姓はロロノア 名はリィナ   作:ぽんDAリング

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今回、勢いだけで書いた説明が多いので矛盾多発しそうです。後で時間がある時に訂正していきます。



19・少年の名は…

ふと、突風が吹き荒れ旗やテントはバタバタとたなびき、土埃が舞い上がりパチパチと肌を殴りつける不快な音がする。

 

サァサァと草木は揺れ、少し離れた場所から聞こえる爆発音や歓声と混じり少しばかり耳障りに感じる。

 

混濁した意識の中、聞こえてくる音だけでも外界の様子は手に取る様に理解出来る。少しの時間耳を澄まして辺りの状態を一つ一つ認識しつつ、私は横になっているのだと体の感覚で察する。

 

私はどのような経緯で横たわっているのかを考えているが明瞭な理由は思い浮かばない。

 

聴覚に意識を向け、状況の把握に努めていると先程よりも意識はハッキリとしてきた。この調子だとそろそろ身体を動かす事は出来そうだと思い至る。

 

しかし、どんなに意識しても目蓋は貼り付いたみたいに開かない。いくら集中しても指先一つ動かせずにいる。

 

これは困った。

 

そう思って、無意識で溜め息を吐く…溜め息を……息を、していない?!

 

更に意識を集中し自身の身体の感覚を入念に感知する様に試みるが何やら胸の辺りに痛みを感じる気がする。

 

気がする…程度にしか感じられない。

肉体的な感覚は胸の辺りの痛覚以外に感知する事が出来ない。

 

意識が身体を動かす方へ集中し過ぎたせいか、先程耳障りだとさえ感じた草木のさざめきすら聞こえなくなっている。

 

あ、これってもしかして…

 

以前、一度だけ似た経験した事を思い出す。あれは確か、ロードに殺されかけた時。死を覚悟して繋ぎ止めていた意識を手放した時とそっくりだ。

 

あぁ、私は死ぬのか…

 

せっかく私自身の生きる意味を見付けたばかりなのに。ゾロとガンジお爺ちゃんだけが拠り所だった私に新しく出来た居場所。

 

強引に姉なんて呼ばせようとするナミさんとロビンさん。気恥ずかしくて素直になれなかったが、甘えられる存在とは大きくて幸せな事だと今更実感している。

 

サンジさんとウソップさんも少しの女好きと臆病風に目をつぶれば、頼りになるお兄さんだしもう少し甘えてみても良かったかもしれない。

 

ルフィさんとチョッパーくんは何だか弟みたいな可愛気があるけど、目標をしっかり持った芯のある、いざという時は頼れる男の子だし。

 

半裸の人は…いきなりプロポーズとかしちゃう変な人だけど、一途に愛される女としての幸せってモノも良いのかもしれないのかなぁ…なんて。

 

海軍の人達も勝手に壁を作ってた私を認めてくれてたみたいだし、もっと別のやり方が在ったかもしれない。これは少し後悔してる。

 

他にも……って、以外と意識がハッキリしてるなぁ。何時まで経っても薄れる気配を感じない。

 

あれ?私が勝手に死んじゃうって勘違いしてただけ?うわぁ、恥ずかしい!

 

 

……

 

………

 

…………

 

……………

 

………………

 

 

いや、おかしいでしょ?!

 

どんなに意識しても身体の反応を感じない。意識は覚醒してちゃんと思考しているのに、身体の状態を認識出来ないし反応も示さない。

 

ホント、どうなってるのよコレ…

 

『まったく…先程から五月蝿いのぅ。静かに待っておれ。』

 

ふと、声が聞こえた。その声は何処かで聴いた事のあるような声質だった。

 

誰!?今、私はどうなってるの?何故こうなってるの?

