———二時間前
アメリカの「
赤く塗られた機械はISと比べて二回り大きく10mとはあり、4本脚で巧みに移動している。その操縦者は先程アメリカの国家代表でもある「イーリス・コーリング」、そして戦っているISに乗っている「ナターシャ・ファイルス」と話していた男であり、名は「アルド・サーシャス」。絶対防御を付いていない新型とも言える兵器を駆り、IS相手に立ち回っていた。
「下がれアルド! これ以上は危険だ!」
「ふざけやがれ。ISなんざあの化け物に比べればクソ同然よ!」
そう言ったアルドは天使とも表現できる目の前のIS「
「……クソッ。祖国の技術力のなさに涙が出るぜ。何でウチはビット兵器を開発してねぇえんだよ」
「高がビット兵器で戦況を変えられるわけがないだろうが!」
イーリスとアルドは文句を言いつつも、銀の福音の大型ウイングから放たれる光弾を回避する。同時に福音は急加速で後退し、戦線を離脱する―――はずだった。
「させるかよ!!」
イーリスは自分の機体「ファング・クエイク」で瞬時加速の派生の一つ「
その隙に福音は離脱。その場にはボロボロになった実験場とIS、そして一機のロボットが残された。
■■■
織斑先生からの突然の緊急帰投命令。それが発してからみんなの動きは早くなった。
専用機持ちはそれぞれのテストするべきものをコンテナに詰めれるものは詰めて回収し、厳重にロックする。一般生徒よりも一足先に移動し、花月荘の一番奥にある宴会用の大座敷「風花の間」に集められていた。そこには新たに専用機持ちになった篠ノ之と、専用機は剥奪されたがラウラの姿もある。呼ばれた時にすぐに「ああ、ヤバいな」と思った俺は同行を許可した。
「では、現状を説明する」
そういった面々を集めて一体を何をしようというのか、照明を落として薄暗い室内にうかぶ大型の空中投影ディスプレイの前に立つ織斑先生は説明を始めた。
「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『
確かISは軍事利用は禁止されているはずだがな。そこは突っ込まないようにしよう。
「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2㎞先の空域を通過することがわかった。時間してみれば50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」
「……ということは、俺たち専用機持ちが駆り出されるってことか?」
挙手せずに尋ねると織斑先生は俺を睨む。「言うなら挙手してからしろ」とでも言いたいのだろう。だがそれもほんの数秒のことで、すぐに俺の質問に答えた。
「……残念ながらそうなる。スペック上、学園の訓練機よりも各々の専用機の方が高性能だ。無論、強制ではない。もし辞退するのならばしてもらって構わん」
「内容を聞いてからでもそれはいいのか?」
「構わないがほかの生徒と同じく出入りは禁止だ」
「……了解した。説明を続けてくれ」
トイレ関係は室内に完備されているし、飲み物関係は教師を使えばいいか。オルコットが俺を睨んでくるが、悪いな。こういう本格的な作戦会議って初めてなもんでね。
本来ならばこの事態に生徒を出すのは教師としては不本意だろうが、暴走したのが軍用だとしたら仮面な少佐(あ、大佐だっけ?)が乗るようなチューンされた機体でもない限り無理だろう。
「それでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」
「はい」
早速オルコットが挙手。俺はすごすごと手を下げた。
「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
「わかった。ただし、これらは二か国の最重要軍事機密だ。決して口外はするな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる」
「了解しました」
オルコットが代表して答え、周りも頷く。織斑だけはわけがわからないって感じで篠ノ之はそれを悟られないようにしている。
銀の福音とやらは広域殲滅を目的とした特殊射撃型であり、攻撃と機動に特化しているようだ。ただ攻撃方法が少々俺が情報漏洩してそうな結果になるが、はっきり言ってこっちが先だから問題ない。だってアレは既に大会で使っているから問題ない。
(さしずめ、大天使を生還させ、正義と歌姫と共に戦争を終わらせたあの機体だな)
これでビット兵器があれば後継機の方だろう。まぁ、武装の方は凶悪だがな。
