夜。クラス対抗戦での乱入事件の収拾がついた頃、更識楯無は学園長室に向かっていた。
そしてドアに前に立った楯無はドアをノックすると、「……どうぞ」と返されたので中に入ると、彼女はすぐさま回れ右をして出ていきたい衝動に駆られた。
(……来る時間、間違えたかしら)
時間はすでに午後8時を回っているが、それでも先ほどまで処理などをしていたこともあって起きているという点では問題はないし、何より今回は集められた側である。
だが楯無が逃げ出したいのも無理はない。何故なら学園長室にはとある人物が稀に見る殺気を放っていたからである。彼女ともう一人呼ばれた織斑千冬が今もそこにいられるのは何度も強敵と戦い、生き残ってきたからだろう。修羅場を潜ってきた裏の人間ならばともかく、生徒ではまず彼―――轡木十蔵の殺気に耐えられる者なんてまずいない。
そもそも男でありながらIS学園の理事長を務められるのは運もあるが彼自身の実力が大きい。
当時、理事長になろうとするものは一般人も含め女性が幾人もいたが、その中で彼が選ばれたのだ。それも殺し合いで。
「つまり、今回の部隊員の件は水に流せ、と?」
会話の内容から今回の不祥事でもある部隊員の命令無視だろうと楯無は考える。
「………そうですか。でも、桂木君のことはきちんと耳に入っているので――――――はぁ、そうですか」
———ピシッ
受話器にひびが入ったようで、白い何かがパラパラと落ちるのを楯無は見逃さなかった。
「そうですか。では―――」
そう言って十蔵が受話器を置くと、受話器が真っ二つに折れてしまった。
その惨状を見た二人は震えずにいられなかったようだ。
「すみません、二人とも。電話が長引いてしまって」
「い、いえ、お気になさらず………」
「できれば殺気の方に気を遣ってほしいです」というのが二人の本音である。
「さて、お二人をお呼びしたのは他でもない。桂木君の専用機の件です」
「え? 先程上層部に断られいたのでは?」
千冬が尋ねると十蔵はクスリと笑う。
「数字しか見ていない奴らに現場の出来事なんてわかるわけがないでしょう?」
「……それは、そうですが」
その言葉には千冬にも来るものがあったが、さすがに数少ないコアを勝手に回すのは気が引けるところもあった。
「それに今回で彼はきっちりと成果は残していますからね。ねぇ、更識くん」
「はい」
そう言われた楯無はふと、少し前のことを思い出していた。
十蔵から知らされた後、楯無は周りに容赦なく攻撃をしてなんとか包囲網を脱し、現場に向かう。
そこはすでに戦闘が終了し、立ち尽くす悠夜がいたが、
「そこ、すぐにISを解除しなさい」
楯無を追ってきた一人が惨状を見て、悠夜に銃を向ける。
「銃を下して」
「何を言ってるの!? 彼は登録されていないISを所持してるのよ!」
確かに楯無から見ても悠夜のISは形を変えている。特に後ろ部分の装備が変わっていて、打鉄でも使えないはずのオプションだった。
その時、楯無と周りに通信が入る。
『今すぐ銃を下した方がいいと思うけど~』
どこか間延びした少女の声。楯無はその声の主に覚えがあり、頭を抱えてしまった。
「だ、誰よあなた」
『知ったら死ぬよ?』
「は……?」
通信相手がニヤニヤしているのを楯無には容易に想像できた。
だが今は頭を切り替え、悠夜に向けている銃を下させる。
「すぐに銃を下してください。おそらくあれは味方からの支援だと思います」
「そんなことを言って、アレがもし敵のスパイだったどうす―――」
瞬間、銃を向けていた女性は楯無の方に視線を向けていたからか、突然現れたものに吹き飛ばされた。
「———どいつもこいつも……本当に使えない」
その場にいたのは悠夜であり、手には対艦刀を持っている。どうやらそれで殴ったようだ。
「遅れてきたくせに随分な物言いじゃねぇか」
「このッ!」
