解かり難い描写があると思いますがご了承下さい。
空を飛ぶマクシムの甲板で対峙するルフィとエネル。
ルフィは中層遺跡に集まった際、リィナからエネルの目的を聞きいている。空島を青海へ墜とそうとしていること、大鐘楼の存在が知られれば奪われること。
それを阻止したいと訴えるリィナに反対する理由はなかった。
ジャヤでティーチという大男を屈伏させる姿と威圧感に少しの恐怖を感じたにも関わらず、自身の知らない未知の力を使い熟すリィナに僅かな憧れを抱いてしまったのだ。
そのリィナが空島を守ると言った以上、墜ちることは無いと絶対的な信頼をおいている。
大鐘楼を奪われる訳にはいかない。それだけが今のルフィを突き動かす行動原理になっている。
モンブラン・クリケット…猿山連合に鐘の音を届けてみせる。『黄金郷』はあったぞと、空島は存在するんだと、俺たちは無事だぞと。
「お前が私の相手か?…小娘の時のような遅れはとらんぞ!」
エネルは両手で構える棍棒に過度な電圧を掛け、電熱を用いて
「貴様ら青海人には雷が効かない者が存在しているようだが、効かんとわかればそれなりの戦い方はあるのだ。」
エネルの持つ黄金のトライデントには常に過電圧が掛けられ数百度という熱を帯びている。次いで、三叉の槍である形状はルフィの弱点でもある刺突を主体とする武器だ。
刺突と電熱、この二つの特性を持った武器はルフィにとって厄介な得物なのだ。
「私は
「神なら何でも思い通りになると思ってんのか!!」
言い様にルフィは右腕を伸ばし殴りかかる。
エネルは自身に物理的攻撃は効かないと高をくくり、ルフィの拳が自身の体をすり抜けた瞬間にトライデントで反撃しようと待ち構える。
しかし、自身の腹部にめり込んだ拳による激痛と己の能力が無効化した混乱で、地に伏す現状を受け止められずにいる。
「ハァ、ハァ…あの小娘といい、貴様といい…一体何だと言うのだ。」
「俺はルフィ。ゴム人間で海賊王になる男だ。リィナはよく分からねぇけど、ウチの
「…カイゾク王?それはどこの王様だ?貴様よりあの小娘の方が風格があったぞ。」
「海賊王は世界の偉大な海の王だ!今はリィナの方が強ぇけど絶対超えてみせるさ。だから、お前なんかに俺が負ける訳にはいかねぇんだ!」
「ヤハハハ…ご立派だな。決着を付けようじゃないか。…
エネルより突き出されたトライデントがルフィを襲うが、避け様に転回して伸ばした足が回し蹴りを放つ。
エネルは左腕でそれを防ぎ右手に持つトライデントを幾度と振るう。
まずは躱し、次いで薙ごうとするが高熱を帯びたトライデントにルフィは思わず悲鳴を上げる。
エネルは
「ヤハハハハハ!高電熱のスピアだ。躱さぬと灼かれるぞ!それに斬撃が弱点のようだなぁ!!」
「くそぅ、あの動きを読むやつ何とかならねぇかな。…あそこだ!」
身を翻しエネルへ背を向け黄金の壁へと向かうルフィ。その黄金の壁に手足を伸ばし幾重にも連なる殴打と蹴りを打ち込む。
エネルにはそれが
今なら背後からトライデントで串刺しに出来ると考え、エネルはルフィを追い掛ける。何故なら『意志を持つ攻撃』は
だが、エネルの思惑とは裏腹に黄金の壁からの『跳弾』が幾つも直撃し、視界と思考が数瞬機能を止めてしまう。
僅かな慢心が生み出した大きな隙を見逃さずルフィはエネルへ向き直し、勝負に打って出る。
「今だっ!“ゴムゴムのバズーカ”!!」
ゴムの張力を活かし、後方へ伸ばした腕を引き戻した勢いのまま両手で打ち付ける。
数m後方より引き戻す際の腕の加速度とルフィの絶妙な加重移動による両手の掌打は凄まじい衝撃を生み出す。
あまりの衝撃に吐血し膝を着くエネルへの追撃を緩めず再び右腕を後方へ伸ばした。
伸ばした腕に音を立てる程捻りを加える。ゴムの特性に従い限界まで捻った腕は形状を戻そうと回転をしながら引き戻される。
「“ゴムゴムの
