境界線上の傾奇者   作:ホワイトバス

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初めまして、祢々です。初投稿を見てくれてありがとうございます。初めてなので、至らぬ部分もあると思いますが、よろしくお願い致します


武蔵の傾奇者

 

 

 

 極東・武蔵。

 

 巨大な航空都市艦は艦首側より空を分け、(さざなみ)の音をもって高度の位置を航行していた。

 その航空都市艦は全部で八つの艦から成り、どの艦にも大きく黒字で "武蔵" と書かれており、また、それぞれの艦名が黒字で書かれてあった。

 

 

 まずは右舷一番艦 "品川"

 同じく右舷二番艦 "多摩"

 同じく右舷三番艦 "高尾"

 

 次に左舷一番艦 "浅草"

 同じく左舷二番艦 "村山"

 同じく左舷左舷艦 "青梅"

 

 

 最後に中心。その六艦を数十本の太縄で連結している中央艦は。

 

 

 中央前艦 "武蔵野"

 中央後艦 "奥多摩"

 

 

 これらの二艦は左右六艦を双胴とした構成で空を行く。

 

 そして、航行運動に混じって新しい響きが生まれた。

 

 それは歌。澄んだ歌声だった。

 

 

 

ーー通りませーー

 

 

 

 琴線のように、淡々と、繊細で、しなやかな歌詞を奏でる。

 

 名を『通し道歌』

 歌詞の真意こそ知らないが、誰もがこの歌を聴いて育ち、この歌を歌って生きる。子守唄、童謡、と様々な憶測は出ているが、やはり意味を知る者は居らず、けれど聴き、歌い、人々は今日も一日過ごしていく。

 

 歌が大気に消えると、やがてまた新しく音が響いた。艦内放送である。

 

 

『武蔵にお住まいの皆様、今日も税金を納めるために頑張っておられますでしょうか。尚、脱税は重罪です。 "艦尾からロープ一本で下げ吊るされる刑" にされたくなければ、大人しく納税してくださいませ。

 

 さて、準バハムート級航空都市艦・武蔵が、武蔵アリアダスト教導院の鐘で朝八時半をお知らせいたします。本日、武蔵は天山回廊からサガルマータ回廊を抜けて主港である三河へ到着いたします。

 途中、三河の山岳地帯の村の上を通過する際に、下の方達をビックリさせては武蔵の名折れですので、情報遮断型ステルス航行に入ります。

 

 それと、各艦を結ぶ連結縄で【今年一番の波が来たぜ!ごっこ】などで遊ぶのはお止めください。拾うのが結構面倒なのと聖連側の武神がマジギレしますので。

 

 なお、先日、クリスマス撲滅隊とバレンタイン反対連盟が同盟を結び、リア充殺伐連隊となりました。朝早くから夜遅くまで逢い引き中のカップルの方達はお気をつけてください。武蔵及び我々自動人形は一切責任を負いませんので。ーーー以上』

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

「「「「 なんだよ今の放送は!! 」」」」

 

 

 中央後艦 "奥多摩"は武蔵アリアダスト教導院正面の橋の上、そこで大多数の者が叫んだ。理由は後半のワケわからない内容についてだ。だが、中には『我々の存在がバレたで御座るか……』とか『リア充死すべし……』などと呟く者もいたが、それはまた別の話。

 さて、その一団に対するように一人の女が向かい合っていた。

 

 

「はいはい、放送もいいけど梅組集合ーーっ! 集まりが悪いと問答無用で打撃叩き込むわよ!」

 

 

 半ば脅しに近い掛け声。女は他が認める暴力気質な性分だった。

 その女は黒い軽装甲のジャージと長剣、元気よさを具現化したかのような笑みと、スラッとした背筋から逞しさがあふれでている。

 

 そして彼女が見る校舎側。

 そこに黒と白の制服を着た若者達がいる。人であれば、人ではない者もいる。そんな彼らに対して、彼女は笑みを作ってこう言った。

 

 

「んじゃ、昨日言ったどおり体育の授業やるわよ! ルールは極めて簡単っ! 先生はこれから品川にある『ちょっと怖いお兄さん達(ヤクザ)がいる事務所』まで行って、ぶん殴ってくるから全員付いてきてね。

 そっから先は実技だから。遅れたら教室掃除でもしてもらおっかな。ーーわかった?」

 

 

「「「「Judgment(ジャッジメント)!!」」」」

 

 

 返答。了解の意が多数側から示された。

 今の発言に些か物騒な単語がいくつか見られたが、誰もそれに突っ込もうとしない。そんなのここでは日常茶飯だし、気にしたら負けだからだ。

 

 

「教師オリオトライ。ヤクザの事務所まで行くのと体育にどんな関係が?」

 

 

 口を開いたのは金髪の美丈夫、ポーカーフェイスの青年だ。青年は親指と人指し指を繋げて輪を作り、嬉々しい顔で。

 

 

「もしや……(コレ)ですか?」

 

