私は白海の範囲で大気と同化し、宙を漂いつつ思考に耽っている。
悪魔の実を扱う上で重要になってくることは、鮮明に
現に私の能力は、より鮮明で詳細な想像をすることで人智を超えた能力を駆使出来ている。
例えば、私の使用する刀は、刀身の部位にだけ能力で『境界線の固定』を施している。それは折れる事も欠ける事も無い『不壊の刀』を想像して作り出しているのだ。
但し、それは私の想像を具現化しただけに過ぎない。私が『勝てない』『無理だ』と諦め挫けてしまえば、それは能力にも反映されてしまう。なのでそう考えた時点で刀は折れ、欠けて使い物にはならないだろう。
何故こんな基本的な事を考えているかというと、新たな能力の活用を思い付いたからだ。
私は先程まで話をして男、シールの能力に似せて私自身の意識を『二分化』出来ないかと試している。何も分身しようとしているのでは無く、意識もしくは感覚だけを二分化しようと思っている。
例えば、二分化した私の意識をゾロに貼り付ければ、『意識だけの私』から『本体である私』への情報共有が出来るのではないかと考えたからだ。
ロビンさんの能力で例えると、他人の体に耳を生やして盗み聞きをする感じだ。
原作知識によると今夜は湖畔で一泊し、明朝に
探索組の一先ずの問題である
問題は脱出組の方へエネル、副神兵長ホトリとコトリの三人が訪れる点。原作ではサンジさんとウソップさんが早々に戦闘不能にされていた。
なので私は脱出組にて船と皆さんをエネルから守る役割を買って出るつもりだ。
その後、原作で
私の計画通りに話が通ればシャンディアは戦線に現れないかもしれない。
上手く事が運べばチョッパーくんは誰とも戦わずに済むかもしれない。
これからの私の行動次第でどの様に状況が変化するのか分からないのだ。
なので、二分化した意識を探索組に同行させ、船を離れるタイミングを計りたいと考えた。
エネルの撃退と副神兵長の迎撃を済ませれば、後に遭遇するであろうシャンディアと神兵はサンジさんとガン・フォールに任せられる。…都合良く進行すればの話だが。
なんにせよ、探索組に合流するタイミングを読むことと不測の事態が起こった場合に迅速に対応出来る様アンテナを張っておきたいというのが理由だ。
それに、能力の発現を成功させた後は空島での行動を画策し、更にその後の皆の鍛錬も考えなければいけない。
何故鍛錬が必要になるのか、納得のいく説明をしなければ不信感を与える事となり、この先の航海に支障をきたす可能性も出てくる。
素直に転生者だと明かしたところで説得出来る術を持たない私では疑念を深めるだけだろう。妄想癖のある可哀想な人と思われる可能性さえある。
やらなければならない事は多く、この場でばかり時間を費やす訳にはいかないと雑念を振り払い、思考の海に深く潜り込んだ。
※ ※ ※ ※
私が生け贄の祭壇へ移動すると船には誰もおらず、皆は既に湖畔の方へ移動してくつろいでいるようだ。鍛錬や考え事に集中し過ぎて想定以上に時間が過ぎてしまっていた。
「ジョ~!ジョ!ジョ~!!」
泣き声のする方へ振り向くとジョーが私に気付きこちらへ飛んでくるのが見えた。
青海で放すのを忘れていたため、白海で一度帰るように伝えたのだが、私に懐き同行することになったサウスバードのジョーである。
シールと話す為に船を下りる際付いて来ようとしたので、船で待つ様に言っておいたのだ。懐いて出迎えてくれるとは嬉しい限りなのだが…多数の巨大なサウスバードの群れを引き連れていることに驚愕を隠せないでいる。
足元に降り立ったジョーと正面に集い鳴き続けるサウスバードたち。私が眼前の大合唱に身動きも取れず固まっていることしか出来ずにいると、異変に気付いた一味の皆が駆け寄ってきてくれる。
