IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#41 この中に一機、量産型がいる

 唐突にそんなことを言う晴美さん。俺たちは長方形の机で食事しているため、右隣に朱音ちゃん、そして朱音ちゃんの前に晴美さんが座っている状態だが、朱音ちゃんの動きが止まった。

 

「お、お母さん? 何でそんなことを言うの?」

「だって面白そうじゃない?」

「そんなことで敵に塩を送らないで!?」

 

 という会話があって、現在は寮の自室前。

 ここまで何人かとすれ違うたびに変な視線を向けられているが、やっぱり昨日のMAP兵器が原因だろうか。

 

「見て、爆弾魔よ」

「何で学園はあんな危険人物を放置しているのよ。検挙しなさいよ!」

「学園の至る所に爆弾をセットしているんでしょう?」

 

 もうそろそろ爆弾関連の二つ名が付かないかなぁと期待してつつドアを開けて中に入ると、そこには何故かバスタオル姿一枚の布仏先輩がいた。

 

「……おはようございます。先輩」

「……おはようございます」

 

 俺は冷蔵庫を開けて置いてあるはずのコーラ0を探す。……気のせいかな? ちょっと減っている気がするが。

 

(ま、いいか)

 

 そう思って俺はゲームするためにクローゼットの方に向かい、送ってもらってからそのまま入れているゲームを探す。

 

「———って、何でいるんですか?!」

「え?」

 

 ここ、俺の部屋のはずなんですけど!?

 そんなことを思っていると、奥から更識の声が聞こえた。

 

「どうしたの虚ちゃん。何かあった?」

「待ってくださいお嬢様! せめてタオルを巻いてください!」

「わ! ちょ、そこだめ! あっ―――」

 

 女二人でくんずなんやらをしているのだろうと思った俺は、ただひたすら無視を貫くことにした。せめて俺のアレが早く静まってくれることを祈ろう。

 

(更識にも甘えたいこともあるってことは)

 

 ま、俺は理解ある方だからいいけどさ。……でも女尊男卑社会になって以降、レズが増えたからなぁ。あの二人がそんな類なのは正直困る。

 

「なぁ! キングダ○ハーツと仮面ライ○ーカ○ト、どっちが俺の戦闘スタイルに似てると思う!」

 

 やっている最中に尋ねるのはマナー違反かもしれないが、第三者の方が知っているだろうから尋ねると、

 

「それって今聞く!?」

「仕方ねえだろ。こっちはこれから暇なんだから」

「それもそうだけど……」

 

 見ないようにしてそう答える。本当は見たいけどね。何事も節度が大事だ。

 しばらくすると二人の発情も収まったようで、どちらも行く準備をしている。

 

「そういえば、どうして布仏先輩がこんなところに泊まっていたんですか? もしかして更識が幽霊か何かに怯えて―――」

「桂木君は、私が幽霊なんかを怖がる女と思ってるの?」

「怖がっていましたが、どちらかと言えば桂木君に対してです」

「虚ちゃんに裏切られた!?」

 

 つまり日頃の行いが悪いんだろう。

 

「……あの、俺って怖がる要素あります?」

「率直に言いますと、やはりその眼鏡と長い髪ですね。暗い中でいきなり肩を叩かれて振り向いたらそんな状態ならば、私でも声を上げます」

 

 先輩、俺にも言葉…もとい、言刃(ことば)を向けてません?

 

「そういえば、先程桂木君は「これから暇」だと仰ってましたが、どうせならばニ、三年生の試合を見てはどうでしょう? 学年別トーナメントは強制参加ですが、二、三年になると操縦科と整備科に分かれるので必然的に一年生の進行が遅くなります。なのでおそらくあなたが楽しみにしていると思われる、CブロックとDブロックのブロック優勝者同士の戦いまでじっくり勉強できますよ」

「………確かに」

 

 視線を逸らしながらそう言うが、ああいうのは戦ってこそ実力が付くと思う。

 ちなみに俺が黒鋼であそこまで戦えるのは純粋に気持ちの問題だ。打鉄とかラファール・リヴァイヴならば「兵器」として見てしまうが、黒鋼ならば「遊び」と見てしまうのだ。

 

「桂木君、今、「戦闘は戦ってこそ」って思ったでしょ?」

「………」

 

 更識! お前どうして黙ってられないんだよ!?

