境界線上の傾奇者 作:ホワイトバス
相手の心を受けとめると書いて相愛
では、二つを兼ねたものは何か
配点《相思相愛》
左舷二番艦 "村山" 、その右舷側には貿易の際に荷物を運搬するための配送口があり、外交・交易に一役買っていた。
輸送横町と呼ばれる通商のための町が存在しており、常に人や荷物が行き交う直線道路もある。
そこで有翼組のマルゴットとナルゼは働いていた。
「明日はいよいよソーチョーの告白だね。成功するといいなあ~」
『……何で貴女が嬉しそうなの?』
通神越しにナルゼは半目で睨む。現在、ナルゼは村山艦上空を箒で飛行中、マルゴットは箒や荷物を押し込んだカートをゴロゴロ押して移動中。通神越しの半目は離れてながらも中々の破壊力があった。
「だって告白だよッ? しかもソーチョー! どこかのモブがするよりずーーっと楽しい告白になりそうだよ!」
『解らなくはないけど……あの男だからこそ、先が思いやられるのよ。だけど、それだけじゃないでしょ、嬉しいことって』
「うん! "
『それは嬉しいわね。ちょうど改造したいと思ってたところだし』
すると、ナルゼ側に新たな声が生まれた。通神である。
『先輩方、この後のレース頑張ってくださいね! 後輩一同、応援してます! なんたって、部費賭けてるんですから!』
『部費、ねぇ。ということは、やっぱり慶次が?』
『はい! 多摩で前田先輩がレースの賭けしてるんですよ! 私、先輩達に全額賭けたんで、絶対勝ってくださいね!』
『ええ、もちろんよ。勝ちを譲る気はないわ』
後輩の通神が切れると同時に、マルゴットがキャピキャピと嬉しそうに微笑み始めた。通神越しでも解るほどに頬を紅潮させ、ウフフウフフと笑いが止まらなくなってる。
やや引いてるナルゼ。親友として放っておくのもアレなので、思いきって聞いてみた。
『……マルゴット、なに。どうしたの?』
「さっきね、昼休みの後にね、ヨ、ヨッシーがね、『頑張れよ』って、……お、応援してくれたのッ!」
『……へぇ』
嬉々として話すマルゴットは恥ずかしそうに顔を隠してイヤらしく身体をくねらせる。さすが梅組内乳度ランキングでは上位に食い込む強者だけあって、巨乳でスタイルがいい。ナルゼはそこにちょっと嫉妬する。
「そ、それに、正面でだよ! 正面から目見て『頑張れよ』だよ!? ナイちゃんちょー嬉しかったなあ! ねぇガっちゃん聞いてる!?」
『うん聞いてる聞いてる』
マルゴットはこう見えて肉食系だ。夜は完全に向こうのペースになることがしばしばある。昔はそこまで肉食ではなかったが、『いつかヨッシーを二人の共有財産にしない?』って言ってた時代が懐かしい。
それは今も健在なのだろうかと、一つからかってみた。
『どう? 総長の告白に便乗してマルゴットも告白する? 付き合ってくださいとか何とか言って慶次と
「え、えぇ!? そ、それは……、もぉ~、ダメだってガっちゃん。だって~、だってね? ナイちゃん恥ずかしいもん……」
( やばっ、何この生き物可愛い……! )
鼻血が出そうになるのを我慢して、ネタ帳に綴る。純情マルゴットは未だひくことのない赤顔でニコニコと微笑んだ。何だかんだで幸せなマルゴットである。
そんな時、ふと足を止めて立ち止まった。
「ガっちゃん、そこから武蔵野見て、……喜美ちゃんいる?」
『Jud. ―――いるわよ。あれから階段前から動いてないもの。……それと、慶次もね』
「へ?」
のどけた声一つ。見れば確かに座り込む喜美の側に近寄る人影が一つ。長い太刀、金と緋の羽織が目印の慶次であった。
