IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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今回は短めでお送りします


#34 口は災いの元と言うけれど

 食べ終わって食器を片付け終わり、椅子に座って勉強をしていると、更識が真面目な顔をして話を切り出す。食事はゆっくりしたいから結局は後片付けの後になる。

 

「で、ここから本題なんだけど。桂木君はシャルル・デュノアのことをどう思う?」

 

 やっぱりその話か。転校初日かその前からか、おそらく更識はデュノアのことを調べていたんだろう。

 

「結果から言うが、デュノアは黒だ。その証拠も既に持っている」

「………意外と思えるほどの行動力ね。それも既に証拠を持っているなんて」

「自分の身は自分で守れないと話にならないってここ三か月でよくわかってるからな。それにデュノアに関しては転校してきた時からマークしていたからさ。お前が何も言ってこないからこっちも勝手にさせてもらった。……試してたか?」

「そういうわけじゃないわ。余計なことを言って不安がらせる必要はないかなと思っただけよ。何故か簪ちゃんが近くにいたから特に…」

 

 それを聞いた俺は笑いそうになったのをこらえた。そしてパソコンを開いてデスクトップにある鍵付きのファイル「スパイボール」を開いてさっきのデータを探して再生した。

 最後まで見た更識は盛大にため息を吐く。気のせいかな、その頭をナデナデしたくなってきた。

 

「まさか彼がここまで正義感が強い(馬鹿)だとは思わなかったわ。あなたと同室になったことを幸せにすら感じる」

「それじゃあまるで俺と同居するのが嫌だって言いたそうだな」

「そういうわけじゃないわ。ただ、男の人って知識でしか知らないのよ」

 

 と真顔で答えられたが、少しイラッとした。

 

「でも驚いたわ。あなた、織斑君の部屋に監視カメラなんて仕掛けていたのね」

「いや、仕掛けてないけど」

「……じゃあ、どうやってこんな映像を撮ったのよ」

 

 俺は夏制服をかけているハンガーのところに行き、その胸ポケットに入っているピンボール状のスパイボールを取り出してメガネのレンズに映し出されたアイコンで起動させる。

 

「どうしてこんなものを持っているの?」

「前に親父が持ってきた物の中で使えそうだったからさ」

 

 これでもまだまともな方だ。中には「同居人が女の子と聞いて」と書かれた紙に同封されていたアヒル人形を調べたら黒い何かが付いていて、それがカメラだって知った時は俺に犯罪でもさせたいのかと思ったぐらいだ。使用予定はないが、更識にばれたら大変なので黙っておく。

 

「そういえば「近々立体機動兵器を作成予定」なんて書かれていたな」

「……あなたのお父さんって、確か「桂木修吾」って名前よね?」

「そうだけど」

「……そ、そう」

 

 何だ? 急に更識の顔が赤くするんだが、一体何を考えているのだろうか。

 

「話を戻すわ。本来だったら盗聴や盗撮なんてものは以ての外だけど、今回は見逃すわね。で、本題だけどこの件は厄介よ。これ以上の問題は私たちの領分。悪いけど引いてちょうだい」

 

 真剣な目で俺を見てくる更識に俺は持ってきた大量のUSBの一つで使っていない物を選び、それに動画データを移して更識に渡した。

 

「ありがとう。聞き分けが良くて助かるわ」

「裏ならばその道の専門家に頼むのが筋だろ。後は任せる」

 

 今回はたまたまだが、さすがにこっからは俺の領分ではない。あ、

 

「そうだ。これもあるんだった。悪い、ちょっと返して」

「いいわよ」

 

 念のためにハンカチの写真も入れておこう。というかこの時間だったらさすがに訪問するのは悪いな。明日の夕方ぐらいに寝具を持って行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュノアの件から一日と18時間ぐらい過ぎ、少し長めの休憩時間を利用して俺は花を摘みに行っていた。要するにトイレである。

 その帰り道が長いと思うが、そんなことよりも俺は別のことに意識が向かっている。

 

(いよいよ今日か)

 

 昨日朱音ちゃんに聞いたが、どうやら今日の放課後に更識(妹)の機体「打鉄弐式」のテスト使用を行うらしい。そのため急遽俺の使用時間がなくなったが、頼みに来た更識と朱音ちゃんが可愛かったので快く引き受けた。上目遣いは反則ですよ、お二人さん。

