魔法使いの弟子 ~並行世界を巡る旅~   作:文房具

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亀更新とは一体何か。

ちなみに時系列はTV本編第42話からとなります。


クウガの世界
第1話 始動


翔を包んでいた光が晴れると、彼はビルとビルの間の路地にいた。

 

「っと、平行世界到着か」

「はい、マスター。無事到着いたしました」

 

翔の頭の中に響くダイヤの声が相槌を打つ。

 

翔はアーマーを解除し、ダイヤは人型になる。少し散策してみることにしたのだ。

 

しばらく歩くが、目に映るのは人とビルと車だけなので翔はたまらず呟く。

 

「ここ、日本なんだな。平行世界っていうからどんなんかと思ったけど、案外普通なもんだ」

「そういえばマスターは日本出身でしたね。ここはそういう世界なのでしょう。神秘なんて存在しない世界だってあるという事です。ところでマスター、今日はどうするのですか?」

「どうする、とは?」

「食事やら寝床やらですが?」

「まあ、適当に、お金も向こうのしか無いしなぁ。銀行いかないとな」

 

それを聞いたダイヤは大きくため息をついた。

 

「それで大丈夫ですか?」

「ちょっと後悔してるかも。最悪、ダイヤがいれば外でも快適に過ごせるけど、食べ物は無理だし」

「野垂れ死にはやめてくださいね。マスターが死んだら私も後を追いますから」

「はいはい。頑張るよ……りあえずどっかはいるか、寒いし」

 

アーマーを着れば魔法で温度調節はいくらでもできるが、この人通りの多い所でアーマーを着る気にはなれない。

 

翔はとりあえずあったかい場所に、と思い近くの建物に足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター! マスター! 食べ物がたくさんありますね!!」

「そうだね」

 

翔たちはエスカレーターに乗り、上の階を目指す。

 

「マスター! マスター! 今度は服がたくさんありますよ!!」

「分かった、分かったから少し静かにしてくれ」

 

ダイヤは、翔が1ヶ月前に製造してから時計塔の外には出たことがない。初めての外の大はしゃぎなのだ。

 

一方、翔の方も、日用品はゼルレッチに支給されていたため、外に出る機会がほとんどなく、この大きさのデパートに来るのは、ゼルレッチの弟子になった12歳以来およそ2年ぶりだ。

 

そういうわけもあって日本語をしっかり読めるか少し心配だったのだが、

 

(日本語、ちゃんと読めるな)

 

翔はほっと胸をなでおろす。

 

不安が解消されて気が緩んだのか、袖を引っ張られていたことに気付く。

 

「マスター! 聞いてるんですか!?」

「ああ、聞いて無かったよ。なに?」

「見て下さい」

 

ダイヤに言われて周りを見てみると、人が同じ方向に走っていくのに気が付く。

 

「なんだろうね」

 

翔は走り去っていく人を見てみる、その顔すべてが、恐怖に歪んでいることが分かりただ事ではないことを知った。

 

「あ、マスター! あれを見てください!」

 

翔はダイヤが指差した方を見る。そこには、バッファロー種怪人『ゴ・バベル・ダ』がいた。

 

もちろん名前まで走らない2人は首をかしげている。

 

「着ぐるみショーかな」

「そんなわけないでしょう! あそこに倒れている人たち、どう見てもあいつの仕業ですよ! マスターは、あれを見て平気なんですか?」

 

ダイヤが言っているのは,顔がズタズタになって首が変な方向を向いている人たちの事だ。

 

一般人が見たならば即座に嘔吐する能な光景を見ても、翔の顔色にあまり変化はない。

 

「平気じゃないけど……見たことはあるしな。じゃあ、そろそろ行こうか」

「逃げるんですか? それとも、戦うんですか?」

「もちろん戦う。なるべく早いうちに慣れておかないと、もしもがあったらいやだしね」

「分かりました、マスター」

 

ダイヤが光り輝き、やがて細かな粒子になる。それらは翔の体を包みアーマーを作り出した。

 

