姓はロロノア 名はリィナ   作:ぽんDAリング

12 / 27
前話の後書きで週一ペースで投稿したいと書いたにも関わらず投稿が遅くなりました。

進行は遅く未だ空島編の中盤です。


12 ・思惑と改変

マリンフォード 海軍本部 中将執務室

 

中年の男性将校はソファーに座して待っている。対面のソファーへ未だ現れない待ち人へ不満を募らせる事は無い。

待つ事に慣れている彼にとって数時間など誤差の範囲でしかないのだ。

 

予め対面のソファーへ貼り付けているステッカーは待ち人が訪れる為の目印だ。

それと同じ位置へ突然スーツ姿の男性が現れるが、特段驚いたりはしない。

 

「遅くなってすまない。」

 

そう言いはするが頭を下げることは無い。目上の者に対する敬意の欠けた態度だが、互いに気にする素振りはしない。

 

「いや、面倒な頼み事を引き受けてくれたんだ。助かったよ、シールくん。僕としてはもう少し時間が掛かると思ってたからね。予想より早かったくらいさ。」

 

朗らかに受け答えするドリフトに対しシールは大きなため息を漏らした。

 

「聞き及んだ以上に期待できそうで楽しみではあるが…ドリフトさん、あの娘はまだ不安定だ。記憶が欠落している為だろうが、自身の力をまるで理解していない。やはりあなたが出向き説明すべきだと私は感じたのだが?」

 

「確かに僕が全てを伝えればリィナくんも少しは考え直してくれるだろうね。だけど、まだ『しらほし』と出会っていないから時期尚早だ。それまでは情報を小出しにするべきなのさ。

それに彼女は転生から二年しか経っていない。まだ子供なのだから身体的、精神的にも未発達なのは仕方が無いことだよ。僕たちのように達観していないのは当然だろう。」

 

転生者集団(チーム)は当然、皆が転生者である為、互いに対等な立場であるとリーダーであるドリフトは提唱している。前世での記憶が引き継がれているので、現在の年齢や性別、立場などは重要では無いということだ。

 

だが、その言葉とは裏腹に、実際はドリフトを除く者達が対等なだけなのだと皆一様に知っている。

何故かドリフトは原作知識では知り得ない『転生者の情報』すら知り得ているのだ。そんなドリフトを対等と呼べるだろうか。それに対してシールは前々からの疑念を深める。

 

「なぜ今ではいけないのか理解し兼ねるな。私たちには碌な説明も無く事を運ぼうなど対等な立場が聞いて呆れる。」

 

「その時が来たら説明すると以前にも言ったはずだよ。それで納得してくれていたじゃないか。

なに、二年程度あっという間だよ。麦わら一味が新世界へと進めば僕らの計画開始だ。」

 

シールは険しい表情でドリフトを見詰めるが、当人は軽く笑みを浮かべ悠々と受け流している。

 

無言のまま数十秒の時間が流れ、それを打ち切るかの如く執務室の扉が荒々しく開かれた。

その時点でシールの姿は無く、室内にはドリフトがソファーに座っているだけだった。

 

「ドリフトおるかぁ?」

 

「ガープさん、入室の際はノックをといつも言ってますよね?」

 

「男が細かい事を気にするなっ!」

 

ドリフトの苦言をブワッハッハと豪快に笑い飛ばしガープは対面のソファーへ腰を下ろそうとする。

 

「ん?なんじゃこりゃ?」

 

高級なソファーに貼り付けてある不釣り合いなステッカーを部屋の主に許可も無く剥がし、丸めてゴミ箱へと投げ入れた。

そしてドカッと腰を下ろし、事も無げに口を開く。

 

「リィナがジャヤで確認されたそうじゃ。どうする?」

 

「えぇ、部下の部隊が向かったのですが、既にジャヤには不在だと報告を受けてますよ。今は空の島へ飛んだと。」

 

「なんと!突き上げる海流(ノックアップストリーム)でか!?やるのぅ!…で、追うか?」

 

「どうも出来ないでしょう。順路で追うとなると時間が掛かります。降りを待つにしてもどのルート(・・・・・)で降りてくるか分からないので現状は待機です。」

 

ウム、と顎に手を添え悩む仕草のガープと静かに微笑むドリフト。

その後も二人で元部下リィナと海賊団麦わら一味についての会話を続けるのだった。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