私は合流が遅くなったことを皆に詫びてからチョッパーくんにサウスバードの翻訳を頼んだ。
すると、ジャヤのサウスバードたちと同様に『森の神』『感謝』などと鳴いているらしい。
ジャヤでもそうだったが、サウスバードは私に対して神と言っているようなのだ。それに関しては心当たりも無い為、困惑するしか無い。
なぜ私が神なのかと問うても、『本能で感じる』ということしか答えないので手詰まりである。
一先ずサウスバードたちに大合唱を止めてもらい、私が居ない間の話を聞くことにした。
話を聞く限りでは原作の通りに進行しているようだが、一カ所だけ小さな違いがあった。
紐の試練 シュラとの闘いに敗れたガン・フォールとチョッパーくん、ピエールを助けたのはサウスバードではあるのだが、ジョーが率いるサウスバードだったという。
原作ではガン・フォールを元神だと知る
この小さな蝶の羽ばたきはどこで竜巻に変化するのか、と少しだけ不安に感じてしまう。
しかし、原作知識は今回限りなのでこの先何が起ころうと自分に出来ることをやるしかないのだ。小さな不安はあってもそれにばかり気を取られる訳にはいかない。
ともあれ、仲間の為に動いてくれたジョーとサウスバードたちにお礼を告げて、皆と共に湖畔のキャンプへと向かう。
皆は既に食事を済ませていると聞き、私も特製シチューを頂こうと楽しみに歩を進める。
すると、キャンプファイヤーの組み木を前に雲ウルフの群れが腰を下ろして私たちを待っていた。
再びチョッパーくんの翻訳で話を聞くと、サウスバードたちと同様に私を神と称え崇めているようだ。サウスバードと雲ウルフに対して私は何をしたというのだろう…
流石に三度目ともなると考えることを放棄したくもなる。私はルフィさんに声を掛け、どうせなら鳥も獣も仲良くキャンプファイヤーに興じようと提案する。
すると瞬く間に男性陣が組み木に火をくべて宴会が催されはじめる。女性陣は大きな木の根に腰を掛け、私は食事をナミさんとロビンさんはお酒を思い思いに楽しんだ。
私が食事を終えるとそれを待っていたようにゾロが隣へ腰を下ろす。おそらくシールとのことで聞きたいことがあるのだろう。なにやらソワソワして落ち着かない様子の兄を見て私はおかしくて笑ってしまう。
「…なんだよ?」
「ねぇ、帰りが遅くて心配した?」
「…べつに心配なんてしてねぇよ。」
顔を背けて素知らぬ態度を取るが、以前と変わりない照れ隠しに嬉しさを感じてしまう。
「私は…ゾロと出会う前の記憶を知りたいと思っていたの。その為の手掛かりがシールって人の
「…記憶、か。」
「結局、記憶は忘れてるだけなのか、そもそも無いのか分からない。だけど私は私として、ロロノア・リィナとして今を生きてる。これからも生きていく。それだけ十分。だから記憶なんてもう良いの。」
二年より前の記憶や前世の記憶など有ろうが関係無いのだ。それでも私は『ONE PIECE』と似たこの世界で生きていくのだから。
「ゾロから貰った『リィナ』って名前は気に入ってる。ガンジお爺ちゃんが
お父さんでゾロがお兄さん、私が妹。大切で大好きな家族だよ。それはこれまでもこれからも変わらないから。」
「…くいな。俺の昔馴染みの名だ。あの時、咄嗟に呼んじまった。今さらだが、そんな安易な由来で名前決めさせちまって悪かったと思ってる。」
ゾロに保護された時に言っていた昔馴染みの名。私と顔立ちが似ているという子。詳しく聞いたことは無かったが、ゾロは私の名に小さな罪悪感を抱いていたらしい。
「…くいな…く、ぃな…りぃな。うん、良いんじゃない?私は気にしないよ。でも、昔の彼女が名付けの由来かぁ。ちょっとショック…」