「バカねぇ。すぐそっち()に直結しないの。いい? 体育は運動よ? 殴るのも運動。これでオッケー。文句ある?」

 

 

「「「「 アンタも直結してるよ!! 」」」」

 

 

 『人の振り見て我が振り直せ』という諺を知らないような女教師に全員がツッコムものの、都合のいい耳は声を拾うことはなかった。

 

 

「つまり、金は関係ないということですか。金にならん商売はしない(タチ)ですので、欠席しても?」

 

「ダメよシロジロ。そしたら、『体育という名の報復 兼 八つ当たり』が出来なくなっちゃうじゃない。殴ってもいい大義名分なんだから、参加しなさい」

 

 

 この女教師、理論武装してきやがった。

 すると、一団の中から。

 

 

「シロ君シロ君。先生、この間、表層部の一軒家が割り当てられて野放図に喜んでいたら、ヤクザの地上げのせいで、家差し押さえられて最下層行きという三段落ちにあったの」

 

 

 金髪の女生徒、『会計補佐』の腕章をつけたハイディ・オーゲザヴァラーがシロジロに耳打ちするように飛び出してきた。

 

 

「それでね。自棄酒して大暴れした挙げ句、壁ぶっ壊して教員科のお偉いさんからマジ叱られちゃったの。前半はちょっぴり可哀想だけど、要は行き場のない怒りをぶつけたいんだろうね」

 

 

「「「「 くだらねぇ理由だなおい!! 」」」」

 

 

「ご名答よハイディ。あとで点数あげちゃおうかしら」

 

 

 そして、背の長剣を脇に抱えた。鞘の表面、ブランド名であるIZUMO 特有の斬撃効果重視で僅かに折れ曲がったデザインの束を撫でながら、そして出席簿を取り出して彼女はこう言った。

 

 

「んで、休んでるの誰かいる? ミリアム・ポークウは仕方ないとして、あと、東は今日のお昼頃にようやく戻ってくると聞いてるけど、ほかはーー」

 

 

 すると生徒達の中から元気よく手を上げた黒い三角帽の少女、金髪金六翼の『第三特務 マルゴット・ナイト』という腕章の少女が口を開いた。

 

 

「ナイちゃん見る限り、セージュンとソーチョーがいないかな?」

 

 

 その声を、彼女の腕を抱いている黒髪黒六翼の少女『第四特務 マルガ・ナルゼ』が次いだ。

 

 

「それと追加報告よ。正純は小等部の講師に多摩の教導院へ行ってるし、午後からも酒井学長を三河に送りに行くから、今日は自由出席のはず。

……総長、トーリは知らないわ」

 

「正純は連絡どおりね。じゃあ、 "不可能男(インポッシブル)" のトーリについて知ってる人いるー?」

「ふふ、ふふふっ♪」

 

 

 不適な笑いがこだまする。

 一同が視線を変えるや、皆よりやや後ろに下がったところ、そこからこちらからやって来る茶色のウェーブヘアの少女。余裕のある笑みと振舞いが実に魅惑的だった。

 

 

「あらあら、皆してウチのトーリのことがそんなに聞きたい? 聞きたいわよね? だって武蔵の総長兼生徒会長だものね、ウフフ。

 

ーーでも教えないわ!」

 

 

 ええっ? と皆から疑問の声が生まれた。

 

 

「だって朝八時過ぎに私が起きた時にはもう居なかったから」

 

 

「「「「お前ハイテンションなくせして朝起きるの遅ぇよ!」」」」

 

 

「っていうか、あの愚弟、人の昼食作らずに朝から早起きなんて憶えてなさいよ。おかげでメイクはギリギリ、朝食抜き、睡眠不足の三拍子揃ったダメ賢姉様になっちゃったじゃないの!」

 

「喜美ちゃん……大丈夫?」

 

「まあ、でも? メイクと朝食は教室で済ませるけど、問題は愚弟の動向よね。でも私が知ってるわけないわよ。起きたときから居ないんだもの。でも心配ないわ! だってウチ(梅組)にはアイツがいるじゃない」

 

 

 と、喜美が視線を向けたのは橋の欄干部分に腰掛ける青年だった。

 武蔵独特の白と黒の制服。それを無造作に改造したような派手な一張羅だ。ノースリーブ状の上衣と、裾を脛巾(はばき)で固定した異色な着こなし。さらに明るい赤系統の生地に金や若草色の線、梅木の紋様の付いた羽織を羽織り、刃が厚く柄の長い三尺ほどの太刀が一本。

 横に撫で付けられた黒髪から覗く目付きは鋭きながらも、穏やかさを感じさせる目だった。

 

 目が合うと喜美は妖艶に笑い、爆乳を巧みに揺らしたステップで一歩二歩近づく。そして、身体を屈め、胸が顔に触れるその手前で一言。

 

 

「慶次。アンタ、毎朝ウチのパン買っていくでしょ? 愚弟を見なかったかしら?」

 

「悪ぃが俺は知らん。お前、同棲してる癖に弟の動向も分からんのか。それにな、バカ(トーリ)のやることすることなど、俺には到底理解出来んよ」

 