探索組のルフィ、ゾロ、チョッパーは数名の神兵に遭遇し、散開した後に追ってくる者を各個撃破する為にそれぞれが行動に出た。

 

「…おいおい。」

 

その過程で困惑気味に呟いたのはゾロだった。原因は足下に転がる息絶えた神兵である。

 

二人の神兵が追って来ることを確認したゾロは木々の開けた場所で迎え撃とうと巨大樹の森を走った。だがウェイバーの一種であるシューターを自在に繰り迫る神兵は斬撃貝(アックスダイアル)の攻撃を交えながらゾロへと肉薄する。

 

走り続けながらの攻防は難しいと踏んだゾロは襲い来る神兵の斬撃貝(アックスダイアル)を躱し様に刀で斬り伏せたのだが、選んだ刀が災いした。

 

妹から念のためと持たされた赤い柄の刀を試そうと抜いたのだが、あまりにも斬れ過ぎた(・・・・・)のだ。

まるで豆腐にでも刃を立てた様に、抵抗も無く神兵を二つに裂断してしまった。

 

本来ならば致命傷とまではいかない程度の加減をしたつもりのゾロはその事に言葉が上手く出なかった。

 

『斬り過ぎるから注意して』という言葉は正に額面通りの意味であった、と二つに分かれた神兵が体現している。

 

その様子を理解出来ないまま呆然と立ち尽くすもう一人の神兵に声を掛ける。

 

「興味で抜いた刀を使って殺めちまったのは本望じゃねぇが、それでも生き死にを賭けた勝負だ。文句は言わせねぇぞ。」

 

「…我々は(ゴッド)・エネルに仕える神兵。もとより命を賭ける所存だ!メェ~!!」

 

ゾロの言葉で我に返り自らの使命を遂行しようと声を張り上げ構える神兵。

 

相対する青海人 ゾロと神兵自身の実力差はとうに理解出来ている。

命乞いをすればそのままゾロは去り、今すぐ逃げ出せばゾロは追ってはこない。それも理解出来ていた。

 

しかし、それが出来ないでいたのはここで命を繋ぎ止めたとしても、使命を全う出来なかった罪でエネルに裁かれるという恐怖からだった。

 

「…てめぇの事情は知らねぇが、手加減はしてやれねぇぞ。」

 

半身を開き腰を落として右手の平を前方へ構える神兵。対するゾロは腰に下げた刀の柄に右手を掛け自然体に構える。

 

踏み込み無しの状態からシューターに依る推進力を用いて迫る神兵を、ゾロは息を深く吐き一拍待つ。自らの呼吸と相手の呼吸を重ね感じ取る。既に眼前へと迫る神兵の右手の平をかわす猶予すら無い。

 

「メェ~!!」

 

「…獅子歌歌(ししソンソン)!」

 

キィン、と抜刀と納刀の金属音が重なり聞こえる程の一瞬。

ゾロと神兵は交差し、先程とは立ち位置が逆になり互いに背を向けて立っている。

 

「…ぐふっ!」

 

「命まではとらねぇ。そこで寝てな…」

 

勝てぬと知りながらも挑んだ神兵に対する敬意を払い、居合いの一太刀で戦闘不能にするゾロ。

 

その心境は、『呼吸』を会得し扱いの慣れを体感した歓喜と、神兵に根付く恐怖への興味で占めていた。

 

「…エネルってのはそんなに強ぇのか。」

 

妹からの情報を思い出しつつ腰に下げた三本の刀の内、白い柄を掴む。

 

「一丁やってみてぇな…」

 

そう呟き目的地の遺跡を目指して歩を進めるが反対の方向へと突き進むゾロだった。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

予定していた人数を変更し、精鋭のみを選抜して神の島(アッパーヤード)へと侵攻しているシャンディア達。

 

リーダーであるワイパーを先頭に左右後方へ隊列を組み、神兵を引き寄せ撃破してゆく。

 

紐の試練 シュラを打ち倒した後も少数で神兵を相手取っているため疲労が溜まっている様に見える。

 

「ここで少し休む。負傷したやつは治療を、各々装備の確認をしとけ。どれだけの神兵がいるか分からねぇ。周囲の警戒は怠るなよ。」

 

