境界線上の傾奇者   作:ホワイトバス

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バカにつける薬はない

バカは死んでも治らない

だが、愛されるバカもいる


配点《個性》


最前線の討取者

 

 

 

 結果的に言えば、慶次とオリオトライの一勝負はオリオトライの方へ軍配が上がった。しかし決まったのは勝者敗者の位置ではなかった。

 

 これまでの二人の決闘を見ていた者ならどちらが勝ってもおかしくはなかったと言葉を述べるであろう。どちらも死力を尽くしていたし、剣筋も両者とも甲乙つけ難く、真剣での一闘だった。

 

 しかし、オリオトライの本来の目的は戦闘ではなく、『品川まで走る』ことだ。そして生徒達の目的も死闘ではなく、『攻撃を一発でも当てる』こと。本来の課題とは大きくかけ離れてる故、オリオトライはこの一戦を放棄した。それがこの場の勝敗を意味していた。

 

 慶次からすれば納得のいかない一戦だろう。今にも吐き捨てるような態度でオリオトライを睨む。

 

 

「ズルいぜ先生。まだ暴れ足りねぇ。なんで戦わねぇんだ、なんで逃げた?」

 

「残念だけどこれは体育よ、わかる? 君と戦っていたらまんまと君らの作戦にかかったことになるのよ? 一応私は教師だから、生徒に示しがつかなくなっちゃうわよ」

 

「……なんだ、バレていたか」

 

 

 『なるべく長く先生(オリオトライ)を足止めしろ》』、それがネシンバラから命じられた役割だった。点蔵らによる奇襲、浅間の狙撃、慶次が止めもしくは陽動という三重策だがまさか見破られるとは思わなかった。

 

 当たり前よ、とオリオトライは一つ息を吐き。

 

 

「私を足止めして、皆の攻撃を態勢を整えさせようとしてたでしょ? 君たちの担任何年やってると思ってるの。バレバレだったわよ」

 

「おっかしいねぇ。結構イケたと思ってたんだが……」

 

「ノリキ達があんな集団戦術使ってくるのは初耳……この場合は初見かしらね。まあそういうこと。入れ知恵したという理論なら、考えられるのはネシンバラくらいってことよ」

 

「そうか。だけど火ィ付けたまんま終わされちゃ、困るんだよ。火の不始末はやってもらわねぇとな」

 

「……元気な子よね……」

 

 

 死屍累々と倒れてる梅組生徒らの片隅で、そんな会話が繰り広がれていた。場所は品川艦首側甲板、暫定移住区、黒塗り貨物庫のまえである。

 

 その木床に倒れてる十数人の学生は汗だの涙だのと体液を漏らし、甲板を広く濡らしていく。中でも非戦闘系の生徒の汗の量は尋常じゃない。体力的な面もあるが、それ以前に体が鈍っていたせいで思うように走れなかったのが原因だ。

 

 その一片として運動嫌いな喜美がいい例だった。

 

 

「……はぁー、はぁー……、せ、先生ったら、この賢姉様に喘ぎ声出させ、蜜液流させるなんて中々いい趣味してるわよ。ふぅー、ちょっと激しすぎなんじゃない?」

 

「誤解招きそうな言い方やめてくれないかしら。まあ、貴女とか御広敷とかは運動不足だし、こういう機会がない限り走らなそうよね」

 

「あんなロリコンと一緒にしないでくれる? 言っとくけどね、賢姉様に暑苦しい肉の塊なんていらないの。私が求めるのは、そう! 美貌と若さだけよ!」

 

 

 寝込んでるくせして高らかと叫ぶ喜美に、慶次は残酷な一言を突きつけた。

 

 

「そんなんだからお前はすぐに太るん―――」

 

「あー、あー、聞こえないー!」

 

「……ホント、都合いい耳を持っているな」

 

 

 耳塞いで難を逃れる間に、他の皆も立ち上がれるほどに回復してきた。

 

 

「さて、まだへばっちゃダメよ。体育はこれからなんだから」

 

 

 まだ体育は終わっていない。この授業のシメであり、目標であったヤクザの事務所の前にいる。

 するとだ。皆の正面の事務所の扉が蹴り破られたように荒々しく開いた。

 

 

「うるせぇぞオラァ!! なに人ん家の前で騒いでやがる!!」

 

 

