少し説明が理解し難いかもしれません。申し訳ないです。
朝日が水平線から顔を出し、眩しい暖かな光で輝く麦わら一味の海賊船
船体には広げた翼を携え、船首の羊はトサカを被り微笑んでいる。 名付けて『
「「「すげぇ!!飛べそうだなっ!!」」」
ルフィさんとウソップさん、チョッパーくんは目を輝かせて楽しそうに談笑している。
「さて、積帝雲と
「「任せろっ!おやっさん!!」」
徹夜作業を進めていたはずの猿山連合だが、そんな疲れを見せること無く準備を整え各々の船に乗り込んでゆく。
モンブランはゆっくりと煙草を吹かし私たちを向き直した。
「おっさん、船ありがとな!これ礼だ、やる!!」
ルフィさんは昨夜森の探検中に採集した虫を礼だと渡すが、それが礼になるのは子供くらいなものだと思うが…
「っ?!こいつぁ、アトラスにヘラクレス!ミヤマにオオクワ、ノコギリまで!!」
モンブランも意外と喜んでいるようだ。猿山連合も騒ぎ立てるほど喜んでいる。
メリー号も出航の準備を完了し皆船へと乗り込み、一人見送るモンブランと口々に別れの挨拶を交わす。
「小僧!過去に誰一人として黄金郷も空島も『無い』と証明出来た奴ぁいねぇんだ!んなもん屁理屈だと人は笑うだろうが結構じゃねぇか!!…それでこそ『ロマン』だ!!!」
「おう!ロマンだ!!」
ニシシと笑い手を振るルフィさんは晴れやかな笑顔でモンブランへ別れを告げ出発の合図を出した。
※ ※ ※ ※
メリー号の右側にショウジョウの船、左側にマシラの船。二つの船に挟まれた状態で目的である南の海域へ航行中だ。
「いいか?目的地まで四時間程の航路だ。おやっさんが言っていた通り積帝雲と
私とナミさんでショウジョウとマシラからの説明を受けながらサウスバードを頼りに南下している。
「目的地で俺の
「えぇ、わかったわ。よろしくね!」
ナミさんは簡単な説明に返事をして航路前方を見渡す。目的の海域までは遠いので眼前の空は晴れ渡っているが、一度体験した怪現象を思い出しているのか表情は固い。
私は聞き及んだだけであり、昼を夜へと変えるほどの分厚い雲を見たことがない分少し楽しみにしている。結局空島の有無を一味に明かせずにいるのだが、到着してから明かせば良いか、と暢気に構えていた。
ふと、ルフィさんたちを見るとなにやらサウスバードで戯れているようだ。身体がどの方向を向こうとも、顔は南にしか向かないという習性は弄り甲斐があるのだろう。
「あまりジョーをいじめないでくださいね。せっかく付いて来てくれたんですから。」
「んぁ?ジョーってこいつか?」
そう、私はサウスバードにジョーという名を付けた。あの森から付いて来てくれたのはいいが何故か私に懐いて後を追ってくる。なので名で呼び、船の手摺りに泊まり方角を示してくれとお願いしたのだ。
「ジョ~って鳴くからジョーか!いいじゃねぇか!!」
「えぇ~!もっとカッコイイのにしよーぜ?」
ウソップさんは私の名付けに賛同してくれたがルフィさんは別の名前を提案してくる。それからジョーの名前を決める討論をしたり空島はどんな場所なのか想像を話しあったりなどして目的の海域までの時間を過ごすのだった。
※ ※ ※ ※
航行を始めて三時間ほどが経ちマシラの船が慌ただしくなったのに気付く。進路方向を見ると遠くの空が暗く染まっているのが視認出来た。ショウジョウの船でも
予想よりも早く現れた積帝雲に合わせて
海底爆発の前震によって引き起こされた突然の高波に三隻の船は左右に揺られながらその中心部へと向かって進んでいく。
「流れに乗れ!この大渦に逆らわずに中心に行きゃ良い!!」
マシラとショウジョウは船のワイヤーを外し離脱していく。一方、メリー号は渦の海流に乗り少しづつ中心へと流され始めている。積帝雲が頭上に差し掛かっているのか周囲は既に夜の様に暗い。
