閃光の中へと   作:てんぞー

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ルウム戦役

 光が瞬いては消えて行く。

 

 そんな地獄の中を自分も駆けている。

 

 手足の代わりに動くのは巨大な鋼鉄であり、動力炉が心臓の代わりに力を鋼鉄の体へと送り込んでいる。何度も触れ、そして訓練してきた動きについてくるように、操縦桿の動きに鋼鉄の体がついてくる。バーニア調整、出力のチェック、バランサー、全てを確認しながら機体を動かす。複雑な機械の機構は覚えるまでに非常に苦労したが、それでも積み重ねてきたものは決して裏切らないと理解している。だからヘルメットの下で深呼吸を繰り返しながら、機体を―――ザクを動かす。

 

 ザクが入力に応える。ワイヤーという神経を通して全身に指令を送り込みながら反応するザクは宇宙という広大な上下の存在しない空間を自由にそのバーニアを利用して泳ぐ。宇宙における移動で燃料は使い切ってはいけない。その事を念頭に置き、消費量が少ない様に一瞬だけブーストを連続で放つ事で細かい加速を重ね、それでスピードを徐々に上げて行き、慣性に任せてザクを移動させる。正面には宇宙に浮かぶ戦闘機の姿が―――セイバーフフィッシュの姿が見える。その姿を見て憐れむ。

 

「可哀想に―――なんて同情するのは間違っているな」

 

 四機で編成を組まれているセイバーフィッシュ、これが旧来の状況であれば、間違いなくピンチだった。だが違う、時代が変わってしまった。冷静にザクに握らせている二つのヒートホークを構えながら正面から囲む様に散開したセイバーフィッシュをモニターと気配で捉え、即座に一番手身近かなセイバーフィッシュへとヒートホークを一つ、投擲する。ヒートホークが突き刺さったセイバーフィッシュが一機爆散し、ヒートホークの柄に結び付けていたワイヤーを引き戻し、手元に武器を引き寄せながら、放たれてくる三機の機銃での攻撃を回避する。宇宙空間という三次元的な動きが出来る環境である為、隠れる事は出来ないが、逃げる事は容易にできる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ―――」

 

 動け、動き続けろ。宇宙空間では動きを邪魔するものはない。故に止めようと思わなければ、何時までも機体は動き続ける、何かにぶつかるまでは。だからそれを利用し、常に動き続ける。スラスターとバーニアを利用して微調整を行いながらザクをオーバーヒートさせない様に熱量を注意しつつ慣性と瞬間加速による回避を行い、射線を確保するセイバーフィッシュ、その進路の上に設置する様にヒートホークを投擲し―――再びセイバーフィッシュが爆散する。

 

「残り、二機―――」

 

 息を吐きながらザクを動かす。止まったら相手が雑魚であろうと殺される。だから絶対に動きを止めてはいけないと、教官が教えてくれた。それを実践する様に速度を落とす事無く移動し、迫ってくるセイバーフィッシュを回避しながらその横から蹴り飛ばし、離れた位置でヒートホークを投擲して回収し、最後のセイバーフィッシュも同様に処理する。四機である間は警戒する必要があるが、数が減ればそこまで恐ろしくはない―――ザクの方が強いのだから。

 

「ヒートホークで戦っている間は弾薬が節約できるな」

 

 乱戦に突入して補給が難しい今、なるべく弾薬は節約しておきたい―――元から格闘戦の方が上手い。そこまで心配したものではないが……それでも一緒にいた仲間が被弾して下がった結果、こうやって前に出ているのが自分のみとなると少し寂しく、怖くもある。いや、この戦場には自分と同じように戦っている多くの仲間がいるのだ、決して一人ではない、一人で戦争は勝てないのだ。息を吐き、呼吸を整えながらヒートホークを格納し、そして背に背負う様に装着してあるバズーカを手に取る。ジャミングが酷くて通信が通らない―――セイバーフィッシュの残骸を超えた先には連邦の戦艦が見える。システムのロックを使えば相手に気取られる。故に周りに浮かんでいるデブリの影に隠れながらザクバズーカを背負い、

 

 そして目測で照準を合わせ、引き金を引いた。

 

 バズーカから放たれた弾頭が宇宙空間で遮られるものもなく、悠々と戦艦へと向かって突き進む。その光景を素早く離脱する様に動きながら眺める。迫ってくる弾頭に気付いた戦艦は直ぐ迎撃を開始するが、それでもそれには遅すぎた。弾頭の有効圏内に入ってから迎撃された弾頭は爆裂し、そして破壊の光を宇宙に生み出す。一気に空間を喰う様に広がる光は逃げ出そうとする戦艦を飲み込み、そしてさらに広がって行く。その光が更にセイバーフィッシュ等を飲みこんで死を広げる姿に、息を吐く。

 

