すみません。でもこれ、スランプではないでしょうね。……そもそも私がそこまで上手くないですし。
変なニュースが流れたと言える今、俺たちは平然と食事をしていた。呼び出されていないということは、俺には関係ないと判断されているか、あのニュースがガセだとわかっているかということだろう。ちなみに俺は確かにあの女を襲ったが、それはあれだ。ルシフェリオンでだ。
実際機密事項とやらに触れているはずなのだが、よくニュースなんかに出せたな。
(………でもまぁ、流石にウザくはなる)
ただでさえ面倒なことになっているというのに、向こうから売ってきた喧嘩で勝ったらこれか。
「ホント最悪だよね、この男」
「死ねばいいのに」
「むしろ今すぐ死んでくれないかしら?」
似たようなことを周りから言われ始める。
「ラウラ、座っていろ」
「しかし―――」
ナイフを抜いてどうしようというのか。そんなものではこの場にいる奴らを一瞬で潰すなんてことはできやしない。
「戦ったところで織斑先生からお叱りが来るのは目に見えている。それに俺自身、心当たりがあるというか原因は俺だし」
「………兄様」
心配そうに見てくるラウラ。その顔に萌えていると、近くにいるであろう女子の一人がいった。
「……人でなしが、ここで食事してんじゃないわよ!!」
咄嗟に俺は振り下ろされる何かを掴む。危ないなぁ、フォークじゃないか。
「この、離しなさ―――」
言われた通り離すと、テンプレかと突っ込みたくなるほど綺麗に倒れて後頭部を床にぶつけた。
「ちょっ、大丈夫!?」
「よくもやったわね!!」
「頭大丈夫か、お前ら。今のはどう見ても事故……というかそっちが勝手にこけただけだろ」
そう返すと周りから「サイテー」「ホント消えてほしいんだけど」と聞こえてきた。だから、そう言うとラウラがナイフ抜いて飛びかかって殺そうとするだろ。
「貴様ら……」
「ラウラ、こっちこい」
既に食べ終わっているラウラを呼ぶと、素直に俺の隣に座るラウラ。ちょっとほっぺが汚れていたので軽く拭いた。
「あー、ラウラのほっぺをムニムニしてると癒される~」
そしてラウラの頬で遊んでいると、一人が俺に向けて何かを振り下ろした。
———キンッ
それをフォークで防いだ俺は、相手もフォークで俺を刺そうとしたようだ。
「そんな、止められた―――」
「そりゃあ、止めるさ。こっちは伊達に修羅場を潜っているわけじゃないんだよ」
今なら、大抵のことには対処可能だ。
「やりなさい!」
一人がそう言ってフォークを振り下ろしてきたので、ラウラを抱えてそこから移動する。それをきっかけに俺に対して不満を持っていた生徒たちが一斉に攻撃を開始した。
「兄様、ここは私が―――」
「いや、俺がやる」
《ダークカリバー》を展開した俺はその大きさを利用して防御し、力任せにぶん回す。
すると何人かが吹っ飛んだが、気にせず少し下がった。
「お前ら全員倒すけどいいよな?」
「ふざけてんじゃないわよ!」
《ダークカリバー》をガンモードに変えた俺は堂々と言ってやった。
「答えは聞いてない」
そう言って何人かに怪我をしてもらおうと思っていると、突然別の場所から大きな音が鳴った。
「………これはどういうことだ、貴様ら」
織斑先生がようやく姿を現した。どうやらさっきの音は彼女が出したようである。
「遅いですよ、織斑先生。それに楯無も。ま、もう少し遅かっても良かったんですが」
「……桂木」
「はいはい。消せばいいんでしょ、消せば」
そう言って俺は《ダークカリバー》を粒子へと変えて体に戻した。
「これは一体どういうことかしら?」
「聞いてください、会長! 私たちはただ、犯罪者を捕縛しようと―――」
「存在そのものが犯罪者のお前らが何を言ってんだよ」
「なんですって!?」
一人がそう叫ぶと織斑先生が俺たちの間に割って入る。