ここからだと仲睦まじく、いい感じの二人。幼馴染みだけあって仲がいいのは構わないが、ちょっと近すぎるのではないかと思う。
嫉妬と怒りにかられるのはいい材料であった。
「むぅ~、妬いちゃうなあ。……ナイちゃんのものなのになあ」
『それはないわよ』
そんなぁ。と眉尻を下げ困り顔。だが、どこか怒った顔にも見える。
それにだ。どれだけ好いていても
「ど、どうしたんだマルゴット。そんな怖い顔して……」
「……セージュン?」
横入りしてきた声、それは三河帰りの正純だった。
後悔通りに行くためにも村山を通ろうとした際、お仕事中のマルゴットを見かけ、声をかけようとしたのだ。だか、声なんてかけなければよかったと改めるほど、マルゴットの顔は怖かったのである。
「み、見るからに般若みたいなんだが……。ナ、ナルゼ、不機嫌なマルゴットを何とかしてくれないか。私じゃ、何となく、無理そうだ……」
『……そうね。マルゴット、そのへんにしなさい。正純がビビってるわよ』
「はーい。……ゴメンねセージュン。ちょっぴり怖がらせちゃった?」
「いや、大丈夫だが……なにか、あったのか?」
ちょっと、ね。と歯切れがよくないマルゴット。その真意を聞こうとした正純だが、してはダメだという直感とナルゼの目線が正純を踏みとどまらせた。
世の中には、知らなくていい事もあるものだ。
「あ、そうだ。セージュンに渡さなきゃいけないのがあるんだった。―――はい、これ。怖がらせちゃったから仲直りの印」
「ああ、ありがとう。……なんだこれは?」
「最後の急ぎの荷物だよ。ええっとね、『絶頂! ヴァージンクイーン・エリザベス ~初回限定版~』って、伝票にあるんだけど、これ頼んだの間違いなくソーチョーだよね? 一応、生徒会宛てだから、セージュンに渡すのもいいかなって」
『……しんみりしたいのかツッコミたいのかどちらかにしなさいよあの男……。っていうか、今朝のが最後のエロゲにするって言ってたわよね』
深いため息を吐くナルゼに、すまない……。と謝意を示す正純。同じ生徒会役員のことだけあって、謝らずにはいられなかった。
「それにね。今夜、皆集めて教導院で肝試ししようって話なんだけど、セージュンはどうする?」
「いや、それなんだが遠慮しとく。生徒会の人間がそれでは生徒に示しがつかないしな」
「そっかあ、それじゃ仕方ないね。―――だったらさ、ソーチョーに会ってくれないかな? 今は後悔通りにいるだろうし」
「後悔通りか。それならこの後調べようとしてるんだが―――何故だ? 何で会っておいたほうがいいと?」
その問いにマルゴットは、そうだなあ。と僅かに考え、頭を唸らせた。
「明日のソーチョーの告白に付いていけるかなって。セージュンも梅組の仲間だもん。仲間外れは嫌でしょ?」
―――Jud. と。了承と感謝をこめたJud.だった。
すると下から上へ、吹き抜けの突風が正純らを襲った。
振り向けば、数多の男女達が箒や器具、また翼を用いて空を翔ている。
「こ、これは……一体何だ!?」
「配送業の皆がやってるレースだよ! さっきは聖連の監視があったけど、無くなったから皆やりたくてウズウズしてたんだ! ヨッシー主催の賭博大会もやってるから、参加してみたら?」
「賭博か……。まったくアイツは……」
「来いよ 、"
『 "
「うんうん、皆やる気だねぇ! じゃ、セージュン、荷物ちゃんとソーチョーに届けてね?」
あ、うん、と頷く正純に手を振りつつ箒を使って空へ。
一気に加速からの上昇、武蔵の空へと飛び立った。
( うーん、いい風だなぁ―――よーし、ナイちゃん頑張っちゃうよ!!)