巨大樹の枝に留まり休憩の指示を出すワイパー。しかし、当人はシューターを使い跳び回って周囲の哨戒を継続している。

 

打ち倒した神兵の数は既に30を超えて負傷が目立つ者、武器が心許ない者、疲労が色濃く出る者など、皆余裕が無くなってきている。

 

リーダーであるワイパーは先頭に立ち戦い、排撃貝(リジェクトダイアル)も一度使用しているので他の者よりも負傷、疲労が激しい。

 

「…あいつらは必ずやってくれる!俺がこんなところで倒れる訳にはいかねぇんだ!!」

 

仲間へ、そして自身にそう言い聞かせて今にも倒れそうな精神と肉体を奮い立たせているのだ。

 

ふと、哨戒途中で見覚えのある麦わら帽子を発見し地面へと降り立ち話し掛ける。

 

「…おい、こんなところで何やってる?」

 

「ん?お前昨日のやつか。…あ、リィナが言ってたのってお前達か?」

 

「あぁ、そうだ。俺たちシャンディアは神兵達を受け持つ。お前達はさっさとエネルの待つ神の社へ行け!」

 

このままでは自身も仲間もそれ程長くは保たないと自覚し少しの焦りを覚えているワイパー。

 

目の前の麦わら帽子たちには早く先へ進んでもらわなければならないのだと掻き立てられる。

 

「今向かってんだ。じゃあな!」

 

「…そっちは逆だ。」

 

目の前の男は道に迷いこんな場所に居るのだとワイパーは悟る。呆れつつ湧き上がる疲労と憤慨を抑えこみ大きく息を吐いた。

 

「俺が連れて行ってやる。背中に乗れ。」

 

ルフィを背中に乗せ、一旦仲間の下へ戻り巨大な豆蔓(ジャイアントジャック)へと向かう事を伝える。

 

それぞれの隊列は崩さず警戒しながら進み、神兵を見付け次第迎撃するよう指示を出しシューターで駆け出す。

 

「…見た通り俺たちシャンディアは満身創痍だ。昨日のリィナって女の言葉を信じてお前達に賭けるしかない。…だから、頼んだぞ!」

 

「なんか知んねぇけど任された!エネルってやつをぶっ飛ばす!!」

 

ワイパーは巨大樹の森を縦横無尽に駆け回り目的地への最短距離を突き進む。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

原作の通りチョッパーくんはゲダツを倒して海賊としての心構えを新たに、力強さを秘めた顔付きをしている。

 

「チョッパーくん!」

 

「あ、リィナ!…なんでここにいるんだ?」

 

私は脱出組として船に乗っていたはずなので、当然の疑問だろう。

 

「船の方はもう大丈夫そうだからチョッパーくんの雄姿を見に来たの。格好良かったよ!」

 

「そ、そうか?バッキャロー!おれは海賊だからな!当然だろうオメェ!!」

 

小躍りしながら罵倒する様は初対面の時に経験済みなので、それが嬉しい時の照れ隠しなのだと知っている。

 

「ふふ。目的の黄金はこの上だよ。一緒に上ろうか?」

 

巨大な豆蔓(ジャイアントジャック)を指差して進行を促しつつチョッパーくんを抱き上げ二分化した意識を回収する。

 

私は靴底に境界線を形成し階段を上る様に空中を登る。宙を歩くという奇天烈な行動に驚愕と感嘆の声を上げるチョッパーくん。

 

「能力で靴底に境界線を張ればこうやって宙を歩けるんだよ。海の上も歩けるけど、ぼーっとしてたら船に轢かれるから注意しなきゃね。」

 

「そもそも海の上なんて歩けねぇよっ!」

 

経験に基づいた注意を促すが冷静にツッコまれてしまう。

 

「そういえばルフィとゾロ、はぐれたままだ。もう先に行ってんのかな?」

 

原作ではルフィさんはジュララのお腹の中、ゾロは弁当を狙ったサウスバードに連れられて遺跡へ来るのだが…

 

四人で順調に遺跡まで辿り着けると高をくくっていたが見通しが甘かったようだ。

 

「…きっと二人はもうすぐ来るよ。ロビンさんは遺跡探索に夢中で遅れそうだけど。だから、上で待っていよう。ね?」

 

