IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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閑話っぽいなにかな回


#91 女たちの疑念

 突発的に自分を襲った寒気。それが現在が叔母と甥になってしまったが、今でも好きな悠夜から放たれたのは確かだろう。

 その寒気を感じ取った時には既に悠夜は一夏を吹き飛ばしていた。つまりそれは―――

 

(……私では、あなたの隣に立てないというのですか……)

 

 ラウラはあの時、しっかりと肌で感じていたのだ。遺伝子強化素体(アドヴァンスド)である自分すら置き去りにするほど、次元が違うと。

 

(それでも私は……あなたと共にいたい)

 

 ラウラは自分が座っている椅子から立ち上がり、寝ている悠夜とキスをする。

 それが今の自分の精一杯だ。何故なら―――

 

「……あれ? ここって……」

 

 ———隣に一夏が寝ているからだ

 

 声を聞いたラウラはベッドから降り、一夏の方を見る。今晴美は少し席を外していて、対処はラウラに一任されていた。

 

「あれ、ラウラ? どうして俺はこんなところに―――」

「気安く名前で呼ぶな」

「え? 何でだよ。悠夜だって―――」

「兄様と貴様とでは違う。何もかもな。体には異常はなかったらしい。大人しく帰って勉強でもしていろ」

「———!! わかったよ」

 

 一夏は不機嫌になり、保健室から出て行く。それを見送ったラウラは舌打ちをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、楯無は一人生徒会室に残って考え事をしていた。

 

(あれが……悠夜君の本来の力……)

 

 楯無はなんだかんだで悠夜の本気を見たことがなかった。

 見ていたのはいつも簪や本音。二人は5月のクラス対抗戦の時もそうだが、簪は3年前に、そして本音は7月の時も助けられている。そのことをどちらも「異質」と言い、本音は恐怖を感じていた。

 

(……でも、あれなら恐怖を覚えても無理はないわ)

 

 一言で言えば圧倒的だろう。それほど悠夜のあの時の身体能力、そして殺気は異常な速度で上昇し、そしてそれを感じた時には既に一夏が吹っ飛んでいたのだから。

 その時、楯無の電話が鳴り響く。

 

「もしもし」

『ラウラだ。先程、兄様が目を覚ました。その少し前に織斑が起きたようだが、どうやら記憶はなくなっているらしい』

「やっぱりラウラちゃん、織斑君に何かしたでしょ」

『記憶を消した。おそらくあの男は何も覚えていないだろう。10回行った後に100回畳に打ち付けたことが功を弄したようだ』

「………やり過ぎよ」

『兄様とキスをしてあそこまで動揺したお前は面白かったな』

 

 そのことを話題に出された楯無は一瞬で顔を赤くする。

 

「そ、それはあなたが……って、何であんなことをしたのよ」

『少し試したかったことがあるらしくてな。不本意だが協力したまでだ』

「………」

 

 ラウラにそんな指示をするのは―――簪だ。

 そう思った楯無は一度ラウラとの通信を終わらせ、考える。

 

(…………確かに、簪ちゃんの悠夜君に対する入れ込みようは異常ね)

 

 普段……いや、悠夜と会う前の簪は少なくともそこまで誰かに―――しかも男子にあそこまで行動的になることはなかったはずだ。だが悠夜と会ってから―――そして荒鋼を手にし、学年別トーナメントに優勝したことからそれはさらに加速していると言えるだろう。

 

(いくら3年前に助けられた……って言ってもおかしいわ)

 

 楯無が知る限り、簪が悠夜と会ったことがあるのは3年前。それよりも前に一度会っているが、会話も何もなくカウントしなくてもいいぐらいである。

 

(……一度、調べた方がいいわね)

 

 楯無は何も妹が悠夜と付き合うことにもう反対はしない。今は調子に乗っているようだが性格が悪いとは思わないし、なにより止めようとしてもあのレベルになったら、自分でも止められないということは理解しているからだ。

 

(織斑君にはああ言ったけど、実際の学園最強は悠夜君よね)

 

 真の学園最強が生徒会長ではないことに内心嘆く楯無だが、今は悠夜と簪の関係性を調べることにするが、それよりも先にやることがある。

 すると生徒会室のドアが開かれる。簪が入ってきた。

 

