もしこれを読まれている方で今年度で卒業を迎える方、遅れながらですがご卒業、おめでとうございます。(3/20)
それぞれウォームアップが終わり、先程の約束を果たすために俺とハミルトンは奥へと移動していた。
「で、大丈夫なの?」
「……何が?」
何かおかしかったのか、ハミルトンが睨んでくる。
「さっきからぼうっとしているけど、それでまともに戦えるわけ?」
「……大丈夫だ、問題ない」
敢えてドヤ顔で答えてやると、ハミルトンは口を引きつらせて「上等!」と言い、先行する。
「なめんじゃないわよ!」
重機関銃《デザート・フォックス》を展開したハミルトンは俺に向かって撃ってくる。それを回避するがハミルトンはしつこく俺を追ってきた。
すると弾切れになった《デザート・フォックス》を蹴り飛ばしたハミルトン。飛んできたそれを俺は敢えて驚いた顔をして受ける。
「あなた、やっぱり本気を出してないわね!」
「悲しいけど
「———!! くっ―――」
おお、挑発に乗らなかった。惜しいと思ったけど、それはそれで成長だろう。
とまるで他人事のように思いながら、今度はこっちから攻める。
「舞え、《サーヴァント》」
するとデストロイの後部に装備されている8基のビット兵器が飛び始め、ハミルトンの周囲を舞う。
「遊んでいるつもり!?」
「言っただろう、遊びだって」
《サーヴァント》を一度下げ今度はビームライフル《フレアマッハ》で牽制しつつ徐々に当てていく。ハミルトンも回避するが、その先を《サーヴァント》でバリアを張って動きを止め、逃げようとするところをノーマルフルートライフル《アイアンマッハ》で衝撃を与えつつ、《フレアロッド》で斬り込んだ。
「これで終わりだ」
後ろに下がって対IS用手榴弾を放るハミルトンだが、それをシールドで弾き飛ばして防ぎ、ホバー移動で急接近する。
「ちょっ、何で陸上でそんなに早く移動できるのよ!」
「黒鋼の地形適応、陸上Sなんだよ!」
実は黒鋼、とあるドイツ侍の愛機と同じで飛べるのは飛べるが、地形適応は陸上の方が上だ。もっとも飛行形態に変形すれば流石に空中だけになるが、理論上では海上ジェットのようにもできるとかできないとか。
「ISで陸上Sとか、ふざけてるの!?」
「俺の想像に常識をあてはめんな!」
そうじゃなかったら、ただカッコいいというだけでBGMを一周する銀河系消滅待ったなしと同等の機体なんて考えてねえよ!
などと言ってもこの学園に通う生徒は意外にもその手の物は見ていないので通じない。結構悲しいよね、同類って思っていた奴が実はそうではなかったのって。
「だったら―――」
ラファール・リヴァイヴで空中に出るハミルトン。たぶんあれは忘れているのだろう。
俺はすぐさま黒鋼を飛行形態に変形させ、その後を追う。
「ちょっ、それって―――」
「ついでにだ、何度でもひき殺せるからな!」
「それ物騒すぎるわよ!」
容赦なくハミルトンを轢き、同時に前後を入れ替えてそのまま突貫する。直進ということもあってハミルトンはすぐさま回避。ならすぐにパターンを変えればいいだけだ。
「《デストロイ》!」
肩部装甲についていた《デストロイ》がウイング部分ごと分離し、そのままハミルトンの方へと飛ぶ。俺はその隙に人型へと戻り、新型兵器である大型二銃身《バイル・ゲヴェール》を展開する。銃剣の代わりに先端には斧が付いているのが特徴だが、某一族ではないので攻撃する時に魔法陣が浮かび上がることはない。ちなみにこの武器、取り回しが良くないので朱音ちゃん曰く「振り回すことを是非お勧めする」とのことらしい。
「え、ちょ―――」
「消え失せろ」
高エネルギーの熱線がハミルトンに直撃。だが出力調整を誤ったためか、向こうのシールドエネルギーを全部削ってしまった。本当はもうちょっと遊んでいたかったんだがな。
「………完全に遊ばれたぁ…」
「いやぁ、ごめんごめん。今度からもうちょっと手を抜くわ」
「ねぇ、喧嘩売ってるの? ねぇ?」
すぐさま俺の胸元を掴んでくるハミルトン。ケイシー先輩に若干劣るとは言え、それなりに大きい物を持っている彼女のそれは結構目に毒だったりする。
「まぁ、訓練機で黒鋼に挑もうとした勇気は褒めてやる」
「絶対に喧嘩売ってるわよねぇ!!」
「落ち着けって、ハミルトン。お前が仕組んでんじゃないかと疑っていたものはすべて水に流してやるから、な?」