さらに加速。他の面子より速く、そして楽しく、マルゴットは武蔵の空を突き抜けた。
☆★☆
「馬鹿な愚弟。怖かったら引き返してもいいのに、無理しちゃって」
とは言うものの、その後ろ姿を誰よりも心配そうに見つめる奴のどの口が言えるのやら。
一番怖がってるのは、何より自分ではないのか。
「愚弟……」
「トーリが心配のようだな」
と、現れたのは慶次だ。目一杯に詰め込んだ紙袋からパンを引き抜いては口に含み、食す。遅れ気味の昼食である。
「黄昏る女はいい絵になるもんだ。特にモデルが美人なら、尚更よ」
「……あら、中々饒舌な傾奇者さんね。でもそんなクチじゃ、この賢姉様は振り向かないわよ?」
「別に口説いちゃいねぇ。ただ褒めただけだ」
よっ、と喜美の隣に座ったと思いきや、体を反転させてゆっくりと膝元へと倒れる。俗に言う膝枕だ。これには喜美も驚いた。
「ふぅー、ここにいい枕があるな。柔らかく、いい匂いだ。なるほど、お前の膝は一品のようだ」
「……ふふふ、遠慮無いわね。賢姉様に許可もとらずに膝枕だなんて、高くつくわよ」
「後でまとめて払ったやらぁ。……うん、いい眺めだ」
慶次の目線の先、そこは青空だ。だが視界の大半に、いい形をした喜美の双丘が映り込んでいた。
むふふ。と助平な一笑、そして顎を撫でつつ双丘を鑑賞。なんとも淫猥な男だ。
「上から見るのもいいが、下からもまた一興だな。いつもとは違った景色が見えるものよ」
「アンタったらホント、オパーイ好きよね。愚弟と同等クラスよ、それ」
梅組には乳に関して手厳しい者ばかりだ。慶次もまた、トーリに並ぶ巨乳好きであった。
そんな慶次に喜美は言いたいことがあった。
「愚弟……、トーリの告白、どう思う?」
「勝手にやってろ」
冷徹な態度で、そう返された。
「あいつがやろうとしてる事に、首を突っ込んであれこれ言っても仕方なかろう。あいつがやると決めたなら、それを応援するまでよ」
「……アンタ、ツンデレにも程があるんじゃない?」
「そうかもな」
隠さないわね、と喜美は思った。こうは言ってるが、慶次だってトーリが心配なのだ。でなきゃ、ここまで来ることもなかっただろうし、こんなところに長居することもなかったはすだ。
「数奇だな」
「?」
「告白だよ。明日で十年目。なのに一転するようにあいつがコクるなんて言い出したんだ。最初は耳を疑ったもんよ」
「……そうね」
「告白において思い出は伽となる。奴の中にはまだあいつのことが残ってるだろうよ。それが告白時に爪を出してくんじゃねぇかなって考えてな」
「だとしたら、愚弟の決断も相当なものよね。だから―――、だから、今日に限って後悔通りを歩こうなんて言い出したのよ」
恐ろしいわね、と率直な意見。それは慶次もまた、同感のようで目が語っていた。
すると、固唾を飲みつつ、口元を捻った。やや考えるそぶりをして。
「トーリは―――
好きだったんだろ、ホライゾンのことが」
「……そうね」
「俺も、ホライゾンのことが好きだった」
「………知ってたわ」
やや長い間があったことに、喜美は自覚していなかった。
そして慶次は言葉を綴った。昔話をするように、優しい語り方で。
「小等部の頃、初めて会って好きになってな。まあ一目惚れってやつだ。だが、いざ話してみればその中身に惚れていった。初恋だった」
慶次は淡々と言葉を並べるが、なんだろう。これがやきもちというものだろうか。胸が苦しくもやもやとした感情。嫉妬にも似て、喜美は自然に顔が厳つくなるのを感じた。
しかし、それが顔に出ることはなかった。
「ホライゾンは―――弱いのに芯があって、逞しかった。優しいところもあったから、皆から人気もあったな。だから、好きになった。当然、コクろうとした」
だが。と声が重く下がり、トーリが向かった後悔通りの方向を見つめる。一見してから、また喜美の顔を覗いて。
「ホライゾンの目には、トーリしか映っていなかった」
一瞬の沈黙。だが、二人の間に流れる時間は数分にも、十分にも感じた。
「どれだけ声をかけても、どんなにアプローチしても、―――ホライゾンが見つめるのはトーリだ。トーリが憎かったもんよ、あの頃は。好いた女が俺より格下の男を好きになったんだ。子供ながらに嫉妬したさ」
なんせ、相手が相手だからな。と一心にボリボリと頭を掻く。恥ずかしさを掻き消すように、ただただ掻く。
「……そして、トーリもホライゾンに惹かれていった。ホライゾンもトーリが気になり、そこに俺が混じる。文字通り三角関係ってやつだ。今思えば、結構モテたんだな、ホライゾンは」