「また死んだ、いっぱい死んだ……あぁ、殺したな……」

 

 バズーカを背中のラッチへと戻し、そして再びヒートホークを握る。核弾頭による破壊はこの戦場での最強の兵器だが、無差別に破壊を巻き起こす所がスマートではなく、好きじゃない。だからこれに頼るのは戦艦を落とす時のみ、と決めているが―――どうなのだろうか、一体何隻沈めたのだろうか? 何人殺したのだろうか? どれだけ死んだのだろうか? 序盤は数の問題で押され気味だったが、今となっては数はイーブン、そして確実に性能差で此方が押し込んでいる。このまま押し込めば確実に宇宙の覇権はジオンが握る事になる。それを確信させる流れが出来上がっていた。

 

 だから戦い続けなくてはならない。

 

 兵は死地へ。

 

 死中に活あり。

 

「見つけた……マゼラン級戦艦だな。敵だ」

 

 ヒートホークを格納し、バズーカを背負い直す。が、今回は相手に捕捉されたらしく、迎撃放火が此方へと向けられ、セイバーフィッシュの出動も見られる。この状況でバズーカを放てば自分もまきこまれる。舌打ちしつつバズーカを戻し、そしてヒートホークを二つとも握る。そのままバーニアを吹かし、更に加速しながらマゼラン級戦艦へと向かって接近する。此方へと向けて放たれてくる迎撃放火、それには死角が存在する。戦艦の下部は表層部よりも比較的に少なくなっている為、そこへと回り込む様に大きく回り込む。追いかけてくる様についてくるセイバーフィッシュの姿を見て、ここが弾薬の消費どころだと判断する。左手のヒートホークを格納しながらマシンガンを手に取り、一切速度を落とさないまま、弾丸を後方へとばらまく。後ろから迫ってくるセイバーフィッシュにそうやって牽制しつつ、正面のマゼラン級戦艦へと一気に接近する。

 

「そこだっ!」

 

 核弾頭の爆破範囲に入る。これで自分が死んでも、核爆破で諸共殺せる。そう思うと少しは心が楽かもしれない。そう思いつつ一気に上昇する様に踏み込み、セイバーフィッシュを振り切りながらマゼラン級の正面へと回り込み、迎撃を振り切りながら艦橋を目視する。

 

「落ちろ」

 

 片足を甲板の上に乗せ、ヒートホークを投擲しながら全力でワンステップを取る様に甲板を蹴り、跳躍する。その跳躍で更に仮想しながらヒートホークをワイヤーを引っ張る事で回収し、手元へと戻す。艦橋へと視線を向ければ、完全に破壊されたマゼラン級の艦橋が見え、もはや迎撃の放火は放たれてこない―――指揮の人間が死んでいるからだ。これ以上攻撃を加え、無駄に殺す必要もない。跳躍から得た反動でザクが更に加速する。そこから発生するGが体に襲い掛かるが、他人よりは体を鍛えているという自負がある。それに任せ速度を緩める事無くバズーカへと握り替え、セイバーフィッシュから逃げる様に飛翔する。

 

「追って来るなら仕方がない、か」

 

 速度を殺さない様に気を付けながら振り返り、左手で握ってるマシンガンを放つ。ばらまく様に放ったそれをセイバーフィッシュが回避し、即座にマシンガンを放棄しながらヒートホークを投擲し、それを突き刺して破壊する。そうやって追っ手を破壊しつつ、再び武装を回収し、次の獲物を求めて更にさまよい、叩き続ける。

 

「ふぅ……ふぅ……部隊の皆はどこだっけ……他の皆はどこだ……」

 

 見えない。味方はどこだ。はぐれた? いや、違う、そういえば皆沈んだんだった。何処かと合流しなくては。一人で戦っていても生き残れない。今はまだ燃料も弾薬もあるがいいが、叩き続ければその内戻れなくなってしまう。その前にどこかの部隊と合流したい―――あるいは一番派手に争っている所へと突っ込むのも悪くはないかもしれない。生き残りたい。敵を殺さなくてはならない―――功績も必要だ。功績があればある程度は自由が得られるのだから。

 

「沈んだ分も……戦わなきゃな……」

 

 功績がなかったら今の様に、孤独に死ぬまで戦い続けるのみだ。

 

 だから、戦い続けなくては。更に戦艦を落とす。全ての戦艦が消え去るまで、敵が地平から消え去るまで叩き続ける。

 

「敵は……敵はどこだ。もっと戦わなきゃ―――」

 

 敵を求める。修羅である事を否定しない。戦いを拒否しない。敵を求めて、そして合流できる部隊を求めて宇宙空間を飛翔すると、獲物として破壊しようと思ったサラミス級巡洋艦に赤い姿が取りつき、一閃で艦橋を破壊し、そして離れる姿が見える。自分よりも遥かに洗練され、そして美しいとも評価できる一連の動き、それを見て思わず動きを止める。