「……一体何の話よ」
おっと。ちょっと黙ってしまったなぁ。
とはいえこれ以上言ったとしてもしらばっくれるだけだ。ここは少々元気付けてやろう。
「大丈夫だって。例えIS操縦者としての道が閉ざされたとしても、その胸と容姿なら結婚にこじつけられることは簡単だろうから」
「何の慰めよ! 大体アタシにはねえ、ちゃんとした人が―――」
「ほうほう。それは是非聞いてみたいなぁ」
ハミルトンの肩を掴んでホールド。鈴音とそのことに盛り上がろうとすると、どこからか叫び声が聞こえた。
「貴様ぁ! 何をしているか!!」
どうやら篠ノ之が近くにいたらしい。新種の生物かと思った。
「何だ、篠ノ之か。悪い、俺はもう今日は休むから戦闘はパスな」
「その手は何だ!」
「………」
俺はハミルトンの肩を掴んでいる手を見る。
「手だけど?」
「たぶん彼女はそれが言いたいんじゃないと思う」
「セクハラだろう!」
「え? そうなの?」
ハミルトンにそう尋ねると、彼女は顔を青くしてから答えた。
「……違うわよ」
「ほら。本人が言ってるんだから違うだろ」
「……貴様」
「そう睨んだところで俺が犯罪になることなんてないし、大体こんなことをしている暇があったらちょっとは強くなってよ。いくら機体が強くても操縦者が弱かったら宝の持ち腐れなんだし。それともいつもみたいに「姉が自分に相応しい機体を作らなかったのが悪い」とか言う? まぁ、そうだよねぇ。どう考えても頭でっかちな篠ノ之箒に合っているとは思わないし、それにさっきみたいにアビリティが発動しなければ白式以上のエネルギー消耗機じゃあ、ただの邪魔なだけ。あ、いざって時にはみんなと同じでちゃんとシェルターに入ってね。間違っても、応援如きで危ないことしちゃダメだぜ」
さっき勝利したからか、それとも相手が篠ノ之だからか、もしくは俺が元々こういうことを言うのが大好きなだけなのかは知らないが、矢継ぎ早に罵倒できる。現状に快感を感じていた。
「ふん。あの時は貴様も機体に助けられただけだろう」
「いやぁ、ごめんねぇ。俺の機体ってどれをとってもお前と違って優秀でさ。俺の求めている時に力を与えてくれるんだよねぇ。お前の機体と違って」
「………もしかして、あの人が言っていたことってこういうこと?」
隣で未だ肩を掴まれているハミルトンが何か言っているのは無視して、篠ノ之の方を観察する。すると反撃の手立てを失ったのか黙り始める。
「じゃあ、俺はこいつと反省会するから、部外者は帰って、どうぞ」
「え、ちょ、私の機体の動きは悪くなってんだけど!?」
無理矢理引っ張って少し離れる。篠ノ之が未だに睨んでいるがあの程度の眼力なんて大したことはない。
「さて、お前の好きな人についてだが、もしかして―――」
「ちょっと待って。この体勢で話するの?」
「……それもそうだな」
言われて俺は黒鋼を解除して、動きが悪いラファール・リヴァイヴから降りるであろうハミルトンに手を差し伸べる。
「……何よこれは?」
「あれ? 俺の見た西洋映画じゃ、男性って女性が高い所にいればこうしていなかった?」
「あ、そっち。私はてっきりあなたが私のことを好いたかと思ったわ。主におっぱいで」
「アメリカ勢ならファイルスさんやケイシー先輩なら弄り方次第で可愛く見えることはあるだろうけど、ハミルトンは完全服従化させないとたぶん無理」
それにおっぱい要因なら本音がいるとか、言っちゃいけないな。
「アンタって時々わからないわよね。急に優しくなったかと思えば、さっきの篠ノ之さん相手みたいに容赦なく毒を吐いたりするし」
「そりゃあ、俺は基本的に興味がない女は拒絶するからな。まぁ、今のハミルトンは弄りがいがありそうだし」
「くっ、こんなことなら嫌がらせをすればよかった!」
目の前でそんなことを言われても何も感じない俺は、たぶん慣れつつあるのか余裕があるのかのどちらかだ。
とはいえ、もしかしたらレズの可能性もあるからなぁ。元は俺に対して恨んでいたからその可能性も否めない。
そんなことを考えていると、何かが俺の上に乗ってきた。
「兄様。これ以上あばずれと一緒にいるのは危険です。揉みたいのでしたら、この授業を抜けて私を好きにしても良いんですよ?」
「とか言いつつ技を極めないで!?」
もしかしてアレか? 最近構ってくれないからすねているのか?
