IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#7 強襲と八つ当たり

 軽トラックが二台、IS学園島と本州を繋ぐ橋を通り、学園側に設けられたサーチャーゲートを通過する。

 そしてゲート開閉所で倒されたバーの前にトラックが止まり、そこで再び機械によってスキャンされ、その間に開閉所に駐在する女性警備員が提示された許可証と物品リストを見て、間違いがないかを確認する。

 そのトラックからは人間の反応も検出されたが、最近ではリストラや地上げで男のホームレスが増え、その影響でこういう物資が狙われることが多くなり、そのために人を荷台に載せることが多くなった。

 それだろうと思った女性警備員は通行を許可し、ゲートバーを上げてトラックを通す。

 そしてトラックはそのまま地下搬入口へと入り、検閲所で停止。そこにも駐在している女性警備員が再び検査し、今度は中の物を検査する。

 その際、中にいる人間は降り、ボディチェックをして合格を受けた。ただし、持っている武装は渡すと条件でだ。運転手と助手席にいる業者もボディチェックを受けるが、こちらは武装をしていない。

 その人間たちは四人(一台につき二人)とも武器を渡し、搬入の手伝いをする。

 それが終わるとすぐに戻るが、大抵の人間は量が量なため休憩することがあり、会社からはその時の対応は自由にする許可を得ている。ちょうどお昼時であり、いつも通り早目の昼食ということで近くの購買部にでも寄ろうと話している最中に警備の人間がトイレに行くことを言葉を濁して伝え、その場から立ち去った。各々、没収された武器を持って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 あの後、訓練機の貸し出し申請をするために職員室へと来たのだが、とんでもないことがわかった。

 申請は遅くても一週間前にしなければならないようで、生憎と訓練機の都合は付かないようだ。

 なのでそのことを織斑先生に伝えて出場を無しにしてもらおうと思ったが首を縦に振らなかった。何が何でも出したいようだ。

 そして一週間が経ち、ひたすら知識とジョギングぐらいしかしなかった俺は更衣室で着替えていた。着替えると言ってもISスーツは下に来ているのでISスーツ用のジャージを着るくらいだ。

 

 俺は父親がわからなくなる時がある。

 会社の付き合いとか言って最新式のゲーム機をもらってきたりとか、サンプルとして服をもらってきたりとか、テストとしてテレビを送ってもらったりとか、はっきり言って謎である。とはいえこっちとしては得をしているし口は災いの元、触らぬ神に祟りなしなので未だに聞いていない。……ISスーツも送ってきたので、流石に好奇心が働いているがな。

 で、何故俺がここにいるのかというと、試合に出ないことが許可されないのならば出てすぐに降参しようという考えだ。

 どうせなら周りと同じぐらいのスピードでの成長でいいんじゃないか。俺はゆっくりやるさ。

 

(……髪、どうしようか)

 

 メガネは伊達だからあろうが無かろうが見えるのだろうが、お守り代わりでもあるため手放すのは惜しい。

 しばらく考えた後、俺はそれを外すことにして授業用カバンの中に入れてから、そのカバンをロッカーの中に入れる。

 防犯のために鍵を閉めてカナビラに付けて振り返ると、何かが目の前に過ぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ―――遅い

 

 到着予定時刻を当に過ぎているが、一向に白式が来ない事に千冬は苛立っていた。

 既にアリーナの観客席には観客が入っており、一年一組以外の生徒の姿も見る。立ち入り禁止にするべきだったことを後悔するが既に遅い。生徒たちの無駄とも思えるその手の活力を知っている千冬は諦めた。

 

(これ以上は待てないな。仕方ない、桂木には先に出てもらおう)

 

 本来なら専用機持ちとなる自分の弟―――一夏とセシリアの同じ専用機持ち同士の戦いを見せ、勝った方が悠夜と戦うことになっている。アリーナの貸し出しは夜の七時まで行われている。そのためどれだけかかっても後の生徒のためにできるだけ多くの時間は残してやりたかった。

 ちなみに本来ならこの時間も他の生徒が使用しているはずだが、別の時間帯に千冬が教えるという条件でアリーナを使わせてもらった。

 

「山田先生。今から桂木に出るように言ってきますので先に打鉄を移動させてください」

「わかりました」

 

 管制室から出た千冬はそのままいるであろうAピットに向かう。そこにはISスーツに着替えた一夏と制服姿の箒がいたが、悠夜の姿はどこにもいなかった。

 

「あ、千冬姉―――」

 

 ―――スパンッ

 

 速攻で千冬は一夏に出席簿を振り下ろす。

 

「織斑先生と呼べ。学習しろ。さもなくば死ね」

 

 「ちょっ、そこまで言う―――言いますか!?」という一夏の言葉を無視して千冬は二人に質問をした。

 