 

(で、問題は……)

 

 思い出したのは朝のことだ。早めに教室に着て寝ていた俺の耳に「優勝したら男子と付き合える」という話が飛び込んできた。別に俺がそうしたいとかではないのだが、問題は何故そんな噂があるのだろうかという話である。まぁ、現れた奴らにも隠していることから、おそらくは本人たちに聞かれたくないのだろう。俺がいることに気付いた女たちは揃って口止めのつもりか睨んできたが、聞かれたくないなら黙れ、というかお前らの好意なんていりませんに受け取れませんと叫びたかった。

 

「———えてください、教官! 何故こんなところで教師など!」

 

 T字を曲がろうとしたら、そんな言葉が聞こえてきた。たまに当てられてすらすらと隣で答えてるから聞き覚えがある。

 

「やれやれ。何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」

 

 そんな答えで引き下がるような奴か? そして案の定、ボーデヴィッヒが反論した。

 

「このような極東の地で何の役目があるというのですか!」

 

 前々から思っていたのだが、「極東」って侮辱用語なんだろうか? 確かに本初子午線が通るヨーロッパにしてみれば東に位置するが、個人的には好きな響きではある。

 

「お願いです、教官。我がドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力は半分も活かされません」

「ほう」

 

 まさか教官をしていたとはな。どういった経緯でそうなったのかは知らないが、それならばそれで教官業に専念すればいいものを。わざわざ教師で教官ぶりを発揮しなくてもいいだろうに。

 

「大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではありません」

「何故だ?」

「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションかなにかと勘違いしている。そのような程度の低い者たちに教官が時間が割かれるなど―――」

「———そこまでにしておけよ、小娘」

 

 凄みがある声が織斑先生から発せられるが、本当に慣れとは怖いな。十蔵さんの殺気を受けてからというもの、織斑先生のそれにすらもビビらなくなった。たぶん手加減はしているとはいえな。

 

「少し見ない間に偉くなったな。十五如きの小娘がもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

「わ、私は……」

「勘違いしているくせに随分と言うじゃねえか、クソ教師」

 

 織斑先生は気付いていたようだが、どうやらボーデヴィッヒは気付いていなかったようだ。本気で驚いていたが、そんなことは気にせず続けた。

 

「……何が言いたい」

「そのままのことだ。ボーデヴィッヒの言ったことのどこか否定できる? 意識が甘く、危機感が疎いからこっちが迷惑を被っているのを忘れているのか、アンタは」

「……貴様」

 

 庇っているつもりだったのだが、ボーデヴィッヒ自身は気付いていないらしい。勝手にしているから仕方がないが、少し寂しい。

 それでも俺は言葉を続けた。

 

「大体、さっきの話でも上手く捌こうと思えばできたはずだろう。引退する前からなんとか博士という奴と接点があって、弟のことでIS学園しかまともに働けない立場にあるなど、色々理由があるだろうが。それとも何か? アンタの脳は筋肉でできているのか?」

「………ほう」

 

 教師という立場を忘れたのか、織斑先生はどす黒い殺気を放ってくる。けれども十蔵さんに劣るレベルだが、ボーデヴィッヒを震え上がらせるには十分だったようだ。まぁ俺も震えているけど。

 

「随分と口から唾を吐いたようだが、覚悟はできているだろうな?」

「………へぇ。今もかつての名声にすがっている奴がよくもまぁそんな言葉を吐ける。それとも気付いていないのか? 今のアンタは馬鹿な思考しかできない奴らが勝手に作り上げた崇拝で回避されているだけの、軍の教官と校の教師が区別できていない、女尊男卑の(下らない)思考をした奴らと同じだってな!!」

 

 人気がいないからか今の声で人が来ることは幸いなかった。だが織斑千冬には衝撃的なことだったらしい。

 

「何を馬鹿なことを。私は生まれてこの方、男を下に見るなど―――」

「自分の弟に対しても含め、他人の意見は一切無視。言葉で注意すればいいものを、アンタはわざわざ出席簿で殴って黙らせる。挙句、さっきのボーデヴィッヒの件も面倒だからという理由で時間や日を改めて説明するなどもしない。残念ながらお前は周りにいる女たちとやっていることそのままなんだよ!」