「カッ?!ち、違げぇ!そんなんじゃねぇ!!」
少しばかりの悪戯に大袈裟な反応を示し慌てているゾロを見て私は笑ってしまう。
ゾロはそれで悪戯だと気付き、大きく息を吐き一気にお酒を煽る。
「…俺とくいな。どっちが先に世界一の剣豪になれるか勝負だ、って約束した矢先にあいつは事故で死んじまってな。それは今でも引き摺ってんのかもしれねぇ。
だが、約束だから、あいつの為にって訳じゃねぇ。俺は、俺の昔からの夢を叶えるために世界一の剣豪になると決めた。
だから、誰が相手でも負ける気は無ぇ。お前が相手でもな。」
そう言ってゾロは瞳に闘志を滾らせ不敵に私を見据える。その瞳に少しだけの安堵と僅かにも闘争心が沸き立つ。
くいなさんとの約束の為、なんて言ったら軽く軽蔑していただろう。死者との約束を言い訳に剣を振るうなど誰も幸せになんてなれない。
「…じゃあ、ゾロの三刀流と私の無刀。この先の航海でどっちが名を馳せるかって勝負をしよっか。 まぁ、剣士としてはゾロが上手でも賞金首としては私が一歩リードしてるけどね?」
「…いいぜ。その勝負乗った。妹だからって手は抜かねぇぞ。懸賞金なんてあっという間に追い抜いてやるさ。」
ここで新たな勝負を約束し二人で不敵に笑いあっているとガン・フォールが目を覚ましこちらへやって来る。
軽く挨拶を交わし皆の会話を眺めているのだがどうも違和感を覚えてしまう。
原作知識のせいで常に
これではストレスで胃に穴が開いてしまいそうだ。
なので皆の会話を聞くことに徹して、問い掛けには相槌や簡易な言葉を選ぶように心掛けた。
原作への抵抗は今為べきではない。一先ず皆が寝静まってからの行動をと言い聞かせる。
※ ※ ※ ※
皆で取り囲んでいたキャンプファイヤーの組み木も既に鎮火し、麦わら一味もサウスバード、雲ウルフらも安らかに寝息を立てている。
私は静かにテントを抜け出して森に木霊する木槌の音の下へと向かう。霧が深く微かに目視でメリー号を確認出来る場所まで移動し、目を凝らす。
本当に愛された船にのみ宿る妖精 クラバウターマン。原作ではウソップさんが視るはずなのだが、それよりも早い時間なので今は私一人だ。
伝説として語り継がれる妖精をこの目でを拝めるとは光栄である。一番の新入りである私が彼らの絆の邪魔をする訳にはいかないので、遠目に眺めてすぐに移動した。
移動した先は
こちらに気付いた巡回中の三人は各々がダイアルや武器を構えたので私は両手を挙げて敵意が無いことを示し用件を伝える。
「こんばんは、青海の者です。モンブラン・ノーランドのことで来たとワイパーさんに伝えて下さい。」
シャンディアの二人は私を警戒したまま残り、もう一人は疑問を浮かべた顔のまま走りだした。初対面の青海人がリーダーを名で呼び、見知らぬ者のことを伝えろと言うのだから戸惑うのも当然だろう。
幾分か経った頃、息を切らせ慌ただしく走るワイパーが現れた。シューターというウェイバーを着けていないところを見るに、余程気が動転しているのだろう。
「…青海人がっ…なんで!…ノー…ランドのぉ!!」
「まずは落ち着いて下さい。話はそれからにしましょう。」
息も絶え絶えのリーダーに戸惑いを隠せない見張りの二人を傍目に、能力で水を取り出しワイパーに渡す。少し怪訝そうに私を睨むが水を引ったくり一気に飲み干した。
「…なぜ青海人が俺の名を知ってる?なぜモンブラン・ノーランドの名を知っている?」
「せっかちな人ですね。もう一人?の来賓もそろそろ来ますのでまず自己紹介からしますね。
昼間あなたと交戦した麦わら帽子の人を船長とする、麦わら海賊団 船員のロロノア・リィナといいます。」