 

そんな私の問い掛けにその誰かは応えてくれず暫しの沈黙が続く。私という意識に語り掛ける誰か。前にも何処かでこんな事があった気もするが良く思い出せない。

 

何なのよ…誰なの?どうなってるの?私はどうなるのよ…

 

応えてくれる声は既に無く、目蓋を閉じたままの暗い意識は変わらず時を刻んでいく。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

ロビンはリィナが息を吹き返した後すぐにリィナをステージから降ろし、リィナの頭を守る様に抱きしめている。少しでも身を低くし妹分を守ろうと考えたのだろう。

 

クザンはその傍らに立ち二人を氷のドームで囲み守る。襲撃のあったであろう方向を向き最大限の警戒をしつつもクザンは焦りと動揺を隠せずにいた。

 

本来ならば生け捕りにしなければならない対象が何処からか、誰かから襲撃を受けたのだ。

 

加えて、不可視不感知で強大な殺傷力のある攻撃が次にいつ放たれるかも分からない。例え海軍大将であっても焦りもするだろう。

 

そしてもう一つ。海軍本部から発行された手配書には『ALIVE ONLY』と表記されている。それは“生きたまま捕縛せよ”という意味合いの裏に“通常では殺すのは不可能”だという言葉が隠されている。無論、ロロノア・リィナに限っての話なのだが。

 

何せ数瞬の間さえあれば即死の負傷ですら一瞬で無かった事に出来る能力を持った者をどうやって殺せると言うのだろう。だからこその『ALIVE ONLY』でもあるのだ。

 

だというのに、当のロロノア・リィナは死にかけている。その事実はクザンの思考に警鐘を打ち鳴らす。それが意味するのは“継続的な能力の無効化”の可能性。

 

攻撃を受けた場合、受けた側は能力を発現出来なくなるというモノである可能性だ。

 

ロビンには能力者による攻撃の可能性を示唆したが、己の知る限りではその様な能力は存在しない。

 

そして、能力者を無力化、若しくは能力の一部を無効化させるには三つ。

 

一つは能力者を海に落とす事、海水に浸ける事。悪魔の実の能力者は悪魔の実の呪いによって海水に浸かると殆ど動けなくなってしまう。俗にカナヅチになるというものだ。

 

もう一つは海楼石を能力者に触れさせる事。海楼石の手錠やスモーカーの使う十手などの事だ。海水に浸かるのと同じ効果をもたらす事が出来る。

 

最後に武装色の覇気を纏い対処する事。これは悪魔の実の能力に対してと言えるが 更に付け加えると自然(ロギア)系の能力者に対して最も有効な戦闘方法である。それでも、有効なだけで無効化は出来ない。

 

ロロノア・リィナの『境界を操る能力』は研究途中であり詳細は未だ不明だが、分類では自然(ロギア)系だとクザンは聞いていた。いくら悪魔の実最強である自然(ロギア)系と言えど海水や海楼石では能力は無効化されてしまう。

 

つまり、リィナの能力が無効化されてしまったという事は、同じく自然(ロギア)系であるクザンも先程の襲撃を受けた場合、リィナの二の舞になる可能性があるという事だ。そう考えたからこその焦りと動揺だ。

 

しかし、不審な点もある。

リィナへ何らかの方法で“継続的な能力の無効化”を行い、襲撃に成功し致命傷を負わせた。そして、リィナは“継続的な能力の無効化”のせいで能力に依る自発的な回復が出来なかったと仮定する。

 

だが、その後クザンとロビンによる応急処置では『リィナに対して』通常通り能力は有効に作用したのだ。

 

仮に“攻撃を受けた者のみの能力が無効化されてしまう”のならば海楼石と同じ様な効果だと納得出来るのだが、リィナの胸の傷跡は貫通痕だった事と傷口を凍結、直接心臓マッサージの際にクザンはリィナを調べていたが他の傷や体内に不審な異物は確認出来なかった。

 

なので、『海楼石、若しくは似た効果のある物質をリィナの体内に埋め込み能力を無効化した』可能性は低いと考えるのが妥当だと言える。

 

ならば、何故リィナは襲撃後に能力で回復しなかったのか、または出来なかったのか。そこが謎のままなので断定が出来ないのだが…

 