その間ゴ・バベル・ダは律儀に止まってくれている。

 

おそらく変身中は攻撃してはいけないというのを分かって……いるわけではなく、単に興味を持ったからだ。

 

装着が完了し、胸の中心にある魔力炉の光が増す。平行世界からの魔力供給が増したのだ。目のディスプレイにアーマーの装着が完了したことが表示される。

 

このアーマーは、翔が自作した第二魔法『平行世界の運営』を使用するためのものである。

 

原型は、半年程前にゼルレッチに見せてもらった『カレイドステッキ』である。翔はこれを見て自分なりに分析、強化してこのアーマーさしずめ『カレイドアーマー』を作り上げたのだ。

 

よってカレイドアーマーは、翔が見たカレイドステッキの弱点の大部分が解消されている。

 

まず大きな弱点として、ステッキがマスターの手を30秒以上離れる、もしくは50メートル以上離れると転身が強制解除される、というものがある。

 

この問題を解決するために、翔は『アーマー』にしたのだ。つまり、肌身離さず持ってる必要があるなら、最初から身に付けていればいいという発想だ。

 

次に、魔力補充のためには一度転身を解除しなければならないという点。カレイドステッキは、第二魔法を使っているため、基本的には魔力は無限に使うことが出来る。しかし、魔力補充のためには一度転身を解除しなければならなかったのだ。ここは純粋に機能自体を改良した。

 

次に、カレイドステッキに宿っている精霊の人格に問題があったという事だ。そこで、翔が精霊を造る際には、細心の注意を払いなるべくマスターに従順なようにした。もっとも、従順というより、マスター大好きっ娘になってしまったが。

 

最後に、カレイドステッキの容量の多くを占めていたた数々の無駄な機能を違うことに利用することだ。ここには第二魔法を利用したとある機能を搭載してある。

 

「それにしても、初戦闘があんなバケモノなんてマスターはついてないですね」

「いや、見方によっては人じゃなくて良かったかもしれないぞ」

「やっぱり、普通じゃありませんよ、マスターは」

「はいはい。さて、じゃあ攻撃開始だ。魔力管理、頼むぞ」

「イエス、マスター」

 

このアーマーを製作するにあたり、翔は某アメコミの鉄の男をイメージした。明確なイメージがあった方が初回の起動に便利だったのだが、これを見たゼルレッチは大笑いしたのだ。何でも神秘を扱うものが、科学技術が振りきれている物をモデルに礼装を作るのがおかしかったとか。最終的には慣れたようだが。

 

軽く両手を開く翔。そして右手を突きだし、掌に装備されている光学兵器、『リパルサーレイ』を発射しようとする。

 

次の瞬間、手のひらから白いビームが発射される。

 

ゴ・バベル・ダは突然の攻撃に踏ん張ることもできず、通路を挟んで向こう側にある衣服売り場に吹き飛ばされ、服を巻き込んで派手に倒れる。

 

「お、ちゃんと出たな。動作に不具合なし」

 

発射しろと思ってすぐ発射できたことに安堵する翔。

 

翔の武装は両掌の『リパルサーレイ』、左前腕部に炸裂式の魔力弾、右前腕部に近接打撃の補助機能、肩に自動ホーミング機能の付いた砲台計12発、さらに胸部の『ユニ・ビーム』だ。

 

「でも、あまり効いてないみたいですね」

 

ダイヤの言葉通り、ゴ・バベル・ダはすぐさま立ち上がり、翔に向かって走り出す。

 

それを見た翔は、今度は両手でリパルサーレイを発射する。

 

それらは再び命中するが、今度は30センチほど後ろに下がるだけで、すぐにまた走り出す。

 

「ッ!!」

 

そしてそのまま格闘戦にもつれ込む。

 

翔の格闘の実力は、時計塔の魔術師の中で格闘の技術の上位20パーセントの人とそれなりに戦えるくらいだ。現代の魔術師がソッチの方面もそれなりに学んでいることを考えると、なかなかの実力であると言える。

 

