姓はロロノア 名はリィナ   作:ぽんDAリング

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日付的には二ヶ月振りの投稿ですね。

何故ですかねぇ、プロットの書き直し案は次々と溢れるのに本編の筆は全く動きません。


22・茶番の裏側

海軍本部 中将執務室

その部屋の主は淹れたての紅茶を少女へと差し出し、それを受け取った少女は先ず紅茶の香りを愉しむ。

 

「…お主が淹れる茶を飲むのも久方振りよのぅ。」

 

少女は優雅に紅茶のカップに口を付けつつ感慨深気に呟く。その言葉を受けてドリフトは少しだけ肩を諌める。

 

「僕としてはそうでも無いけどね。度々リィナくんには淹れていたのだから。」

 

互いに面して座る革張りのソファーは高級なものであり、素材からして安物のそれとは違う。小さな所作での軋みや擦れの不快な音は一切鳴らない。

 

故に静かな室内での少女の小さな呟き。それこそ独り言の様な言葉をも聞き取り、ドリフトは少しだけ茶化しているのだ。

 

カップをソーサーに乗せると小さくカチャリと音が鳴る。ドリフトも少女も互いに見合う訳でも無く、少しだけ穏やかな表情で窓の外へと視線を送り、それから暫しの静寂が流れる。

 

「…あぁ、すまねぇがドリフトさんよぉ。俺ぁちっとも状況が把握出来ねぇんだが。大体、その女は何者だ?身形(みなり)はリィナだがそいつぁ俺の知ってるリィナじゃねぇ。俺にも分かる様に説明しちゃあくれませんかねぇ?」

 

静寂に耐えかねたクザンが口を開く。その行動は正解で、何も発さずにいたならそのまま“居ない者”として扱われていただろう。

 

一瞬、ドリフトは目線を壁際で立ったまま腕組みをしているクザンへ向けると、顎に手を当て何やら考える素振りを見せる。対して少女はクザンを見もせずに口角を僅かに上げた。

 

「何、簡単な事であろう?妾はお主等の言うところのロロノア・リィナ本人である。正しくは“二年より前の記憶”が戻った状態だがな。故にコレが本来の妾じゃ。

身形は兎も角、以前の様な年相応の言動もとれんこともないが…お主、よもや生娘が好みと言うのではあるまいな?」

 

リィナ本人であると語った少女は悪戯を計画した子供の様な厭らしい微笑みをやっとクザンへと向け、ドリフトは小さく溜め息を漏らした。

 

「んな訳あるか!俺ぁ、イケイケのボインちゃんが…って、何言わせやがる!!」

 

少女からの『お前少女趣味なのか?』というからかいへ反射的に反論しようとして思い直すも少し遅かったようで、少女は悪戯が成功した子供の様にコロコロと声を上げ笑っている。

 

その様子にからかわれたクザンも見ていただけのドリフトも思わず肩を落とした。

 

「…実は彼女とは知古でね。二年前、無理を通してリィナくんを保護したのはその為さ。とは言っても、それは本当に偶然だったがね。

それと、彼女の言動を見聞きしていれば分かると思うが、本来なら高貴な立場だったのだがね。実はあまり公には出来ない出自であり、とても特殊な娘なのさ。だから、僕はこの娘の正体を語れなかったと思ってくれ。」

 

クザンは『公に出来ない出自の特殊な娘』という言葉におおよその見当がついたのか片眉をピクリと上げ少女へ視線を送り、またドリフトへと視線を戻した。

 

クザンの脳裏に過ぎったのは『貴族』という言葉。それも、『公に出来ない』という事はそれなりに階級の高い貴族。若しくは、何らかの理由で今は現存しない貴族かだろうと当たりをつける。

 

「……そうだな、クザンくん。君ならば真実を知って尚、正しく在れるかもな。聞くかい?」

 

一頻り笑って落ち着いた少女は我関せず、と再びカップに口を付け窓外を眺め始める。

 

普段通りの穏和な雰囲気は崩さず、然れどその瞳の奥に宿す冷やかな緊迫感を放つドリフトを見遣りクザンは喉の鳴らす。

 

「まぁ、聞くだけ聞こうじゃあないですか。」

 

意にせず乾く口内を何とか湿らせ短く了承の言葉を発し、クザンは壁へと寄り掛かる。知らず内に圧されて背を詰められていると本人も気付かないまま。

 