「あ、ちょうど良かったわ、簪ちゃん」

「……何?」

「あなたに聞きたいことがあったの。率直に聞くけど、悠夜君のことはいつから知ってたの?」

「1億と2千年前から」

 

 だが楯無はいつものように茶化さなかった。

 

「ごめん。今回は真面目に答えてほしいの」

「………悠夜さんが怖いの?」

 

 そう言われた楯無は少し黙ったが、やがて答えた。

 

「そうね。正直言って怖い」

「………ラウラも同じことを言ってた。けど、それでも一緒にいたいって。でも当然かも。ラウラはあのまま軍に戻っても他の男の人たちの性の吐け口にしかならないから」

 

 淡々と語る簪に対して楯無は違和感を覚えた。

 

(……やっぱり違う気がする)

 

 まるでそれが当たり前だと言わんばかりの態度に楯無は少し恐怖を覚えて来た。

 

「簪ちゃんは怖くないの? もし悠夜さんが暴走でもしたら、下手すれば世界は終わるかもしれない」

「………確かに怖いよ。でも、それも仕方ないと思う。そうしないようにするなら、悠夜さんを堕落させるしかない」

 

 そう答えた簪は「そんなことより」と話題を変えた。

 

「お姉ちゃんは、悠夜さんのことをどう思ってるの?」

「……どうも思っていないわ。でも、あなたたち二人が付き合うことに対しては何も言うつもりはない。悠夜君は周りが認めていないだけでそれほどのことをしているのは知っているし―――」

「悠夜さんがあなたを好いているのには気付いているのに?」

 

 言われて楯無は顔を赤くする。

 

「でも、悠夜さんは我慢すると思うけど」

「え?」

「一人は一瞬で世界を破壊できる一般人。しかも数少ない男性IS操縦者。そしてもう一人は日本に所属する暗部の長。当然、自分のことよりも他人とその周りの人間を優先する。そうじゃなかったら、とっくに興奮している彼に私は汚されてる」

 

 「それはそれで嬉しいけど」と答える簪。すると簪は立ち上がり、部屋を出て行こうとするところで止まる。

 

「お姉ちゃん、本当にいいの? 悠夜さんを取ってしまっても」

「……別に構わないわ」

「そう。じゃあ、準備があるから帰る。手続きお願い」

 

 簪はドアを開け、外に出た。すると楯無がそのドアを止めた。

 

「ちょ、ちょっと待って! 手続きって、もしかして―――」

「うん。明日……いや、今日から寝るから」

「いや、あのね? それはちょっと問題があるって言うか、その―――」

 

 焦る楯無に対して簪はハッキリと言った。

 

「わかった。じゃあ手続きはしなくていい。勝手に侵入するだけだから」

「え、いやあの―――」

 

 楯無は呼び止めようとしたが、これ以上話したら大変なことが起こると思って下がった。

 

 

 

 

 

 生徒会室から離れ、自分の部屋に戻った簪はスマホを取り出してメモ帳アプリを開き、データの履歴から探しているページを開く。

 

(………やっぱり「楯無」である以上、お姉ちゃんは使えない)

 

 そう思いながら楯無の写真にバツ印を入れた簪。そのページは楯無以外には後二人の女の写真が貼られていた。それぞれの最後には「ヴァダー」「ヤード」「ミューゼル」そして「ガンヘルド」。ガンヘルドの部分だけは写真はなく、書かれているデータが少ない。そして「ヤード」の場所には―――

 

(朱音ちゃんはあまり期待しない方が良い。好いているみたいだけど、幼いしまだ庇護下にいた方が彼女にとってはいいはず)

 

 そう言って朱音の写真に三角を入れ、次に「ミューゼル」の部分を見る。

 

(……………この人は、ちょくちょく悠夜さんにちょっかい出している)

 

 特に何もせずに簪はアプリを消すと、着替えを用意して服を洗面所に置かれている3段に分かれている籠の上に入れ、さらに上にバスタオルを置く。そして服を脱いで制服を畳んで3段目に、下着を3段目の大きい籠に入れ、平均的な肢体が顕わとなった彼女はシャワー室に入った。

 

(………あの人がミューゼル)

 

