姓はロロノア 名はリィナ   作:ぽんDAリング

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初めての投稿です。

週1くらいのペースで投稿出来ればと考えています。

読みにくさ、誤字脱字などで不定期に改訂するかもしれないので申し訳ないですが先に謝っておきます。
ごめんなさい。


※この話はプロローグ的な何かです。


1 ・翡翠のあなたと生きる道

 

 

一見して、酒場として判る明るさを灯す建物を見付け思わず早足になる。

建物の外からでも数人の楽しそうに話す声や笑い声が響いてくることに安堵する。

 

…良かった。人が居る。

 

躊躇うことなく、しかし焦らず落ち着いて入り口の扉をゆっくりと開け、私は現状を打破する為に声を出す。

 

「こんばんは。突然で申し訳ないのですが、何か羽織るものを貸していただけないでしょうか?」

 

シン、と静まり返る店内。先程までの喧騒に私の声は掻き消され、耳まで届いていなかった様だ。

 

店内の数人の客達は私を見たまま固まっている。ある者は口を大きく開け、ある者は目を見開き、ある者は飲みかけ、注ぎかけの飲み物を零している。

 

仕方が無いのでもう一度、今度は先程よりも声量を大きくして声を出す。

 

「コホン。…皆さん、こんばんは。お酒の席でお楽しみの所大変申し訳ないのですが、何か羽織るものを貸していただければ嬉しく思います。」

 

こちらは突然の乱入者なのだ。先程は礼儀を欠いたと反省しつつ頭を下げる。

 

頭を上げつつ店内を窺うと、カウンター席に座っていた男性が凄い、鬼の様な形相でこちらへ向かって歩いてくる。

 

…あぁ、やはり迷惑だよな。怒らせてしまった。

 

店を出ようと思い口を開く。

 

「申し訳ありません。ご迷惑をお掛けしました。」

 

もう一度頭を下げ謝罪し店を出ようとしたところで一枚の布が私を包み込んだ。

 

「マスター!上の宿使わせてもらうぞ?」

 

頭上から聞こえた声に顔を上げると先程の鬼の様な形相は無く、無表情に徹しつつ泣きそうな瞳の男性と目が合う。

と、ふいっと私から逸らすように顔を上げ、周りを見渡しながら言い放った。

 

「こいつは明け方海軍に連れてって保護してもらう。それまでは俺が責任もって保護する。…文句ある奴ぁいるか?」

 

店内を見渡し語尾を強める男性に対して、他の客たちは慄きながら激しく首を横に振っていた。

 

再び男性は私に目線を落とし、付いて来いと顎をしゃくり行く先を示す。

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

酒場の二階、宿屋の一室にて私は男性に風呂に入るよう促され脱衣所の鏡前にて唖然としている。

『現状』を打破する為に酒場へと足を踏み入れた筈なのだが、私が把握していた『現状』よりも凄惨な『現状』で『現状』よりも『現状』なのでゲシュタルト崩壊気味なのだ。

 

OK。落ち着け私。いや、俺。一から思い出してみよう。

まず、目が覚めると辺りは暗く、生い茂った草木の真っ只中。つまりは夜の森の中だった。

そして、なぜか全裸だ。なぜかZE☆N☆RAだった。大事なことなので(ry

 

そう、だからこそ何か服を着ようと辺りを探ったが服などどこにもなく困ったのだ。

仕方がないのでそのまま森の中を彷徨い歩き、茂みの隙間から見えた明かりを頼りに酒場までやってきた。

 

よし!ここまでは順調だ。ここまでを精査すると、夜の森ということもあり、真っ暗で自身の確認も出来ない状態だった。

あと、結構混乱していた。自分の身体の変化に気付けない程には混乱していた。いくら違和感があったとはいえ、服は無い、場所も判らない状況では仕方ない。そう、仕方ない。

 

だから、恥をしのんで酒場で羽織るものを拝借しようとしたのだ。もちろん店内に入ってからは前は隠していた。堂々とぶら下げたまま店内に入る程、変態という名の紳士ではない。

 

それから、羽織る物を拝借できたら警察を呼んでもらう筈だったのだ。

だって、俺は被害者だ。何時の間にか拉致られて、身包み剥がされて見知らぬ土地に放置だなんて。

全裸で徘徊する性癖の不審者ではない。決してない。イジメ、ダメ、絶対!