各々それを見て相談しており、会話の中ではジアンが防御パッケージがあることを明かした。物理と非物理のアレじゃないだろうな。
「このデータでは格闘性能が未知数だ。もっているスキルもわからない。偵察は行えないのですか?」
ラウラが織斑先生に尋ねるが、
「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。最高速度は時速2450㎞を超えるともある。アプローチは一度が限界だろう」
「……一回ということは、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」
山田先生がそう言ったことで、俺を含め全員が織斑の方を向いた。
「え、えっと……」
「一夏、アンタの零落白夜で落とすのよ」
「それしかありませんわね。ただ、問題は―――」
「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから、移動をどうするか」
「それに目標に追いつける速度が出せるISでなければいけないな。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! お、俺が行くのか!?」
「「「当然」」」
オルコット、凰、ジアンがそう言った。ラウラも言いかけたが、俺の方を見て自重したようだ。
「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。覚悟がないなら無理強いはしない」
だが織斑は決め顔で言った。
「やります。俺が、やってみせます」
いやいやいやいや。行かせない方がいいって。たかがその程度で決まる覚悟なんて小さいっての。
だが周りは既にそのつもりなのか、誰も異を唱えない。
「よし、それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」
するとすぐさまオルコットが言った。
「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られてきていますし、超高感度ハイパーセンサーも付いています」
それに追随するように俺も言った。
「一応、黒鋼は単体でも高速飛行が可能だけど………というか二機あるんなら、俺が最初に単機で突っ込もうか?」
「何?」
まさか俺が立候補みたいな形をするとは思わなかったのか、織斑先生が驚きを顕わにした。
「やる気がなかったのではないのか?」
「こういうのは実績がある方が良いと思って。その辺りのことは誰も文句は言えないでしょ? 特に学園側は」
無人機に偽の暮桜、さらにドイツやフランスの襲撃者を倒しているし。もっと言えばオールレンジ攻撃の使い手は三年前に経験済みだ。もっとも、
「………それはそうだが……二人とも、超音速下での戦闘訓練時間は?」
「20時間です」
「なし」
ゲームは超音速下ではないからな。それは含まないだろう。
だが織斑先生はそれを問題視しているようだ。
「………オルコットは適任だ。だが―――」
その時だった。
いつの間に抜けていたのか、天井からさっき聞いた声が飛んだ。
「待った待ーった。その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」
さっきの変人が天井から現れた。ウザいからアレが生首だったらいいなと思う。
「………山田先生、室外への強制退去を」
「えっ!? は、はいっ。あの、篠ノ之博士、とりあえず降りてきてください……」
だが降りた変人は山田先生を無視して織斑先生の方へと行く。……というかお前がやれよ。
「ちーちゃん、ちーちゃん。もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!」
「………出て行け」
山田先生は言われた通り努力するが、それらはすべて回避される。
「聞いて聞いて! ここは断・然! 紅椿の出番なんだよっ!」
「何?」
いや、何でそこで聞こうとするの? そこは黙って室外退去だろ。
「紅椿のスペックデータを見て見て! パッケージなんかなくても超高速起動ができるんだよ!」
そう言って織斑先生の周りに紅椿のデータを出す変人。気にはなるから一応聞いておくか。
「紅椿の展開装甲を調整して、ほいほいほいっと。ほら! これでスピードはばっちり!」
展開装甲? 何だそれは?
疑問に思っていると、いつの間にか福音のスペックデータは紅椿のものとなっていた。