「いい加減にしろ。ニュースを見てもしやと思って来てみれば、こういうことになっているとはな」
「これが女尊男卑の弊害ってもんだろ。まぁ、手っ取り早くそんな風潮を消そうと思えばできるけど」
「……どうせお前のことだ。アレを使うんだろう?」
たぶんだが「アレ」とはルシフェリオンだろう。
「いや、生身でひたすら殴るだけだ」
「はん! この数相手にそんなことできるわけ―――」
「———だからいい加減にしろ!!」
唐突の怒声に俺は思わず耳を塞いだ。至近距離で聞くと結構効くな。
「今回の事に関しては機密事項に触れるが桂木には事情があった。それを貴様らが責め立てる必要も何もない!」
「ですが―――」
「聞こえなかったか?」
織斑先生の「超睨みつける」が炸裂する。女たちの防御が一気に4段階下がった。
「す、すみませんでした」
「もうしません」
「そうか。では今度から余計なことをした場合、最悪退学も覚悟しろ」
そう言って睨みを利かせた織斑先生は颯爽と帰っていく。その姿を見て近くにいる奴らは顔を赤らめるが、俺にはできそうにもない。
「悠夜君」
ガシッという擬音が聞こえそうになるほど強く肩を握られた。
「楯無。ここでは人目に付くから部屋に戻ろう」
「大丈夫。この体勢で誰もそっちの方になるとは思わないわよ」
「甘いな。さっき釘を刺されたというのに、もう俺に対して殺気を飛ばす奴がいる。ここは大人しく部屋に戻った方が良いと思うぜ」
「………じゃあ、そうしましょうか」
俺たちはすぐに部屋に戻り、ベッドに座らずに楯無を押し倒した。
「ちょっ、何を―――」
「………ふぅ」
状況を確認した俺は息を吐き、押し倒したベッドに座る。
「えっと、何?」
「たぶん賢者タイムだろうな。と、忘れてた」
一緒に帰って来て、俺が楯無を押し倒したことで固まったラウラをそのまま抱えて座りなおす。
(珍しいな。いつもならそのまま色仕掛けでもしてくるはずだが)
だが今の楯無は俺の行動に驚いているだけで何の行動もしない。それはそれで不気味と言えば不気味だが、今は顔を赤くしているので恥ずかしがっているのだろう。
「………今の、何?」
まさか自分が押し倒されると思っていなかったのか、顔を赤くしながら尋ねてくる楯無。……意外な可愛さを見つけた瞬間である。
「…いや、そのだな……」
どう説明すればいいのだろうか?
相手はどう考えても女。楯無は結構知識あるし、話しても問題があると思うが……正直に言うべきだろうか?
「言わないと叫ぶわよ」
「選択させる気なさすぎだろ!?」
まぁ、どう考えても俺が悪いんだけど。
帰って来てまだ二日しか経ってないが、とりあえず打ち明けることにした。
「……なんか俺、発情しているみたいだ」
「……発情?」
まさかそんなことを言われると思わなかったのか、楯無は繰り返した。
「詳しいことはよくわからないがな。どういうことか、今の俺は特に性的に近い暴走をしている。寝る時ならともかく、普段はこうしてラウラを抱えたりはしないだろ?」
ラウラは容姿から見てとても思えないが、一応は高校生だ。
だけど今では妹のように扱っているが、キスをするなど言い訳ができないレベルのことをしている自覚はある。今も一歩間違えれば性犯罪者として仕立て上げられてもおかしくない状況だ。
「兄様ぁ~」
もっとも、そんな言葉はなんだったかと疑問を持ってしまうほど懐いているが。
俺はラウラの頭を撫でていると、
「もしかして、死にかけたから?」
心当たりがあったのでそう言うと、楯無がすぐに反応する。
「……そういえば、あなたは―――」
「ああ。腹部を貫かれ、挙句傷は回復して女に殴られていたんだよな。もしかしてそれが原因で子孫を残そうと無意識に働いているのか?」
そう推測すると、楯無は頷いて答える。
「可能性としてはあるわ。……未だに家にエロ本あるし」
どうしてそれを今言ったのだろうか?