 

ここまで俺の主観。俺の認識していた『現状』だ。

 

 

そして、俺の認識していなかった『現状』。酒場のマスター、客達の目線。

 

まず、各々が楽しく酒盛りしていると酒場の扉が開く。

扉から入ってきたのは女の子。入るなり羽織る物を所望する泥だらけで全裸の女の子。

 

…そりゃ固まるよ。俺だって固まる。余裕で飲み物零すね。

だって明らかに事案発生です。即通報ものです。

 

でも、当人がそれを認識してないんだから困ったでしょうね。

だって、俺男だし。男だった筈だし。いきなり女の子になってるとか思う訳ない。だから、俺は悪くない。

 

そう、俺は悪くない。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

はぁ、と大きく息を吐き出す。過ぎた事を悔やんでも仕方がない。とりあえず、落ち着こう。

 

鏡に映る自分の姿が泥まみれであることを鑑みても、まずは風呂に入った方が良いことは明確だ。

森の中を裸足で彷徨っていたもんだから足の裏が地味に痛い。

 

湯船にお湯を張りつつ同時に身体を洗いながら考える。

身体を洗う事に少しも違和感は感じない。

男の時には無かった二つの膨らみに恥じらいや抵抗は無い。男の時はあったはずの棒とか無くても焦りは無い。

 

セミロング程度の髪の長さではあるが手馴れた洗い方で素早く湯を流し、スルスルとタオルで纏め上げた。

それが当たり前であるかのように全身をくまなく洗い終えてから湯船に浸かる。

 

「あぁ~気持ち良いぃぃ~♪」

 

思わず出てしまった声は明らかに俺の声ではないのだが、もともとそうであったかのようにその高い音に馴染んでいる。

湯船もユニットバス程の大きさしかないはずなのに今の俺では少し大きめに感じている。

 

脱衣所の鏡に映った自分は15、6才くらいの少女だった。しかし、それすらいつもの光景の様で俺は「男」である事実を認識するのに数秒要した。

 

それくらい、俺は僅かな違和感しか感じていなかった。思考でさえもしっかり保たないと少女のそれになってしまっていた。

 

そう、非常事態だったとはいえ公衆の面前で裸体を晒してしまったことについて絶賛後悔中なのである。男の頃に比べて羞恥心が半端無い。

 

…やばい。ほんとに俺は女になってしまったのか。

 

しかし、なぜ、と疑問は途切れないのだがこのまま悶えていても仕方が無い。湯船から上がり脱衣所に備え付けてあるバスタオルで身体を拭いてバスローブを身に纏い、意を決して客室へと足を踏み出す。

 

客室の椅子には先程の男性と白衣を着た初老を過ぎたくらいの男性が話しているのが見えた。男性が俺に気付き顔を向けたので、まずはお礼を言っておこうと口を開く。

 

「あの、お風呂ありがとうございました。後日必ず謝礼h「医者に診て貰え。」

 

「…はい?」

 

「この爺さん。医者だから診て貰え。」

 

それだけ言うと男性は足早に部屋を出て行ってしまった。

えぇと、どうすればいいの?いしゃ?イシャって何だっけ?

 

 

戸惑いつつも医者だという男性に顔を向けるとニコリとやさしい笑顔を向けてくれた。

 

「ワシャ、この村で医者をやっとるガンジというもんじゃ。お嬢さんの怪我を診てやってくれとあやつに呼び出されてのぅ。診察を始める前に名前を教えてもらっていいかぃ?」

 

これはご丁寧にどうも、と頭を下げて口を開こうとしたのだが…

 

俺の名前って何だっけ?

 

住所は日本の…あれ?思い出せない。え…と、俺は何してたんだっけ?

 

「あの、すいません。名前…というよりほとんど自分のことが思い出せないのですが…あと、ここはどこでしょうか?」

 

「なんと…記憶障害かぃ?…ここは東の海(イースト・ブルー)のナナシノニッパ村じゃよ。」

 

…イースト・ブルー?聞いた事無い国だな。いや、どこかの地名なのか?

 

考え込んでいる俺をよそにガンジさんは、可哀想に、こんな娘さんがと呟いていた。

 

「さ、そこに腰掛けてくれ。身体に外傷や痛む箇所は無いかぃ?」

 

「え?あぁ、先程身体を洗いましたが特に外傷は無かったと思います。頭部にも特に痛みや腫れは無いと思いますよ?あ、裸足で森の中を歩いたので少し痛むくらいでしょうか。」

 

フムフムと何やらカルテらしきメモを取りつつ俺の腕や足を診てゆくガンジさん。視診、触診に邪魔なバスローブを自発的にはだけるとガンジさんはビクリと肩を振るわせる。

 

「これ!女子が恥じらいもせず脱ぐでない!」

 