しかしゴ・バベル・ダも負けていない。翔に撃たれても撃たれても構わずに拳を繰り出してくる。

 

やがてそれは、翔の体をとらえた。

 

「ガッ!!」

 

今度は翔が服を巻き込んで倒れることになった。そこに大きく飛んだゴ・バベル・ダが翔を踏みつけようとする。

 

翔はスラスターを起動させることでそれを回避、一度距離を取る。

 

「痛い痛い。ずいぶんタフだな、あいつも」

「装甲に凹みを確認。修復します」

「ありがとう。よし、武器、使ってみるか」

 

右のアーマーから機械的な音が聞こえ、その武器が作動する。

 

「こいつで行くか」

 

スラスターの勢いを合わせたその打撃は、ゴ・バベル・ダにめり込み、ゴ・バベル・ダは初めて苦痛の声を漏らす。

 

魔力を放出することで打撃の威力を上げる右手は、魔力の尾を引き、次々とたたき込まれていく。

 

「らあ!!!」

 

気合を入れて放った拳でゴ・バベル・ダを殴り飛ばし、左手を向ける。前腕部からせり上がった砲口から、魔力弾が発射される。

 

着弾したそれは周囲10メートルをば爆風にさらした。翔は物理保護と耐熱保護で自身の身を守る。

 

「どうだろうな?」

「どうでしょうね」

 

人間ならとっくに死んでいるほどの攻撃だ。無傷じゃなければいいなー、と翔は呑気に考えている。

 

爆風が晴れると、大の字に寝転んでいるゴ・バベル・ダが翔の視界に入った。そしてゆっくりと起き上がりしっかりと2本の足で立ち上がる。

 

「お前、クウガじゃないな?」

「はあ?」

 

突然言葉を掛けられ、翔は間抜けな声を出してしまう。

 

「リントがここまで強くなっているとはな」

「何言ってるのか、ちょっとわからないんですけど」

 

クウガ? リント? いったいなんのこっちゃ、首を練る翔だったがゴ・バベル・ダは説明する気はない。

 

ゴ・バベル・ダは、くつくつと笑っている。すると突然、ゴ・バベル・ダの体に変化が起こる。色が微妙に変わったのだ。さらに胸についていた装飾を外すとそれがハンマーに変化する。

 

「うわ、何それ」

 

ゴ・バベル・ダが振り上げたハンマーは、デパートの床を砕き、陥没させる。

 

「マスター気を付けてください。物理保護なしに直撃すれば、骨が砕けます」

「やめてくれよ、ダイヤ」

 

翔は冷静に攻撃を見切る。威力は脅威だが、思いっきり振り切っている分、一度話躱せば二度目はない。

 

そう判断し、避けることに集中する。ギリギリで避け、ゴ・バベル・ダの胴を掴み足のすらすら―を最大出力で噴射する。翔とゴ・バベル・ダはすさまじい速度で天井を突き破り、物の数秒で屋上に達する。狭い場所でハンマーを振るわれるよりは、広い場所の方がいいを思ったからだ。

 

「さて、さて、ユニビームで消し炭になってもらいますか」

 

自身の最大火力を上手く当てるために、どうやって隙を作ろうかと思案しようとすると、目の前に人が着地した。

 

「ふぁ! え、何? 新手?」

 

そう翔が判断したのは仕方がなかった。目の前に着地した人は、胴体が青く、顔は青い複眼にクワガタのような角があったからだ。

 

「え? うわ! 君、なんでこんなところに!?」

 

驚いたのは翔だけではなく、突然現れた青い方もだった。

 

翔と青い奴は互いに互いをじろじろと観察していたが、それはそう長くは続かなかった。

 

「ちょ! 危ない!」

 

翔はそれに気付き、横に転がる。一瞬遅れて青い奴も翔とは反対に転がり、危険の原因であるゴ・バベル・ダのハンマーを紙一重絵で避ける。

 

そして、ゴ・バベル・ダは、青い奴を見て一言。

 

「現れたなクウガ」

 

と言ったのだった。

 


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