「おう!送ってくれてありがとな!!」
ルフィさんが送ってくれた面々に感謝を述べるが、ナミさんとウソップさんはすぐに逃げ帰ろうと反論している。ここまで来たのだからもう諦めるしかないだろうに二人はとても必死に説得している。
「おい、無駄な抵抗は意味無ぇぞ。ホレ。」
ゾロが言って指を差す方を皆で振り向くと既に大渦に飲まれる瞬間だった。皆一様に襲い来るであろう衝撃に備える。一瞬、船は宙に浮き大渦へ落ちると思ったが先程までの高波が嘘の様に消え海が凪いだ。
待ち構えたはずの衝撃は来ず、急に静けさを纏う海に困惑を皆隠せないままに口々に言葉を発する。
「…来るわ。渦は海底からかき消されただけ!全員しがみ付くか船室へ!!急いで!!!」
ナミさんが慌てて指示するもメリー号の周囲の海が隆起する。それぞれが近くの船部にしがみ付きこれから訪れるであろう最大級の衝撃に再び構えたその時。
ドオォン!!!
身体の芯まで揺さぶる衝撃音と急激な船体の傾きにバランスを崩しつつも手摺りに掴まることで難を逃れる。
しかし、何かがおかしい。甲板に足が付かないのだ。よく見ると他の皆も手摺りにぶら下がっていたりマストにしがみついていたり、船室の壁に立っていたりする。
現在、船は垂直に空を向いているのだと理解する。
しかし、このままでは船体が浮き上がり弾き飛ばされてしまう。そうなれば空中へと投げ出され海に叩き付けられて一味も船も無事では済まないだろう。そうなる前に能力で船ごと移転したほうが良いと考えているとナミさんが声を上げた。
「今すぐ帆をはって!!これは立ち昇る海流、つまり海よ!地熱と蒸気によって下から吹く風は上昇気流!風と海が相手ならどんな場所でも
頼もしい航海士の言葉に皆の士気が上がる。ナミさんからの指示を受け各々が帆を張り調整し、舵を合わせる。船首が海から離れ、このままでは落ちてしまうと息を飲み覚悟するしか出来ない。
「…船が、空飛んだ!すげぇ!!」
なんと海流と追い風を推進力としてメリー号が飛んでいる。ナミさんは予想通りに無事飛べた事に安堵し息を吐く。他の皆は驚き感心し喜び最高な航海士を褒め称える。
眼前にそびえるぶ厚い雲を見上げ行く先を再確認する一同に船長は興奮気味に声を張り上げた。
「積帝雲に突っ込むぞぉ!!!」
「「「「うおおぉ!!!!」」」」
※ ※ ※ ※
船の甲板で仰向けになる者、蹲る者と皆一様に息も絶え絶えの状態ではあるが欠ける事無く一味八人生きている。真っ先に大きな声を出したルフィさんに促され顔を上げると辺り一面真っ白な光景に感嘆の声を上げる。
ナミさんの持つ
私はナミさん、ロビンさんと航路の確認と未知の雲上での哨戒について会話をしていると、ウソップさんが雲に潜りそのまま雲から落ちてしまったようだ。ルフィさんとロビンさんでウソップさんを引き上げると風船みたいな蛸や巨大な蛇みたいなひらめを連れ引き上げるなどのトラブルに見舞われる。
雲の中に生物が存在していることには驚きだが、雲というよりも海だと認識しなければいけないようだ。海底の無い空の海で生き抜く為により軽く、風船のようになったり平たくなったりといろんな進化をしてきたのだろう。
空の海に生息する生物の考察をしていた私たちだが、チョッパーくんは空島へ昇る為の航路を調べてくれているようで双眼鏡を覗いている。ところが、何かを見つけたのか突然慌ただしく騒ぎ出す。
「た、たた大変だ!四角い牛が雲を走ってこっちに来る!!」
チョッパーくんの指差す方を見ると変な仮面を着けた人が雲を滑る様にこちらへ向かって来ている。ルフィさん、ゾロ、サンジさんで迎撃しようとするが動きに普段のキレは無く返り討ちにされてしまう。