「桂木を知らないか?」

「いえ。ここには来ていませんが」

 

 箒がそう答えると「そうか」と答える千冬。少し探して見つからないのなら一夏に打鉄を使わせようとすると、千冬が持っていたインカムに通信が入った。

 

「どうした、山田先生」

『…織斑先生、落ち着いて聞いてください』

「少し待て」

 

 急を要するみたいだが、直感的に聞かれない方が良いと思い、千冬はピットから出て用件を言うことを促した。

 

『先程更識さんから連絡が来たんですが……』

 

 「やはりいたか」と内心思う千冬。

 

『その…桂木君が、何かに襲われたようです……』

「………」

 

 息を呑み、沈黙する千冬。幸か不幸か白式が到着したがそちらは真耶に任せ、彼女は今悠夜がいる現場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 目を開けると、視界は知らない天井で埋め尽くされた…と思ったんだが、どういうことか白いカーテンと銀のレールも視界に入ってきた。

 

(これじゃあ、「知らない天井だ」なんて言えないじゃん)

 

 少しショックを受けていると、何故か良い匂いがした。

 

(……ああ、俺は死んだのか)

 

 死体はさぞ見苦しい状態で放置されているだろう。日頃から「気持ち悪いヒョロ男」と認識されているだろうが、脱ぐと凄いんです。

 とはいえたまたま立ち読みした雑誌に書かれていたことであり、参考程度で鍛えたとかではなく、たまたまそうだっただけなんだけどな。というか俺、絶対に裸で放置されているよな。

 

(幸い服は着ているようだけど、それは死んだからだし)

 

 ワンピースみたいなのを着用していることを確認した俺は状態を起こす。ムニュっとした感触がしたが気にしないことにした。

 周りはマシュマロでできているようだが、食べれるだろうか。

 

(まぁ、いいや。現状を把握する為に今は町人とか話を聞きに行くか)

 

 そう思って人を探そうとすると、いきなり前に進めなかった。

 どういうことかと思ったら目の前に大きな壁ができた。とりあえずそれをどうしようかと考えていると、気配がしたので下を見る。

 そこにはキツネのぬいぐるみがあり、俺はそれを手にとって抱きしめた。

 

「わぁ~、やわらけぇ~」

 

 何だか眠くなったのでそれを抱きしめたままさっきのマシュマロのところに戻る。

 そして飛び込んだ俺はそのまま眠った。枕、気持ちよす~。

 

 

 次に意識が覚醒したのは天国ではなかった。

 そこは前に見た医療ドラマのワンシーンを思い出させる設備が揃っていて、色々と医療機器が並んでいる。

 脇には丸椅子が置かれており、ついさっき誰かが使っていたようだ。

 右手で口に付けられているマスクみたいなものを取ろうとしたが、動かせないみたいなので左手で取り、上体を起こす。衣服は患者が着るような服を着ていて、周りにはいくつかの医療機器がさっき確認したのと同じように並んでいる。どうやら現実らしい。

 

(……どうして俺はこんなところに?)

 

 事態が理解できずに考えていると、ふと脳裏に何かが振り下ろされたことを思い出した。

 

(……チッ)

 

 たぶんアレは校内の連中じゃない。声質から大人の声だし、匂いも若者特有のそれじゃなくておばさんとか、その辺りから臭うそれだった。

 

(………殺してモルモットにするつもりかよ、ボケが)

 

 悪態を吐いて自分を慰める。そうすることで多少の怒りは止み、相手を蔑む事で心を潤した。

 

(まぁ、そうすることであのババア共はスッキリするんだろうけど)

 

 そう思いながらベッドから降りると左足にギブスをはめられていたことに気付く。近くに立てかけられていた松葉杖を使って外に出ると、そこにはみかんやリンゴといった果物を入れた籠を持つ更識とバッタリ会った。

 

「か、桂木…君?」

 

 彼女は俺が起きていることを知らなかったようで驚いている。

 俺はそれを無視してとりあえず部屋に戻ることにした。

 

「ま、待って! 何処に行くの!?」

 

 右腕が掴まれ、痛みが走り反射的に腕を振ってそれを払う。

 

「別に何処だっていいでしょう。わざわざあなたに逐一自分の行動を教えないといけないのですか?」

 

 嫌悪感を出しつつ、更識を睨みながらそう答える。だが更識はなおも言った。

 

「でも、あなたは怪我をして……」

「負わせたのはあなたたちでしょう」

 

 そう言って俺は松葉杖を付きつつもそこから離れる。

 しかし更識はしつこく俺に付き纏うとするので松葉杖の足を向けた。

 

「………何?」

「これ以上俺に関わるな。目障りだ」

 

 睨みながらそう言うとこれ以上追うつもりはないのか、更識は足を止める。

 その隙に俺はすぐにそこから離れ、自分の部屋へと向かった。


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