 

『此方シャア・アズナブル中尉。どうやら獲物を奪ってしまったようだな』

 

 何時の間にか赤い機体―――赤いザクの視線は此方へと向けられており、そして通信が繋げられていた。は、っとしながら思考を動かす。相手は上官だ。失礼のないようにしなくてはならない。

 

「ハッ! 此方ムカイ・ユウ曹長であります!」

 

『一人の様に見えるが作戦行動中かね?』

 

「いえ、恐らくは自分を除いて仲間は沈んだようです。連絡も出来ないのでどこかに合流しようかと思っておりまして」

 

『成程。ならば私と来るが良い、これから連邦の戦艦を落としに行くぞ』

 

「ハッ、了解しました! これよりアズナブル中尉の指示に従い、行動します」

 

『そう硬くなる必要はない……行くぞ』

 

 シャアに従う他のザク―――つまりはザクⅡに従い、宇宙空間を飛翔する。狙うのは勿論連邦軍の主力となっているマゼラン級戦艦とサラミス級巡洋艦。これを潰せば潰す程ジオンの有利に戦況が傾く。故に見かけたサラミス級巡洋艦へと、一気に接近する。

 

『切り込む、援護は任せたぞ』

 

「了解しました」

 

 他の隊員と声を合わせて返答し、牽制にマシンガンを抜き、セイバーフィッシュがシャアのザクへと接近できないように弾幕を張る。だが、そんな事は元からする必要はない。視界の中、スクリーンに映し出されるシャアの動きは圧倒的だった。まるで頭の後ろに目がついているかのように弾丸を回避し、最小限の動きで回避しながら一気に接近し、そのまま滑るように甲板の上を移動しつつヒートホークで艦橋を両断し、一瞬で離脱する。あまりにも鮮やかすぎるその手並みはもはやだれの援護も必要ない―――たった一人で戦艦の巡洋艦も鎮める事の出来る、この戦場のエースである事を証明する動きだった。

 

「お見事です中尉」

 

『少々派手が過ぎたかもしれないがな。戦場の推移が気になる。どこか大きな部隊と合流する』

 

「ハッ!」

 

 頭の奥にこびり付く敵を殺せと言う上官と同僚達の声を振り払いながら、シャアに従って宇宙を飛翔して行く。その瞬間も大量の光が瞬き、命が流れる様に失われて行く。ここは戦場、ジオンと連邦軍が命を懸けて戦う戦場。数で圧倒的に勝っている連邦を倒す為には、ジオンは、手段を選べない。この戦場における大量の核弾頭の投入もそれが理由の一つだ。モビルスーツの圧倒的機動力に核弾頭を与えれば、簡単に地獄が生み出せる。

 

 その結果がこれだ。

 

 果たしてこの光景は正しいのだろうか? いや、正しい訳がない。だが軍人にそれを考える事も問う事も許されはしない。軍人に求められている事は黙って敵を殺す事だ。そう、魂から肉体まで、全てを機械にして、そして敵を殺し続ける―――それだけが兵士に求められる事だ。

 

「中尉……人は……死んだらどこへ行くのでしょうか」

 

『さてな、すまないが私は宗教家ではなくてな。だが間違いなくここよりも酷い場所であると私は確信しているよ』

 

「それは……」

 

『この様な光景を生み出す人類の行く先だ、それが楽園であるわけがないだろう』

 

 確かに、それはそうだ。

 

 死んだら天国へと往けるなんて―――なんて、甘い幻想なんだ。結局は人間が生み出した想像ではないのだろうか? いや、それすらも死の先へと進まなくては解らない事だ。そしてそれは、知りたくもない事だ。まだ死にたくない。まだ殺し足りてない。まだ、まだ戦わなくてはならない。

 

 殺した分も、

 

 殺された仲間の分も、

 

 その分生きて、生きて、そして戦い抜かなきゃ駄目なのだ。

 

 きっと、それが兵士の役割なのだ。

 

『中尉、二時の方向からサラミス級巡洋艦が』

 

『行くぞ』

 

「ハッ、了解しました」

 

 考えるのは後回しだ。頭と体にこびり付く戦友たちの怨念を背負いながら、

 

 戦場を駆ける。

 

 ここはルウム―――ルウム戦役。

 

 ジオンと連邦軍の戦いはまだ始まったばかりであり―――きっと、これはまだ地獄の幕開けでしかない。




|ω・`)真っ当なロボ物を書くのは実はこれが初めてです。

 きっとNTじゃないけど修羅勢。そして常時レイプ目。

 丸々と書くんじゃなくて、1年戦争の要所要所に参加しているのをピックアップし、書いて行くスタイルだと思う。つまり次回はまたしばらく時間が飛んで、地獄で戦っているという訳じゃ。

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