楯無の後ろから別の部隊員が現れ、悠夜に向けて攻撃するが、それらをすべてシールドで防いだ悠夜は楯無の横を通りすぎて周りこむように移動し、部隊員の打鉄のシールドを切断して一度下がった。
そして悠夜は両手で対艦刀を持ち、そのまま突貫して腹部に剣先をぶつける。その威力ゆえか一気にシールドエネルギーがなくなり、打鉄は解除された。
楯無はすぐに水の壁を張り、追撃を防ぐ。
「いい加減にしなさい、桂木君。さすがの私でもこれ以上は見過ごせないわ」
『……たぶん、もう大丈夫だと思うけど?』
「はい?」
思わず聞き返す楯無だが、それはすぐにわかった。
悠夜の、損傷が大きい打鉄が解除され、地面に着地した悠夜はそのまま倒れた。
確かに実力は申し分ないだろうと思った楯無だが、大半の生徒がそのことについて納得できるわけがない。
「ですが、本当にそんなことをして良いのでしょうか?」
千冬がそう尋ねると、十蔵はニッコリと笑みを見せて千冬の方に向いた。
瞬間、彼の妻でありIS学園の学園長でもある菊代は今すぐ口を閉ざすようにサインを送ったが千冬には届かない。
「もし、桂木が専用機を持って狙われたら、防衛は難しいのでは?」
悠夜は確かに素人であり、戦闘能力は低い。それは悠夜自身も認めていることでもあり、周りもそう評価していた。そして数少ない男子だからと言って、二人分の用意がされたら女たちの抵抗が強まるだろう。それに、世界各国の首脳たちが悠夜が専用機を持つことを良しとしなかった。
そのため、今回のことで悠夜が瀕死だというのに誰一人として悲しむものがいない。
「………まぁ、世界は彼が専用機を持つことを望んでいないのは事実です」
静かに、そしてゆっくり十蔵は述べ、菊代はホッとする。
「ですが、それではあまりにも不憫なんですよ。実力があるのに専用機を用意されないのは。でしょう、更識君」
「……何が言いたいんですか?」
「彼女も、不憫な存在だと思うんですよ、私は。なので―――彼女をいただくことにしました」
瞬間、菊代は十蔵をハリセンでたたくのだった。
■■■
目が覚めたら、見知らぬ……いや、見覚えのある天井だった。というか先月普通に寝ていたベッドである。
(……もしかして俺、時間を戻したのか?)
ちなみに俺にはそんな能力なんてない。というかそんな能力があるなら真っ先に動かす前に学校を辞めて祖母のところに行っている。
「あら、起きたみたいね」
「………」
カーテンが開いていたようで俺の様子に気付いたらしい医者が姿を現す。
そのせいか俺は近くにあったものをつかんで投げようとすると、その医者が俺の手を掴んでいた。
「………まったく。こんなものを使って何をす―――」
つながっていたコードを引っ張ろうとしているのがばれ、頭を掴まれた。
「ねぇ坊や、そろそろ大人しく従ってくれないかしら」
「ふざけるな。誰がお前ら
とりあえずこの女の手首をひっかこうと思った瞬間、彼女から発せられた言葉がこれである。
「座れ」
「………はい」
思わず俺は正座してしまい、ガタガタと震えた。
ちょっと待って? 何で俺は女の言うことなんて聞いてるんだ? しかも何故かこの女に……俺は逆らえない。
(一体俺に何が起こっているというんだ)
女なんて所詮はISの陰に隠れた雑魚のはずなのに、どうしてか俺はこの女に恐怖を感じていた。
「まったく、ここまで変貌してるとは思わなかったわ。あなたの状況には同情するけど」
「………お前らに何がわかる」
「わからないわね。私、女だし」
そう答えた女は一度自分の机に戻り、何か棒状の物を出して俺の服の中に突っ込んだ。
「!?」
「女みたいな反応するわね。でも残念。生憎私は男火照りだけどそこまで食い荒らす趣味はないわ」
何の話だと突っ込みそうになった俺だが、なんとかこらえてジッと女の方を見る。
(この女、一体何を考えているんだ?)
