IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#65 銀の鐘が鳴らすのは……

 襲い掛かってくる福音を回避した悠夜。《アイアンマッハ》を展開して容赦なく福音に撃つ。

 だが福音は得意の機動力でその弾丸を回避。だが別方向からの援護射撃で動きを停止したことで直撃を食らい、さらには飛んできたビームブーメラン《疾風(はやて)》で斬りつけられる。

 

【La♪】

 

 すると福音は機体を回転させてそこから雨霰の光弾を飛ばせる。悠夜は飛行形態に変形して海の方へと逃げる形で回避した。福音は悠夜を追い、通所形態へと戻った隙を見てもう一度光弾を撃つが、ビットがシールドを展開したことで防がれる。

 

「我が念じるまま飛べ、サーヴァント」

 

 8つのビットが同時に飛んで、それぞれのランダムに軌道を描く。その隙に自らの攻撃を回避しつつ悠夜が接近し、《ツヴァイファング》で斬りつけた―――かに思えた。

 

 ———ガギンッ!!

 

 だが福音の手には見慣れない槍があり、それで《ツヴァイファング》の斬撃を防ぐ。黒鋼のハイパーセンサーには《ジャッジメント・ランス》と表示されていた。

 

「………へぇ」

 

 どこか感心した風に声を漏らした悠夜。福音はそんな彼に対して《ジャッジメント・ランス》で連続で突く。

 

(一撃一撃が重い……)

 

 悠夜は福音との距離を開けて《ツヴァイファング》を納刀、シュヴェルトパッケージに装備されているもう一本の剣《アスカロン》を抜刀した。

 この《アスカロン》は《ツヴァイファング》の1.5倍の長さを持っており、連結機構を持っていない。

 福音は《ジャッジメント・ランス》を投げる。だがそれを悠夜は余裕で弾き、距離を詰める。

 

(もらった―――)

 

 《アスカロン》を振り下ろす悠夜。だが福音の手には《ジャッジメント・ランス》が握られており、防がれる。

 

(……土壇場だが、やってみる価値はあるか)「サードアイ、開眼」

 

 サードアイシステムが作動し、悠夜に膨大な情報が送られてくる。当然、福音が下がったことで二つの選択肢からその後の軌道までもが表示されたが、どちらも否定した。

 するとその通り、福音は《ジャッジメント・ランス》を悠夜の方へと向け、そのまま一直線に飛んできた。

 サードアイシステムの元は何事も見通す力を持っている「悟り妖怪」の能力からきている。だが、システム上はそうはいかない。予め戦闘データを入力したならば話が別だが、福音のように機密に当てはまるものはそれがなく、戦闘中に収集しなければならない。それでも使うのは三年前から使用している自信とこだわりからだ。後は世界に対する嫌みだろう。「こういう第三世代兵器がありますが、あなたたちは考えられなかったんですか?」という。

 さらにサードアイには視野をより広げる効果がある。

 元々ハイパーセンサーは360度見ることができるが、人間は常日頃から後ろを見ることに慣れておらず、ISを装着していてもそういう癖を出してしまう。だがサードアイを起動していると通常の感覚でより広く現象を捉えることができるのだ。今回の使用はこちらを重視している。

 

「ラウラ、ディザスターを射出しろ」

 

 風花の間にある作戦本部に通信を繋ぎ、管制を務めるラウラにそう指示する悠夜だが、返事したのは千冬だった。

 

『もういい、止めろ!』

 

 いきなりの怒声に一瞬動きを止める悠夜。その隙に福音が悠夜に到達するが福音をいなす形で回避する。

 

「何がだ?」

『確かに作戦は失敗だ。だが、だからと言ってお前が責任を取ってやられる必要なんてない!!』

 

 

 風花の間では、ずっと千冬の方から悠夜に―――黒鋼に対して通信を試みていたが向こうが拒否するように設定していたこともあって中々つながらなかった。すると今度は向こうから通信を繋げると、すぐに千冬が応答した。

 彼女はずっと危惧していたのだ。倒れた二人と簪を逃がし、責任を取って死ぬ気かもしれないと。

 だからあの言葉なのだが、

 

『何を言っているんだ、アンタは。俺は元から、責任問題とかそういうことは考えていなかったけど?』

「……何?」

 