とりあえず一度降りてもらった俺は、ラウラを抱えて案内する場所に戻る。……畜生。あの女をもう少し弄りたかったんだがな。
(でも、ラウラも可愛いからいいか)
………ところで、最近彼女らの間で飛びつくのがブームなのか? 簪は流石にないと思いたいが。
「招待券?」
「ええ。たぶん明日、配られると思うんだけど………」
放課後。俺は自分の部屋で機械関連の勉強をしていると、楯無が現れた。今、本音は簪たちと一緒に寮外に設けられている大浴場に入りに行っているため、部屋には俺だけなのだ。
「それで、俺にそんなことを話してどうするんだ? 一応、いるにはいるが」
「……誰?」
「幸那だよ。妹だし…………何かありそうだから、呼ぶなって言いたいのか?」
とはいえそれは仕方ないことなのかもしれないな。いざって時に狙われる可能性もある。
「そうね。一応、どこの組織がとかもわかっているけど、あなたには今の内に「未知の敵との戦闘」に慣れてほしいのよ」
「………一応、慣れているつもりだったがな。ああ、なるほど。黒鋼からルシフェリオンの使用範囲を決めてほしいってことか」
なるほど。だから誰もいないタイミングを見計らってここに来たわけか。そしてできるだけ、護衛対象を減らさせてもらうように頼みに。
(……それくらいちゃんとしろよって普通は言うべきだよな)
でもまぁ、流石にそれは言うべきではない。優しさとかではないことは重々承知しているが、こんな自ら難易度を下げるようなお願いをする―――つまり暗部として弱みを見せるのは、信頼してくれている証拠だろう。実績とかいろいろ詰んでいるし、それは当たり前か。
(……というのに、何だろうな)
さっきから楯無と一緒にいると妙なモヤモヤが感じる。こんなことは初めてだ。
「……ええ。理事長と決めたの」
「……………」
……たぶん俺のことを信頼しているから、そんな実験まがいのことができるんだろう。……なのに何でだろうな。このモヤモヤは。
「別にいいぜ。それに黒鋼だって強化されているんだ。下手すれば文字通りオーバーキルしちまうかもな」
「………そう。ところで、何か怒ってる?」
急にそんなことは俺は何故か焦ってしまう。顔には出ていないと思うが、楯無なら気付いてしまうかもしれない。
「…怒ってないけど」
「嘘。今の悠夜君は怒っているわよ」
何故か断言して来る楯無。それに俺はイラッとしてしまうが、なんとか言葉にしないで済んだ。
「気のせいだろ。俺は平常でいるさ」
「………じゃあ、そういうことにしておくわ」
そう言って楯無はベッドから立ち上がる。するとタイミングを見計らったのか、スマホが鳴り始めた。
「………もしもし」
何でこのタイミングでババアが連絡してくるのかわからないが、後からキーキーうるさいだろうから出ておく。
『悠夜、至急頼みがあるんだがの………もしかして、楯無がもう一人の男子とイチャイチャしているのを見てイラついているのかえ?』
「は? 何の話だ」
俺は至って普通なんだが。しかも会話の内容に気付いたのか、楯無が何かを言いたそうな顔をしている。
『惚けなさんな。お主がハーレムを築いてウハウハなのは知っているが、たまには巨乳にも手を出したいと思い始めているのじゃろう? 大丈夫じゃよ。いざとなればアメリカぐらいワシ一人で再起不能に落としてやるわ』
「何すべてを悟ったように話してんじゃボケが!」
すると向こうから笑い声が聞こえてくる。というかあのババア、肉体的な能力は高いがISのようなものは持ってないだろ。
『そう怒るな。なに、更識家ぐらいワシの手にかかれば余裕で潰せる』
「やるなよ。絶対それはするなよ!」
『大丈夫じゃて。ちゃんとあの四人は生かしておいてやる』
「ギルベルトさーん。ちょっとそこのロリババアを潰しておいてもらいませんかぁー」
『しかし残念。ギルベルトは幸那のお迎えじゃ。最近、学園祭の準備で遅くまで残っているからの』
考えてみればそれもそうだろう。なにもこの時期に学園祭をするのはIS学園じゃないからな。……それにしても、残り三日で準備するって言ってもいくらなんでもまだ決めていないってのは無理があるんじゃないか? 確か決めるのって明日だよな? いくら留学生が多いって言ってももう少しゆとりを持たせろよ。