 簪の知るミューゼルと楯無が知るミューゼルは「=」ではない。お互いが別の情報を持っている状態であるため、先程会った時に簪は楯無に学園にいることを知らせなかった。

 

(でも、あの人は知っているとは思えないけど)

 

 お湯を出して温度を調節しながら考え込む簪。やがて適温になったのか体全体にかけ始める。

 

(……ともかく、しばらく様子は見ておこ)

 

 そしてすべて洗い終わった簪はあることに気付く。

 

(悠夜さんと一緒に入ればよかった)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、ダリルはパソコンを開いてオッズを見ていた。

 

「………なぁ、フォルテ」

「なんッスか?」

「これって結果見えてね?」

 

 そう言ってダリルは見ていたパソコンから少し離れ、たまたま部屋に来てくつろいでいたフォルテに見せる。

 

「織斑の方には勝機はなさそうッスね。あれって二次移行してもエネルギーの消費が大きくなっただけであまり強くなったイメージないッスけど」

「元々黒鋼の方に武装が多いんだけどな。外付けだから条約規制に引っかからないってことだけど、そのことで技術者がグチグチ言ってたわ」

「………そう言えば、これにさらに追加武装をドッキングできるッスよね? 最近学園が物騒だから準備したって話ッスけど。一度戦ってみたいッス」

 

 それを話題にした瞬間、ダリルは冷や汗を流した。

 

「あれ、聞いた話だとすっげぇ凶悪だぜ。しかも桂木ってそういうのが大好物だから、嬉々として使いまくるらしい」

「だったらそれで倒してやるッスよ! いつまでも雑魚扱いされるのはごめんッスから!」

 

 イキイキと語るフォルテにダリルは同情的な視線を向ける。

 

(そう言えばこいつ、学年別トーナメントの時に色々とダメだしされてたしな。でも、無理だろ)

 

 以前部屋に入った時のことを思い出す。その時に悠夜の趣味を調べたが、他にも魔法少女ものだったり、同じような絵のDVDや漫画が置かれていた。

 ほかにもどんな傾向が好きなのか気になった彼女はベッドの下に隠されているエロ本を探したが、エロ本の代わりにミシンなどの手芸道具が置かれていて、さらに近くには女物の服があった。

 

(………女装が趣味だとか?)

 

 「いや、まさかぁ…」と考えた時、ダリルに通信が入る。

 それが少々ヤバい相手だったこともあり、ダリルは洗面所のカギを閉めて風呂場に入った。

 

『……何の用だ?』

『あら、早かったわね。この時間だからあの子のことでも考えていたかと思っていたわ』

 

 通信相手が笑っているだろうと思いながらダリルはため息を吐く。

 

『何で通信してきたんだよ』

『成果を聞きたいのよ。どう? あの子は連れて来れそう?』

 

 あの子―――それは悠夜の事であり、彼女は通信相手から連れて来るように言われていた。

 

『無理だな。周りが裏切って絶望的になったとしたら―――』

『それに対する策はあるけど―――でもあなたにはもうしばらくそっちにいてもらいたいの』

『……はぁあああ!!?』

 

 思わず叫びそうになるのをこらえるダリル。だが通信相手の女は茶化すように言った。

 

『別にいいじゃない。こっちに来たら、彼とできることもできなくなるわよ。常に周りには女の子がいはじめている彼と、まだできていないんでしょう?』

『うるせぇな。ほっとけよ。そっちだっていい歳してあんな女としているだろうが』

『私はほら、手遅れだし』

『自分で言うか!?』

 

 思わず突っ込んだダリルだが、実際は通信相手の言う通りである。以前は誰もいないこともあって近づけたが、今は違う。常に別の女がおり、今では寝取ったわけではないが織斑一夏の陣営から鈴音が来ているし、さらに近づけなくなっている。

 

『んで、一体なんだよ。合流するなって話ならもう終わりだろ』

『あ、当日は私も別ルートで入る予定だから』

『………何で来るんだよ』

『私だって久々に会おうと思ってね。直接会うつもりはないけど、どんな部分で成長したのか気になるじゃない。色々と、ね』

 

 するとダリルは顔を赤くする。その「色々」な部分にイケない想像してしまったようだが、通信相手はそれを連想させるつもりはなかった。

 