 今度は横に薙ぎられながらも柄の部分を籠手で防ぎ、福音の動きを止めた。

 

『悪いが、俺は最初から織斑と篠ノ之に何の期待もしていなかった。最初に出たかったのも軍用を相手にして勝てば俺の操縦者としての評価も上がるからな』

 

 福音の大型ウインフスラスターの砲口が開き、そこから羽状の弾丸が飛び出して来る。悠夜はそれを盾で防ぎつつ、砲口を次々と《フレアマッハ》で破壊していく。

 

『それにあの二人の機体にも最初から問題しかないんでな』

 

 ワイヤーアンカーを射出して福音に絡ませ、引き寄せる。

 

『追加武装がない剣一本の奴が高速戦闘でまともに捉えられるかってのも無理があるだろう』

 

 《アスカロン》で銅を切り、交差するときに《サーヴァント》の一斉射撃が福音に攻撃した。

 

『相手は射撃主体の機体で、ましてや高機動型』

 

 ワイヤーアンカーで再び引き寄せた悠夜。同時に福音は再び弾丸を放った。

 

『いくら紅椿のスペックが化け物とはいえ』

 

 だが悠夜は上から福音の後ろへと回り込み、ホーミング機能で襲ってくる弾丸を福音で防ぐ。

 

『篠ノ之のような単細胞では無理がある。ラウラ、頼む』

「わ、わかりました―――」

 

 この時、千冬には悠夜を止める気力はもうなかった。それもそうだろう。先程から悠夜は通信しながら福音の攻撃を捌いている。千冬自身、「もしや倒せるのでは?」と思い始めたのだ。

 

『それに例え殿とはいえ、別に福音(アレ)を倒してしまっても構わんのだろう?』

 

 そう言った悠夜は再び《ツヴァイファング》を抜き、今度はそれをぶん投げた。

 回転し、弧を描いて福音へと向かっているがあまりにも遅いため福音はそこから離脱する―――と、その先に向かって飛行形態へと変形した黒鋼が飛んでいく。さらにきっちりと《ツヴァイファング》を回収していた。

 

 

「いっけぇ!!」

 

 シュヴェルトパッケージを装備した状態で飛行形態へと移行した場合、《ツヴァイファング》は横になり、第二の翼となる。もっともそれはデストロイに予め付いているウイングと異なり殺傷能力があるが。

 そしてそのまま突っ込んだ場合、通常ならば福音に落とされるのは目に見えていた。が、黒鋼には突撃の際にバリアが張られる。オートならば当たる瞬間だが、悠夜は脳内での切替をすぐに指示したため、今は悠夜の意志で展開するようになっている。

 躊躇なく福音を轢いた悠夜。その時、黒鋼のハイパーセンサーにディザスターパッケージを運んできたキャリーバードが接近していることが報告されたため、そのままの速度で180度回頭させ、もう一度福音を轢きつつ、さらに置き土産を置いて合流する。

 ちなみにその置き土産とは、学園別トーナメント時に披露した爆弾である。

 瞬間、福音の周囲が爆発した。同時にそれを見たラウラとシャルロットは同時に身震いした。

 

「———ターゲット、マルチロック」

 

 福音はかなりの損害を負いつつも無事で、戦闘を回避するためにそのまま後ろを向いて逃げ―――ようとした。

 

「じゃあな」

 

 だが目の前にはディザスターパッケージを装備した黒鋼を纏う悠夜がおり、ほとんど距離がない状態で容赦なく発射した。

 

 

 

 

 

「………ひ、酷い」

 

 風花の間にいる真耶がポツリとそう漏らす。周りは賛同の意を表さなかったが同じ思いであり、ラウラにいたっては学年別トーナメントの時の残忍さを思い出してしまいさっきから震えていた。

 

『任務完了。これより回収作業に入る』

「…………あ、ああ……」

 

 本来ならば「それは教師に任せて帰投しろ」とでも言うつもりでいた千冬だが、福音の散り際とそれを行ってもなお冷静にいる悠夜を見て思わずそう返事してしまったのである。

 

(……本当に、リゼットは彼が好きなの……?)