「説明しましょ~そうしましょ~。展開装甲と言うのはだね、この天才の束さんが作った第四世代型ISの装備なんだよ!」
各国ってまだ第三世代型ISの試作段階だった気がするがな。
「はーい、ここで心優しい束さんの解説開始~。いっくんのためにね。へへん、嬉しいかい? まず、第一世代とというのは『ISの完成』を目標とした機体だね。次が『後付武装による多様化』を目標とした第二世代、そして第三世代は『操縦者のイメージ・インターフェースを利用した特殊兵器の実装』・空間圧作用兵器にBT兵器、あとはAICとかだね。で、第四世代というのが『パッケージ換装を必要としない万能機』というの、現在絶賛机上の空論中のもの。はい、いっくんは理解できました? 先生は優秀な子が大好きです」
そんな教師なんてすぐに生徒に殺されるだろうなぁ、うん。どうでもいいな。
ぶっちゃけた話、俺は黒鋼で満足だから各国の目標なんざどうでもいいし、そういう基準ならば轡木ラボは既に基準値をクリアしているなぁとか思える。
だが変人は俺の思考を現実に戻すようなことを言った。
「具体的には白式の《雪片弐型》に使用されてまーす。試しに私が突っ込んだ~」
「「「え!?」」」
その言葉にさすがの俺も驚いてしまった。
「それで、上手く行ったのでなんとなんと紅椿は全身のアーマーを展開装甲にしてありまーす。システム最大稼働時にはスペックデータはさらに倍プッシュだ!」
その言葉に織斑は慌てながら言った。
「ちょっ、ちょっと待ってください。全身が《雪片弐型》と同じって、それって………」
「うん、むちゃくちゃ強いね。一言で言えば最強だね」
どこがだよ。普通に短期決戦でしか戦えない雑魚じゃねえか。少なくとも黒鋼や荒鋼の相手はできないレベルだぞオイ。
「ちなみに紅椿の展開装甲はより発展したタイプだから、攻撃・防御・機動と用途に応じて切り替えが可能だよ。これぞ第四世代型の目標でもある
とテンションを上げる変人に対するように、周りは静まっていた。
「はにゃ? あれ? なんでみんなお通夜みたいな顔してるの? 誰か死んだ? 変なの」
まぁ、各国が優秀な人材をすべて注ぎ込んでやっている第三世代型ISの開発を否定されたのだから、各国の代表候補生にとってはたまったものではないだろう。ラウラですら呆然としているが、何故か簪は「ふーん」って感じだった。
というかアレだな。この女、妹の安否完全に放置だな。俺を篠ノ之に対して同情させるとかとんでもない奴だ。
「束、言ったはずだぞ。やりすぎるな、と」
「そうだっけ? えへへ、熱中しちゃったんだよ~」
ぶっちゃけた話、朱音ちゃんが黒鋼を開発した時点で最初ではないだろし、その定義で言えば黒鋼や荒鋼も第四世代型に分類されると思った。二機とも万能機であり、簪ならば防御手段として撃ち落としや斬り払いを平然とこなすだろう。
「それにしてもアレだね~。海で暴走っていうと、10年前の白夜事件を思い出すねー」
一瞬、変人の顔に陰りが見えたが目の錯覚だったようだ。
ちなみに白夜事件とは、簡単に言えば今から10年前に起こった異常事態であり、日本を攻撃可能な各国のミサイルが一斉にハッキングされて制御不能になり、日本に向けて発射された。だがそのミサイルを察知して現れた二機のパワードスーツである。どうやらこの変人が言うにはもう一機はISではないらしく、自分は開発に関与していないらしい。今では女権団の関与もあって難航しているだろうが、おそらく各国はその所属不明機を捜索しているだろう。
話を戻すと、10年前に存在した二機はミサイルをすべて撃墜したはいいが、その後に所属不明機ということもあって当時は数多くの兵器を投入されたが、すべて無駄だったようだ。
「バルカンだろうがミサイルだろうが、ISの装甲に傷一つ付かないよん。エネルギーシールドもあるしね」
ISと戦闘機では戦闘機の方が圧倒的異不利だ。ISのように操縦者の保護システムがないので急速な旋回が行えず、同様の理由で乗っている人間が襲い掛かるGに耐えられないのである。だがISはいかなる機動もこなせ、ハイパーセンサーから送られてくる情報によってコンピューターよりも早く思考と判断を行って実行へと移せる。そのため、「女にしか動かせない」と「ISコアに限りがある」という欠点に目をつむって採用したのである。まぁ、「女性優遇制度」はもっと明確に、かなりの制限は必要だがな。
結局各国は残ったISをスポーツという名目で採用し、世界に普及したわけだが、