カァっと自身の羞恥心が込み上げる。指摘され女性の思考が表に出てくることに動揺してしまう。

 

「す、すみません。着たままだと邪魔になると思いまして!」

 

「いや、怒鳴ってすまん。医者としては手間が省けてよいと思うのだがのぅ。女子としてもう少し貞節をと。」

 

まぁ、うん。確かに女性が勝手に脱ぎだすのは倫理的にあまり宜しくない。でも、俺って心は男なんだよなぁ…へこむ。

落ち込む俺を尻目にガンジさんは手際良く診察を進めていく。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

「うむ、申告通り外傷は足の裏のみじゃの。視診だけじゃと健康そのものじゃわい。…あとは、記憶障害じゃが何か覚えていることはないかい?」

 

「気付いた時には森だったんですよね。その時点で周囲を探ってみたんですが服や持ち物はありませんでした。」

 

ふむ、と顎に左手を据え首を傾げて思案しているガンジさんは右手に持ったペンで机をトントンと叩いている。

 

「…海賊か山賊にでも身包みを剥がされたんじゃないかと聞いていたんじゃが、そういう外傷も無い。すまんが、ワシじゃあろくに推測も出来んわぃ。」

 

「いえ、こうして診察とお話をしていただけるだけでもとても助かってます。」

 

事実、俺は助かっている。今の時点で自分がどういった状況にあるのかさっぱり分からないので、自分以外の情報から埋めるしかないのだから。

 

「そう言ってもらえるとワシも助かるよ。お嬢さんの覚えている事は他には無いかい?土地や建物、食べ物など何でも良いんじゃが。」

 

「そうですね、イースト・ブルーって地名に聞き覚えは無いんですよね。おr…私は日本って所に住んでいたはずなんですが。」

 

俺は元々男だったことを除いて覚えていることをガンジさんに話した。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

「うむ…ニホンという国でアルバイトなる職に就いていたが、気付いた時にはジンロの森で衣服を着けていなかった。他に名前や自身の事もほぼ覚えていない、と。そんで、海軍ではなくケイサツという治安部隊が存在しとる地か。…こりゃまいったわい。」

 

ガンジさんはうーん、と頭を掻きながら、ちょっと待っとれ、と言って部屋を出た。

 

一人になった部屋は静かで、下階の酒場から陽気な話声や笑い声が微かに聞こえてくる。

椅子から立ち上がり窓辺へ寄ると外は少しの民家から漏れる灯りが見えるだけ。雲に隠れているのか月や星は見えない。

 

…街灯すら無いってどんだけの田舎なんだよ。

 

仄暗い夜空の闇に、見知らぬ土地に、抗えない孤独感が湧き上がってきそうになるのを顔を振って追い払う。

 

俺は元の生活に戻れるのだろうか。そもそも、身体が女性に変わってしまっていることで本来の意味での元の生活には戻れない、と確信にも似た絶望が沸き立つ。

 

不安からか背筋にゾワリと寒気が這い寄る。同時に鼻腔の奥に言い得ぬ鈍い痛みが走る。

 

…やばい、泣きそうだ。

 

身体が女性になっている為か精神も涙腺も弱くなっている様だ。

 

…泣くな。泣いても何も変わらない。

 

泣いても自分の弱味をみせるだけだ。泣いてはいけない。今までそうやって我慢して生きてきたんじゃないか。

 

…今まで?どうやって?

 

思い出せない。思考が止まる。

 

…思い出せない。

 

思い出せないことがこんなにも辛いことなのか。

 

…思い出せない。

 

何を思い出せないのか思い出せない。

 

上手く息が吸えなくて苦しい。激しい動悸で胸が痛む。

 

あぁ、やばい。視界が…歪む。

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ん、どこだここ。

 

気付くとそこには何も無い世界。俺が認識出来る色や形も無い。自分自身の輪郭さえも無い様に感じる。…いや、実際に無い。

 

…ここはどこだ?ここは何だ?

 

宙に漂う意識のみの存在とでもいうのか。見ているのに見えない。聞いているのに聞こえない。触れているのに触れてない。

 

…動けない。動かない?

 

ただの暗闇。星々の存在しない宇宙みたいな。重さも流れも感じない、ただ一点に停滞する俺という意識。

 

…あれか?魂、的なやつ。

 

肉体が無いからか目を閉じる事も無い。視野も全方向360°に広がる。手足を動かす感覚もなく浮遊感さえ感じない。

 

…ここは死後の世界、天国?地獄?