「んで、一体何の用だ? こっちだって暇じゃ―――」
『楯無は近くにいるかの?』
「目の前にいるよ」
何か楯無に用があるらしい。その旨を伝えると楯無は俺からスマホを受け取り、洗面所の方へと入っていった。
■■■
「もしもし、更識です」
『楯無、至急頼みがあるんじゃが………その前にじゃ。お主、悠夜に嫉妬されておるぞ』
「……………はい?」
電話を替わった楯無は洗面所の方へと移動する。ドアを閉めればあまり声が漏れないため、勉強している悠夜の妨げにならないと判断したからである。だが彼女の耳に入ってきたのは、驚くべきことだった。
『………もしやお主ら、まだ何もしていないのか?』
「な、何もって……私たちは付き合っているわけではないですし……」
———というか、付き合えるわけがないじゃない
内心、楯無はそう思う。仮にも更識家は修吾を見殺しにしているのだ。それでなくても楯無は悠夜に対して信頼はしているが、何もそれが恋愛感情と直結するわけではない。
だが何故か、電話の相手である陽子から思いもよらない言葉が出て来た。
『なんじゃと……』
「待ってください。何で付き合っていると思ったんですか!?」
『だって今まで同室じゃったんじゃろう? だったら既に妊娠していて、子供を産むまで一応別室で虚と一緒に寝ているかと思ったわ。なるほど、道理であやつ、さっきの冗談に対して何も突っ込んでくなかったのか』
矢継ぎ早と出す言葉に楯無は少しばかり冷や汗を出す。
『くっ。今度の学園祭でどれだけ出ているかを確認しようと思ったのにのぉ。だからあの時、ずっと我慢していたのに……。悠夜のことが嫌いなのか? ええ!?』
「き、嫌いってわけじゃ……っていうか私たちはまだ学生ですよ!?」
『………不憫なものじゃな。今は少子化というのに、IS操縦者が無駄にアイドルとして祭り上げられているから、容易に結婚も妊娠もできんとは。考えていれば、ワシの時もそうじゃった。クラスメイトが一人、妊娠しただけで大騒ぎ。やれ降ろせ、やれどうしてこんなことをだの、大体、人が愛し合って何が問題あると言うのか』
「…………それで、用件は?」
楯無は突っ込むのを放棄した。ここで長時間電話をしたら用件を聞くのを忘れると思ったからである。決して「それってあなたなのでは?」という疑問を投げかけたくなったわけではない。
『おお、そうじゃった。実はの、二枚ほど入場チケットを優遇してほしいんじゃ。ほら、近い内にそっちで学園祭があるじゃろ? それに出席しようと思っての』
「………それはいいですが」
———幸那ちゃんはどうするつもりなんだろう?
今は普通に学校に通っている幸那だが、女権団が崩壊した原因の娘だ。いつ狙われるかわからない。だからこそ陽子に預けたのである。それを一人で放置させると、下手すれば帰った時に死んでいるという状況になっている可能性もあるのだ。
だが仮に連れて来たら、間違いなく襲われる可能性も出て来る。ましてやここはIS学園。いくら千冬の号令で大人しくなっているとはいえ、まだ女尊男卑思想を持つ女はいるのだから。
『当然じゃが、幸那はそっちに連れて行く。当日は少しだけじゃが悠夜とも一緒に周らせてもいいと思うしの。それに最低限の仕込みは終わらせておるわ。今のあやつなら、下手すればお前相手でもそれなりに戦えるじゃろう。悠夜を好くならば、それくらい強くなってもらわないとな』
———……ズキッ
唐突に楯無は自分に何かが刺さったような感触を味わう。だが刺さったであろう箇所に触れるが、何もなかった。
「…………ちょっと待ってください。これは―――」
『了解じゃ』
楯無は洗面所から出て悠夜に尋ねた。
「あの、陽子様が幸那ちゃんと一緒に学園祭に来るって言っているんだけど……」
「……………………マジで」
『まるでこの会話、夫婦みたいじゃの』
残念ながら、その陽子の言葉は二人には届かなかった。
知ってる? まだこの時、何の出し物も決めていないんだよ?
というかまだ、一夏は楯無の存在は知っていてもどういう人間かを知らないんだよ?
すげぇよ楯無の出現率(笑)