(こんなの……あり得ませんわ……)

 

 シャルロットは不安に駆られてしまい、セシリアは圧倒的な差を見せつけられ絶望していた。そして鈴音は、

 

(強いってのは気付いていたけどさ、まさかここまでになってるって思わなかったわ……)

 

 パッケージを使用しているとはいえ、軍用ISをほぼ単機で倒すほど強くなっているとは思っていなかったようである。

 

 各々、そこまで思った時―――風花の間に危険表示を知らせるアラームが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

「ふーん。まさかこれが落ちるとは思わなかったよ」

 

 花月壮から遠く離れた位置にあるラボで束は全容を見ていた。

 

「だけどさぁ、やっぱり邪魔だなぁ」

 

 いくら機体性能が良くても、今の束にとって悠夜は邪魔だ。自分の計画のためにもすぐに倒しておいた方がいいだろう。10年前に消したあの男のように。

 

「だからさぁ、もうちょっとガンバロっか」

 

 そう言いながら束は高速で投影されているキーボードを叩いてあるものを書き換える。だが画面上にはエラーが表示された。

 

「………へぇ」

 

 投影式のディプレイが開いているものとは別に3枚現れ、入れ替わるかのようにキーボードにノイズが走る。

 そして束はキーボードを叩くがその都度、画面の向こうから拒否するかのように警告文を発した。

 

「……お前の都合なんてどうでもいいんだよ。束さんの糧になれることを光栄に思え」

 

 するとしばらくして警告文は発せられることがなくなり、映像用に置かれている大型ディスプレイでは異常が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然のことだった。

 ようやく福音を倒せたことで悠夜には慢心が生まれていた。

 

「ちぃ!」

 

 すぐさまそこから離脱する悠夜。なんとかダメージを負うことは避けられたが、突然海面から出てきた丸い球を見て動きを止める。

 

「………なるほど。戦いはまだ終わっていなかったってことね」

 

 だがすぐに頭を切り替え相手の様子を見守っていると、突然のフラッシュで視界が遮られた。

 

 ―――ズガンッ

 

 悠夜のすぐ後ろで爆発が起こる。するとハイパーセンサーに警告が発せられ、損傷している部分が表示された。

 

「やってくれんじゃねぇか」

 

 すぐさまディザスターを収納。量子通信で元のドッグへと送る。

 

『桂木、今すぐ離脱しろ! おそらくそれは福音の二次移行(セカンド・シフト)だ! 今のお前では歯が立たない!』

 

 捲し立てる千冬に流石の悠夜も同意した。

 

「そのようだな」

 

 黒鋼を飛行形態へ変形させ、すぐにそこから離脱する。だがその球体から熱線が放たれ、それが悠夜へと迫っていく。

 

「当たるかよ!」

 

 ギリギリで回避した悠夜。だが、その熱線は急に角度を変えて悠夜へと迫ってきたため咄嗟にバレルロールで回避した。

 

「異世界を渡る4人と1まんじゅうの漫画を読んでて助か―――てないなこれ」

 

 回避したはずの熱線はやがて分離し、悠夜に再び迫ってくる。

 

(さっきので恨みを買ったか)

 

 飛行形態から通常形態へと黒鋼を変形させ、《フレアマッハ》で分離した熱線を破壊する。

 

「どうやら離脱は無理みたいだな」

『……しばらく待て。私が援護に入る』

「いらねぇよ。そこで大人しくしていろ」

 

 すぐに応援を拒否する悠夜。彼の視線の先にある球体にヒビが入り、殻が吹き飛ぶ。

 

「……ハハハ、キャスト・オフしちまったな」

 

 福音の姿は先程よりも変わっていた。銀翼はなくなり、変わりに付け根の部分から光を放つ新たな銀翼が生えていた。

 さらに悪いことに、色を合わせているのか銀色のビットが福音の周りを漂っている。

 

「……やっべぇ」

 

 思わず冷や汗を流した悠夜。福音はその反応を楽しみ、鈴を模しているビットを飛ばす。それに対して回避行動を行う悠夜だが、10個のビット相手では逃げが得意な悠夜でも苦戦するようだ。

 さらに福音は、新たな翼からレーザーの雨を降らせつつ自ら接近を行いビームサーベルを展開する。

 

 ―――ビギンッ!!