そうして私はモンブラン・ノーランドの子孫であるモンブラン・クリケットと青海での『うそつきノーランド』の話を掻い摘んで話した。そして、麦わら海賊団の目的である黄金の話に差し掛かろうというところで、丁度来賓の登場のようだ。
「ジュララララ・・・」
ズリズリ、ウネウネと巨大な身体をくねらせながら離島へと身を乗り上げる
「ジュララ、こっちだよ~!おいで~!!」
言葉が通じるか不安ではあったが大人しく話しを聞いてくれたのだ。二人とその仲間達は既に没していると話すと静かに涙を流し悲しむ素振りを見せた。そして、彼らの居る天の上まで聞こえるように再び大鐘楼を鳴らす、と話すと更に涙を流し喜ぶ仕草を表した。
原作通りカルガラとノーランドの約束を、大鐘楼の音を忘れずに今でも待っているのだ。
私は400年もの間待っているこの子は人々の闘争のせいで傷ついてほしくはないと、巻き込んではいけないと強く思ってしまう。
私の下へ首を伸ばし甘えてくるように擦り寄って来るものだから思わず撫でてしまうが、如何せん大きさが違いすぎるため一歩間違えれば押し潰されてしまいそうだ。
「この子はカルガラとノーランドが可愛がっていた
「…空の主が、大戦士 カルガラの?」
「ジュラララ・・・ジュララ・・・」
ワイパーを見て、言葉を聞いて思うところがあるのだろう。ジュララは静かに涙を流している。
それをみてワイパーは膝を着きジュララを見上げて奥歯を噛み締めて必死に涙を堪えているようだ。
「私たち麦わら海賊団の目的はエネルを倒し、
その後、麦わら一味は明日行動を起こすこと、エネルはゴロゴロの実の能力者だということ、ルフィさんと私はエネルに対応出来ることなどの説明を告げる。
私としては道中の神官を含めて相手にするので任せろと言いたいところだが、流石に400年間も続く抗争の決着を他人任せになどする気は無いだろう。そう思い至り自重する。
「俺たちには…シャンディアとしての誇りと使命がある。
「ありがとうございます。ですが、命は大事にして下さいね。くれぐれも
カルガラとノーランド、
「あなたたちの言う『
実際は原作知識なのだが、嘘も方便というやつだ。彼らからすると
「…とりあえず、俺たちは明朝
「わかりました。必ずシャンドラの火を灯すと約束します。それと、出来ればこの子と仲良くしてあげて下さい。意外と人懐っこいですよ。」
私はジュララの口元を撫で微笑むと嬉しそうに身体をくねらせる。
ワイパーは静かに首を縦に振り右手を差し出したので私も右手を差し出し握手を交わす。
「ジュララ、争いが始まったら森は危ないから入っちゃ駄目だよ。ちゃんとこの人たちの言う事を聞いて良い子にしててね。」
「ジュラ…ジュララ…」
大きな頭を何度も動かして肯く動作を表し、私に頬擦りしてくる。その光景を見てシャンディアたちは感嘆の声を上げる。
※ ※ ※ ※
皆は寝息を立てているはずなので静かにキャンプ地へと戻る。既に木槌を振るう音はやんでおり湖畔は静寂を纏っている。
私はメリー号の下へ歩を進め、継ぎ接ぎだらけの船体を眺めてからそっと撫でた。
ゴーイングメリー号はウソップさんの居たシロップ村からの航海を支えてくれた大事な仲間だと聞き及んでいる。
海賊船としては小さな船ではあるが、皆の大きな夢を乗せここまで運んでくれたのだと感謝しなければならない。
先日加入したばかりの私は短い付き合いでしかないが、一味の皆と同じように愛することは出来る。この先の航海を共にする楽しみに思いを馳せる。
「メリーくん、これからもよろしくね。」
見上げた船首の羊が微笑んだように見えたのはきっと見間違いではないだろう。
※ ※ ※ ※
翌朝、修繕されたメリー号を見て驚いている一味を他所に、私は一人で昨日の後片付けや冒険の準備に走り回る。