 

 現にこの学園にいる奴らは俺の話を一切聞かずに攻撃してきたし、女に対して意見しようものなら容赦なく殴られる。

 

「だから周りには失敗作しかいないんだろうが! お前の弟も、そしてボーデヴィッヒも含めてな!!」

 

 織斑はそんな姉を見て育ち、その影響で暮らしているから知らない奴ぐらいしかされたこともないからあれほど無神経になれるわけだ。そしてボーデヴィッヒは織斑先生を敬愛している。容赦ない暴力を行って話し合おうとせず決めつけてしまっている。もっとも挙げている俺自身がブーメランな発言をしていることは重々承知しているが、この際だから言ってやった。この女が接し方を変えれば多少は改善されるだろうから。

 そこまで計算していると俺の首筋に銀色のナイフが当てられていた。

 

「訂正しろ」

 

 そのナイフの持ち主であるボーデヴィッヒは赤い目で俺を睨んでくる。

 

「お断りだね。俺は容易に自分の言葉を曲げれるが、今回だけは譲れない」

 

 本音も混じっていることだしな。こういうのは影響力が強い奴が行動するべきだろうし。

 

「ボーデヴィッヒ。ナイフを降ろせ。これ以上騒ぎを起こす気か?」

「いえ、それは………」

「ならばすぐにナイフをしまって教室に帰れ。いいな」

「わかりました」

 

 空気を読んだのか、それとも単に織斑先生の殺気に恐怖したのかはわからないが、ともかくボーデヴィッヒはすぐに帰っていく。

 

「今回もお咎めなしか。身内には甘いんだな、アンタ」

「勘違いするなよ、小僧。今回は貴様を救ってやっただけだ」

「は?」

 

 唐突にわけがわからないことを言われた俺は顔に疑問を出ているだろう。それほど俺は織斑先生が言ったことが理解できなかった。

 

「一つ忠告しておく。死にたくなければ今後ボーデヴィッヒには「失敗作」などと言うな。いいな」

 

 それだけ言って織斑先生は去っていく。………まずかったのか、それ。少なくとも造形だけならば似合わない装飾があれど成功品だとは思いながら、俺も教室に戻ることにした。

 

(……あれ?)

 

 近道をするために外に移動すると、そこには何故か篠ノ之が決意を固めているようだったのでばれない様に音を消して移動した。篠ノ之は剣道で中等部の全国大会で優勝したらしいが、俺のスニ―キング力も捨てたようなものではないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。SHRが終わると同時にラウラ・ボーデヴィッヒは教室から飛び出す形で出て行った。彼女は(周りから見れば)よくこうやって寮の自室に向かうか、周りとは少し離れたところで鍛錬を行っている。それはクラスに充満するラウラが言う「意識の甘さ」が充満しており、少しでも呑まれないために距離を取っているのだが、今回はさらに別の理由が足されるのだった。

 

「あの男……よくも教官を侮辱したな!!」

 

 「あの男」とは言うまでもなく悠夜のことである。さっきのやり取りは言うまでもなくラウラにはお気に召さず、何よりも「失敗作」という言葉が彼女に染みる。

 

 ———まさかこの女が適合に失敗するとはな

 

 ———ほかの奴らは適合しているというのに

 

 ———やはりこいつも失敗作だったか

 

 その言葉が彼女の脳裏に繰り返し響き、支配し始める。

 

「———うるさい!!」

 

 思いっきり叫ぶとその言葉はなくなった。

 

(……許さん。あの男、絶対に許してなるものか……!!)

 

 壁を殴るとその音が響く。するとそれに続いてか何度も爆発音が鳴り響いてラウラは正気を取り戻した。

 

(……ここはアリーナか。誰か練習しているようだな)

 

 どうせ下らないと思ったラウラはすぐに去ろうとしたが、廊下にある空中投影ディスプレイを見た彼女はすぐにピットに向かう。そのディスプレイには打鉄弐式のテストを行っている簪の姿が映し出されていた。




ということで今回はキリが良いのでここで切ります。

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