「能力を封じて尚且つ致死性の負傷を与える攻撃。こいつぁ厄介だ…

先ず、リィナを狙う当たり奴さんはリィナに恨みのある奴だろう。コイツは海軍時代働き者だったからな。

リィナの油断する瞬間や周りに人が少なくなる瞬間を狙ってたんだろうな。デービーバックファイト中の騒音に乗じれば何かしらの音も掻き消される。

えらく辛抱強い入念な計画的犯行じゃないの。」

 

焦りと動揺、過剰な警戒心でクザンは冷静な思考が出来なくなっていた為、少し見当違いな推論へと辿り着いていた。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

リィナの胸に風穴を開けた攻撃。それは単純に射撃によるものだという事実をクザンもロビンも、もし意識があるリィナに至っても思い描ないだろう。

 

事実、クザンとロビンは“海上に船等は無い”と確認している。

 

極端な例だが、快晴時に大人が水平線を眺めるとする。その場合の視認距離は約4、5キロメートル程。

それ以上遠い距離になると『水平線の向こう側』になる為視認出来なくなる。

 

そして、通常狙撃をするならば裸眼では300メートル程が限界。スコープを使用しても精々2キロメートル程が限界であることを考えれば常識的に有り得ないのだ。

 

なので、クザンとロビンは海上からの長距離狙撃の可能性は無いと思い込んだ。

 

しかし、ヴァン・オーガーはそれよりも遥かに遠い距離からの狙撃を可能とする技量を持ち合わせている。

 

更にフライトの能力『物体を操る能力』により、銃弾には重力に囚われない効果が発動している。

 

加えてロードの能力によって、火薬により打ち出された銃弾は銃弾の質量×銃弾の速度(運動エネルギー)を距離と共に損なわないよう常に運動エネルギーを充填(リロード)する。

 

故に、超・長距離から打ち出された銃弾は無重力状態で常に加速し目標へと着弾するのだ。

 

音速を超えた超音速、それを超えた亜光速の銃弾が不可視の攻撃の正体である。

 

最も、リィナの見聞色の覇気範囲外から狙撃を可能とするヴァン・オーガーであるからこそ成功したのだ。

 

フライトの能力は生物、物質を問わず操作出来る念動力(サイコキネシス)の様な能力なのだが、操る対象がはっきり見えていないと自在には操作出来ないという欠点がある。

 

自身の目視範囲外のモノを操作しようにも単調な操作、つまり浮遊させたり多少の移動をさせたりが限度なのだ。

 

自身が何かを操作して直接攻撃する場合、相手からもフライトが見えている可能性があるので察知されてしまうのは言うまでも無い。さすれば、フライトの攻撃は回避・阻害され、返り討ちに遭うのは目に見えている。それを理解しているからこそフライト自身も攻撃役はせず補助役に収まっているのだ。

 

なので今回の件も補助として、銃弾に単調な操作である浮遊する操作(無重力状態)を永続的に発動させただけに過ぎない。

 

つまり、今回の狙撃を可能にするには当事者達しか知り得ない情報があり、クザン達が狙撃の可能性を年頭から外したのは致し方ないという事だ。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

「…もうよい。離すのだ。」

 

抱え込んだリィナからの声に反応し即座にロビンは上体を起こしてリィナの顔を覗き込む。

 

「良かった!意識が戻ったのね!!」

 

リィナが意識を取り戻したことに安堵し顔が綻びかけるが、未だ切迫した状況であることに変わりはないと気を引き締めつつ言葉を続ける。

 

「傷が酷くて、辛うじて塞ぐ事しかし出来ていないの…」

 

と、そこで言葉を遮る様にリィナは掌をロビンに向けて挙げる。

 

聡明なリィナの事だ。瞬時に状況を把握したのだろう。

 

ロビンはそう思いリィナの上半身を抱えて起こす。その時には既に胸の傷は無かった様に消え、血色の良い肌が見えた。失った血液すら復元したのだろうと、感嘆と驚愕の息を吐いた。

 

自身の血に塗れ応急処置の際に破り脱がせた衣服も消え去り、白と水色を基調としたフリルの付いたサマードレスへと変わっている。

 

「…クザン。何時までそうしておる気だ?無駄な事は辞めよ。」

 