変な仮面が船から跳び上がりバズーカのようなものを構えたので私が追撃に向かい刀を抜かず鞘で打ち込み雲の海に叩き落とす。しかし、再び雲を滑る様に走り去ってしまう。捕らえて情報を引き出せれば、と無力化しようとしたのが甘かったようだ。
「ウーム、お主やるのぅ。」
仮面を追撃する為に数瞬私が船から出ていた隙をつき、今度は甲冑が船に乗り込んでいた。私は甲冑と向かい合い、鞘を腰に戻し刀を抜こうと柄に手を掛ける。すると甲冑はジャベリンを下げ敵意が無いことを示す。
「我輩は空の騎士!お主らは青海人か?」
「青海人?えぇと、私たちは雲の下から来たんですが…」
とりあえず敵対する気はなさそうなので聞けることは聞いておかなければならないと思い会話を交わす。
甲冑の話によると今居るのは白海といって地上から7000mの高さにあるようだ。私たちが目指す空島は白々海といい更に昇って1万mの高さにあるらしい。
ゾロたちの動きにキレが無い原因はその為であると納得する。
地上と比べて上空は酸素の濃度が薄いので低酸素症になっているのだ。
普段通りに動こうとするも身体機能に回す酸素が足りずに思うように動けないのは当たり前だ。
ゾロもルフィさんも慣れてきたと言っているがそんなに急に慣れる訳無い。…おそらく無い。
空の騎士と名乗る老人はフリーの傭兵をしているらしく、一度笛を吹く度に500万エクストルで助けると言っている。
まずそこで私たちは理解出来ずに首を傾げるのだ。500万エクストルとはベリー換算でおいくらなのだろうか。
そして私が秘めてきたことを空の騎士は開示してしまう。
「…あの、すいません。
暫しの静寂が訪れると共にナミさんが鬼の形相で詰め寄ってくる。助けを求めるため皆を見渡すが目を逸らされてしまい、私はおとなしく正座する羽目になった。
私がナミさんから説教を受けている間にも空の騎士の話は続き、近年では
「我が名は空の騎士 ガン・フォール!そして鳥にしてウマウマの実の能力者、相棒のピエール!勇者たちに幸運あれ!!」
最後にそれだけを言い残し飛び去って行ってしまった。
※ ※ ※ ※
空の騎士 ガン・フォールが変な天馬 ピエールで飛び去り、結局何も教えてもらっていないことに落胆しつつも今後の航行を考える必要がある。
「なぁ、あそこに変な雲があるぞ!」
チョッパーくんの言い示す方を見ると、他の雲とは違い滝の様に縦に伸びた雲がある。
当ても無く彷徨う訳にもいかないのでそちらへと進路を変え進むと大きな雲が鎮座している。
「ただの雲なら直進出来るんだけど、空の海に浮いてる雲だし…」
困惑するナミさんを他所に触ったらわかる、とルフィさんが手を伸ばして確かめる。すると、その雲は弾力がありルフィさんの手を弾いた。
「見ろ!ふかふかだぁ!!」
いつの間にかルフィさんとウソップさん、チョッパーくんがその雲に乗り楽しそうに跳ねている。そうなると、この手の雲を避けながら進むしかなさそうだ。
飛び跳ねる三人にそこから何か見えないか聞くと滝の方に門が見えると言うのでそちらへ向かうが、迷路の様に行く手を阻むふかふかの雲に苦戦しながら右へ左へと何とか進んで行く。
最後のふかふか雲を抜け開けた場所へ出ることが出来たが、その時船の後方から声が上がった。
「麦わら一味よ、少し良いかな?」
皆が振り向くと同時にふかふか雲からメリー号へ飛び移る壮年の男性。紺色のスーツを着込み悠然と立つ男に皆身構える。
「事を荒立てる気は無い。私はシールという名だ。そちらのリィナ嬢と縁がある者だよ。…うちのロードが世話をかけたな、すまなかった。」
シールと名乗る男は私に向き直ると、用があると釈明しアラバスタでの件に軽く頭を下げる。
「彼の仲間、ですか。何の目的があってここへ?」
「君と話があってね。どうだろう、ルフィくん。少しの間リィナ嬢と話す時間をくれないか?」