私が不在の間にキャンプの準備をして食事まで作ってくれていたのだ。片付けや準備くらいは朝飯前である。
大まかな準備も済み、地図を広げたナミさんからの指示を探索組、脱出組で受ける。探索組は原作通りルフィさん、ゾロ、ロビンさん、チョッパーくんの四人。脱出組はナミさん、ウソップさん、サンジさん、私、ガン・フォール&ピエールだ。
「…さて、二手に別れる前に昨夜私が伝え忘れていた事を発表します!」
さぁ、これから冒険だ!というところで引き止められた一同は呆れた顔で私を見ている。
「コホン…まず、シャンディアの人たち敵ではありません。私たちの邪魔はしないように説得済みなので会ったら挨拶くらいはして下さい。
それから、エネルはゴロゴロの実の能力者で、『雷人間』です。対処するのは『ゴム人間』であるルフィさんか私に任せて下さい。
最後に、黄金の大鐘楼は島中央にそびえ立つ
ナミさんの鬼の様な形相を見るのはこれで何度目だろうか。私は無抵抗のまま正座する事を余儀なくされる。
何故そんなことを知っているのかと問い質されるが、親切なシャンディアからの
情報だと誤魔化した。本当の事を明かす訳にはいかないので仕方ない。
「あ、それとゾロ。この前渡した予備の刀を持って来て。」
麦わら海賊団に加入した際、ゾロへの土産として渡した予備の特別製の刀を二振り、保険として持たせなければいけない。
「この白い柄の刀が刃の部分に海楼石と同じ効力を持たせた物。
こっちの赤い柄の刀は私の能力を付加させた物。勿論、境界線を操る方のね。あらゆる境界線を断絶する刀よ。使い手の意思に関係無く
「…どこでこんな物作ってんだよ。」
簡単に刀の用途を説明するとゾロは頭を抑え項垂れてしまった。
「私の無刃の刀を造る時に出来た副産物だけど、ゾロなら使えそうだったから持って来たの。」
深いため息を漏らし、腰の雪走と三代目 虎徹を船室へ置きに行くゾロは既に疲労感を漂わせていた。
「それとチョッパーくん。きみは船医なんだから無理して怪我なんかしないようにね?」
「うん、気を付ける。けど、いざという時は戦う。おれも海賊だから!」
チョッパーくんの意気込みは高いようで安心するが、原作ではオームで手酷くやられている。その前に合流しなくてはならない。
私は意識の一部を切り離しチョッパーくんと極僅かに同化させる。勿論、昨日新たに開発した能力だ。
意識だけを切り離しても全方向に意識が向かう為、注意散漫になってしまい見聞きする事が上手く出来ず使い物にならないのだ。つまり失敗である。
なので、切り離した意識をチョッパーくんと同化させ、チョッパーくんの視覚と聴覚を共有する方法にしたのだ。これだとチョッパーくんの視覚・聴覚範囲での事柄を察知出来る。
ゾロが船室から戻り、これ以上の横槍は無いかと皆が私に視線を集める。自業自得なため蔑みの視線は潔く受け取り、出発の合図をルフィさんへ促す。
「おーし!そんじゃ行っくぞぉ!!」
「「「「おぉー!!!」」」」
※ ※ ※ ※
現在メリー号は
ウソップさんは船長代理として舵を取っていて、私はなぜかピエールに懐かれている。今まで動物と触れ合う機会など無かったので分からなかったが、どうやら私は動物からは好かれる質のようだ。
ナミさんがガン・フォールの薬を船室へ取りに行き、サンジさんは船の片付けを終わらせる頃、ガン・フォールがスカイピアの歴史を語りだした。
400年前にスカイピアに打ち上げられた
当時のシャンディアは自然災害の被害者でしかない。そんな状況の中一人、また一人と侵略者に命を奪われ、最後には故郷さえ奪われたシャンディアたち。自分の家族や集落を守る為に、親友であるノーランドとの約束を違えぬよう故郷を守ろうと戦ったカルガラはどんな気持ちだったのだろう…