名に違わぬ回転する右拳はエネルの鳩尾を突き上げ、その衝撃でエネルは黄金の壁へと跳ね飛ばされる。
勝敗は決した。そう思える状況ながらもエネルは意識は繋ぎ留めていた。身体は上手く動かないが何とか乱れた呼吸を整え壁伝いに上半身を起こす。
「…これしきの、ことで…貴様を、今貴様を…封じれば。…再び、誰もが…私に怯え、崇め…奉る!我は、全能なる神である!!不可能などありはしない!!!…見てみろ、ゴム人間。堕つ島の絶望を!……っ?!」
ルフィと対峙し周囲の確認に気をまわす余裕のなかったエネルは気付けずにいたのだ。マクシムは雷雲を吐き出せどその雷雲内に雷を落とす程のエネルギーが留まっていない事実に。
スカイピアの住民は一斉に避難を始めてはいる。しかし、未だ実害の無い雷雲に大きな混乱は見られず、皆落ち着いて避難していることをエネルは察知する。
「なぜだ?!あれだけの雷雲だぞ!…チッ、あの小娘か?」
「どうやってんのかは知らねぇけど…ウチの
ルフィは純粋に仲間を自慢しニシシと笑う。その言動はエネルにとって挑発としか呼べないものであった。
「…ふん。マクシムの出力を上げ、私自ら雷化すればどうとでもなる。」
既にある程度息を整え、僅かだが体力の回復したエネルはマクシムの出力を上げようと黄金の壁に放電する。
「っ?!させねぇ!」
ルフィはエネルの行動を阻止しようと咄嗟に右腕を伸ばし殴りかかる。
しかし、それを予見していたエネルは厭らしい笑みを浮かべる。
「“
黄金の壁に放電しマクシムへの電力供給をしようと見せ掛けて、ルフィの動きを封じることが真の目的だったようだ。
不測の事態に殴り掛かる腕を戻せないルフィは策に嵌まり右腕に大きな黄金の球体を取り付けられてしまった。
「っ?!あっ熱ぃいっ!何を…あ?抜け、抜けねぇ!!外せこの野郎!!!」
「ヤハハハ。なにも貴様と勝負する必要など無いのだ。邪魔立て出来ぬ様にすれば良いだけのこと。この金塊は貴様の善戦を讃えくれてやる。…さらばだ、青海のゴム人間。」
エネルはルフィをマクシムから落とそうと腕にはまる球体を思い切り蹴り転がす。
球体に巻き込まれ共に転がるルフィは何とか船の外枠に掴まるが、球体は船外へ落ちてしまいこのまま片腕で支え続けるのは困難な状態だ。
「…しぶとい奴だ。貴様らの居ない地で私は神として再臨させてもらう。墜ちろ、空島と共に!」
外枠を掴むルフィの腕を蹴り飛ばしマクシムから落下させ踵を返す。
一先ずはこれでいい。そう安堵するが自身の
「…なんだ?船の近くにまだ声があるだと?!」
※ ※ ※ ※
なぜそんな場所に居るのか。それは勿論、リィナからの助言に依るものだった。
『エネルはゴム人間であるルフィさんを排除しようと船から突き落とすはず。その時はロビンさんの能力でルフィさんを再び船に戻して下さい。』
眼下にマクシムを望むこの場所ならばハナハナの実の能力で腕を幾重にも伸ばしルフィを引き上げる事が出来ると考えたのだ。
マクシムの船底と
「うはっ!サンキュー、ロビン!!」
「うっ…この重さは、かなり堪える。少ししか保たないわ!早く上がって頂戴!!」
「おう!ちょっと待ってろ!!」
右腕にはまる金塊を少し持ち上げ、下ろし、また少し持ち上げ、下ろす。ビヨンビヨンとバネの要領で金塊の振り幅は次第に大きくなり、ロビンの咲かせた腕も次第に軋みの声を上げる。
「いいか!いくぞぉ!!」
「ぐっ…いいわよ!」
ルフィが金塊を持ち上げるタイミングに合わせてロビンも咲かせた腕を引き上げる。
それは例えるなら巨大な二段構えのパチンコだ。
勢いよくロビンの腕に持ち上げられたルフィが、反動による勢いを更につけ金塊を持ち上げる。持ち上げられた金塊は重力に逆らいグングン上昇しマクシムまでをも追い越す。
「エーネールゥー!!」
