「ふざけんなよ、テメェ」
アサシン型をそのまま武器にして悠夜は箒に対して攻撃を仕掛ける。それを箒は《
「止めろよ悠夜! 何で箒なんか―――」
「うるせえ!! 黙ってろクズ斑ァッ!!」
悠夜の正面に魔法陣が浮かび上がり、そこから黒いビームが箒に向かって飛ぶ。
それを一夏は防ぐと、箒は
「悠夜、ここはみんなで協力してあいつらを倒すべきだろ!」
一夏がそう言うと悠夜は盛大にため息を吐いた。
「………ざけんなよ」
「何?」
悠夜の言葉に箒が反応するも、それよりも先に悠夜が言った。
「どいつもこいつも勝手なことばかり言って、何もできない癖に……弱いくせに……俺の邪魔をするな!!」
既に福音は《ジャッジメント・ランス》を、武士型は近接ブレードを、悠夜に突きつけようとしていた。だが悠夜はそれよりも早く魔法陣を展開―――撃つまで一連の動作をやってのける。
その魔法陣は合計四つも生成されており、一夏と箒の方にも飛んできた。
「挙句ロマンもわからない女がISに乗るなんて……ふざけるなぁああああああッ!!」
二つの魔法陣を生成し、悠夜はそれを投擲すると高速に回転し始める。箒は回避するが、何か鋭い物が飛んできた。
だが一夏がそれを弾く。だが槍だったそれは方向を変えて箒の方へと飛んでいく。そして箒が切ろうとするが回避され、悠夜の方へと戻った。
そして悠夜はそれを掴み、振り下ろされた《ジャッジメント・ランス》を受け止めた。
「悪いな。こっちじゃあ槍も使うんでね」
そう言って悠夜は福音から距離を取ろうとするが、福音は《ジャッジメント・ランス》を刺して来る。それらをほんの数ミリの間隔で回避した悠夜は福音から逃げおおせたが、上から武士型の機体が降ってきた。
「させるかぁあああああッ!!」
だが、その一夏と武士型の機体めがけて二本の熱線が走る。一夏はとっさに《霞衣》を展開して消失させたが、武士型にはそのような機能がないのか、一部損傷した。
全員が撃って来た相手を見ると、そこには―――
「……お待たせ」
唯一後半の福音戦に参加していなかった簪がロンディーネパッケージを使用した状態で滞空していた。
「簪、お前まで来る必要はなかっただろ」
「ごめんなさい。でも、悠夜さんの手伝いをするべきかなって思って」
そう言った簪はマルチロックオン・システムを起動。対象を一夏と箒に定める。
「貴様、どういうつもりだ!?」
「……私は悠夜さんの味方だから」
「だったら、尚更協力してアイツらを倒すべきだろ!」
簪の言葉に対して一夏がそう言うと、蠱惑的に簪が笑った。
「私たちISがいればそれこそ邪魔だけど?」
「何を戯言を! あのような機体でISを止められるわけがないだろう!?」
「………可哀想に」
ポツリと、簪が零すように言った瞬間、急に現れた武士型の機体が簪の後ろから近接ブレードを振り下ろした。
———しかし、それは制止する。
突然現れた槍が武士型の機体を貫通した。その先端にはガラスの破片があり、下の方へとキラキラと流れるように落ちている。
「……信じてた」
「馬鹿が。気付いていたならビットで迎撃しろ」
「でも、悠夜さんの実力を見せるのならこうした方が良いと思って」
そして簪は躊躇いもなく一夏と箒に向けて一斉に撃つ。
「え!?」
「くっ、貴様ぁッ!!」
それぞれ反応を見せる中、簪が悠夜に言った。
「二人は私が食い止める。福音を」
「ああ。任せたぞ」
ルシフェリオンの大型ウイングが開き、赤黒い光の翼の展開。悠夜はいつの間にか球体のエネルギー弾を生成している福音の所へと飛んだ。
「させるか! 一夏!」
「ああ、わかって―――」
だが簪が一夏に対して二基の荷電粒子砲《春雷》を撃ち、足止めされたところで《銀氷》で斬りつけられた。
「くっ。更識さん、どうして―――」
「悠夜さんの戦いの邪魔をさせない。それだけ」
《銀氷》の刃が非実体となり、その状態で簪は一夏に攻撃した。
■■■
簪の援護もあり、悠夜は福音、そしていきなり現れた四機の内二機と戦うことになった。武士型、そしてアサシン型は既に撃墜しているため、残りは獅子型、狙撃手型である。
そして悠夜が最初に狙ったのは、狙撃手型だった。
「落ちろ」
先程の槍を投擲した悠夜。するとその槍はまるでミサイルのように狙撃手型に飛んでいく。だが狙撃手型はそれを回避した。
ビームを放とうとする獅子型と共に狙撃手型は悠夜に向かって撃とうとしたが、それは適わなかった。
———ドンッ!!
