翔は病院のベッドで目を覚ました。
「良かった、生きてたか」
「そこまで深い傷ではありませんでしたからね。ここに搬送される頃には血管は繋がっていましたよ」
「アーマーのおかげで命拾いしたのか」
「ムッ、マスターは私の治癒魔法をバカにしてますか? 私の治癒魔法のおかげです! 感謝するなら撫でてください」
「はいはい。それでさ、質問があるんだけど」
「なんですか?」
翔はダイヤの頭をなでながら問う。
「なんでダイヤも布団に入ってるの? いや、別にいいんだけどさ」
「治癒魔法の為には、マスターと接触していないといけませんから」
それなら、手を握ってるだけでもいい気がするんだけどなぁと、翔は内心首をかしげる。そのうちこれはこれで得役か、と納得した。
ダイヤの人型モードは人とほとんど変わりない。違いは食事と排泄が必要ないことだ。睡眠は魔力の節約という建前で(そもそも魔力は無限に得ることが出来る)それっぽいことはできるが、必要不可欠というわけではない。
それ以外は普通の少女と何ら変わりない。つまり柔らかい肌や、甘い息遣いは本物と変わりないのだ。それが甘えるようにすり寄ってくるのだ。魔法を学ぶ過程で魔術も一通りかじった翔は、男女間の『そういうこと』についても調べる機会があった。魔術には、そういう行為を利用するものもあったからだ。翔も男の子、こういう事には興味がある。
そういうわけで、頭を撫でていた手を背中に回そうかなんて考えていた翔は、病室の扉が開く音に我に返った。
「……お邪魔だったかな?」
病室に入ってきた男性は、一緒にベッドに入っている翔とダイヤから目を逸らす。それに対して翔は、全く気にしてない様子だ。
「いえいえ、そんなことは。ほら、ダイヤ」
翔に促され、ダイヤは名残惜しそうにモゾモゾとベッドから抜け出す。
「俺は椿 秀一。ここで解剖医をしている。君の事は聞いてるから安心してほしい。ほかの職員には、ナースコール以外ではこの病室には入らないように言ってあるから」
「ありがとうございます。それで、未確認生命体はどうなりました?」
椿は顔をしかめて黙り込む。
「逃げられた。いや、見逃してもらったというべきだな」
「見逃して……?」
「五代は今、意識不明の重体だ。隣の部屋で寝ている」
その言葉に翔は目の前が暗くなるような気がした。それほどに雄介の敗北が信じられなかったのだ。
翔は数日この世界で過ごしたなかで、周囲の人が雄介に寄せる信頼を感じ取っていた。彼に任せておけば大丈夫という信頼だ。
しかし、雄介は負けた。
「五代さんは……大丈夫なんですか?」
「どうだろうな……今は心停止しているが……」
「心停止!? それ、ダメってことなんじゃありません?」
「前にも心臓が止まったことはあったからな」
「五代さんが人間じゃないような気がしてきたんですけど」
五代のタフさに若干引き気味になる翔。
「これからどうなるんでしょうね。もし、五代さんが目を覚まさなかったら」
「ん? ああ、五代の目を覚まさせる方法は考えてあるんだ。ただ、それをすると何が起こるかわからなくてな」
「いったい何をする気ですか?」
「電気ショックだ」
「へ?」
何が来ても驚かないぞ、と身構えていた翔に告げられたのは医療行為としてはごく普通の方法だった。
何故ためらっているのかの理由が分からない翔は、
「別に何も起こらないんじゃないですか? 電気ショックくらいじゃ」
「前にも心停止したことがあると言っただろう。その時も電気ショックをしたんだ」
「だったらなおさら早くしないと。心停止って時間との闘いじゃないんですか?」
「……あいつはあの時、電気ショックのお蔭で目を覚ましたわけじゃないんだ」
椿は語りだした。五代が未確認生命体第26号『メ・ギノガ・デ』との戦いで瀕死の重傷を負った時の話を。
メ・ギノガ・デはキノコの能力を持つグロンギで、この能力を使いクウガを一度戦闘不能にした。
クウガが一度グロンギに負けることはそれまで何回もあったが、この時は心臓まで停止して本当に五代の死亡が確認された。
その時の蘇生の処置として心臓への電気ショックが行われたのだ。
幸いにも、五代のお腹の中にあるアマダムのお蔭で復活を果たしたが、そのあとある変化が起こり始めた。戦っている最中に謎の放電現象が起こり始めたのだ。
その結果発言したのが『ライジングフォーム』だ。
電気ショックによりアマダムが変異し、アマダムに眠っていた力が解放されたのだ。
椿は語る。
「だから、今度の電気ショックでも何らかの変異が起こる可能性がある。だからむやみに出来ないんだ」
「そうだったんですか……」