疑問を抱きながら目の前の女を観察する。何か、何か弱点はないかと。
「まさかと思うけど、年上好き?」
「安心しろ。そのためにアンタを見ているわけじゃない」
拒絶するように言うと、「そう」と答えたその女性は机の上にある電話機を操作し、受話器をとって簡単に会話をしていた。どうやら俺が起きたことを知らせたらしい。
改めて周りを観察すると、ここは医療棟なのだろう。IS学園は一般の保健室以外に医療設備が整っているところがあるから間違いない。
そしてもう夕方だ。どうやら2、3時間は眠っていたようだ。
「さっきあなたが起きたことを知らせたわ。授業も終わったみたいだし、そろそろ見舞いに来るんじゃないかしら」
「そんな人間、誰も思い当たらないんだが………授業?」
「ええ。授業。まぁ不思議じゃないでしょ。あなたは所々骨折した状態で戦ったんだし、その治療のための麻酔もあったんだしね」
そういうのは問題じゃない。授業ということは、クラス対抗戦は土曜日に行われたから二日は経っていることになる。ただでさえ勉強が遅れているのに、この差は普通に考えてまずい。
「ちなみに、あなたは5日寝てたわ」
「……………」
頭が真っ白になるってのはおそらくこのことなんだろう。ヤバい。もう終わった。
「…………大丈夫」
「大丈夫。大丈夫だ。ただこの学園のなんちゃら部隊を壊すか、女性優遇制度なんて考えたバカをどうやってミンチに変えるかを考えているだけだ。問題ない」
まったく、やってくれたよあいつら。わざと遅れて俺を瀕死にさせて出席日数を稼がないようにするとは。だが良い度胸だ。策士であるこの俺に喧嘩を売るとは自殺志願者としか思えないな。
なんて思っていると「コンコン」と何かをノックする音が聞こえた。
「入れていいかしら?」
「……ええ、どうぞ」
枕を掴んで構えてからそう答える。何故かため息を吐かれたが、気にしないことにした。
医者がドアを開けると、そこには織斑と愉快な仲間たち+凰がいた。
「ゆ、悠夜、大丈夫か!?」
「………入院している時点で大丈夫じゃないだろ」
「そ、それもそっか……」
「ハハハハ」と笑う織斑。だがその笑い声が気に入らなかった。
「だってそうだろう。お前らが複数で相手していた機体をろくな経験も積まずに相手にしたんだ。無傷な方がおかしい」
その言葉の意味を理解したようで、不穏な空気が辺りに充満する。
織斑は何かを言おうとして口を閉ざし、篠ノ之は俺を睨みつけ、オルコットはため息を吐く。凰にいたってはどうしかとあたふたしていた。
「悪いが、君たちは帰って」
女医は唐突に織斑たちそう言った。
「え? 何でですか?」
「何故も何も、今あの患者に必要なのは君たちじゃないの。ましてや君がそこまでバカだと思わなかったわ」
「貴様、一夏を愚弄する気か―――」
篠ノ之は女医に噛み付くと、女医ははっきりと言った。
「愚弄も何も、相手の力量も見破れずにハンデ云々言うバカでしょう。そしてそっちの金髪は素人相手に決闘を申し込んだアホだったわね」
「せ、セシリア・オルコットですわ! あなた、自分が所属する職場の相手先の名前も知りませんの?!」
「ああ、確かBT兵器と自分を同時に操れないってことで娘に笑われてたね。それに生憎だけど私はこういう重体患者ぐらいしか扱う機会はなくてね。それともイギリスの代表候補生は打たれ弱くちょっとのことでケガをするほど弱いのかしら?」