 怒声を撒き散らしてくるのは三メートルはある四本腕の赤色の魔神族だ。あまりの五月蝿さに我慢できなくなったらしいが、お前の方が五月蝿いと誰もが思った。

 その証拠に、鈴が軽い悲鳴と身震い、そして怯えてしまっていた。

 

 

「ちょっと、出会い頭に声荒げるなんてみっともないわよ。魔神族も地に落ちたわね……、あ、ここ空か」

 

「なんだテメェら!!」

 

 

 とにかく魔神族は何かとご立腹の様子だ。野太い脚で一歩一歩歩み寄りながらまた怒鳴る。

 

 

「一体何なんだお前らは! 授業サボって遠足か!?」

 

「んな訳ないでしょ、これも授業よ授業。で、それよりさ、先日の高尾での地上げのこと憶えてる?」

 

「ああん!? そんなのいつものことで憶えてねぇよ!」

 

 

 そう。とオリオトライは呟いた。

 

 

そっち(加害者)は忘れてもこっち(被害者)は忘れないのよ。どうする? 今謝って地下げして一軒屋戻してくれるなら許してあげるけど?」

 

 

 無茶苦茶な、と誰もがそう苦言した。

 

 

「おいおい何だよ姉ちゃん! まさかそんなことで事務所にカチコミしに来たのかよ! はっはは! 無謀だなおい!」

 

 

 向こうはゲラゲラ笑っている。それはそうだ。魔神族は体内に流体炉に似た器官を持ち、内燃排気も速く、巨軀(きょく)でパワー系の種族だ。人間であるオリオトライとは体格から身体能力まで大差が開く。とても勝ち目はない。

 

 だが我らが先生、オリオトライはただ頷くと。

 

 

「……そう。謝る気はないのね。残念だわ、ホント残念ね。えーと、赤いゴキブリさん?」

 

「テメェっ!!」

 

 

 酷い言い草にとうとう魔神族の堪忍袋の尾が切れた。

 数百キロにも及ぶ二本の怪腕を振り上げ、構えてもいないオリオトライ目掛けて力強く叩き落とされた。片腕と言えど二本。両手合わせて四本の手数なのだ。

 

 

「いい? 脳震盪は頭部に打撃が加わることで脳が揺らされ、神経が麻痺することなの。つまり頭蓋に打撃を与えれば故意に脳震盪が起こせるってわけ」

 

 

 ヒラリと身を翻して躱す。拳が木床にめり込んでいる間に、右足を踏み込んで。

 

 

「有効部位はしゅぞくによって変わるの。人間だったら顎、魔神族なら――――ここッ!」

 

 

 剣は抜かない。代わりに、強烈な拳での打撃を頭角へと叩き込んだ。

 

 

「――――!! て、てんめぇ……ッ!!」

 

 

 数歩進んでは退くその脚は、不意に崩れた。

 それに追い打ちを掛けるように、オリオトライはまた打撃を、それも一発目より強い打撃を打ち込む。

 

「ぬ、ぐぅ……ッ!」

 

 

 僅かな息をのむ声を発し、その巨体は木床に沈んだ。

 

 

「はい。じゃあ、社会科見学はこれにておしまい。次は実技に行ってみよぉー」

 

「「「「 あんな芸当出来るかぁ!!?? 」」」」

 

 

 無理。不可能。出来るわけない。と各々がそう胸に感じた率直な感想だ。

 

するとだ。これを見てたのか、事務所から複数の図太い声で。

 

 

「そ、そんな……」

 

「アニキがやられた! 何だあの女は!?」

 

「――――っ! お、おい! 先頭の女、リアルアマゾネスだ! あの(アマ)の事は知ってる。武蔵総長から聞いた話じゃあ、行き遅れの怪力ババアらしい……」

 

「おい。誰が言ってただとぉ?」

 

 

……とにかくだ。四腕の魔神族は組織内でも上位に位置するようだ。

 部下と思われるやや小ぶり、それでもオリオトライより頭一つ飛び出るほどの背の魔神族が複数が飛び出してきた。四腕の魔神族の周りで心配するようにおろおろとパニクり、梅組からも微笑が生じる。

 

 すると助けを呼ぶようにまた叫んだ。

 

 

「親分、親分! 来てくだせぇ!!」

 

 

 

「……何の騒ぎだぁ?」

 

 

 