話を聞き終わって黙り込む翔。しかし、椿の話はまだ終わっていなかった。
「それにクウガの力と、未確認生命体の力は、同じものなんだ」
「どういう事ですか?」
「最近ヤツらの死体を手に入れることが出来て、解剖したんだが、ヤツらの腹の中にも五代の腹の中にある石と同じようなものが埋め込まれていたんだ」
その言葉に翔は思い当たることがあった。
ゴ・バベル・ダは自らの装飾品をハンマーに変え、クウガは警官の銃をボウガンに変えていた。この2つはあまりに似通っている。
「このままだと五代はヤツらと同じ存在になるかも知れない」
「……なんでそこまでして戦うんですかね、五代さんは」
数日前にも同じようなことを話したことを思い出して翔はつぶやく。
「みんなの笑顔を守るためだろ。いつもそう言ってる」
「……じゃあ、今回の心停止も五代さんが電気ショックをやってもらうために自分でやってるのかもしれませんね」
「なに?」
「みんなを守るために、今の自分じゃ勝てないとわかったから、もっと強くなるために」
翔は、小さい声でぼそぼそという。
「なるほど……」
椿は顎に手を当てて考える。翔も、ある決意をしていた。
「それじゃあ、翔君、一応明後日まではいられるようになってるから」
それからすぐに椿は病室から出て行った。
「ダイヤ」
「はい」
「すぐに調整を始める。画面を出せ」
翔は決意した。自分のやるべきこと、やらなければいけないこと、やりたいことをやり遂げる決意を。
デバイス状態になったダイヤが出したアーマー調節画面に、翔は向かっていった。
翔はそれから徹夜で作業をし続けた。作業が終わった明け方には眠気がピークになり、終わった瞬間に寝てしまうほどの集中っぷりだ。そして再び目を覚ましたころには、あたりは暗くなっていた。
「日中丸々寝ちゃったか。ダイヤ、どうだ?」
「はい、データ構築、完全に終了しました」
よし、と翔は頷く。と、窓の外から何度か聞いた音が聞こえた。五代のバイク『ビートチェイサー2000』の音だ。
「五代さん? 目が覚めたのかな」
翔が窓にかかっているカーテンをめくって外を見ると、駐車場を出て行くビートチェイサー2000が見えた。
流石に、乗っていたのが五代だったのかわかなかった翔は、隣の病室に行こうと、自身の病室から出る。
ちょうどそこには桜子と椿がいた。
「あ、翔君、怪我は大丈夫なの?」
「はい。それよりも五代さんは?」
「少し前に目を覚まして、連絡があったから出てったよ」
「場所は分かりますか?」
「セントラルアリーナだと言っていたな……行くのかい?」
その言葉に翔は笑って返す。
「はい、自分がやりたいことが見つかりましたから」
翔は右手の相棒を握りしめた。
「行ってきます」
一条はセントラルアリーナの中にいた。付近の住民からの通報でここに来て突入しようとしたところ、中から未確認生命体第47号が飛び去って行った。一緒に来ていた刑事2人に47号は任せて、セントラルアリーナには一条一人で突入したというわけだ。
暗いアリーナ内を慎重に進んでいく一条。手にある拳銃には科捜研から届いた新型の神経断裂弾が4発装填されている。
一条はアリーナの客席に出る。
突然、陰になっていた部分から未確認生命体第46号が現れ、一条に裏拳を食らわせる。
その衝撃に一条は階段を踏み外す。が、同時に拳銃でねらいをつけ、撃った。
3発の弾丸は全て46号に命中する。
クウガの攻撃でも倒れなかった46号は、数秒の痙攣の後、動かなくなった。たった3発の弾丸に倒れ伏したのだ。残る1発を頭に打ち込んでとどめを指そうとする。
そこに思わぬ人物が姿を現した。
「B1号……!」
額に白いバラのタトゥーがある女性、彼女もグロンギの一人である。たびたび一条の前に姿を現し、意味深な言葉を残していく謎が多い存在だ。
「リントはやがて、我々と等しくなりそうだな」
投げかけられる言葉に目を細めながら銃口を向ける一条だったが、46号から意識をそらしたのは間違いだった。
倒れていた46号が起き上がったのだ。
46号、『ゴ・ガドル・バ』はグロンギの中でも最強に近い実力を持っている。神経断裂弾を喰らってもすぐに復活できたのはゴ・ガドル・バの高い能力があってこそだ。
首を絞められ拳銃を落としてしまう一条。そのまま投げ飛ばされ、叩きつけられてしまう。
ゴ・ガドル・バは剣を作り出し迫る。一条の命を刈り取るために。
一条は痛む体を引きずって何とか逃げようとするが、その速度は亀の歩みだ。
こんな状況で、彼らが来ないわけがない。
一条の後ろから猛スピードで迫ってきたビートチェイサー2000にゴ・ガドル・バは撥ねられる。