ドリフトはふむ、と僅かな笑みを浮かべて自身の座っているソファーから立ち上がり少女の隣へと腰を掛けると対面へと右手を掲げてクザンを促し、卓上に幾つか用意してあったティーカップの一つに紅茶を注ぎクザンが座るべき場所へと配置する。

 

その意を汲みクザンは静かにソファーへと座り一口だけカップを傾ける。

 

「『ヘクァト・L・メレフィア』それがこの子の本当の名だ。だが、今は『ロロノア・リィナ』として周知されているからそのままリィナくんと呼ぶよ。」

 

メレフィアという名の少女は不干渉を貫く様でドリフトの視線と言葉に反応せず、そのまま窓の外へと視線を巡らせている。といってもただ眺めている訳ではないのだがそれに気付く事は不可能だろう。

 

それと、正体不明の少女であるリィナの本当の名を明かされ、自身の知り及ぶ貴族、元貴族等にヘクァトなる者は存在しないのでクザンは内心で困惑する。ドリフトの言う『真実』が何であれ、リィナの本名を知らされても心当たりがないクザンとしては反応し辛い。しかし、ドリフトが意味も無くそんなことを語る訳が無いと知っているクザンは少女の名を記憶に刻み込む。

 

「…うん、異論は無いみたいだから続けるとしよう。名前というのは大事なものだからね。呼ぶ事は無くてもリィナくんの真名は覚えていてほしい。

ではクザンくん、この世界に存在するという“古代兵器”についてどこまで知っているかな?」

 

マイペースを貫くドリフトへ少しの呆れと困惑それも束の間、世界政府・海軍本部でも秘匿事項である“古代兵器”についてあっさり言及しようとするドリフトに目を見開き慌てて立ち上がると周囲を警戒する。

 

「大丈夫、この部屋の中で話す事は漏れはしないよ。盗聴の類も無い。勿論、周囲に人も居ないから安心してくれていい。」

 

クザンはそう言われソファーへ腰を落とす。如何に中将執務室に居るとはいえ海軍内部統制の為にある程度の諜報活動は存在する。それでも、それに気付ける者は極僅かなのだが、勿論クザンは内情を知る立場なのでそういった(・・・・・)話は注意・警戒して当然なのだ。

 

しかし、ドリフトはそれらを意に介さずにいる。つまりはそれらの排除は既に済んでいるという事だとクザンは思い至る。

 

同時に、背が冷ややかな何かで覆われる感覚に襲われる。ドリフトは常々そういった(・・・・・)会話をここで誰かと交わし慣れているのではないか、と。

 

憶測…いや、この場合は邪推と言うべきか。クザンにとっては慎重に物事を捉える為の行為なのだが、時としてこうした過ぎる思考をしてしまう。

 

「……古代兵器、ですか。知ってるのは名前と危険性くらいですかねぇ。実物なんて見たこと無いですし、正直…御伽噺だって思ってますよ。

ただ、五老星がその危険性を問題視しているのも事実。だからこそ、確実に存在するんだという確証になるんでしょうがねぇ。」

 

敢えて詳しくは語らない。知り及ぶ名や形態はぼかし、よく分からないと誤魔化す。クザンはそうする事で会話を引き伸ばしドリフトの真意を探ろうと考えた。

 

しかし…

 

「クザンくん、君は優秀だ。だからこそ、言おう。今のは説明の前フリ(・・・)であってそれ以上の意味は無い。だから、深読みするだけ無駄だよ。

疑う事は容易いが、疑い過ぎは真実を否定することに繋がる。加えて、信じる事も容易いが、信じ過ぎるのは盲目となる。

先ずは聞き終えてから取捨選択するべきじゃないかな?僕はまだ話始めたばかりなのだから。」

 

普段のそれとは違う鋭い目線を這わせるドリフトにクザンは心の臓を鷲摑みされる錯覚を催す。勿論ただの比喩であるが、当人にとっては殺生与奪の権利を握られていると自覚するには十分なモノだった。

 

まぁいい、と小さく息を吐くドリフトに対しクザンは額に流れる汗を拭うことすら出来ないまま説明が開始された。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

「…リィナが“ポセイドン”と対になる古代兵器とか…冗談みてぇな話ですね。他の話も到底信じられるような話じゃねぇ…」

 

ドリフトの説明が半ばになる頃からクザンは両手で頭を抱えていた。それは何も知らぬ者が聞けば一笑するような与太話だっただろう。しかし、その話が真実であったならば世界が本当の意味でひっくり返る。なのでクザンの反応は当然なのだろう。