「女性優遇はどうでもいいだけどね、私はねー。でも隙あらば誘拐・暗殺って言う状況は中々にエキゾチックだったよ。(*´艸`*) しかし、それにしても~白騎士って誰だったんだろうねー? ね? ね、ちーちゃん?」
「知らん」
「うむん。私の予想ではバスト88㎝の―――」
変人を容赦なく殴る織斑先生。しかも殴ったのは端末だった。………おいおい、壊れたらどうするんだよ。
「ひ、酷い、ちーちゃん。束さんの脳は左右に割れたよ!?」
「そうか、よかったな。これからは左右で交代に考え事ができるぞ」
「おお! そっかぁ! ちーちゃん、頭いい~!」
というかさっさと話を戻せよ。まったく。……考えてみれば、この女がまともに働いたことってないな。
「で、だ。今は10時半だが、大体11時に織斑とオルコットが出撃して、俺が出るのは5分前……もしくは10分前ぐらいか?」
そう尋ねると変人がいち早く反応した。
「何聞いてたの、お前。お前ら凡人が出る必要なんてないんだよ。とっとと失せてろ」
「でもこのままだと調整してからになるのか。オルコット、今すぐ機体の準備してきて。どうせ篠ノ之の騒動でまともに作業なんてしていないんだろ」
「え? で、ですが……」
「おい!」
オルコットが俺の前の方にいる奴に視線を移し、そいつが叫んできた。どんだけ構ってほしいんだよ、この女は。ま、無視するけど。
「それとも作戦を見直す? まぁ、わざわざ少人数制で攻撃しなくても円陣を形成してそれぞれの射撃兵装で集団リンチってのもありだな。オルコット、さっき言っていた「ストライク・ガンナー」って装備すればどうなるの?」
確か一般的なISのパッケージは黒鋼が装備するようなものではなく、換装してから出撃するタイプだ。機体そのものの機能が変わるってことだから、予め把握しておいて損はない。
「無視するな!」
こちらは作戦会議中だと言うのに、目の前の女は随分と騒がしい。
俺はため息を吐いて仕方なくその女を見る。
「こっちは作戦会議中なんだからどこに消えてれば? どうせアンタ、社会不適合者でしょ? だったら引きこもるなんざ余裕だよねぇ?」
空気が凍った気がするが、こっちとしてはさっさと作戦を決めたいので織斑先生の代わりに進行することにした。
「ほらほら、さっさと作戦の方針を決めるから正気に戻れ。で、最初に俺が出撃するが―――」
進まないので俺が進行しているのに急に殴られた。
「お前さぁ、さっきから何調子に乗ってんの? いい加減にしないと―――」
———シュパッ
急に変な音がしたと思う。というか狙い通りだ。
パラパラと音を立てた球体が俺の手元に戻ってくる。
「言うならば、「篠ノ之博士は露出狂?」ってところかな」
そう。篠ノ之束は全身の素肌を公共の場で晒しているのだ。俺の計画によって。
本来なら胸が顕わになるだけの予定だったが、改造した結果、かなりの範囲を切れるになったみたいだ。だが―――それでも容赦なく殴ってきた。
(え? マジで?)
予想外だったが、ギリギリで回避する。
「ざーねん。まさか、こんなことで束さんの動きを止められるなんて本気で思ってたの? 流石は凡人だね。その程度ではこの天才は止まらないんだよ」
「あー、織斑が篠ノ之博士の裸を見て興奮してる!」
流石は変人だ。女としての意識は持っているかと思ったがどうやらそうではないらしい。これは良いデータが取れた。ならば、後は色々と活用させてもらおう。
「一夏、貴様ぁ!」
「ま、待て! 違う!」
まだ持っていたらしい日本刀を抜こうとする篠ノ之。ほかの面々も行動を起こそうとするが、それよりも早く織斑先生が一喝する。
「いい加減にしろッ!! 貴様らぁッ!! 今がどのような状況なのかわかっているのかぁッ!!」
突発的なこともあり、全員が動きを止めた。というか最初からそうしろよ。
「特に桂木、貴様はここをどこだと思ってる。今は作戦会議中だ。真面目にやらないのならば貴様も出て行け」
というのがモンド・グロッソで優勝したブリュンヒルデ殿のありがたいご高説である。やれやれ、随分と言ってくれるじゃないか。
だがここは大人しく従っておこう。本当はディスりたいけど。
「へいへーい、自重しますよ~」
「……………………話を戻すぞ」
大人しく従ったこともあってとりあえず追い出すことは止めたみたいだ。良い判断だな。
「束、紅椿の調整にはどれくらいの時間がかかる?」
「お、織斑先生!?」
………やっぱりディスっておけば良かったな。
口を開こうとしたが、それよりも早くオルコットが言った。
「わ、わたくしとブルー・ティアーズなら必ず成功してみせますわ!」
「そのパッケージは
「そ、それは……まだですが……」