『ともかく気を付けて立ち回ってね。今では鈍っているとは仮にも更識の一族がそっちにいるし、轡木もいるんだから』

『後者なんざ余裕で潰せるだろ』

『それができたらとっくに滅ぼせているわ。ともかく気を付けて。特に轡木は危険よ』

 

 それで通信が終わり、ダリルは風呂場から出て洗面所のドアを開ける。

 

「随分と長かったッスね」

「まぁな。そろそろオレも卒業だろ。進路のことで色々と言われてるんだよ」

「あー………それはそれは」

 

 信じたのか、フォルテは特に疑問を持たずに漫画を読む。ダリルはさっきの話もあったからか、フォルテの胸部に注目していた。

 

(……参考にならねえ小ささだな)

 

 聞かれれば間違いなく怒られることをダリルは思う。だが悠夜の周りにいる女のほとんどがフォルテと同じかその周辺くらいしかない。

 

(……やっぱり、胸か?)

 

 決してそういうことではないのだが、ダリルはそう思ってしまい禁句を口にした。

 

「やっぱり、胸を小さくするしかないのか?」

「先輩。それは喧嘩を売ってるッスか?」

 

 案の定、フォルテがキレて飛びかかり、見られれば「そういう関係」とも取れる状況がその部屋で行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の午後6時55分。悠夜は黒鋼を展開した状態で第三アリーナのCピットにいた。

 この時間なのは結局アリーナを抑えられることができなかったため、そして一日も早く一夏を鍛えないとこれから来るであろう敵にすぐにやられる可能性もあるため、時間をずらしたのだ。

 Cピットまでついてきてパソコンで昨日本音が作ったIS学園の生徒会ページにある特設サイト(関係者以外立ち入り不可)を確認していたラウラが言った。

 

「現在のオッズはやはり兄様が低いです。アイツらは一体どういう思考をしているのでしょうか」

「別に構わねぇよ。最初から俺は周りに期待を持っていない」

 

 今の悠夜にはそれ以外にも大切なものがあること、さらに元から織斑派に対して興味がないことから悠夜はそう返した。

 

『準備はいいかしら、悠夜君?』

 

 楯無が個人間秘匿通信を使用して悠夜に尋ねて来る。今回は昨日の一夏に対しての一方的な攻撃を帳消しにすることを条件に出て来た形になっている。

 ちなみにだが、ラウラの処世が効いたのか一夏は全く覚えておらず、何も言ってこなかった。

 

『問題ない。いつでも出れる』

『じゃあ、お願いね』

 

 通信を終わらせた悠夜はカタパルトに機体を接続。

 

『黒鋼、カタパルト接続確認。進路クリア。悠夜さん、発進どうぞ』

 

 簪のアナウンスを聞いた悠夜はいつも通り言って出撃する。

 

「桂木悠夜、黒鋼、出るぞ!」

 

 カタパルトが発進して最終部に到達すると同時に飛び出す。悠夜は地面に着地し、停止した。

 すると少し遅れて白式を纏った一夏が現れ、こちらも地面に着地して停止した。

 

「待たせたな、悠夜!」

 

 一夏に対する歓声を無視し、一夏は悠夜に話しかける。悠夜は悠夜で別段興味がないのか、特に何も返さなかった。

 

「織斑君、頑張って!」

「そんな雑魚なんて倒してしまえ!」

「桂木! わかってんだろな!」

 

 一夏には応援を、そして悠夜には罵倒を。

 もはやそれがIS学園で当たり前となっているのか、大半の人間が惜しげなく悠夜に罵倒を浴びせ始める中、カウントダウンが始まった。

 

【戦闘開始まで、10秒前………5、4、3、2、1―――0】

 

「いっくぜえええええ!!」

 

 一夏の咆哮と共に今、男たちの熱き戦いの幕が上がる。




少年は思っていた。自分は決して上手く戦えると。相手と同等だと。
少年は思っていた。自分は仲間を守れるんだと。

少年は今も思っている。自分は決して弱いわけではないと。

自称策士は自重しない 第92話

「激突! 二人の男子生徒」

悠夜「文句があるならかかってこい。まぁ、来たところで入院させるけどな」

今、二人の男子が激突する。








以上、次回予定でした。

ちなみに予定ですが、学園祭はこれを含めて後2話くらいで始めるつもりです。

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