いざという時は能力で転移すれば良いと考えそのまま鉄の試練 オームの待ち構える遺跡を目指し、巨大な豆蔓(ジャイアントジャック)の中層に架かる島雲を突き抜けて遺跡群へと到達する。

 

島雲を抜けて少し傾いた地面へと進むと、遺跡の中心部から大きな犬が駆け寄ってくる気配とソレを追う一人の気配を覇気で察知する。

 

オームとホーリーだと分かっているのでチョッパーくんを下ろし身構えて待つがどうも様子がおかしい。

 

「“待て”ホーリー!“待て”だ!…“待て”って言ってんだろうがぁ!!」

 

飼い主の制止を聞かず勢い良く尻尾を振り乱しこちらへ駆け寄ってくるホーリーと、制止を聞かない飼い犬を必死に追い掛けるオームが視界へ入る。

 

私は原作とは違う出来事に更に警戒を強め、チョッパーくんは走り寄るホーリーに恐怖し私の後ろへ隠れる。

 

私たちの眼前まで来ると急停止し『おすわり』して私をじっと見詰めてくるホーリー。その後から息を切らせてオームが走り寄る。

 

「ホーリー…一体、どうした?…む、貴様ら…青海人か。」

 

私は警戒を緩めず頷き、オームに息を整えるよう勧める。その間もホーリーは『おすわり』したまま尻尾を振り乱し、私から目を離さない。

 

「後から来る兄があなたの相手をしますので、私たちは待たせてもらいますね?」

 

「ふぅ、何を言うかと思えば…俺の名はオーム。ここは生く術なし、哀しみの求道。生存率0%“鉄の試練”だ。はいどうぞ、と見逃す訳なかろう!」

 

オームはサングラスをかけ直し刀を抜いた。柄に鉄雲の(ダイアル)を仕込んだ物だと原作知識があるので対処は容易い。

私も柄に手を掛けオームへ応える。

 

「仕方ないですが兄が来るまでは相手してあげます。…ところで、この犬はどうします?」

 

「ふ、(ブリーダー)に反するなど言語道断。諸共“鉄の試練”の餌食となるがいいさ。」

 

冷酷に飼い犬(ホーリー)へと言い放つが当のホーリーは変わらず私の傍から離れない。

 

「…あなたが育てた犬でしょうに。チョッパーくん、ホーリーと一緒に下がって絶対に動かないでね?」

 

「わかった!」

 

チョッパーくんがホーリーと共に建物の陰へと移動したのを見計らい私も刀を抜く。

 

「さて、生存率0%が崩される時です。少し遊んであげます。」

 

「ふん、貴様も仕込み刀か。」

 

オームは私の無刃の刀を見て自身の刀と似た物だと勘違いしている。だが、だからこそ警戒したのだろう。互いに距離をとっての戦法のはずだと思い込み最初の一撃に勝負を賭ける。

 

オームが刀を振るうと鉄雲は瞬時に伸び、鞭の様にしなって襲い掛かるが私は小細工などせず一太刀で薙ぎ払う。

 

「剣士としての弱点を補える遠距離からの斬撃。良い戦法ですが、その程度の速さなら簡単に対処出来ます。」

 

ならば、とオームは刀を振り乱し鉄雲を幾重にも生み出す。鞭の様にしなる刃の波状攻撃へと切り替えたようだ。

 

しかし、それらが私へ届く前に全てを切り落とす。私へ届く刃が既に無いとオームは悟り、再び無限に伸びる刃を幾重にも増やし、また伸ばして前後左右上下の全方向から斬撃を休む間も無く繰り出す。

 

だがその全てを私の迎撃範囲に入った瞬間に無刃の刀で切り落とす。私に触れること無く切り落とされた鉄雲の欠片は霧散し宙を漂う。

 

「無限に伸び、鞭の様にしなる刃だと分かってさえいれば対処は容易い。それに欠伸の出そうな遅さですからなおさらです。まだやりますか?」

 

「…青海には貴様の様な剣士が多く存在するのか?」

 

奥歯を噛み締め静かに問うオームに私は淡々と事実を告げる。

 

「私くらいの剣士は星の数程います。私以上の剣士も沢山存在します。

あなたの剣は弱者をいたぶり弄ぶだけの児戯です。空島に格上が居なかっただけで自身は強いと錯覚し驕り高ぶっていただけ。

それが理解出来たのなら下ばかり見ていた自身を恥じて、剣士としての高みを見上げてはどうでしょうか。」

 