さらに追い打ちとしてリパルサーレイがゴ・ガドル・バを捉える。
「一条さん!!」
「五代、翔君……」
バイクから降りてヘルメットを取った雄介が一条に駆け寄る。
「変身!!」
五代はゴ・ガドル・バを見据えながらクウガに変身する。
「五代……お前……」
一条は始めからライジングフォームに変身している翔に驚く。クウガは2度目の電気ショックのお蔭で、30秒間しかなれなかったライジングフォームに時間制限なしで変身できるようになったのだ。
「ずっと金でいけそうです。一条さんは速く逃げてください」
「この周辺の雑木林が追い込みポイントだ。俺は周辺の非難を徹底させる」
「お願いします!」
そう言って離れていく一条を見送りながら、翔は五代に告げる。自分の思いを。
「五代さん」
「なに?」
「僕、今まで誰かのために戦うなんて考えたこともありませんでした。いや、ちょっと違うかな。誰かのことを本気で、自分の命をかけても守りたいと思ったことはありませんでした」
ゴ・ガドル・バとの距離がなくなり、格闘戦になる。
「これから僕は色々な世界を旅します! そこにはきっと、理不尽なことで泣いている人たちがたくさんいます! そんな人たちの力になりたい。支えになりたい。そんな人たちを笑顔にしたい! それが僕のやりたいことなんです! だから!!」
両手のリパルサーレイと、あまり魔力チャージをしていないユニビームを同時に放つ。
「だから見ていてください、僕の、変身」
翔は五代と同じポーズをとる。
「クウガアーマー、展開します!」
ダイヤの声と共に、新しいパーツがリアクターから飛び出してくる。
それらは翔の体の各部に装着される。外見はどことなくクウガに似ている。翔の目には『ver KUGA』と表示されている。
これがカレイドアーマーの最後の能力、その応用である。大本の能力は、平行世界とリンクしての超絶的な分析能力だ。その性能は、ゼルレッチの魔術礼装を完全解析できるほど。
その分析能力を生かして、クウガのアマダムを分析、解明したうえで、アマダムの力を再現したアーマーを作り上げたのだ。無限の魔力をもってすれば、その程度はたやすいものだ。
クウガアーマーは、基本の追加装甲による防御力のアップと、流れる魔力量の調節による身体能力の強化のほかに、3つの能力がある。
まずは、フォームチェンジ。この機能により、瞬時に各部への能力値の割り振りを変化させることが出来る。
次に、モーフィングパワー。これは、クウガの物とは違い、どのフォームでも様々な武器を作り出すことが出来る。例を挙げれば、ペガサスフォームでも剣を作ることが出来るという事だ。
最後は、ライジングフォーム。少しの間魔力炉をオーバーロードさせることで、パワーを上昇させるシステムだ。
総合的には万能型のアーマーである。
2人のクウガとなった翔たちは、一条言われた通りに、雑木林までゴ・ガドル・バを誘導する。
ゴ・ガドル・バから金色の雷が発生し、徐々にその姿を変化させていく。ゴ・ガドル・バのライジングフォームだ。
翔とクウガはうなずき合う。
翔はライジングフォームモードを起動する。クウガ装甲に金色のラインが入る。
一方クウガにもゴ・ガドル・バと同じように金色の雷が発生する。右足にしかなかったマイティアンクレットが左足にも表れ、ボディが黒に変わる。
土壇場でクウガは更なる進化を遂げ、アメイジングマイティフォームとなったのだ。
ゴ・ガドル・バは強い、が、翔たちは2人だ。負けるわけがない。
ゴ・ガドル・バのゼンゲビ・ビブブ(電撃キック)と、クウガのアメイジングマイティキック、そして翔のライジングマイティキックがぶつかり合う。
そして。
一条はアリーナの外で避難誘導をしているさなか、それを見た。
とてつもない火柱が雑木林から上がったのだ。
それを見た一条は、顔をほころばせるのだった。
2日後、翔は荷物をまとめた翔はお世話になった人たちに挨拶をしていた。
「今までありがとうございました」
「気をつけろよ」
「風邪ひくなよ!」
「けがするなよ!」
一度しか会っていなかった未確認生命体合同捜査本部の人たちも、翔の旅立ちには駆けつけてくれた。
「俺からはこれ」
五代は、自分が来ている物と同じクウガマークのシャツを差し出した。
「ありがとうございます……皆さん、今日まで、本当にありがとうございました!!」
クウガマークの入ったシャツを胸に抱き、翔は次なる世界に旅立った。
旅は始まったばかりだ。
アーマーの性能はそのうちまとめたいと思います。
今回でクウガの世界も終わりです。
次の世界はブラックブレット。
ハーレムだし、そろそろダイヤ以外のヒロインも出しますか。