空中で金塊を蹴り自分だけをマクシムへ方向転換し着地を成功させ、再びエネルへと向き直り声を上げる。
「喰らえぇ!!」
※ ※ ※ ※
ゾロは神の社のある上層からマクシムへと飛び降りた。
リィナからの助言に基づき
「よぉ、ウチの船長が戻るまで相手してくれや。」
マクシムへと降り立ったゾロは白い柄に手を掛け、獣のような野生的な瞳でエネルを見据える。
「…どいつもこいつも。私の邪魔ばかり。」
「ん?いや、逆だぜ。俺たちにとってはてめぇの方が邪魔だ。…ご託は良いからさっさとやろう。」
ゾロは言いながら白い柄の刀 『海楼』を右手に抜き構える。エネルはトライデントを再び構える事に辟易する。
雷撃を仕掛けるか、とエネルは思案するが目の前の剣士にも通じない可能性を警戒する。
相手は剣士。刀による斬撃は自身には無効だと知りつつも警戒は弱めない。
しかし、効かない斬撃をわざわざ雷化して避ける事は
『
腰を深く落としてからの踏み込みで一気に距離を詰めるのはゾロだ。
海楼石と同じ効果のある刀を試す絶好の機会だと逆袈裟斬りを仕掛ける。エネルのトライデントに阻まれるもすぐさま刀を逆手に持ち変えてからトライデントを薙ぎ払い、その勢いを利用し横に一回転する。次いで回転の反動を用いて袈裟斬りで強襲するもトライデントで受け流される。
エネルはトライデントで刀を受け流した際に感電した様子がない事から、目の前の剣士にも雷が通用しないと理解し眉をひそめる。
「ふぅ、やっぱその『
一瞬の攻防ではあるが自身の攻撃が先読みされ防がれている事に苛立ちを隠せない様子のゾロ。
気を引き締め左手で赤い柄の刀 『境界』を逆手に持ち構え直す。エネルに向かい右半身を開いて腰を落とし、左腕を伸ばし『境界』を正面に、右手で『海楼』を引き絞り突きの姿勢で構える。
それは弓を引く姿勢にも見えるが些か不格好である。
再び踏み込み距離を詰めると、左右の手に持つ刀で上下からの挟撃を仕掛けるが弾かれる。それを皮切りにゾロは幾度となく刀を振るう。
斬撃を躱されたと判断した瞬間には身体を捻り左、下、更に右、上と間髪入れずに斬り込み、トライデントで防がれようとも暇を与えぬ乱撃を繰り返しては防がれ、躱される。
身軽にアクロバティックな体捌きで動き回るエネルへとゾロは怯む事無く果敢に攻め入る。左右からの交差する挟撃をバク転で躱したエネルの死角を突き、再び弓を引く様な不格好な構えをとる。
今までよりも一層力強く踏み込み、一瞬でエネルへと肉薄すると『海楼』で『境界』の峰を突き、跳ね上げる。左手首を支点に下方から半円を描く
エネルは腹部を貫通する刀に驚愕するも力が抜け落ちる感覚に陥り困惑を隠せない。
刀による攻撃は自身には通じない、という慢心がエネルを三度目の窮地に追いやる。
『ゴロゴロの実』の能力者であるエネルは
だからこそ慢心を捨て切る事が出来なかった。
リィナに、ルフィに、そしてゾロに膝を着かされようと、未だその慢心は捨てる事が出来ない。それが己の拠り所であるが故に。
「ガフッ…何故、雷である俺に…こんなものが?!」
「…能力者の力を奪う海楼石ってのを知ってるか?それと同じ効果のある特別製の刀なんだとよ。」
「…成る程、力が入らん。」
エネルは未だに腹部を貫通する『海楼』の効果で立つ事も刀を抜く事も出来ずにいる。
ゾロはエネルを見下ろして考える。『境界』でエネルの首を刎ねれば終わりだと。しかし、剣士としての矜持がそれを許さなかった。
エネルの腹部から生える白い柄を掴むと一気に引き抜く。過程でエネルの絶叫が耳元で響くが気には留めない。
「今日は刀に頼るしか出来ない己の未熟さを痛感する日だな…大剣豪は遠い。」
「…何故、とどめを刺さない?絶好の機会だったろうに…」
みすみす好機を逃したゾロへ不敵な笑みを浮かべてエネルは問うが、当人はあっけらかんとマクシムの下方に指を差す。