途端にオルコットは何も言えなくなった。ここで肯定したら自分が弱いと言っているようなものだからだ。
「で、そっちのポニーテールがこの前中継室に忍び込んで余計なことをして昨日まで反省室に入っていたんだった。そういえば聴取で「応援するために」とか言ってたんだってね。そして君たち二人とそこのツインテはその男子が―――」
「ちょっと黙って!」
凰が女医の口を塞ぐために飛び出すが、からかうように頭を押さえた。
「言いだろう。黙っておいてあげるから君たちはすぐに帰りなさい。もちろん、そこのツインテもよ」
「え……?」
まさか自分も言われると思わなかったのだろう。凰は唖然としていた。
「今彼に必要なのは癒し。だが君たちではそれができないと判断した。だから、今すぐ帰れ」
笑みを向けながらはっきりと言う女医。篠ノ之とオルコットで織斑を半ば無理やり引きずり、凰は何か言いたそうに俺を見た。
「ゆ、悠———」
「悪いけど凰、後は自分で攻略しろ。俺はもう手を貸さない」
「………わかった」
泣きそうな顔を出ていく凰。この状況で一体どこに泣ける要素があったのだろうか。
「そういえば君は、あの子にアドバイスをしてあげていたんだったわね」
「別に。ただの暇つぶしで遊んでやっただけだよ」
「……あなたがそう言うとは意外ね」
まぁ、所詮凰を使ったのは実験の意味以外ないからな。結局凰が幸せになったところで俺にメリットはないからな。それに、今の俺にとって邪魔な存在だ。
織斑が帰ったらやることがなくなってしまい、もう一度寝ようと思ったら再びノックされた。
女医が今度は勝手に開けると、そこには俺の同居人がいた。
「………更識?」
「…桂木君」
久々に見たがどこか疲れた表情をしている。
とりあえず枕を元の位置に戻すと、さりげなく医者は部屋から出て行った。
(え? この状況で出ていく?)
彼女にしてみれば空気を読んだかもしれないが、そもそも俺はコミュ障かつ童貞で女の扱いに長けているわけではない。
「……な、何の用だよ」
黙っていればよかったと後悔している。話しかけても意味はないんだし。
「……あ、あなたの顔を見に来たのよ。いくら無事だって知ってもそりゃあ不安になるし」
と、言い出す更識を見て思ったことがある。
「ここまでツンデレが下手くそな女もあまり見ないな」
「………そうね。言い難くてこんな言い方になったけど―――見捨ててごめんなさい。そして、妹を助けてくれてありがとう」
「……ほう」
まさか同居人が俺を見捨てたとは。更識のことを少し買いかぶっていたようだ。
「———お話し中、失礼しますよ」
唐突に聞こえた声に俺は近くにあった枕を構えるが、その人を見たら動きが止まった。
「ちょっとお父さん、今良いところなのに入るなんて野暮よ。ほら、出る出る」
「先生、ここでは敬語でと言ったでしょう? それに私が入った時点で甘っ苦しい空気はなくなりました」
「彼の心を開かせるのにはこうした方がいいとだけよ。ちっ。娘の後学のために見せようと思ったのに」
何故用務員の人がこんなところにいるんだとか、色々とわからず混乱していると入ってきた男の方がこっちを向いた。
「改めまして、桂木君。私は轡木十蔵―――
と、彼は自分をそう言った。
失礼と思いながら彼を改めて観察すると、彼はまごうことなき男である。つまり彼は、男でありながらIS学園の理事長をしているというわけだ。
(いや、ありえないだろ……)
だってISって俺と織斑を除けば女にしか扱えないだろ? なのに何故男の人が?