 

「でも虚ちゃん、虚ちゃんの言うことも一理あるけど、黒鋼が修理されるまで桂木君には室内にはいてもらうわ」

「………え?」

 

 思わず俺は自分の指を見ると、そこにはあるはずの黒鋼の待機状態———黒曜石の指輪がなかった。

 

「気付いていなかったの?」

「あるものだと思ってた」

「ともかくそういうことなの。悪いけど桂木君には黒鋼の修理が終わるまでここにいて。必要なら私たちに連絡してくれればいいわ」

 

 真剣な顔でそう言った楯無に俺は頷き、大人しくこの部屋にいることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠夜を部屋に置いて楯無と虚はそれぞれの荷物を持ち、自分たちの持ち場に向かう。

 二人はどちらも有名で、道を歩くたびに注目されることが多いが、シュヴァルツェア・レーゲンの暴走によってその日に行われる試合に緊張してか、もしくは二人が歩いている時間が7時過ぎということもあって人がいないのか、ともかく二人がゆっくりと会話できる空間となっていた。

 しかし二人は「更識」が独自に持っている通信システムを使って話をしていた。

 

「お嬢様、轡木さんが私たちに言っていた「賭け」の件、彼は知っていると思いますか?」

「……多分知らないわね」

 

 二人は学年別トーナメントが行われる前日、十蔵が国家の首脳たちに悠夜の成績のことで賭けをしたことを聞いている。それは本人があずかり知らぬところで行われていることであり、悠夜が圧倒的に不利な立場の賭けだ。

 

「だからこそ、彼に外に出ないように言ったのよ。もし出たら、他の国の護衛が行動する可能性も捨てきれないし、努力本人の前では言えないけど彼の生身の戦闘能力じゃ本格的に鍛えている人たちに勝てる見込みはないわ」

 

 そういう楯無だが、彼女は一つだけ気になっていることがあった。

 

(もしかしたら、昨日の状態ならばあるいは……)

 

 昨日の状態とは、最後に暮桜を消した刀を使った必殺技のことだ。あの攻撃を楯無はかなり評価していた。

 

「でも虚ちゃん。彼の前では賭けのことは言わないで」

「わかりました。……で、そろそろ聞きたいことがあるのですが」

「何かしら?」

 

 虚は笑顔を楯無に向けて改めて聞いた。

 

「私をあの部屋で泊まるように言った真の目的は何ですか? 寂しいという理由ならば、いくらあなたでも引きますが」

「……ちょっと試したいことがあったのよ」

「試したいこと、ですか」

「ええ。桂木君があなたに対してどのような感情を持っているかをね。簪ちゃんはともかく、私たちは今までわざと彼と接点を持ったわ。けど、周りはそれを良しとしなかった。本音ちゃんはクラスメイトだから接点は多く持てるし、私が護衛目的で泊まっているならそれなりに慣れているかもしれないけど、虚ちゃんは学園が二つもあってあまり接する機会がない」

「………だから、あまり接点がない女性に対してどれだけ本性を出すかを確認したかったのですね?」

 

 楯無はいつも懸念していることがある。「慣れている自分たちならばともかく、もし桂木悠夜があまり接点を持たない女性に対してどのような反応を取るか」と。

 これまで悠夜は学園の生徒や教師に嫌というほどあらぬ疑いをかけられ、罰せられてきた。そんな悠夜が将来社会に出たら、当然待っているのは女尊男卑社会。そんな中で悠夜は本当に渡り歩けるのか、楯無は心配なのだ。

 頷く楯無を見て虚は笑った。

 

「随分と献身的なんですね。もしかして、彼に惚れました?」

「そうじゃないわよ。どちらかって言えば手のかかる弟」

「ということは、いずれ義弟になる日も近い……と」

 

 虚がそんなことを言うと、楯無はからかいとわかってはいるが思わず反応してしまった。

 

「簪ちゃんにはまだ早いわよ! でも、正直気になるのよね。簪ちゃんって桂木君のことが好きみたいだけど、恋愛感情もあるみたいだけどそれ以外もありそうなのよ」

「……そうですか」

 

 虚がそう返した時に二人はちょうど分岐点に着く。まっすぐ行けば更衣室に行くが、虚のような整備科はあらかじめ着てくることが多い。そして虚も既に着替え終わっており、このまま曲がって整備室に向かう予定だ。

 