 と、野太く低い声を発したのはやや黒ずんだ赤色の甲殻と雄々しい二角の巨大な魔神族。丸太のように太く逞しい豪腕と天を貫くように生えた二角が頭角の位を表していた。

 誰もが『ひっ!?』と怯え縮まる中、オリオトライは満面の笑みで魔神族を見ると。

 

 

「デカイわねぇ~。とうとうお出ましってところね」

 

「その服は……教導院のか。一体何のようだ?」

 

「この台詞二回目なんだけど、まあいいわ。――あのね、あんたらのせいでこっちは家失って怒られて無性に腹立ってんの。責任とってくれる?」

 

 

 件の主旨がない内容に魔神族は、何の話だ 、と理解しきれなかった。

 それでも治まることのない怒りをぶつけたいが故に。

 

 

「そっちの身勝手でこっちはホント過酷だったのよ。こんなか弱い女から何もかも奪っていくなんて、魔神族はクズしかいないの? というわけで、慶次、君に決めたッ!」

 

 

 名指しされた慶次は肩を竦め、そしてはぁと息を漏らした。まさか呼ばれるとは思わなかったらしく、重い足取りで歩き、オリオトライとすれ違うようにして。

 

 

「憎い相手というのに俺に譲るとは、何かよからぬ事でも考えてるのかい、先生?」

 

「まったくそんなんじゃないわよ。まあ、ぶちのめすのは当然だけど、別に私自身が戦わなくてもいいのよね。憂さを晴らすだけなら他人に任せて、私は高みの見物する。アイツがボコられるのを見るのが楽しみなのよ」

 

 

「「「「 最低だなアンタ! 」」」」

 

 

「つーことはなんだぁ? おめぇがヤるってのか?」

 

「……らしいな。まったく先生にも困ったものよ」

 

 

 オリオトライと入れ違いに正面、前に立つ。

 

 

 突如、風が変わった気がした。

 

 

「おめぇには悪いが、こちとらこのまま引き下がる訳にはいかんのでな。かわいい部下を傷つけた代償、おめぇの身で払わせてもらおうか」

 

「こっちも同じだよ、バぁカ。俺ぁ、ムシャクシャしてんだ。アンタにゃ悪いが、八つ当たりさせてもらおう」

 

 

 微風より強く、厳かな一風が二人の周りを吹き荒らす。

 それに乗ずるように動いたのは魔神族だ。一歩一歩を確かに踏みしめ、その豪腕を後ろへやり構え。

 

 

「おどりゃぁぁぁぁ!!」

 

 叩き込んだ。

 轟音と衝撃、微震と風圧。それらがその一撃によって周囲に悖らされた。

 

 殺った、それが率直の感想であった。

 

 だが。

 

 

「――――!」

 

 

 当たった感触がない。そして、腕を退かし、視界が晴れると。

 

 

「……いない?」

 

 

 誰かがそう呟き、魔神族が眉尻をやや下げたところで。

 

 

「……拳は強し、動きは遅し。まだまだよ」

 

 

 そんな一声に反応したときにはもう遅かった。

 声のした方へ首を向け、目を向けると同時。

 

 

「が、あぁ……っ!?」

 

 

 刀、それは鞘に納められた一刀が一角の根元へと振るわれた。

 そこは先程オリオトライが教えたばかりの脳に繋がる部位であった。

 

 

「く、ぐぞぉ……!」

 

「タフだな、結構強めにいったんだが」

 

 

 据わったギョロ目をピクピクと動かし、怒りのストレート―――も受け流した。

 

 

「お"、ごぉ……」

 

 

 すかさず対角線上に強い一撃を放った。

 呻き声、蹌踉めき、そして屈折。四腕の魔神族と同様、大きく揺れてその巨体は木床にめり込んだ。

 

 

「……ひゅ~、予想外だったわ、まさか本当に倒しちゃうなんて。将来が楽しみよねー……」

 

 

 

「オリオトライ先生、これでいいんだろ?」

 

「え、ええそうね。(何で私ったらパニクってるのかしらね……)」

 

 

 見惚れていた、なんて決して言えないことだ。振り向かず、背だけ話す慶次に対し、オリオトライは僅かに反応が出遅れていた。一瞬、彼に魅了されたからである。

 

 しかし歯痒いものだ。なぜ、こうももどかしい気持ちにならなければいけないのか。

 