先程の武士型の逆―――背中から刺された狙撃手型。先端上部には先程と同じくガラス破片が乗っていた。
「———《
《ゲイグン・ボルグニル》は狙撃手型から飛び出すと、狙撃手型が爆発した。
戻ってくる《ゲイグン・ボルグニル》を掴む悠夜。すると悠夜はそれを収納した。
「さて、お前らはそう簡単にやられてくれるなよ?」
そう言って悠夜はその場から姿を消す。
———突然だった
獅子型と福音はいなくなった悠夜を無視、そして現在、悠夜のために足止めしている簪に標的を変えたのだ。
そしてどちらもチャージをしている時、突然獅子型に異変が起こる。
篠ノ之束は自分の機体が瞬く間にやられたことに唖然としていたが、すぐに思考を切り替える。
そして消えたことでサーチすると同時に今いる簪に狙いを付けたのである。
「お前もそろそろ目障りだし、それに消えたら箒ちゃんの分の席が空くってもんだしね♪」
そして発射するタイミングで獅子型の反応が消失する。
「———!?」
慌てた束はすぐにその空域の映像を出すと、既に獅子型の体にズレが生じており、爆散した。
悠夜は再び姿を現す。福音はそこに向けてビームを放つが、悠夜は動かず左腕を上げてビームにぶつけた。
その時、ルシフェリオンの装甲が開き、ビームを吸収し始め、それに比例して光の翼が大きくなる。
福音はビームを中断、接近戦で潰そうとするが、悠夜が残像を残しながら移動し始めたため、上手く捉えられなくなる。
それを予めわかっていたからか、悠夜はランダムに軌道を変えながら福音に接近して蹴りを入れた。
「お前の負けだ。だが、降参はしないのだろう?」
そう言いながら悠夜は両拳を福音の光の翼が噴出している根元に叩きつけて大爆発を起こした。
そして悠夜は福音から距離を取る。
「俺の両手が黒く染まる」
その言葉に呼応するかのようにルシフェリオンの銀色の手甲が黒く染まっていく。
「貴様を壊せと轟き唸る!」
そして両手から電気が走る。
「必殺……ダークネスッ―――」
悠夜は福音の両肩を掴み、
「フィンガァアアアアアアッ!!」
握り潰し、その場で回転して脚部についているナイフで顔面ごと装甲を抉る。
そして上に飛んだ悠夜は、
「サーヴァント、ゲートモード」
そう唱えると8基のサーヴァントが4基ずつで2つのゲートを形成、さらに悠夜の周辺には黒い球体ビットが悠夜を中心に球体を作り、ゲートを潜って突撃した。
「
10%から30%の威力になった己自身でぶつかった悠夜。さらに、福音がいる場所に向かって四方から光弾の嵐が襲う。出している先にはルシフェリオンがおり、それらはすべて悠夜がルシフェリオンの幻影機能で生成した分身だが、同機能を持っていた。
さらに本体である悠夜は福音の前に現れると空間の腕部装甲を突き刺し、抜く動作をするとそこには先程使っていた大剣《ダークカリバー》が握られていた。人間が持てるサイズではなく、完全にISなどの大きさに合わせたものだ。
「すべてを開放せよ、《ダークカリバー》」
すると刃全体が黒く光はじめ、悠夜がそれを振ると黒い剣閃が現れ福音がいる場所を通過、そのままたまたまいた簪たちの間を通る。
「え!?」
「何だ!?」
「………そんな」
三者三様の反応を示す中、悠夜はその手に握っている白銀のコアを見せるように出し、一度投げて掴んだ。
「ブレイクゥウウウウ、エンドッ!!」
そしてコアは破壊され、同時に福音がいた場所で大爆発が起こった。
こうして臨海学校二日目に起った暴走軍用IS撃破作戦は様々な遺恨を残して幕を閉じる。
「任務は完了した。帰投する」
「了解」
簪は悠夜に続き、旅館へと戻る。一夏、そして箒も聞きたそうにしていたが今は帰ることを選んだ。
■■■
風花の間に戻るが、そこにはたくさんのISが武装していた。
それはわかっている風だったのか、何とも思わず悠夜はそのまま着陸する。
「その機体を解除し、待機形態でこちらに渡せ」
千冬がそう言うが悠夜はその勧告を無視し、ルシフェリオンを解除しただけでそのまま旅館の方へと向かう。
「待て!」
千冬がそれを止めようとしたが、打鉄を装備した教員の一人が悠夜に《焔備》を向ける。
「止まりなさい! それ以上勝手な真似をすれば撃つわよ!」
「………へぇ」