シールと名乗る男はルフィさんへ向き直り許可を求める。やはり原作知識というもので皆の名を知っているのだろう。
「ん~、良いけど話すだけか?」
「約束する。」
なら良いぞ、と承諾するルフィさんだが警戒は緩めていないようだ。
「…では、皆さん先に行ってて下さい。話が終わり次第追いますので。」
「それが良い。聞かれては良い話では無いからな。では、少し時間を頂くよ。」
そう言ってシールはふかふかの雲へ再び飛び移る。私は皆に後で説明する旨を伝えてふかふかの雲へ上ったシールへ視線を向ける。
「リィナ!さっさと追い付いてこいよ!!」
ゾロが心配そうに声を上げたので私は振り向き笑顔でわかった、と返して跳躍した。
私は静かにシールの後を付いて行く。いくら敵意は無いと言っても警戒を緩めるべきではない相手だ。
先ほどの場所より少し離れたふかふか雲に移動し、ここらで良いかとシールは懐から小さなナイフを取り出して壁にあたる雲に刃を入れていく。
簡易的な椅子を作り向かい合って二人共に腰を下ろすとシールは話し出す。
「先ずは自己紹介といこう。私は通称『シール』。自身から
そう言って腕から一枚のステッカーを剥がし飛ばすと、私の左側足元に落ちる。それを手に取ろうとした瞬間ステッカーから手が生え、私の左手を掴んだ。
「この様に、ステッカーは私自身であり自在に私自身を生むことが可能だ。」
最初は私の左手を掴む為の右手だけだったが、徐々に腕、肩、胸部、首、頭部と人体を成してゆき完全にもう一人のシールが生まれる。
「「そして、どちらも本人として活動出来る。解除も自在だ。」」
正面に座るシールと左側に立つシールとで同時に話している。瞬間、正面のシールが露と消え、左側のシールだけになると椅子には一枚のステッカーが残っている。
「分身して解除する事により移動も可能という便利な能力でね。分身は最大で10体程、どれか一人でも生存していれば死ぬ事も無い。」
淡々と話すシールではあるが実に驚異的な能力である。思わず右手を左腰の刀に掛けていた。
「敵対する意思は無いので能力を明かしただけだ。そう身構えないでくれ。」
そう言って再び雲の椅子に座り朗らかに両手を挙げ敵意は無いと示す。
「…それで、私と話したい事とは?」
「そうだな。君の疑問に補足を入れながら答えるというのはどうかな?ロードと話し疑問も多かろう。」
この男の真意は読めないが私にとっては有難い話である。ただ、それが真実である保証は無いが知らないよりはマシだろう。
「では、転生者とは何ですか?原作知識や恩恵といったものもお願いします。」
「うむ、ロードはそんな事まで君に伝えたのか…いや、いいだろう。
君の場合は知らんが、我々は個々の死後に神によって生まれ変わりを果たした者たちだ。
ある者は神の償いで、ある者は試練を乗り越え、ある者は取引で、ある者は生前の褒美としてこの『ONE PIECE』という物語の世界に転生したのだ。
その時にこの世界で有利に生き抜ける様に授かったのが恩恵と原作知識だ。
強い肉体、優れた精神、常識とはかけ離れた悪魔の実の能力と全ての覇気。それらを扱い、使い熟す才覚。それを恩恵と呼ぶ。
そして、原作知識とは『ONE PIECE』という物語の過去、現在、未来を知識として得ているという事だ。ただし、『ONE PIECE』とは麦わら海賊団の物語であり、麦わら一味に関する事柄の知識でしかないがな。」
私は言葉が出てこない。それこそ空想だ、夢物語だと笑い飛ばしてしまいたい感情が湧くほどに突拍子の無い話だからだ。
しかし、どこかそれを受け入れてしまっている私もいるのだ。恩恵を受けていると自覚は無いが私自身の力は恩恵そのものであると言える。
少しの鍛錬で誰よりも力が付き、溢れ出るイメージの通りに能力を使い熟し、覇気すらも感覚ですぐに扱えた。言わずもがな、能力も反則級の代物である。
