魔法使いの弟子 ~並行世界を巡る旅~   作:文房具

7 / 10
ブラック・ブレットの世界
第6話 伝説はここから始まる


「さて、さて着いたか。今度は森の中か?」

 

雄介たちと別れた翔は次の世界に到着し、あたりをきょろきょろと見回していた。見えるのは木ばかりである。翔は少しだけ木がない所に出たのだ。

 

「うん。夜の森はさすがに怖いな。早く町の方に行こうか。ダイヤ、ナビよろしく」

 

翔は頼れる相棒、ダイヤに声をかける。マスター大好きないつものダイヤなら、喜んで人型になり、手でもつないで歩き始めるところだが、今回は少し違った。

 

「マスター。周囲に大型生物の反応があります」

「大型生物? 熊か何か?」

 

グロンギと殺し合いをした翔は、もはや熊程度では動じることはない。

 

「いえ、もっと巨大なようです。距離50メートル」

 

そう言われた翔は、確かにドスンドスンと何か大きなものが近づいてきている音を聞いた。

 

数秒ほどで、その音の主が現れる。

 

現れたのはとてつもなく巨大なクモのような生き物だった。

 

「あー、確かに大きいな」

「クモ、ですか?」

「うーむ。こんなにでかいクモなんていないだろうからな。この世界固有の生物なのかな?」

 

2人がそんなことを話していると、巨大グモはその口から糸を吐きだしてきた。

 

「おっと」

 

翔はそれを転がりながら避け、距離を取ろうと走り出す。

 

「あれ殺しちゃっていいのか!?」

「分かりません。ですが、あの生物はこちらに対して友好的な感情を持っていないのは確かですね」

 

話している間も糸を吐き続けるクモ。それを必死に避けながら何とか逃げ切れないか考える翔。

 

この世界の事を知ら無すぎる翔にとって、判断が着かない状況で敵に襲われるのは致命的過ぎる。誰に味方して誰を倒せばいいのかわからないからだ。

 

前の世界では、グロンギが言う明らかに人を襲っていたため、すぐに適応することが出来た。

 

しかしこのクモはもしかしたら、満に一つの可能性で人様のペットかもしれない。

 

その可能性がある以上攻撃に踏み切れないのだ。

 

しかし、ただの人間である翔は、いつまでの蜘蛛の糸を避けていられるほど超人的な体力を持っているわけではない。

 

「うわ!」

「マスター!?」

 

とうとう蜘蛛の糸にとらわれ、地面に倒れ込む翔。

 

「気持ち悪いな! もう!」

 

粘着力のあるそれは、翔を地面に縫い付けたまま剥がれる気配はない。

 

それを見て、もう獲物をしとめた気になっているのか、ゆっくりと蜘蛛が近づく。

 

「あ、まずい」

「マスター! 早く転身を!」

「しょうがないか。いくぞ、ダイヤ!」

 

一瞬で赤い装甲を纏うと、肩に装備されているホーミング式の魔力法を起動させ、今まさにかぶりつこうとしてきたクモを吹き飛ばす。

 

翔はクモの糸を引きちぎり、自分の攻撃の結果を確認する。

 

そして、それを見て顔をしかめた。

 

確かに攻撃は効いていた。クモの顔はえぐれており、紫色の体液も噴き出している。しかしそれは数秒すると元に戻ってしまったのだ。

 

「うわ、が元に戻ったよ……再生スピード半端ないな。ダイヤ、あのクモを分析してくれ。特にあの再生能力をどうにかしたいからそれを優先してな……あ、でも逃げればいいのか?」

 

転身した今ならば逃げ切れるのではないかと持った翔だが、ダイヤに否定される。

 

「やめておいた方がいいです。そう遠くないところからヘリの音が聞こえます。今空を飛んでしまうと、見つかってしまう可能性が高いです」

「そうか、じゃあやめよう。分析はどのくらいで終わる?」

「37秒で終了します」

「OK。じゃあ、僕も少し頑張ってみようか」

 

翔は手足のブースターを使い一瞬で蜘蛛に接近、その顔を殴る。殴られたクモの顔にはヒビがはいり苦しそうな声を上げるが、すぐに傷口がうごめき、再生しようとする。

 