「船長が戻るまでって言っただろ。」
その言葉にエネルは下方から目を見張る速度でこちらに近付く声を察知する。
「エーネールゥー!!」
一度マクシムを通り過ぎたと思えば、それは巨大な黄金の球体を蹴り、その反動で船に降り立つ。
※ ※ ※ ※
「喰らえぇ!!」
マクシムへと一足先に降り立ったルフィは右腕を引き寄せ、自由落下を始めようとする金塊をエネル目掛けて振り抜く。
ルフィの目にはエネルしか入っておらず、傍らのゾロは急ぎ船から離脱する。
それは完全に奇襲、不意打ちではあるがエネルはそれを回避することが出来た筈だった。しかし、回避しなかったのだ。
「っ?!二億
自身を雷化し、マクシムから吐き出される雷雲から雷を吸収する事で巨大な雷神へと容姿を変化させ金塊を受け止め弾こうとする。
己の目指す
そして、己の身を賭し受け止めた金塊を弾くには至らず、逆にマクシムから弾き飛ばされその身は宙を舞う。
「…ぐぁっ!」
「これで!終わりだぁ!!ゴムゴムのぉ…黄金
エネルを弾き飛ばし横方向へと伸びた金塊に捻りを加え、自らもマクシムから飛び降り宙を舞うエネルへと振り下ろす。
重力に逆らわず更に加速され振り下ろされた金塊は、エネルを捕らえたまま中層遺跡の大地にめり込み、ガラガラと辺りの遺跡が崩れ落ちる程の衝撃をもたらす。
暫し周辺の遺跡崩落が続き、巻き上がる砂塵が収まる頃にその場に立つ人影が息を荒げて雄叫びを上げた。
※ ※ ※ ※
マクシムの動力が底を尽き、吐き出す雷雲を止める。一旦、空中で静止したかと思うとそのまま重力に従い落下していく。
それはつまりルフィさんエネルを倒したという事である。
しかし、そこで私は疑問に思う。大鐘楼の音が鳴り響いていないのだ。
もしかすると、原作改変の余波で大鐘楼が発見されていないのかも知れない。
マクシムの高度が
私は同化を解除すると同時に境界内に留めていた雷雲を霧散させてゾロの下へ転移する。
「…何やってるんですか?」
「何って一応生死の確認を…って、オイッ!いきなり現れんなよ…」
驚くゾロを他所にロビンさんはクスクスと笑っている。
「皆息はあるみたいだから、後で治療をしやすい様に一カ所に集めてるのよ。」
ロビンさんはハナハナの能力でいくつも手を生やして怪我人を運んでいるようだ。
「一度ルフィさんの下へ向かいましょう。その後、皆さんとも合流します。」
ここの怪我人はエネルの率いていた神兵達なのでおそらく雲流しの刑になるのだろうが、一応二人と共に神兵の処置を済ませてルフィさんの下へ転移する。
ルフィさんは必死に金塊から右腕を抜こうと試行錯誤しているところだったので、私の能力で金塊をインゴットへと分解し、再構築する。純度の高いインゴットがこれだけあればナミさんも喜ぶだろう。
辛うじて息のあるエネルに“
「では、一度船に戻って皆さんを連れて来ます。少し待ってて下さい。」
三人が頷くのを確認してインゴットと一緒に船へと転移する。
ナミさんは突然現れたインゴットに歓喜する一方で、ウソップさんは私を恐れる様に一歩も二歩も引いた位置に居て話し掛けてすら来ない。
エネルに対して覇気で脅し過ぎたのが原因だと理解しつつも、こればかりは少し落ち込んでしまう。
そんな私を見かねてか、サンジさんは普段の様に飲み物はいかがかと微笑んでくれた。
チョッパーくんは医者としてガン・フォールの怪我の具合を診察し、看病しているそうだ。
ガン・フォールへ元部下である神隊の所在を知らせると、すぐピエールに乗り飛び去ってしまった。六年もの間、それだけ心配していたという事なのだろう。
コニスとパガヤ親子とは初対面なので軽く挨拶を交わし、これから
船に残った皆で中層遺跡へと再び転移し今後の計画を進言するが他に案も無く、ルフィさんからの早く鐘を鳴らしたいという気配を受け、早速行動へ移すことにした。