 戦う姿にか。

 手柄を立てたことにか。

 (おの)が名を呼んでくれたことにか。

 

 何に見惚れていたのか、自分でも分からなかった。

 ただ周りに悟られないように、自心を偽るようにうやむやに、そして出席簿に目線を鞍替えし

 

 

「……うん、魔神族倒したから二点、いや三点は加点するわね。特に、先生の言う通り有効部位打ったのがよかったわよ」

 

「ありがてぇぜ。ここ最近出席点が足りなくて困ってたんでな」

 

「それは遅刻しまくってるからでしょうね。もっと早く来てちょうだい。教員科から目つけられて指導されないように。あとはトーリもなのよね……」

 

 

 

「おいおい、皆して何やってんだよ。俺も混ぜろっての!」

 

 

 

 噂をすれば影がさす。明るく、溌剌(はつらつ)とした、それでいてのんきな声が横入りしてきた。その声に梅組はもちろん、騒ぎを聞きつけ集まった群衆もがその声の方へ顔を向け、その主の名を呟いた。

 

 

「トーリ "不可能男(インポッシブル)" 葵……!」

 

「武蔵の総長……!」

 

 

「おうおう、俺、葵・トーリはここにいるぜ? しっかし皆ここでなにしてんだよ。奇遇だなあ。やっぱ皆も並んだのかよ。お、おお?」

 

 

 白目を剥いた魔神族に気づき驚きと興奮に満ちた顔で仰天する。

 

 

「これって魔神族だよな? うひょ~! 怖ぇ顔してんな~。慶次がやったのかよ」

 

「そうさ。向こうのは先生が。このデカイのは俺がやった。まあ、ちと遅かったがな」

 

「こらこら、話ハショると遅刻して授業サボった挙げ句、何に並んだって? 」

 

「マジかよ先生。俺の収穫物に興味あんのかよ参ったなあ!」

 

 

 パンの紙袋とは別の紙袋からアニメ系のパッケージの箱を取り出して皆に見えるように掲げ。

 

 

「これ見ろよ先生! 今朝発売したばかりの初回限定物のR元服エロゲ "ぬるはちっ!" なんだけどよ、これがちょー泣けるらしいんだ! 帰宅したらさっそくプレイして号泣しながらエロいことしよっと」

 

 

 笑顔なトーリとは反面に、半目のオリオトライが無言で圧を掛けるように肩へポンと手を置く。

 ん、と一言。そして笑顔で振り返り。

 

 

「どーしたんだよ先生。顔めちゃくちゃ怖えぞ。それに加えて先生、男運ないもんな。焼肉屋でガツガツ肉食って酒場でセクハラにあってと大変だなあ。三要先生と学長もそうだけどさ、なんでうちの教導院の教員って、結婚してないの多いんだよ。ぜってー呪われてるよなこれ」

 

 

 あのバカ! と退避行動を取る皆に気づかないでさらっと教員をディスるトーリに、オリオトライは口を重くして開いた。

 

 

「……君、先生が今何言いたいか解ってる?」

 

「おいおい先生。愚問にほどがあるぜ。俺と先生、何年、以心伝心のツーカーやってきたか解ってんのか!? 先生の言いたいことは俺にしっかりと通じてっからよ!

 

だからよ。オッパイ揉ませてくれよ!」

 

 

 どうなったらその結論になるんだ、と皆がツッコんだ。

 

 

「君、先生と以心伝心のツーカーじゃないの? だったら先生の言いたいことは解るんでしょ。答えはイヤよ」

 

「大丈夫だって先生! 安心して俺に任せてくれよな! 俺こう見えても浅間の乳揉んで育ったんだからよ!」

 

「なに? 頭大丈夫? こりゃ、一発殴ったほうがいい?」

 

 

「うん、とりあえずこれだな」

 

 

 

 

 

 むにゅり、と五指で一揉み。あ、と皆が一言。

 

 

 

 

 

「あれれ、おっかしいなあ。もっとさ、骨とか筋肉だらけて硬い見立てだったんだけどなあ……まあいいや」

 

 

 オリオトライを無視して皆の前に立つと一息、そして。

 

 

「あのさ、皆、ちょっと聞いてくんねぇか? 前々から考えていたんだけどよ。

 

―――俺、明日、告白(コク)ろうと思うわ」

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 長い間であった。世界が止まったかのように、音と時が消え去ったようであった。