柄にも無く偉そうに剣士として説いてしまったが、私自身への言葉でもあると言い聞かせる。

 

「チョッパーくん!ホーリー!出て来て良いよ!!」

 

オームの戦意は失せているのでこれ以上の戦闘は不要であると判断し、刀を鞘に戻してから避難している一人?と一匹を呼ぶ。

 

再び私の前に『おすわり』するホーリーに話し掛ける。

 

「オームはあなたの育ての親でしょ?それなのにあなたが私に懐いちゃうからオームは拗ねて悲しんでるの。親は大切にしなきゃダメ!ちゃんと仲直りしてね。分かった?」

 

ホーリーはワン!と鳴きオームの下へ駆け寄り、顔をペロッと舐め『伏せ』をする。オームは厳つい顔を緩め顎下から首下までを撫でている。

 

仲直り出来たようで私は安堵の息を漏らしチョッパーくんを抱き上げる。あちらがナデナデしているのを見て少し羨ましくなり、こちらはモフモフで対抗しているのだ。

 

そうして少しの間だけ互いに癒しを堪能していると、下層から巨大な豆蔓(ジャイアントジャック)を登り上がってくる気配と空を真っ直ぐにこちらへ向かってくる気配を二つ察知する。

 

不思議に思いながら巨大な豆蔓(ジャイアントジャック)へ駆け寄ると、島雲を巻き上げて遺跡に着地したのはルフィさんとワイパーだった。

迷子になっていたルフィさんをワイパーが背負い連れて来てくれたらしい。下層の森で神兵を引き付けてくれていたことに感謝すると自分達に出来る事をしているだけだという言葉が返ってくる。

 

そして徐々に近付く気配を見上げていると巨大なサウスバードの足に掴まったゾロが見えた。

 

森で迷い出発地点である生贄の祭壇まで戻ってしまったゾロをサウスバードが運んでくれたそうだ。サウスバードに感謝を伝えると律儀に一礼をして飛び立って行く。

ゾロから刀についての苦情が飛び出すが事前に注意したはずなので聞き入れるつもりは無く聞き流す。

 

「…なぁ、何でリィナがここに居んだ?」

 

もっともな疑問をルフィさんは口に出すが私は大きな溜め息を吐き答える。

 

「ゾロとルフィさんがチョッパーくんからはぐれて迷子になってるのを察知してこちらへ加勢に来たんです。チョッパーくんは下層の遺跡で待ち構える神官を一人倒したんですよ?

それなのに二人は森で迷子だなんて情けない…」

 

少し大袈裟に嘆き二人を煽ると、誰に対する対抗心なのか血気盛んに声を張り上げている。原作ではこの中層遺跡に集まった面々で生き残りの乱闘が巻き起こっていたはずなのだが、現在は穏やかな雰囲気が流れている。

 

しかし、ロビンさんが居るであろう下層遺跡でエネルが動けば一変するはずだ。エネルの生き残り予想人数は五人だったはず。現在八人と一匹。己のエゴで人数合わせのため暴挙に出る可能性は残っているのだ。

 

「青海人の剣士よ。俺が高みを見据える為に手合わせを願いたい。」

 

「おう、空島で一番の剣士たぁ都合がいい。」

 

私が思考を深めている間にゾロとオームの勝負が決まっていて、私たちから少し離れた場所へ移動し始めた。ふと気付きワイパーへシャンディアの動向を尋ねると、下層の森を哨戒して神兵を討っていると答える。

 

神の島(アッパーヤード)に留まっては危険なのでシャンディアには離島で待機してもらうようにワイパーへ頼み、エネルの位置を探る。下層の遺跡に一人、上層に一人の気配は察知出来ることからエネルはまだロビンさんとは接触していないようだ。

 

「チョッパーくん、この先はエネルが残ってるだけだと思うから一旦船に戻っててくれるかな?」

 

「え?まだ黄金を見付けてないぞ?」

 

「ごめんね。あとでちゃんと説明するから今は言うことを聞いて。エネルを倒したら皆を呼ぶから。」

 