「君は前世の記憶が無く原作知識も無いと聞いている。そこに我々と君の優劣がある様に思うが、実はその逆なのだと解釈して欲しい。
我々は原作知識を得る代償として君より下位の能力なのだと。
原作知識とは物語の流れを知るというものでもあり、それだけで予め決められた危険を回避する事が出来る。自身の命を守るものでもあるんだ。君にはそれが出来ない分、我々よりも高位の能力を授けられたのだと予測している。
だから、君と敵対する行為は危険であるとの見解なのだ。」
「ちょっと待って!今私たちが生きてるこの世界はやっぱり誰かの作り話ってことですか?」
「…元々は作り話だ。だか、我々転生者の存在がそれを覆したのだよ。そもそも『ONE PIECE』に転生者など登場しない。ここは『ONE PIECE』の世界では無く、『ONE PIECE』という物語に沿っただけの別の世界ということになる。」
つまり、転生者という異物が紛れ込んだために物語そのものが破綻しているということであり、この世界に生きる者はそれぞれ自分の意思で生きているという事になる。それに、原作知識とは麦わら一味に関係する事柄のみだということに少しの安心を得る。
ゾロが
この二つが分かっただけでも私の心は平穏を保てる。
「つまり、この先物語の通りに話が進む確証は無いということですよね?」
「そうだ。しかし、麦わら一味は基本的に物語に沿って航海を続けるはずだ。
もしも私がジャヤで空島の存在と行き方を話していたならば
「ロードは原作通りに物語を進めたくて君の邪魔をしたようだが、君が居なくとも本来存在しないはずの
何気ないたった一つの小さな変動でも時間が経つにつれて徐々に大きな変動へとなってしまう可能性。バタフライエフェクトというやつだろう。
「…あなたたちは自身の存在を否定してまで原作通りに物語を進めたいんですか?」
自身の生きるこの世界と原作の世界での違いは転生者の有無だ。原作通りに物語を進めるのならば転生者の存在を消さなければならない。それは私も含め自分達の存在すらも否定しなければいけないのだ。産み、育み、愛してくれた人すらも否定する行為。それは悲しいだことだと思う。
「…私は原作に固執する気はない。だが、そうで無い者もいるのだ。転生者のチームは六人居る。私以外は原作通りに話を進めたがっている。直接君を排除しようと動く者はロードだけのようだがね。」
私を含めて七人しか存在しないのかとその少なさに驚きはするが、良く考えるとどんな理由があろうとも転生というのはそうそうあるものでは無いはず。七人でも多いはずである。
彼らにとって、原作を知らぬまま勝手に動くわたしはさぞかし邪魔だろう。それでも実力行使で来たのが先日のロードだけなのは正直助かる。
「…ドリフトさんはそのチームに?」
「彼がチームのリーダーだ。彼が君に手を出すなと厳命している。」
確信があったわけでは無い。元上司があまりにも都合良く
別れの挨拶で鎌をかけたが知らないとあしらわれた。それが当たりだったとは今更であり、半分納得、半分驚愕といった感じだ。
さも気付いていた様に振舞うが、内心跳び上がりそうになるくらいには驚いている。
「…アラバスタでのクロコダイル捕縛作戦はそのドリフトさんの命令だったんですけど、原作通りに物語を進めたいのなら矛盾しませんか?」
「私が聞いた話ではルフィくんの懸賞金を
私を海軍に留める事と原作通りに物語を進める事。ドリフトさんは前者を優先させたというのか。私にそれほどの価値があるとは思えないのだが…本人の居ないここで話しても真意は分からないので思考を打ち切り別の疑問を問う。
「それから、私は本当に転生者なのですか?」
「…リーダーが言うには転生者だそうだ。」
