その島の港町 モックタウン。
そこは多くの海賊や荒くれ者が集う為
、日夜争いの絶えない平和とはほど遠い町…だった。
今や閑散とした大通りや、静寂を占める様々な店内はかつてのモックタウンとは思えない程の様変わりを果たしていた。
ある者はコソコソと物陰に隠れながら目的地へ、ある者はキョロキョロと周囲を警戒しながら裏通りを歩み、殆どの者は極力外出しないという始末。
ほんの数日前までの怒声や悲鳴、破壊音などの鳴り止まぬ喧騒に塗れた無法地帯に何が起こったのか…
事の発端は麦わら一味…なのだが、全ての元凶だと断定するには酷な話である。
麦わら海賊団船長 モンキー・D・ルフィ、海賊狩り ロロノア・ゾロ、偶像 リィナの三名による突発的な蹂躙にて『ハイエナのべラミー』『処刑人 ルシオ』他、名うての海賊団が敗れて数日、町は荒れに荒れた。
モックタウンにおける筆頭支配者だったべラミー海賊団、次いで実力のあるルシオ海賊団、その他有力な海賊団があっさりと敗北し傷を負っていたのだ。
今まで強者の影に怯え隠れ町の端で細々と生計を立てていた弱小海賊団達がここぞとばかりに決起したのは言うまでも無い。
それでもべラミー、ルシオなどは動ける船員を使い、モックタウンを支配しようと襲い来る海賊団を撃破していった。
モックタウンの支配者として、強者としての意地と誇りを掲げて争乱を収め、確固たる格を見せ付けたのも束の間……王下七武海の一人 ドフラミンゴが現れた。
ドフラミンゴに対し、実力差も顧みず数の有利を唱い打って出たルシオ海賊団やその他有象無象の海賊団は奮闘空しく失意のまま血の華を咲かせ散ったのは当然の結果なのだろう。
残されたドフラミンゴの傘下であるべラミー海賊団は何をしていたのか。
答えるならば“何も出来なかった”という一言で済む。
ドフラミンゴの悪魔の実による能力で船長であるべラミーも含め船員らも全員、指先一つ動かせずに立ち尽くすのみだったのだ。
ドフラミンゴによる虐殺とも言える所業を目の当たりにし、べラミー海賊団の面々はただただ恐怖に支配された。
降りかかる火の粉を容易く払い終えたドフラミンゴは動けないべラミー一味を『麦わら一味に敗北した』という表向きな理由で粛清し、モックタウンの支配者だったべラミー海賊団は事実上の消滅と相成った。
そんな経緯でドフラミンゴが拠点へ帰した後、勢力的にも精神的にも疲弊した中小海賊団の生き残りは再起する元気も無く細々と生活を続けるだけとなり、モックタウンは寂れた街へと変貌したのだった。
※ ※ ※ ※
そんなモックタウンのとある酒場から出てきた青年は我慢出来ないと言った風にニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべている。
人の居ない大通りのカフェテラスで待ち合わせていた女性と合流しても表情は変わらない。むしろ、より喜色の濃い笑みへと深みが増した。
「あら?その顔は予想以上に上手くいったって感じね?」
女性-転生者 フライトは青年の顔色を見て似た種類の笑みを浮かべで問う。
「あぁ、バッチリだぜ!俺らの能力で強化した弾も渡してきた。フヒヒッ…しっかし、ラフィットの面ぁサイコーだったぜ?原作で胡散臭い余裕面してんのが嘘みてぇに顔真っ赤にして怒り狂ってやがんのっ!!」
青年-転生者 ロードは酒場内での事柄を思い出し、堪えきれないと腹を抱えて笑だす。そんなロードを尻目にフライトは溜め息を一つ。
「…あんたも大概、良い性格してるわねぇ。わざわざこんなトコまできたんだし、ちょっとは楽しんでも良いんでしょーけど。…で?これで用も済んだし帰る?」
フライトの溜め息は呆れ半分、もう半分は己も似た様なモノだという自覚から来る自虐だ。
「いやいや、フライトさん?俺らは名目上デートでここに来てんだぜぇ?たまたま酒場で会った黒ひげ一味と少~し会話しただけ。このまま帰る訳にはいかないでしょぉー。それに…」
大仰に両腕を広げ身振り手振りでモックタウンを訪れた理由を事細かに語りだすロード。
フライトはもう一つ溜め息を吐き、テラスのテーブルに突っ伏せて聞き流す。