それだけ言いチョッパーくんをメリー号へ転移させ、ゾロとオームの勝負の行方を確認するとゾロの防戦一方になっている。あれくらいは簡単に捌けると思っていたのだが、存外に鉄雲の特性に苦戦しているようだ。

ルフィさんはゾロが勝つと信頼しているのか遺跡に座りサンジさんに作ってもらっていた弁当を食べている。

 

何はともあれ、これでゾロが勝った後オームと共にホーリーを神の島(アッパーヤード)外に転移させれば残りは丁度五人になり、敵はエネルのみだ。

 

ルフィさんにエネルの相手をしてもらっている間に私はマクシムによる『デスピア』の阻止へ向かうように計画している。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

結論から言うとゾロとオームの勝負は原作通りゾロの辛勝だった。

 

オームは剣士としての心構えを一新し、驕る事無く勝負に務めている分原作よりも隙の無い戦い方をしていた。

ホーリーは待機させ純粋に剣技での勝負だ。

 

対するゾロは遠距離からの鉄雲による猛攻に苦戦を強いられるが、戦いの中で『呼吸』を掴み赤い柄の刀を用いて切り落とすことで形勢は逆転。

愛刀 和道一文字から飛ぶ斬撃『百八煩悩鳳(ポンドほう)』を放ちオームを討ち倒した。

 

「…ちくしょう。刀に頼る戦いをしちまった。」

 

鉄雲を対処する過程で己の剣の腕の未熟さを痛感し呟くゾロ。私は敢えて厳しく言い放つ。

 

「相手に先手を取られて勝機を見失うなうようじゃまだまだよ。ゾロの本領は剣技の応酬でしょ?どんな相手であろうと懐に入り込む為の戦い方をしないと。

因みに、私はオームの戦意が折れるまであれを切り落とし続けました。」

 

ゾロはぐぅの音も出ないと声を殺し拳を強く握り締める。

 

「でも、最後の飛ぶ斬撃は良かったかな。近付けない相手や遠距離からの攻撃への対処も予め考えていたのは自分の強さを過信していないってことだし。

利点や有用性を考えると重宝する技だね。」

 

自身よりも格上の相手には懐に入り込む事が困難になる。そんな時に遠距離からの攻撃で隙を突く、若しくは隙を作る為には有効なのだ。

遠く離れた狙撃手や物陰に潜む斥候に対しても牽制、或いは迎撃として有効である。

 

ゾロが常に高みを目指す剣士として驕らず研磨していることは伺える。

 

辛辣な駄目出しの後に良点には賞賛を贈る。典型的な飴と鞭ではあるが人が成長するには必要な事である。

 

ゾロとの会話を早々に切り上げ、倒れ伏したオームをホーリーの背に乗せて別の島雲へ転移する。

 

これで神の島(アッパーヤード)には私、ゾロ、ルフィさん、ロビンさん、エネルの五人だ。下層に神兵が残っているかもしれないがそこまでは面倒見切れないので気にしない。

 

「ルフィさんは体力の温存が出来てるようなのでエネルの相手は任せますね。私は空島への被害が出ない様に動きます。」

 

「やっとか!任せろ!!」

 

道中で無駄な体力を消費せず、サンジさんの特製弁当を食べて満足気なルフィさんは元気溌剌といった風に準備運動を始めている。

 

それと、遺跡探索をお楽しみ中のロビンさんには悪いが一旦こちらへ転移させる。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

「…へぇ、そんなことになってるのね。」

 

ロビンさんへ簡単な説明を済ませ、ルフィさんがエネルと対戦中に為べきサポートをゾロとロビンさんへ頼む。

ルフィさんはいつでも良いぞと私を一瞥して上層に気を向けている。

 

勿論、ワイパーが下層へ降りてから今現在までの間は中層遺跡一帯の境界線をずらして状況を把握出来ない様にしてある。

 

エネルは急に心の声が聞こえなくなったと感じ違和感を覚えるだろうが、『ゴロゴロの実』の能力で拡張された『心網(マントラ)』で私の話を盗み聞きされない為には必要な対策である。

 

なので、私の能力を解除し、エネルに私たち四人の存在を認識させ降りて来させる。

 

「さて、聞こえてますよね?あなたの予想通り五人になりました。さっさと降りて来て下さい。それとも私たちがマクシムまで行きましょうか?」

 