なんとも歯切れの悪い返答に私は首を傾げる。何かしらの根拠があり私にそう言っているのだと思っていたのだがどうやら違うようだ。
「リーダーの能力を全て知っている訳では無いが、彼には転生者が
「つまり、ドリフトさんしか転生者を判別出来ないということですか…」
自ら「自分は転生者だ」と触れ回る人もいるかもしれないが、それを黙していれば一般の人と何ら変わらない。どういった手段かは分からないがドリフトさんはそれを見分けることが出来るらしく私を転生者だと判別したようだ。
「私が二年より前の記憶を失っているのは何故か、理由を知っていますか?」
「いや、おそらくリーダーでもそれは知り得ないだろう。我々の前世はそれぞれ世界が違う。国や時代が違うという差異ではなく、次元が違うのだ。それぞれが会った神すら違うのだから転生する過程で何らかの違いがあっても不思議ではない。君の転生に関しては君の世界の神に依る采配だとしか言いようが無いのだ。」
各々の世界に各々の神が存在している。その言葉に目眩を起こしそうになってしまう。規模が大き過ぎて許容量に収まらない。
ともかく、私の記憶に関しては彼らに問うても意味が無いと分かり、記憶を取り戻すという目的は早くも行き詰ってしまった。
「…正直に言いますと、あなたたちなら私の記憶に関して何か知っているのではないかと考えていたんです。
アラバスタでロードから転生者だと言われて違和感があったんですよ。私は私としての記憶があるのは二年前からです。それ以前の記憶が無いのは別の誰かに乗り移ったから、憑依したからではないのかと。あなたたちの中にそんな人は?」
「…それは面白い考えかもしれんが、我々の中にそういった者はいないな。皆一様にこの世界で母親から生まれている。だが、可能性としてはあるのかもしれん。どこかで死した者、若しくは死にかけている者に君の命を移したとなればそれは転生だろう。」
以前、転生という言葉に違和感を憶え考えた事だが、それでも転生と呼ぶらしい。益々自身の出自が不明瞭になってしまったことに落胆する。
得られた情報も『転生』『恩恵』『原作知識』『転生者集団』くらいなもので肝心な『記憶』に関することは分からず仕舞いだ。それでも敵対する覚悟でいた相手から直接話を聞けたことは僥倖だった。
「…分かりました。私にとって貴重な情報をありがとうございました。…それでは、あなたの話をどうぞ?」
そもそもが私に話があり訪ねてきたはずが、私の疑問に答えてくれたのだ。本来の目的を促すくらいは当然の行為である。
「聞いていた通り君は義理堅い娘だな。…これを。」
そう言ってシールは一枚のステッカーを差し出した。怪訝に思いながらもそれを受け取ると手のひらへと溶け込んでいった。
「空島における原作知識を君に
瞬間、膨大な量の絵が脳裏を駆け巡る。頭痛と吐き気を催す程の情報量に視界が霞み身体がふら付いてしまう。
スカイピア、天の裁き、ガン・フォール、コニスとパガヤ、ダイアル、アッパーヤード、、
「…今のが?」
「そうだ。この空島での成り行きと結末だ。麦わら一味はそれぞれ戦いを得て強くなり、その都度絆を深めてゆく。」
「…何が言いたいのか簡潔にお願いします。」
「君が麦わら一味に加入することは彼らの成長を妨げる危険性がある。この先の未来、彼らは
脳裏に浮かぶ空島の原作知識。傷だらけになって、辛うじて勝利し、それでも笑顔で航海を続ける麦わら一味。原作の一味に私の居場所などは当然無い。この世界でも私が居なければ
夢、仲間、友情、絆、勝利、努力、汗、敗北、涙、別れ、出会い…物語としてはとても美しい冒険譚だ。彼らが原作の通りに物語を進めようとするのも頷ける。私が物語を好き勝手に書き換えて良い訳は無いのだ。
「…それでも、私は私の我が侭を通します!私が皆の成長の妨げになる?だったら、私がそれ以上に鍛え上げます。ルフィさんたちも今はまだ知らないでしょうが、『六式』も『覇気』も扱えるように鍛えてみせます。