 

 

『ここは君の終着点さ。』

 

 

…いま、確かに聞こえた。

 

いや、肉体が無いので聞こえたというのは違う気がする。感じた。届いた。表現出来る術が無い。

 

 

『そして君の始発点だ。』

 

 

…終わりの始まり?いや、終わって始まるのかな。

 

 

『そう。君という個が終わり、君という個が始まる。』

 

 

『君という群が終わり、君という群が始まる。』

 

 

…そういう哲学的なこと言われても解りませんよ。

 

 

『唐突だけど、輪廻転生って概念、あながち間違ってはいないんだよ。』

 

 

…えっと、たしか仏教のやつでしたっけ?

 

 

『前世や来世ってやつだね。』

 

 

…つまり、俺の今世が終わり来世が始まるってことですかね?

 

 

『半分正解。君は地球という物語での群の役目を終えた。』

 

 

…群の役目?

 

 

『君の魂は一つ。でも器は数限りなく生まれ出る。君は一人で生み、生まれて、死に、殺し、殺され、愛し、愛され、全人類の器を満たした。』

 

 

…時間も何もかも無視して俺一人だけで転生し続けてたってこと?

 

 

『そう。それが地球という物語。』

 

 

…そっか。それが、個であり群であるって意味か。

 

 

『あっさり納得してるけど大丈夫?』

 

 

…大丈夫。役割を終えたってことはつまりそういうことだろ?

 

 

『まぁね。その聡明さと諦念さは最後の器の影響ってとこだろうね。』

 

 

…今じゃ、ろくに思い出せないけどな。

 

 

『さて、君には次があるんだけどどうする?』

 

 

…いや、どうするって何さ?

 

 

『群を始めるも良し、他の(物語)に君という名の(イレギュラー)を始めるも良し。』

 

 

…出来るの?ってか良いの?

 

 

『いいよ。似た物語ばかりじゃ読者は飽きちゃうからね。』

 

 

…色々と突っ込みたいけど今は止めとく。じゃ、出来るだけ個の多いところで。

 

 

『オッケー。特典とか要る?』

 

 

…特典?何があるの?

 

 

『原作知識とか、オリ主チートとか。』

 

 

…止めろぉ!!!!メタいの駄目!!

 

 

『他にもハーレム√やクロスオーバーなんかもあるのに。』

 

 

…いやいや、ないわ。てか、神様転生なんてベタ過ぎだって。

 

 

『ちぇっ、身内では流行ってるのに。』

 

 

…いや、もう適当でいいよ。でも原作知識は不可!自分の人生は自分で切り開くから。

 

 

『はいはい。じゃあアレでいいかな。結構スリリングでトレジャーでスペクタクルなヤツだよ。』

 

 

…もうアニメでもラノベでもなんでも良いよ。

 

 

『原作は漫画でアニメになった有名作品だよ。』

 

 

…だったら、今の記憶は消しといてね。

 

 

『おk。じゃ、新たな始まりを楽しんできてね。』

 

 

…はいよ、いってきます。

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・な!ま・・れ・・・て・・・・ぃな!」

 

…なんだ、そんなに耳元で叫ぶな。

 

「おき・・・な!お・て・・・そく・・よ!」

 

…揺するな。首が痛い。

 

「・・べっ・・・・はこ・・じゃ!」

 

途切れつつ聞こえる声と私を揺さぶる振動。不意を突く浮遊感。柔らかな感触。

洗濯物の良い香り、私を支える暖かな体温、強く握られる手の平から伝わる温もり。

 

「おい!・ぃな!やく・・をまた・にすん・・よ!」

 

…あぁ、暖かい。右手に伝う温もり。

 

「・・り・ぃな!」

 

…誰かが私を呼んでいる?

 

暖かな手。少しゴツゴツとした手。だけど、私に温もりを与えてくれる手。

私の右手を両手で包み放さない。まるで、子供のような純粋な手。

 

身体の感覚が徐々に戻ってくる。散らばった意識を拾い集め覚醒を促す。

 

意識をすると固く閉じていた重いまぶたが少しだけ開く。突然の集光に瞳が驚きまぶたは再び閉じてしまう。薄目を開けつつ光に慣らす。薄っすらと視界に入るのは緑色で短髪の青年。

今にも溢れ出しそうに瞳を濡らして私に話し掛けている。

 

「…泣か…ないで。ちゃんと、聞こえてる…から。」

 

やっとの思いで声を出して話掛けるが、思いの外弱々しく擦れた声しか出ない。

青年は一目見て判る程動揺して大きく顔を反らした。

 

「泣いてねぇ!絶対ぇ泣いてないからな!」

 