それを見た翔は、その場でサマーソルトキックを繰り出し、蜘蛛の顔を下から蹴り上げる。それだけにとどまらず、両手のリパルサーレイを発射し、前足2本も破壊する。

 

「うん。だめだ。どうしろってんだ」

 

頭をつぶされても、なお再生するクモを見て、翔はため息をついた。

 

「マスター、分析終了しました。あのクモの遺伝子パターンが、私の中にあるどの遺伝子パターンとも一致しませんでした。おそらくこれがあの異常な回復能力を司っているものと思われます。さらにこれを分析した結果、特定の磁場に対して極端に弱いことが判明しました」

「流石だ。で、倒せそう?」

「魔力によりその磁場を再現することで、撃破は可能です」

「じゃあ、よろしく」

「イエス、マスター。再現完了しました」

 

翔は左手から炸裂魔力弾を発射する。

 

それはクモの頭と胴体の半分を吹き飛ばし、生命活動を停止させた。

 

「なんて、あっさり」

「攻撃さえ通れば、大したことはありませんね」

 

と、そこで翔は、半分になったクモの胴体から大きめのケースが飛び出ているのを見つけた。

 

「とっと、あれは何かな?」

 

翔はそれを胴体から引っこ抜く。いやな色の体液まみれになっているそれは、近くにあるだけで吐き気を催してきそうである。

 

「開けてみようかな」

「その前に分析しておきましょう。危険なものなのかもしれません」

 

数秒で終わります。というダイヤの声を聞いた翔は、ゆったりとそれを待とうとした。しかし、その数秒が過ぎる前に新しいトラブルが舞い込んでくる。

 

翔のすぐそばに何かが落ちてきたのだ。その落ちて来たものの正体を見た翔は一言、

 

「空から幼女が落ちてきた?」

「なぜ幼女なんですか? やっぱりマスターは幼女趣味なんですか? でも、それならそれで……」

 

ダイヤは何やらぶつぶつとしゃべりだすが、翔の意識は落ちてきた物体に向いていた。

 

「……おぬしらは何者じゃ? 連太郎と同じプロモーターなのか?」

 

赤い髪をツインテールにした幼女は虚ろな目でぼんやりと翔を見てくるが、翔はそんなことを気にしている余裕はなかった。

 

「やばい、やばいよ。また変な単語が出て来た。しかもあの速度で地面と激突して無傷とか……もう人間じゃないだろ」

「マスター。あの少女からあのクモと同質の遺伝子情報が確認されました。注意してください」

 

翔が何とか愛想笑いで質問をごまかしていると、森の方からツインテールの幼女『藍原 延珠』を追いかけてきた少年『里見 蓮太郎』が姿を現した。

 

「延珠!! 無事か!?」

「……連太郎?」

「バカ野郎!! なんで一人で行ったんだ!!」

「だって、妾は……妾は……ッ!!」

 

延珠はいきなり涙目になり蓮太郎の胸に飛び込んだ。

 

「いや、ちょっと急展開すぎてついていけないですね」

「マスター、言わないでください」

 

ひとしきり泣き止むまで連太郎は延珠をあやし、延珠が落ち着いたところで翔に話かけた。

 

「あんたも民警か? このガストレアはあんたが倒したのか? イニシエーターはどうしたんだ?」

「いえ、えっと……」

 

翔がどうしようか迷っていると、さらに新しい人物が現れる。

 

「これはこれは、また会ったね里見君」

 

タキシードにシルクハット、さらに笑顔を浮かべた仮面をつけた男『蛭子 影胤』。さらに、その後ろをついてくる、黒いドレスを着た延珠と同い年くらいの女の子『蛭子 小比奈』だ。

 

「蛭子 影胤……ッ!!」

 

蓮太郎は影胤を睨みつける。自分の存在が忘れられているのを感じた翔は、そろりそろりとその場を離れようとする。

 

「この状況でなければゆっくりと話したいところだが、今は……」

 

翔はそろそろ飛んで逃げようとして、

 

「君の持っているケースに用がある」

 

影胤の声に動きを止められた。

 