反応に困ることを平然と言った楯無に俺は返す言葉を見つからなかった。
あれから数日が経ち、俺はすべてのテストを終えた。そのせいか、教室では机に突っ伏していてクールダウンしている状態である。
「大丈夫~」
「………たぶん」
日頃から勉強していた方だと思ったが、どうやらそうでもないらしい。おかげで今はボロボロだ。
「よし、本音。今日は部屋に泊まりに来い」
どうしたことか、ラウラがそんなことを言い始めた。
「えー? いいのー?」
「ああ。その代わり……」
すると複数の足音が遠ざかっていく。どうやら俺の近くだと条件が聞こえてしまうと思ったのだろう。その条件、超気になります。
「なぁ悠夜、大丈夫か?」
「………(・д・)チッ」
「舌打ちって酷くね!?」
お前と話していたら余計に疲れるんだよ。
「情けない。サボっているかと思えば来るなりだらけおって」
「何だよ構ってちゃん。そんなに構ってほしいならそこらのおっさんの性欲処理でもしてればぁ?」
「貴様ァッ!!」
一瞬でぶち切れた篠ノ之。ホント、簡単な奴。
「ま、まぁまぁ。落ち着いて箒。流石にここでは―――」
「俺に有利過ぎて1分もかからず終わるからなぁ。地形的に全く不利だからやめとけって」
ジアンの後にそう言ってやると、さらに切れる篠ノ之。全く。嫌いならわざわざこっちに来なければいいんだが。
「桂木君も桂木君だよ。もう少し周りに優しくしたらどうかな?」
萌える要素もなければ女としておっぱい以外何の価値もない奴と、ただの雑魚の癖に守る守ると言って足しか引っ張らないゴミに一体どう優しくしろと?
「言っても無駄だ、シャルロット。こいつは最初から私たちと仲良くする気はない」
「そりゃあ、大きなおっぱい持っていても使わないようなアホと仲良くする気はないし」
はっきりと言ってやると、篠ノ之が俺を睨んできた。
「悠夜、そんなことばかり言ってると友達無くすぞ?」
「別に俺はボッチでも構わないけど? お前らのように一緒にいないと生きていけないってわけじゃないし」
そう言い返してやると、その場が一瞬で静まり返った。
「ねぇねぇ、ゆうやん」
「……本音か」
たぶんさっきの話を聞かれたなぁと思っていると、本音は俺に抱き着いてきた。
「やっぱりゆうやんはお兄さんだね~」
「一体何の話だよ!?」
最近、こいつらのペースに付いてこれなくなっている気がする。
■■■
IS学園長室。
そこにはその部屋の主となっている菊代、そして彼女に呼ばれた楯無がおり、暗いムードが漂っていた。
「……じゃあ、私は……」
「本来の学年寮へと戻っていただくことになります」
それを聞いた楯無は、口内で苦虫を潰したような顔をする。
菊代に呼ばれた楯無は嫌な予感を感じながらこの部屋に来たが、その予想は当たっていた。
菊代から告げられたのは、学園上層部であるIS委員会からの指令で悠夜との別居、そして織斑一夏の護衛に入ること、だった。理由としては新たなる力を手に入れているだけでなく、女権団を事実上壊滅に追い込むほどの戦闘能力を持つほどの戦闘能力を持つ悠夜ではなく、一夏の方が弱いと思われている―――が、それはあくまでも表向きの話だ。実際は織斑千冬の弟で篠ノ之束の関係者を危険な目に合わせるよりも、何があっても大して被害がなく、死体になれば回収は容易な悠夜ならどうなってもいいと判断しているからだろう。それに、今では違法で別の機体を持っている悠夜を守る意思がない、と楯無は思っている。
「……理事長はそれを―――」
「あまり良くは思っていません。特にあなた方はいい関係を築いていますからね。いざとなった時のストッパーにもなる」
その言葉に楯無は頷きながら、ある疑問を浮かんだ。
「…ということは、簪ちゃんやラウラちゃんを同室にするのは―――」
「ボーデヴィッヒさんは今なら大丈夫でしょうが、いずれ彼女にも専用機を持たせる予定です」
「………」
政府の人間は完全に悠夜を見捨てるようだ。これはおそらく―――
「ルシフェリオンの解析を目的としている、ですね」
「やはりそうなるのでしょう。今は悠夜君が所持していますが、痛めつけて心を折れば容易に渡すか、人質を取れば素直に言う事を聞くと思っているのでしょう」
上層部も臨海学校のことは耳に入っている。だがそれでもそうできると判断したのは、女権団のIS操縦者はほとんどが素人だったことで作戦にほころびが生じたと思っているのだ。
「……あの人たちは、今回の無人機技術と戦艦の個人所持をどう思っているのですか?」
楯無が話題に出したのは、女権団が持っていた無人機―――そして本来ではありえない大量のISである。