そんな強がりを見て、私はおかしくてその人の横顔に向かって微笑んだ。

私を必死に呼んでくれたその人の温もりを手放したくなくて右手にぎゅっと力を込めて。

 

「あぁ、青春しとるとこ悪いが…ロロノア、そろそろいいかのぅ?」

 

ロロノアと呼ばれた青年は顔を真っ赤にして、バツの悪そうにしながら私から離れようと立ち上がる。

が、私は感覚が完全に戻った右手に更に力を込めていた。

 

「…放せよ。」

 

「いやだ。そばに居て。」

 

「…いやだって、おまえ……はぁ、仕方無ぇ。」

 

そう言ってロロノアさんは顔を背けたまま私の近くに不承と座った。

 

再びガンジさんの診察を受けながら、話を聞く。

ロロノア・ゾロさんはこの海、イースト・ブルーではそれなりに名の通った海賊狩りなのだそうだ。医者であるガンジさんよりもロロノアさんの方が他の島にも詳しかろう、とニホンの事を聞きに部屋を出たそうなのだが、戻ってみると私が窓辺で倒れていて、なぜかロロノアさんが取り乱したのだという。

 

「海賊狩りと恐れられるおまえさんが泣き叫ぶなんてのぅ。いいもん見れたわぃ。」

 

「な!泣いてねぇ!!…その、こいつが知り合いとダブッちまってよ。なんつーか、咄嗟に。」

 

「ロロノアさん、ごめんなさい。私のせいで辛いこと思い出させてしまったようで…」

 

「いや、おまえのせいじゃねぇよ。俺の修行不足だ。まだ精神に弱いとこが残ってる証拠だ。それと、…ゾロで良い。おまえとその知り合いがそっくりでよ。だから、おまえにロロノアって呼ばれるとなんかむず痒くなる。」

 

思わず、ガンジさんと顔を見合わせて笑ってしまう。

背中越しで顔は見えないがきっと照れたように不機嫌な顔をしているに違いない。

 

「じゃぁ、ゾロ。私のことおまえじゃなくてリィナって呼んで?」

 

「わかった。…ってか、おまえ記憶g「リィナ!」

 

「…で?リィナ、記憶が戻ったのか?」

 

ゾロは勢い良く振り返り、ガンジさんと共に私を覗き込んでくる。

私はガンジさん、次にゾロへ顔を向け今の心のままに話を始める。

 

「ううん。記憶は戻ってない。忘れたというよりも無かったって感じかもしれない。だから、戻るかもしれないし、戻らないかもしれない。私には分かんない。

さっきガンジさんが部屋を出てから一人で窓の外を見たの。月も星も出てなくて真っ暗で。私を知ってる人も、私が知ってる人も誰一人居ないんだと、とても孤独を感じた。

それで急に悲しくなって、寂しくなって、苦しくなって。意識も真っ暗になったんだ。それで、気付いたら何も無い真っ暗な場所で私は動けないの。

あぁ、私は独りなんだ。このまま何も思い出せないまま、知らないまま暗い闇に落ちていくんだって。

でもね、ゾロが私を呼ぶ声がした。なんとなくだけど、リィナって呼ばれた気がした。

そして、ゾロが私に体温を伝えてくれた。それはきっと生まれたての赤ちゃんがお母さんやお父さんから伝えられる優しい温もり。

生まれてくれてありがとうって。嬉しいって。

だから、私は今日生まれたんだと思う。そして、リィナと名付けてもらった。そう思いたいな。」

 

私はきっと自然に笑えたと思う。ゾロもガンジさんも優しく微笑んでくれた。それがとても嬉しくて、その気持ち良い想いを胸に抱えたまま、ゾロの温もりを右手で感じながら自然と眠りに落ちた。

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

「ロロノア。」

 

「なんだ、爺ぃ?」

 

「なんだかよぉ、子をもつって気持ちはこんなに幸せになれるもんなのかねぇ。」

 

「はっ、年ぃ考えろ。どう見ても孫じゃねぇか!」

 

「おっほっほ。じゃったらおぬしが父親じゃの。なんせ名付け親じゃからのぅ。」

 

「…俺ぁ、まだ17なんだがな。デケェ子供が出来たもんだ。」

 

二人の男が傍らに眠る女の子に微笑み、静かに杯を交わし静かに夜が更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。
私は読み書きがあまり得意では無いと自負しています。

読み辛い箇所もあると思いますが寛大な心で許して貰えると嬉しいです。

あと、作中において仏教と出しましたがまったくもって無知です。
専門の方、仏教関係各所の方々ごめんなさい。

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