誰にも負けない、救いたい人を救える、大事な人を守れるように。…それでも足りないならレイさんやシャンクスさん、ポートガスも巻き込んで原作なんて比にならないくらいに皆で強くなります。この世界は原作なんかじゃない。あなたたちが何をしようとそんなもの知りません。」
私はこの世界で生きているのだ。転生者としてではなく、ロロノア・リィナとして生きている。ゾロの妹として、麦わら一味としてこの世界を生きていくのだ。
正面に構えて座るシールから視線を外さず睨む様に見据える。これは転生者チームへの宣戦布告であり、私の決意だ。
「ふっ、期待通りの返事で安心した。先ほども言ったが私は原作に固執する気は無い。試す様な物言いをして悪かったな。
…話は変わるが、私がシールと名乗るのはリーダーの命名だ。チーム全員が能力を名乗っている。まぁ、これ以上は教えられんがな。」
片側の口を上げ意地悪く笑うシールに心の中で素直に感謝する。つまり、名前から能力を予測し対処しろという助言だ。ドリフト、シール、ロード…他の三人は知らないが今後相間見える時があるだろう。予備知識があるだけでかなり状況は変わるはずだ。
「だけど、能力を名乗ったところで不利にはならないって自信があるんですね。」
神からの恩恵と破格の能力だ。並みの覇気使い、能力者に遅れをとることなど無いだろう。それは私に対しても言えることなのだ。彼らにはそれだけの実力が備わっているという自信の表れである。
「当たり前だ。神の恩恵とは努力や運程度で覆るほどやわなものではない。…君の覚悟は受け入れたよ。後の事は君次第だ。精進したまえ。」
「えぇ、お話出来て良かったです。」
シールは椅子に座ったままの体勢でそのまま消えてしまった。椅子に残されたステッカーを見て、能力を解除し移動したのだと理解出来た。私はそのステッカーを手に取り元素へと分解する。
シールとの話で一味の皆に話せる事と話せない事を整理しつつ、転生者チームの対策と一味の鍛錬を考査する。これから忙しくなりそうだが、先ずはエネルをルフィさんに倒してもらわなければならない。
一味の下へ移動しようと思ったのだが、おそらく今頃はコニスさん宅だろうと思い至り合流は皆がアッパーヤードにある生け贄の祭壇に戻る頃にしようと決める。
それまでに少し試しておきたいことがあるからだ。幸いにもココは白海であり、辺りには雲しかない。辺りにゲリラの気配も無いので存分に鍛錬が出来そうだ。
ふと、生け贄の祭壇で恐ろしい目に合うチョッパーくんが脳裏を過ぎる。助けに行くべきかと思案するが、彼が海賊としての決意を固める為の大事な一歩なのだ。
…そのせいでガン・フォールが重傷を負うがチョッパーくんの糧になってもらおう。
原作知識には便利な面もある。しかし、誰かが傷付くことを予め知ってしまうのは辛い面でもある。
私は以前から身内を守る為に他の誰かが傷付くことを容認している。
私は全ての人を救うなんて出来ない。だから見知らぬ人を見捨てても身内は守りたいと思っている。
生きる者ならば大多数は似たようなものだろうと理解はしているのだ。
しかし、空島に登場する人物を、その思いを知ってしまった今は、まだ見ぬ知らない人にすら情を感じてしまう。
こんな思いをずっと続けていくくらいならば、やはり私には原作知識など必要無いと認識する。
気を引き締め、思考を切り替えてからこれから傷付く者たちへごめんね、と届くはずもない謝罪を言葉にするのだった。
読んでいただきありがとうございます。
今回も説明ばかりになってしまいましたが、書いていて伝わるか不安になりました。
もう少し文学を嗜み勤勉します。申し訳ありません。
次回から少しずつ無双に近付きます。