※ ※ ※ ※
能力で一味全員と大鐘楼を下層遺跡へと移動させると皆が息をのんで大鐘楼を見上げる。かく言う私もその悠然と佇む存在感に圧倒されている。
「…では、行ってきますね。“
いくらでも眺めていられそうなものだが、このままでは一向に話が進まないと 思い直し言葉に出す。
私はスカイピア全域と同化し、スカイピアの住人やシャンディア、果ては森の動物たちまでも同調し支配下へと置く。
今はまだ指示を出していないので各々は自由に動き話す事も出来る状態だ。勿論、麦わら一味は除外している。
まず、森の動物たちへと指示を出す。
『サウスバードたちは大きく鳴きながら
雲ウルフたちはその場で良いから大きく吠えて。
ジュララ、あなたは出来るだけ頭を高く上げて大きく鳴いて。』
それぞれに指示を出すと途端に
サウスバードの鳴き声が響き、雲ウルフの遠吠えは島全体を大きく包む。
ジュララの声は離島から離れたスカイピア住人の下まで届く程だ。
その異変に住人たちが気付くまでそう時間は要しなかった。
先程までのエネルによる雷雲の恐怖が抜けきらぬ間に、
『天上に住まう全ての者たちよ。私はシャンドラの灯に宿る大地の神。…400年の時を得て、再び大地へと根付く私の福音を聞き届けなさい。』
私の言葉を直接脳内へ届け、それを大地の神の言葉だと錯覚させる。
動物たちの行動は神の降臨を演出する一部だ。
「野郎共ぉ!鳴らせぇ!!」
そして、それが一味の皆への合図となり、ルフィさんが指揮を取り鐘を鳴らす為の鎖を引く。
カラァ…ン カラァ…ン
カラァ…ン カラァ…ン
カラァ…ン カラァ…ン
カラァ…ン カラァ…ン
合わせてサウスバードが大きな鳴き声を上げ空を旋回し、雲ウルフは島全体からの大合唱が始まる。
ここで能力を用いてスカイピア全域に降り注ぐ太陽光を
更に大鐘楼を据えた下層遺跡を地響きを伴わせてせり上げ、巨大樹の森よりも一段高くする。
さながら、大鐘楼のライトアップステージだ。こうする事でスカイピア全域からの視線を集め、より神掛かった演出効果をもたらす。
『今一度告げる。私はシャンドラの灯に宿る大地の神。
誇り高きシャンディアの戦士たちよ、既に
空に生まれし全ての者よ、この大地は誰の物でもない。森羅万象…この世の全てに真の意味での支配者など存在しないと心せよ。
此度は青海の戦士たちによる助力で再びシャンドラの火を灯せた事を嬉しく思う。
空の者よ鐘の下へ集いなさい。青海の者たちと交流し、強き心と優しき想いに触れてみると良い。
この世界で生きとし生ける全ての者に幸多からんことを祈る…』
次いでスカイピア全域との同化も解き一味と合流する。
「ふぅ、慣れないことすると緊張しますね。…ん?皆さん、どうしました?」
大鐘楼の土台に腰を掛けたナミさんの呆れた様な半目が私を待ち構えていた。
「…あんた、どっかの教祖様にでもなれそうね。」
そう言われても困るのだが…私は苦笑いを返してゾロ、サンジさん、ロビンさんに視線を巡らせるが皆似た様な感情を視線に乗せて私を見ている。
「…わかってますよ。ちゃんと説明しますって。でも、その前に…」
そして先程から気になっている後ろを振り返ると、ルフィさんとウソップさん、チョッパーくんが蹲っている。…いや、私を崇めていると言った方が正しいか。
「「「神様、仏様、リィナ様…」」」
「…それ止めて下さい。神様に成りきって空島の争いを止めさせると説明したじゃないですか?」
「いやぁ、だって地面もゴゴゴゥってなって、パァっと明るくなって…なぁ?」
「あぁ、ありゃ誰がどう見ても神様の仕業だとしか考えられねぇ…」
ルフィさんとウソップさんは向き合い何度も頷きながらその驚きを身振り手振りで表している。
光に関しては、
せり上げた地面にしても、島雲に乗っている