 

「安心し給え。五老星ですら継ぎ接ぎでしか知り得ぬ真実だからね。知っていると公言しない限り危険は無いよ。最も、語ったところで信じて貰えるかは別の話だがね。」

 

白い歯を見せ笑うドリフトを視界の端に捉えつつ恨めしく歯軋りをするクザンをリィナは鼻で笑う。

 

「知りたくなかったと喚いても時既に遅しだのぅ、クザン。して、ドリフトよ。此奴に話してどうするのだ?」

 

「彼には協力者になってもらおう…とね。

そう遠くない未来、然るべき時に然るべき事が起きる。本来ならばクザンくんはそこで退場する事になる。それも踏まえて『計画』を立てていたんだが…いやはや、リィナくんが記憶を取り戻した(・・・・・・・・)おかげで総崩れだ。

おっと、君を責めている訳ではないからそう睨まないでくれ。」

 

睨む、と言うよりも呆れた様に半目で見詰めるリィナをドリフトは朗らかに嗜める。ドリフトなりに場の雰囲気を変えようと試みているのだろうがクザンの様子は変わらない。

 

「…ふん、もうよい。お主が理由も無く多くを語る訳も無い。遅かれ早かれ此奴は巻き込まれとったのだろう。

して話は変わるが、妾の今後の予定じゃ。ロロノア・リィナは軍を去った事になっておる。妾がここに居っては都合も悪かろう。今更世界を回る程の興も乗らんしのぅ。そこでだ、お主等のアジトにでも世話になろうと思っておるが、活きの良い小僧にはお主から話を付けて貰わねばならんだろう?」

 

メレフィアがドリフトを訪ねた用件。つまるところの本題がこれである。“リィナ”ならばガンジという義父の下へ帰ることも可能ではあるが、本来の記憶の戻った少女 メレフィアにとっては知古であるドリフトしか寄る辺が無い、とクザンにも理解出来るように説明する。

 

クザンはメレフィアの言葉に一応の納得はしたようだが、ドリフトの口から出た『協力者』『遠くない未来』『計画』そして、『ドリフト等のアジト』等の単語に更なる頭痛を催している。真実についての説明だけでも悩ましい事柄であるのに、更に不穏な単語のオンパレードである。秘かにここへの同行を強制したメレフィアを怨むクザンだった。

 

一方、メレフィアの要望を聞き左手で顎を撫でつけながらドリフトは思考を巡らせる。そして、少しの時間で纏め上げた考えを口に出した。

 

「わかった。彼にはキチンと話を付けよう。まだ彼を失う訳にはいかないからね。

…と、その前に確認したい。密偵から随時報告を受けてはいるんだが、モックタウンで“黒ひげ”と接触したのだろう?奴は死んだのかい?」

 

「ん?…あぁ、奴か。ロロノア・リィナが(・・・・・・・・)奴の危険性を鑑みて、能力で元素に分解しておったな。

その報復であろう。奴の取り巻き共がリィナを襲撃しおった。おかげで妾が出てこれた(・・・・・)のだがな。その礼に命だけは取らんでやったが…何か問題でもあるか?」

 

あくまで自身でなくリィナがやったと強調しつつ、己の身に起こった出来事をサラッと簡潔に告げる。殊更に『大したことでは無い』という口調にクザンは大きく溜め息を漏らし、かの襲撃にはそういった真相があったのかと理解する。

 

「そうか。特に問題は無いよ。では、“黒ひげ”の『復元』は出来るかい?あぁ、なんなら死体でも構わないよ。」

 

ドリフトは黒ひげ一味の末路に対し素っ気無い反応を返し、“黒ひげ”、或いは“黒ひげ”だったモノだけでも必要だと暗に告げる。

 

その問いに何をするつもりかとメレフィアは訝しむ。が、不可能ではないと答えると同時にリィナが度々使用していた“隔絶(アイソレーション)”を発動させ静かにソファーから立ち上がると扉前の拓けたスペースへと足を運ぶ。

両手のひらを下に向けて肩の高さまで上げるとどこからともなく塵の様な、埃の様な粒子がメレフィアへと集まり始める。

 

「“黒ひげ”の分解された元素を収束させ復元すれば良いのだろう?」

 

メレフィアの周囲を舞う粒子が手のひらの下方にて寄り集まり一つの塊を形成しだす。見る見るうちにそれは辛うじて人の形に見える塊へと成る。

 