一族の無念を、悲願を語り受け継いできたシャンディアと、それを過去の事だと割り切り和平を築こうとした神 ガンフォール。それでも、歩み寄ろうとしたガン・フォールは正しいのだろうと思う。ワイパーにその真意は伝わらず争いは激化してしまったのが悔やまれるが。
一通りの歴史を語り終えたガンフォールにナミさんの黄金講座が開かれ、その後はガン・フォールの空の戦い方講座 様々な
私は話を聞きつつピエールと戯れていたが、常にチョッパーくんからの情報は確認している。
探索組はロビンさんが道を正しながら順調に進んでいるようだ。
本来ならジュララに襲われ分断される四人だが、ジュララは離島に避難させているのでその心配は無い。
原作では分断された後に交戦するはずだったシャンディアや神兵だが、ワイパーの指示なのか今は積極的に探索組を避けてくれているようで未だにシャンディアにも神兵にも接触していない。
ふと、サンジさんの口から
「青海ではそれを見聞色の覇気と言うんですよ。」
私はピエールと戯れつつこの機会を待っていたのだ。ガン・フォールの説明に便乗し、覇気の存在を知らせ興味を持たせることが出来れば、極々自然に会得の為の鍛錬を促すことになるからだ。
使えるかは個人の素質なので無駄になる可能性もあるのだがこの際関係ない。
「私は全ての覇気を使えますが、素質に依るらしいので皆が使える訳ではないそうです。
見聞色の覇気は普段よりも気配を強く察知する力のことで、相手の行動を先読みしたり、心や感情の動きを読み取ることも可能です。あと、広範囲での気配を察知出来ます。」
事も無げに説明する私と呆然とした表情で口を開けたままの四人。ピエールはピエ~と首を傾げている。
こんなはずではなかったと心の中で後悔しながら私は本日二度目の正座でナミさんからお説教を受けている。
「あんたはいつも説明が遅いの!大事な事は最初に言いなさい!!毎回毎回後出しで聞かされるこっちの身にもなり「ナミさん、後ろに来ます。」なさい…?」
ナミさんが困惑しながら振り返ると、バリッという音が耳に届くと同時に船の手摺りに腰掛ける半裸の男が現れる。
私は覇気で事前に察知出来たが、皆にとっては突然見知らぬ男が現れたように見えたのだろう。
ナミさんとウソップさんは酷く狼狽えていて冷静に相手から距離を取れずにいる。サンジさんは慌てる二人の盾になろうと一歩前に踏み出す。
「はじめまして、
私は立ち上がりながら刀を抜き、敵意が私へ向かうように敢えて挑発する。エネルの意識がこちらへ向いている間に二人が少し離れてくれれば良い。
「ヤハハハハ、そんなもので神を殺れるとでも?」
エネルは右手をゆっくり挙げ人差し指を私に向けると瞬時に放電し数百万ボルトはあろう雷が襲い掛かる。電気の性質に従い、雷は私の脳天から身体を通り、足から船体へ、そして
このときエネルは勝ち誇った顔をしていることだろうと考えると微かに笑みが零れる。
「…あれ?この程度ですか。」
エネルの放電は私を貫いたように見えるが、実際は体表面の僅か数ミリを滑り流れただけで私は無傷だ。自身の境界線をズラし私に害の無いように電気を流しただけなのだが、エネルにとっては
雷の効かない人間など初めての体験にエネルは目を見開き、大口を開け、鼻水を出して面白い顔で驚愕している。
そこに私は追い討ちとして覇王色の覇気を仕掛けるが、こちらも初めての経験だろう。存分に畏怖を感じてもらうべく最初は微弱に、除々に出力を高めていき気を失う寸前まで強めて発してゆく。
「雷は所詮自然災害、つまり天災です。あなた如きが神だったとしたら、私はあなたにとって何ですかねぇ…神災とでも言えばいいのでしょうか?」