困ったようにはにかむ。いつも魅力的な笑みではなく、故意を感じさせる作り笑顔だった。
「コクってもフラれる。そう確信していた。だから手を引いた。それに、……トーリならホライゾンを任せられると思ってさ。
ただ武器を振り回すことしか出来ない俺とは違って、トーリは人を笑顔に出来る。俺と違って容易くホライゾンを笑わせられる。だからこそ、トーリにホライゾンを任した」
自虐気味にクスッと笑う慶次に対して、どこか不機嫌でむすっとした喜美。しかめっ面に加え、重いため息を長く吐いて呟いた。
「―――馬鹿ね、アンタ」
「ああ、馬鹿さ」
「違うわよ馬鹿。アンタ、傾奇者なんでしょ? 己が道を突き進んでこそ傾奇者でしょうよ。なんでコクろうとしないかったの。愚弟なら任せられる? 自分じゃ彼女に値しない? いえ、違うわ。
アンタはフラれるのが怖くなって逃げた。それだけよ」
それは、おしゃれ好きなベルフローレでも、ドSな賢姉様でもなく、『葵・喜美』としての、言葉。一言の重みが違った。
「……そう、かもな」
喜美の一言に慶次はただ項垂れることしか出来なかった。事実だからだ。故に何も言い返せなかった。
トーリに勝ちを譲ったのではない。戦う前に負けを認めたのだと、喜美は言いたかった。そして慶次は、それに初めて気づいた。それを気づかせてくれた喜美に感謝する。
「……やっぱりお前、いい女だわ」
「当たり前でしょ。私は元々『いい女よ』。それをお忘れ?」
「忘れてなんかいねぇよ。いい女だ。それでもっていい膝枕だ。また今度やってくれないかね」
「……ホント、馬鹿な人ね」
先程とは違った『馬鹿』。侮蔑ではなく、親しみやからかいの意味での馬鹿だった。その意を読んだ慶次もまた、いい笑顔で返した。
「ホライゾン……天国からトーリの告白見てくれてるかねぇ」
「見てるわよ。意外に世話好きだったもの」
ならいいな、と慶次はすくっと起き上がって吐息と共に背伸びし、首を左右にコキコキと揺らして座する。喜美に並ぶように座り直し、階段上を見て一言。
「おいおい。教師が盗み見とは、生徒に示しがつかないじゃないのかね?」
「……もしかしてバレてた? なによ、面白くないわね」
ぶーぶーと文句を垂れつつひょこっと表れたのは我らが担任、オリオトライだ。
その手には酒瓶が一つ。顔が赤く朱色を帯びてることから封はすでに切られているようだ。
「ふーん、武蔵一のモテ男と傍若無人な賢姉さんがこんな真っ昼間から何してんの? もしかして逢い引き? いいわねー、若いって」
よっこいしょ。と女性らしくもなく、大胆かつ股をおおっぴろげに広げ胡座で座り込んだ。
……何故か、慶次の隣にだ。
「ふふふー、もうちょっとそっちにいってねー。うん、丁度いい」
「……先生? こっちはキツいんだから遠慮してほしいわね。それと、……何のつもりかしら?」
「ううん? べっつにー? 私ただ座ってるだけなんだけどー?」
「「………」」
「二人とも、もうちっと離れてくれ。暑くて堪らん。―――お、何故だか知らんが正純も後悔通りへ行ったぞ。ありゃ、トーリと鉢合わせもあるかもな」
森を見ていたせいか、慶次の意識が二人に回ることはなく、したがってバチバチと火花を散らす戦禍を見ることもなかった。仕舞いには舌打ちが聞こえてきそうだ。知らぬが仏とはこの事である。
二者の小競り合いを置いといて慶次は、さて。の一声と共に立ち上がった。
「そろそろトーリが後悔通りから出てくるだろうし、迎えに行こうか。先生も来るだろ?」
「……あらあら、お邪魔虫が同行しちゃっていいのかしら。ねぇ……?」
「……別にいいわよ。私は寛容だもの。水に流してあげるわよ先生」
「? 何の話だ?」
教えないわ。とここは息が合った二人。どこか勿体つけたような態度に、慶次は首を傾げるが、すぐにまた笑みを浮かべ直した。
「ふふふ、先生? 女の髪は手櫛なんかでやっちゃダメよ。手だとすぐ痛むし、何より髪は女の命なの。ほら、後ろ向きなさい。整えてあげるから」
「えへへ……懐かしいわね。昔、よく近所のおばちゃんにこうしてもらったのよ。喜美ったらそのおばちゃんにそっくり」
「失礼ね。私はまだまだ現役よ」
そこには、年の離れた
マルゴットはどこか嫉妬深い所があると思ってるのは私だけでしょうか? ちょっと病んじゃってるレベルかなと。
ナルゼはそんなマルゴットのストッパー的な存在です。
この調子でいくとなんか喜美が本妻ポジションになりそうです。でもまあ、慶次にとって最も心を打ち明けやすい女性として映ってますから。
意見、感想をお待ちしてます。