「では、ここでお別れですね」

「そうね。じゃあ、また後で」

 

 そう言って更衣室に向かう楯無の背中を見送りながら、虚はその姿を温かい目で見た。

 

(……やっぱり、まだあなたは気付いていないんですね。彼の真の価値を)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから二日経った。

 どうやら更識曰く一年生は試合に30分の制限時間を設けたようで、試合のサイクルを早くしたらしい。ここ数日虚さんが部屋に泊まるので俺に愚痴をこぼしていた。

 虚さんといえば、彼女は元からそのポジションなのか俺のベッドによく入っては俺を抱き枕にする。ありがたいことなんだが、そういうこと関してデリケートに俺にとってはかなり苦痛だ。

 

「どうしたんだ、桂木」

「……いえ。なんでもないんです。あなたの左隣以外は」

 

 そして現在、木曜日の夜にCブロックとDブロックでブロック優勝を果たした二組による準決勝を行われようとしていた。ちなみにこの試合の前にはAブロックとBブロックの優勝者が戦っていて、Aブロックの織斑・デュノアペアが決勝に進出していた。わざわざ処刑されに行くようなものである。

 

「でだ、桂木はどっちに入れたんだ?」

「ああ、賭けですか? 即決でDブロックのペアに有り金すべて入れました」

「お前もか! 実はオレもなんだよ」

 

 と、俺の左隣に住むダリル・ケイシー先輩が言うと周りは驚いた声を上げる。

 ちなみにだが、何故かこういうイベント事の裏では結構賭けが行われている。主に更識のせいで、だ。生徒会長は模範的な態度でいるべきだと思ったが、どうやらそれは昔の話らしい。

 そして今回の賭けはCブロックから上がってきたオルコット・凰ペアが相当人気のようで、Dブロックの簪・布仏ペアは不人気だ。というのも簪は結構逃げることが多く、ここまで本音の力で上がってきているからだろう。「専用機持ちのくせに」という理由が多い様だ。普通に考えろ。簪は絶対に手を抜いている。

 

「今回も稼がせてもらうぜ」

「何を言っているんですか、先輩。稼げるところに入れているのに稼げないわけないでしょ?」

「どうッスかね。楯無の妹の戦い方って逃げ一方じゃないッスか。どこかの誰かみたいに」

「氷の第三世代兵器の癖にマヒャ○ドスを知らず、楯無にそれをばらされて決勝で負けたからってすねないで下さいよ、フォルたん先輩」

「ふぉ、フォルたん!? 後輩の癖にそんな呼び方で呼んでたんッスか!?」

 

 心外だと叫ぶフォルたん先輩改めサファイア先輩。文句は身長が低い自分に言え。

 

「落ち着けって二人とも。っていうか何だそれ。ゲームか?」

「結構常識の話ですよ。ドラ○ンクエ○トっていうゲームに出てくる魔法の一つです」

 

 そんなことを言っていると、俺の視界が塞がれた。

 

「後ろの正面、だーれだ?」

「痴じょ―――」

 

 開放されたかと思ったら頭をグリグリとされました。

 

「全く。冗談にもほどがあるわよ」

「大丈夫か、桂木」

 

 そう言いながらケイシー先輩が俺の頭をなでる。

 

「あの、周りに人がいますから……それとフォルたん、そんな嫉妬な眼差しを俺を見ないでください」

「とうとう「先輩」すら言われなくなった!?」

 

 だって身長が小さいし、どちらかと言えば猫耳とか付けた方が似合うと思うし。

 

【長らくお待たせしました! これより、準決勝第二試合―――セシリア・オルコット、凰鈴音ペアVS更識簪、布仏本音ペアの試合を行われます。選手は入場してください】

 

 その指示に従って二組四人の生徒たちがフィールド内に現れ、凰が前方でオルコットが後方。それに対して簪たちは布仏が前方で簪が後方という布陣だった。

 学年別トーナメントにはいくつかの規定がある。ルールは基本的に一般のISルールに則られるが、今回は専用機持ちの数が多いので分散するのではなく敢えて組ませ、他の訓練機がそれをどうやって攻略するかを試されるため、専用機と当たる訓練機同士のペアは特殊装備の使用許可がでる。ラファール・リヴァイヴで挙げるならば、「クラッド・ファランクス」と呼ばれる25mm7連砲身ガトリング砲4門を備えた追加装備が認められるのだ。そして今回の専用機持ちと組んだ訓練機の場合はその特殊装備の容量には多少の制限がかかる。ちなみに相手が訓練機同士だった場合ならば、専用機と組んだ訓練機は特殊装備は付けられない。