膝を着き頭を垂れて何とか意識を保つエネルに言葉を投げ掛けるが返事は無い。思っていた以上に私の覇気が強かったのか、それともエネルが単に弱かったのか判断は出来ないが、これでは弱い者虐めのようで気分が良くない。すぐさま覇気をおさめ後ろに下がる。
「…っぐ。貴様、一体何者だ?」
「ただの青海人ですよ。」
「…すぐに後悔させてやる。」
それだけ言い残してエネルは雷化し姿を消した。おそらくマクシムへ向かったのだろう。
先ずエネルの撃退は済み、あとは副神兵長の迎撃だ。直に丸い双子がここへ訪れるはずなのでその前にサンジさんへ視線を向ける。
「あと二人来ます。速攻で終わらせましょう。」
サンジさんは煙草に火を付け頷く。ナミさんは何か言いたげに私から視線を離さないが、それは後でと目配せして私たちの後ろへ下がらせる。
「ほっほほーう!!」
「ほっほーう!!」
奇声を上げながら現れたのは丸い顔と胴体の双子、ホトリとコトリ。
こちらは皆無傷のままエネルを追い返したが、やはり大まかな流れは原作通りに進むようだ。
私は間髪を入れず
無言のまま双子に歩み寄り、あと一歩で間合いに入る距離まで近付いたところで刀を振るう動作に移る。
双子は同時に跳び上がり後方へと下がるが、勿論双子の行動を先読みしてからの攻撃だ。
斬り結ぶは数にして八つ。
『六式』“剃”での瞬動とガープさんの部下 ボガードさん直伝の瞬速の剣。
私は跳び退く双子を追い越し、彼らよりも後方へと着地し問い掛ける。
「八つの音色は聴き取れました?」
自身に掠り傷一つ付いていない事に奇声を上げ笑う双子だが直に気付いたようだ。手袋は切り裂かれ
「仕上げはお願いします。」
「おう、任せろ。」
これで脱出組での危険は無事回避出来たはずなので、探索組へと合流するようにナミさんへ話し掛ける。
「覇気についてや疑問などは後でお答えします。探索組は現在バラバラにはぐれて行動してるみたいです。私があっちに合流しても良いですか?」
エネル、ホトリとコトリに対峙しつつも探索組の状況把握は怠らずにいたのだが、何故か原作通りバラバラになっている。
元を質せば、一行の行く手に森に飲まれた民家の遺跡が在った事が原因だ。
ロビンさんがそこを調べたいと進言し、ルフィさんとゾロ、チョッパーくんは先に進むことになったのだが数人の神兵と接触し散開したのだ。
神兵程度ならば各個撃破は容易いだろうから心配はしなかった。ルフィさんとゾロの情報は途切れたがチョッパーくんの情報は把握している。
原作の流れでゲダツとの交戦も既に始まり直に終わるだろう。
なので、チョッパーくんがオームと出会う前に合流しておきたいのだ。
ナミさんは大きくため息を漏らして私を睨み付けて口を開いた。
「あんたが何考えてんのか知らないけど、そうやって自分一人で背負い込むのは気に入らないわ。戻ってきたらちゃんと説明して貰うからね!
…それと、もっと皆を頼りなさい。仲間でしょ?」
「…今回ばかりはそうもいかない事情があるんです。
戻ったら全て話します。ごめんなさい。」
ナミさんに頭を下げ、サンジさんへ後のことをお願いして私はチョッパーくんの下へ転移する。
やはり思い通りにはいかないなぁ、と反省しつつ今後の事を考えるのだった。
読んでいただきありがとうございます。
主人公の能力や覇気に関する考察は自己設定も含まれています。
原作やwikiでの詳細が不明なものも多いのでご了承いただければ幸いです。
文章については私の力不足を感じる部分が多く、普段よりも書くのに時間が掛かってしまいました。
1話の前書きでも書いていますが、週1回のペースで投稿出来ればと思っています。