「ッ!! おい、お前!! 早く逃げろ!!」

「素直に私にケースを差し出せば、殺さずに逃がしてあげよう」

「え? え?」

 

ここで、翔の混乱は最高潮に達した。

 

そこで翔は元凶となっているケースを、

 

「て、てりゃーーーー!!!」

 

明後日の方向にぶん投げた。

 

「「「「…………」」」」

「て、てへ☆」

 

後ろにとてつもない殺気を感じた翔は、両手のブースターを使って高速でその場を離れる。直後に、翔のいた場所を2本の黒い剣が通り過ぎた。

 

「避けられた」

 

その剣を操っているのは赤い目を爛々と輝かせた小比奈だ。

 

影胤は子陽菜のもとに歩み寄り頭をなでる。

 

「よしよし。次は私も加勢しよう」

 

そういうと影胤は、自然な動作で懐から悪趣味な装飾のされた拳銃を取り出し、翔に向かって撃つ。

 

物理保護障壁を張る暇すらないその攻撃を、翔は地面に倒れることでなんとな避ける。さらに倒れながらも、リパルサーレイで反撃までして見せた。

 

まさか銃も何も持っていない状態から、この距離で反撃されるとは思わなかった影胤は、後ろの木まで吹き飛ばされる。

 

「パパ!」

 

小比奈はすぐさま影胤に駆け寄る。

 

「威力は絞ってあったよな?」

「はい、直撃してもプロボクサーの打撃程度のはずです」

「結構痛いと思うんだけど?」

 

派手に木に叩きつけられた影胤を見て不安になった翔はダイヤに聞いた。

 

「手から光学兵器、だと? まさかあいつも俺と同じ……」

 

蓮太郎もその様子を見て何かを考え始めた。

 

「くくく、ハハハハハハハハハハハ」

 

突然笑い出した影胤に翔はドン引きする。

 

「素晴らしい。素晴らしいじゃないか!!! まさか同胞に会えるなんて!!」

「え、ちょっと待ちましょう? 何言ってるのかわかんないんですけど!?」

「君は、新人類創造計画の機械化兵士なんだろう!?」

「ッ!!」

 

翔は混乱し、影胤は笑い、蓮太郎は息をのむ。延珠と小比奈は空気になっている。そして影胤の問いに対する翔の答えは、

 

「は? いや、違いますけど?」

 

周囲に微妙な空気が流れる。

 

実は翔はかなりマイペースだ。シリアスブレイカーとも呼ばれている。クウガの世界では一時期自分のペースを見失っていたが、少し経てばいつもの通りになっていた。

 

「……まあいい。君、名前は?」

「夜月 翔です」

「翔君か。君と蓮太郎君には特別に、私の技を見せてあげよう」

 

そう言って影胤は、自分の右腕を指パッチンの形にして前に突き出す。

 

「マキシマム・ペイン!!!」

 

影胤から目には見えない力、『斥力フィールド』が発生し、それは影胤を中心に円形に広がっていく。

 

「マスター!!」

「分かってる!!」

 

翔は即座に撤退を選択。ついでに蓮太郎と延珠を抱えて。足のブースターを器用に使い、普通に走る速度の倍は出して影胤から距離を取った。

 

その後、影胤が姿を表すことはなかった。

 

 




今回から少しずつオリジナル登場キャラや道具の紹介をしていきたいと思います。


名前:夜月翔
年齢:14歳
誕生日:7月8日 / 血液型:O型
身長:160cm / 体重:54kg
好きなもの:甘い物全般 / 苦手なもの:お化け
天敵:ゼルレッチ

説明
この物語の主人公。11歳の時にゼルレッチの弟子になり日本から時計塔に移住、わずか2年の間で魔術論理と魔法論理を完全に覚えた鬼才。特に礼装の製作技術はゼルレッチに迫るものになっている。足りないのは経験。唯一の欠点は、代続きしていない魔術師なため魔術回路の数は20本しかないという事。
性格は超絶マイペース。ゼルレッチにたびたびほかの世界に連れまわされたせいであわ沿い事には慣れている。クウガの世界にいた時は初の一人での世界移動という事で少し緊張していたため、この性格はあまり出ていなかった。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。