ロードとフライトの二名がモックタウンに来た理由を纏めると、黒ひげ一味にロロノア・リィナの排除を仄めかす為だ。
自分たちで直接手を掛けてしまえれば楽なのだが、それでは
以前、ロードがアラバスタでリィナに手を出し厳重注意を受けている。次、勝手に動けば注意では済まないだろう。
フライトとしてはロードがどうなろうと知った事では無いのだが、自らが片棒を担いだ事実は隠蔽したいのだ。何せリーダーを怒らせると結果が恐ろしいと本能で理解しているのだから。
なので、自分たちは直接手を掛けずに『原作の誰か』をリィナの排除に向かわせる画策をしていた。
それが未だモックタウンに在留している黒ひげ一味だっただけの話である。
単純な理由としては、リィナを殺す動機だ。
リィナがティーチを殺した犯人だと教えるだけで『船長の
その為にはリィナが犯人であるという証拠を黒ひげ一味へ提示しなければならないが、ロードの能力があれば簡単だ。
悪魔の実『メモメモの実』の能力。
人物や場所の
その効果は情報としてだけの
酒場での過去の出来事、今回は黒ひげと麦わら一味の邂逅、そしてその結末を自身の能力で“
消息不明になっていた
後は、ロードとフライト二名の能力で強化した一発の銃弾を渡し、その強化内容を伝え、
※ ※ ※ ※
そして、酒場を出たロードはフライトと合流したという訳だ。
この一件、ロロノア・リィナの排除に直接関わる訳ではないのでセーフなのか…いや、アウトだろう。
フライトはそう理解しつつもリーダーへの『言い訳』の為、ロードとデートでモックタウンに訪れた演出をしなければならない。
黒ひげ一味は自発的にリィナへの報復へ向かったのであり、自分たちは関係無い…と。
苦しい言い訳ではあるが、『黒ひげ一味と会った』という真実は詳らかにし、関与は否定すれば言い訳としてギリギリ成り立つ。
最悪、ロードの独断専行だという事にすれば良いとまで考えている。だからロード一人で黒ひげ一味の元へ向かわせたのだから。
「はいはい、じゃあどっかでショッピングでもしましょーか。勿論、『デート』なんだからアンタが買ってくれんのよね?」
一部だけ言葉を強調し、高い品物を強請ろうと企み含み笑いをロードへと向けるフライト。
「あ?まぁ、今は気分が良いし構わねぇよ。ちょっとお高いディナーの後で『デザートはわ・た・し』なんてのも可!」
「…いっぺん死ね。」
フライトは半眼でロードを睨みつつ自身の悪魔の実 『ソウソウの実』の能力を使い、予備動作無しにロードを上空十メートル程まで急上昇させ、瞬時に急降下させる。その際、錐揉み回転を加えることも忘れない。
木材で組まれた大通りの通路を容易く粉砕しロードを埋没させてしまった。
しかし、ロードは何事も無かったかのように身を起こし、自身の足で歩きテラスの席へ戻ってくる。
「ったく。冗談の通じねぇ奴だな。オメェの“操作する能力”と俺の“再現する能力”は反発すれば相性が悪い。でも、協力すりゃあ相性抜群…だろ?きっと夜の相性も抜群なんだけどなぁ!」
「…デート中に下ネタとか言うサイテー男なんてこっちから願い下げなんですけど!」
「…ん?ちゃんとデートっつー認識はあるんだな。これが俗に言うツンデレってやつかっ!」
自分の失言を指摘され顔を赤くするフライトだが無駄に言葉を重ねて失言を増やす訳にはいかないと、口を噤みつつ気を落ち着かせる。その間もロードはヘラヘラと嬉しそうに嫌らしい笑顔でフライトを見ている。
今回は引き下がるがいつか目に物見せてやる、と眼で訴えつつフライトは能力で宙へ舞い上がり、ロードを操作して自分と同じ様に宙へ浮かせる。
「さっさと買い物して帰るわよ!」
「…はいよ。」
その日、モックタウンの上空を超スピードで飛行するUMAが現れたという噂が広がっていたとかいないとか…
読んでいただきありがとうございます。
仕事でも私生活でもゴタゴタが多く全く手付かずでした。申し訳ないです。
更に、PCの調子も良く無いのでスマホで書いてますが全く捗らない…
次回の投稿ではもう少し早く、もう少し文字数を多く出来るようにします。