「…ほれ、これで終いじゃ。誠に万能な能力だのぅ。妾の同化するだけ(・・・・・・)の能力より便利じゃ。」

 

そうごちるメレフィアの足元に横たわる塊は太い身体に不釣り合いな短い手足の生えた人の形をしている。汚い不揃いなひげと手入れをしていない黒髪を伸ばしたモサモサの頭に、これまた薄汚れたバンダナをした中年男性だ。

 

知る者が見れば紛うこと無く“黒ひげ”マーシャル・D・ティーチだと分かるだろう。ついでに、胸部が上下していのを見る限りちゃんと生存しているようだった。

 

クザンは境界を隔てた異世界にて人間の『復元』という神の如き業を目の当たりにして目を剥いている。それを見たメレフィアは改めて自身の能力が埒外な進化を遂げたと口に出し認識する。ドリフトは小さく頷き微笑んで口を開く。

 

「では、“黒ひげ”が復元出来た所で今後の予定を決めるとしようか。君には悪いがアジトへの案内はまだ出来そうにないね。」

 

クザンの茫然とした状態を無視し、メレフィアは能力を解除して元の世界へと戻ると再び優雅な佇まいでソファーへと腰を降ろした。

 

「構わぬさ。どうせお主のことだしのぅ。何かしらの手で上手くやるのだろうな。ついでに此奴等も使い道があろう?」

 

そう言うと右手をスッと胸の前に上げ指をパチンッと鳴らす。と、同時に横たわる“黒ひげ”の周囲に四人の人物が気を失った状態で倒れたまま現れる。

 

「そこの汚物の取り巻きじゃ。後はお主の好きにせい。」

 

「あぁ、助かるよ。」

 

理解の追いつかないクザンを余所にドリフトは小気味良いテンポを刻む様に事細かに今後の予定を語り始める。その口調は淀み無く、用意された台本を読み上げる様に軽快だった。

 

クザンはそれに対しドリフトへの畏怖を更に深めた。メレフィアへ“黒ひげ”の復元を問う直前のほんの僅かな時間、確かにドリフトは考える素振りを見せた。

 

それはフリ(・・)だったのかもしれないが、それでも脚本を書き上げるには時間が早過ぎる。本当にあの僅かな時間でこれだけの脚本を準備したのであれば相当なものだ。

 

だからこそクザンは考える。ドリフトは自身を『協力者』に据えると言っていた。恐らく逃れられないだろう。ならば、今は従うしかないと。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

その後、ドリフトが提案した通りにメレフィアはロロノア・リィナとして海軍へ復帰する事を取り決めた。

 

筋書きとしては、とある理由で“黒ひげ”に標的にされた兄 ロロノア・ゾロの危機を察知し、海軍本部を飛び出したロロノア・リィナは無事“黒ひげ”を捕縛し帰還するというもの。

 

ただし、手配書の発行は誤魔化しが効かない事態だったので、大々的に記者会見を開きロロノア・リィナの家族愛と海兵たちとの絆を前面に推す事で民衆の涙と同情を誘い美談に仕上げる、というドリフトの手腕とそういった演出を嬉々として楽しみ演じようとするメレフィアにクザンは終始引き気味だった。

 

会見にて実名で好感度上げの材料(スケープゴート)にされた中将 ガープはドリフトの事前説明に納得がいかない様子で憤慨していたが、民衆の海軍への不信を解消する為だと言われ仕方なく飲み込む事にした。

 

流石に永く軍に属し、英雄と称えられる老将である。清濁併せ呑む事を許容する器を持ち得ていた。

 

しかし、リィナの一応の上司だったガープは彼女が軍に復帰する事に対して大きな疑問を感じていた。加えて、リィナの雰囲気に以前との違いを覚えたガープはドリフト、リィナ両名に僅かな不信感を持ち始める事になる切欠となる。

 

余談だが、五老星はリィナが無事に戻った事で満足しつつ、会見は海軍の好感が上がる内容の筋書きだったのでそのままドリフトに一任した。その後、総師 コングの胃薬の服用が増えたのは言うまでもない。

 




読んでいただきありがとうございます。

前書きにも書いた通り、本編のモチベが上がらす二ヶ月空いてしまいました。遅筆なのは以前からですけどね。

前話投稿の際にあらすじ部分も書き直しましたし、タグ編集もしたのですが…なにか違う、コレじゃ無い感があります。その内、訂正しなければと思ってます。

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