 

 低い声でそれだけを返した。対して喜美は少し口を弓形に歪めると。

 

 

「そう。ならいいけど」

 

「それより胸をどけろ。男は獣みたいなもんよ。生娘がそう容易く男の眼前に胸を構えるんじゃない」

 

「あら、それは心配してるのかしら? だったらそれはとんだ誤解ね。だってアンタだからだもの、こう出来るのは。どう、味わってみたい?」

 

「意図が見えんな、お前は。熟れてきたと思えば、中はまだ青臭い小娘だな」

 

「アンタ同い年でしょ?」

 

「お前と違って中身は成熟してんだよ、バぁカ」

 

 

 ただの会話。幼馴染がゆえの他愛もない会話だった。

 男女の会話にも近い二人のやり取りは純情な学生らには羨ましく、妬ましい光景だが、実は喜美の策略だったりする。巫女や魔女、さらには複数の女生徒がはらはらしながら見つめるのを尻目に、度々ニヤついてる喜美がいるもんだ。

 

 ニヤつく喜美を放っとき、慶次は立ち上がりつつオリオトライへ問う。

 

 

「で、先生。トーリは遅刻確定だろ? これから何するよ?」

 

「あ、そうだったそうだった。忘れるところだったわ。ーーじゃ、皆いい? ルールは簡単。品川の事務所まで先生走るから、その間に攻撃を当てること。一回当てたら出席点を五点プラス。ーー意味解る? 五回もサボれるってこと」

 

 

 最後の一言に皆が『おぉ!』と声を漏らした。

 

 

「つまり朝の一限を五回サボれるのか……。太っ腹だな、先生。何か裏でもありそうだな」

 

「そうでもないわよ。で、誰か質問ある? 遠慮なく聞いていいわよ」

 

 

 その問いに、はい、と挙手し答えたのは帽子にマフラー、目元が見えない少年、 "第一特務 点蔵・クロスユナイト" だ。

 

 

「先生、攻撃を "通す" ではなく "当てる" でいいので御座るな?」

 

「おうおう、戦闘系は細かいねぇ。でも別にそれでいいわよ。手段方法も構わないわ」

 

 

 するとその言葉に、一人の男子と肩を組んで極秘の作戦会議をおっ始めた。

 会議の主催者は点蔵、さらに航空系半竜の " 第二特務 キヨナリ・ウルキアガ " が補佐を務め、小声での確認が行われた。

 

 

「ウルキアガ殿、聞いたで御座るか? あの女教師、"当てればいい" と了承したで御座るよ。これはチャンスで御座る」

 

Jud(ジャッジ).。拙僧もしかと耳にした。しかし惨めなものだな。体育だというのに、その身を汚されるというのは」

 

「同感で御座る。では、先生。先生のパーツでどこかを触ったり揉んだりしたら減点される部位はあり申すか?」

 

「または逆に加点やボーナスポイントが出るような部位などは?」

 

「肩組んで何をコソコソしてると思ったら人の乳揉もうと画策してたなんて、先生ホント残念だわ。というわけで死ね」

 

 

お許しを……と命乞いする二人を脇目にオリオトライは一同を見て。

 

 

「じゃ、始めるわよ。時間は一限目の終わるチャイムが鳴るまで。一発でも当てたら出席点を五点。いいわね? ーーよっ!」

 

 

 跳んだ。皆が反応するより早く、約一名を除いてだが、誰もがオリオトライの動きに付いていけなかった。

 一歩で、大きく、動作もなく後方へ跳んだのだ。

 

 

「ほらどうしたの! もう体育は始まってるわよ!」

 

「くっ……、お、追え!」

 

 

 誰かがようやく気づき、駆け出した。その後に追うように、次々と生徒らが走る。

 

 一人、二人と駆け出しては複数と、向かうは "奥多摩" から右舷側、多摩の方へだ。足音が時間と共に徐々に鳴り止んでいき、最後に残ったのは慶次だけだった。

 

 

「……品川まで運動、ねぇ。気が向かんのだが……」

 

 

 頭をかきため息を一つ、太刀を腰に。そして屈伸。心地よく骨が鳴るのを耳に、うーん、と背を伸ばして天を仰ぎ見、一言。

 

 

「さて、いっちょやりますか!」

 

 

仲間を追い求め、彼もまた段上から跳躍する。

 

 

それは、オリオトライの跳躍より速く、より高く、秀でた一歩だった。

 

 




どうだったでしょうか?
感想、意見などお待ちしてます。

ちなみに慶次の人物像ですが、コレが大変悩みました。
歴史的資料も少なく、一般的なイメージも『花の慶次』や『戦国BASARA』などが中心ですし……。
それだと古風な性格なので書くのが難しくなるんですよね。

仕方なく、オリ性格を書くほかありませんでした。作者の想像ですが、『竹を割ったようにサバサバして、何事も命懸けな青年』って感じです。気に入らなかったらご免なさい……

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