すると悠夜の傍から鎖が出現し、そのISを固定した。
「なっ!?」
「悪いが俺は眠いんだ。お前たち雑魚の相手をしている暇はない」
そう言って悠夜はその場を去ろうとしたが、先に来ていたイーリス・コーリングが悠夜に尋ねた。
「おい、ゴスペルは……シルバリオ・ゴスペルはどうなったんだ!?」
「コアごと破壊した。そうでもしないと復活するだろうからな」
その場に戦慄が走るが、悠夜は気にせず部屋へと向かう。その道中、待っていたらしい本音と出会った。
「……ゆ、ゆうや―――」
だが、悠夜はそれを無視して自分の部屋に行く。
中に入るとそこには悠夜が見慣れているがそこいるはずがない男がいた。
「……来ていたんですね、ギルベルトさん」
「ええ。あなたとあなたを助けに向かった少女を救いに行った陽子様の命令で。風呂は既に沸いてあります。着替えの準備や布団も少々高くしてあります」
「ありがとうございます」
礼を言った悠夜は室内に準備されている風呂がある浴室に入る。ギルベルトはドア越しに悠夜に話しかけた。
「彼女にねぎらいの言葉をあげるかして差し上げればよかったのでは? そうすれば、あの少女も嫌われていないことがわかるというものを」
「…………」
悠夜は黙っていると、ギルベルトは続けて言った。
「では、私は帰ります。あまり長居をするわけにはいきませんので」
「……ええ。祖母にもよろしくお伝えください」
「わかりました」
ギルベルトは部屋を出ていく。そして悠夜も風呂に入り、しばらくすると出てから用意された物に着替えた。
歯を磨いてからそのまま高さ的にベッドと言っても過言ではないほどに積まれた布団を見て「どうやってこんなに調達したんだ?」と思ったが、すぐに布団に入る。
やがて意識が遠退いていくが、幾時間が過ぎた時、ふと悠夜は目を覚ました。
本来ならばそこには自分かもしくはラウラがいるはずなのだが、ラウラはまだ処理を行っているのでいない。そう、先程悠夜に無視された本音が悠夜の上に乗っていたのだ。
時間は少し遡る。
悠夜に無視された本音はそのままの状態で外にいた。本来ならば許可されないが、今回だけ特別にと許可が出たのである。
「考え事か?」
任務に参加していたため一晩だけ停泊を許可された清太郎が娘にそう声をかける。柵に寄りかかっていた本音は向きもせずに頷いた。
「…ゆうやんに、嫌われたみたい」
「……そうか」
後ろで何やら動いたが、感じたことがある気配でもあるので二人は行動を起こすことはなかった。
「ならば、もっと当たればいい」
唐突にアドバイスをする清太郎。まさか父親にそんなことを言われるとは思っていなかった本音は驚いて振り向くが、清太郎自身は気にせずに続ける。
「お母さんも中々振り向かないからとよく夜這いをしてきたよ。普通、そういうものは男がするものだろうに」
「………おとーさん。うん、わかった!」
本音はすぐにそこから消える。彼女は前々から簪、そしてラウラに後れを取っているという自覚があったための俊敏さだろう。
その様子を見ていた清太郎は、今まで抑えていた殺気を出す。
「よく我慢したな、お主」
近くで見ていたらしい陽子が清太郎に言うと、普段から冷静な彼かららしからぬ言葉が飛び出した。
「正直、今すぐにでもミンチにしたいのですがね」
「そうですよ! 今すぐ桂木悠夜を消しましょう!」
「俺、今日この日のためにチェーンソーを持ってきています!」
各々拷問もしくは殺戮のための武器を出すが、陽子の言葉に全員が止まる。
「別に戦ってもいいが、あやつはなんだかんだで3年前にお主らの一部とフランスのマフィアの一部隊、そして4か月前には警察の機動隊を壊滅させていることを忘れているじゃろ」
「「「……………」」」
一気に現実に戻された彼らはガタガタと震え出した。
「じゃが驚いたぞ。まさかお主があんなアドバイスをするとはな」
「今にも泣きそうになって我慢して諦めている娘に「止めて置け」なんて言えませんよ。それに曲がりなりにも娘を助けていますしね」
「………妊娠しないことを祈っておくかの」
そんなある意味怖い会話をしていることはともかく、本音はすぐさま風呂に入り、体を清めてから浴衣姿で部屋に来て、積み上げられた布団の上に寝る悠夜の上で待機していたのだ。