首だけ向けてリィナの様子を伺っていたクザンは底冷えする様な冷たさを含む声質に硬直してしまう。

 

「…っ?!リィナさん?」

 

同じ様にロビンも困惑を隠せないままリィナを見詰めて固まる。

 

「…まぁ、細かい事は言うまい。妾を襲撃した者は既に退所しておる。楽にせい。」

 

事も無げに言い放つリィナに対してクザンは本能的に距離を取り、殺気と敵意を放ちながら問う。

 

「…てめぇ、誰だ?」

 

クザンの殺気に当てられ困惑と戦慄を綯い交ぜにした表情のまま震えるロビンを意に介する事無く、リィナの姿をした者は静かに立ち上がり告げる。

 

「ドリフトの相棒だと言えば伝わるか?」

 

それだけ答えると呆れを含む表情で息を小さく漏らし、何かを追い払う様に右手を下から上に軽く振るう。すると、ロビンの腕にズシリとした重みが加わる。

 

気付くと少年の上体を支える格好で抱いていた。何処から現れたのか分からない見覚えの無い少年だが、衣服は以前リィナが着用していたモノだとロビンは気付く。

 

「ソレはくれてやる。妾には必要無いモノだからな。…クザン、お主の同行を認める。」

 

クザンは訝しげに方眉を上げリィナの姿をした者の言葉の真意を読み取ろうとしているが殺気は放ち続けている。

 

未だ事態に思考が追い付かないロビンは狼狽しつつも、腕の中に突然現れた少年とリィナの姿をした者、クザンへ目線をキョロキョロと移しつつ口を開くが言葉が出てこない。

 

「さて、妾は(いとま)にさせてもらう。判らぬ事はソレに聞くがよい。ではな。」

 

リィナの姿をした者はロビンを一瞥し、言うや否や、殺気を放っていたクザンと共に忽然と姿が消えてしまう。それはまるでリィナが能力を使い転移する時の様に忽然と。

 

取り残されたロビンはただ呆然と既に誰も居ない場所を眺め、ふと我に返り腕の中で眠る少年へと視線を落とす。

 

リィナの衣服を身に着けた意識の無い少年。髪色は黒くルフィよりも少し長い。顔立ちは青年と呼ぶには幼く、中性的だが男の子だと認識は出来る。年の程は十四、五才位だろうか。

 

「……一体、何なの?」

 

その場を静寂が包む中、少し離れた海岸から断続的に聞こえていた爆発音が止み一際大きな歓声が上がる。

 

恐らく、デービーバックファイト三回戦の決着が着いたのだろう。

 

それを感じ取ったのかビクンと身体を震わせて少年は身動ぎし、ロビンはそれを固唾をのみ見守る。

 

んぅ…と苦しそうな吐息を漏らした少年はゆっくりと瞼を開き、眩しそうに眼を細め眉を寄せ唇を数度開閉する。

 

少年は何やら言葉を発しているのだろうが声が掠れ、ロビンは上手く聞き取る事が出来ない。

 

そもそも、突然現れた少年が誰なのか判らないままなのだ。

 

「…ごめんなさい。あなたが何を言っているのか判らないわ。それにあなたが誰なのか私は知らないの。まず、落ち着いてからあなたが誰なのか教えてもらえる?」

 

少年は先程よりも眼をすぼめロビンの言葉を必死に理解しようと考えているようだ。それから目を閉じ二度、三度と大きく深呼吸してから意を決して再び口を開いた。

 

「私…は、リィナ、だよ。…姉さん。」

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

目視範囲約4、5kmは地球の大きさを基準にしたものなのでワンピースの世界に当てはまるか微妙ですね…

転生TSからの再びTS化。
これは要所で伏線ありました。一話からTSタグ入れなかったのも「後で男に戻るから要らないかな」と思ったからです。すいませんでした。

あらすじを簡素にしているのもそこら辺が関係してるので次の話を投稿したら書き換える予定です。

本来はもっと完結に男に戻るはずだったのにここまで書くのに長く時間がかかってしまい反省しています。

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