今年初の投稿です。またもや2カ月程間が空いてしまいましたね。文字数も少ないです。言い訳はあとがきで…orz
今、俺の目の前には大きなカエルが居る。
このカエルは先ほど『海列車』なる物と
一頻り吼えた後、カエルはその大きな口を歪めて見えなくなった『海列車』を睨み付けていた。何だかそのカエルの姿が他人の様に見えなくて、自分を見ている様な錯覚を覚え、無意識に言葉が零れた。
「…お前も、アレに“持って行かれた”のか?」
ふと、自分の口から出た言葉を脳内で反芻するがよく分からない。俺には前世の記憶は殆ど無いと言って良い程に何も覚えていない。だから、俺には何を“持って行かれた”のか覚えてなどいない。
だけど、何故だか俺にはそう感じられていた。きっと、前世の俺は何か大切なモノを持って行かれたんだろう。『海列車』に似た何かに。そして、彼と同じ様に怨みや怒りを込めて睨み吼えたんだろう。
彼は俺の言葉に気付いてか、身体ごとこちらへ向くとギョロリとした眼を細くさせる。それから、顔を近付けると器用に舌をビヨンと伸ばして俺の顔を舐めた。俺はどんな顔をしていたのか分からないが、きっと慰めてくれたのだろうと察する事が出来た。
「…ありがとな。」
彼の鼻先に軽く右手を伸ばして触れると、フンスと鼻息で返事を返す彼に自然と頬が緩んだ。
※ ※ ※ ※
カエルとの妙な親近感に頬を緩めつつ、泳ぎ離れてゆくカエルを見送り俺も泳いで船へと戻る。
六式“剃”の応用“月歩”を用いて海面から飛び出してから宙を駆けゴーイングメリー号の甲板へと着地を済ませる。
あ、そういえばルフィさんはあのカエルを食べる為に追いかけていた事を忘れていた。そのまま見送っちゃったけど怒ってないよな?食べ物の恨みは酷いと聞くし謝るか。
そう思い皆の方へ振り向くと同時に般若なナミさんの拳が眼前へと迫っていた。これくらいならば避けるのは容易い。…容易いが、このパターンは避けた後が怖いパターンだと直感が働き甘んじて受けるとしよう。
「あんたはっ!もう!!あぁ~!あんたはもうっ!!」
女性とは思えない鋭い一発を頬に入れ、甲板で激しく地団駄を踏むナミさんとその後ろで呆れ返る皆を見て…
「そんなにカエルの丸焼きを食べたかったんですか?すいません、今度別の奴狩ってくるんで許して下さい。」
と、一応謝っておく。下げた頭を上げるとゾロが額に手を当てた格好のまま俺の前まで出てくると微妙な角度で天を仰ぎ口を開いた。
「ったく。カエルの丸焼きはどうでもいいんだよ…お前、普通に泳いでたが能力者はカナヅチになるんじゃなかったのか?」
「…?……!?…………!!!」
「やっと気付いたのかよ。」
おぅ、マジか…そうだよ。何で俺泳いでんだよ。何気無く普通に泳いでたよ。って事は、俺ってば能力者じゃないんだ。え…何で?
壊れかけのゼンマイ人形の如く、わたわたと身体を右に左に小刻みに捻りつつ両手を上下左右に揺らし動揺する俺はとても滑稽だったそうだ。
※ ※ ※ ※
ナミさんは一目見てわかる程に拗ねているようで甲板のデッキチェアに腰掛け黒いオーラを発しながら呪詛を垂れ流している。
突然だがここで情報を整理してみよう。
サンジさんが作ったじゃがいものパイユを皆でつまみながらのんびり穏やかな航海中。暇を持て余して釣りをしていたルフィさんとウソップさん、チョッパーくん。何故かクロールで泳ぐ大きなカエルをルフィさんが発見し、捕食しようと追跡の号令を出して俺たちはそれに従った。というより、俺は珍しいモノ見たさに自発的に追い掛けた訳だが…
そして、追っているカエルの向かう先に灯台を発見したナミさん。なんやかんやと問答しつつ無駄な団結力でカエルを追う俺たち。
その時、突如カンカンと鳴り響く変な音。皆そこで警戒を高めた。
灯台の近くまで泳ぎ進めたカエルはスピードを落としたと思ったら海上に
俺たちは訳も分からず驚愕するも、海上に立つカエルが見据える先に轟音を響かせて迫り来る何かに気付く。
そこで俺の脳裏に過ぎったのは海兵時に何度か乗った事のある海を走る船『海列車』だ。愚かしい事に今の今までその存在を失念していた事に気付く。
カエルが立ち、ゴーイングメリー号が乗り上げているモノはその線路であると思い至ったのも同時だった。
――このままじゃマズい!