 

「生憎、俺は雑魚とは違うんだよ……雑魚とは!!」

 

 斬撃仕様となってビームナイフともいえる形態になった《サーヴァント》でビームサーベルを受け止めた悠夜は福音を蹴って離脱した。

 さらにビームブーメラン《疾風》を抜き、飛んでくるビームを防ぎつつ接近、福音を斬りつけようとするが、その前にサーベルに阻まれて受け止められた。

 すると福音の翼が大きくなり、瞬時に黒鋼を覆おうとしたがその前に福音が吹き飛んだ。

 

「させるかよ」

 

 どうやら《デストロイ》を使用したらしい。再び轟音を鳴らすかのように稼働する。

 

「確かにアンタは早くなった………けど、その程度の弾幕で簡単に俺を落とせると思うなぁ!!」

 

 悠夜の声に応えるかのように《サーヴァント》が舞った。

 すると福音はさらに弾幕を張って《サーヴァント》を潰しにかかる。

 

「―――消えろ!」

 

 悠夜が払いのけるように右手を投げ出すと《サーヴァント》がすべて消え、自分の前に何もなくなる。

 

「吹っ飛べ!!」

 

 《デストロイ》から砲弾が打ち出され、同時に福音も《銀の鐘》による無数の弾丸を放つ。それらが間でぶつかって爆発した。

 

 ―――その時だった

 

 爆発で起きた煙。悠夜は巻き込まれないように回避していたが―――その中から銀色の手が伸びてきた。だがそれは悠夜にぶつかることなく―――悠夜の肉体を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い闇。

 そこを表すとするならば、その言葉が当てはまる気がするほど、そこは暗い。

 

「―――?」

 

 そこに佇んでいた少女は急に顔を上げる。

 

「………なるほど。やはり来たのね。あなたらしい」

 

 すると黒い少女は両手を自分の胸の前に持ってくると、その間で何かを精製し始める。

 

「だけど彼を殺らせはしない。彼はは私の友人の大切な人―――そして私には彼を生かす義務がある」

 

 何かは次第に黒い光を放ち、やがてその空間を飲み込むほど輝きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハハ、アー、おっかしい」

 

 投影された大型ディスプレイでは生気を失いつつある悠夜の姿があり、束はそれを見てただただ笑っていた。

 

 ―――ようやく邪魔者が消える

 

 ここ3ヶ月間邪魔だと思っていた男を殺せたことが面白く、ただただ笑っていた。

 

 ―――だが、

 

『………なるほど。そういうことかぁ』

 

 その笑いが一瞬で吹き飛ぶほど、悠夜が浮かべた笑みは不気味だった。

 

「……早く……死ね!!」

『ククク……アハハハハハ!!』

「……何がおかしい」

 

 通信が繋がっているわけではない。

 だが束は自然とそんな気がして聞いていた。

 

『……………やっぱり貴様は馬鹿だな。馬鹿が故に交われない』

 

 それを聞いた束は福音にそれを壊すように指示を送る。

 するともう瀕死であるはずの悠夜に向けて素早く収束させたエネルギーの球体を生成し、悠夜を空中へと放る。少し離れた位置に移動したと同時にその球体を悠夜に向けて投げた。

 

「………終わった」

 

 ディスプレイが展開され、そこには簪に運ばれる箒の姿を映し出される。

 今は一夏がやられたこともあって呆然としているが、束は信じていた。

 

「次は箒ちゃんの番だよ」

 

 それは「殺す」のではなく「活かす」の意味。

 もう一人邪魔者はいるが、それは先程殺した男を探すために奔走すると予想した束は捨ておいた。まして、今狙えば最悪の場合二人が死ぬ可能性もある。それを考慮して福音は別の方向に飛ばして待機させるよう指示した。




悠夜が殺され、絶対防御を否定されたことで恐怖にかられる専用機持ちたち。

その数時間後、箒は倒れた一夏の傍で見舞っていたが、とある人物が乱入する。

その頃、布仏本音はピンチに陥っていた。

自称策士は自重しない 第66話

「失った者、失う者」

晴美「随分と下らないことで悩むんだな、君は」








 ということで久々の次回予告ならぬ次回予定をぶち込んでみました。

……後ガンプラ7個も残っていますよ~(´;ω;`)

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