能力を扱う側と見る側とでの意識の差異があるのは理解出来ていたつもりだが、認識を更に改めなければならないと頭を痛くなる。
心の中で大きく息を吐き出し、間もなく集まるだろう空の住民たちの対応についても話さなくては、と気持ちを切り替えた。
※ ※ ※ ※
「…と、いう訳です。掻い摘まんでの話なので、詳細は後程お話しますから今はそれで納得してください。」
皆を見渡すが、一様に首を捻りウーンと困惑顔で思考を巡らせている。
「どっかの世界から生まれ変わって…」
「どっかの神様から恩恵を受けて…」
「未来予知的な情報があって…」
「破格の悪魔の実とハキって力持ってて…」
「そんなのが全部で七人も居て…」
「リィナもその内の一人で…」
「…理解が追い付かない。」
各々思う事はあるだろうが、やはり突拍子の無さ過ぎる転生の話に理解が及んでいない様だ。
しかし、
「申し訳ないですが、そろそろ沢山の人たちがここへ押し寄せます。皆の大好きな宴で歓迎しましょう!」
「…よし、宴だぁ!!」
悩むのは性に合わないのだろう。すぐに気を切り替えてルフィさんは立ち上がるとどこかへ走り去ってしまった。
ゾロとウソップさんはルフィさんが何をする気か見当がついているようですぐに追い掛けて行く。
私は船から調理器具や森にある神官達の食糧庫から食材を転移させ、サンジさんを筆頭にナミさんとロビンさん、チョッパーくんと共に宴料理の下拵えを進める。
大きな気配と多数の人々の気配がすぐ近くまで近付いているのでそちらを振り向くとシャンディアたちとジュララの姿を確認出来た。
「ジュララ、良い子にしてた?シャンディアの皆さんもようこそ。今から宴を催しますので参加して下さいね。」
私に頬擦りするジュララの口もとを撫でながら、先頭を歩く酋長へ微笑み言葉を掛ける。
ナミさんとチョッパーくんはジュララを見て驚き、サンジさんとロビンさんの後ろに隠れてこちらを心配そうに覗いている。
するといきなり酋長が片膝を着いて跪き、後ろに続くシャンディアたちも同じ様に跪いた。
「我等が窮地をお救い下さった地母神 ヘカテー様に感謝を捧げます。」
『捧げます!』
「……はい?へかてー?」
酋長から原作知識に無い行動と言葉が出てきたので私はとても混乱してしまう。
能力で神の真似事をしたがあくまで真似事だ。そもそも、あれが私だと特定されてしまっては架空の神の演出として失敗ではないだろうか…
それに初対面でこういった事をされてもどう対応すれば良いのか分からない。
原作ではエネルを倒した後、スカイピア住民やシャンディアたちとの宴を催し、スカイピア住民とシャンディアの和解、
「シャンディアに古くから伝わる言い伝えで、遥か昔の偉大な
「…いえ、私はただの青海人です。そんな大それたものじゃないですよ。いきなりそんな事言われても分からないですし…」
私はシャンディアから向けられる期待に満ちた視線にたじろいでしまい後ずさりしてしまう。すると、私のすぐ後ろまで近付いていたチョッパーくんに声を掛けられる。
「なぁ、リィナ。動物たちが神様って言ってたのなんとなく理解出来てるんだ。おれは『ヒトヒトの実』で人間トナカイになったからすぐにはピンとこなかったけど、リィナが悪魔の実の能力を使った時に言葉じゃなくて動物の本能に直接訴えかける何かを感じたぞ。
たぶんだけど、リィナが神様だってのは本当だと思う。」
チョッパーくんの言葉に私は空いた口が塞がらない。一体何だというのだ。ここ数日の間に色んな事態に陥り過ぎてやしないか…
アラバスタで自身が転生者だと知らされ、ジャヤでも
「そちらの方が言われます通り、地母神とは大地に生きる者の神です。野生の生物は本能でその威光を感じ取ってしまうのでしょう。詳しくは存じませんが、伝承では『ポセイドン』の対を成す世界には重要な存在であるとだけ…」