 簪が入場するとブーイングが周りから飛ぶが、俺は簪が装備するISに対して戦慄した。

 まず後ろに浮いている大型ウイングにところどころ穴が開いているし、一番上には何か収納している。しかも黒鋼と同じように荷電粒子砲を腰部に装備しているし、一見すればフリー○ムを彷彿させるが、俺としては両肩に装備されている大型の盾だ。ウイングを外して一番上に収納しているのを両肩の上に置けば以前彼女が使用していた嵐波である。

 

「なぁ、布仏。お前の妹が使っている打鉄の装備って新しい奴か? 見たことないタイプなんだが」

「さぁ。確かに見たことがないタイプですね」

「あれは高機動型パッケージですね。たぶんスペックが一緒ならば両肩にミサイルが装備されているはずです」

 

 そう説明すると、ケイシー先輩から感心された。

 

「よく知ってるなぁ」

「まぁ、アニメだけ見ているならあれは単なる標準装備だって思うほどですからね」

 

 ハイパーセンサーを起動させ、布仏が装備しているパッケージを検索すると、「アードラー」と出た。あの科学者とは関係ないと思いたい。

 すると布仏を前に出した簪が俺を見て、口パクで言った。

 

《ソコデ、ミテイテ》

 

 カウントダウンが始まる。それが0になった瞬間、大木……いや、大木剣を展開した布仏が特攻した。

 

「はぁあああッ!!」

 

 凰が前に出てそれを受け止め、後ろからビットが布仏を狙って攻撃した。

 

「…迂闊だな」

 

 思わずそう呟いてしまう。

 

「本音、下がって」

 

 淡々と簪が指示を出すと、本音はそのまま下がる。入れ替わるように簪が前に出るが、それを妨害するように《龍砲》が唸った。

 

「いっけぇえええ!!」

 

 だが簪はわかっているかのように回避し、ビットからのレーザーを捌き、両肩横に装備している大型シールドから何かがのぞいた。

 そこからミサイルが大量に発射され、オルコットと凰に向かって飛ぶ。二人はそれを迎撃するが、間に合わず何本か食らっていた。

 凰たちは何か打ち合わせているようで、凰は簪の前に、そしてオルコットが布仏の方へと移動するが、

 

「リンリンのおっぱいはまったくな~い!」

 

 布仏のその言葉に凰は動きを止めてしまう。

 

「鈴さん、落ち着いてください。これは向こうの罠―――」

「リンリンにブラジャーはいらない! リンリンには保護するようなおっぱいはまったくなーい! 私はあるけどね」

「ぶっ殺す!!」

 

 まさしく鬼の形相だった。

 凰は目の前にいる簪を完全に素通りし、布仏めがけて一直線に向かっていった。

 

「り、鈴さん!」

「……クス」

 

 凰の後を追おうとするオルコットを簪は妨害し、行かせないようにした。

 

「やってくれますわね」

 

 おそらくオルコットと凰がそれぞれ布仏と簪を狙ったのは、得意な距離を潰そうとしたのだろう。だが、二人はそうさせないようにした。

 

(何か理由があるのか?)

 

 簪の対応の早さはよく知っているつもりだが、簪の機体は斬撃も得意のはず。もしかしてこの機体には積んでいないのか?

 

(いや、さすがにそんなわけがないだろ)

 

 そう思っていると、簪の周りには俺がよく知る武装が浮いていた。それを見た俺は簪が布仏に凰を任せた理由を悟った。

 

(こいつ、オルコットを精神的に殺す気だ!!)




次回予告(予定通りに起こるのはアニメだけである)

鈴音を怒らせ、こっちに引き寄せた本音は時間を稼ぐために奮闘を試みる。
そんな中、セシリアと対峙する簪は、同じ射撃型としての実力の格差を見せつけていた。

「自分の土俵でしか戦えない雑魚が、悠夜さんを侮辱するな」

 自称策士は自重しない 第42話

「粉砕されるプライド」

 その悪魔を容赦なく穿て、荒鋼








切りがよかったのでここで区切ります。もう少しお待ちください。

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