゃの。」

 

ふと、脳裏に浮かぶ皆の顔。

 

メリー号の船首がお気に入りで座ったり寝転んだりぶら下がったり涎を垂らして昼寝をするルフィさん。

 

自身の蹄で甲板を傷めないように、扉や柱に角をぶつけないように気を付けて、それでもぶつけてしまったり傷めてしまった時は申し訳なさそうにメリー号に謝るチョッパーくん。

 

突発的な嵐や海王類への遭遇を極力避けつつメリー号への負担を減らそうと航海術を駆使するナミさん。

 

隅々まで綺麗に大事に使われるキッチンや居住スペースもそうだが、甲板やマストなど他にも気掛けて清掃をしていたサンジさん。

 

稽古や筋トレ等でも甲板や手摺りなんかを壊さないよう傷めたないように気を付け、重量物はゆっくり優しく下ろすように心掛けていたゾロ。

 

手の届かない場所や気付き難い場所の清掃と補修を皆に感付かれないよう能力を用いてこっそりとやってくれていたロビンさん。

 

そして、故郷の大切な友人からメリー号譲り受け、素人ながらも見様見真似で壊れた箇所を修理し、いつまでもメリー号での航海は続くと信じてやまないウソップさん。

 

これまでの長い旅路に苦労をかけたメリー号をウォーターセブンにて完璧な修理を施してやれると。これからも続く果ての見えない旅路にも必ずメリー号が共にあると疑わないウソップさんの曇りの無い、そして誇らしげな笑顔。

 

俺は特にウソップさんのメリー号への愛情を思い出し……後悔した。

『一つ一つの修理箇所がこれまでの航海の思い出』だと船体に頬擦りするウソップさんを見て『元の新品状態へ戻すのは野暮だ』と能力による復元を提案しかけて、その言葉を飲み込んだ事を。

 

あの時それでも、と航海の安全を考慮して等と説得するべきだった。航行不能な損壊が起きたら能力を使えばいいやと安易に思考を放棄為べきじゃなかった。

 

空島での原作知識をシールから与えられ、メリー号にはクラバウターマンが宿っていると知り『それならば安泰だ。大丈夫だろう』と、確実性の無い根拠で楽観視してしまった愚行を。

 

とはいえ、覆水は盆に返らないし後悔は先に立たない。分かってはいる。分かってはいても自身の選択をもう一度やり直せるならと考えてしまう。

 

「メリー号は…この船はもう修理出来ねぇのか?」

 

カクへと静かに問い掛けるゾロの声に俯いていた顔を上げて俺もカクの返答を待つ。

 

「…ふぅ。お前さんらのような客は稀におる。して、こう告げるのは少し心苦しいが『無理じゃ』としか言えん。」

 

心苦しいと口には出したが、その言葉は淡々としていて無機質だった。無理だと語るこの男は表情を変えることもなかった。

 

それが気に食わなくて、ただの八つ当たりだと分かっていたが言葉は止められなかった。

 

「お前じゃ話にならねぇ。本職(アイスバーグ)呼んでこい。」

 

「……何を言う?わしは一番ドックの大工職職長じゃぞ。」

 

殆ど表情を変える事の無かったカクは片眉をピクリと一瞬だけ上げたが、元の無表情へと戻し僅かに俺への警戒を強めたのが感じられた。

 

『これ以上はいけない』と本能が警鐘を鳴らす。当たり前だ。俺だけならまだしも、このままだと一味全員を危機に晒す事が確定してしまう。

だが、激流の逆巻く感情が理性を押し退けて俺の口から飛び出る。

 

「…掛け持ち(潜伏任務)してる奴の査定じゃ信じられねぇッつってんだよ!!」

 

瞬間、言葉の意味を捉えたカクは明確な殺意を俺へと向けて見据える。同時に臨戦態勢へと切り替えているあたり流石はCP9の一人だと感心してしまう。

 

しかし、カクは俺に飛び掛かってくる事はなかった。

 

何故なら俺もゾロもカクも視界に映る世界が色褪せると同時に、ある言霊が脳裏に響いたからだ。

 

 

『妾の許可無く動くでない』

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

本職とは別に夜間のバイト始めたりして家に居る時間が短くなったり、相変わらず仕事はやること多くてバタバタしたりと現実逃避出来ない日々が続いてます。

次話はもう少し早く、文字数も多く、内容のある話にしたいですorz

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