だが今の悠夜は度重なる戦闘で疲労しており、ぼうっとしている。
(………可愛い)
それが誰だか判別にいる悠夜は本音を抱きしめ、横に向いて寝た。
「ゆ、ゆうやん!?」
つい大声を出してしまった本音だが、悠夜の意識は既に眠りについている。それでも一層抱きしめ、本音は自分の計画とは違う形だが、ある種の勝利を得たような気がした。
■■■
すべての聴取が終了し、ようやく教師たちは自由時間となる。
本来ならばとっくに疲れを癒しているはずだが、今回は長時間に渡る任務と後に判明した女権団の襲撃、さらに桂木悠夜が所持していた謎の機体に関しての報告があって遅れたのである。本来ならばそれの回収をするべきだと判断されたが、今の悠夜は何をするかわからないという簪の言葉で一度見送りという形になった。
そのため、明日の打ち合わせのために朝を少し早める予定だったが、それを簡易にすることにして6時起床のところを7時半ぐらいまでにした。そして明日は10時にここを出る予定となっている。
そして現在は午後10時半。教員がそれぞれ休もうとしている頃、千冬は一人森の中を進んでいた。
やがて木々がなくなり、昨日箒がいた崖でも先程本音がいた崖とも違う場所に出る。
「紅椿の稼働率は絢爛舞踏を含めても42%かぁ。あの機体がいなければもうちょっと出たと思うけどねぇ」
崖に設置されている柵の上には篠ノ之束がおり、まるで子供を思わせるような雰囲気で背を伸ばし、さっきまで見ていた投影ディスプレイに視線を戻した。
「は~。それにしても白式には驚くなぁ。まさか操縦者の生体再生まで可能だなんて、まるで―――」
「まるで『白騎士』のようだな。コアNo.001にして初の実戦投入機、お前が心血を注いだ一番目の機体に、な」
唯一立っていた木に体を預けるようにして、そして束に背を向けるようにしてもたれかかる千冬。そのオーラはどこか暗く、まるで今にも辺りを闇で消すことができそうだった。
「やぁ、ちーちゃん」
「おう」
お互いは振り向かない。そこに気配が、そして確かな存在がいるのだから。
「ところでちーちゃん、問題です。白騎士はどこに逝ったんでしょうか?」
「白式を「しろしき」と呼べば正解なのだろう?」
「ぴんぽーん。さすがはちーちゃん。白騎士を乗りこなしてミサイルを落としただけのことはあるね」
千冬の答えにそう言った束。だが千冬はその言葉が持つ空気に水を差すように言った。
「まぁ、あの時はもう一人いたがな」
「それは向こうから来たんだよ、ちーちゃん。本当ならばちーちゃんだけでも十分だった」
だが、千冬は答えない。それどころか、さらに闇が増えた気がする。
「たとえばの話、コア・ネットワークで情報をやりとりしていたとするよね。ちーちゃんの一番最初の機体「白騎士」とと二番目の機体「暮桜」が。そうしたら、もしかしたら、同じ単一仕様能力を開発したとしても、不思議じゃないよねぇ」
「…………」
千冬は答えなかったが、束はさらに続けた。
「それにしても不思議だよねぇ。あの機体のコアは分解前に初期化したのに、なんでなんだろうねー。私がしたから、確実にあのコアは初期化されたはずなんだけどね」
「不思議と言えば、そういえば桂木が使用していた機体「黒鋼」も別の操縦者が扱っていたな。何か知っているか?」
「まぁねぇ。あれは私じゃないなぁ。見た時びっくりしたから」
「………そうか」
それを聞いた千冬は確信していた。彼女は今の束が偽りではないことを、そして女権団の裏にはどこか裏の組織が関わっていることを。
「でも何よりも驚いたのはあの機体だよねぇ。気持ち悪いほど禍々しい」
「………お前がそこまで感情を顕わにするとはな。よほど悔しかったのか?」
千冬がそう尋ねると束は「まさか」と言った。
「そうでもないよ。でも―――」
すると突風が吹き荒れる。束はある言葉を残して消えた。
そしてそれが千冬の耳に辛うじて聞こえたが、彼女は盛大にため息を吐いた。
———今は仕方がないから生かしてあげるけど、いつか消してやる
ということで今回で福音戦は完全決着となりました。本当は本音の部分はもうちょっと盛り上げたかったけど、ある意味勝者なので。
一応、次話で三章を終わらせる予定です。