 

 

「フフ、フッフッ……ハハハハハっ!!」

 

 

 だが、その中で一笑いする声があった。慶次だ。

 

 

「女に告白(コク)るとは……、いよいよ春が来たなトーリ。俺としてもそいつは吉報だ!」

 

「だろ? よし今夜は俺の告白前夜祭しようぜ! まだ場所とか計画は全然考えてねぇけど、とにかくバカ騒ぎするか!」

 

「おう、そいつはいい」

 

 

慶次とトーリの談笑にようやく我に返った茶のウェーブが立ち上がり、二人を見据えて。

 

 

「愚弟。盛り上がってるところ横入りするけど、いきなり現れて乳揉んでコクり宣言するなんて正気の沙汰とは思えないわよ。アンタ普段からバカだけど、今日に限って一段バカになったじゃないの。なんかあったの?」

 

「うれしいだけだろ。エロゲ手に入って明日、告白となりゃ、誰だって有頂天になるもんだ」

 

「そう? それにしてもアンタも少し嬉しそうじゃない」

 

「そうか?」

 

 

 顔の奥に含まれた嬉々とした笑み。心より喜ぶ者の笑みだと、喜美は直感でわかった。

 

 

「愚弟、勿体ぶらないで賢姉にコクる相手をゲロしなさい。さあ! 相手は誰? もしかして小等部の娘? アンタもロリコン(御広敷)の仲間入り!?」

 

「馬っ鹿、姉ちゃんも知ってるよ。―――ホライゾンだよ」

 

 

 

 ひゅー、と風が吹き抜けた。

 

 

 その失われた少女に、哀悼の意を示すように。

 

 

 

「バカね」

 

 

 喜美が肩を落としつつ、トーンを落として。

 

 

「あの子は……十年前に亡くなったでしょ。アンタの嫌いな "後悔通り" でね。墓碑だって父さんと皆で作ったじゃない」

 

「解ってるよ。だけどよ、もうそのことから逃げねぇ。俺、何も出来ねぇから、コクった後、皆に迷惑掛ける。何しろ、その後にやろうとしてることは世界に喧嘩売ってるようなもんだもな」

 

 

 でもよ、と一言置いて、皆の顔を見る。一人一人をじっくり、確かに、深く見つめ、トーリは言った。

 

 

「明日、明日で十年目なんだ。ホライゾンがいなくなってから。だからコクってくる。俺、今日まで悩んでさ、好きなんだって解ったんだ」

 

 

「じゃあ愚弟、今日はいろいろと準備の日よね、エロゲ持ってるけど。それと……、今日が最後の普通の日?」

 

 

「おいおい姉ちゃん、安心しろって。俺はなーんも出来ねぇけどさ

 

 

―――高望みだけは、忘れねぇからよ!」

 

 

 

 

 

 笑顔のトーリの肩を、ポン、と叩く手が。

 

 

 

「……へぇ~、いい話よね。うん、ホントいい話だわ」

 

「おっ、先生、今の聞いてたかよ! 俺の恥ずい話!」

 

「人間ってさ、怒りが頂点に達すると周囲の声が聞こえなくなるんだけどさ、それについてどう?」

 

「おいおい先生、年かよ! あれか、もうすぐ三十路だからか? 仕方ねぇな、可哀想だからもう一度言ってやんよ」

 

 

 右の親指をピンと、真面目かつ笑顔でトーリはこう言った。

 

 

「今日が終わったらよ、俺、コクりに行くんだ♪」

 

 

 

「―――よっしゃあ、死亡フラグゲットぉッ!!」

 

 

 次の瞬間にはオリオトライの強烈な回し蹴りがトーリに炸裂。彼は弾丸と化してぶっ飛び、事務所の壁に大の字を刻んだ。

 

 

 誰も言葉を発しない。驚き、呆然とする梅組の中でただ一人、慶次だけが言葉を作った。

 

 

 

「告白、ね……。こんなご時世に色事とは呑気なものだ。だが、それがいい。そして世界は絶えず動く。トーリの選択(告白)は世界に……」

 

 

 

 ―――どう影響を与えるのか、楽しみよ

 

 

 

その声は小さく、その場の者の耳に聞こえることはなかった。

 

 




主人公初めての戦闘シーンです。練習として本格的に書いてみましたがやっぱり戦闘シーンは描写が難しいですね。


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