『ポセイドン』という言葉が耳に入り、反射的に振り向く。ロビンさんは目が合うと私を見詰めたまま訝しげに首を捻っている。まだ空島の
「すいません!話はまた後で聞きますから宴の準備を進めていて下さいっ!!」
走って数秒程度の距離にある大鐘楼の下へ到着し、土台に刻み込まれた
「…神の名を持つ古代兵器…『ポセイドン』のありか。…その対を成す存在であるなら、つまり『へカテー』も
「酋長さんは私を『へカテー』だと呼んでました。おそらく古代兵器だという部分は知らず、単純に神様の名だという伝承なのでしょうが…あ、その右下の方も読んで下さい。」
私は原作知識で知り得ているので驚きはしないが、ロビンさんは目を白黒させている。
「かの海賊王がここを訪れた時に刻み込んだようです。ガン・フォールとは仲が良かったそうですよ。」
「…それも未来予知的な何かなのかしら?」
「えぇ、空島限定で教えてもらった情報ですが。…あの、古代兵器ってなんですか?何か知ってますか?」
ロビンさんは問いに目を閉じ、右手を顎に乗せ暫し考え込む。私はただ静かに待っていることしか出来ずにいる。
「リィナさんが本当に神『へカテー』なのだとしたら、二通りの解釈が出来ると思うわ。」
「二つの…解釈?」
「えぇ。一つ目は神『へカテー』自身が兵器だったという解釈。つまり、リィナさん自身が兵器と呼ばれる存在であるということ。
二つ目は、神『へカテー』の名を模して作られたなんらかの兵器が存在するということ。これについてはリィナさんが『へカテー』だとしても無関係ね。
この
まず、前提が可笑しいのだ。私が『へカテー』だという確証も無いのだから。
動物に崇められたり、過去の予言であったりと信憑性が無いのでそう易々と信じる訳にはいかない。
「…あなたが一味に加入した時、航海士さんが言ってたわね。悪魔の実の能力じゃなくて神様の実の能力だって。あながち神様だって話は的外れでもなのかもしれないわよ?」
そう言ってロビンさんは悪戯な笑みを浮かべるが今の私にとっては追い討ちだ。転生者である事を皆に伝えたばかりなのに、更に神様でしたなどと冗談にも程がある。
転生したということは
「この先の航海で
たしかジャヤからは比較的近いはずだ。シャボンディ諸島から海中に進むと聞いた記憶がある。しかし、比較的近いというだけで、シャボンディ諸島まではまだまだ遠い道のりだ。
「それまでは鬱屈とした気持ちで進むんですか…いえ、確証が無い分私はまだ認めた訳ではありません。」
気を取り直すため頭を左右に振り、大きく呼吸を繰り返す。
改めて遺跡の広場の方へ目を向けるといつの間にか多くの人々が集まっている。ルフィさんたちが組んだであろうキャンプファイヤーの組み木も昨日より大きい。
「ロビンさん、ありがとうございます。一人だと訳が分からないままだったと思います。これからもよろしくお願いします。」
「…えぇ、こちらこそ。」
小さく頷き微笑むロビンさんだったが、その表情はどこか悲しそうな、寂しそうな笑みで少しだけ罪悪感を覚えてしまった。彼女の生い立ちを少しだけ知る者としてはその胸中を軽々しく考えることなど出来ない。
これからの航海で彼女が少しでも自然な笑みを浮かべられるようになればと小さな願いを込めて、その手を引き私は皆の下へ向かうのだった。
読んでいただきありがとうございます。
前回の後書きで、次回空島編は終わりますと書きましたがほんの少し続きます。申し訳ありません。
フォクシー編を捻じ込むために少し構成を変えたらこうなってしまいました。
もしかすると、来週の投稿に合わせて今回の投稿を大きく編集するかもしれません。
主人公の神様説ですが、神話に詳しくないので名前はこれでいいのか初期からの悩みです。
誤字脱字、タグについてのご指摘は大変ありがたいです。自分で気付く時は良いのですが、なぜか気付けないので助かります。