……だからやっておけって言ったのに。高が露出狂如きに何を驚いているのだか。
「ちなみに紅椿の調整時間は7分あれば余裕だね!」
「よし。では本作戦では織斑・篠ノ之の両名による―――」
周りは待ったをかける気はないようで、淡々と織斑と篠ノ之の二人に決まりそうだったので即座に止めた。
「織斑先生、あなたこそやる気がないなら今すぐその座を降りてください」
「何?」
「何を馬鹿なことを言っている?」と言いたげに俺を見る織斑先生。
「じゃあ聞きますが、何を根拠に馬鹿・単細胞のタグが当てはまる二人を出そうと思ったんです? まさか、ISの性能が紅椿の方が上だから、そんなことで決めたのならばすぐに再検討するべきです」
「……しかし―――」
さて、罠にかかったな。ならば世界最強
「あーあ、やっぱりそういうことかぁ」
口調を切り替えたことで雰囲気も変える。その様子に周りは驚いてくれたのでとことん話させてもらおう。
「結局、アンタは真剣なはずの話し合いに私情を挟んで、わざわざ作戦の成功率を下げるわけか。そんなに自分の偽物を倒せなかったことが悔しいの? 獲物を取られて悔しいの? だから都合良く現れてくれた友人の口車に乗ってわざわざ俺の悔しがる顔を見たかったんだ」
「違う! そういうわけじゃない!!」
「じゃあ、何で未だに離れない変態露出狂の自称天才を使わないのさぁ? おかしいよねぇ? 近くにISを作ったのがいるんだから是非とも使うべきでしょ? アンタの話だったら聞くみたいだし、教師として動くならそれが普通じゃん?」
「———何が言いたいんだよ、悠夜」
さっきまで状況がわからず混乱していた織斑が話を理解したらしい。
「まさかお前、千冬姉がそんな下らないことのために俺と箒を出すって言いたいのかよ!? そんなこと千冬姉がするわけないだろ!!」
「さぁ? どうなんだろうねぇ。何せ生徒の安否が関わっているって言うのに言ったのが「やりすぎるな」だぜ?」
「何?」
どうやら織斑はすべてを理解していないらしい。だったら口を挟むなよ。
そして何よりも時間が惜しいのでここまでスルーしていく。
「さて、織斑先生。時間も時間だ。下らない私情は捨てて、教師として正しい判断を―――」
「下してもらおうか」と続けようとしたが、簪が口を挟んだ。
「織斑先生、桂木君を部隊長ととして、私と桂木君が先に攻めてかく乱し、その後に篠ノ之さんが織斑君を運ぶ形で戦闘空域に入ってもらう形はどうでしょう?」
「………だがな」
「ですが織斑先生、今回の敵は未知数すぎます。剣一本で動きを制限される織斑君と、今日受領したばかりの篠ノ之さんでは荷が重すぎる相手です」
簪はさっきまで俺が言っていたよりもわかりやすく、的を射ていることだが篠ノ之が乱入した。
「貴様も私では不服だと言うのか!?」
「黙れよど貧乳チビ眼鏡! 紅椿のスペックは―――」
「ではこの任務は放棄、お互いの実力を知るために模擬戦をしましょうか。本来なら一介の学生でしかない私たちには荷が重いですから。そうですね。勝敗はシールドエネルギーが消失するのではなく、相手の精神を折って、尚且つ片方のISが使えなくくらい―――いえ、それじゃあつまらないのでISコアが壊れるまでやりましょう。悠夜さん、お願いします」
……………えっと、つまりそれは「口ではなく実力を見せつけて黙らせろ」ってことですか?
さっきまで高騰していた思考は完全に冷めていて、今は「ISコアが壊れるまで」って平然と発言した簪に対して恐怖心を抱いていた。どうやら変態を含めて全員がそうらしい。
「……別に私は篠ノ之さんの実力を過小評価しているつもりはない。でも、悠夜さんのように多種多様な相手との戦闘経験があるならともかく、今まで乗っていた打鉄とは違ったタイプの機体をまともな慣らし運転をしていない状態で戦っても以前の癖が出てどんな操縦者でも最初の頃は足手まといになるの」
その言葉に篠ノ之はつまるがなおも変態は言おうとする。だがそれよりも早く織斑先生が遮る形で言った。
「良いだろう。今作戦は桂木を部隊長とし、先兵として桂木・更識の二名が福音と交戦。その後、タイミングを見計らって福音を攻撃しろ。では解散!」
ようやく作戦会議が終わり、俺たちは時間がないこともあって急いで作業に取り掛かった。
しかし危なかった。もう少しで究極の禁句を言い放つところだった。……ああいうのは、簪やラウラ、本音の前では絶対に言いたくない。
ということでこっちでも作戦会議で一話を使いました。字稼ぎをしたわけではないですが、色々と盛り込んでますね。