本来ならばそれらの調査を乗り出すのだが、どういうことか上層部はそれらの捜索を早々に打ち切ったのだ。それほどルシフェリオンの価値が上だということかもしれないが、だからと言って各国からコアが減っていない現状ではそちらの方が注目するはずだ。
(だけど、それを無視してのルシフェリオンの調査。確かに性能は凄いけど……)
だからと言って、何もここまでしなくてもいいだろう―――そう楯無は思った。
「完全に放置しています。それなりの処罰を下すつもりでしょうが、おそらく―――」
「漏洩させたのは、やはり……」
「ええ。残念ながら証拠はありませんが、委員会でしょうね」
それを聞いた楯無は人知れず拳を握りしめた。
■■■
ISの普及後、各所にIS用ドームが建設されてもう7年が経つ。
その場所では代表候補生になるためのテストなどが行われており、めったに来ないが自ら代表候補生を辞退するための受け付けも設けられていた。
「……本当にいいのですか?」
「はい」
その関東支部では日本人にしては水色と言う明るい髪色をした少女が辞退届を提出しており、その受付に提出している人間がいる。
「でも、あなたは専用機持ちでしょう? それなら―――」
「会社によっては代表候補生じゃなくても専用機を支給してくれる場所はあります。あそこはそういうところですので」
「でも―――」
受付の人はなおも食い下がる。それもそうだ。何故なら今辞退届を提出しようとしているのはここ最近でかなり名前を挙げている人物であり、某ゲーム大会でも世界大会で準決勝となった更識簪だからだ。
受付嬢も最初は驚きを隠せず、何度も発行された身分証と相手の顔、そして辞退届を見比べるほどだった。
「———ちょっといいかな?」
すると簪は「あり得ない」と思いつつ振り向く。
「……どうしました?」
「珍しい顔が騒ぎを起こしていると聞いてね」
一瞬だけ簪が持つ辞退届を見ていきなり現れた女性―――戸高満は簪に言った。
「あそこで話をしないかい? どうして君が代表候補生を辞めるか聞いてみたいな」
「……良いでしょう」
だが満は簪の顔に「面倒」と出ていることを見抜いていた。だが敢えてそれに触れず、女性をエスコートする男性のように簪に手を差し出す。しかし簪は「大丈夫です」と言ってそのまま先に椅子に座った。
「………で、どうして君は代表候補生を辞めるんだい?」
率直な疑問だった。
代表候補生になるためには生まれながら持っているであろう初期値が重要視される。簪やほかの代表候補生もそうだが、彼女らの場合は「A」や「B」が多く、「C」で合格するのは本当に少数だ。IS学園も意外とそうであり、「C」ランクは篠ノ之箒を含めても10にも満たない。
それに簪は絶対に専用機の支給を保証される「国家代表」ではなく、テストパイロットの意味合いが強い「代表候補生」での「専用機持ち」。そしてそれは機体との相性もそうだが、ある一定の基準がなければできないことである。例外はセシリアのように「BT適正値」が必要な機体ぐらいだろう。
「彼と共にいるためには、国家に所属することが邪魔と判断したためです」
「………桂木悠夜、か」
満も最近の悠夜のことは色々と聞いている。一部では「学園の火消屋」とも言われており、様々な襲撃事件に関与しているからだ。
「私にはわからないね。どうして彼のためにそこまでする必要があるのか」
「……それは、あなたが彼と関係を持ったことがないからでしょう」
「!?」
簪の言葉をどう解釈したのか、満は顔を赤くする。
「どうしました?」
「い、いや……その、君は、彼と寝たのか?」
その言葉に簪は陰りを見せ、満は内心ほっとしていた。
「彼にとって、君は本当に共にあるべき人間なのかい?」
「……私が、彼の足かせになっていると?」
「そうじゃないなら、彼はとっくに君を抱いているはずだ。学園別トーナメントのことは私も聞いているが、それでもまだ彼は君を抱いていないのだろう?」
その言葉に簪は「そうです」と小さく答え、さらに言った。
「……でも、もう決めたことですから」
簪は席を立ちあがりそのまま受付に書状を提出して帰る。
満はそれを見送った後、携帯電話を出してとある場所にメールを打つ。「この前の話、お受けします」と。
☆唐突設定
戸高満(とだか/みつる)
日本所属の国家代表。
射撃を得意としており、機体の機動力の高さを生かして移動して撃つスタイルを取る。
美女…というより美形で、男装させたらイケメンのため、某歌劇団からよくオファーが来るとか来ないとか。
実はある秘密を持っており、以前出た教官とは―――
専用機:打鉄射型(第二世代)
しばらくこんなグダグダ状態が続くかもしれないです。