「まぁ、驚くのも無理はないでしょう。確かに私は男でありながらこの学校の理事長をしていますが、だからと言ってバカな女たちの犬に成り下がる、なんてことはありませんよ」
と言いつつ彼は殺気を放っていた。
「……まぁ、あなたがこの学校の理事長だってことはわかりましたが、俺に一体何の用ですか?」
なんとなく予想はできる。謝って今回のことは水に流してほしいとでも言うのだろう。
「すみませんが、今回の部隊員の失態の件は水に流してくれませんか?」
「………女の犬に成り下がらないって言いませんでしたっけ?」
「ええ。そして今回のことで水に流してほしいのは更識君のみです」
………一体どういうことだ。
たぶん二人は前からの知り合いだとは思うが、だからと言って理事長が更識をかばう理由はない。……特別な関係にあるという可能性もあるが。
「まぁ、確かに更識君は結果的にあなたを見捨てたのは紛れもない事実です。ですが、彼女自身はあなたを見捨てようとした部隊員の説得をしていました」
「………つまり、更識以外の全員が俺を助けることを拒否した、ということですか?」
「はい。彼女たちにしてみればいくら生徒とは言えポッと出の男に訓練機を専用機として貸し出されたのが気に入らなかったのでしょう。嘆かわしいことです」
これは教育者として本音なのだろう。呆れ顔を見せていた。
「所詮戦闘力が高い部隊員って言ってもISが無ければ私相手に生き残れる人間なんて更識君を除けば0なのに」
そしてこれは本音なのだろう。理事長の後ろで阿修羅像が見えるのは幻覚だと思いたい。
「ま、まぁ、そうだとしてもどうしてこんな話を? 黙っていれば俺が勝手に自滅するだけで、喜ぶのはあなたたちでしょう?」
そうすれば俺という実験動物が手に入り、いずれISを動かす男子が出てくるかもしれないのに。
「確かに、そう考える輩がいるのは事実です。そして反対にあなたを殺そうとする人間がいるということは、あなたが一番ご存じのはずです」
………そりゃあ、な。
そうじゃなければ女を根本的に信じないってことはないだろう。そして織斑がああも馬鹿なのは襲われたことがないからだ。襲われたら、ああも馬鹿みたいに女と一緒にいたいとは思わない。
「ですが、私たちのようにあなたを守ろうとする人間もいます。更識君、そしていつも君と一緒にいる布仏君もそうです」
「………それを信じろと言われて、「はい、そうですか」なんて言う奴なんて織斑級のバカじゃないと無理なんじゃないですか?」
「確かにそうですね。ですがここにいる全員が桂木陽子さん―――つまりあなたのお祖母さんと知り合いだとしたら?」
「…………」
確かに、なくはない。
たまにアポなしで遊びに行くことはあったが、よく誰かを鍛えていた。
「……わかりました。とりあえず今は信じます」
「ありがとうございます」
今では殺気は完全になくなっていて、理事長は純粋な笑顔を俺に向けた。
「さて、早速本題なのですが」
そして理事長は俺に対して魅力的で、とてもいい提案をしてきた。
「私が持つIS研究所―――轡木ラボのテストパイロットをしませんか?」
■■■
クラス対抗戦当日、突如現れた二つの無人機は二人の男性IS操縦者とその仲間たちによって搭載されていたISコアごと破壊された。データもほとんどが教員たちによって回収され、織斑千冬の指示で一部改竄されたがIS委員会に提出されている。
だが教員たちが認知されていない状況が、その時起こっていた。
「……やっぱり無事だったわね」
誰もいないはずのIS学園の地下深くの施設にいきなり現れた黒いナニカを纏う少女はそう言って破壊された二機の内、それぞれのISの心臓でもあるコアに片手ずつで触れる。すると、破片となって機能を失っているコアは再び輝きだす。
「ふふ、驚いた?」
だが少女はそれが当たり前と言わんばかりの反応を示した。
———どうしてあなたがそこに?
———あなたは、消えたはずなのに
直接送られた言葉に対して慌てず、少女は冷静に答えた。
「それはあなたたちには関係ないわ」
するとコアの残骸の光は徐々に消え始め、やがて完全に光を失った。
「どうして私が存在できているかって? それはね―――」
———お母様の基準で私は欠陥だからよ
まるで冥途の土産を授けるように少女は誰もいない空間でそう言い、現れた時と同じように消え去った。
これにて第一章は終了となります。本当は悠夜が途中から使用していた戦闘機の正体とかいろいろとあったんですが、これはひとまず伏線として置いておきます。