頭の中で警鐘が鳴り響く。咄嗟に俺は船から飛び出し“月歩”で宙を蹴りつつゴーイングメリー号の船首下へと潜り込むみ、更に力を込めて“月歩”で海面を蹴りながら両手で船を突き上げた。
船体が後方へ傾き、乗り上げていた船底は線路から離れる。ナミさんの判断で咄嗟に後進しようと皆が動いた甲斐もあってか何とか座礁から復帰し安全圏までは離れられた。
『火事場の馬鹿力』とは良く言ったものだ。たかだか“月歩”の推進力で船を押すなんて普通は出来ないだろう。転生特典である肉体ってのも一つの要因だと思うがそれをまたやろうとは思わない。
ゴーイングメリー号の避難が済んだところで『海列車』は既に目と鼻の先にまで接近しているのが分かる。数秒前とは違い駆動音と汽笛、それから猛スピードで進む機体の振動を数十メートル程度の距離に肌で感じたからだ。
船は被害の出ない場所までは離れた。これで一安心だ。だから俺は、『海列車』を迎え撃とうと身構え、咆哮を上げるカエルへと再び“月歩”を駆使して接近した。
しかし、残念ながらコンマ数秒間に合わなかった。
それでも俺はカエルの横腹へ勢いを付けたまま飛び込み、正面衝突だけは回避したのだが『海列車』の先端部にカエルが
そして、海面へ叩きつけられた俺は以外と元気そうに吠えるカエルと親睦を深めて帰還した。
以上、回想終わり。
※ ※ ※ ※
…まぁ、なんだ。つまり、ナミさんは俺がカエル諸共『海列車』に接触し跳ね飛ばされた事と、俺は能力者だから海に入った事で溺れてしまうのを心配していてくれてたんだ。
それなのにケロッと帰還し、あまつさえ「そんなにカエル肉食べたかったの?この食いしん坊め!」と言ってしまったので拗ねてしまったのだ。
考えるより先に体が動いてしまったとはいえ今回は……いや、“今回も”俺が悪いのは違いない。
それに、ナミさんは純粋に俺の心配をしてくれたんだ。それが嬉しくないはずがない。
ナミさんは以前『もう家族みたいなもの』だと言ってくれた。
ガンジお爺ちゃんも『血の繋がりなんて関係無い』と言ってくれた。
確かにその通りだと思う。当時は女のロロノア・リィナとしてだけど、ナミさんもロビンさんも妹として接してくれてはいた。
でも、男になった俺を同じ様に接するのは無理だろうと俺自身が壁を作ってしまっていたし半ば諦めてた。だけど、それは杞憂だったと気付かされた。
ナミさんは…いや、他の皆もだが以前と変わらず俺を心配してくれた。男だとか女だとかでは無く『ロロノア・リィナ個人』としてだ。
性別の転換程度で皆と壁を作ってしまっていた自分を恥ずかしく思う。
※ ※ ※ ※
その後、ナミさんへは謝り倒し何とか機嫌を直して貰った。途中、意を決して『お姉ちゃん』呼びを復活させたのだが、それを切欠にナミさんの気色が良くなってゆくのを感じ、チョロいと思ってしまった俺は悪くない。
勿論、ロビンさんの呼び方も『姉さん』へ戻した。女体時には気軽に呼べていたのだが、男となった今では何とも言い難い恥ずかしさに蝕まれている。
ゾロの呼び方は以前とは変えて『兄貴』若しくは『兄さん』にしようかと考えたが背中がむず痒くなってしまったので保留にした。
と、まぁ俺が一人で身悶えている間に『海列車』の線路沿いにそびえる灯台、もといシフト
こちらは海賊旗を掲げた船に乗っているのだ。襲撃や略奪の疑いを懸けられても何ら不思議ではない。
一応、そういった目的では無いと弁明し『海列車』や『
シフト
俺は海兵時代に何度か政府関係者の護衛任務で『海列車』に乗っているので特に耳を傾けるでも無くぼーっとしていた。
ココロさんから餞別を貰い受け、皆意気揚々とウォーターセブンへ向けて出発する。船上ではどんな船大工を仲間にするかで話が盛り上がったり、ゴーイングメリー号を修理に出す算段を付けながら、これまでの航海で苦楽を共にしたメリー号の一つ一つのブリキの継ぎ接ぎや各修理箇所を見て感慨深く語ったりと話題は尽きない。
俺もその輪に入っていれる事に喜びと誇りを抱きつつウォーターセブンへと想いを馳せた。
あれ?そういえばウォーターセブンって言えば何かあったような…何だったっけ?と一抹の不安も覚えつつ遠方に見える島影に胸を高鳴らせた。
読んでいただきありがとうございます。
昨年末から少し慌ただしくしていて筆が止まっていました。
来年度、つまり4月から私生活と仕事にて転機を迎えることになりまして色々と忙しく動いてたりします。
転勤に併せての引っ越しってだけなんですがね…まぁ色々と…ゴニョゴニョ
さて、次はやっとウォーターセブン編に入ります。プロットで言えばまだ半分も来てない感じですね…orz
次回の投稿はいつになるのか分かりません。ごめんなさい。