能力を解除し、敢えて挑発を言葉にすることでこちらへ来ざるを得ない状況を作り出す。

 

バリッと音が聞こえた時には目の前にエネルが現れていて皆が驚く。

 

「…なぜ青海人である貴様がマクシムを知っている?」

 

「あなた方でいう『心網(マントラ)』ですよ。青海では覇気と言いますが…

もしかして、自分達だけが特別だと思っていたんですか?船であなたを抑えた威圧感。あれも覇気の一種です。あなたが扱えない力を私は扱える。それが現実です。あなたは神なんかではありません。」

 

「…後悔、させてやると言ったはずだ。既に準備は整っている。スカイピアの終焉を指をくわえて見ているが良い!!」

 

エネルは苦虫を噛み潰したように表情を歪め私たちを見渡し言い放つと再び雷化し目の前から消える。

 

「…先程話した手筈でお願いします。ルフィさん、行きますよ!」

 

ゾロとロビンさんへ目配せし、無言で頷いたのを確認してルフィさんと共にマクシムへと転移する。

 

「…やはり来たか、青海人。」

 

エネルは黄金の棍棒を携え私たちを待ち構えていたようだ。それに反応しルフィさんが一歩前に出て拳を構える。

 

「ルフィさん、後はお願いします。私は空島全域の守護にのみ徹しますので、何かあればゾロたちのサポートに頼って下さい。」

 

エネルをルフィさんへ任せて私は空島全域の空と同化する。

既にマクシムからは雷雲が吐き出され続けているので、能力で境界線を操り放電の規模を調整していく。

当初、マクシムを無力化してしまうことも考えたのだが、スカイピアの住民へエネルの危険性を問う為にマクシムには原作通り空を飛んでもらうことにしたのだ。

 

それと、一部分の境界線だけを解除して無人の島雲へ幾つかの雷を落とすことで雷雲内の帯電量を調節し、尚且つ恐怖の演出効果を持たせる。これでスカイピアの住民やシャンディアたちはエネルが空島ごと消し去ろうとしていることに気付くはずだ。

 

本来ならば多数の死傷者を出し、コニスたちが命懸けで臨む事態なのだが、それを無かった事にする。

私が中層遺跡へ着いた頃にメリー号へ訪れたコニスとパガヤの気配は未だメリー号から離れてはいないので思惑通りに進行しているはずだ。

 

原作では多大な負傷者を出すはずだったシャンディアの侵攻部隊は、昨夜の説得が功を奏して少しの負傷者だけで済んでいるはずだ。今はワイパーと共に一時避難場所の離島に帰還しているのは覇気で察知済みである。

 

スカイピアの住民も今は多少の混乱はあるだろうが、原作程の被害は出ていないので今後の生活に支障は出ないだろう。

ガン・フォールが神だった時に仕えていた神隊は原作通り後ほど救出されるはずだ。

 

今私がすべきことは雷雲の境界を操り空島の被害を極力抑えること。

そして、空島ですべきことは原作の結末を極力変えずに、過程で起こる被害を最小限の留めること。

 

シャンディアの悲願、カルガラの約束、ガン・フォールの苦悩、元神達の罪、大蛇(ウワバミ)の悲嘆、スカイピアの畏怖、他にも沢山の人のそれぞれの想いや願い。

原作で語られた筈の物語は私が知っている。書き換えてしまった物語の責任は私が背負う。あるはずだった悲哀も感動も憤怒も私が引き受けよう。

 

最後に大鐘楼が鳴り響き、感じるものは原作とは違うかもしれない。それでも、傷付くはずだった人たちが傷付かずに済むのならば後悔はしない。

私のやっていることは正しくはないのかもしれないが、間違っているとは思わない。

 

程よく皆が幸せになれる鐘の音が鳴り響く頃にその答えが見えるだろうとその時を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

先週末に私用で遠出していたため書き溜めが進まず投稿が遅れてしまいました。

次回空島編は終わりますが、私の勘違いでフォクシー海賊団の話を飛ばしてプロットを書いていた為、急遽話を練り上げております。

次回の投稿も少し遅れてしまう可能性があります。申し訳ありません。


それと、いつの間にかUAとお気に入りが増えていてびっくりしました。
大変嬉しいです。読んで下さった方々、お気に入りして下さった方々ありがとうございます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。